「これから次の国へ向かうわけだが、実は皆に話しておくべきことがある」
そう前置きして、ジョセフはおもむろに話し出した。
「実はとある用ができてのう。それがなかなか大事な用事で、外すこともできなくてな。そういうわけで数日の間、別行動とさせてもらう」
「……」
「用が済んだらこのあと向かうであろうフランス辺りで合流することになると思うから、だいたい十日間くらいかのう。すまんがワシのいない間、よろしく頼むぞ」
「なるほど、わかりました。ではジョースターさんもお気をつけて」
「ジョースターさんがいねーってのも珍しいな。ま、ここからは俺に任せて安心して……」
「ポルナレフ、お前が一番心配なんじゃよ」
「……やれやれだぜ」
――――――――
ここで一つ伝えておくことがある。
空条邸での星一の同行宣言をあっさりと承諾したジョセフであったが、やはり裏切りはしないか、とか敵のスパイではないか、などの心配はしていた。そのため、SPW財団に秘密裏に星一の身元を調査するよう依頼しておいたのだ。
調査結果の報告をしたい、との連絡がジョセフに届いたのはインドに滞在しているときのことであった……
――――――――
ジョセフと別れた一行はヨーロッパへ渡るため、ポルナレフの運転するジープでイスタンブールへと向かっていた。
その道中……
トルコの首都アンカラ。
都市の規模としてはイスタンブールに及ばないものの、歴史のある美しい街並みを見ることができる。ここでジョセフを除く一行は、食料の買い出しをしていたのだった。
「これだけあれば三日は大丈夫だろう。水も一週間はもつね」
「足りなけりゃあイスタンブールで買い足せばいいぜ」
「しっかしよぉ、星一。なんだってあの肉屋のおっさん、金串なんかくれたんだ?」
「ああ、これかい? 私達が日本人だと話したら、『日本じゃ箸ってのを使ってメシを食うらしいじゃあねーか!』とか言いながら肉と一緒に袋に入れてくれたんだよ。私と承太郎に2本ずつ、ね」
そこまで多くない荷物を分配して運ぶ三人。何気ない会話をしながらジープへの道を戻っていた。
しかし、先頭を歩いていた星一が角を曲がり、人通りの少ない薄暗い路地に踏み込んだときであった。
「あの店主、日本が好きらしいんだ。私に日本にいた頃の話をしてくれと言うんで、こんな話を 」
「なんだ? どうかしたか、星一……ハッ!」
「承太郎! 星一が消えた!」
「なにッ? ポルナレフ、てめー何言ってやがる……!?」
星一よりも一歩遅れてポルナレフは角を曲がった。その一瞬、二秒と経たない間に星一が姿を消していたのだ!
承太郎はすぐに冷静さを取り戻すと、あることに気がついた。
「おい……この道は朝にも通ったよな?」
「ん……? いや、通ってねーと思うぜ。似たような道はいくつかあったが、あれはもっと長かっただろ」
「ああ。それは俺も覚えてはいるが……なら、こいつはなんだ?」
それは『財布』だった。
「あッ! 承太郎、その財布はまさか……」
「ほう、ケッコーな額が入ってる上に、ご丁寧にイニシャルまで刺繍してあるな。『J・P・P』? やれやれ、マヌケなヤツがいたもんだぜ。なぁ、ポルナレフ?」
「あ、ああ……」
この状況で、俺の財布だとは言いづらい。
ポルナレフが言うか言うまいか逡巡していると、承太郎はポケットに財布を入れ、言った。
「『持ち主』が見つかるまでこれは俺が預かっておくぜ。それよりも、これでわかったな。この道は確実に朝と同じものだ。そして、長さが変わっているってのも確かだ」
「ってことは……」
「ああ、間違いねえ。これは『スタンド攻撃』だッ!」
すると、そのとき。
「『空条 承太郎』と『J.P.ポルナレフ』だなぁ?」
「 誰だ、テメーは?」
「オイオイオイオイ、質問には答えてくれよ……俺はお前らが『空条承太郎』と『J.P.ポルナレフ』で間違いないか、と聞いたんだぜぇ?」
「なら人違いだ。なあ? ポール」
「その通りだぜ、Q太郎。俺たちはその……ええと、『空条』と『ポルナレフ』だったか? そんな名前聞いたこともねーよ」
「おっと、人違いだったか。 そいつはすまなかったなぁ。なら、他を当たるとするぜ」
「ああ、そうしてくれ」
「……」
「……」
「……」
「『ダーティー・ダンシング』ッ!」
「『星の白金』!」
沈黙は一瞬! 直後、拳が衝突するッ
「嘘を吐くのは別に構わねえ。一向に構わねえ。だが、それならそれでもっとマシな嘘を吐いたらどうだぁ? 頭悪ィのか?」
「さあな、なんのことだ? わからないな 」
「チッ……まあいいさ、別に変わりはねぇんだ……」
「お前らはここで死ぬ。俺の『ダーティー・ダンシング』の能力によってなッ!」
――――――――
【星一 side】
星一は自分の目を疑った。
当然だ。角を曲がって振り返ると、今の今まで会話をしていたポルナレフと承太郎、さらには歩いていた道までもが消え、虚無へと変わっていたのだから。
しかし彼は冷静だった。何故なら彼は知っていたからだ。こういった状況はまず間違いなく……
(スタンド攻撃、か)
周囲からまるごと隔離された一本の小道。しかしその空間にはもう一人、男がいた。
「うむ。あやつは上手くやったようじゃの」
「何者だい?」
「儂かね? 儂の名はタニン・サイード。わかっとるとは思うが、ジャックの命令でここにきた者じゃ」
サイードと名乗ったその男は褐色の肌を持つ、物腰の柔らかい白髭の男性であった。
「ジャック……そういえば、広東で戦った男もその名前を言っていたな。その男こそ私たちが倒すべき相手、というわけかな?」
「そのとおり。フルネームはジャック・ウィルドボアじゃ。だが、果たしてお主はこの情報を持って帰ることができるかな……」
サイードから並大抵のものではない殺気が放たれる。
背筋が凍り、同時に身体が燻るような心持ちのするそれは、この老翁のくぐり抜けた修羅場の数を知らしめるようであった。
「……戦いは苦手だが仕方がない、どうやら貴方には色々と喋って貰わなくてはいけないようだ」
「ふむ。ま、とにかくかかってくるといい。格の違いを教えてやろう」
サイードは自然体、泰然自若として淀みなく、少しも力む様子はない。
対する星一はこの老人にやや気圧され気味であった。全身から発せられる『強さ』のオーラは星一の本能に直接打撃を与えるようであった。
しかし、星一とて覚悟を決めた身。ここで怖じ気づくようなタマではない。
「ウルァァ!!」
『ワン・モア・タイム』……どこか無機質な印象を受けるそのスタンドが、サイードの頭部めがけて拳を振るうッ
しかし……
「鈍いのう……」
「うっ!?」
拳が命中する直前、スタンドの迅速な一撃をこの老人は事も無げに躱してみせたのだ。
「ッ……ウラウラウルァーー!」
「ふん、その程度の連撃、いつまで続けても同じことじゃろうて」
全力のラッシュすらも軽く捌かれる。
(そういうスタンド能力なのか? だが、だとすればこの切り離された空間は一体? クソッ、なんとしても一撃は与えて戦況を変えなければ……待てよ、さっき手に入れた『コレ』、使えるんじゃあないか? 少々猫騙しじみた攻撃にはなるが……まあ、致し方ないな)
「どうした? まさかもう終わりじゃあないだろうな?」
「当然、終わりではないさ」
「そうか、ならば続けるといい。ずっと続けていれば一発くらいは当たるかもしれんぞ?」
「いいや、同じことは繰り返さないよ。もっとも、繰り返す必要もないんだがね。まったく、運が良かったよ私は。そう、これを持っていたのは……」
「む!?」
「最高に幸運だッ!」
星一はサイードに向かって何かを投擲した! 鋭く、それでいて鈍く光る物体。標的に向かって真っ直ぐ飛んでいったそれは……
あっさりと避けられ、壁にヒット。突き刺さるわけでもなく、そのまま地面に落ちてしまった。
「あれは……『金串』か?」
「Bu doğru.(そのとおり)」
「いや、そんなことは重要じゃあない……だが、不可解じゃ。なぜこの程度のことをお主があれほど喜んだのかがのう。避けられるのも予想はできていただろうに」
「……」
「となれば、じゃ。『避けられても問題ない』理由がある、ということになるな。そして、それはおそらくお主のスタンドの能力に関わることだろう」
「なるほど、貴方は素晴らしい観察力を持っているようだな。しかし残念ながらタイムアップだ。回避行動の後、体勢を立て直したその時点で私の攻撃は既に終了しているッ!」
瞬間、サイードの胸板を貫く一閃!
「ガハッ――!? こ、これは……さっき避けたはずの金串が……何故……」
「『One More Time』過去の出来事をもう一度発生させる――そんな能力だ。だが、まいったな……急所は外れたか。今ので優位に持ち込むつもりだったのに、なかなか元気そうじゃあないか」
「むぅ……今のは一本取られたわい。どうやら儂が思っていたよりも、お主は戦闘技能に長けているのかもしれんのう。そうとあれば仕方あるまい、スタンド同士の勝負といこうではないか。ここからは儂も本気じゃ。覚悟はよいな?」
「覚悟ならとっくにできているさ」
「そうか……ならばいくぞ! 『エコー・アンド・ザ・バニーマン』ッ!」
「『ワン・モア・タイム』!」
<To Be Continued……
この小説を読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字の指摘やご感想などいただけると励みになります。
先日、評価・感想を下さった方、本当にありがとうございます。心より御礼申し上げます。