リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~   作:魚鷹0822

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 夏の共同演習が終わって間もないころ、古流高校の1年、朝戸未世はクラスメイトで同じ夢を持つ彼女と分隊を組むように言われる。
 彼女について未世は分隊のメンバーからの質問に応えるも、同じ分隊の白根凛の答えに分隊の皆が戸惑う。
 彼女について最近流れている不穏な噂。
 冷血、裏切り者、臆病者。
 なぜそんな噂が流れ始めたのか。



第2章 幻影を追いかけた果てに
第1話 冷血で、裏切り者で、臆病者


 地鳴りのように揺れる地面。耳をつんざくほど大きな爆発音。地面が揺れるたびに、崖のうえから小石が転がり落ち、そこを昇るものの行く手を阻む。

「急がないと」

 学校指定の制服に身を包み、その上にチェストリグやベルト、銃器を身につけた生徒、風原凪は1人、急な斜面の崖を登っている。角度は45度以上あるが他に迂回路がないため、険しくても昇るしかない。

 ふと上を見上げると、黒い犬、K9が10頭近く顔を出し、尻尾を振り、うねり声をあげながら彼女が登ってくるのを待っている。

「……構っている暇ないのに!」

 彼女は岩の間に身を隠しながら、落ちないよう足を岩の隙間に食い込ませる。そしてスリングで吊っているM4を引き寄せ、構える。4倍率スコープの視界に前方のK9を収め、レティクルを合わせ、安全装置を解除する。直後、彼女の下方で起こった爆発が岩を砕き、彼女に破片の雨を降らせた。

「……もう!」

 後ろを気にせず、もう一度狙いをつける。すると、スコープの視界に捉えたK9が突如体液を散らし、地面に倒れこんだ。

 

『イクシスは任せて、あなたは登って!』

 

 無線から聞こえた分隊長の指示に従い、彼女は射撃姿勢を解いてまた崖を昇る。背後から銃声が響き、直後に上で待ち構えているK9が肉塊に変えられていく。

「先輩、そちらは……」

『私たちは問題ない』

『それより、今は救援よ!急いで!』

 返事する間もなく、彼女は崖を登っていく。上から撃ち抜かれたイクシスの体液が飛び散り、彼女にも飛沫がかかるが、それを気にしている暇はない。

 やっとのことで崖を登り終えると、彼女は腰から衛星電話を取り出し、アンテナを伸ばすと、指定されてた番号をメモした用紙を見ながらボタンをプッシュしていく。

 全て押し終えると、彼女は受信部分を耳にあて、相手が出るのを待つ。

 

―――お願い、でて。

 

 彼女は藁にもすがるような気持ちで祈る。そして、電話口から、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「こちら、古流高校、普1、風原凪。現在、イクシスの包囲は受けています。数は、40体以上」

 

 そして彼女は、叫ぶように言った。

 

「至急救援を!繰り返します!至急救援を」

 

 彼女の傍に何かが着弾し、地面が大きくえぐれ、岩や塵が舞う。

 

「司令部、こちら風原。至急救援を要請します!全滅の可能性あり!救助をお願いします!現在位置は……」

 

 見渡す限り森しかない森林地帯の中で、彼女は1人、衛星電話越しに、相手に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

「はあ、美味しいです~」

 とある喫茶店で、大きめのテーブルを囲うように座る高校生くらいの少女たちの中の1人が、目の前に置かれたパフェの山を切り崩し、口に運ぶ。

口に含むたびに脳に伝わるその美味しさに、彼女は天にも昇るような幸福を感じている。

「未世さん、本当に幸せそうですね」

「……未世は甘いもの好きだから」

「でも、喫茶店のパフェ1つでここまで幸せそうになれる人も、そうそういないと思うけど……」

「まあ、注文した本人が満足しているなら、何よりじゃないかしら」

 パフェを美味しそうに口に運ぶ少女、朝戸未世を、任務で分隊を組んでいるメンバーがさまざまな表情で眺める。

 

 ツインテールの髪を揺らす、照安鞠亜は微笑みを向ける。

 長めの黒髪の少女、白根凛はいつものことと特に気にしない。

 折り目正しく服を着ている委員長っぽい少女、豊崎恵那は呆れ半分にため息をはく。

 メガネをかけ、優しいお姉さんのような印象の西部愛は、本人が幸せならいいかと流す。

 

「それより朝戸さん。今集まった目的を忘れてないかしら?」

 

 未世の向かいに座る恵那は、話が脱線しすぎないように仕切りなおそうとする。

「……間違いなく忘れている」

 相棒の白根凛は、いつものことと流す。

「まあ、こんなにも微笑んで……」

「天にも登るような顔しているものね」

 鞠亜と愛も同調する。

「あ、恵那ちゃん何ですか?」

 ようやく口に含んでいたパフェが食道を通って胃に落ちたのか、未世は表情を戻し、向かいに座る恵那に視線を向けた。

 意識が天国から現世に戻ってきたように見える未世に、恵那はため息を吐き出す。

「朝戸さん。甘いものに舌鼓を打つのもいいけど、ここに集まった目的を忘れてない?」

 すると未世は、左頬に人差指をあてて首をかしげ、

 

「目的?なんでしたっけ?」

 

 と笑顔で言い放った。

 

「なんでしたっけ?じゃないでしょ!」

 じろっと睨む恵那の視線に、未世は首をすくめる。

「恵那ちゃん、こんな時まで委員長ぶらなくていいのに」

「何か言ったかしら?」

 一瞬で満面の笑みを浮かべた彼女の問いに、未世は首を横に振る。

「そ、そんなにイライラしなくても……。糖分不足ですか?それともカルシウム不足?」

 未世は、恵那の前に置かれたミルクも砂糖も入っていないアイスコーヒーを見ながら言う。

「誰のせいだと思っているのかしら?」

 次第に、恵那の浮かべる笑みがひきつり始める。

「そんなにイライラしたら、折角の美人が台無しですよ。頭も顔もよくて、胸も大きいのに」

「朝戸さん!それ!セクハラよ!」

 最初は恵那の言動に首をすくめていた未世だったが、次第に彼女の言葉に恵那が反応するようになり、主導権が逆転しはじめている。

 豊崎恵那。名前から察することができるように、あの鬼の豊崎和花先生の年の離れた妹になる。

 似た顔立ちに長い髪、本人には言えないが大きめの胸など、姉妹で似た特徴が見受けられる。

 ただ、性格は真っ直ぐすぎるようで、未世のいうことにいきり立ち、次第に未世に誘導されて遊ばれているように見える。

「はいはい、2人共。じゃれあうのはそれくらいにして」

「じゃ、じゃれてなんかいません!」

 恵那は、頬を少し赤く染めながら必死に否定する。

「そうですよ、これは恵那ちゃんと親睦を深めているだけです!」

「それも違う!」

 流石に店内で迷惑になりそうと察したのか、未世は相棒の凛が、恵那は隣りに座る鞠亜になだめられる。

 

 2人が治まったのを察すると、愛が「コホン」と咳払いをする。

「ええっと、今回集まってもらった理由はみんなわかっていると思うけど……」

 愛が、全員を見渡し、言った。

 

「この分隊に配属された、新メンバーのことです」

 

 そして彼女は、未世と凛に向き直った。

「では2人共、新メンバーの、風原凪さんのこと、話してくれるかしら?」

 これこそが、彼らが今、ここに集まっている理由であった。

「……了解」

 凛は静かに答える。

「で、何から話せばいいんですか?」

 漠然と聞かれてもわからないようで、未世は首をかしげた。

「どちらが、彼女に詳しいかしら?」

「勿論、私です。彼女はクラスメイトですから」

 未世は、恵那に比べれば小さめの胸を張り、自信満々に答えた。

「そう。ならまず、彼女は簡単に言えばどんな子か、一言で言ってみて」

「そうですね」

 未世は手を口元にあて、考える仕草をする。

 

「学友です」

 

「それは、そうね……」

 

「友達です」

 

「そう、ですよね……」

 未世の答えに、愛と鞠亜は苦笑する。そんな当たり前のことだけでは、どんな人物か分かりっこない。

 一言で、というのには無理があっただろうか。

「朝戸さん、もっと他に、分かりやすいたとえはない?」

 愛はもう少し絞るように言う。

「そうですね、一言で言えば……」

 

 

「……裏切り者」

 

 

 その場の空気が、一瞬にして凍りついた。

「り、凛ちゃん!」

「……何?」

「なんてこと言うんですか!?」

「……事実を言っているだけ」

「言い方ってものがありますよ!」

「……彼女が未世を裏切ったのは事実」

 未世は視線を感じ、振り向いた。その先では、愛が引きつった笑みを浮かべている。

 

「へえ~。裏切り者、ね~」

 

「せ、先輩。これはその、ち、違うんです!」

「何が違うっていうのかしら?」

 未世は弁解しようとするが、できなかった。凛の言うとおり、事実だったからだ。

「……白根さん、他にはあるかしら?」

 

「……命令違反」

 

「凛ちゃん!」

「へえ~、命令違反、ね~」

 恵那の笑みが引きつる。

「他は?」

 

「……独断先行」

 

「独断先行、ですか……」

 鞠亜の笑みも引き吊り始める。

 

―――これは、まずいです!

 

 未世は危機感を感じた。このままでは、凪の名誉が地に落ちてしまう。なんとか口をひらき続ける凛を止めなければ。

「凛さん、他にはありますか?」

 

「……未世に銃口を向けた」

 

「それ一言じゃありませんよ!」

「……朝戸さん、重要なのはそこじゃないとおもうわ」

 愛のツッコミを無視し、未世は凛に詰め寄った。

「凛ちゃん!何でそんなヒドイ言い方するんですか!?」

「……私は事実を言っているまで。未世を裏切ったこと、銃口を向けたこと、命令違反や独断先行をして、和花先生から制裁を受けたことも、全て事実」

「そんな言い方しなくても……」

「……事実は事実」

「凛ちゃんは凪ちゃんのこと嫌いなんですか!?」

「嫌いじゃないけど、好きでもない」

「どっちなんですか!」

「……腕は信用できるけど、人としては信頼できない」

「それ嫌いって言っていることと同じですよ!というか、あのとき凛ちゃんが散々彼女にビンタして許したんじゃないんですか!?」

 すると、凛が目を細めた。

「……あれは未世を裏切ったことと、銃口を向けたこと。そのほかのことに関しては許してない」

「もう、執念深いんですから……」

 未世は視線を感じ、顔を跳ね上げた。そして恐る恐る、向かいに座る愛たちを見た。

 

「あのう……、独断先行されてしまうと、狙撃手としては誤射が気になりますから、困るんですけど」

 

「裏切り者、ねえ~。そんな子に背中を預けて戦うのは、ちょっと不安ね~」

 

「命令違反は許せないわ。そりゃあ制裁も受けるわね。というか、朝戸さんに銃口を向けたの?これは、姉さんに通報するべきなのかしら?それとも、警務?」

 

 困った顔をしている鞠亜、苦笑を貼り付けている愛、スマホ片手に問いかけてくる恵那。全員、凛の言葉を信じている。

 

「ち、違うんです!凪ちゃんはいい子なんですよ!」

 

「いい子が独断先行するんですか?」

「いい子が命令違反なんてするのかしら?」

「いい子が裏切るのかしら?」

 

「ち、違うんですよ!これには理由が……」

 

「……あと最近は、仲間を見捨てる冷血女、とか。仲間を見殺しにするとか、助けない臆病者とかの噂が増えた」

 

 未世は注文したパンケーキを切り分け、1つにフォークを突き刺し、凛の口に押し込んだ。

「凛ちゃんは少し黙っていて下さい!」

 口にパンケーキを押し込まれた凛は表情を変えず、黙々とパンケーキを咀嚼する作業を始める。

「とにかく、彼女はそんな子じゃありません!」

「じゃあ、なんでそんな噂が流れるのよ?」

 引きつった笑みを浮かべる恵那はいう。

「確かに白根さんの言うとおり、腕は信用できそうだけど……」

 愛は、豊崎教官から渡された凪に関する情報が書かれた書類に目を通す。

「任務出動回数、103回。イクシス排除数、406体。その他、座学優秀、実技優秀、人間としては特に問題なし、ねえ」

 書類を置きながら愛は言った。

「他にも、格闘術、ナイフ、救護、拳銃、ライフル射撃、狙撃も成績よし。機関銃や対戦車火器など色んな武器の扱いにも対応可能、っと」

「ねえ、凄いでしょう!?」

 愛たちは、一様に困った顔をしている。書類上では優秀な彼女だが、その一端を彼らはつい先ほど目にしていた。

 

 彼らは先ほど、新しく行動を共にすることになった凪を伴って、ネストの討伐任務に出た。その際、いつものように西部先輩が掃射して、うち漏らした個体を未世たちが対処するという、いつもの戦術で行うはずだった。

 だが、弾幕をくぐり抜けた個体を、凪がM4の単射で、未世たちが発砲するより前に的確に頭部を撃ち抜いて仕留め続けたために、残された未世たち4人はほぼ何もすることなく終わってしまった。

 

「確かに、腕は文句ないわ」

「でしょう!?」

「でも、それだけでは分隊で組む際は困るでしょ?」

 未世は、うっ、と縮こまる。

 彼らは分隊、チームでの行動が基本である。ただ強いだけの生徒を頭数だけ揃えただけでは、烏合の衆と変わらない。

 指定防衛校の生徒や自衛隊は軍隊ではないものの、防衛組織ではある。組織である以上、明確に指揮する人間、従う人間が存在する。

 チームで行動は基本で、重要な要素になる。イクシスには浸透しきっていない、人類に残された数少ない武器の1つ。たとえ力量で劣っていようとも、連携できれば強い相手を打ち破ることができる。

 判定負けになったが、未世たちは現に、夏の共同演習ではあの関東圏最強と言われる椎名六花先輩のチームを打ち破っている。円滑な連携の需要性はわかっている。

 かなり無茶はやったが……。

「腕がよくても、命令を無視してスタンドプレーをしたり、仲間を見捨てるような子じゃあ、背中を預けられないじゃない?」

「そ、そうですけど……」

 未世は言い返せない。戦場での仲間の裏切りは士気の低下、隊の崩壊、最悪全滅をもたらす。命の危機が常に隣にある戦場において、そういう不安材料を気にするのは仕方のないこと。

「でも、彼女はそういう子じゃありませんよ!」

「なら、なんでそんな不穏な噂が流れるのよ?」

「未世さん、何か知りませんか?」

 未世は言葉に詰まった。凪が陰でそんな陰口を叩かれているなど、彼女は聞いたことなかったからだ。日頃飄々としている凛はしっているのに。

「……噂が流れ始めたのは、確か夏の共同演習の後」

「彼女、何かあったの?」

 

 

「……演習の結果を告げた、豊崎教官に殴りかかろうとした命知らず」

 

 

 場の空気が重さを増し、彼らの肩に重くのしかかった。

「……結局、教職員や上級生にとり押さえられて未遂に終わったけど」

 誰もが、固まってしまっていた。

「へえ~。姉さんに殴りかかろうとした、ねえ~」

 未世の向かいから、おぞましい殺気が溢れ出してくる。恵那は、満面の笑みを浮かべているはずなのに、頭には2本の角が生えているように錯覚させられる。

 その様子はさながら、小さい鬼であった。

「白根さん、もう少し詳しく話してくれるかしら?」

「……わか、むぐっ」

 未世が、またパンケーキを凛の口に押し込んだ。

「すいません!パンケーキ3皿追加お願いします!」

 未世は追加注文をいい、恵那に振り返る。

「朝戸さん、邪魔しないでくれる?」

「と、とにかく、何か理由があって」

「理由があれば上官に逆らったり、暴力をふるっていいの?」

 満面の笑みを浮かべる恵那に、未世は言葉を詰まらせた。

「西部先輩、今すぐ彼女を呼んで問いただした方が、誤解を招かなくていいんじゃないでしょうか?」

 なぜ本人がここにいないのか?

 任務を終え、一緒に甘いものでも、と愛が誘ったものの、凪はカウンセリングで豊崎教官に呼ばれているらしく、古流高校に戻ってしまったためだ。

「でも、こんな場でそんな話題を問いただすわけにもいかないわ」

「そ、そうですよ!」

「それじゃあ、朝戸さん。誤解を解くためにも、そもそも彼女はどんな子なのか、詳細に教えてくれるかしら?」

「は、はい!」

「……彼女は」

 凛が口を開く前に、未世は運ばれてきたパンケーキを詰め込んだ。

 

 そして未世は、凛の口に切ったパンケーキを詰め込みつつ、彼女との馴れ初めを事細かに話すハメになった。

 




読んでくださった方々、ありがとうございました。

随分間が空きましたが、気まぐれで書いた第2章が始まります。

楽しんでいただけたら幸いです。
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