リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~   作:魚鷹0822

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学校で一人、彼女は保健室で豊崎和花先生のカウンセリングを受けていた。
しかし、そこにかつての親しい間柄はなく、彼女は淡々と返す。

カウンセリングが終わり、帰ろうとした彼女の前に現れた生徒たちは、
彼女を便利屋、責任をとれというが……。


第2話 噂の火元は何処

「最近は眠れている?」

「……はい」

「疲れがたまっていることは?」

「……ありません」

「悩みは?」

「……ありません」

 壁や天井、床まで白色で染められた部屋、保健室。そこでメガネをかけ、白衣に身を包んだ知的な雰囲気の女性がボードを手に、向かいに座る生徒に質問をして、受け答えを挟まれた書類に書き込んでいく。

「今回も異常なし、っと」

 顔をあげた女性、養護教論の豊崎和花先生の目は、ある一点で止まった。

「……風原さん」

 向かいに座る凪は、面倒くさそうな目で豊崎教官を見上げる。すると教官は、左手を伸ばした。

「不安を感じるのはわかるけど……」

 凪は彼女が指差す先を見る。

「校内では、拳銃の安全装置はかけておきなさい」

 豊崎教官は、凪が腰にぶら下げている拳銃、M9のセイフティレバーを指差していた。レバーは上がった状態で、赤いドットが見えており、発射可能状態であることを示している。

 ここで人差指を曲げながら、これが安全装置です、などといえば、間違いなく説教の嵐が待っているため、彼女は黙って安全装置をかけた。

「……カウンセリングはおしまいですか?」

「もう1つよ」

 凪は面倒くさそうに、大きくため息を吐きだした。

「新しい分隊はどうかしら?」

「……まだ慣れません」

「そう。でも、いい子たちばかりだから、きっと気に入ると思うわ」

「……そうですか」

 凪の淡泊な反応に、和花は目を細める。

「……もう行っていいですか?」

「あと1つ」

 もう1つもう1つと、いくつあるのか、という言葉を飲み込み、彼女は和花先生の言葉を待つ。

「今は分隊に配属されているんだから、他のメンバーと組んで任務に行くことは控えなさい」

 すると、凪も目を細めた。

「なぜ?」

「あなたの体調を心配してよ」

「健康管理は自分でしています」

「連日、放課後2、3回も任務に出ていて、管理ができているといえるのかしら?」

 通常、指定防衛校の生徒は、誰もが歩哨任務に一度は出る。でも、それは一ヶ月に数回のペースで、1日に何度も出ることがないよう当番制になっている。

討伐任務を加えても、1日2、3回も出ることはまずない。よほどの腕利きでもない限りは。

「学校だって、ダメとは言ってませんよ」

「控えなさい」

 豊崎教官は短く、少し力を込めて、そう言った。

 

「……それは命令ですか?」

 

「いいえ、個人的なお願いよ」

 優しく微笑む和花を、冷めた表情で凪は見つめる。

「……命令でないなら、従う義理はありません」

「あまり聞かないと、命令に変わるわよ」

 凪はため息をはいた。まだ命令ではないが、後にそう変わる。いわば執行猶予のようなものだ。

「……善処します」

「期待しているわ」

 凪はカバンと自分のM4を持ち上げる。

 

「それと、いくら仲良くなっても、あの事については、口を開かないように、ね」

 

 彼女は、両手に力をこめ、M4のスリングや鞄の吊りヒモを握り締める。

「……機密は守っています」

「そう……。なら、いいわ」

 彼女は教官に一礼して部屋を出た。

 

 

 静かな廊下を、凪は1人歩く。放課後になれば、帰宅や任務へ向かうためにほとんどの生徒は学校を離れ、部活の生徒くらいしか、校内には残らない。

「風原さん」

 ふと彼女は、背後からした自分を呼ぶ声に振り向いた。

「今日は任務、入っている?」

 彼女の背後には、3人の女子生徒が立っていた。身長や体格から、上級生と彼女は察したが、見覚えはあっても名前や顔までは思い出せなかった。

「何ですか?」

「これから歩哨に出るから、一緒に来て」

 凪はため息を吐きだした。

「教官から控えろって言われました」

 すると1人が凪に歩み寄り、彼女の背中の壁に、ドン、と片腕をついた。

 

「へえ~、断るの?便利屋さん」

 

 敵意を隠さずむき出しにし、相手は凪を睨みつける。

「あなたに、そんなことが許されると、思っているの?」

 取り巻きが近寄ってきて、扇のように並んで壁際の凪を逃がさない。

「あんたのせいで、この学校の戦果は下がったのよ」

「あなたが、彼らを見捨てた、見殺しにしたせいで!」

 彼女は察した、彼らを、どこで見たのか。自分に、どういった感情を抱いているのか。

「責任とって、彼らの穴埋めをしてちょうだい」

「……行きます」

 すると、彼らは満面の笑みを浮かべ、

「それでこそ、風原さんね」

 と、心にもないことを言った。

 そして凪は、前を歩く上級生たちのあとについて、任務に向かっていった。

 本日、2度目の出撃だった。

 

 

 

 

 

 

「なるほどね」

「未世さんの理解者、ですか」

「そんな身近にいるなんてね……」

 未世は、ようやく凪との馴れ初めを説明し終えた。凛が口を開かぬよう、パンケーキを詰め込み続けたために財布に多少のダメージは負ったが。

「それで、朝戸さんの理解者だったのに、再会を望んだイクシスを殺したことで、彼女はあなたを裏切った、と?」

「はい。そのあと色々ありましたけど、また一緒に目指そうって約束しました」

 3人は、驚きの表情を浮かべながら、未世を見つめる。

「なるほどね。朝戸さんがいたから、このメンバーに加えたのかしら?」

「……それはあると思う」

「で、彼女は朝戸さんと同じく、イクシスとの協調を模索しているわけでしょう?」

 恵那の質問に、未世は頷く。

「でも、彼女の排除したイクシスの数、尋常じゃないわよ?」

 未世は表情を曇らせた。確かに、彼女の殺したイクシスの数は、同級生はおろか、上級生さえ越える。

 イクシスとの協調路線を模索する一方、その対象を殺しまくっているという相反する行動をとっているのでは、疑問を持たないほうがおかしい。

「い、今は、駆除するしか方法が、ありませんから……」

「なら、この任務参加回数は?」

 歩哨当番は、月に数回回ってくる。志願すれば回数は増やせるが、それにしても彼女の回数は1年生で、夏が終わったばかりという時期にしては異常であった。

「本当に彼女はあなたの理解者なの?」

「ほ、本当ですよ!任務参加回数が多いのは、イクシスとの接触回数を増やすためって目的で……」

 未世の口ではそういうものの、凪の行動がそう見えないのか、恵那は疑念を抱いている。

「朝戸さん、彼女は、普通科の生徒よね?」

「そうですよ」

 愛が、凪の書類を見ながら言う。

「彼女、なんで特殊戦科じゃないの?」

 未世は苦笑いを浮かべる。書類上では、彼女は特殊戦科にいてもおかしくない。

「……入学試験時に選抜されたけど、彼女が断った」

「訓練に縛られて、任務に行く回数を減らしたくないって言ってました」

「そう。なんだか、少し勿体無い話ね」

 折角の学校からの話をけるなど、普通は理解し難い。

「でもこれだけ色々できるなら、他校からの引き抜きもありそうだけど……」

 指定防衛校の予算は、国や地方以外に、企業や色んな団体からの援助などによってまかなわれている。

 城総は別として、国から降りてくる予算は、査定によって決まる。この査定の1つが、どれだけイクシスを排除したか、も含まれる。

 それだけに、実戦慣れしている生徒を、学校間で引き抜こうとする動きは常にある。

 学校としてもこんな凄い生徒がいるんだぞと、広告塔になるし、その生徒の就職先との繋がりもできるので、入学後も引き抜きで移る生徒はいる。

「色んな指定防衛校からあったって言っていましたよ?」

「どこからですか?」

 鞠亜たちは、未世の返答を待つ。

「確か、八野辺でしょ。朝霧、零葉、里島、丹下、城総等色々って聞きました」

 ここにいるメンバーの所属校だけでなく、城総まで入っていることに、彼らは驚いた。

「でも、彼女はまだ古流にいるわけでしょ?」

「和花先生たちが断っているみたいです」

 恵那の視線が、僅かに鋭くなった。

「古流でも、彼女を特殊戦科に編入させるべきって声と、普通科に置いとくべきって声があって、決着がついていないみたいなんです」

 適正があって強いんだから、特殊戦科にいれるべき、という声もあれば、本人の希望もあるに実戦参加を優先させたい、という意向で普通科に置いておくべきという声は、まだ決着がついていないらしい。

 

「ふ~ん、秘蔵っ子ってわけ」

 

 恵那が頬杖をつき、不機嫌そうな声を漏らした。

「恵那ちゃん、どうかしたんですか?」

「……別に」

 恵那はそっぽを向く。そんな彼女の様子に、未世は口角をつりあげた。

「あ、和花先生が彼女を手離そうとしないからヤキモチ焼いていたんですね?」

「焼いてないわよ!」

 口では否定するが、恵那は姉の和花のことが好きである。大好きな姉が、戦力としてとはいえ、秘蔵っ子を抱えている、というのを快く思わないらしい。

 凪を連れて和花先生が未世たちの前に現れたとき、彼女を分隊でどの役割をさせるか、愛が聞いたとき教官は、

 

「どこでもいいわよ。彼女、曲りなりにもなんでもできるから」

 

 と言い放った。

 そのときの恵那は、明らかに面白くなさそうな顔をしていたのを、皆が目撃していた。

 妹とは複雑である。

 

「心配しなくても、和花先生が恵那ちゃん一筋ですよ。先日も授業で、幼い頃、銃にイタズラしようとした妹に散々悩まされたって言ってましたし」

 

「あの二等陸尉何言ってくれているのよ!」

 

 吠える彼女を鞠亜と愛がなだめる。

「とにかく、白根さんの話からすると、彼女の悪い噂が目立ち始めたのは、夏の演習以降なのよね?」

 愛の問いに、凛は頷く。

「なら2人にお願いがあるわ」

「夏の共同演習で、彼女に何があったかを探る、ですか?」

 愛は、言葉の代わりに微笑んだ。

「……わかりました」

「あら、気が進まないの?人あたりのいい朝戸さんなら、簡単じゃないかしら?」

「いえ、情報源に心当たりはあるんですけど……」

 未世は頬をかきながら引きつった笑みを浮かべている。

「私、彼女に嫌われてまして」

「……大丈夫、私もついていくから」

 そんな2人の様子に、愛たちは首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……で、何の用ですか?」

 目の前の相手に未世、凛の3人しかいない昼休みの屋上。目の前の彼女は、不機嫌を隠そうともしない。短めのツインテールの髪型に、まだあどけなさの抜けていない顔。よもすれば中学生にも見えてしまいそうだが、言うと怒るので黙っておく。

「実里ちゃんに、聞きたいことがありまして」

 未世は目の前の人物、クラスメイトの川瀬実里に笑みをむける。

「……それで、泥棒猫が何を聞きたいんですか?」

 彼女は、以前は凪の相棒で歩哨任務のパートナーだった。だが、未世と夢が同じだからと、未世が凪へのスキンシップを強めたために、彼女は未世のことを泥棒猫といっている。   

 逆に、凛にとっては未世との時間を奪った凪が泥棒猫だという。

「その、最近凪ちゃん、校内であまりいい噂聞かないじゃないですか?」

 実里の目つきがするどさを増し、未世は背中に汗が流れるのを感じた。

「その原因について、あなたなら何か知っているかな、と……」

「あなたはどう思うんですか?」

 実里はジュースの缶をテーブルに置き、未世を見つめる。

「仲間を見捨てる冷血女、助けない臆病もの、豊崎教官に殴りかかろうとした等、色々流れていますが、未世さんはどう思うんですか?」

 彼女は、未世に顔を近づけて言う。

「まさか、彼女が本当にそんな人物とでも、思っているんですか?」

「ち、違います!」

 未世は、即座に否定した。

「凪ちゃんは、そんな子じゃないです。だから、なんでそんな噂が流れているか、気になって。あなたなら、何か知っているかも、と、思って」

 実里は、未世をじっと、見続ける。

 

「……思っているっていったら、ぶっ飛ばすつもりでした」

 

 とりあえずは警戒を解いてくれたようで、表情が緩んだ。

 

「でも残念ながら、豊崎教官に殴りかかろうとしたことは、事実です」

 

 未世は言葉を失った。

「演習の結果を告げられたとき、彼女が怒って。私や先輩たちで取り押さえましたけど」

 彼女は想像できなかった。凪は、自分の夢、イクシスと仲良くできる道を探す、ということについて、和花先生に相談したことがある。他人にはできない相談を、できる仲だったはず。

 その彼女が激情に駆られたとはいえ、なぜ和花に拳を向けそうになったのか。

「そういえば、演習結果はどうだったんですか?」

 その原因が演習にあったのだとすれば、内容を確認する必要がある。すると、実里は表情を曇らせた。

「朝戸さんたちのチーム同様、表向き判定負けになっています」

 未世たちのチームは、作戦が見破られあわや全滅になりそうになったものの、彼女発案の電車作戦で反撃に転じ、あの関東圏最強の椎名六花先輩を打倒したものの、無許可で電車を動かしたことが問題となり、表向き敗北となった。

 演習後はしばらく、古流だけでなくどの指定防衛校もその噂で持ちきりだった。なので、他の演習での事件は、陰が薄くなってしまっている。

「何が、あったんですか?」

 実里は、当時凪と同じチームだった。詳細をしっているはず。

 そして、彼女は話し始めた。その内容に、未世は驚愕の表情を浮かべた。

 

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