リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~   作:魚鷹0822

21 / 35
森の中を哨戒する未世たちの前に、2体の巨大なイクシスが現れる。
鞠亜に狙撃を命じるも、相手はなかなか機会を与えてはくれない。
そんな中、彼女は巨大なイクシスの前に姿をさらして……。


第6話 無茶する便利屋さん

「今、なんと……」

 血の気が引いたように、顔面を蒼白に染めた凪は、無線から聞こえてきた言葉を、もう一度確かめる。

 正確には、その意味を理解しかねていた。

『もう一度言うわ』

 声の主、司令部の人間は抑揚の無い声で、同じ言葉を淡々と言った。

 

『古流高校、風原凪、深山志野、海野蒼衣。あなたたちの回収はできない。以後、各自で判断して帰還せよ。以上』

 

 その言葉を聞き、凪は地面に片手をついた。

「……どういうことですか?回収地点を10回も変更して、必ず助けるとおっしゃったのに、なんで……」

『ヘリが故障で、修理に何時間かかるかわからないの』

 凪はそれが嘘であると察した。

 この近隣には、空自や海自、陸自などのヘリ部隊の基地がいくつもある。イクシスの出現に際して、遠方へも行けるよう部隊が見直されたからだ。

 それら全てが機体不調など、考えにくい。

「修理が終わるのを現在地で待ちますから、回収をお願いできませんか……」

『時間が予測できない。だから無理だといっているの』

「再三の回収地点の変更の結果がこれですか……」

『風原生徒、私たちの命令に落ち度があったと?』

 凪は奥歯を噛んだ。

 最初の回収地点の指定から、再三に渡る変更。

 そしていつしか日付が翌日になり、もう日が沈みそうな時間になって、回収できないから自分の足で帰ってこいなど、無能といわずになんというのか。

 でも相手は上官。ここは黙った。

「……いえ」

『命令は以上よ』

 無線が切れた。凪は、隠れている木に背中を預ける。見上げた空には、輝く星星が見え始めている。

 

「……ははは」

 

 なぜか笑いが漏れる。

 ただの行軍演習だったら、休みつつ帰ればいい話。

 でも、今彼女がいるのは、イクシスの勢力圏の中。

 見下ろせば、闇の中に、ほんのり赤く光る、死を運ぶ異型の者たちの影が迫りつつある。

 もう、ここで待っていても救助はこない。

 でも、敵は迫りつつある。

 敵勢力圏内でともに来た先輩たちとはぐれ、救助もこず、孤立無援の脱出劇。

 昔見た映画のストーリーのようだった。

 

「これじゃあ、処刑宣告だよ……」

 

 笑うしかなかった。

 現実は映画のように、ハッピーエンドは待ち構えていない。

 彼女は深呼吸すると、装備の確認をする。

 水や非常食は、心もとない。

 こんな状況になるなど想定してなかった。

 できるだけ節約する必要がある。

 M4の弾倉の残りは、今装填しているのを含めて4本。拳銃は、M1911。10連弾倉が、装填しているのを含めて7本。

 先輩たちの好みに合わせて45口径のM1911を持ってきたが、こんなことならいつも使っているM9に20連弾倉を持ってくるんだったと、彼女は後悔した。

「でも、やるしかないよね」

 ここで諦めてしまっては、ただ死が待っているだけ。

 でも、ここで殺されてやるつもりは、彼女には微塵もなかった。

 同じ夢を持った同級生、未世との約束。それを果たすためにも、帰らなくてはいけない。

 そして、支援体勢もしかず自分たちを送り出した司令部の教官たちを、一発殴る、と処分されかねないので、嫌味の1つでも言わなければ気がすまない。

「よし!」

 装備の確認を終え、銃のグリップを握り締め、彼女は元きた道を戻り始めた。

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 飛び起きた凪は、周囲を見渡す。

 場所は、山の近くに設置された司令部から少し離れたテントの中。

 周囲には、穏やかな寝顔を浮かべ、寝息を立てる未世たちが見える。

 彼女は額を右手の甲で拭った。

「はあ、はあ……」

 呼吸が粗さを増し、無意識に聴覚が鋭敏さを増し、草木が立てるかすかな物音を拾い、目は周囲を索敵し、心臓の鼓動が速さを増す。

 心臓の鼓動を鎮めようと、胸のあたりの制服をかきむしる。

 でも、心臓の鼓動は収まらず、耳は草木が立てるわずかな音も拾い、目は影を追って動く。

「っく!」

 彼女は、頭まで寝袋に入った。両耳を手でふさぎ、周囲の音から自身を切り離そうとする。

 そして彼女はいつしか、眠りに入っていた。

 

 

 

 

 

「凪ちゃん」

「……何、未世」

「昨夜、眠れましたか?」

 翌朝、司令部を出て山に入って指定されたエリアの歩哨に向かう道すがら、未世は言った。

 目の下に、大きな隈を作っている凪を指さしながら。

「……大丈夫、だよ」

「大丈夫に見えません」

「そんなことないよ」

「凪ちゃんの、大丈夫って言葉は、大抵大丈夫じゃありません」

「……同意」

 凛も未世に同意する。

「そんなこと……」

「……任務で負ったケガの度合いを偽って報告して、和花先生に気づかれて怒られたのはだれ?」

「……ごめんなさい」

「ところで……」 

 未世は目を細める。

「それ、必要ですか?」

 未世が指さしたのは、凪の持っているM4A1のハンドガードの下部を外して代わりに取り付けられた太い筒。

「M203ですか?念のため、です」

 M203。簡易アタッチメントで取り付けられるアドオン式グレネードランチャーで、40mmグレネードを使用する。火力は絶大なのだが、それゆえ攻撃範囲が広く、市街地を主な戦場にしている指定防衛校の生徒たちは、あまり使用したがらない兵器でもある。

「私たちの分隊には、鞠亜ちゃんのM82っていう、頼れる火力があるんですよ?」

 未世は凪に顔を近づける。

「それでも、ですか?」

「まあ、万一の保険、で……」

「私、信用ないですか?」

 話を聞いていたらしき鞠亜が、不安げな表情を向ける。

「いえ、そういうわけじゃ……」

 鞠亜は不安げな視線を、未世は訝しげな視線を送ってくる。

「まあ、装備は個人に任せるけど、仲間を信用することも大事よ。それと、使い所は考えることね」

「……はい」

 西部先輩からは釘をさされる。実際、M203は使いどころを考えないと、周辺に被害を与えてしまう。まして、森の中で出番はあるのだろうか。

 今彼女たちは、森の中の規定ルートを進んでいる。いつイクシスが飛び出してくるかわからない緊張の中、視覚や聴覚を総動員して周辺を警戒している。

 しばらく歩くと、彼女たちの前には、森が開け、岩がいくつか転がるだけの平地に出た。

「ようやく見通せる場所に出ましたね」

 未世は、若干ほっとした様子を見せる。

「でも、ここじゃ隠れる場所がないから、気を抜かないでね」

 とはいうものの、一度緩んだ緊張の糸はすぐには張れない。凛や恵那たちも少しほっとしている。

「……ん?」

 ふと、凪はあたりを見回した。そして彼女は、不意に足を止めた。

「凪ちゃん?」

 気づいた未世の呼びかけを聞き流し、彼女は当たりに視線を流す。そして、足の裏の感覚を研ぎ澄ませる。

 わずかに感じる振動。それは一定の間隔で発生し、次第に大きさを増していく。

「風原さん、どうかしたの?」

 愛の呼びかけにも、彼女は答えない。

「あの、どこか体調でも……」

「……くる」

 鞠亜の問いかけを遮り、彼女は広場の先、再び森が始まっている場所をにらみつけた。その直後、木が大きく揺れ、黒い巨大な影が、姿を現した。

 巨体を2本足で支え、部分的に装甲でおおわれている。そして両肩にはそれぞれ、グレネードや機銃のようなものを備えている。熊。

「あれは……」

「……ヴォイテク」

 森から現れたのは、ビースト型イクシス、ヴォイテクの武装型。その背後に、もう1体の巨大な影がうごめいている。

「もう1体いるわ!」

 恵那が叫んだ。目の前には、ヴォイテクの武装型が2体。1体はグレネードとミサイル。もう1体は機銃とロケットのようなものを背負っている。移動速度は遅いが、絶大な火力とタフさを兼ね備えたイクシス。

 その黒い巨熊が、彼女たちの前にそびえている。

「照安さん!狙撃準備!」

 愛が叫んだ。

「は、はい!」

 鞠亜は急いでM82のバイポッドを展開し、狙撃準備にはいる。

「全員、照安さんを援護!」

「「「了解!」」」

 ヴォイテクの装甲は、7.62mm弾にも耐えられる頑丈さを持つ。それを超える威力を持つのは、この場では鞠亜のM82だけ。

 彼女がボルトを引いて初弾を薬室に送り込む。そのとき、ヴォイテクの機銃が彼女たちに向けられた。

「隠れて!」

 愛が叫んだ直後、彼女たちは手近な岩に身を隠した。ヴォイテクの機銃が火を噴き、地面に弾痕が穿たれていく。

 そして、機銃の銃撃が終わると、もう片方のグレネードを発射。山なりにとんだ弾は未世たちの頭上を越え、地面に着弾した。

「きゃあ!」

 着弾の際の爆風で土や砂が舞い上がり、彼女たちのスカートや制服の裾がバタつく。

 土埃が落ち着き始めたころ、未世は岩から顔を出す。ヴォイテクの肩から煙が上がり、何かが迫ってくる。

「ロケット!」

 愛が叫んだ直後、全員身を小さくした。激しい炸裂音と熱が、彼女たちを襲った。

「こ、これじゃあ狙撃なんて……」

 鞠亜は若干涙目になりながら頭を振り、連動してツインテールが揺れる。

 ヴォイテクをしとめるには、この場では12.7mm弾を撃ち込む以外にない。

 でも、目の前のヴォイテクは機銃を装備していて狙撃ができる隙を与えてはくれない。

「私が行きます」

 凪は、いうと同時に岩から出てヴォイテクに銃口を向ける。

「凪ちゃん!」

「風原さん!危険よ!」

 愛と未世の制止を無視し、凪は引き金を引いた。

 5.56mm弾がヴォイテクの頭部に着弾するも、相手に気にした様子はない。が、顔が彼女の方をむいた。

 凪はM203に左手をかけ、トリガーガード内にある2本の引き金の前を押して安全装置を解除。後ろの引き金を引いた。

 ガスが抜けるような、ポン、という音の直後、M203から40mmグレネードが放たれ、山なりの軌道を描き、ヴォイテクに命中、炸裂した。

 ヴォイテクが咆哮を上げるが、それで倒れる様子はない。凪はM203の銃身を前にスライドさせ、次弾を装填。2発目を見舞った。

 放たれた2発目もヴォイテクに命中。1体が地面に崩れるように倒れた。そして彼女は、倒した個体の背後の個体にも銃撃を浴びせる。ヴォイテクの注意が、凪にそれた。

「照安さん!」

 愛の声に反応し、鞠亜は即座に狙撃姿勢に入る。

 スコープをのぞき、ヴォイテクの頭部に狙いを定める。

 そのとき、ヴォイテクのロケット発射機が角度を変えた。その砲口は、凪に向けられている。

 

―――間に合って!

 

 鞠亜はM82の引き金を絞った。

 マズルブレーキからガスが噴き出し、放たれた圧縮ガスが彼女たちの制服の裾をまくり上げる。

 放たれた12.7mm弾は、ヴォイテクの頭部に命中し、首から上を吹き飛ばした。だが着弾する直前、ヴォイテクはロケットを放った。

「風原さん!」

「逃げて!」

 愛と未世の悲鳴が上がった直後、凪の姿を爆炎とえぐれた土が隠した。

 舞い上がったほこりが収まると、大きくえぐれた地面が見えてくるが、そこに彼女の姿はなかった。

「……うそ、でしょ」

「そん、な……」

「うちの分隊から、殉職者がでるなんて」

 

『……勝手に殺さないでください』

 

 無線から聞こえた声に、全員が驚く。

 すると、先ほどヴォイテクが放ったロケット弾の着弾地点のそばの地面に開けられた穴から、土や砂ほこりにまみれた凪がはい出てきた。

 着弾前に、前の銃撃でできた穴に飛び込んで回避したのだった。

「さすがに、簡単には死にたくないですよ」

 制服やスカートについた土埃を払う凪に、未世は無言で歩み寄っていく。

 そして、凪の胸倉をつかんで、引き寄せた。

「何考えているんですか!」

 見たことない未世の剣幕に、彼女は目を丸くする。

「あの、怒っているんですか?」

「当たり前ですよ!もう少しずれていたら、死んでいたんですよ!」

「でも、生き残る算段はしていましたし」

「それはただの結果論ですよ」

 なおも、未世は彼女をにらみつけて離さない。

「朝戸さん、そこまでにして」

 パンパン、と両手をたたく音に、未世は振り向く。いつの間にか2人のそばには、西部先輩が立っていた。

「まだ警戒ルートの途中だけど、ここまでにしましょう。風原さんを、衛生班に見てもらう必要もあるわ」

「で、でも私は」

 抗弁しようとした凪に、愛は極上の笑みを向ける。寒いほどに、冷たい笑みを。

「風原さん、あなたは、今は、私の分隊の一員。つまり、分隊長の私の命令に従う義務があります」

 愛は、凪の瞳をのぞき込むように顔を近づける。

「私の制止を聞かず1人突出して、自分を危険にさらし、仲間に心配をかけるのはいいことかしら?」

「……いえ」

「分隊長には、部下を全員無事に連れて帰る責任があるの。私の隊から、殉職者を出すなんて、私がごめんよ」

 笑顔で話すが、愛の体からにじみ出る無言の圧力に、凪は黙るしかない。

「分隊長が、帰る、と言っているの。なら、あなたのすることは、わかるわね?」

「……はい」

 震えながら、彼女は答えた。

「では、歩哨は中断。司令部に帰還します」

 西部先輩の笑顔の恐怖に、全員が迅速に動いた。そして来た道を、引き返していった。

 

 

 

 

「痛っ!」

 消毒液のしみる刺激に、凪は顔をゆがめる。

「痛いのは生きている証拠よ。痛みが感じられることに感謝しなさい」

 そういって、彼女の傷の手当を進める豊崎教官は、過剰な量の消毒薬を傷口にかける。

「幸い、傷は切り傷や擦りむいた跡だけ。ヴォイテクのロケットが間近に着弾して、よくこれだけで済んだものね」

 消毒を終えた豊崎教官はガーゼや絆創膏を張り付けていく。

「はい、終了」

 手当てを終えた彼女は道具をしまっていく。

「念のため今日はテントで休んで、次の任務は明日。それまで静かにしていること」

「……わかりました」

「そ、れ、か、ら」

 豊崎教官は凪の頬を両手でつかんで引っ張った。

「次、今回みたいな危険な真似をしたら、わかっているわね?」

「……はい」

 冷めた表情で、彼女は答えた。

 そして司令部のテントを出て、未世たちのもとへ歩を進める。歩哨を終えたもの、これから向かうもの、色んな生徒たちとすれ違う。

 

「あら~、風原さんじゃない?」

 

 ふと聞こえた声に、凪は体を硬直させる。そして、ゆっくり声の方向へ振り向くと、案の定、そこには同じ古流高校の制服を着ている生徒が数名いた。

「あなた、任務は?」

「……さっき、終わりました」

「そう」

 その生徒たちは、笑顔を浮かべながら凪を追い込むように近づいてくる。

 彼女の脳内で、警報がなる。今すぐここから離れなければならない。彼女たちの口からこの後出る言葉が、想像できてしまったからだ。

「私たち、これから任務なの」

「いっしょに来てくれるわよね?」

「便利屋さん」

 予想通りの言葉が彼女たちの口から放たれる。

「でも、私は、負傷したので、静かにと、命令が」

 すると、その中の1人の右手が、凪の胸倉をつかんだ。

「何言っているの?」

 笑顔とは反対に、つかんでいる右手には力が籠められ、震えが増していく。

「負傷したくらいでなによ。あの人たちは、死ぬ寸前まで引き金を引き続けたのよ」

「あなたのせいで、彼女たちは命を落とした」

「あなたは、責任を取らなくちゃいけない」

 途端に、笑顔に影が差したように、凪には見えた。数巡した末、彼女は言った。

「……はい、わか」

 言おうとしたとき、目の前の生徒の腕を、誰かがつかんだ。周囲の生徒たちの目が、その人物に向けられる。

 

「風原さん、帰りが遅いと思ってきてみれば……」

 

 分隊長の西部先輩が、微笑みを浮かべていた。

「何油売っているのかしら?休めって命令でしょ?」

 先輩は、凪の胸倉をつかんでいる手をはがすと、彼女の右手をつかんだ。

「さ、行きましょう」

「待て!」

 だが、そうは問屋が卸してくれない。

「何かしら?」

 笑みを浮かべながら振り返る西部先輩を見て、生徒たちはなぜか一瞬狼狽えた。

「そ、そいつは、これから任務に連れて行くんだ!」

「そうよ、邪魔しないで!」

 すると、西部先輩は凪の両肩に手を置いて彼女たちに向きなおらせる。

「この子は、今私の分隊の一員です。そして、その分隊長は、私です。彼女を連れていきたいなら、まず私を通してくれないかしら?」

 首をかしげながら、細めた目で彼女は目の前の古流の生徒たちを見据える。

「無論、許可するつもりは、一切ないけど」

 それだけ言い残し、西部先輩は凪の右手をつかむと彼女を連れてテントへ歩き出した。

 

 

 テントへ直行するかと思いきや、西部先輩は凪を引きずったまま森の中へ少し入る。そして、彼女を適当な木に押し付け、両手で両肩をつかんで顔を近づける。

「風原さん?」

 さきほどまでの笑顔はどこへやら、西部先輩は、真剣なまなざしで見つめてくる。

「あなた、私が止めてなければ一緒に行くつもりだったの?」

「あの、その……」

「さっきも言ったけど、あなたの分隊長は私よ。あなたは、私の命令に従う義務がある。勝手は許されないわ」

「……はい」

「それと……」

 西部先輩は、右手を凪から離すと、なぜか彼女のあごにあてがい、自分を見るように顔を上げさせる。

 

「あなた、私たちに、何か大事なこと、隠してない?」

 

 凪の体に緊張が走り、体がこわばる。

「……ない、です」

 彼女が応えた瞬間、瞳が左右に揺れるのを、西部先輩は見逃さない。

「風原さん、私はなにも、あなたを責めるために聞いているんじゃないの」

 西部先輩の顔が迫る。

「そのことが原因で、実害が出ては困るからよ。さっき、私が止めなければ、あなたは彼女たちの任務についていくつもりだったでしょう?」

 凪はうつむいて視線をそらしたかったが、あごを先輩につかまれているためにできない。

「そういえば、先ほどの彼女たち、あなたに責任とれ、とか。あなたのせいで命を落とした、とか言っていたけど。どういうこと?さっきのあなたの行動に関係しているのかしら?詳しく、聞かせてくれないかしら?」

「知ってどうするんですか?」

「分隊員のことを知るのも、隊長の役目なの」

 

「じゃあ、知らないでください」

 

 凪は、拒絶の意を込めて言い放った。

「私の噂はご存じでしょう。仲間を見捨てる冷血女とか、臆病者とか、悪い話がいくつもあるのを」

 未世から愛は聞いていた。凪に関するよくない噂を。

「そんな隊員のことを知っても、無駄ですし、私は一時的にいるだけです。理解する労力をさくくらいなら、私を分隊から外すよう、豊崎教官に進言したらどうですか?」

 すると、愛は微笑んだまま、首を少し左へかしげる。

「残念だけど、あなたを手放すつもりはないわ」

「……なぜ?」

 すると西部先輩は、右手を握り、人差し指だけを立てた。

「1つには。あなた、腕はすごくいいようだから、戦力としてあてにできるということ」

 凪に関する書類に目を通した西部先輩は、少なくとも、彼女が戦力としてあてにできることは察していた。

「2つ目は、あなたが噂通りの人間なのか、まだ判断しかねる、ということよ」

 今の分隊は、生徒たちが自主的に決めたものではなく、あくまで和花たち教官、上官たちが決めたもの。たとえ、悪いうわさが沢山ある生徒であっても、編成を変えろ、というにはそれなりの理由が必要になる。

「よって、私はあなたを外すよう進言はしません。なので、テントに戻って休息をとって、次に備えましょう」

 そして西部先輩は凪の手をつかむと、今度こそテントに向かって歩いていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。