リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~ 作:魚鷹0822
普段通り周囲を警戒しながら進んでいた未世たちは、いつの間にか
イクシスに包囲されていた。分隊長の愛は任務の中止を決断。
急いで拠点まで帰ることにした彼らを、イクシスが執拗に追いかける。
「また今日も任務ですね」
「仕方がないでしょ。それが役目なんだから」
翌日の朝、朝食を終えた未世たちは哨戒に向かうために各々準備を進める。
「今回も森の中ね。少し奥のほうまで行くけど」
招集されて数日。日々時間帯の変化はあれ森の中を歩き回る日々が続いている。
どこからイクシスが襲ってくるかわからない中、神経を集中させ、警戒にあたる。
「……でも、いつまで続くのか」
「いつ、終わるんでしょうね」
凛と鞠亜が不安げに言う。
この状況がいつまで続くのか、皆が少しずつ思い始めていた。
「終わるまで、としか言えないんじゃないかしら」
恵那の言葉に、皆表情を曇らせる。
未だ森の中では、ネストシードが複数発見される事態が続いている。
なぜこの地域に集中しているのか、今回の事態の発端となったのは何なのか。
誰も答えを持っていない。
先の見えないトンネルを進むような状況に、次第にみなが不安を抱き始めていた。
その不安を少しでも払拭しようと、装備の確認に意識を集中させる。
未世はM4に弾倉をさし、セカンダリのG17にも弾倉を装填する。
予備弾倉など荷物の確認を終えた彼女は、周囲を見回した。
西部先輩は予備弾薬の量を確認し、鞠亜は銃身内部の汚れやボルトの作動など異常がないか点検を進める。
そんな中、何かをたたくような音がした。目を向ければ、凪がM4の弾倉を手の平に数回たたきつけている。
それを終えると、M4に弾倉を差し込んだ。
そして、腰からM9用の弾倉を抜くと、それも同じく弾薬の底部側を手の平に数回叩きつけたのち、拳銃に装填。
スライドを引いて初弾を薬室に送り込み、セイフティレバーを下げて撃鉄を倒し、レバーを上げてダブルアクションで発砲できるようにした。
「準備完了です」
それまでの一連のしぐさを、未世たちは物珍しそうに、西部先輩だけは真剣なまなざしで見つめていた。
今の彼女のM4のハンドガードには、先日はあったM203はなく、いつものM-Lok対応の樹脂製のハンドガードとフォアグリップが取り付けられていた。あんな危険な行為をしたために、分隊員全員で外せ、といったためだ。
「いいですね~」
未世がふと、そんなことを言った。
「何が?」
凪が首をかしげながら聞く。
「こう、カチッ、カチッっていうの」
未世は、右手の中指から小指までを曲げ、人差し指と親指を伸ばした状態で、親指だけを曲げるしぐさを繰り返した。
なんのことか周囲は首をかしげていたが、凪はそれが何であるかを悟った。
「それって、これですか?」
彼女は銃口の向きに気をつけ、人差し指を伸ばした右手で腰からM9を抜くと、スライド後端に備えられたセイフティレバーを数回上下させた。
「ああ、それです」
「……それって、羨ましがることですか?」
未世がした仕草は、凪が拳銃の安全装置をかけ、解除する仕草だった。
「いいじゃないですか~、プロっぽくって」
「プロって……、この銃使っている人はみんなしていますよ」
「傍目にかっこいいじゃないですか~。いつも凛ちゃんや恵那ちゃんがしているのを見ているので羨ましいんですよ~。グロックちゃんにはそういうのがなくて味気ないんです」
「未世さん、グロックの売りの1つを何だと思っているんですか?」
確かに、未世がいったようにM9のセイフティレバーやP226のデコッキングレバーを操作する動作は、映像にするなら栄えるといえる。
でも、それが必ずしも実戦で有効かといえば、そうとも限らない。M9はハンマー式であり、トリガープルがP226に比べ軽い分、トリガーを引くストローク距離を長くすることで携帯時の安全性を確保している。
ただ、ダブルアクションで発砲する際、そのトリガーストロークの長さは初弾の命中精度を下げる要因になる。
マニュアルセイフティも、デコッカーも、融通が利く動作ではあるが、その反面発射までの動作を増やしてしまう。
そのことを思えば、未世や鞠亜、西部先輩の使うグロックシリーズは、単純な操作で安全性が高く、いつも同じトリガーストロークで発砲できる。
その性能や操作性の優秀さは、指定防衛校の多くでグロックが使われていることからもわかる。
早打ちでもすれば、M9はグロックに撃ち負けてしまうだろう。
「わかっていまけど、でも見た目かっこいいじゃありませんか?」
「じゃあ、未世さんもM9に変えてはどうですか?」
「でも、M9って重いじゃありませんか?」
羽のように軽い、といわれるグロック相手では比較対象が悪すぎだと、凪は苦笑する。
「まあ、私たちが拳銃を抜く機会なんて、さほど多くはないのだから、壊れにくくて、安くて、手入れしやすいことが、大事なんじゃないかしら?」
「そうですよ」
西部先輩の言葉を、凪は肯定する。
「さ、そろそろ時間よ。気を引き締めていきましょう」
分隊長の命令のもと、未世たちは目的の地域の哨戒へ向かった。
深い森の中を、足場を気にしながら、彼女たちは1列で歩いていく。
「……にしても、暑いですね」
「まだ残暑厳しい時期だもの、仕方ないわ」
夏服でも、重たい装備を身に着けて歩き回れば暑くなるのは自然のこと。
「森の中って、涼しくないんですね」
歩きながら、時折手をうちわ替わりにして彼女たちは少しでも風を送ろうとする。
「夜は冷えるけど、昼間暑いのは仕方ないわ」
「……おまけに、虫が多いから、帰ったら虫刺されの薬は必須」
全員が渇いた笑いを漏らした。草木が生い茂って、虫が住処に不自由しない場所で、半そでにスカートという格好で動き回れば、どうなるかは想像に難くない。
初日は準備不足で虫除けや虫刺されの薬をもってなかったために、生徒たちの間で争奪戦が繰り広げられることになった。
「にしても、この事態は、なんで起こったんでしょうか?」
未世の疑問に、全員が頭に疑問符を浮かべる。
「なんでって、イクシスの行動パターンに理由なんてないでしょ?」
恵那があきれ顔で返す。
「それはそうですけど。日頃は街中にネストシードができて、それの対処をしているわけですど、でも、今回みたいにこの地域だけっていうのは、なんでかなって」
今彼女たちが派遣されている場所は、県のはずれにある山。ここにある日突然ネストシードが大量に確認され、今も対処が続いている。
何か理由がありそうではあるが、確認するすべはない。
「だから、やっぱりイクシスとの対話は必要だと思うんですよ!」
「……でた、未世の理想論」
先頭を行く凛がため息をはく。
「確かに、イクシスと対話ができれば、なんで今この状況なのかわかるかもしれないけど……」
「でもだからって、敵対勢力に情報をあっさり白状するなんて思えません」
恵那の否定に、未世はうつむく。
「そう、ですよね」
夢では仲良くしたい。でも、今は恵那の言う通り、敵対勢力。戦うしかない。
「朝戸さん、今は任務中だから、ね」
「……はい」
未世は気持ちをいったん脇へ押しやり、前を向いた。
しばらく歩き、徐々に森が深くなり、昼間なのに暗さが増していく。
「ずいぶん、奥まで行くんですね」
対物ライフル、M82を持ちながら、鞠亜はおびえながらあたりを見回す。
「初日から段階的に範囲を広げているの。みんな、森林での活動には不慣れでしょ」
「そうですけど、ひっ!」
突如、鞠亜が悲鳴をあげ、そばにいた恵那にしがみついた。
「ど、どうしたのよ!」
「あ、あそこに……」
震える手で、彼女は林の一角をさした。でも、そこには緑が生い茂っているだけ。
「何もないじゃない?」
「でも、何か黒いものが……」
イクシスかもしれない、獣かもしれない。見間違いかもしれない。
「……見てきます」
凪がM4を構え、セレクターを右手親指で安全から単射に切り替え、鞠亜の指さした場所へ少しずつ近づいていく。
一歩、また一歩と距離を詰めていく。ふと、草むらが揺れた。彼女はグリップを握り締め、人差し指を引き金にかける。目的の草むらにたどり着いた。
「……何もない」
彼女の報告を聞き、全員が安堵した。そのとき……。
隣の草むらから、何かが飛び出した。
「凪ちゃん!」
草むらから飛び出したのは、K9だった。距離はもう、2mもない。K9の爪や牙が太陽光を浴び、鈍く輝く。
「ギャン!」
凪はM4A1のストックのラバーパッドの部分で、K9の顔面を殴りつけた。K9は来た方向に吹っ飛ばされ、地面に転がる。
そのすきに、彼女はM4を構えなおし、頭部を狙って発砲する。
3発の銃弾は頭部を貫通。K9は動きを止めた。
K9の沈黙を確認すると、彼女は念のため周囲も確認を行う。
「残敵なし……」
彼女が銃口を下げたのを見て、未世たちは胸をなでおろす。
だが、凪は全身を悪寒が駆けた。
加えて、首の後ろが何かを感じ、ちりちりとする。
殺気を向けられたときに感じる感覚。それを、この場で彼女は感じていた。
―――何か、いる。
確信を抱いていた。彼女は周囲を見渡し、何か隠れていないか探す。
「……どうしたの?」
「風原さん?」
そんな彼女を、分隊のメンバーは不思議そうに眺める。そんな彼女の耳に、聞きなれた音が届いた。
―――これは!
彼女は走ってその場を離れた、
直後、さきほどまで彼女がいた場所が爆ぜた。
未世たちは顔を覆って爆風に耐える。
「……な」
「なんなの!?」
爆ぜた地面が大きくえぐれているのを見て、彼女たちは言葉をなくした。そして、今度は森の中を、何かの咆哮が駆け抜けた。
「西部先輩、この声は」
「間違い、ないわね」
森の木々をなぎ倒し、彼女たちの進路上に、巨大な熊が現れた。
「……ヴォイテク」
タフで知られるイクシス、ヴォイテクが姿を現した。
「照安さん!」
「はい!」
西部先輩の声で、鞠亜はM82を構えて狙撃の準備に入る。
「全員、照安さんを援護!」
「「了解!」」
未世たちは、ヴォイテクと鞠亜の間に移動する。
「照安さん、焦らないで!」
「はい!」
鞠亜はM82に取り付けられたスコープをのぞき、ヴォイテクの頭部にレティクルをあわせる。
そんな中、凪はまた全身を悪寒が駆け抜ける。
そして彼女はヴォイテクとは正反対の方向にM4を向け、引き金を引いた。
「風原さん、何や……」
愛が見かねて背後を振り返ると、彼女たちにむかって先ほどはいなかったK9が10体ほど迫っていた。
凪はそのK9たちにむかって、フルオートで5.56mm弾を撃ちこみ、なぎ払っていく。
「まさか!」
愛は周囲を見回した。林の中に、ほのくらい、赤い光が見える。それは、彼女たちを取り囲むように、円状に配置されていた。
「全員射撃中止!囲まれているわ!」
未世たちも周囲を見渡す。今の状況を悟ったのか、顔がこわばっていく。
イクシスたちが林の中から飛び出し、黒い体をさらすと、包囲の輪を縮めてくる。
「……遅かった」
凪は空になった弾倉を抜き、フルロードのものを叩き込み、ボルトストップを左手でたたいた。
「せ、先輩……」
未世たちは、一様に愛を見つめる。彼女は奥歯をかみしめ、言った。
「ただいまをもって、任務は中止!司令部に帰還します!」
叫ぶと同時に、愛は来た道に向かってM249を連射し、邪魔なK9をなぎ払い、進路を切り開いた。
「戦闘は最小限に!みんな走って!」
西部先輩を先頭に、全員イクシスから逃れるべく走り出した。
慣れない森の中を、彼女たちは重い装備片手に走り抜けていく。
前から迫るイクシスは、西部先輩が迎え撃ち、側面を未世と恵那が、後方を凪がそれぞれ担当し、司令部目指して走っていく。
「司令部、こちら八野辺、3年の西部。イクシスの包囲を受け、現状任務を放棄。司令部へ帰還します!」
『こちら司令部、豊崎。了解したわ。戦闘は最小限に抑えて、帰還を』
「はい!」
イクシスを撃ちながら、愛は無線で急ぎ連絡を入れた。
「……最小限にって」
「言われても……」
後方や側面からは、K9が波のように何度も押し寄せてくる。彼女たちは逃げたくても、イクシスがそれを許してくれない。
「なんでこの子たち、私たちを……」
「今はそんなこと考えている場合じゃないわ」
未世の疑問を、恵那の叫びがかき消す。
「あ!」
恵那のそばを走っていた鞠亜が、地面から突き出た岩に足を取られ、転倒しそうになる。恵那がとっさに左腕を伸ばし、受け止めた。
「す、すいません」
「お礼はあと、今は走って!」
直ぐにまた走り出す。だが、10kg以上もあるM82を持って走る鞠亜は辛そうで、息が上がってきている。
「豊崎さん!照安さんを!」
恵那は鞠亜に肩をかし、体を支える。
「白根さんは左、朝戸さんは右、風原さんは後方をおねがい!」
「「「はい!」」」
鞠亜と恵那を中央に置き、それを未世たちが囲むように隊列を組みなおし、彼女たちは司令部へ向けて歩を進めた。
「こんなこと……」
司令部で、豊崎和花は一人、困惑していた。
特定の地域に、ネストシードが集中的に発生。
事態の対処にあたった生徒がイクシスに包囲され、帰還中。
「イクシスが集団で敵を包囲するなんて……」
おそらく、敵はK9と推測される。狼や犬にルーツがあるのではないかと推測されるK9だが、知能が低い。
集団で獲物を包囲するなど、考えにくい。
『現在、イクシスの包囲を受けています。数は、40体以上』
『至急救援を要請します!全滅の可能性あり!救助をお願いします!』
ふと、脳裏をよぎった言葉に、和花は動悸が激しくなり、胸に手を当て、ゆっくりと呼吸を何度も繰り返した。
「……大丈夫。大丈夫よ」
和花は、大丈夫、そう何度も繰り返す。
「大丈夫よ……」
妹の恵那だけではない。
夢を追い続ける未世、その親友たちがいる班。
でも、いってもまだ経験の浅い1年生が多い。
特に、M82は足かせになるかもしれない。
西部愛だけで5人を帰還させることは難しい。
教え子たちが、死ぬかもしれない。
でも、和花には無事に帰ってくるという確信があった。
「だって、……あの子がいるもの」
そう言って、和花は気持ちを落ち着けた。
そして、無線を手に取った。
「現在、こちらに向かって班が1つ、イクシスの追撃を受けながら帰還中。万一に備え、待機要員と衛生班は、司令部の出入り口付近に待機」
『了解』
和花は部下に指示を飛ばすと、テントを出た。
「はあ、はあ……」
ひたすら走る未世たち。
彼女たちの走った後は、イクシスの遺体や、空の薬莢がいくつも転がる。
重い装備、迫る敵、消耗する体力。
彼女たちは、次第に息が上がってきた。
「し、司令部まで、あと、どれくらい、でしょうか?」
「もう少しよ!」
愛は、先ほどからもうこの言葉しか使っていない。
進路上に立ちはだかるK9を、排除するのに忙しいのだった。
未世は、所属している部活動は陸上部だが、短距離が種目なので、体力が特別あるほうではなかった。
空になった弾倉をダンプポーチに押し込み、次の弾倉をM4に叩き込む。
「ラスト!」
未世は最後の弾倉を装填し終え、K9に銃口を向ける。左側面から迫るK9を撃ち、近づけさせない。
「あ……」
未世は足を止めた。ボルトが、後退した状態で止まった。
「た、弾が!」
左側面から、K9が未世に迫る。
「伏せて!」
凪の指示で、未世は地面に伏せる。
彼女のM4が火をふき、迫る4体のK9のうち2体を撃ち抜いた。
だがなお、2体が迫る。
彼女のM4も、30発を撃ち尽くしたのか、凪の射撃がやんだ。
「も、もう、弾が……」
凪は、即座に腰からM9を抜き、K9に向かって発砲。
放たれた銃弾がK9の頭部を撃ち抜いた。
「立って!」
凪は未世の首根っこをつかむと立たせ、肩を貸して走り始めた。
時折、凪は拳銃で後方に発砲するも、未世を抱えたままでは難しい様子。
「白根さん!朝戸さんを!」
愛の指示で、凛は未世に肩を貸して一緒に走る。
凪は拳銃を腰のホルスターに押し込んで、M4の弾倉を交換。
再び後方への射撃を開始した。
それからまた走ることしばらく。愛もさすがに残弾を気にし始めていた。
「見えたわ!」
森の向こうに整備された土地に、そこに並ぶ緑色のテントが目に入った。
「もう少しよ!みんな頑張って!」
ゴールが見えたことで、全員にわずかに安堵が訪れる一方、愛は気を引き締める。
この瞬間こそ、もっとも奇襲を受けやすい。
後方で銃声が鳴り響くのを聞き、愛はM249で前から迫るK9を駆除していく。
ベルト給弾式で、弾薬をたっぷり用意してきても、もう残りが心もとなかった。
でも、分隊長は部下を全員連れ帰るのが仕事。
最後の道を、彼女たちは突き進んでいく。
まもなく、彼女たちは出発地点に戻り、地面に全員がへたり込んだ。
「ぜえ、はあ……。ぜえ」
未世たちは地面に膝をつき、粗い呼吸を繰り返す。
「み、みんな、無事?」
愛の問いかけに、だれも答える元気を残してなかった。彼女は、自分の目でメンバーを見回す。
すると、愛の目が見開かれた。
「どうしたんですか、先輩?」
恵那は顔をあげ、先輩の表情の変化に気づいた。
「……風原さんは?」
恵那も到着した、メンバーを見直した。
「……いない」
彼女は来た道を振り返った。
「まさか、途中ではぐれたんじゃ!」
直後、道の向こうで銃声が鳴り響いた。
「はあ、はあ……」
息を切らしながら彼女は走り、時折後ろを振り返っては、迫るイクシスを迎え撃っていた。
「未世たち、もうついたころかな……」
後方の迎撃にあたっていた凪は、次第に未世たちの進行についていけず、孤立状態に陥ってしまった。
残弾は、M4の弾倉が1つと20発前後。M9の弾倉が3本。
「急がないと……」
再び後方を振り返り、迫るK9に銃口を向けた、そのときだった。
「……え」
凪は、ドットサイトのスクリーン上に、信じられないものを見た。
そのせいで、彼女はわずかな時間、動きをとめた。
その隙を見逃さず、一匹のK9が地面をけり、彼女にむかって跳躍した。
「……しまっ!」
K9の爪がひらめき、凪の左上腕を切り裂いた。
「っぐ!」
彼女は地面にしりもちをつき、座り込んだ。
即座に体をひねって銃口をK9に向け、連射で銃弾を撃ち込み、K9をハチの巣にして駆除。
すぐに立ち上がり、M4を左右に振って弾倉を排出。
最後の弾倉に交換しようとしたとき、彼女は手を止めた。
「時間がない……」
彼女は、他のK9たちが迫っていることを悟ると、M4をスリングで後ろに回し、腰からM9拳銃を引き抜いて、向かってくるK9たちを駆除しつつ、司令部に向かって走る。
「見えました!」
恵那が指さす先、司令部の前の曲がり角から、凪が姿をあらわした。
右手に持ったM9を時折K9に向け発砲。
撃ち尽くしたら弾倉を捨ててホルスターに戻し、右手で弾倉を装填。
リアサイトをベルトに引っ掛けて薬室を閉鎖。
再び銃撃を始める。
「彼女、ケガしてます!」
止血する間もなく、彼女の左腕からは血が流れだしたままだった。
彼女には、6体のK9が追従している。
そのうちの1体がとびかかろうとする。彼女はそれを察し、頭部に3発撃ちこむ。残り5体が、一斉に地面をけった。
彼女はとっさに身をかがめて司令部とは反対の方向に転がり、K9たちをやり過ごす。
そして着地の瞬間を狙い、銃口の向きに気をつけながら、弾倉内部の銃弾をあるだけ撃ちこむ。
残り5体のうち、2体は倒れたが、3体が倒れない。弾を撃ち尽くし、M9のスライドが後退した状態で止まった。
「まずい!」
恵那は89式小銃を手に取り、バイポッドを展開。
地面に置き、普段は鞠亜がしているのと同じ伏せ射ちの姿勢をとった。
「風原さん!隠れて!」
無線に向かって恵那は叫んだ。それを聞いた彼女は、即座にそばにあった木に身を隠す。
そして恵那はK9を狙い、引きがねを引いた。
5.56mm弾は苦も無くK9を撃ち抜き、ここまで追撃をしてきた最後のK9たちも地面に倒れた。
それを確認した凪は、司令部への道をふらつきながら走り、ようやくたどり着いた。
「すいま、せん、恵那、さん」
「いいのよ、無事なら」
念のため、恵那は射撃姿勢のまま双眼鏡で、もう残敵がいないか確認する。すると、恵那の左肩を、鞠亜が軽くつついた。
「あの、恵那さん」
どこか頬が若干赤く染まっている鞠亜に、恵那は首をかしげる。
「何?」
「その、伏せ射ちするときは、気を付けた方が……」
すると、彼女の横で、なぜか微笑ましい笑みを浮かべる未世、笑いをかみ殺しているような凛の顔があった。
「……何よ」
「恵那ちゃん」
「迷彩模様の下は、白かった」
伏せ射ち、気を付けた方がいい、迷彩模様、白い。
その意味を察した恵那は、即座に伏せ射ちの姿勢を解いてスカートのすそを抑えた。
「あ、あ、あんたたち……」
若干涙目になりながら震える瞳で、恵那は未世と凛をねめつける。
「今更じゃないですか?」
「……短いスカートで、足開いて伏せ射ちすれば、当然」
淡々と事実を述べる凛の言葉に、恵那は顔が熱くなっていくのを感じる。
「……貴重なシーンだった。永久保存」
「~~~~~~2人とも!」
恵那は逃げ出す古流ペアを、吠えながら追いかけていった。