リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~ 作:魚鷹0822
生徒を問い詰める西部愛と伽鳥杏奈。
そして、彼女の武器の整備をした生徒たちの口から出た言葉に、
未世たちは言葉を失う。
「……で、これはどういうことだ?」
武器や道具が並ぶテントの中、古流の制服を来た武器管理委員会所属と思しき生徒たちが3人地面に正座し、それを見下ろす怒り顔の伽鳥先輩と、微笑む西部先輩。
そして、一歩離れた位置から様子を見つめる豊崎教官と未世たち、という状況が繰り広げられる。
「昨日、風原の銃の整備をしたのは誰だ?」
3人の中の1人が、おずおずと手を挙げた。
「そうか。でもな……、ガスチューブに接着剤を詰めろ、なんて整備を教えた覚えはないぞ!」
テント内なのに、伽鳥先輩の声がこだまする。正座させられている生徒たちも、肩をすくませる。
「あの~」
未世がおずおずと挙手する。
「なんだ?」
伽鳥先輩の鋭い視線に気圧され、未世はたじろぐ。
「その~、凪ちゃんの銃が作動不良を起こした理由は、結局なんだったんですか?」
伽鳥先輩は凪のM4をさしながら説明する。
「M4は、発射の際に生じたガスを、ガスチューブを通じて機関部に送り込んでボルトを後退させることで、薬莢の排莢や次弾の装填を行っているんだ」
未世もM4を使用しているため、その作動方式については知っていた。
「だが、風原のM4のガスチューブには接着剤が詰められていた。それによって、ボルトを後退させるためのガスがガスチューブを通れない。つまり……」
「あ、1発ずつ排莢して装填しないといけない」
「そういうことだ」
未世は、先の戦闘中に彼女が1発ごとにチャージングハンドルを引いていた姿を思い出す。
「演習中ならいいが、イクシスが何体も襲い掛かってくる中、銃が作動不良を起こしたらどうなるか、わかるよな?」
伽鳥先輩は正座している生徒たちをねめつけながら言う。
そのせいで、凪は結局拳銃に持ち替えて応戦する羽目になった。
「最悪、あいつが死んでいたかもしれないんだぞ?」
伽鳥先輩は一歩、また一歩と近づいていく。
「おまえたち、銃を預かって整備するということは、他人の命を預かるのと同じだって、教えたよな?」
「……いいじゃないですか」
ふと、正座を命じられた生徒の1人が声を絞り出した。
「彼女が、死んだって……」
その耳を疑うような言葉に、未世たちは呆気にとられ、伽鳥先輩と愛は眉間に皺を寄せる。
「そうですよ。いいじゃないですか……」
「……なにがだ」
伽鳥先輩のどすの聞いた声を聞き流し、1人が凪をねめつける。
「こいつが死んだって!」
テントの中に、信じられない言葉が響く。
「私たちは、あの2人の装備の整備を任されていました。それが、私たちの誇りでした。武器管理委員会に入って、よかったと思いました。なのに……」
「そうですよ!こいつがあの2人を見殺しにしたせいで!」
「私たちの誇りを奪ったんです!」
彼女たちの口から投げかけられる辛辣な言葉に未世たちは呆気にとられ、凪は1人表情を曇らせる。
「全部、全部あんたのせいよ!この人殺し!」
「責任とりなさいよ!」
「あなたが死ねばよかったのに!2人を返しなさい!」
そして、何かが切れる音がした直後、伽鳥先輩が1人の胸倉をつかんだ。
「ふざけるな!あいつが、あいつがどんな想いで!」
拳を握り締め、振り上げた。が、それが生徒に振り下ろされることはなかった。
「風原!離せ!」
伽鳥先輩が振り返った先には、彼女の腕を抑える凪の姿があった。
彼女は首を横に振り、静かに言う。
「伽鳥先輩、これ以上は、ダメです」
「だが、こいつらは……」
また彼女は、無言で首を振った。腕を抑える様子に彼女の意志を悟ったのか、伽鳥先輩はため息をはくと、拳を下ろし、生徒の胸倉から手を離した。
そして表情を引き締め、冷たい目で正座を命じられている生徒たちを見下ろす。
「おまえたちは、ただいまをもって、武器管理委員会を追放する」
「え!?」
「え、じゃない。人の命を守る武器の手入れを任されているのに、こんなことするお前たちをいさせると思うか?」
武器整備は、信頼関係で成り立っている。整備後の状態を確認はするが、基本は武器管理委員会が仕事をしっかりする、という前提で生徒たちは整備を任している。
そうでなければ、命を預ける相棒をいじらせないだろう。
ふと、テント内に物音がした。
「風原、どこ行く?」
凪が自分のM4をスリングで肩にかけ、テントの出口へ足を向けていた。
「豊崎教官、私たちの任務は?」
「……今日は解散。次は明後日の予定よ」
「……なら、撤収準備をさっさとして、家に帰ります。相棒を直さないといけませんし……」
すると、伽鳥先輩は彼女に近づき、右手を差し出す。
「貸せ、オレが明後日までにしておく」
武器好きがこうじて古流高校の武器管理委員会に所属し、知識や整備で他の追随を許さない伽鳥先輩。彼女からの申し出なら、だれもが喜んで受けるだろう。
だれもが、そう思っていた。
「……自分でやります」
未世たちは呆気にとられた。凪が、先輩の申し出を断ったのだから。
「自分の命を預ける相棒です。他人にいじらせたくない」
「武器管理委員会を、信用できねえのか?」
「……自分のことは、自分でやります」
「オレも信用できねえか?」
伽鳥先輩は凪と視線を合わせ、彼女の頭の中をのぞき込むように視線を合わせ、近づける。
彼女は先輩から視線をそらし、テントから出ていった。
彼女の背中を見送った杏奈は、右手を額に当て、大きなため息を吐き出した。
「……弱ったな」
頭を抱える先輩を横目に、未世は表情を曇らせる。
人殺し
責任をとれ
見殺し
聞きたくもない言葉が、いくつもでてきた。
―――なんで、こんなことになるんですか。
同じ学校の生徒なのに、イクシスという共通の敵がいるのに、それでも彼女は仲間を信じないらしい。
「どうすれば、いいんでしょう?」
自宅に戻った未世は、ベッドに寝転がりながら考える。
状況は悪い。古流の生徒の一部は、彼女に反感を抱き、危害を加え、凪も同じ学校の生徒でも疑心暗鬼になっている。
ふと、未世の脳裏をある言葉がよぎった。
「あの、2人……」
武器管理委員会を追放された生徒たちが口にしていた、あの2人、という言葉。それが頭に引っかかったようだ。
未世はスマホを手に取り、ある人物たちへ電話をかけた。
「あの2人?」
翌日、未世は放課後に武器管理委員会の伽鳥先輩のもとを訪れていた。
「はい……、あの2人って、誰だったのかなって」
そうやって問いかける未世を、杏奈はジト目をもって見つめる。
「な、なんですか?」
杏奈は黙ったまま、未世を見つめる。先輩の眼力に押され、未世は縮こまった。
「あ、あの、なんでしょうか?私なにか地雷踏んでしまいましたか?」
「……いや。人付き合いが広そうなお前が知らないのが、意外だって思っただけだ」
「そうですか?」
「……武器管理委員会の人間は知っている。普通の生徒だって知っている。あいつの夏の一件以降、知っている人間が増えたみたいだ」
あの夏の一件というのは、例の凪が和花先生に殴りかかろうとしたことだろう。
「あの……」
「なんだ?」
「伽鳥先輩は、どこまで知っているんですか?」
未世は、凪と愛の会話を聞いている。その結果、噂と事実が違うのではないか、という疑念を抱いている。
さきの件でも、杏奈は言った。
「ふざけるな!あいつが、あいつがどんな想いで!」
という口ぶりからして、彼女は何かを知っている可能性がある。ここで聞き出せれば、真実を知ることができるのではないか、と未世は考えていた。
「すまないが、口止めされているんでな」
「誰からですか?」
「……それもいえない。だから、おまえが気にしている2人の名前だけ教える」
それだけでも手掛かりをくれるだけ進展だと、未世は納得するしかなかった。
「……海野蒼衣、……深山志乃」
未世はメモ帳に2人の名前を書き留める。
「そいつらについて詳しい奴に心あたりがある。白根をつれて、5時にここに行ってみろ」
と、杏奈は住所の書かれたメモ紙を手渡した。
「誰ですか?それに、凛ちゃんも?」
「行けばわかる」
それで終わりだと、杏奈は強引に未世を武器管理員会から追い出した。
未世は戸惑いながらも、スマホで凛に連絡をとり、メモ紙に記された場所へ向かっていった。