リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~   作:魚鷹0822

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同志の悪い噂の根源に関係するかもしれない人物の情報を得るため、
未世は凛をつれある場所を訪れる。
そこで告げられたことは……。


第10話 生じた違和感を抱いて

「……それで、指定された場所は?」

「ここ、みたいですけど……」

 未世は紙に記された住所を見つめ、目の前の場所を見上げる。そこには「城宗統合学院女子高等学校」と名が刻まれた正門が見える。

 特殊戦科を有する指定防衛校の1つで、国から毎年莫大な資金援助を受けている名門校。近年、実弾の使用量が多すぎて問題になっているという。

 国からの援助が多い代わりに、生徒に課せられるハードルも高い。

 だが、その分施設や支給される装備が一流品ばかり。

 また、鍛え上げられた生徒たちは、他の指定防衛校の仮想敵も務めるほどにレベルが高い。

 凛が使っているP226やMk18mod0の発展系のmod1等を全生徒が標準装備としているのだから、厳しいが相応の対価は払っているのだろう。

「……にしても、なんでここに?」

 国からの援助だけでなく、所属する生徒は相当な実力者か有名企業や資産家の子息ということも多いらしく、正門から出てくる生徒たちの見た目も高い水準にあった。

 未世は場所を間違えたかと何度も思うが、杏奈から渡された紙を見る。

「指示がかいてあります」

 未世は、正門脇に守衛を見つけそこに向かっていく。

「いらっしゃい」

 すると、物腰柔らかそうな声に。2人は足を止める。

「朝戸さんと白根さんですよね。話は伽鳥さんからうかがっております」

 柔らかな口調に、それに見合った仕草。お嬢様のような人物に、2人は見覚えがあった。

「蓮星、文奈、先輩?」

「覚えてくれていたのですね」

 彼女は、夏期の合同演習の最期の対戦演習で戦ったチームの1人。未世たちが必死に考えた作戦を読み、待ち伏せを仕掛けるほどの策士。

 また、色んな生徒の情報に通じており、演習で組む生徒のことは前もって調べ上げ、どんなに仲の悪い生徒同士も仲良くさせるという調整の得意な先輩。

「あれ、でも蓮星先輩は、丹下の生徒ですよね?」

「……ここは城宗」

「相棒がいるから、いつでもフリーで入れますの」

 城宗は名門校であると同時に、元が女子校ということもあり、かなりガードが堅い学校としても知られている。

 文化祭の際には、一般の男性は入れず、親族の一部しか入ることを許されないほどである。逆に、女子であれば問題はないらしい。

「それで、私はあなたたちの疑問に答えること、そして、あなたたちを案内する役を仰せつかっていますの」

「案内?」

 疑問に思いつつも、未世と凛は手続きを済ませ、文奈に案内され校内に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 文奈に連れられ、歩くことしばらく。連れてこられたのは、中から銃声の響く建物。

「こちらですわ」

 厚い鉄扉を何枚もあけ、至ったのは見慣れた光景。

「……ここ」

「射撃場、ですよね?」

 2人が案内されたのは、地下の射撃場。透明のアクリル板で仕切られたブースが横に並んでいる風景は、各学校で見慣れたものになっている。

 指定防衛校が設立され、銃を持った学生が現れると、当然それを扱えるように訓練する環境が必要になる。

 だが元来銃規制に厳しい上に、住宅街が学校付近に多い日本で射撃場を作ることは容易な話ではない。

 無くした薬莢が持ち去られたり、住宅街に銃弾が飛んでいかないよう、一定の条件を満たす場所以外、射撃場は地下に作られるのが一般的になっている。

 国の援助を受けている城宗も例外ではなく、地下に作られている。

「ここで、待ってもらっている人がいますの」

 そういうと文奈は奥の銃声が響く方へ向かっていく。発射間隔が短い連射を聞くに、サブマシンガンの類だろう。

 奥には、城宗の制服を着た生徒が1人だけいて、射撃訓練を行っている。

 その人物は、MP7を構え、30m先のイクシスの描かれたペーパーターゲットを散々穴だらけにすると、太もものホルスターからP226を抜き、引きがねを引く。

 弾倉内の15発を打ち切ったところで射撃が終わり、彼女は銃を置いた。ペーパーターゲットに描かれた円の中心付近は銃弾が当たりすぎて紙がまとめて破れていた。

「いい腕ですわね」

「……まだまだ」

 その人物は顔にかけていたシューティンググラスを外し、結果をクリップボードに挟んだ用紙に記入していく。

「これで満足していたら、大事なものは守れない」

「誉め言葉は素直に受け取ってほしいですわね」

「これで十分なんてこと、ない」

 やれやれと肩を落とす文奈に、彼女は振り返った。

「君たちが連絡のあった訪問者?」

 その人物を見て、未世と凛は背筋を伸ばした。

「……椎名、六花」

「先輩……」

 関東圏最強と名高く、夏期共同演習で対戦した相手、椎名六花が、そこにいた。

 

 

 

 

「伽鳥先輩から急に連絡があったから、何かと思いましたわ」

「……はあ」

「そしたら、あなたたちを行かせるから質問に答えてやってほしいって頼まれましたの」

「そうだったん、ですか……」

 六花を交え、彼女たちは校内の一角にある休憩所に案内された。

 目の前には、氷の入った紅茶が置かれている。

 話を進める文奈に向かい合う形で未世と凛は座り、文奈の右隣りに六花は座る。

 もっとも、六花は先ほどから青空を流れる雲をぼーっとうつろな瞳で見つめ続けている。

「それで、何を聞きたいのですか?」

 未世は六花から文奈へ視線を変え、疑問を口にした。

「えっと、海野蒼衣、深山志乃って名前に、聞き覚えはありませんか?」

 すると、文奈の視線が気持ち細くなり、六花も空から未世たちへ視線を戻す。

「なんで、その名前を聞きたいのかしら?」

 未世は、先日の一件をかいつまんで説明した。

「なるほど。彼女たちの武器整備を任されていることが誇りだった生徒たちがいた」

「で、その彼女たちが、君の理解者にひどいことを言った。だから、どんな人々だったのか知りたい、と?」

「……はい。それで、もしかしたら彼女についてひどいうわさが流れている原因に、たどり着けるかもしれなくて……」

 味方を見捨てる、見殺しにする。その噂の火元や原因は何なのか。

「風原凪さん、でしたか?彼女についての噂は、私も聞き及んでいます」

 未世は表情を曇らせる。古流高校内だけでなく、近隣の他校にまで、その噂は広まってしまっている。

「仲間を見捨てる冷血女、臆病者。おまけに、豊崎教官に殴り掛かろうとした命知らず、と」

「……はい」

「それで、あなた方はその2人について、どこまで知っていますの?」

「私は、まったく……」

「……私は、少し」

 未世は思わず顔をあげ、隣に座る凛を見る。

「教えてくださりませんか?」

 文奈は凛に先を促す。

「海野蒼衣。元古流高校特殊戦科、2年生。学年主席。深山志乃も特殊戦科。彼女は狙撃手で、学年次席」

「凛ちゃん、知っていたのですか?」

「……少し」

「なんで教えてくれなかったんですか?」

「……聞かれなかったから」

 不満げに頬を膨らませる未世を無視しつつ、凛は続ける。

「あと、凪と一緒に訓練や任務に出ていた、と」

「そうですわね。風原さんと任務によく出て、彼女の指導もよく行っていたみたいですね」

 彼女は未世たちから視線を校舎へ向ける。

「海野さんと深山さんは、よく施設を借りにここを訪れていましたの」

「城宗に、ですか?」

 文奈の視線は、校舎や施設を見ているようで、どこか遠くを、そこにはない虚構を見ているような様子だった。

「懐かしいですわ。ここに来て、よく私と六花さんとお相手をしましたもの」

 指定防衛校は、学校ごとに特色がある。特殊戦科を有しながらも通常の学校らしさを残す古流、マンモス校の八野辺、自衛隊直轄の朝霧、狙撃の零葉等。

 その特色は施設にも反映されていて、多くの学校が地下に射撃場を作っているのに対し、零葉は広大な射撃場を確保している。

 それを使いに、他校に行くことは、決して珍しくはない。

「たった数か月前の事なのに、遠い過去のように思えてしまいますの」

「……私は忘れられない」

 先ほどまで虚構を見つめていた六花が反応を示したことで、未世たちの視線が一斉に向けられる。

「まだ根に持っているのですか?」

 六花の表情が次第に険しくなっていく。

「当たり前。私と引き分けておいて、そのまま勝ち逃げなんて……」

「あの~、引き分けは勝ち逃げとは言わないのでは……」

 六花に鋭い視線を向けられ、未世は押し黙った。

「あれは引き分けじゃない。私が押されていた。白黒つかなかったのが、一番気分が悪い」

「まあ、援護の私も無力化してしまうほどですものね」

 未世は、関東圏最強と名高い六花先輩と夏期合同演習で対戦し、その実力の一端を知った。

 その六花がこれほど屈辱をいまだに抱いているあたり、海野先輩と深山先輩は、相当な実力者だったということは想像に難くない。

「……それで、その2人は、その後どうなったんですか?」

 すると、文奈が表情を曇らせ、少しうつむいた。

 彼女は紙コップを持ち上げ、紅茶を口に含む。そして、しばし目をつむり、無言になった。

 

 

「ある山岳演習中に、事故で死亡、ということになっていますわ」

 

 

「……え?」

 告げられた内容に、未世は衝撃を受けた。

「原因は、負傷後の応急措置の不適と搬送の遅れ。同伴していた生徒の応急措置が適切でなかった上、救援を要請するのが遅れたために、助からなかったとありましたわ」

「あの、その生徒って……」

 未世は胸の中に、嫌な可能性が浮かぶ。

 文奈は未世を見つめ、真剣な表情で言い放った。

「風原凪さん、だそうです」

 未世は頭を金づちでたたかれたような衝撃を受ける。

「残念ですわね。あれほどの逸材をそんな理由で失うなんて……。実力は勿論、後輩に慕われ、先輩や教官たちから期待され、将来を嘱望されていたのに……」

 そんな先輩たちを見殺しにしたから、凪は色んな噂が流れているのだろうか。

 

「……ありえません」

 

 未世の口からこぼれた言葉に、文奈や六花は目を丸くする。

「そんなこと……。彼女が先輩たちを見殺しにするなんて、ありえません!」

「でも、文奈が調べた資料にはそのように記載があった」

「ありえませんよ!」

「文奈が間違っているっていうの?」

 六花の殺意が含まれた視線に、未世はたじろぐ。

 文奈は下調べや調整の名手。彼女が間違っているとは考えづらい。

「……でも、凪ちゃんは違うって」

「それでは、実際はどうだったのですの?」

 文奈が先を促し、六花は話せと視線で圧力を加えてくる。

 

―――私は救援を要請するため、衛星電話をもって、先輩たちに援護されながら崖に上った。でも、それを最後に、先輩たちと離れ離れになって……。結果、私だけが1人、イクシスの勢力圏内から、徒歩で帰ってきた。

 

 

 凪の言葉を信じるなら、山岳演習などではない。イクシスの駆除任務の最中に、2人は亡くなったことになる。

 でも、それが真相なら、なぜ彼女は本当のことを言わないのか。それとも、凪が嘘を言っているのか。

 

「どうかしたの?」

 

 いつの間にか、六花が身を乗り出し、目をカッと見開いて、未世の瞳から頭の中を覗き込もうとしている。

「実際はどうだったの?まさか、文奈の間違いを指摘しておいて、何も根拠がないなんて言わないよね」

 六花の迫力に押され、未世は凪が言っていた話を打ち明けることにした。

 

 

 

「なるほど」

 六花は未世をジト目で見つめる一方、文奈は両腕を組んで何か考えている。こんな状況でも、相方の凛は3人の成り行きを黙って見つめている。

「でも風原さんの言い分が正しいとするなれば、これは大きな問題ですわね」

「どういうことですか?」

 首をかしげる未世に、文奈は順番に説明していく。

「まず、わたくしが見た報告書には、2人が亡くなったのは山岳演習中の事故となっていましたわ。一方、風原さんは、イクシスの駆除任務の最中だったと」

 確かに、演習中の事故と任務中では意味合いが異なってくる。

「報告書では、風原さんの救援要請の遅れが原因とされていますが、彼女は先輩の命令で救援を要請している。これは明らかにおかしいですね」

「どちらかが、嘘をついている」

 報告書と、当事者の証言で食い違っているということは、それ以外考えにくい。

 当時指揮をとった教官側、任務にあたった生徒側。

 どちらかが嘘をついている可能性がある。

 ただ、生徒側が嘘をついたところで、教官側の権力にかき消されてしまうため、虚偽のことをでっち上げられるのは、教官側しかないが。

「……でも、なんのために?」

 凛がすぐに疑問を口にした。

 もし、凪のいうことが正解なら、報告書を偽装した上に、派遣した生徒たちを救出に向かわなかった、当時指揮を執った、おそらく教官たちの責任問題となる。

 そうならないために、報告書を偽装し、凪に全責任を押し付けたのかもしれない、と推測できなくはないが、それなら凪が抗議の声をあげず、今も真相を話さないのはなぜか。

 あるいは、話せないのか。

「何にしても、もう少し調べる必要が、ありそうですわね」

 未世はふと、胸の中がもやもやした。

 

 真相を語らない同志

 

 指揮をとれるのは教官たち

 

 豊崎教官に殴り掛かろうとした凪

 

 仲がこじれている和花先生と凪

 

 

 

 未世は内心、いやな予感がした。

 

 

 

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