リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~   作:魚鷹0822

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状況を打開するため、イクシスたちの防衛線に向かって一斉攻撃が行われる。
その最中、未世たちは防衛線の上空を通り目的地へたどり着く。
イクシスが多数うろつく中、彼女は因縁のイクシスの姿を見る。



第13話 過去の因縁と敵の指揮官

 朝日がまぶしい明け方。静寂が満ちる拠点のいたるところで、指定防衛校の生徒たちは戦闘準備を行っている。

 各々が必要な弾倉を身に着け、装備の点検を行う。

 これから実施される作戦に向けて、昨夜和花は生徒たちに作戦説明を行った。

 

 今のイクシスたちの動きを解析した結果、彼らの背後には彼らを統率する個体がいるのではないか、という結論に達した。

 その個体が潜んでいると思われる、この山の中央、鉱山跡の建物がある箇所の調査を実施する。

 それにあたって、今いる戦力で山を囲うように配置し、防衛線を構築しているイクシスたちへ同時に攻撃をしかけ、注意を引いている隙にヘリで上空から進入を試みる、という内容であった。

 

「……これで、事態が収束へ向かえばいいんだけど」

 確固たる証拠はない。これは半ば、1人の生徒の妄想という可能性もある。

 だが、今の行動を続けていても変化はない。

 なら、賭けるしかない。和花は、そう思っていた。

「失礼します」

 テントをあけ、1人の生徒が入ってくる。

「風原さん?なんの用かしら?」

 今ほとんどの生徒は、出撃準備にかかりっきりだった。

「……お願いがあってきました」

「何かしら?」

 すると彼女は、白い紙の封筒を和花に差し出した。

「私が重症を負って目覚めないか、死亡した場合、この封筒をある人物へ渡してほしいんです」

 和花は眉をひそめた。

 軍に準ずる組織である以上、万一はあり得る。

 このような遺言を残していくことは、軍では珍しくない。

 だが、ここは日本で、彼女たちは指定防衛校の生徒。

 そこまで必要と感じる生徒は少ない。

「……任務は、中央の建物の調査よ。そこまで危険なことは……」

「万一の用心です」

 彼女はため息をはき、封筒を受け取った。

「誰に渡せばいいの?川瀬さん?朝戸さん?ご両親?」

「その封筒の中に書いてあります。そうなったとき、中身の指示に従ってください」

「……わかったわ」

 和花は封筒を自身の荷物の中に入れた。

「それと、もう1つ……」

 すると彼女は背筋を伸ばし、かかとを鳴らし、手を敬礼の位置に固定した。

 

 

「今日まで、お世話になりました。あとは、お願いします!」

 

 

 それは、戦地に赴く兵士の、別れの言葉のようであった。

 思いもしない言葉に和花が呆気に取られている間に、凪はテントを出ていった。

「……そうだったわね」

 和花は、彼女がこの任務が終わったら自主退学するという、先日の出来事を思い出した。

 これで事態を収束させるつもりで挑むから、先ほどのような言葉を言ったのだろう。

 彼女はそう解釈した。

「私も準備を急がないと」

 彼女は、出撃前の準備に戻る。

 だが、のちに和花はこう回想している。

 

 このとき、凪を無理にでも引き留めて、言葉の真意を問いただしていれば、あんなことにならなかったのではないか、と。

 

 

 

 

 森の一角で銃声がけたたましくなった。

「……始まったみたいね」

 分隊長の愛が、静かに言った。

 作戦開始ののろしが、今上がる。

 ほとんどの生徒が出払った拠点は静かで、2つの班しか残っていない。

 その班は、西部愛を分隊長におく未世たちの分隊。

 そして、もう1つは……。

「おっぱじまったか。早くあたいも加わりたいぜ!」

「あら、海兵かぶれさんは、ずいぶん血気盛んなのね?」

「んだと!」

 作戦前に血が騒いでいる芙蓉まりこに、微笑む愛は皮肉を言う。

「まりこ、作戦前だ。緊張するのはわかるが、程々にしておけ」

「……悪い」

 見かねた杏奈が諫める。

「仕方ありませんもの。それが、海兵というものでして、よ」

 そんな様子を見て微笑む蓮星文奈。

「~ぼ~」

 雲が流れる空を見つめる椎名六花。

「鞠亜、がんばろうね」

「私たちがついている」

 弟子を励ます、沢城姉妹。今回は、姉妹ともに参加らしい。

 もう1つの班というのが、夏期演習で未世たちが対決した班に、沢城晶子さんを加えた班だった。

「みんな、もう到着するわよ」

 和花の声から間もなく、彼らの上方からけたたましい音と、草木を揺らすすさまじい風が吹いた。

 制服のスカートがめくれ上がらないよう必死に抑える者もいれば、ぼ~っとしているもの、気に留めない者もいる。

 そんな彼女たちを横目に、2機の迷彩模様のヘリコプターが降り立った。

 UHー1 イロコイ。

 陸上自衛隊の装備の1つで、人員輸送、災害救助などに用いられるヘリコプターの1つ。

 彼女たちは、これでイクシスたちの防衛線の上空を抜け、目的地まで移動することになっている。

「全員、早く乗って。すぐ出発するわよ」

 和花先生に促され、それぞれ分かれて2機のヘリに乗り込む。そして、目的地へと、彼女たちは飛び立っていった。

 

 

 ヘリの中はローターやエンジンの騒音でやかましく、全員が無線のイヤーマフをしっかりつけている。

『いいかしら。着陸地点に降りたら、ヘリから素早く下りて目的地へ進む。そして調査を行います。もしイクシスが多数いて手に負えないようだったら、上空待機しているUHに戻って撤収します』

 今回の目的は、あくまで調査である。和花はそう言っている。

「間もなく着陸地点」

 ヘリは高度を下げていく。

 そして地面に降りると、開けっ放しにしてしたドアから未世たちが走り下りた。

 それを確認すると、2機のUHは上空へと再び舞い上がっていった。

「時間をかけるのは危険。行きましょう!」

 彼女たちは隊列を組み、目的地へ向かって、森の中を進んでいく。

 

 

 

 目的地が、目の前に迫った。

 そこは、放棄された工場らしき建物が見えるが、古びた屋根や崩れた壁がときの流れを感じさせる。

 その周囲を、K9たちがうろついている。

「どうやら、ここには何かがいるようだね」

「姉さんの勘でしょ?」

「うん、そうだよ」

 狙撃手の鞠亜、桐子、晶子の3人はそれぞれ目的地を囲うような配置につき、スコープで周辺を観察する。

「これだけイクシスがうろついているんです。きっとここには、何か大事なものがあるはずです」

「……その何かを、守るために、これだけの数を?」

 自身で言って、未世は違和感を抱いた。これまで遭遇してきたイクシスは、いずれも目を合わせれば攻撃してくる単調な行動パターンしかなかった。

 そのイクシスが、対象を守るという行動にでている。

 何のために?誰の命令で?

 そのとき、教科書で教わった単語が、脳に浮かぶ。

「じゃあ、施設を調べるために、まずは周囲のK9を駆除しないとな」

「照安さんたちは射撃準備を。芙蓉さん」

「了解だ、先輩」

 愛とまりこの2人は機関銃のバイポッドを展開。地面に伏せ、射撃準備を行う。

「みんなは左右に展開、待機」

 未世や恵那たちは2人を挟むように左右に分かれる。

「用意……」

 2人が引き金に指をかける。

「撃て!」

 2人の機関銃が咆哮を上げる。

 次々打ち出される5.56mm弾の嵐が吹き荒れ、K9たちを次々ハチの巣にしていく。

 だが、その中からでも抜け出た個体がいる。

 その個体は迂回して、愛たちの側面に回り込もうとする。

 瞬間、頭部に巨大な穴が穿たれ、地面に転がった。

『一匹仕留めた!』

『姉さん、次』

 機関銃でK9を駆除しつつ、撃ち漏らしは鞠亜たち、または未世たちがしとめ、数を減らしていく。

 ふと、大きな咆哮が上がった。

『ちょっと気を付けてね~、厄介なのが出てきたよ~』

「厄介なの?」

 銃弾が向かう射線上に、ある動物を模倣したような巨体、鋭い爪や肩にある大きな砲塔が見える。

「……熊」

 愛とまりこの機銃弾がヴォイテクに降り注ぐが、いずれも堅い皮膚や装甲にはじかれてしまっている。

「私がやります!」

 鞠亜の声が無線から聞こえた。

 彼女の対物ライフルの放つ12.7mm弾なら、ヴォイテクさえ貫通できることはわかっている。

 そのとき、凪の視界にあるものが写り込んだ。

 ヴォイテクの向こうにある、放棄された建物の入り口。

 そこに見えたのは、ウサギのような耳と、白い肌。全身から伸びるアンテナのようなもの。

 それを見た瞬間、彼女は思わず笑みを浮かべる。

「……未世」

 未世が、凪をみやった。

 そして彼女は、微笑みながら静かに言った。

 

「元気でね」

 

 その言葉の意味を、未世は問うことができなかった。

 凪が目にも止まらぬ早さで駆け出し、目の前のヴォイテクに迂回しながら向かっていく。

「な、凪ちゃん!何飛び出して!」

「風原さん!危険よ戻って!」

 未世や分隊長の愛の制止を振り切り、彼女はヴォイテクに突っ込んでいく。

 気づいたヴォイテクが、砲口を彼女に向けようとする、が、その前に彼女は前転の要領で足元に潜り込み、くぐり抜けた。

 そして、その際に仕掛けた手榴弾が爆発した。

 足に多数の破片が突き刺さったヴォイテクは、自身の身につけた装甲や武器の重さに耐えかね、その場に倒れこんだ。

 凪はその様子を振り返ることなく、目的の建物に駆け込んだ。

 

 

 

 勢いを殺さずに駆け込み、凪は壁に体をぶつけて速度を殺した。

 そして、M4を構えながら、薄暗い道を速足で進んでいく。

 暗い中を道なりに進んでいくと、明滅する電灯が、敵の姿を照らし出した。

「見つけた……」

 その姿を見て、彼女は微笑み、腹のそこから湧き上がってくるものを感じていた。

 特徴的なうさぎの耳のような装備、全身の至る所から出ているアンテナ、ショーシャ機関銃のような半円状の弾倉。

 

「見つけた、キュレーヴ!」

 

 人型イクシス、キュレーヴ。

 現れた当時、統率をとった行動であわや防衛戦を崩壊させようとした敵の指揮官。

 最前線でしか目撃されていないイクシスを、なぜ彼女は知っているのか。

 あの任務のとき、森に逃げ込んだイクシスの討伐任務で先輩たちと赴いたとき、彼女は遭遇していたのだ。

 自分を追い詰めただけでなく、おそらく先輩たち2人を殺した敵の指揮官。

 今回の任務の最中、拠点に走って逃げる中、彼女はこのキュレーヴを視界の端に見たのだ。

 当初は幻だと思った。

 しかし、幻ではなかった。

 銃につけたカメラに確かに映っていたし、何より彼女がかつて仕留め損ねた個体であることがわかる外見的特徴が、この個体にはあった。

 

「あんたを、あんたを仕留めるためにわたしは!」

 

 彼女の目の前の個体は、左頬に刃物で切られたような切り傷の跡が残っていた。

 それは、あの任務のとき、彼女が取り逃がした個体であることを示している。

 

「今度は、絶対逃がさない!」

 

 キュレーヴが凪を見つめる。

 その2つの赤い瞳で見つめる相手に向かって、彼女は引き金を引いた。

 だが、キュレーヴの背後から、命令を受けたのだろうK9が壁になり、銃弾を防いでいる。

 数は5、6、10体以上いる。時間はかけてられない。

 凪は、レーザーディバイスのリモートスイッチをおした。

 レーザーモジュールから照射された赤い光線がK9に当たった瞬間、彼女は引き金を引き、K9を撃ち殺していく。

 淡々と作業のようにこなしていく中、彼女はふと目を見開いた。

 

 向かってきたK9の一体に、白いリボンが巻かれていた。

 

 それは、あの日追い詰められた自分を助けてくれた個体。

 別れ際に、凪が自分のしていたリボンを巻いたのを思い出す。

 その瞬間、彼女の脳裏にあの日の光景がよぎった。

 

 折角再会できたのに、かつて仲がよかったK9ハルを殺してしまったときのことを。

 

 同じ過ちは繰り返さない。でももし違っていたら?

 彼女は咄嗟に、その個体に向けた銃口をずらし、他の個体を銃撃。

 そして、体をひねって爪の攻撃を回避。

 地面に着地したのを見ると、その個体に背中から覆いかぶさるようにして抑え、他の個体を順に撃ち抜いていく。

 片付けると、彼女は立ち上がり弾倉を交換。

 その個体に少し振り返ると、再びキュレーヴの追跡を開始する。

 

 

 薄暗い通路の向こうに、明かりがのぞく。

 曲がり角を曲がると、走って行くキュレーヴの後ろ姿が見える。

 即座にM4を構え、サイトの中心の赤いドットをキュレーヴに合わせる。

 引き金を引こうとした、瞬間だった。

 キュレーヴのいる通路の左右の端に置かれた木箱の影から、黒い影が現れた。

 形は人型だが、全身に走る赤く発光する溝がイクシスであることを物語っている。

 彼女は迷うことなく、銃口を向ける。

 そして狙いを定め、引き金を引こうとした。

 だが、指が岩のように固く動かせない。

 イクシス相手に銃口を向け、引き金をひき、銃弾を彼らに叩き込む。

 これまで幾度となく繰り返してきた行動のはずだ。

 にもかかわらず、どうして引き金が引けないのか。

 

 人間は、生物は、同族を傷つけることに最も抵抗を示すようにできている。

 

 それは、種の保存のために、長い時の中で、進化の過程で遺伝子に刻まれたプログラムだ。

 それほどに強いものを破ることは、容易ではない。

 動けない凪をよそに、その人型のイクシスは手に持っているものを構えた。

「……あれは」

 明らかに銃の類だ。

 キュレーヴが銃らしきものを持っているし、人型だから今更驚くことでもないが、それでも人型で、こちらを模倣したような銃を使ってくるというのは、衝撃を隠せない。

 ドットサイトの視界の中、相手の手にしている銃の銃口が彼女に向けられた。

 閃光が走ったと思った瞬間、彼女は左上腕に鋭い痛みを感じ、顔をしかめた。

 危機を悟った彼女は咄嗟に引き金を引き、人型に銃弾を叩き込んだ。

 人型の頭、首、胴体と、いつもに比べ動揺したのか離れた場所に命中。

 1体が地面に倒れこんだ。

 視界の端に、もう一体がこちらに銃口を向けようとしているのが見える。

 彼女は即座に発砲。もう一体も頭と胴体を撃ち抜かれ、地面に倒れる。

 そして、キュレーヴが隠れている場所へと、彼女は慎重に近づく。

 そのとき、岩の影から何かが出てきた。

 黒いが赤く発光する窪みがイクシスであると教えている。

 彼女は狙いを定める。

 すると、その人型は銃を向けることなく、走って迫ってきた。

 彼女はセレクターを切り替え、弾丸を連続して胴体に撃ち込み、沈黙させる。

 それによって活動を停止した。

 

 直後、倒れ込む人型の背後から現れたのは、銃を構えたキュレーヴだった。

 

 彼女はようやく標的に銃口が向けられたことに対する興奮を押さえながら、引き金を引いた。

 だが、銃弾が発射されない。

 M4を僅かに左に傾けてボルトの部分を見ると、ボルトが後退した状態で止まっている。

人型に出会った緊張や、標的を追い続けてきた興奮のせいで、残弾管理を忘れていたのだ。

 右腕、右足に痛みが走った。

 キュレーヴの放った銃弾が、彼女をかすめる。

 ついで、金属同士がぶつかる高い金属音の直後、M4が弾き飛ばされ手から離れる。

 彼女は即座に腰からM9を引き抜き、安全装置を親指で跳ね上げる。

 照準を合わせ、彼女は発砲する。

 放った銃弾はキュレーヴの腕や脚に命中するが、それでも相手はひるまない。

 再び銃弾が放たれる。

 放たれた銃弾は、彼女の両腕や両足、わき腹をかすめ、命中。

 彼女は痛みで両足がおぼつかなくなり、後ろの岩壁にもたれながら地面に腰を落とした。

 体に痛みが走る中、顔を上げて重いまぶたを押し上げる。

 キュレーヴが銃口を下げ、背後のネストへ向かおうとしている。

 彼女は痛みをこらえつつ、必死に右手を上げる。

 

「……逃がさない」

 

 あいつは、かつて彼女がしとめ損ねた。

 仕留め損ねたから、今回のような事態が起こった。

 これ以上、あいつを野放しにしておけない。

 何より、先輩たちを殺したのは、あいつで間違いない。

 だからこそ、ここでしとめる。

 過去の清算のために。先輩たちの仇として。

 彼女はM9をキュレーヴに向け、引き金を引いた。

 スライドが後退するたびに薬莢が宙を舞う。

 彼女は弾がなくなるまで、引き金を引いた。

 そして、キュレーヴはネストの向こうに消えた。

 倒せただろうか。ネストの向こうで倒れているだろうか。

 それも、彼女に知るすべはない。

 彼女はいつもの癖で、マガジンキャッチを押して弾倉を落とす。

 でも、痛みで左腕が動かせず。右手を地面に投げ出した。

 ふと気配を感じたので首を回すと、そこには彼女があげた白いリボンを巻いたイクシスK9がいて、彼女の様子を見ている。

 彼女は右手でK9の頭を撫でる。

「……ごめんね、痛かったよね」

 彼女はこの建物に入って間もなくこの個体にしたことを詫びると、次第に眠気に襲われ、まぶたを閉じて意識を手放した。

 

 その様子を見ていたK9は、鼻先で凪をつつくも反応がない。

 K9は彼女が落としたM9を咥えると、一目散に走りだした。

 

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