リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~   作:魚鷹0822

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彼女が一人飛び込んでいった先を調べようとする未世たち。
そんな中、一体のK9が一丁の銃を咥えてやってきた。
その個体は、彼女が以前助けた個体だった。
意見が割れる中、杏奈は未世たちを連れてK9を追って
彼女の元へ急ぐ。


第14話 彼女の残した可能性

 

「凪ちゃ~ん!」

 

 イクシス掃討が終わった未世たちは、凪の入っていった建屋入口から彼女を呼ぶ。

「返事、ありませんね」

「……結構奥までいったのかもしれない」

 入口から続く通路には、どこまでも闇が続いている。

「西部先輩、追いかけましょう!」

「待って、朝戸さん」

 焦る未世を、愛は制する。

「この先がどうなっているか、地図も何もないの。焦るのはわかるけど、慎重に」

 愛に諭されるも、未世には凪の別れ際の言葉が頭に引っかかって離れない。

 

―――元気でね。

 

 それは、今生の別れのように聞こえた。

「先輩よ、慎重に行くのはわかるが、仲間が待っているかもしれねえんだぞ。ここでいかねえでどうする?」

「勢いで行こうとする海兵さんには、慎重さの欠片もないみたいね」

「なんだと!」

「静かに!」

 見かねた杏奈が声を張り上げた。

「とにかく、どんな理由であれ、あいつを見捨てられはしない。ここから先は狭いから、それにあった装備のやつ数人でいくのがいいと思うが、どうだ西部」

「伽鳥さんの言う通りね」

「……それに、あいつが何でここに飛び込んでいったのか、問い詰めなきゃならねえからな」

 思えば、凪はなぜここに飛び込んでいったのか。

 それは、分隊全員が疑問に思っていたことだ。

 彼女たちがここに来たのは、ここに何か重要な施設があるかもしれなから調査をするよう依頼されたためだ。

 だが、もし凪は何か別の意図で動いていたのだとしたら。

「そうね。……分隊長の私に隠し事して勝手な行動して。見つけたら覚悟しておきなさい」

 ほの暗い笑みを浮かべる愛に、未世たちはおののいた。

「……静かに」

 ふと、それまでぼ~っとしていた六花が表情を引き締めた。

 耳を澄ますと、何かの足音と息遣いが耳に入る。

 それは、徐々に大きくなってくる。こちらに近づいてきている。

 通路の奥に視線を向ければ、見慣れた赤い線を体表にもつ物体が、聞きなれた足音で迫っていた。

 その姿を見た六花は、MP7を構えた。

「K9……」

 彼女は、いつもの要領でドットサイトの光点をそのK9に合わせる。

 そして、引き金に指をかけた。

 瞬間、未世はそのK9に白い布が巻かれているのを見た。

「待ってください!」

 ドットサイトの視界に、突如未世が割って入った。

「どいて!」

 六花は銃を構えたまま、未世にどくよう指示する。

「できません!」

 六花は銃を下げると、未世の胸倉をつかんだ。

「何を考えている!イクシスは、殺して当然!なのにあなたは!」

「これは、他の個体と違うんです!」

「何が!」

「これは、凪ちゃんが助けた個体で」

「……助けた?」

 六花の表情が驚きに変わる。彼女だけではない。愛や恵那たちさえも。

「イクシスを、助けたって……」

「どういう……」

 驚きの表情で未世を見つめる中、彼女はしまったと内心思う。

 凪がK9を見送った件は、未世と凛しかしらない。

 彼女は視線を逸らすと、足元には白いリボンを巻いたK9が、尻尾を振って待っている。

「……どういうこと」

 六花は目を見開き、そのK9を見下ろしている。

「……何か咥えている」

 凛に指摘され、未世はK9を見る。

 K9の口には、拳銃が1丁くわえられている。

 それを受け取り、未世は見た。

 スライド上部がえぐられ、銃身が見える特徴的なデザインの銃、M9。

 フレームには後付けでアンダーレイルがつけられ、暗い場所でも大丈夫なようライトが取り付けられている。

 何より、その銃は赤い血に濡れている中、銃身が鈍い銀色に輝いていた。

「……凪ちゃんの銃です」

「血がついている。……まさか、あいつケガしているのか!?」

「これをどこで?」

 すると、K9は未世の疑問に応えるように、駆け出し、曲がり角で足を止めると振り返って尻尾を振りながら待っている。

「ついてこいって、意味でしょうか?」

「……行ってみるしかない」

「待って」

 六花が未世の前に立ち、走りだそうとした彼女を止めた。

「椎名先輩、どいてください!」

「落ち着いて。イクシスは敵。あなたは、敵のいうことをすんなり信じるの?」

「でも、あの個体は!」

「2人ともやめろ」

 杏奈が言い合いに発展しそうな気配を止めた。

「確かに信じるのは危険かもしれないが、だからと言ってあいつを放って置くのは危ない。その銃が血まみれということは、結構重症かもしれないしな」

「……でも」

「だから、西部、朝戸、白根に豊崎はきてくれるか。蓮星、悪いがここを頼む。20分待っても帰ってこなかったら、和花先生に連絡を」

「わかりましたわ」

 杏奈はAKを構えなおし、K9の方向を向く。

「よし、いくぞ」

「待って」

 またも引き留める六花に、杏奈は表情を険しくする。

「……私も行く」

 その答えに皆は驚くが、時間が惜しいと感じた杏奈は頷き、K9を追った。

 

 

 

 杏奈を先頭にK9を追っていくと、未世はその道中には何体ものイクシスの死体があるのを見た。

 この先に進んだのは凪1人だから、彼女が単独で築いたものだろう。

 焦る気持ちを抑えながら、周囲を警戒しながら進んでいく。

 すると、K9が足をとめ地面に腰を下ろした。

 その方向を見て、彼女は言葉をなくした。

「凪ちゃん!」

 そこには、壁にぐったりともたれかかり、血を流している凪の姿があった。

 未世は彼女に近づき、体を揺さぶった。

「朝戸さん!落ち着いて!」

 愛が、未世を彼女から離した。

「あたいらで応急処置を行うから、朝戸たちは周辺を警戒しろ!西部、手伝え!」

 杏奈と愛はエイドキットを取り出し、凪の応急処置を始める。

 未世たちは銃を構えながらも、凪が気になってか集中できない。

「……朝戸さん」

 ふと、愛がK9を指さした。

「あの子をどうするかは、あなたに任せるわ」

 K9は、心配そうに声を漏らし、凪の様子を伺っている。

 未世はK9に近づき、膝をついていった。

「……あなたは、あなたの世界に帰って」

 K9はゆっくりと開いているネストへと向かう。時折こちらの様子を気にしながらも、ネストの向こう側へと消えていき、そしてネストも消失した。

「……敵を逃がすなんて、何を考えているの」

 静かながらも、怒りを含んだ六花の声が背中越しに耳に入る。

「わかっています。でも……」

「……でも」

 

「でも、凪ちゃんなら、きっとこうしたはずですから」

 

「……後悔することに、ならなければいいね」

 六花が吐き捨てるように言った。

「よし、応急処置完了。急いで出るぞ!」

 杏奈が凪を抱え上げ、愛は彼女の装備をもつ。

 そして急いでその場から脱出し、凪は近くの病院に運ばれた。

 幸いにして傷は浅かったが、彼女は目を覚まさなかった。

 

 この日以降、イクシスの活動は止み、集められた指定防衛校の生徒たちは一部を除き、撤収したのだった。

 

 

 

 

 

「朝戸さん、風原さんの様子は?」

「まだ目が覚めないそうです。傷は大したことないらしいんですが、出血が多くて」

「そう……」

 山の中を、凛を先頭に未世たちは歩く。

 その場所は、先日彼女たちが調査に入った場所で、6日たった今でもイクシスの遺体が残っている。

 事態は鎮圧したものの、なぜイクシスがここに集中的に表れたのかを調べるため、こうして調査に同行してほしいと、和花教官からの命令で来たのだった。

「朝戸さん、風原さんは、何で1人走って行ったんだと思う?」

 それが皆には疑問だった。

 未世は、当初は以前遭遇した好意的な個体を見かけたのだと考えたが、それなら彼女が去り際に「元気でね」といった説明がつかない。

 耳にこびりついて離れない彼女の言葉は、別れの言葉のようであった。

 もう帰ってくるつもりはない。そういう決意のようにも聞こえた。

「わかりません。多分、私たちに話していないことに、答えがあるように思います」

「……でも、今も彼女は目覚めていない」

 聞き出そうにも、凪の意識は沈んだままだ。

「まあ、予想しても仕方がないわ。目覚めたら詳しい事情を聞かせてもらうとして、今は任務に集中しましょう」

 恵那に指摘され、皆が意識を任務に戻す。

 ふと、草むらが揺れる音がした。

「だ、誰か」

 いるのか。そう聞く前に何かが飛び出してきた。

 それは、K9だった。

 K9は未世立ち向かって駆けてくる。

 咄嗟に、愛がM249の引き金を引いて掃射。

 銃弾に引き裂かれ、K9は沈黙した。

「みんな、無事!?」

 愛の声に、皆が現実に引き戻された。

 イクシスはもういない。その前提で来たが故の弊害だった。

「どういうこと……。安全確認はしたのに」

 和花も戸惑っている。

 ふと、銃声が聞こえた。

 それは、未世たちの近くに着弾した。

 その先を見た彼らは、衝撃を受けた。

「なんで、あれが……」

 そこには、ウサギの耳のようなものを付けた人型イクシス。

 キュレーヴがいた。

 キュレーヴは、構えた銃らしきものを発砲する。

「隠れて!」

 全員、近くの岩や遮蔽物になるものの影に隠れる。

 銃弾が放たれ、彼らが隠れている遮蔽物を削る。

「な、なんで。こんなところに……」

「豊崎教官、どうすれば!」

 未世たちは混乱するが、和花は黙って事態を見守っている。

 キュレーヴに遭遇したというのに、増援を頼む様子もない。

「こうなったら……」

 未世は岩から身を乗り出し、スコープを覗いてキュレーヴに狙いを定める。

 だが、引き金が引けない。

 わずかに引き金を引けば、銃弾が放たれる。

 何度も繰り返してきた行為のはずだった。

 なのに、指が岩石のように固くなり、引き金が引けない。

 体も硬直し、いうことを聞かない。

 

 生物は、同族を傷つけられないようにできている。

 

 生き物にとって、自身の姿に近い生き物を殺すことは、もっともストレスのかかる行為だ。

 それは、種の繁栄のために遺伝子に長い年月をかけて刻まれた、強固なプログラムだ。

 

 それを破ることは、容易ではない。

 引き金を引けない未世をよそに、凛や恵那たちも銃口を向ける。

 だが、誰もが発砲できない。

 和花さえも。

 イクシスとの戦いのせいで、国家間戦争がなくなった今、自衛官でさえ人に銃口を向ける機会はない。

 誰も発砲できない中、キュレーヴはゆっくりと銃らしきものを構えた。

 撃たれる。

 反射的に、誰もがそう思う。

 ようやく硬直がとけ、皆が一斉に物陰に隠れようとする。

 その瞬間、銃声がなった。

 

 

 

 銃声がなった瞬間、キュレーヴの体から血が流れる。

 全員が銃声のなった方向に視線を向ける。

 そこには、いないはずの人物が立っていた。

「……凪、ちゃん?」

 病院に入院しているはずの、風原凪の姿があった。

 彼女は、引き金を引いて銃弾を連射してけん制しながら、キュレーヴとの距離をつめる。

 銃弾がなくなると、遮蔽物となる岩陰に隠れ、M4の弾倉を交換。

 再び撃ちながら距離をつめる。

 その戦い方に、未世は違和感を感じた。

 凪は、日頃は単射で発砲することが多く、フルオートで連射することは少ない。

 なのに、今はフルオートを時折切りながら発砲し、距離を詰めていく。

 彼女の体を見れば、巻かれた包帯に血が滲んでいる。

 傷が治る前に無理に来たために、傷が痛み普段のように狙えないから命中率の悪さを弾数でおぎなっているのだろう。

 だが、そもそも彼女はなぜケガが直る間に来たのか。

 あのキュレーヴに、何か関係しているのだろうか。

 そんな疑問をよそに、未世はM4の銃口をキュレーヴに向けようとするが、引き金を引く人差し指が岩石のように固まって動けない。

 スコープのレティクルはキュレーヴに合わせてある。

 わずかに引き金を引けば、キュレーヴに確実に弾丸は命中する。

 でも、引き金が引けない。

 キュレーヴが人型のイクシスであるということが、彼女たちに引き金を引かせるのをためらわせていた。

 だが、凪は関係なく発砲を続ける。

 その様を、彼らは見つめるよりほかなかった。

 

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