リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~   作:魚鷹0822

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病院で目を覚ました彼女は、分隊長やみんなに事情を問い詰められるも、
言えないの一点張り。そんな中、蓮星が現れ、一つの推測を話し始める。
蓮星が彼女について調べ、至った一つの可能性とは……。


第16話 聞けない命令

 全身が重い。岩のように重い。

 そんな重い体を必死に動かし、凪はまぶたを持ち上げた。

 目に入る光に、目がくらむ。

 少しすると、周囲の風景が見えてきた。

 清潔感をこえ、潔癖さを感じさせる白い壁。

 白い骨組みに、白いベッド。

 薬品のにおい。

 ここが病室だと悟るまで、手間はかからない。

「また、ここか」

 体を起こそうとすると、痛みが走り、顔をしかめた。

 病人用の服装から出ている腕には、撃たれた場所だろう包帯が巻かれている。見えないが足や腹部もそうだろう。

「……また、未練がましく生き残って」

 

「目が覚めたかしら?」

 

 彼女は顔を跳ね上げた。

 声のする方向に顔を向けると、険しい表情をしている分隊長の愛がいた。

 両腕を組んで、怒りを隠そうともしない表情に、凪は少し引いた。

「何日、経ちました?」

「……4日間、あなた目が覚めなかったのよ」

 短いか、長いと感じるかは人次第だが、少なくとも愛たちにとっては長かったに違いない。

「さて、色々言いたいこと、聞きたいことは山のようにあるけど……」

 愛は凪のそばにくると、組んでいた腕を解いた。

 そして……。

 

「……うぐ!」

 

 気が付いたときには、凪はベッドに倒れこんだ。

 左頬に衝撃が走り、殴られたのだとすぐにわかった。

 

「今のは、私やみんなの制止を振り切って突っ走った分」

 

 愛は凪の胸倉をつかむ。

「そして……」

 また左頬に衝撃が走った。

 今度は平手打ちだった。

 

「これは、みんなを泣かせて、今まで心配かけた分……」

 

 裏手で右頬が叩かれた。

 

「これは、みんなの前で死のうとした分よ」

 

「そこまで含めるんですか?」

「当り前よ。分隊長の仕事は、全員を無事に返すこと。隊員を死なせることじゃない」

 愛は両手で彼女の胸倉をつかむと、彼女の顔を引き寄せた。

「聞きたいこと、言いたいことは山ほどあるわ。でも、死なれたら困るから、まずは医師を呼ぶ。それから」

 愛と凪の鼻先が触れるほど近づく。

「話してもらうわ、全部」

 その後、医師と看護師が呼ばれ、凪は検査を受けた。

 ケガは幸い、致命傷になるほどのものはなく、骨折もなく、臓器にも損傷はなかった。

 少しの入院で退院できるらしい。

 その間に、愛が呼んだのだろう。

 検査を終え、病室に戻った彼女を、未世や凛、恵那たちや杏奈先輩たちが出迎えた。

 皆が一様に険しい表情をしていたのは、言うまでもない。

 

 

 

「さて、風原さん」

 ベッドに近い位置に、愛や未世、分隊の人間が集まり、その後ろに杏奈先輩、部屋の端には和花教官がいる。

「色々聞きたいことがあるのだけれど……」

 代表で愛が話を進める。皆の表情故か、凪は取り調べを受けている容疑者の気分だ。

 いや、間違ってはない。

「何から聞いたものかしらね……」

「あの、何も聞かないでくれると」

「「「それはだめ」」」

「……はい」

「そうね……。じゃあ、なんでみんなの制止を無視して、1人森の建物の中へ走っていったの?何が目的だったの?」

「……」

「風原さん……」

 皆の圧力が強まってくるのを、彼女は感じる。

 ふと、1人が動いた。

 学友の凛が近づくと、凪の胸倉をつかんだ。

 いつも眠そうな顔をしている彼女の瞳が、見るからに吊り上がっている。

「……あなたには説明する義務がある。命令無視に、けがをしている状態での戦闘。手榴弾の爆発に巻き込まれたり、口の中に銃を咥えたり、みんながどれだけ心配したと思っている」

「それは……」

「……これだけのことをしておいて、何も言いたくないというのは無し。洗いざらい話せ」

 凪は、つぶやくように言った。

 

「……言えない」

 

 凛が一瞬目を見開くが、すぐに元の表情に戻る。

「……なんて?」

 

「言えないっていったんです」

 

 凛が拳を振り上げた。

「白根さん!」

 愛の言葉で、凛は動きを止めた。

「……ですが」

 愛の視線で、凛は渋々拳を下ろした。

「でも、彼女のいうこともあるわ。あれだけのことをしておいて、何も言えませんなんて、だれが納得するの?」

「それは……」

「風原凪さん、分隊長からの命令よ。……答えなさい」

「……言えません」

「言いなさい!」

 愛の大声に、皆が驚く。

 でも、凪は冷ややかに言った。

「……言えません」

「この期に及んで!」

 静観していた杏奈が、思わずナイフを抜いて近づいた。

 

「そんなに言いたくないなら、いっそ吐かせるか?ケガした個所をえぐりゃあ、いつか吐くかもしれないぞ」

 

 普通なら冗談か脅しと思われるが、今の杏奈は本当にやりかねない。そう皆が思った。

「伽鳥さん、それは……」

 

「認められていないよな?でも、そうでもしねえとこいつの硬い口はあきそうにない。それに、あたしが止めなきゃこいつは今頃あの世だ。彼女を助けた1人として、聞く権利はあると思う。……言えないなんて納得できるか」

 

 できるわけないだろう。誰1人。

「仕方ないんですよ……」

「何が仕方ないんだ!」

「……納得できないのは、わかります。でも、私だって言えない事情があるんです」

「なんだ?」

 

「……機密保持のために、私には箝口令が敷かれている。それに触れるからです」

 

 全員が頭に疑問符を浮かべた。

 

 箝口令、機密保持。

 

 一指定防衛校の生徒に、なぜそんなものがしかれている。

 それほどの機密に触れてしまう、ということは、彼女は何にかかわったのだろう。

加えて気になるのは、それを命じている人間だ。

 そんなものを命じることができるのは、学校の関係者では無理だ。

 れっきとした行政機関、防衛省の、自衛隊の関係者。それも士官以上でないと無理だ。

なぜ、そんな人間が、彼女に箝口令をしいている。

 皆の中に、新たな疑問が浮かぶ。

「だから、私は口を割りません、あきらめてください」

「それはやはり……」

 開いた病室のドアに、全員の視線が向いた。

「あの2人が原因ですの?」

 現れたのは、意外な人物だった。

「蓮星?なんでお前が……」

「ちょっと、気になりましてね」

 蓮星文奈。

 杏奈が行動を共にした分隊員の1人で、皆をまとめることに長けた生徒。

 同時に、情報通でもある。

 隣には、相棒の六花がいる。

「風原さん、悪いですが、あなたのこと少し調べさせてもらいましたわ」

「……何をですか?」

「あなた、古流高校の1年生で実力はトップクラス。実戦参加経験もイクシスの討伐数も最も多く、夏期演習では1人で相手チームを無力化したとか?」

「……それが何か?」

「加えて、今回の任務の最中、仲間を先にいかせて自身はイクシスの足止めを行った、と」

「……そうですね」

 蓮星は笑みを浮かべた。

「おかしいですわね。そんなあなたが、仲間を見殺しにする人殺しなんて噂、私信じられませんの」

「……どうでしょうね」

「しかも、あなたが見殺しにしたのが、古流高校の特殊戦科の、海野蒼衣、深山志乃」

 凪が一瞬目を見開いた。

「あなた、この2人と一緒に、城宗に演習に来たことありましたわよね?その際、あの2人はあなたを可愛がっていましたし、あなたもあの2人を慕っていた。そんなあなたが、あの2人を見殺しにして死亡させるなんて、考えられないのですけど?」

「2人は死んだ。その結果がすべてですよ」

 

「可能性は2つありますわ。1つは、本当にあなたが見捨てた。2つ目は……」

 

 蓮星は一瞬目を細めた。

 

「救援さえ呼べない状況下で、やむおえなかった、とか?」

 

 凪の体が、一瞬ぴくっとはねた。

「だから、何ですか?どちらにしても、私が彼らを見殺しにしたことに変わりわ」

「もし、救援さえ呼べない状況下で仕方がなかったというなら、少しおかしいのではなくて?」

「何がですか?」

「だって、2人の死亡原因は、演習中の不慮の事故で、あなたの救助要請のおくれが原因になってますもの。あなたみたいに、仲間の生存を考える人の行動とは、おおよそおもえません」

「どうだか……」

 静観していた六花が、凪の胸倉をつかんだ。

「いつまでごまかし続けるつもり?」

「ごまかしてなんか」

「嘘。、文奈は調べて、1つの可能性を考えた。それは、あなたが2人を見殺しにしたことになっているけど、実際は違うのではないか、ということ。でも、それでもあなたがその違う状況を受け入れているのは……」

 六花は、確信を持っているように、落ち着いた口調で言い放った。

 

「箝口令以外に、……あなたが名誉を守りたい人がいるから」

 

「そんなことして、私になんの得があるんですか?」

 

「……そうしなければ、あなたの大事な人々の夢が、壊れてしまうから」

 凪は視線をそらした。

「沈黙は、肯定と受け取る」

 凪は何も答えなかった。

「これは勝手な想像なのですけど、あなたが名誉を守りたかった人は……」

 文奈はいった。

 

 

「豊崎教官、なのではなくて?」

 

 

 全員が驚き、和花を見た。

 和花は、ばつがわるそうに視線をそらした。

「なんで私が、あんな人のために?」

「あんな人、ですか?」

 蓮星は笑みを浮かべながら言った。

「調べたところによると、あなたは豊崎教官との仲は良好だった。任務で何かあれば、豊崎教官が呼ぶのは大抵あなた、というほどには。ですが、夏の共同演習の際、あなたは教官に殴りかかろうとした」

「……ええ」

「おかしいですわね。仲がいいのに、なんでそんな殺意を隠そうともしない行動をとるのですか?」

「……理由が気に入らなかったからで」

 

「夏期共同演習の前に、何かあなたと教官の間にあったのではなくて?たとえば、そう……。深山さんと蒼野さんの2人を見殺しにしなければならない状況に、豊崎教官のせいでなってしまった、とか?」

 

 凪は胸を抑えた。

 

「にもかかわらず、演習で仲間を見捨てたことを注意された。だから頭にきて殴りかかろうとしたのではなくて?自分を見捨てたあなたが、どの口がそういえるのか」

 

「それは……」

 

「でも、豊崎教官の汚点となるその出来事を告発することはできない。それが広まれば、朝戸さんの夢の支援者であり、恵那さんの憧れのお姉さんがいられなくなるかもしれない。仲間の夢が壊れるかもしれない。それは耐えられない。だから、嘘の噂が広まる状況でも受け入れ、彼女のメンツを守ろうとした」

 

「証拠もないのに妄想を垂れ流さないでくださいよ!」

 凪が思わずどなった。

「妄想というなら、なぜあなたはそんな感情的になるのですか?さきほどまでみたいに、無感情に否定すればいい。それに、あなたが戦ったキュレーヴ。けがをしているのに、あなたはプレストン教官の支援要請に応えた。なぜそのキュレーヴにこだわったのですか?それとも、倒さなければいけない宿命でも」

「黙ってください!」

 全員が確信を抱いた。

 文奈の言っていることは間違っていない。

「これは勝手な推測なのですが……」

 凪は心臓が激しく脈打つのを抑えようとする。

 間違いない。

 彼女はもう真相に気付いている。

 

「あなたは、先輩2人と任務に派遣され、そこで想定外の事態に遭遇した。それによって、先輩たちは死に、あなたは生き残った。でも、そのことを公表するわけにはいかないから、演習という体にして、責任があなたに押し付けられた。真相が話せないよう、箝口令もしかれた。その任務で、あなたはあのキュレーヴに遭遇したものの、仕留め損ねた。先輩たちを殺したかもしれない、その個体のことをあなたは忘れられなかった。そして今回の任務であの施設の調査を命じられた際、あなたはあの個体を見かけた。先輩たちの仇をとるため、1人走って追いかけた。でも、またも仕留め損ねた。そんな中、またも現れたという情報を、あなたはプレストン教官から得た。それで負傷中にも拘わらず、あなたはあのキュレーヴを倒しに行った。今度こそ、仕留めるために。最後に、その任務の真相を知る最後の証人である自分が汚名を背負ったまま一緒に死ねば、和花教官や関係者のメンツは守られる。これで、すべてに幕を引くつもりだった。……ちがくて?」

 

 凪は押し黙った。

 だが、それが間違っていないと確信を得るには、十分だった。

「……風原さん」

 それまで沈黙を守っていた和花が口を開いた。

「……話しなさい」

「……私の口から言わせるんですか?それに、箝口令はいいんですか?」

「今だけね。それと、この内容はこの部屋の人間以外には公表しないこと。いいわね」

 全員がうなずく。凪は、大きくため息を吐き出す。

「……蓮星さん、あなたの言ったこと、間違ってはいません」

 凪は窓に視線を向けた。

「……それでもなお、私は生き残った。……未練がましくね」

「……生き残ったことを後悔しているような言い方だね」

 六花の視線が鋭さを増すが、彼女にはどこ吹く風だった。

 そして彼女は、窓の外の風景を眺めながら、ゆっくりと話し始めた。

 

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