リトルアーモリー ~2つの道、彷徨う弾丸~   作:魚鷹0822

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事実を公表してからしばらく、和花や未世たちは彼女が
古流高校に戻ってきてくれる日を待っていた。
今日も来ないかと思いきや、彼女が姿を現した。
彼女が古流高校に戻る気になったのは……。


最終話 埋められない溝を抱えて

 数日が過ぎた朝、和花はいつものように、正門で生徒たちを迎えていた。

 未世に凛もいる。

 凪が来ることを祈って、真相が明かされてから彼女を迎えられるよう、日々こうしていた。

 でも、彼女が来る気配はなかった。

「凪ちゃん……」

「……今日もこない」

 未世の表情は晴れない。

「……あとは彼女の問題。信じるしかない」

「……そうですね」

 そのときだった。

 生徒たちの中で、制服の袖から包帯が見える生徒があるいてくる。

 アサルトライフルは先日の一件で壊してしまったので、腰にM1911のみをさしている。

 その生徒は未世たちの前に来ると、ぶっきらぼうな口調で言った。

「……おはよう」

「おはよう!凪ちゃん!」

 未世は凪に抱き着いた。

 それを見た凛が、瞳の奥で灼熱の炎を燃えたぎらせているが知らぬ顔。

「戻ってきてくれたんですね!」

「……このまま逃げるのも、なんか癪だったから。……それだけ」

「なんでもいいですよ!」

 実のところ、凪はもう古流に戻るつもりも、これ以上生きるつもりもなかった。

 でも、病室に来た来訪者で心境が変わった。

 

 

「こんにちは」

 ある日、病室のドアを開けて入ってきたのは、蓮星と、六花だった。

「……なんの用ですか?」

「あなたが古流をやめるとききまして」

「……それが何か?」

 

「……逃げるの?」

 

 剣呑な目つきで、六花が静かに問いかける。

「……もう目的は果たしました。もう古流に、指定防衛校に用はありません」

「朝戸さんとの約束を破っても?」

 文奈の問いに、凪は押し黙った。

「君が和花先生を許せないのはわかるし、2人の仇をとったのはわかる。でも、このまま古流を去ってしまったら、何のために2人はあなたを鍛えたの?」

 彼女は黙ったままだ。

 

「残されたものの気持ちはわかるよ。でも君のしたことは、君が命を賭してまでもしなければならないこと?君はいいかもしれない。もう、省みることはないから。けど、君の分隊のメンバーはどうなの?何かできたんじゃないか。そんな気持ちや自責の念を、死ぬまで抱え続けることになる。かれらに、君が感じた苦しみを味あわせたいの?」

 

「それは……」

 

「それに、和花先生は許さなくてもいいけど、仲間を裏切ることは絶対ダメ。このままあなたが古流を去ってしまったら、朝戸未世との約束を破ることになる。それはいいの?」

 

「よくないことは、わかっています……」

 

「信じていた相手に裏切られるつらさは、あなたはよくわかっているはず。同じ悲しさを、また朝戸さんに味あわせていいの。それじゃあ、あなたは和花先生と変わらない」

 

 凪が目を見開いた。

 

「生徒を見捨てただけでなく、すべての責任を押し付けた人間と、同じレベルに落ちていいの?」

 

 六花の言葉が、凪の胸に深く突き刺さる。

 

「……よくない」

 

「なら、学校に戻ろう。戻って、亡くなった2人の分まで戦って。そして、朝戸未世との約束を果たして。何より、学校に戻れば、いつでもおまえたちの汚点を話すぞ、嫌いな先生を脅すこともできる」

 

「そうですか……」

 一瞬、凪の笑みがいびつにゆがんだ。

 

「なら、戻らないといけませんね……」

 

 そんな、半ば豊崎先生への嫌がらせが目的のような理由と、未世をこれ以上裏切ってはいけないという理由で、凪は古流へ戻ることにしたのだった、

 

 

 

「もう授業は受けられるんですか?」

「座学だけね。演習はまだ医者がダメだって」

「……それより、そんな包帯だらけで教室にいったら、みんなが引くんじゃ?」

「この程度で引くわけないと思いますよ?」

「……あなたの基準で考えたらだめだと思う」

 そんな話をしながら、彼らは昇降口へ向かっていった。

 その姿を、和花は黙って見送った。

 その表情は、少し寂しそうであった。

 凪は、和花を視界に入れようともしなかった。

 彼女が生きていていることは喜ぶべきことだし、いいことのはずだ。

 だが、凪が和花たちにとって都合の悪いことを覚えている唯一の生存者であることは、変わりようのない事実。

 凪にとって、和花は自分を見捨てた上官。

 2人の間には、埋めようのない大きな溝ができてしまった。

 これを埋めることは、おそらく無理だろう。

 出会った当時のような、和花を慕ってくれる凪は、もう戻ってこないかもしれない。

 だからといって、埋めようという努力をしなければ、今の状況は変わらないどころか悪化するだけだ。

 和花は、先日ブレストンに言われたことを思い起こした。

 

 

『和花、彼女くれませんか?』

 

 突如現れたと思ったら、そんなことをいう彼女に、和花はあっけにとられた。

『……どういう意味?』

 

『ですから、あなたのとこの生徒、ナギ、カザハラ。彼女を八野辺にくださいっていっているんです』

 

『断るわ』

 

『なぜですか?和花は彼女を見殺しにしたのでしょう?』

 和花の顔が引きつる。

 間違いない。ブレストンは日米の間の協定か特権の何かしらを使って、真相を調べ上げている。

『見殺しにしたことで、彼女はあなたを憎んでいるはずです。憎まれても指導するのが教官の役割ですが、本当に憎まれて信頼されていない教官に教えられることなどありません。それに、彼女は和花のところで飼殺すのは勿体ないです』

『彼女のような生徒は、古流のような高校で力を発揮するわ。八野辺のように、効率効率で進めるところには合わないわ』

 

『和花、一度捨てた生徒になぜ執着するのですか?』

 

 和花は押し黙った。

『おそらく、自分を慕ってくれた昔の彼女を取り戻したい。そう考えているのでしょう?』

『……生徒との信頼を取り戻すのも、仕事よ。何か問題?』

『和花、考えが甘いです』

 和花はブレストンをにらむが、彼女に気にした様子はない。

『始まりは、あなた方が彼女を見捨てたことでしょう?加えて、彼女にすべての責任を押し付けた上、自分たちを守るために彼女の嘘の悪いうわさを流した。そんな教官を信じる生徒など、どこにもいないでしょう?』

『だから、今度はちゃんと彼女を』

 

『それに、あなたたちの判断ミスで、彼女や周りの生徒が尊敬していた生徒が2人死んでしまいました。……人2人分の命の責任など、どうやったらとれるのですか?』

 

 和花は返す言葉がなかった。

『まあ、和花が手放したくないならいいです。でも、私は彼女へのアタックは続けますから、ね』

 そう言い残すと、彼女は部屋を出ていった。

 

―――嫌われていても生きているなら、取り戻せるものもある。

―――そう信じたい。

―――少なくとも、彼女とこのままでは、いたくない。

 

 和花は、心の中でそう信じる。

 確かに、凪は今となっては、和花たちの汚点を知るただ1人の証人だ。

 いつ彼女が口を滑らせるか、内心では気が気ではない。

 排除してしまった方が、懸念はなくなる。それは確かだ。

 だが、子供を犠牲にしなければメンツを保てない大人ほど、情けないものもない。

 このままでいてはいけない。

 凪は過去の過ちを正した。

 なら、今度は自分たちが正さなければならない。

 和花はそう信じ、生還した凪と今後どうしようか、考えを巡らせ始めた。

 たとえ、どんなにいばらの道であっても、かつての彼女の一部でも取り戻して見せる。

 和花は、そう決意したのだった。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

元々、続くかどうか考えず書いたので一度は完結したのですが、続きが思い
浮かんだので2章としてこのたび投稿しました。

前章から7年もの間があいてしまいましたが、読んでくれた方々がいたことに
感謝しております。

またこれで完結となります。

読んでいただき、本当にありがとうございました!
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