痙攣の止まらなくなった右足を瓦礫に突き立て、血を垂れ流すズタボロの体を起こす。
十数分前までは綺麗なままだったこのコスチュームも、今や砂埃と血にまみれていた。元のカラーリング的に血痕はあまり目立っていないが、大きく裂けてしまっている部分もあるのできっともう使い続けることは出来ないだろう。
それなりに気に入っていたのだが、こうなってしまってはもうどう仕様もない。
まぁ、そんな心配もその"次"があればの話なのだが。
私の目の前で悠々と浮かぶ黒幕を痛む左腕を庇いながら睨みつけた。
ヤツはそんな私を見ると、凹凸の殆ど無いのっぺりとした顔でニヤリと笑う。腹立たしいヤツの態度に私は大きな舌打ちで返した。
既に万策は尽き、この場で惟一の希望であった我らが平和の象徴も先程戦線を離脱。
本人はこの場に残ることを強く希望していたが、今彼に死んでもらっては困る。
彼にはこれから先、次代の平和の象徴が生まれるまで持ちこたえてもらわねばならないのだから。
夜風が瓦礫の山から煙を巻き上げる。
きっと、実際に破壊される光景を見ていなければ此処がつい先程まで人通りの多い繁華街だっただなんて誰も信じてはくれないだろう。
それほどまでに壊滅的な被害だった。
そこら中に一般人、プロヒーロー関係なしに死体や怪我人が転がっている。
まだ動けるプロヒーローたちは平和の象徴の敗北を目の前にして完全に戦意を喪失していた。
誰もが敗北は確定していると思っている。誰もがこれから起こる絶望と惨劇を想像して打ちひしがれている。
なればこそ、なればこそ私が立ち上がらねば。
この場における全てを救わんがために。
痛みに口から苦悶の声が漏れそうになるのをなんとか堪え、一歩、また一歩前へと進む。
足の裏に伝わる小さな瓦礫の破片を踏み砕く感触。
それが、朦朧とした意識の中で私がまだ立ち止まっては居ないことを教えてくれた。
針で突き刺すような痛みを感じる肺から息を振り絞り、枯れ掛けた喉を鳴らす。
全ては、この場に蔓延する絶望の闇を切り開かんがために。
「苦しいですか。怖いですか。辛いですか。もう諦めてしまいたいですか。ならば、そこで全てが終わるまで指を咥えて見ていなさい。私が、全てを救ってみせます。ええ、須らく全てを。必要であるのならば、貴方達を殺してでも私は――――」
言い放った言葉は高らかにこの場の全ての人々へと響き渡った。
後にその場に居合わせた多くの人間がこの時の事をこう証言している。
それはまるで、『天使の歌声』であったと。
続かない(悲)