Fate/GrandOrder_藤丸と立香   作:部屋ノ 隅

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番外編は本編と全く関係のない、別の時空のお話です。
藤丸と立香がいつも以上にイチャイチャしています。
ご了承される方のみお進み下さい。


番外編
カルデアの片隅にて


「だ~か~ら~! 何度も言ってんじゃん!! あの二人は変なとこで戸惑っちゃって先に進まないから、ある程度は露骨に介入するべきなんだって。そりゃあ私だって他人の恋路とやり方に口を出したりなんてしたくないけどさ。いや~、あれはもう介入しなくちゃダメっしょ。主に私らへの精神汚染(恋)を防ぐために」

 

「誰がどう見ても相思相愛なのにね。見ててまどろっこしいっていうのはすっっっっごい分かる! なんていうかなぁ、「なんでそこまで行っといて止まっちゃうの!!??」って言いたくなるのよね。その癖して時々口から砂糖が出そうになるくらい、あまぁぁあああああああくイチャつくんだもん。色々と焦れったいわ。 …………いや姫は皆と違って恋愛も結婚もしたこと無いから、半ば想像ですけど……皆と違って恋愛も結婚もしたことなんて無いですけど!?」

 

「はいはいおっきー、今そういうトークの場じゃないし。自虐はここらでストップストーップ……おk? で、穏健派かつ結婚経験のある二人はそこんとこどう思ってんの? ……私? 私は言った通り、サポートマシマシで行きたいかなぁ。私の最期はまぁ殺し愛(あれ)だったけど、田村麻呂(あいつ)とはマジ相思相愛(ラブラブ)恋人関係(カップル)だったし、超可愛い娘もいた(ような気がする)から、メッチャ助言できる自信があるし! JK(サーヴァント)になってからだって、遠い世界で別の私が最高にマジ超素敵な恋をしていたらしいんだから! ……いやまぁ、殆ど覚えてないんだけどさ」

 

 人理継続保証機関にある食堂。その食堂の片隅にあるカフェテリアスペースから、若々しくはつらつとした声が響いてくる。ガラス製の丸テーブルを囲んで、ドリンクを片手に食後の談笑をしているのは、四人の女性サーヴァント。

 

 

 坂上田村麻呂と共に語られる究極の巫女であり、第四天魔王の愛娘『鈴鹿御前』

 姫路城は天守閣に巣くう城化物にして、土地神化された(あやかし)『刑部姫』

 戦国時代、甲斐武田家に仕えたくノ一(仮)であり、信濃巫女の頭領『望月千代女』 

 源氏物語・紫式部集・紫式部日記などの著者であり、想いを綴る英霊『紫式部』

 

 

 生まれも育ちも日ノ国である彼女達の話の種は、時折甘ったるい雰囲気を醸し出しはするものの、一向に関係が進展しない藤丸と立香(二人のマスターについて)だ。

 

 

「せ、拙者でござるか!? い、いや確かに拙者も生前は盛時様……夫がいましたが、かなり早くに先立たれてしまわれましたからその……。主達のような小さな花を育てるが如き恋事は未経験でして……。ああ、決して拙者と盛時様の恋路や家庭に問題があったとかそういう話では無く、拙者らの知る恋路と、主殿達がゆるりと歩まれているそれとは恋路の種類が別物だと思いまする。時が流れ、世が変われば恋事のいろは自然とも変わりましょう。なので、余計な介入はあまりすべきでは無いかと……」

 

「私もその……今生の恋愛についてなにか意見を申せるほどの経験を積んでいる訳では無いのですが……。子こそ設けましたけど、あの方は僅か三年で私を置いて先に逝ってしまいましたし……。ですが、やはり私もお二方からご相談なさらない限りは余計な介入はしないべき、だと思っています」

 

 割とガツガツ食いつこうとする二人外に対し、一歩引いた意見を述べる未亡人二人。それを聞いた鈴鹿御前は不満垂れ垂れといった具合で若干ブー垂れながら言葉を返す。本来の彼女の性格ならば間違ってもこのような態度は取らない筈なのだが、サーヴァントとしてこの時代に召喚された鈴鹿御前は『流行のJKギャル(割と死語)』を本気で演じている(態度や言葉遣いをそれっぽくするといったレベルでは無く、精神や魂に至るまで)ため、このような仕草をするのだ。

 

 

「え~? ……まぁ属性特盛り童女(ちーちゃん)はある程度しょうがないとして、しっきーまでそう言うの? ほら、しっきーって超弩級のガチ文学少女な訳じゃん? こういう何時までも進展しない、メッチャ焦れったい位置で止まってる若くて善良なCP(カップル)とか見ててこう、女性作家として思うところとか無いわけ?」

 

「あ、それはちょっと思った。マーちゃん達の事をネタにする云々の良い悪いはこの際さておいて、式部パイセンの食指が動いてないってのはちょっと意外。私なんてもう毎日のように『ああ、私だったらこれこれこうしてこういう台詞を言わせた後でR指定な展開にするのに~~!!』ってプロット練ってるもん。あ、そうだそうだ聞いてよこの前なんかさ――」

 

 

 

~~回想~~刑部姫の場合~~

 

 

 

――カルデア――サーヴァント&マスター専用の浴場前――深夜過ぎ、明け方近く――

 

 

「ふんふふ~ん♪ いやぁ、流石にこの時間だとだーれも居なくて良いわぁ。共同のお風呂って大きくて立派なのは良いんだけど、それに比例して人も大勢居るから気を使うのよねぇ……。たまーに陽の塊みたいな人が話しかけてくるし……姫みたいな引き籠もりには難易度高いっての。……ん? あれって……」

 

 その日、姫は丁度オフでね? 取り立てて用事なんかも無かったから、夏のサバフェスで出す予定だったコメディ系統の恋愛漫画のプロットを、一日ぶっ通しで組み立ててたんだ。それで深夜過ぎ……いや、あれはもう明け方に近かったっけ? まぁそれは良いや。兎に角、夜遅い時間になってようやくプロットが完成してね。お菓子は時折つまんでたからそこまでお腹は空いてなかったし、お風呂に入って寝ちゃおうと思って大浴場の前まで行ったんだけど……。

 

 

「あれ、おっきーか? こんばんは」

 

「え? マーくん?」

 

 そう。マーくんがね、大浴場の前にある休憩用のソファーに一人で座ってたの。いつものカルデア式魔術霊装じゃなくて、ラフな部屋着……黒いTシャツとズボンを着てね。髪がまだ若干濡れてたし、バスタオルを肩に掛けてたから、お風呂から上がったばっかりなんだってすぐに分かったわ。

 

 ……でも不思議でしょ? マーくんってば基本的に毎日ちゃーんとお風呂に入る子だけど、それって特異点へのレイシフトとか、急を要する事態とかにならない限り大体夕食前……遅くても0時前にはすませるし、そもそも浴場じゃなくて自室のシャワーを使う事も多いしね。実際、私は深夜帯にお風呂に入ることが多いんだけど、その時間にマーくんの姿なんて見たこと無かったもの。

 

 

「姫は丁度今同人誌のプロットを練り終った所だから、寝る前にお風呂入ろっかなって……。マーくんは?」

 

「俺か? 俺はちょっと前に風呂から出て、今はご覧の通りベンチに座って休憩中……かな」

 

 マーくんはそう言ったけど、姫の疑問は解消されていなかった。だってそれ今現在のマーくんの状況説明であって、「なんで今この時間に浴場のお風呂に入っているのか」の説明にはなってなかったし。姫としては「あの胡散臭い数学教授の講義が長引いたせいでお風呂に入れなかったのかなぁ? でも、それだったらマーくんは自室のシャワー使うよねぇ……?」なーんて思ってたんだけどさ。

 

 で、当然のように続けざまに質問をしようとしたんだけど、マーくんってば急に「……そろそろかな」なんて言って、休憩所に備え付けられてるガラス製の冷蔵庫から、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳が入った瓶を一本づつ取り出してきたわけ。

 

 

「? 何で二本も?? 確かにお風呂上がりに牛乳をグイッっといくのは日本の伝統文化(割と近代生まれ)だけど……。マーくんって欲しい物が二つあったら実際に両方とも頼んじゃう派だったっけ?」

 

「ん? まぁ、半分正解……かな?」

 

「半分……?」

 

 姫が疑問系でそう呟いた、直後くらいだったかな。

 

 

「ごめん藤丸。待たせちゃった?」

 

 女湯の方の暖簾が押されて、中からバスタオルを首から提げたマーちゃんが出て来たの。マーくんと同じく、いつもの見慣れた姿じゃ無くてラフな格好で。……まぁ、ここまで話せば流石に色々と察するだろうけど、一応オチまで続けるわね。シュヘラザードパイセンみたいな語り部系サーヴァントとは雲泥の差だけど、姫だって一応は創作者(クリエイター)だし、一度自分で口にしたお話は最後まで言いたいから。

 

 

「いや、ついさっき上がったばっかり」

 

「そっか、良かったぁ。あれ、おっきーだ。……もしかして、今からお風呂? 今丁度だーれも入ってないから伸び伸びと使えるよ」

 

「あ、うん。……ありがとう。……その、お二人はもしかしてご一緒に……?」

 

「? なんで敬語になってるのおっきー……? そうだよー。この前レオニダスや巴さん、後は牛若丸が考えてくれた『遊びながら学び、身体を鍛えられるマスター専用訓練プロジェクト』をシュミレーションルームでやってたらめちゃくちゃ汗掻いてさ。訓練が終ったら速攻でお風呂入らないとダメだねーって。……本当はもっと早い時間に始めて、もっと早めに終る予定だったんだけど、私がロマン達から出された課題をまだやり終わってなかったから、時間がズレてこんなに遅い時間になっちゃったんだ……。今更だけどごめんね藤丸。色々と付き合って貰っちゃって」

 

「別に良いって。俺も楽しかったし、なにより立香の為だしな。それにお互い最近忙しくて別行動ばっかだっただろ? ……だから、その……。こうやって立香と一緒に行動できるってだけで、俺は嬉しかったから」

 

 ……もうね、この時点で口の中が甘ったるくて仕方がないの。例えるなら MAXコーヒー THE 激甘END を口の中へ一気に放り込まれた感じ。ちょっとでも調整をミスれば口からオロロロロロって出て来そうな気がする。前々から思ってたけど、マーくんってマーちゃんと一緒に居る時だとイケメン度が天元突破するのよね……。なにあの台詞。そういうのをよく考えてる漫画やドラマの脚本家でもサラリとは出てこないと思うんですけど??

 

 

「そ、そう? ……そっかぁ……えへへ。うん、私も藤丸と一緒にいれて凄く嬉しかった!」

 

 マーちゃんもマーちゃんでめっっっっさ可愛いし。ちょっとだけ顔を俯かせて、恥ずかしながらも嬉しさを抑えられないって表情をしながら「えへへ」だよ? 子供系サーヴァントの前でよくなる「お姉ちゃんモード」や、特異点探索なんかの時の「マスターモード」なんかとも違う「極々普通の可愛い女の子」になっちゃうんだよ? あのマーちゃんが。……いやまぁ、これはみんな割と知ってるかな。マーくんと一緒に居る時は割とよくああなるし。

 

 ……正直もう姫のお腹は糖分でいっぱいいっぱいだったんだけどさ、二人からしてみればこんなのまだまだジャブに過ぎなかったんだよね。

 マーちゃんからの返しを聞いて嬉しそうに微笑んだマーくんは、持ってた牛乳瓶二つをマーちゃんに差し出して――。

 

 

「はい。どっち飲む?」

 

「え?」

 

「俺の奢り。コーヒー牛乳とフルーツ牛乳、どっち飲む? 確か、お風呂上がりによく飲むんだって言ってたのはこの二つだっただろ?」

 

(イケメンかよ)

 

 思わず口から出そうになったわ。

 

 

「い、良いの? ……ありがとう藤丸。……えっと、そうだなぁ……」

 

 暫くの間、迷うように二つの牛乳瓶をジーッと見比べてたマーちゃんだったんだけど、十秒ぐらい経ってから突然マーくんが口を開いてさ――。

 

 

「……でさ、奢る代りと言っちゃあ何だけど……良い? 俺、実は両方とも飲みたくてさ。立香さえよければ二つとも半分こにしてくれないか? 流石に一人で二本も牛乳飲んじゃったらお腹壊しそうだしさ」

 

「え? 良いの!? ……うん分かった! 二人で半分こずつ……だね」

 

「イケメンかよ」

 

 思わず口から出てたわ。さっきも言ったけど、マーちゃんと居る時はマジで発言と対応が神懸かるのよね……。要はマーちゃんがお風呂から出てくるタイミングを予想して待たせないように先に上がって、冷蔵庫から二種類の牛乳を買ってきた挙げ句、マーちゃんに「奢ってもらった」なんて余計な気を使わせないどころか、ちょっとした迷いまで解消しちゃったんだよ? 女性の扱いに慣れてる円卓の騎士じゃあるまいし、お前は何処の伊達男だって内なる姫がツッコミを入れてたわ。

 

 

「? おっきー、今なんか言った?」

 

「イイエ ナンデモ ゴザイマセン」

 

「お、おっきー? 何でお前片言になってるんだ?」

 

「オキニ ナサラズ。 ヒメ ハ ソロソロ オフロ ニ ハイッテ キマス。 フタリトモ ドウゾ ゴユックリ」

 

「う、うん。おっきーこそごゆっくり……」

 

 なんかもう甘ったるいわ気怠いはで色々と限界だったからさ。さっさとお風呂に入ってサッパリしようって、適当に話を切り上げて女湯に足を向けたんだけど――。その時、丁度耳に入って来ちゃったのよね……。

 

 

「……あ、でもさ藤丸」

 

「ん?」

 

「そ、そのね……このままだと藤丸と……か、間接キスしちゃうなー……って……」

 

 アー、ハイハイテンプレテンプレー。お決まりの展開オツカレサマデース。……って、姫はそのやり取りを横目で見ながらそう思ってた。

 そりゃそうでしょ? 飲み口の狭い牛乳瓶なんだから、それを二人で分けようとすれば必然的にそうなるもん。それに気付いたマーちゃんがゴニョゴニョと口籠もらせながらそういった台詞を言うのも分かってた。マーちゃん、ああ見えて結構恥ずかしがり屋さん(主にマーくん限定)だしね。

 

 ――――でさ。自分で言っておいて恥ずかしそうに顔を赤らめる可愛いマーちゃんに、さっきまでイケメン対応かましまくってたマーくんはなんて言ったと思う?

 

 

 

 

「ああ大丈夫。ちゃんとシェア用の紙コップがあるから、間接キスなんて絶対起こらないよ」

 

 

 

 

――回想終了――

 

 

 

「違うでしょ!? そうじゃないでしょ!!? そこはマーちゃんの眼を見ながら真剣な表情で『……嫌?』とか、悪戯っぽく微笑みながら『そんなこと考えてたの? ……立香のエッチ』とかそういう台詞をいう場面(シーン)でしょ!!? 今の今まで完璧だったイケメンな対応はどうしちゃったの? 何で最後の最後でダメンズ(ポンコツ)になっちゃうの!? 一瞬だったけどマーちゃん凄く複雑で、ちょっぴり残念そうな顔してたよ!!? ほんっっっっっっっっと、そういうとこなんだよマーくん!!!!」

 

 溜まりに溜まった鬱憤を晴らすが如く喋り散らし、今はハァ……ハァ……、と肩で息をしている刑部姫。「どうどう。落ち着いて、はい深呼吸~」と宥めるように彼女の背中を撫でる鈴鹿御前と対照的に、普段は物静かで大人しい刑部姫の捲し立てるような怒声に驚いてしまったのか、紫式部とちよめは若干唖然としていた。鈴鹿御前に背中をさすられ、ついでにコップに入ったお冷やも一気に飲み干してようやく落ち着いたのか、刑部姫も吃驚している二人に気付く。

 

 

「あ……。ご、ごめんなさい。姫ったらつい、その……」

 

「――ふふっ。いえ、大丈夫です。私達のマスターの事とはいえ、刑部姫さんが自分の趣味以外のことをここまで熱く語る姿は見た事がありませんでしたので……。ちょっと驚いてしまっただけですから」

 

「はい。それに刑部殿の怒りにも似た訴えと想いは、拙者らにもしかと伝わりました。……あなたが親方様達の恋路と幸せを、強く強く願っているのだということも。この千代女、あなたの情念に心から感心しております」

 

「ふ、二人ともぉ……」

 

 

――感心している二人には申し訳無いけれど、半分位は作品に使うネタ集めとして二人のことを観察していたいだけなんだけどなぁ。どうせ観察するならそのまま作品に転用できる展開になって欲しいだけだし……。とは口が裂けても言えないと思っている刑部姫であった――

 

 

「……」

 

「……うわぁ、色々と台無しじゃん……」

 

「はわわ……! す、すみませんすみません!! 最近ようやく少しばかり制御が利くようになってきたと思っていたのですが……!」

 

 大慌てで自身に掛けられている安倍晴明直伝の陰陽術(制御不能)。『泰山解説祭(たいざんかいせつさい)』に抑制の詩術を掛ける紫式部。人知れず本心を読み取られた刑部姫も他の三人の様子を見て何が起きたか理解したのだろう。「あっ(察し)」という表情を浮かべると、そのまま動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

「――――んで、そろそろ話戻すけどさぁ。まぁ酷っどいオチだったわ」

 

 刑部姫が意識を取り戻して数分後。まずは結論から語ろうと言わんばかりに鈴鹿御前が話を切り出す。

 

 

「あの……。酷いオチというのは姫の話しのことでしょうか。それとも姫自身の事でしょうか……」

 

「……ノーコメント。今回は藤丸に焦点をあてるけどさ、いやぁダメだわ。何がダメって途中まではほぼほぼ完璧なイケメンムーブしてんのに、最後の最後で全部台無しにするところがダメだわ。……女子に完璧な対応をし続けるって割と無茶ぶりじゃんって思うし、本当に台無しになってるかって言われると勿論違うんだけどさぁ。ああいう場面で『間接キスなんて絶対起こらないから』はマジで無いってば……」

 

 苦々しい顔で藤丸を酷評する鈴鹿。それに同意するように刑部姫は激しく、紫式部もゆっくりと頷く。

 

 

「ホ ン ト そ れ。いや、何考えてんの!? とまでは言わないよ? マーちゃん……って言うより、この場合は「女性」かな? 女の人が気にしちゃう所を分かってるからこその考えと行動な筈だし。でもさぁ……」

 

「『女性』への対応としては○でも『立香様』への言葉としては×……ですね」

 

 今の今まで静かに押し黙っていたが、やはり恋物語を書き続けてきた紫式部としても藤丸の言葉に思うところがあるのか、彼女は若干の呆れを含んだ小さな溜息を零す。そして紫式部の言葉に、今度は鈴鹿御前が強く反応した。

 

 

「そうそうそれよ! マジで超そこなの一番大事なとこ!! 途中まではマジ半端ないカッコ良さだったんだけど……。ええっとなんだったっけ? 途中の――」

 

「? 藤丸様が立香様に風呂上がりの一杯を奢り、折半案を出した所でござろうか。確かに男性は度量があって気前が良い方が女性にモテると――」

 

「あー……。いや、一応それも入るっちゃ入るんだけど……」

 

「千代女様。鈴鹿御前様が仰っているのはそこではなく……『立香と一緒に行動できるだけで、俺は嬉しかったから』という、藤丸様の想いが乗った言ノ葉の方だと思います」

 

「さっすがしっきー! よく分かってるじゃん!!」

 

 我が意を得たり――という表情をする鈴鹿御前。余程嬉しかったのか、思わずといった具合に指をパチン! と鳴らした。

 

 

「結局の所「そこ」なんだよ。ちょっと過大解釈になるけどこれってつまり『もっとあなたの側にいたい』っていう一種の告白じゃん? 憎からず思っている相手からこんな事言われて、嬉しく思わない女子なんて滅多にいないっしょ」

 

「な、なるほど……! 言われてみれば確かにそうやもしれませぬ」

 

「でしょ? んで、重要なのはもう「好意のある言葉(そういう事)」を言って良いぐらいに『二人の仲が深まってる』って事実じゃん」

 

「一見ロマンチックな台詞だけど、一定以上好意を抱き合ってる間柄じゃないと正直ねぇ……。相手との距離感を間違えて使えば普通に「きっっしょ!」とか思われちゃうだろうし。イケメン補正が掛かってそうなキャラは例外だけど」

 

「ですが刑部姫様の話を聞いた限り、立香様は藤丸様のお言葉にとても喜ばれていたご様子です。つまり、お二方はそういった少しばかり踏み込んだ好意を吐露しても問題の無い間柄であると言えますね」

 

「うんうん。だからこそ最後みたいな他人行儀かつ、折角のドキドキをまとめてぶち壊すような事を言われるとスッゲーくるっていうか……。あ、もう無くなっちゃった。ウェイター! バニラアドショットチョコレートソースアドチョコレートチップエクストラコーヒーエクストラホイップキャラメルフラペチーノちょーだーい!! あ、ブーディカ流で!!」

 

「傍から見てると付き合ってるようにしか見えないのにねぇ。変な所で関係が止まっちゃってるのは、やっぱりマーくんが原因なのかなぁ? 姫がお風呂から上がってもマーちゃんまだ休憩所にいたんだけど、マーくんは自分の部屋に帰っちゃってたし。あ、姫は バニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノをキャット風ね」

 

「いや、確か藤丸はその日も朝からレイシフトがあった筈だし、早めに寝ようとするのは当然じゃん? つーか普通に立香にも原因あるっしょ。主に押しが弱いっていう意味で。元気で活発、明るくて優しい我らがカルデアのマスター。絵に描いたような陽キャのイメージが強いけど、実はかなり乙女チックな嗜好かつ、奥手で恥ずかしがり屋じゃん、あいつ。少なくとも間接キス程度で恥ずかしがってるようじゃあ、まだまだ恋愛マスターには程遠いし」

 

「……そう言えばあまり記憶にないのですが、あのお二人の仲が明確に深まったのはいつ頃でしたでしょうか……? ふと気付いた時にはもう既にあのような仲睦まじいご関係になっていらっしゃったような気がするのですが……。ああ、ついでに私も…… ばにらのんふぁっとあどりすとれっとしょっとのんそーすあどちょこれーとちっぷえくすとらぱうだーえくすとらほいっぷ抹茶くりーむふらぺちーのをえっちゃんテイストで」

 

「……すみませぬが、拙者もよく覚えてないでござる。さーう゛ぁんとなる存在に身を置いているからして、特異点などにレイシフトし、かるであに戻ってきた際に記憶が曖昧になることはままありまするが……。あ。えっと、えっと……ば、ばにら……。……いえ、抹茶らてなるものと餡団子のセットを一つお願いします……」

 

 何故だか分からないが場の空気を乱した挙げ句、何かに敗北した気がする千代女であった。

 

 最近女性サーヴァント達の間で流行中の「どりんく」という物はやたらと名前が長く、ゴチャゴチャしていてとても覚えづらい。それなのにカルデアにいるほぼ全ての女性サーヴァントが、まるで高速詠唱でも唱えるかのようにスラスラと注文をしているのをよく見かける。……流行に乗れないというのは、こんなにも心苦しいことなのか。

 

 一種の苦行のようにも感じてしまう千代女である。

 

 

「んー。確かに気になるっちゃ気になるけど、そこは触れなくて良いんじゃない? マスター達で恋バナしてるあたしらが言えた義理じゃないけれど、二人っきりの時に何か仲が進展するようなイベントがあったってんなら別に良いっしょ。どうしても気になるっていうなら、マスター達に直接聞けば? 意外と、あの二人もよく覚えてなかったりしてね」

 

 冗談めかした口調で言って、鈴鹿御前がケラケラと笑う。出会いは兎も角、馴れ初め、ハッキリと意識した瞬間は覚えていないというカップルは意外と珍しくないので、鈴鹿御前の言っている事も間違ってはいないのだが……。

 

 

「……そこはどれだけ考えても憶測や妄想にしかならないか。はぁ……ホントなーんであそこでああいう事言っちゃうかなぁ? マーくんってば結構頭が良いし、鈍感系主人公属性もないから、ある程度は自分やマーちゃんの好意に気付いてると思うのになぁ……」

 

 創作通りの展開には中々ならないモヤモヤと疑問に刑部姫の若干テンションが下がり、机に片肘をついて深い溜息までついてしまった時だった。

 

 

 

 

 

「――失礼します、レディー達。その疑問が、そのまま答えなのではないでしょうか」

 

 

 

 

 

 刑部姫の独り言に答えるように声が掛る。この場でお茶をしている四人の物とは違う、ハッキリとした男の声だ。

 

 健康的な印象を抱かせる小麦色の肌と、深くて濃いみたいな蒼い瞳を持つ黒髪の伊達男。カルデアキッチンのウェイターに支給される制服を完璧に着こなし、首元からダイヤモンドの装飾がちりばめられた十字架を金のネックレスで繋いで首に掛けているその男は、ごく自然な動作で次々と刑部姫達の前に注文の品を置いてゆくと、最後にニッコリと微笑んで少しだけ頭を下げる。

 

 

「す、凄い……執事だ。伊達男で執事だ! あたしの知らない新たなイケメンがカルデアキッチンにいた!!……って、ん?」

 

「……おっきー。こいつ、サーヴァントだよ。とても微弱でまともに戦えたもんじゃないけど、確かに霊器がある」

 

 見ず知らずのサーヴァントに若干の警戒を示す鈴鹿御前と千代女。それを受けて一番に慌てたのは、意外にもその伊達男ではなかった。

 

 

「いえ! 皆様、大丈夫です。こちらの方は……」

 

「おや、紫式部様がいらっしゃったので既にご周知頂けていると思っていましたが……。申し遅れました、私はつい先日藤丸さまによってこのカルデアに召喚された者――名を「バーソロミュー・ロバーツ」その昔、カリブ海で少しばかり名を挙げた、しがない海賊の船長です。出来ることなら、あなた方の心の片隅にでも居場所をつくって頂けると幸いです、美しい人達よ」

 

 先ほどとは違い、今度はしっかりと四人に頭を下げるバーソロミュー。しがない、などと本人は謙遜してはいるが「海賊バーソロミュー」と言えば人類史に名を残す大海賊の一人だ。

 

「大砲42門搭載のフランス軍艦一隻を含む十六隻を四日間で捕獲した」とか「一隻のスループ船(小型快速帆船)で二十隻以上を捕獲した」などの伝説や逸話を後生に残す「大航海時代」最後にして最大最強の海賊(なお、同じく大海賊である黒髭ティーチはその称号を一切認めていない)。それでいて、女性や子供には決して手を出さなかったという生粋の伊達男でもある。

 

 

「ん? この色黒イケメン執事、しっきーの知り合いなの?」

 

「バーソロミュー……? ……ああ! どっかで聞いたことのある響きだと思ったけど、あなたくろひーの言ってた『気障ったらしのバーソロミュー』さん? いやぁ、色々話し(愚痴)は聞いてる(聞かされている)から一度会ってみたいと思ってたんですよねー。なるほど、こりゃあ確かに凄い伊達男だわ」

 

「……いえ、その……。申し訳ありませんが、ダメ人間(あの男)の話はあまり……っていうかすみません。あいつが何か皆様にご迷惑を掛けているようでしたら、霊器を完全に取り戻した暁には私が直々にシバキ倒しておきますので」

 

 ――「何か」って言うか「割といつも」 「皆様」って言うか「カルデアにいる面子ほぼ全員が」あのキモヒゲに迷惑掛けられてんだけど?――という言葉を、鈴鹿御前は口に出す前に飲み込んだ。確かに黒髭は凄まじくキモくてウザイいダメンズだが、迷惑の規模やシャレにならなさで言えばもっとヤバい事をする奴らがゴロゴロ居るし、なんだかんだ頼りになる部分も無くはない。

 

 女性サーヴァントからの人気は最下底(当然)だが、男性や子供のサーヴァントからは割と人気があるし、賑やかし系のイベントでは彼が居てくれると場が自然と盛り上がる。普段は見る影も無いが、あの男は「海賊」という概念を世に、人理に定着させしめたと言っても過言では無いのだ――

 

――いやまぁ、それでも普通にキモイと思うけど。オタクでも今時「デュフフwwww」や「萌え萌え~」は無いっしょー。という言葉を、鈴鹿御前は口に出す前に再び飲み込んだ――

 

 

「……ああ」

 

「……(上げてから下げる、とはこの事でござるな……)」

 

「あわわ……! す、すみませんすみません、本当にすみません!!」

 

 先ほどと同様に泰山解説祭が勝手に発動され、己が思考を周囲に晒してしまった鈴鹿御前だが、本人は「ん? ……ああなるほど察したわ。まぁしゃーないっしょ。見られて困る思考でも無いし、そもそも口に出そうとしてたしね。しっきーとリア友になった時点でこういうのは覚悟の上。だから全員気になんてする必要無し!」と明るく笑っている。むしろ彼女の思考を見たバーソロミューの方が、色々と複雑そうな表情をしていた。

 

 

「と、ところでばーそろみゅー殿はなぜそのようなひ弱な霊器を……? 藤丸様に召喚されたと言っておりましたが、もしや召喚時何かあったのですか?」

 

「ああ、それは――」

 

「よくぞ聞いて頂けました、白百合のように凜とした乙女よ!!」

 

「……へ?」

 

「東洋における麗しい天女のようなあなたに聞かれればどのような質問でも答えざるをえません! ええ!! 私はつい先日発生したとある微少特異点を修復する為に映画を撮影しに来た二人のマスターと、紫式部様を始めとする多数のサーヴァントの方々と現地で縁を結ばせて頂いたのですが、その特異点での私は自分がサーヴァントである事以外の記憶を全て失ってしまっていまして……。最終的に記憶の断片が戻った節にその反動で霊器が暴走してしまい、その場で倒されたのですが恐らくはその際、自我や霊器などが曖昧かつ不安定な状態で消滅したのが原因でしょう。特異点が修復されカルデアに召喚された私は、霊器の元となるリソースが大幅に弱体化されていたのです。カルデアの召喚システムに携っているダ・ヴィンチ女史でもすぐに私の霊器を修復する事は不可能らしいので暫くの間は待機、非戦闘要員として過ごすしかないと……。ですが、だからといって霊器保管庫でただ寝ているのも、霊体化してひっそりと過ごすのも性に合わなかったので、こうしてカルデアのキッチンでウェイターとして働かせて頂いている、と言う訳なのです。……ああ! ですが今はこのような霊器で呼び出されたことも、こうしてウェイターとして働く事になったのも、運命の女神による施しだと感じます。なぜなら――――」

 

 

 

――あなたのような、素敵な女性に巡り会えたのですから――

 

 

 

 バーソロミューはそう言うと椅子に座る千代女の前にスッと傅き、そっと彼女に向かって手を差し出す。一瞬、怒濤の勢いで喋り始めたバーソロミューに口を開けてポカンとしていた千代女だが、自分が彼に口説かれているのだと理解すると少しばかり顔が紅くなりだした。

 

 

「どうか、あなたのお名前を聞かせては頂けませんか?」

 

「……こ、こほん。せ、拙者甲賀上忍、真名を望月千代女と申す者。しがないくノ一ではござるが、同じ二人のお館様に仕えるサーヴァントとしてこれからよろしくお願いいたす、ばーそろみゅー殿」

 

「千代女様……。ああ、なんという事でしょう。あなたのお名前、そのたった三文字が、まるで決して外れぬ眼帯の様に私の頭と心に焼き付いてしまいました。とても素敵なお名前をしていらっしゃるのですね」

 

「さ、さようでござろうか……?」

 

 千代女に傅いたまま歯の浮くような台詞を連発するバーソロミューに鈴鹿御前は驚きつつ呆れ、刑部姫は期待通りのキャラに納得するように頷き、紫式部は困ったような笑みを浮かべる。三者三様の反応ではあるが、ある意味見慣れた光景ではあった。

 

 

「えぇ……? なにこいつ。いや、女子をナンパすんのは礼節さえちゃんとしてれば別に良いけど……と言うか、円卓の騎士中心にそれっぽいことを日常的にする奴がカルデアにはそこそこいるから今更気にならないけどさぁ。私達の時と勢いが違いすぎじゃない? お客への礼節を大事にする執事系ホストが、いきなり口説きモード全開の王子様系ホストにチェンジした、みたいな? ってか前にも会った事があるっぽいしっきーは兎も角、なんでおっきーは頷いてんの?」

 

「前に何度かくろひーからバーソロミューさんについて聞いたことがあるって言ったじゃん。何でもあの人、片目隠し系の女子が大好物らしいよ? 

 

『拙者が言えた義理では無いのは重々承知ですが、あいつはあいつでトンでもない変人ですぞおっきー。女子供には手を出さねぇ、弱者からは奪わねぇなんて抜かしてやがるマジもんの気障ったらしでござるが、好みの女に出会った時なんかそりゃあもう必死こいて口説きまくってですな……。化けの皮を脱ぎ捨てて大暴走する変態なんですぞ』

 

 ……って。うんうん! 聞いていた通り、思っていた通りのキャラで姫大満足!!」

 

 鈴鹿御前の疑問に答えながら、刑部姫は懐から取り出したメモ帳代わりの折り紙に筆ペンでさらさらとバーソロミューの奇行を書き連ねてゆく。きっと今日中には彼女の部屋で厳重に保管されているネタ帳へとトレースされるのだろう。要は彼が同人誌(趣味)のネタになりそうな人物たり得たことに、刑部姫は喜んでいるのだ。

 

 

「わ、私は以前特異点でお会いした際に、彼が全力でマシュ様を口説き落とそうとしているのを直に見ておりますので……。立香さまの手で拒まれてはおりましたが」

 

「……まぁ程々にしときなよー。そっちの……バーソロミューだっけ? ちょっち言いづらいからロバートで良い? もね。ちーちゃんがあんたの好みなのはよーく分かったけど、この子こう見えて未亡人なのよね。巴っちやブリュンヒルデレベルじゃ無いけど、一応生前の旦那を今も愛して操を立ててる勢だから、あんましグイグイ行かないよーに」

 

「なんと……。いえ、当然ですね。水辺にひっそりと咲く華のような魅力を持ち、そしてこれ以上なく眼帯が似合う素敵なお方を、世の男共が放っておく筈も無い。……あなたが伴侶としてお選びになったという事は、きっと誇り高く、勇猛果敢な男だったのでしょう。我がご無礼をお許しください、千代女様」

 

 未亡人、という単語にバーソロミューは一瞬だけ目を見張ったが、すぐさま千代女から一歩引くように離れるとちょっぴり残念そうな顔で再び頭を下げた。身を引く時や謝罪する時ですら言動に嫌みったらしさや重さがまるで感じられないのは、彼が一つの場所や物に固執しない自由奔放な海賊だったからなのだろうか。むしろ口説かれていた千代女の方が若干の申し訳なさを感じ、挙動不審になってしまう位だった。

 

 

「い、いえ! どうかお気になさらず。拙者もその、悪い気はしませんでしたので……。そ、そう言えばばーそろみゅー殿。先ほど刑部姫殿の呟きに返した『その疑問が、そのまま答えなのではないでしょうか』とは一体どういう意味なのか教えて下さりませんか?」

 

 ……話に行き詰まったり、妙な空気が流れ出したり、場が滞ったりしそうになった時は、ある程度強引にでも話題を変えてしまうに限る。千代女は今までの会話の中から気になっていた言葉を選び取ると、それを質問としてバーソロミューにぶつけた。

 

 

「ん? ああ、あれですか。言葉通りの意味ですよ」

 

「え、ええっと……。自分で言っておいて何だけど、姫、一体なんて言ったんだったっけ……」

 

「確か『マーくんってば結構頭が良いし、鈍感系主人公属性もないから、ある程度は自分やマーちゃんの好意に気付いてると思うのになぁ……』だったと思います」

 

「そうそう、確かにおっきーってばそれっぽい事言ってた! けど、これが答えってちょい意味不明じゃん?」

 

 刑部姫のこの呟きから推測できるのは ①藤丸は結構頭が良い ②藤丸は鈍感では無い ③自分から立香に向ける、立香から自分に向いている好意に気が付いている。(と、刑部姫は思っている) の三つくらいの筈だ。順序立てて並べたところで、あまり意味があるようには見えないが……。

 

 

「正確に言うと『答えに直結するヒントになっている』でしょうか。逆転の発想で考えてみると分かりやすいかもしれません」

 

「逆転の発想……? え、益々持ってイミフなんですけど。あいつが実は馬鹿で、自分達の中にある好意に気がついてないって事?」

 

「流石にそれは……。藤丸様が勤勉かつ努力家なのはかるであに召喚されたささーう゛ぁんとの殆どが知っています。恋事に敏感かどうかは分かりませぬが、少なくとも立香様の事に関して言うならば鈍感では無いでしょう。些か無理があるかと」

 

「だよねぇ……?」と、鈴鹿御前が千代女の発言に同意するように頷いた時だった。「……あ」という小さな、それでいて何かに気付いたような声が紫式部から漏れる。

 

 

「しっきー?」

 

「……あ、ああ! もしや、そういう事だったんですか!?」

 

 何か思いついたことがあるのか、目を見開いてバーソロミューの方を見る紫式部。答えを求められるかのように見つめられたバーソロミューは「さぁ? 私が思いついたのが「それ」であっただけで、詳細や真相は全く」と返す。

 

 

「なになに、どうしたっての? 何か分かったなら私らにも――!」

 

「……ああ! 姫も何となく分かった気がする!! え、でもそれマジ? マーくんってそういう趣味だったっけ!? 姫達が気付いて無かっただけ!??」

 

「えちょ、おっきーまで分かったっての!? 嘘でしょう!? 恋愛経験も結婚経験も無いのに!!?」

 

 不意に鈴鹿御前からディスられて「ゴウッフ!」と鳩尾をグーで殴られたかのような声を漏らす刑部姫。「……な、なんでいきなり姫をディスった訳……?」と聞くと「いや、ごめん。おっきーが分かったのにJK()が分からないってのが悔しくてつい」と悪びれる様子も無く答えやがった。呪ってやろうか。

 

 

「せ、拙者もあまり見当がつきませぬ。お二方は一体何に気付いたのでござるか?」

 

「……気付いた、というよりは刑部姫様の考察が『全て合っているならもうこれしか可能性がなくなった』と言った感じでしょうか」

 

「ひ、姫は恋愛を題材にした創作で有りそうな形を片っ端から拾ってたら、それっぽいのを思いついたって感じかな。マーくんのイメージとちょい離れてたからすぐには出てこなかったけど……」

 

「ですね……。いえ、決してそういうのが悪いと言っている訳ではありませんが……」

 

「あーもう、焦れったいなぁ! はいはい! 何か思い付いたんだったら二人だけで共感してないで超さっさと言うし!!」

 

 何時までもうんうんと頷きあっている文系サーヴァント二人に、とうとう鈴鹿御前が声を張り上げて主張する。なるべく自分で考えた末に思い付きたかったが、このままでは二人の話しに置いてけぼりにされてしまうだろう。

 

 

「――――意図的だったら?」

 

「……え?」

 

「頭が良く、鈍感でも無い。そして、自らの内に有る恋心に気付いている。刑部姫様の言ったこれらの「どれかが間違っている」のではなく「全部当たっている」のであれば、それはもう立香さまに対して『意図的にそういう言動をしている』ということになりませんか?」

 

 事件の真相を告げる名探偵のように、バーソロミューは言う。シャーロック・ホームズの様な本職の探偵とは比べるべくもないが、流暢な喋りで己の考えを話す彼は、その顔立ちなども相まってなかなか様になっていた。

 

 

「意図的に、でござるか? ……分からぬ。告白とも取れる内情を告げて、気前よく飲み物を奢り、更には相手の嗜好をさり気なく汲み取って恥を掻かせぬように立ち回る。……ここまでしておいて、最後の最後で好感度を下げる言い回しをワザとする理由が無いでござる。恋心を抱く相手にする言動にしては――」

 

「いえ――――矛盾はしていませんよ千代女様」

 

「……?」

 

「確か、刑部姫様はこう仰っていましたよね?」

 

 ――今の今まで完璧だったイケメンな対応はどうしちゃったの? 何で最後の最後でダメンズ(ポンコツ)になっちゃうの!? ほんの一瞬だったけどマーちゃん凄く複雑で、ちょっぴり残念そうな顔してたよ!!?――

 

 

「最後の最後で藤丸様がああいう言い回しをした結果、立香様は複雑かつ残念そうな顔をされたと。……なら『その残念そうな顔を見ることこそが藤丸様の目的だった』のでは?」

 

「……あ」

 

 バーソロミューの考えを聞いて、鈴鹿御前と千代女の頭の中に刑部姫の語った浴場前での出来事が改めて思い起こされる。

 

 藤丸が立香より早く風呂から上がっていたのは、万一にも彼女を待たせない為だろう。内情を躊躇無く告げたのは、自分の気持ちを素直に伝えたかったからだろう。牛乳瓶を二つ用意したのは、立香が二つの内どちらを選んでも大丈夫なようにだろう。

 

 

 ……なら、ワザワザ紙コップなんて物を用意したのは、異性である立香に気を使おうとしたからか? 

 

 

 

 

 

「……これは私の想像……。いえ、妄想と言ってもいい根拠の薄い推測ですが、恐らく――」

 

 

 

 

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