Fate/GrandOrder_藤丸と立香   作:部屋ノ 隅

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第一の夢 逢瀬 その二

「ほっとけーきはすてき♪」

「ほっとけーきはすてーきー♪」

「まぜたらあとはやくだけで♪」

「ブツブツまぁるくいいかたち♪」

 

子供らしい舌ったらずな、でも楽しげなリズムに乗せて、ちびっ子サーヴァント達が藤丸の周りで童謡を口ずさんでいる。彼女達のキラキラした視線は今、藤丸の手元で焼かれているホットケーキにこれ以上無く注がれていた。

 

(なつかしいなぁ……まだ幼稚園生の時に音楽の授業で歌ったっけ)

 

もう殆ど覚えていない幼稚園時代の出来事に思いを馳せつつも、藤丸はホットプレートの上で焼かれているホットケーキから目を離そうとはしない。

 

「ほっとけーきはすてき♪」

「ほっとけーきはすてーきー♪」

「ひっくりかえしたらほっとけば♪」

「そろそろあまいいいにおい♪」

 

歌の通りに片面が焼けたホットケーキをヘラでひっくり返した。ムラの無い綺麗な焼き加減に藤丸が安心していると、同じく歌の通りに甘くてとても良い匂いが漂ってくる。

 ……CKF(カルデア・キッチン・ファミリー)のみんなに頼んだ方が何十倍も何百倍も出来の良い物が食べられるという事は、彼女達もよーく分かっている筈だ。それでも彼女達が求めたのは自分が作ったホットケーキであり、それならば藤丸は自分に出来る精一杯を尽くして、彼女達にお菓子を振る舞うべきである。

 

「ほっとけーきはすてき♪」

「ほっとけーきはすてーきー♪」

「たべたらあとはほっとけば♪」

「だんだんまぁるいいいきもち♪」

 

 両面が綺麗に焼かれたホットケーキを大きめの皿に二枚ずつ盛り付けると、そこにクリームチーズと生クリーム、それからお手製のカッテージチーズを混ぜただけのなんちゃってチーズクリームと、冷凍されたベリーミックスに砂糖とレモン汁をまぶして、電子レンジでチンした後にハチミツを加えただけのなんちゃってベリーソースを、なるべく見栄えが良くなるよう丁寧に添えて――

 

「ほい、出来たぞ「ちょっと豪華に見えるだけの、普通のホットケーキ」だ」

「「「「わーい!!」」」」

 

 ちびっ子達の歓声が、キッチンの一角に鳴り響く。「より美味しいもの」ではなく「藤丸(マスター)が作ってくれたもの」を求めた彼女達のお眼鏡にかなうだけの価値があるのかどうか、若干不安な藤丸だった。

 

 

 

 

 

 第一の夢 逢瀬 その二

 

 

 

 

 

 カチャカチャと、ナイフとフォークを動かす金属音が連続した。先ほど焼かれたホットケーキが瞬く間に一口大に切られ、フォークの先端と共に口の中へと消えてゆく。

 藤丸特製のホットケーキを食べたその人物が満足そうな笑みを浮かべるのに対し、とうの藤丸本人は不機嫌そうな表情を隠そうともしない。

 

「はぁ……」

 

 思わず疲れと愁いを帯びた深いため息まで出た。

 

「うんうん! 心配する事なんか無いって!! 十分美味しいじゃん。そりゃあ「料理こそが我が半生」とか言い出しそうなアーチャーが仕切ってるCKF(カルデア・キッチン・ファミリー)のみんなの料理と比べれば劣るんだろうけど……」

 

「うむ。しかも我らが保存しておいた時間短縮用の作り置き食材を一切消費する事なく、短時間でこのクオリティの品を完成させられるとはな……家庭料理としてなら「ああ……安心した。もう教える事は何も無い……」と縁側で免許皆伝(偽)を渡しながら三時間ほど永眠出来るまであるのだわん」

 

「偽物じゃねーか!? 免許皆伝してねぇし!! ってか「三時間ほど永眠」ってなんだよその矛盾しかないパワーワード……」

 

「む? 知らんのかご主人。今の世は死亡してから二十四時間経たないと焼却も埋葬も出来ないらしいぞ? つまり即、骨までミディアムにされる可能性が無い以上、死んでから三時間後に蘇れば――」

 

「それはそもそも「永眠した」って言わないから」

 

 マズイ、話が脱線しかけている。違う、そうじゃない。「そこ」じゃない。少し前ならば兎も角、今の俺は味に対する心配なんかしていない。

 

「俺は・なんで・お前ら二人にまで・おやつを作る羽目になってんだって言ってんだよ! アストルフォは兎も角、キャットは自分でもっと綺麗で美味い物を作れるだろ!?」

 

 そうだ。藤丸は自分の不注意で要らない心配を掛けた、幼子の姿を形取っているサーヴァント四騎と和解する事に成功し、仲直りと謝罪の意を兼ねて、カルデアのキッチンで彼女達と簡単なおやつを作っていた筈だ。

 

 管制室でバニヤンと一悶着あったあの後、藤丸はすぐに彼女と共にジャック、ナーサリー、アビーの元へ向かうとこっちの意をシッカリと伝えて三人の誤解を解いた。

 自分達は決してマスターに嫌われた訳ではなかったのだと安心させ「添い寝は頻繁にしてやる事が出来ない」「その代わりに何かして欲しい事は無いか」と聞くと、彼女達は揃って藤丸が作ったおかしを要求してきたから、じゃあみんなが好きなホットケーキを焼こうとカルデアのキッチンに赴き、みんなで仲良く調理をしてホットケーキを完成させ、さぁ後は食べるだけという段階になって……理性蒸発組がキッチンへとやって来た。

 

 

 自由奔放を絵に描いたような野生の獣であるタマモキャットを引き連れて飛び込むようにキッチンへと雪崩れ込んできたのは、桃色の長髪を三つ編みにして可愛らしい洋服を着た、一見女の子にしか見えない人物。月を含めて文字通り世界中を旅した冒険家であり、イングランドの王子兼騎士。

 

 真名をアストルフォ。シャルルマーニュ王に仕える、偉大なる十二勇士の一人なのだが……ご覧の通り、理性が蒸発しているクレイジーサーヴァントだ。霊基はライダーだが、バーサーカーでも十分通じると藤丸は思う。

 

 

「いやー、そりゃあケーキの焼ける良い匂いがぷんぷんと漂ってきたらさぁ。お邪魔しちゃうよねぇ? マスターのエプロン姿なんてレア場面も見れたわけだし……脳内HDD? だったっけ? に保存しとかなくちゃね! あ、マスター! 脳内HDDに保存ってどうやるの?」

 

「確かにキャットはご主人よりも旨い物を作れるぞ? けどそこはそこの幼女共と一緒だ。ご主人が作ってくれたという付加価値があるだけで、キャットはそれを食したい。偉い人はこう言った。「料理は愛だ。愛があればLove is OK なのDEATH」と」

 

 アストルフォ、今すぐ黒髭の所に行ってこい。やり方を教えてくれるだろうから。それか、豆腐の角にでも頭をぶつけると良いんじゃないか?

 キャット。気持ちは嬉しいけど、言葉の使い方と意味が大きく間違ってる。それと、どこから仕入れてくるんだその現代日本人でも知っている、覚えている人がどれだけいるか分からない番組の知識。

 

「そうそう! なのにマスターったら「お前達の分は無いぞ?」なんて意地悪言っちゃってさー」

 

「ドSなのだな。ヴィランなのだな。「この世で唯一普遍の正義とは、お腹が空いている子供に食べ物を分け与えてやることである」という名言を知らないのかご主人よ」

 

「その「お腹が空いている子供」に土下座してまでホットケーキを分けてもらおうとしていた残念なサーヴァントが今俺の目の前に二人いるんだけどな?」

 

 残念兼厄介な物(キャットとアストルフォ)を見ている藤丸の目がジロリ、と細くなるが、二人はどこ吹く風だ。この二人がバニヤン達からホットケーキを土下座してまで分けてもらおうと(強奪しようと)なんてしたから、藤丸は追加の分を焼き上げる事になったと言うのに。(特に、アストルフォに至っては仰向けに寝転んで「食べたい食べたい食べたーい!!」と手足をバタバタと暴れさせてまで主張していた)

 

 二人のガキ(子供ではなく「ガキ」なのが重要)染みた見苦しい我が儘に対し、快く自分達の分を差し出そうとした彼女達の方が何倍も大人のそれだった。お前ら恥ずかしくないのか。

 

「まぁまぁ。良いじゃないマスターさん。折角マスターさんが美味しい美味しいホットケーキを焼いてくれたんだもの。大勢で食べた方がきっともっと美味しいと思うわ!」

 

 二人に対して文句とツッコミを入れ続ける藤丸を宥めようとニッコリ微笑んだのは、肌身離さず手に持っている熊のぬいぐるみと、腰まで伸びているくすんだ金髪と、頭の左右に結ばれた二種類のリボンが印象的な女の子。十七世紀アメリカのセイレムであった魔女裁判において「始まり」とされる少女。

 

 深淵を宿す現し身となりて禁断の秘鑰を導き、究極の門へと至ろうとした「魔女」であり、人間の「悪意を憎む悪意」の被害者。「アビゲイル・ウィリアムズ」通称アビー。ちびっ子組と称されるサーヴァント達の、お姉さん役だ。

 

「そうよ「たべたらあとはほっとけば♪ だんだんまぁるいいいきもち♪」になるんだもの! いつまでもそんな怖い顔をしてたらダメよ!!」

 

「うん! 「ほっとけーきはすてーきー♪」なんだよ? おかあさん」

 

 続いて、本より出でる魔力そのものがサーヴァントとして形を成した者。ありとあらゆる童話の友であり、その代弁者。夢見る少女(アリス)の味方。銀髪三つ編みツインテールで紫色の瞳をした、これ以上無くゴスロリファッションが似合う少女。「ナーサリー・ライム」。

 

 霧の都ロンドンに突如として現われた、女性のみを狙う連続殺人鬼。何人もの女性を殺害しておきながら、スコットランドヤードの捜査網にまるで引っかかる事無く、それこそ霧のように姿を消した正体不明の人物。水子の集合体。母を求める者。

 下着として着ているのか、それとも服という認識なのか、あまりにも頼りない胸当てと薄手のパンツを着ただけの、白髪で短髪の少女「ジャック・ザ・リッパー」……の、数多ある「可能性」の一つとしてサーヴァントの座に登録されている、なぜかマスターになった魔術師の事を「おかあさん」と呼ぶ女の子だ。

 

「うんうん! みんなで仲良くおやつ……とっても嬉しくて楽しいね!」

 

 そして、アメリカに突如として広まった開拓神話(トール・テイル)から生み出された「ポール・バニヤン」。どの少女の表情も楽しげで、余計な異分子が二人もいる事に対する不満は微塵も感じられない。

 

(……なんだかんだこの四人が楽しめているならそれで良いか)

 

 すっかり毒気を抜かれた藤丸はため息を一回つくと、大きめのグラスに入ったアイスコーヒー(自分以外はココア)をグイッ、と煽って喉を潤す。そうして再びグラスをテーブルに置いた時だった。

 

 

 

「はい、マスター♪ あーん♡」

 

 

 

 アストルフォが藤丸に対して行ったそれを見て、テーブルに座る少女達の雰囲気が一変した。

 

「……一応聞くぞ、なにやってんだお前」

 

 本来、目の前で行われている行動についてこうして一々確認を取る必要など無い筈なのだが、アストルフォやキャットのようなトンでもサーヴァントの場合は話が別だ。現状を把握する事は出来ても、理解する事を一瞬脳が拒絶する事がある

 アストルフォは、一口大に切られたホットケーキが突き刺さったフォークを藤丸の口周辺へと運ぼうとしていた。

 

「え? マスターと食べさせっこだけど?」

 

「俺が食って、でもって返す前提で話を進めてんじゃねぇよ!? いらないしやらな……ってちょっと待て、なんでキャットまでフォークを構えてんだ!?」

 

「くっ……! このタマモキャット一生の不覚……!! 俊敏はキャットの方が上の筈なのだが……ご主人からの餌に我を失い、美味しいシチュエーション(ご奉仕)を忘れるとはメイド失格だ……!! が、見ていろご主人。キャットの卍解はここからだ」

 

「おい、最後の方明らかにニュアンスが違っただろ」

 

 ダメだ、やはり話を聞いてくれない。そもそも、藤丸は甘い物があまり好きではないのだ。自分用に作ったのも、チーズクリームに加える砂糖を少なめにしてあるし、ベリーソースは掛けていない。代わりにミルクパウダーとインスタントコーヒーを生地に混ぜ込んである、糖分控えめの物。

 嫌い、と言うほどではないにしろ、あまり積極的にお腹に入れたいと思う種類の食べ物ではない。少なくともCKFに属するキャットはそれを知っている筈なのだが……。

 

「「「「マスター!!」」」」

 

 突如としてハモったその大声にビクッと肩を竦める。見ると、アストルフォとキャットに対抗するようにちびっ子組四人がフォークにホットケーキを突き刺して藤丸の方へと向けていた。

 先ほどまでの「柔らかくてまぁるい良い気持ち」は何処へやら。バニヤンとジャックは明らかに不機嫌オーラ全開で、ナーサリーは顔を赤らめつつも鉄のような意思でいの一番にグイグイと迫り、アビーは笑顔だが目が笑っていない。

 

「あの……み、みんな?」

 

「「「「私(達)の方から食べて!!!!」」」」

 

 結局、有無を言わさずといったオーラで迫る四人+のんきでマイペースな理性蒸発組の差し出すホットケーキを、藤丸は口に入れ続ける事になった。なんで俺はみんなのために作った自作のホットケーキを自分で食べ続けているのだろう。

「おいしい?」そう何度か聞かれたが返答に困る。そりゃ不味くはないし、そう作ってないから当然だけど、同じ物なんだから味に差なんて出る訳ないだろうに。

 

 

 

 

 

カルデア――資料室の隅にある勉強スペース――

 

 

 

 

「――――って事があってさ。だからもう当分の間ホットケーキは食べたくないんだ」

 

 ヘタすれば向こう一年分ぐらいのホットケーキを食べる事になった藤丸は、勉強の休憩にどうかとプチパンケーキを差し出してきた「教授」のそれを拒絶した理由を、大まかに伝え終える。

 時刻はもうすぐ夜の十一時半を回ろうかといった所で、なるほど確かに体は疲れたと訴えているし、若干小腹が空いたような気がしなくもないが、甘いお菓子よりは苦いチョコレート(疲労回復剤)が欲しい。

 

「ハッハッハッ! なるほどそりゃあ災難だったネMy boy」

 

 藤丸の話を聞いて笑っているのは、自らの真名を明かさずに「教授」と名乗り続けている謎のサーヴァント(男)。

 

 若干萎びている気がする髪の毛と肌、そして声から察するに、恐らく五十路は過ぎているだろう。数学に関する知識はキャスター系のサーヴァントに負けず劣らずの、まさに「教授」を名乗るに相応しい物。機能しているのかそれとも伊達か、明らかに高そうな眼鏡を掛けていて、襟の部分に蒼い羽をあしらえたお洒落なコートを纏っている、身だしなみに気を遣うイケオジ(自称)だ。言葉の前後に「胡散臭い」が付くが。

 

 ……なにより特徴的な事として「シャーロック・ホームズが嫌いで、ライバル視している」という点が上げられるこの男の真名を藤丸も大体察してはいるのだが、いざ言おうとすると、毎度毎度計ったようなタイミングで小さなハプニングが起って結局有耶無耶になってしまい、以後その繰り返し。

 

「本人も嫌がっているみたいだし、まぁ良いか」と藤丸が真名には触れないでおこうと決めてからは、トンとハプニングやトラブルは収まっている。この教授の策略だけではなく、なにか世界の意思めいたものを感じてしまう藤丸だった。

 

 教授は「ふむ」と独り言ちるとプチパンケーキを二枚纏めて口に放り込んで咀嚼し、そのままティーカップに入れられた紅茶で喉を潤す。

 

「サーヴァント云々以前の問題として彼女達は子供……正確に言うと、第一次成長期の子供(レディ)だ。ミス・アビゲイルは微妙だが、まぁ一括りにして問題無い。人ならば色々な事に多感となって興味を持ち、また、好きな人や好きな事へ一気に傾倒をしだし始める感受性豊かな時期だネ。いかにサーヴァントであろうとも、霊基のベースが子供を型取っているのだから、当然言動や心境もそれに寄ると言う訳だ」

 

 ギルガメッシュ王の子供時代……通称「子ギル」くんが良い例だろう? と、教授は言う。確かにあの傍若無人で我が儘放題。唯我独尊の権化であり、いくつかの「例外」を除いて人を人とも思っていないような古代ウルクの王ギルガメッシュの子供時代が、品行方正で人に優しく、他人を重んじている「子ギル」であると言われても、納得しがたい物はある。別の世界や宇宙からやって来た「限りなく別人に近い同一人物の子供姿」と言われれば納得出来そうではあるが、子ギルは正真正銘、あのギルガメッシュが若返りの霊薬を呑んだ事で顕現し、座に登録された存在なので別人ではないし、同一の人物だ。

 

(つまり……教授も子供時代の姿で召喚されれば大分違ったりするのか?)

 

 暫く考えてみたが、ダメだ。まるで想像する事が出来ない。若くても胡散臭い部分は恐らく変わらないだろうという確信があるにも関わらずだ。

 

「いやはや、私にはトンと縁が無かったから経験則ではなく計算する事でしか君の心境を察し得ないんだが……君も大変だねぇ」

 

 ニヤニヤとこちらを見てゲスい笑みを浮かべる教授は、まぁ原因の一端は君にもあるんだがと前置きした上で

 

「「子供は世界の宝」。古今東西、現実でも物語の中でも腐るほど出てくる言葉だ。なるほどその思考は十分理解出来るがネ、いざ直面してみると厄介な事この上ない。仕方のない事ではあるんだが、彼らは見ている「世界」が狭い。感情で動く事が多い故に理解できる事が少なく、なにより理知的でない。正直な話、私は苦手サ。そして君は、何の縁か彼女達に大いに好かれている。バーサーカーであり、恋による愛憎を体現したようなミス・清姫は例外としてだ。それが良いか悪いか、善か悪かはさておき、相手への好意や不満、そして嫌悪を感情のまま、それも自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)法則(ルール)に従って示した所で、相手に理解して貰える筈など無いというのに」

 

 両手を頭の横に持ってきて、そのままヤレヤレと首を横に振った。あの道化を地で行く悪魔(厳密にはホムンクルスの一種らしいが)のサーヴァント程ではないにしろ、独自の胡散臭さも相まってその仕草はかなり様になっている。

 

「理知的じゃない、か」

 

 ……ようするに、子供独自の好意表現や自分だけの法則(パーソナル・リアリティ)に毎度付き合わされて大変ですね。と、このアラフィフ紳士は言いたいらしい。

 違う。確かに結果として同じかもしれないが、それは大前提が間違っている。

 

「だったら尚のこと周囲の大人が……周りにいる奴がちゃんとして、色々と面倒を見なきゃダメだろ。確かにちょっと大変だし、「先生」って凄いんだなって思った事は何度もあるけど、俺は好きでバニヤン達と遊んでるし、話してるんだ」

 

 ‘なんとも思ってないけどマスターだから仕方なく付き合っている,と‘彼女達の事が好きだから自分から巻き込まれている,のとでは訳が違う。彼女達と遊ぶのは大変だけど楽しいし、世界が狭い分、新しい事を教えられるし教えて貰える。そして、面倒臭く理知的ではないが――それを他人に吐露するかどうかはまた別として――自分の気持ちに素直だ。

 

 確かに苦労はしているかもしれないが、決して嫌なものではない。むしろ苦労や疲労の度合いならば、彼女達のそれは他のサーヴァント達のそれと比べてかなりマシな方である。

 

「なるほどご尤もな意見だ。実にMy boyらしい。でも――」

 

 まだ詰ろうとするか。なにか考えあっての事なんだろうけど、それならこっちにも考えがあるぞ。と、藤丸は教授の言葉を遮って反撃を開始する。

 

「それと、教授だって人の事は言えないじゃん」

 

「ん?」

 

「時々フランがあいつらに混ざって一緒に遊んでくれてるからよく話したり、それから一緒に飯食ったりするんだ。その時に聞いたんだけど――」

 

 ギクリ、とほんの一瞬ではあるが、教授の目が泳いだ。よし、予想通り。流石に彼女の事なら「パパ(自称)」として無視できまい。狙い通りの反応が見られた事にほくそ笑みながら藤丸は続ける。

 

「「戦闘時に何かと理由をつけて横入りし、自分を安全圏に誘導しようとする」」

 

「うっ」

 

「「時々やらせる宿題が、数学を除いて採点甘め」」

 

「ぐうっ」

 

「「加齢臭についてほんのちょっと言及したら、次の日には体中からフローラルな香水の香りを漂わせていたのが自意識過剰で気持ち悪――」

 

「マスター。分かった。私が悪かった。だから止めてくれ、その言葉(魔術)は私に効く」

 

 想像以上に早く机に突っ伏して白旗を揚げた教授に、藤丸は「え~? ここからが良いところなんだけどなぁ?」と先ほどの教授のようなニヤニヤとした笑みを浮かべた。子供組と遊んでいる時や、マシュと団欒している時には欠片も見せる事がない愉悦の笑みだ。この男、自覚があるのかどうかは分からないがSの気質有りである。

 

 フラン――正式名称「フランケンシュタインの怪物」。天才学者フランケンシュタイン博士が楽園(エデン)にいた原初の女性イヴを指針として造りあげたホムンクルス。ガーベラのような紅くて綺麗な短髪に、新婦のような純白のドレスがよく映えている、額から伸びた一本のツノがチャーミングポイントの彼女。

 

 そんな彼女に「パパ」と呼ばれたあの夏以降。この教授はフランへ、まるで本当に子煩悩な父親みたいな態度と接し方をするようになった。言い出したフランの方が困るぐらいに。

 

(まぁ、少なくともこれで教授はあいつらの事をそう簡単に詰らなくなるだろ。例え冗談であってもな)

 

 藤丸が教授に対して言いたかった、教えたかったのはフランから聞いた愚痴などではなく「彼女達はフランの友達だぞ」という事実の方だ。フランに対しては完全に親バカをかましているこの男がそれを知れば、必ず思い至る。妹のようにも思う年下の友達を詰る自分の姿を最愛の娘(フラン)が知ればどうなるか――。そして、その事実はいつでも藤丸の口から彼女に伝わるのだという事も。

 

「まったく……こんないたいけなアラフィフを虐めて楽しいのかね君は……」

 

「虐める、なんて人聞きが悪いな、ただ子煩悩な父親に悩む娘の言葉を代弁しただけじゃないか。いやぁ随分と「子供」の事が好きなみたいで……あ、でも無理に添い寝しようとするのだけはマジで止めといた方が良いぞ。バニヤン達を寝かしつける時に聞いたんだけど、ガチで嫌がってるみたいだからなあいつ」

 

「……悲しいが肝に銘じ……ん? いやちょっと待ってくれマスター」

 

「なんだよ? まだなにかあるのか?」

 

 面倒臭げな表情で答えた藤丸に対し、教授はやけに神妙かつ、なにか恐ろしい物を見たような顔をしている。その表情はまるで、捜査の見落としに手遅れ寸前でようやく気付いた探偵みたいだった。

 

 彼はゆっくりと息を吐くように藤丸に確認する。

 

「……ガール達を寝かしつける時にフランから聞いたんだよネ? ちょっとその時の事を詳しく聞かせて貰えないかな?」

 

「詳しくっつっても……前に俺が「勝手にベッドに潜り込むのはダメだけど、一緒にお昼寝するってんなら良いぞ」って伝えて、あいつらもそれで良いって言ったからみんなで昼寝しようってことになって、丁度その時フランも一緒に遊んでたから、そのままみんな一緒の布団で昼寝を――」

 

「よし、ちょっと真面目に話し合おうじゃないかこの野郎」

 

 

 なんで(パパ)はダメで彼は良いんだいフラーン!! という魂の叫びを無理矢理押し殺して、教授は藤丸に更なる尋問を開始する。

 

 

 

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