魔神柱だった   作:ONE DICE TWENTY

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まだ日曜日の25時半なのでセーフ。


ならばすべてのことは、この一瞬に

*

 

 

 

『見えないモノが見え、聞こえない筈の声が聞こえる。

 魔術というより……それは、一種の()()だ』

 

 ようやく回復した、カルデアとの通信。

 何故か音声だけは届かなかったが、筆談によって可能になった情報共有の場で、その場にいた面々は既視感を覚えた。

 

 セイレム侵入と同時に記憶を改ざんされた、とダ・ヴィンチちゃんは言った。

 認識を置換され、現在受け取っている情報と知識を正しく結び付けられない状態にあると。

 その中で発せられたその一節。

 

「見えないモノが、見えて」

「聞こえない筈の声が聞こえる……?」

 

 サーヴァント相手にも通じる幻術だと、大魔女は認識した。温かいスープと肉汁溢れる肉詰め。柔らかいパン。

 あり得ないヒトの声が聞こえた。少なくともその場にいた全員が、聞いた。

 

『だが、たとえ魔神柱であろうとも、契約もなく、相手を根底から改変する力などない』

 

 それを行ったとされる少女は――魔神柱ですらない。

 単なる魔術師だと、そう名乗っていた。

 

『あぁ、だからそのアン・パットナムという少女は、絶対に――なきゃ――』

 

 通信にノイズが走る。筆談ゆえに、映像が乱れると文字が読み取れない。

 技術スタッフが相当無理をしているのだろう、あのメディアが後ろを気遣う様にちらちらとみているのが受け取れた。それは相当な異常事態である。

 

『次はもっと効率よく情報交換をしよう』

 

 そんなフリップと共に。

 カルデアとの通信は、一時途絶となるのだった。

 

 

 

*

 

 

 

 とうとう手が付けられなくなってきたな、と。

 丘の上から、村の中を眺めながら思う。

 

 別にこれが初めて、というわけではない。何度も繰り返しているのだ。こんなことを。

 筋書こそ違ったが、ウェイトリー家が連れてこられた時にも似たようなことが起きた。よそ者の排他と利己的な団結。

 相互理解を諦めた人間の末路。まったく、なぜこれが、あんな力を得られるのか。

 

「セイレム村は正直、期待外れだった。彼の王が落胆した人間そのもの。でも」

 

 今、村の中心部で彼らがもめ事を起こしている。

 巻き込まれた――そう言えば聞こえはいいが、実際、この排他的な村の人間たちの前に現れたこと自体が失策だ。自業自得と言ってもいいくらいには。

 カルデア。

 星詠みの天文台。

 未来を変えるために、過去を変えた()()を止めた者たち。

 

 彼らを呼び込んだことは、何もカラス野郎の思惑だけではない。

 僕もまた、そこに興味があった。あの場での脅威と――疑念。

 

 僕が見抜いたその真実が、正答だと、そう証明される日は近い。

 

「……本当に、それだけでいいのか?」

 

 問うのは虚空。

 己。

 

 僕は自身が魔神柱であることを忘れていた。

 忘れるに足る理由があったはずだ。

 魔神柱が何かの衝撃で忘れた、なんてことは考え難い。だから多分、自ら忘れたんだろう。

 でも、何故?

 ……まだ、わからない。

 

「……僕の覚悟は、ずっと昔に決まっている」

 

 誰に呟くわけでもない。

 自己確認。でも、大事なことだ。

 

「しっかし、ビルも情けない役所だよねぇ。まさかフラれた女を腹いせに告発する役目、なんてさ」

 

 僕が母アンだった頃には、もう少しいい感じの好青年だった。気が多いのは今も昔も変わらないけど、恋が叶わなくともへこたれず、ケアも忘れない。若造としか思えない年齢の頃の話だよ?

 それが年を経て、村に染まって、理解を忘れて。

 良い様に利用されて……ねぇ。

 

「レベッカも、子供たちにとっては近所の優しいおばさん、って感じで……よく野菜をもらっていたっけ。メアリは売上が減るでしょ! なんて怒っていたけれど」

 

 地面の土を掴んで、サラサラと風に流す。

 最初の話だ。あのカラス野郎が、この村に目をつける前の話。

 僕のほうが一足先にこの村に生まれ出でて、この村で始まり……カラス野郎に言わせるのなら、零回目を経験した。何度も繰り返すこの巨大な実験場の、見本となったあの平和と惨劇。

 こんなに作為的じゃなかったし、暗鬱ともしていなかった。

 効率を求められた結果、それぞれが変な役どころに収められて、狂気的としか言いようがない行動を取っているのだ。

 

 ピックマン夫妻の、一見まともそうな行動さえも演出で。

 そのあまりにももっともらしい悲劇に、彼らは絡めとられていく。

 ここは現世より遠く、虚ろに最も近い場所。

 

「こ……こに、いた……のね……アン・パットナム……!」

「うん?」

 

 振り返る。

 絞首台の横に、彼女はいた。

 

「やぁ、ラヴィニア。何用かな?」

「あな……たが……! お父様、や、おじい様……を……陥れた事は、知っているのよ……!」

「そうかい。それは陽気な事だね。僕がウェイトリー家を陥れる、そのメリットがあるように思うかい?」

 

 震える手で何かを握りしめている。イブン=グハジの粉かな? それとも単純にナイフかな?

 敵討ちだろうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けれど、父親と対等に話していた存在に彼女が敵うと本当に思っているのだろうか?

 だとしたら、お笑い種だ。

 魔神柱としてではなく――魔術師パットナムとして、お相手いたそうか。

 

「……」

「うん? 知っているから、どうするんだい? 僕を父親や祖父と同じ目に遭わせる……そういうつもりなんだろう?」

 

 勿論、傷つけるつもりはない。

 最後の取引で、ノアとは約束を交わした。ノアの記憶を対価に、ラヴィニア・ウェイトリーを託されると。

 それでも、襲い来る火の粉は払わなければ。

 

「……お願いが……ある、わ……。魔術師、パットナム……貴女に、お願いが」

「――へぇ?」

 

 それは――いいね、予想外だ。

 聞こうじゃあないか。

 

 

 

*

 

 

 

 マタ・ハリの処刑が執行された。同じくして、ピックマン夫人も。

 そうして膨れ上がる妖気――死体がまた、食屍鬼となって現れる。

 今しがた死んだピックマン夫人も、マタ・ハリも。

 

 さて、一応は彼らに協力する立場を持ったからね。

 僕も行かなくては。

 

「――精霊達よ!」

 

 すでに戦闘の始まっているそこに、獣の足で駆け付け――その勢いを殺さず、杖の先端でダイレクトアタック! 分類的にはQuickだろう。

 そのまま空中で一回転、二回転と杖をぶん回して、食屍鬼どもの首を叩き切る。

 人間の時には出来ない運動能力は、しかしこの姿でも短時間しか持たない。持久力に関して人間に勝ちうる生物はいないよね。

 

 彼らにバレる前に足を人間に戻して、着地。

 傷もすべて元に戻して、と。

 

「やぁ、素敵な夜だね。みんな集まって、ピクニックかい?」

 

 

 

*

 

 

 

「さて、そろそろ警戒と、出来ればこの縄を解いてくれると助かるんだけどね。ほら、見ての通り、全身に傷を負ったケガ人だよ? 歩くこともままならないんだ、縛っていても意味はないと思うなぁ」

「歩くこともままならねぇヤツが食屍鬼どもの頭上高く飛び出して杖の一本でその首を刎ねる、なんて事ができますかってんだ。ましてやアンタは魔術師。縛り付けておかなきゃ何をするかわかったもんじゃないでしょ」

 

 やれやれ、人の善意を無碍にするとは。

 まぁその、多少、演技がかっていたというか、うさん臭かったのは認めるけれど。

 何も年頃の十二歳の少女を柱にこれでもかと縛り付けて、一晩中放置はさすがに酷いんじゃないかなぁ。

 

「とにかく、今日一日アンタにはおとなしくしててもらいますよ。マタ・ハリ、シバの女王サマ? コイツの見張りは頼んだぜ」

「ええ、わかったわ。そっちこそ、マスターの護衛、気を抜かないでね」

「へいへい、肝に銘じますよっと」

 

 そう言って、ロビンフットはこの隠れ家を出て行った。

 残されたのは、マタ・ハリとティテュバ……否、シバの女王だけ。ほかは全員、出払っている。

 

「うーん……なぁんか、違和感を覚えるんですよねぇ。こう、ビンビンくるっていうかぁ、シンパシーを感じるっていうかぁ……でも()()()()()()()()()()()()()()……」

「それはそれは、光栄な事だね。サーヴァントとはいえシバの女王に同調できるとは」

「あっ……私の商売人としての勘が言ってますよぅ! 貴女と取引をすると必ずこっちが損するぞ、ってぇ」

 

 なんだそのセンサー。

 

「まぁそんなことより、シバの女王。そして、マタ・ハリ。君も気付いているんだろう? シバの女王と言えば――未来視に長けた存在だ。予見し、困難を避けるチカラ。王や花に匹敵するほどのソレ。

 それならば、全てを見通せるのではないか、ってね」

「……確かに、聞きたいことであったのは事実よ。でも、ごめんなさい。私はシバの女王よりも、殊更に、貴女を信用できていないわ。アン・パットナム」

「それはそうだろう。僕はサーヴァント達と違って人格を辿れるものが無い。この英霊ならばこういう行動はしないだろう、という行動規範が全く建てられない。そんなものを信用する、というほうが無理だ」

「いえ、そうではなくて……」

「アナタも未来を予見するような行動を取っているから、ですよねぇ? アン・パットナム。アナタこそ、未来が見えているのではぁ?」

 

 ……まぁ。

 隠すことでも、ないかな。

 

「僕に見えているのは他人の考えであって、未来ではないよ」

「……思考が読めるというの?」

「あぁ、そう言っている。シバの女王、貴女が考えている事も、マタ・ハリ、貴女が考えていることも――ランドルフ・カーターが考えている事も、マシュー・ホプキンスが考えている事も。

 すべて、見えているとも。それを隠そうとする意志のある限り、僕に見えないなんてことはありえない」

 

 それは僕の魔神柱としての特性。

 今までベティに見せていた推理――稚拙で幼稚なものを除けば、大体がこちらの恩恵だ。

 隠したい、知られたくないという負い目があればあるほど、僕にとって手に取るようにわかる考えになる。

 

「そもそも幻術っていうのはそういう魔術だよ。相手の心を読み、相手の欲を知り、相手の心に付け入る。欲が深ければ深いほど、簡単にひっかかる。キルケー(見本)は見せただろう?」

「あぁ……」

 

 哪吒もそれなりに欲深い。

 欲深いからこそ、あの姿に変えられたわけだし。

 

「それに、初めから言っていたはずだよ。僕はこの件の黒幕に用がある、とね。黒幕が誰なのかわかっていなければ、そんなことは言わないさ」

「……それなら、教えて頂戴。

 カーター氏が何を考えているのか。このセイレムで、何が起こっているのか」

「対価を求めよう」

 

 マタ・ハリの顔が険しくなる。

 反面、シバの女王の顔は”まぁ妥当ですよねぇ”という感じ。

 

「……何を求める気?」

「彼の王の話だ」

「ぁ……」

 

 僕は知識として、それを知っている。

 だが、描かれた部分だけだ。彼の日常のすべてを知っているわけではない。

 そしてこの事は別に、誰が隠しているわけでもない。ただ消えてしまった事。

 僕に知ることはできない。

 

「……シバの女王がそれを知りたがるのは、理解できるわ。でも、貴女は何故? いいえ、それよりも、何故貴女が……彼がカルデアにいたことを知っているの?」

「その情報も欲すというのなら、さらなる対価が必要になるけど?」

「……はぁ。商売勘定だけで生きている人は、少し面倒ね……」

「そぉですかぁ? むしろ簡潔明瞭だと思うんですけどねぇ」

 

 全くだね。僕は商売人ではないけれど。

 むしろストリッパーとして、スパイとして渡り歩いた貴女のほうが、商売勘定で生きているんじゃないのかな。あぁ、最後は情に絆されたんだっけ?

 

「わかったわ。話すけれど、その代わり……アンだけじゃなく」

「えぇ、もちろんですよぅ。私ももらった分の対価はきっちりと支払います」

「ところで僕の縄を解いてくれたりは」

「しないわ」

 

 まったく、酷い話もあったものである。

 

 

 

*

 

 

 

 一日が経ち、夜になった。

 なおも僕は縛られたままである。今回は幻術とかでなく、本当に。

 というか、素の状態であるシバの女王に幻術なんか使えない。あれはティテュバとして意識を封じられていたからこそ植え付けられたものであって、人間と魔神の混血である彼女とは本来対等なのだ。

 彼らは焚火の前で、情報共有を行っている。

 (流石に)僕はテントの中の柱に縛り付けられているので、その様子を窺い知ることはできないが、声は聞こえていた。

 

 セイレム村の住民の、名前の話。

 そりゃあそうだ。()()と同じ名前にしたら、本物と同じ行動を取りたがる。カラス野郎の支配が効き難くなる。

 この村で()()と同じ名前をしているのは、僕が母アンとして名づけを手伝った娘達だけ。エリザやメアリやマーシーにベティ。そして僕。

 

 同時に、守ることが出来るのも――。

 

「妖気 だ。これは、村の方」

「まーた襲撃ですかい!? 本当になんなんだこの村は!」

 

 彼らが慌ただしく隠れ家を飛び出していくのが見えた。

 おいおい、置いていく気かい?

 

「おうい、この縄を」

「ふん! 幻術しか使えない魔術師の出る幕はない。そこでおとなしくしているんだな!」

「本当は走れるかもしれない人の縄をほどくのは、ちょっと……ねぇ?」

「自業自得 待機推奨」

 

 ……まぁ、アン・パットナムは療養中になっているはずだから、いいんだけどさ。

 はぁ……足がしびれるなぁ。

 

 

 

*

 

 

 

 夜が明けた。

 いやさ。

 

 帰って……来ないんだけど?

 

 仕方ないなぁ。

 

 

 

*

 

 

 

「動くな」

「動くな、というのなら――こちらのセリフかな?」

 

 祭壇での儀式を行っていたアビゲイルの元に、兵隊を連れたホプキンスが現れた。その傍らにはサンソンも居り、銃を突き付けられたアビゲイルは焦燥する。

 だが、その背後。

 ショットガンを構えるアン・パットナムが、その銃身をホプキンスへと向けていた。

 

「アン・パットナム……?」

「一人で出歩けるほどにまで回復したのかね、パットナム嬢。だが、その手にあるものはなんだ。君には私を害する理由がないと思うのだが?」

 

 杖を突き、足取りもおぼつかない――にもかかわらず、その手に持つ銃は、少女の片手のみの力で、一切たりとも震える事がない。

 しっかりと腋に挟まれ抱えられたショットガンの引き金には、すでに指がかかっていた。

 

「お願いをされていてね――ホプキンス、君には何の恨みもないけれど、すでに()()()()()()()()()()。なれば、僕は契約を遂行するだけだ」

「ッ……貴様、それを下ろ」

 

 ダン、と。

 何の躊躇もなく――散弾が兵士の顔へめり込んだ。

 誰が見てもわかる程に、即死。

 

 アンは器用にも再装填を片手で行い、再度、ホプキンスへと銃口を向ける。

 

「ふむ……契約、と。そういったか」

「ああ」

「それは誰と交わしたものかね? まさか、悪魔……などとは言うまいな」

「勿論」

 

 どす、と。

 鈍い音がした。

 

 全員の視線がアンへと、その銃身へと向いている中での――その小さな人影は、誰の目に留まるでもなく、正確に、確実に。

 ホプキンスの心臓を後ろから刺し貫いた。

 

「契約者は友人の娘。契約内容は――邪魔の排除、だよ」

 

 もう一人の兵士へも、アンは事も無げに引き金を引く。

 よくも、よくもと呟きながら、ホプキンスへとナイフを何度も振り下ろす少女――ラヴィニアへは目もくれず。

 アビゲイルを庇う様に立つ、サンソンと対峙した。

 

「……君は、友人が殺人を犯す事を……止めなかったのか」

「殺人? 復讐だよ、シャルル=アンリ・サンソン。家族を殺されたんだ。殺しもする。だってそうだろう? アブサラムが死んでも、ノアが死んでも、食屍鬼は出てきた。これはつまり、ウェイトリー家にかかっていた容疑は全て冤罪で、それを詳しく調べもせず、二人を縊り殺した――それが、今そこで事切れている男。正当な恨みだよ」

「殺しに、正当など」

「ほう、では正当ではない事を、何代にも渡って行ってきたわけか。シャルル=アンリ・サンソン。四代目サンソン家当主」

「ッ……」

 

 ニヤリと笑うその顔は、とても少女のものとは思えない。

 もっと厭らしく、もっと悍ましい。目の前にいる少女は、紛れもなく魔術師であり――決して十二歳の少女などではないのだと、サンソンは理解した。

 

「あぁ、ラヴィニア……」

「アビゲイル、だめ、だめ、近寄っちゃ。あなたの髪に、ち、血がつくわ」

「そんなの……」

 

 ガシャン、と。

 アンがショットガンを再度、構えた。

 サンソンに向けて。

 

「アン……!?」

「何を驚いているんだい、ラヴィニア。彼はホプキンス側の人間――であれば、邪魔の排除の範疇だ。それとも大人しく捕まって、村人たちの見世物として吊るされる事を所望かい?」

「ぅ、そ、れは……」

「……アン。貴女は、何がしたいの……?」

 

 熱にうなされるような声で、アビゲイルがアンへ問う。

 その顔にあるのは疑念。そして――少しばかりの、怒り。

 

 なぜって。

 そもそも、ティテュバが死んだのは、アンが勝手に人形を持ち出したからで。

 あの儀式に、アンも参加していたのに、なぜかアンだけが、被害者としての立場を得ていて。ティテュバが生きていて、ティテュバはティテュバじゃなくて、そんな彼女とアンは対等にしゃべっていて。

 

「何がしたいの、か。面白い質問だね、アビゲイル。

 決まっている。僕がしたいのは――」

 

「こっちにいましたぜ、マスタぁー!! って、あんだけキツく縛っておいたのに、やっぱり縄抜けの手段があったか!」

 

 凄まじい速度で緑衣の狩人が現れる。

 

「アビーお嬢さんと……サンソン? ……はん、やっぱり敵だった、って事ですかい?」

 

 彼は、アビゲイルとサンソンに並び立つように――つまり、アンに対峙するように肩を並べた。

 その後ろ、続々と面々が現れる。

 多勢に無勢。だが、アンはそのショットガンを下ろさない。

 

「ラヴィニア、逃げてくれると助かるかな。この人数を相手に、君を守り切るのはさすがに厳しい」

「――」

「そうよ、逃げて……ラヴィニア……」

 

 駆け出し、霧の奥へと消えるラヴィニア。

 咄嗟に追おうとするロビンの眼前を、散弾が通り過ぎた。否、ロビンが瞬時に身を引いたのだ。普通に頭部を吹き飛ばすコースだった、という事。

 

「おぉっとぉ!」

「ははは! ショットガンの弾を避けるとは、人間業じゃあない。正直この人数のサーヴァントを単身で相手にするなんて考えられないけど……契約なんでね。少々、付き合ってもらおうか?」

 

 再装填。

 哪吒とロビンが互いに獲物を構える。

 

「……サンソン?」

「ダメです……それ以上、双方が傷つく必要も、手を汚す必要もありません。彼を……ホプキンス判事を刺したのは、そう、僕だ。このナイフで……その事実を招いたことに、代わりは」

「あるよ。彼女の復讐を勝手に背負うなよ。そうでなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……?」

 

 ぽい、とショットガンを中空へ投げるアン。

 その銃身は、靄に包まれるようにして消える。幻術だ。

 

「ここで、この場で、ホプキンスを殺し、捧げたのは彼女だ。カルデア、君たちがやったことでは、決してない」

 

 アンが踵を返す。

 その姿を追おうと、そう思ったその瞬間に、彼女の姿もまた靄となって消えて行った。

 

 

 

*

 

 

 

「いやぁ……どうなってやがるんですかねぇ。夜が明けなければ霧も深い。キルケーの話じゃ井戸水は真っ黒、マタ・ハリの話じゃ大量の虫に鳥。

 ()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()?」

「……わからない。何か……ずっと、靄が……晴れないんだ」

「おいおい、外だけじゃなく頭の中まで霧がかってんですかい」

 

 黎明。

 カルデアの面々がセイレムに来て早七日。

 明けない夜が来てしまったこの村のとある民家に、二人はいた。

 

 ロビンフッドと、シャルル=アンリ・サンソンだ。

 

 目撃者が誰も――そう、誰もいなくなってしまったため、アンに否定されてからというもの瞳の焦点が合わなくなっているサンソンを無理矢理(ロビンが)引っ張って、家に連れてきた次第である。

 現在、マスター含め彼ら以外の面々が出払っていて、情報収集の真っ最中だ。

 

「……ちっ、なんだって……」

「……霧が……これは、何か……」

 

 ただそこに。

 不穏な空気だけが、蔓延していた。

 

 

 

*

 

 

 

「――被告人、アン・パットナム」

 

「君にはマシュー・ホプキンス閣下殺害の嫌疑がかけられている。その事に、何か異存はあるかね?」

 

「――――特には?」

 

 

 

*

 




心に枷を
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