バカと明久と怪異鬼譚【凍結】   作:イビルジョーカー

3 / 10

今回は少しエロを含みますので、ご注意下さい。

では、どうぞ!


第三怪 よしいゾンビ【後】

 

 

俺が『生まれた』……正確に言えば、『発生した』のはつい最近のことだった。

 

俺という存在をどういったものかと表現するなら『寄生虫』という

言葉が最も似合うだろうな。

 

俺は生き物ではなく『怪異』、すなわち、化物。物の怪。妖怪変化。

 

俗に言うとそうことになる。

 

怪異には自分と同じ姿形・同じ性質の別個体がいる『種もち』と単一しかいない

『種なし』というものがあるが、俺には俺と同じ種族がいる為『種もち』に部類

されるのだろう。

 

俺は怪異。怪異とは今俺がいる地球を含めた宇宙の存在する次元とは異なる次元

である『異界』より此方へと流れ出た霊的エネルギーが人々の信仰、恐怖、噂(

知名度)が結び付くことで存在として確立される。

 

そして怪異の行動や性格などは人間の『認識』によって決まるのだ。

 

例えば多くの人間が『幽霊とは残酷で恐ろしい殺人鬼』と思えば、幽霊は悪霊となり

情け容赦なく人々を殺し、逆に『幽霊とは神のように慈悲深く我々を守ってくれる』

と思えばその通りになる。

 

とは言え、全部が全部人間によって決められるものではなく、自らの意思でそうなる

怪異もまた多くいると言えるだろう。少なくともこんなことを言う俺もそういう輩の

端くれさ。

 

俺の種族の名は『宿魂』。

 

本来は人間に憑く類の怪異だが、俺は敢えて踏み切りで死んだ少女の魂に憑いた。

 

そして踏み切りスプラッターとなった。

 

ただ、それだけの話だ。

 

 

 

 

~~明久サイド~~

 

 

 

 

時刻は深夜12時00分。日にちは4月3日。

 

電車は運営を停止させ静寂が包まれた踏み切りから約8m離れた

地点に僕等は立っていた。

 

そう、それはもう死地に赴く武者のように堂々と。

 

裂男はその手に刀身が1mにもなる鉈を持ち、僕は木刀を握っている。

 

裂男の鉈……名を『夢幻月』といい、この世ならざる力が宿った

対怪異用武器で製作者は他ならぬ裂男自身。

 

その効能は『実体無きものを切る』と言うものらしいんだけど、

それはつまり、幽霊を容易く斬れるっていう解釈でいいのかな?

 

とにかくそんな凄い力を秘めてるっぽい鉈に対して僕が所持してる

木刀は自分の家から拝借して来たものだ。

 

何の変哲もない、ただの木刀なんだけど。

 

 

「それでも、無いよりはマシかな?」

 

 

いつの間にか僕はそんなことを呟いていた。

 

 

「裂男。戦う前にちょっとだけ質問いいかな?」

 

「うん、別に構わないよ? 何が聞きたいんだい?」

 

 

これから踏み切りスプラッターと対決するってのに相変わらずの軽い口調で

裂男は僕に対してそう聞いて来る……正直その前向き過ぎる陽気さを分けて

貰いたい位だよ。

 

 

「裂男もさ、怪異なんだよね? だったら何で自分の仲間を殺すような…」

 

「おっと。そいつは愚問って奴だよ~~明久君」

 

 

そう言って裂男は、踏切りのある方向から目を逸らして僕を見た。

 

 

「それが生命体として生きて存在する者は常に生存競争って言う、終わりのない

無間地獄の中で生きてるようなもんなんだよ。怪異だって例外じゃない。

 

同じ種類の蟻でも巣が違えば邂逅した直後に殺し合いを始めるように、同じ種で

の殺し合いなんてのは動物の世界でも……ましてや人間社会じゃ珍しくもない。

 

植物にだって自分の生存と言う利の為に他の植物に寄生して栄養を奪う種類が

いるけど、そうでない普通の植物だって自分の生存の為に栄養を取り合ったり

とか余裕でしてるもんだよ?

 

自分の為に同属をも犠牲にするってのはさ、生命の存在する世界の確固たる摂理

にして法則なんだよねコレが。君達人間は『同属殺し=罪深いこと』なんて常識

の方程式を組み上げてるけどさ。

 

ぶっちゃけた話として、そんな概念は生きていく上でまったく必要の無いものさ。

 

ただ人間が勝手に作った幻想。そう、フィクションに過ぎない。人間の創るもんは

ある意味、夢や幻に等しいものだよ………まっこんな小難しい詭弁を述べちゃった

けどさ、何が言いたいのかって言うと小生は小生の利の為に同属である怪異を退治

する。ただそれだけのことなんだよ」

 

 

「……………」

 

 

裂男はマスク越しに笑みを浮かべそう言った。

 

怪異には怪異の価値観があり、人間には人間の価値観がある。

 

怪異や自然界に生きる動植物の観点から見れば人間社会において『人殺し=罪』

なんて言うものは所詮、その行為自体を『正しい』と認めたくない人類が勝手に

創り上げた理屈の方程式に過ぎないんだ。

 

自分が生きる為に手段を選ばず、時として必要とあらば同属を殺し潰す。

 

それを『悪だ』とか『善だ』なんて言うのは筋違いだ。

 

これは善悪以前の問題なんだ。

 

生きるってことは自を守り他を殺すこと。善悪論など掲げている暇があるのなら

過酷な環境でも生きられるよう日々努力し、あらゆる命を殺してその殺した命を

自分の生の為に消費していくことが生き物としてきっと正しいんだ。

 

そんなことは分かってる。

 

でも……それでも人間と言う生き物は善悪なしでは生きていけないんだって、

僕は常々思う。

 

善悪の概念がいつ何処で、どんな風な法則の下に発生したかなんて知る由も

ないけど、人間はきっと高い知能を得た為に物事を善悪で測るようになって

しまったんだと個人的に思う。

 

それは半分ゾンビとなってしまった僕も例外じゃない。

 

それが間違いなのか、それとも正しいのか、なんて。

 

僕みたいな馬鹿にはどういう風に考えたってその答えは分からないさ。

 

だってそれを決めるのは他の誰でもない。人間一個人の在り方次第なんだから。

 

 

 

 

~~明久サイド~~

 

 

 

 

さて、なんかあの有名な哲学者アレス何とかが言ってそうな哲学染みた話

になっちゃったけど、ようは怪異も超常的存在ではあるんだけど所詮普通

の生き物と大して変わんないんだってことなんだ。

 

 

『ナ、ナナ仲間をツ、ツ、連レテ来タカ。ダガ変ワラナイ。早々、ニ、去レ』

 

 

魔の領域と化した踏み切りにやって来た僕たちを出迎えたのは、やっぱり魔の

領域の主である踏切りスプラッターだった。

 

 

「おっと、そいつは無理な相談だ。何せ君を退治する為に色々と準備しちゃったし、

それに今君が取り憑いている幽霊少女を無事に助けるという名目があるんだ。無様に

何もしないで帰るってのは流石にできない相談だよ」

 

『フム。理解シタ。…………デハ、死ネ』

 

 

凄まじい殺気と凄まじい勢いで肉薄する少女、踏み切りスプラッター。

 

相変わらずその姿は普通の女子学生に見えるけど、それはほんの数秒だけ。

 

彼女は自分の霊体を変化させ、背中に何本あるか分からないってぐらいの

数のグロテスクな触手と芋虫のようにブヨブヨとした両腕を出現させた。

 

そして、最初の触手による一撃が僕と裂男にめがけ襲いかかって来た。

 

 

「来るよ、明久君!」

 

「分かってる……よっ!」

 

 

裂男は右へ。僕は左へ。

 

踏み切りスプラッターの触手攻撃をタイミング良く見計らい同時に左右へ

と分かれることで見事回避した僕等は、改めてさっきまでいた位置を確認

してみたけど、本当に驚いたよ。

 

何せそこにあったのは、ちょっとした小型隕石でも激突したかのような

直径8mで深さが1mくらいはある規模のクレーターがぽっかり開いて

いたのだから。

 

 

いやいやいやいやいやいやいやいやいや、ない。

 

これは色んな意味でナイって!!

 

できることなら『こんなことは無い!』って僕はそう信じたい!!

 

 

「残念だけど、コレが現実ってもんだよ明久君」

 

 

混乱してる僕に対し、そんな軽佻文句を言ってられている裂男は瞬時に

踏み切りスプラッターの背後へと回り込むと、凄まじい素早さを有した

一太刀の一撃で彼女の背中に生えていた何百本という数の触手を根元の

部分からごっそりと斬り捨てた。

 

 

「んじゃ後は手筈通りお願いするよ、明久君」

 

「分かってるよ。僕が踏み切りスプラッターを引き付け、その隙に

裂男が宿魂と幽霊少女を引き離す儀式の下準備を作るんでしょ?」

 

「うん、よくできました♪ そんじゃ任せたよ」

 

 

いつもの調子を崩さず、マスク越しの笑顔を僕に向けて駅のホームへ去って行く

裂男を見送った後、さっきよりも凄い殺気を放ってくる踏切スプラッターと対峙

した。どうやら察する間もなくご立腹のようだね。

 

 

『殺ス、殺ス、殺ス、滅滅滅滅滅! 滅殺!』

 

「来いよ、踏み切りスプラッター。ここからは僕のリベンジマッチさ!」

 

 

なんて格好つけてみたけど………やっぱり恐い!

 

いや本当、すっげーマジでガン飛ばしてるからね、あの人!?

 

大体幽霊相手に物理攻撃で効いたっけ?

 

ああ、もう!

 

やっぱり色々と不安だコンチクショウっ!!?

 

 

『キイイイイイィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!』

 

 

踏み切りスプラッターは異形の片腕を振るい凄まじいまでの威力を

有するラリアットが繰り出されたけど、僕はそれを木刀で何とか

防ぐと同時に踏み切りスプラッターの脳天に叩き付ける。

 

 

「よし、当たった!」

 

『チョ、チョ、調子、ニ、乗ルナァァ小僧ゥゥ!!』

 

 

更なる逆上たる怒りを滾らせ、踏み切りスプラッターはその自慢の触手をさながら

18禁もののアダルトアニメに出てくるような、触手プレイの如き触手捌きで僕の

両腕の肘辺りから手首までを切断した。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!」

 

 

切断された両腕の断面から大量の血が火山の噴火ように一気に噴き出た。

 

ハーフ・ゾンビの僕には昼と夜で特性が変わる。

 

昼は痛覚を含め様々な感覚機能が半分停止し自然治癒能力は少しだけ人並み以上。

 

夜は感覚や身体の機能が普通の人間の数百倍を発揮し、『痛覚』も例外じゃない。

 

つまりそれは、傷を負うごとに途方も無い生き地獄を味わうに等しい行為なんだ。

 

でも……

 

 

「くそっ、ゾンビの再生能力なめんなアアアアアアっ!!」

 

 

再生能力。

 

ゾンビは一見すると吸血鬼や人狼などと比べて非常に弱小だけど、再生能力だけは

この二種を遥かに凌駕してる。それが僕にとって最大の利点なんだ。

 

切断された僕の両腕は僅か0,003秒という速さで瞬時に構築されて再生された。

 

……………………うん、我ながらもう人間辞めてるな……僕って。

 

でも自分でやっておいて何だけど、本当にゾンビっていうか人外の再生能力って

凄いよね。もう映画やアニメの世界にでも入っちゃった気分だよこれ。

 

 

『ガ、ガガ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!』

 

 

獣みたいな咆哮が僕の思考を裂き一気に現実へと引き戻した。

 

でもそれは大きな隙になちゃったみたいで、僕の腹部と心臓のある位置の胸に

2本の触手が一気に突き刺さった。

 

 

「がはァァっ!!」

 

『滅、死、滅、死、滅、死、死死死死死死滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅!!!!!』

 

 

殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。

 

突き刺し、突き刺し、叩きつける。

 

 

沢山の触手を巧く使いこなしての見事なコンボの連続に僕はもう体中の皮膚が、

肉が、骨が、その全てがグチャグチャになっていくのを僕自身の神経が凄まじい

痛みと共に感じていた。

 

このままヤラれっぱなしは性に合わない! 

 

そう判断した僕は自分の体を拘束している触手の数々を一気に力任せに引き千切った。

 

そして触手の一本を掴むと一気に踏み切りスプラッターを引き寄せると同時に最大出力

の威力を込めた顔面パンチを炸裂させた。

 

威力は意外に結構凄かった。

 

だって踏み切りスプラッターの頭が一気に吹き飛んだんだ。

 

これを凄いと言わずとして何て…………てゆーかコレ大丈夫だよね!? 『ダメージ

が結構デカ過ぎて消滅しました~~』なんて洒落になんない事態にはなってないよ!?

 

そんな僕の心配を嘲笑うかのように、踏み切りスプラッターは平然と首の断面から

霧っぽい何かを噴出して、それが次第に人の頭の造形を構築させていく。数分後位

になるとそれはもう踏み切りスプラッターの頭部と化していた。

 

 

『無駄ハ無駄。イイ加減ガ、ガガ、ガ学習シロ』

 

 

相変わらず不気味な声音でそう言って来る踏み切りスプラッターに対し、僕はすぐ近く

に落ちていた木刀を拾い再び構える。そして次の瞬間また僕の身体が『見えない何か』

によって傷つけられる。

 

今度は両腕みたいに切断じゃないけど、僕の両足の太股部分と膝部分の肉が少し削れた。

 

続いて体中の様々な箇所から次々と肉が削れていく。

 

『目に見えない何か』が一体どういうもので、どういう仕組みで成り立っているのか

分からないけど、とにかく踏み切りスプラッターを倒す為には、どうしても常に自分

を攻撃してるこの『目に見えない何か』を打ち破る必要がある。

 

っと、ここで僕は4月2日…つまり昨日。裂男が前もって言っていたことを思い出した。

 

 

 

 

~~第三者サイド~~

 

 

『回想』

 

 

「さて明久君。あの踏み切りスプラッターをどういう手法でやるかは決定したけど、

こうなって来ると小生は宿魂と幽霊少女を分離させる為の儀式をあの踏み切りという

か………あ、そうだ駅だよ駅。丁度駅のホームのこの位置で準備しないといけない。

つまりだね……」

 

「僕が囮になって踏み切りスプラッターを引きつけ相手をして時間を稼ぐ」

 

 

ホワイトボートに描かれた、簡単で適当過ぎる感じの駅の周辺地図とそれに関する

メモを記入しながら、対する明久は既に分かり切っていたかのような口調で答えた。

 

 

「ん。察しが良くて助かる。でもあの踏み切りスプラッターは怪異としては中々の

実力者だけど、比べて君はゾンビになりたてで怪異との戦いにおける経験も技術も

殆ど無いに等しいから。そこを考えると非常に拙いんだよね~~」

 

「でも、それでもやるさ。何か良い案は無くなって思う存分にやってやるよ」

 

「ふむふむ、意気込みは結構。まっ怪異との戦いの経験が無いって言ってもさ。

君のハーフ・ゾンビとしての性能は『怪異の王族』として君臨する『吸血鬼』や

『狼男』をも超えるかもしれないね」

 

 

回転イスをクルッと一回転させながら裂男は言う。

 

しかし明久は『怪異の王族』というキーワードに引っかかり質問する。

 

 

「怪異の王族? 何なのさそれ」

 

「あっ、そう言えばそこんところの説明してなかったね。怪異にはさ、その信仰や

知名度…もしくはそれに関係なくその種全体として力が圧倒的に強い種族があるん

だよ。例えばさっき言った『吸血鬼』と『狼男』がこれに当たるね。そして数多く

いる強大種の中でも特に一番の強さを誇るのが……『悪魔』さ」

 

「悪魔って言うとベルゼブブとか、ルシファーみたいに元は天使だったみたいな

感じのやつ?」

 

 

『意外と知ってるね~~』みたいなことを言って回転イスをクルッとまた一回転させ

ホワイトボートの余白部分に少し大きめに『悪魔』と素早く書く。しかも中々達筆だ。

 

 

「その認識は間違いじゃない。悪魔って言うのは様々な宗教や民間伝承において神、

またはそれの眷属たる天使や精霊が怪異変種によって性質を反転させた存在。それが

君たち人間の知る悪魔の実態さ。おっと……話が逸れちゃったね」

 

 

会話の流れが大きく逸れ始めたことに気付いた裂男は再び踏み切りスプラッターの

件へと話を引き戻す。

 

 

「踏み切りスプラッターの攻撃で一番気をつけなきゃいけないのが『正体不明の

目に見えない攻撃』だ。生憎のところ小生もそれを食らちゃってね。その結果が

あんな無様な敗北だったってわけさ」

 

「いや、いきなりそんな率直に『正体不明の目に見えない攻撃』とか言われ

ても困るんだけど…………ってゆうか何ソレ? 他に何か特徴とかないの?」

 

「ない。悪いけどね。ともかくそれには十分気をつけるんだ」

 

 

 

 

~~明久サイド~~

 

 

『回想終了』

 

 

ってことを昨日言ってたけど、実際に喰らってみると本当にどういうわけなんだ?

 

あいつは、踏み切りスプラッターはそれらしい動作も行動もしてない。

 

むしろ佇んでいるだけというのが、この場合は怪しい行動に入るのかな?

 

なのに……僕の身体から少しずつ少しずつ、どんどん肉が削られ血飛沫が舞い飛ぶ。

 

その度に再生能力ですぐ元に戻るんだからキリがない。

 

 

「い、いったいどうすれば……!!っ」

 

 

ここで僕は気付いた。もし触手を何らかの方法で視界から消せるとしたら?

 

宿魂っていう怪異にそんな芸当ができるなんて裂男は言ってなかったけど、

可能性として上げるなら十分に有り得る!!

 

そう判断した僕の行動は思いの他早かった。

 

まず、自分の視覚を通常から更に限界ギリギリまで強化させることで異常なまでの

集中力を底上げした僕は、あるものを視界に捉えた。踏み切りスプラッターの肘辺り

の両腕から伸びる無色透明な長い触手。

 

それは口のようなものが先端に付いていて、鋭い刃のような牙が幾重にも渡り

生え揃っていたんだ。間違いない。あの二本の長い触手が『見えない攻撃の

正体』なんだ!!

 

 

「そこおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

『ギギイイイイッッッッ!!!!!!!』

 

 

僕は両腕に力を込めて木刀を振るい、一気に無色透明な触手を引き千切るように斬った。

 

斬られた踏み切りスプラッターは意味不明な低い叫びを上げ、地面に倒れると痛みに

耐えるかのように悶え苦しみ始めた。

 

でもすぐに立ち上がると僕めがけて両腕や触手を振り回しながら肉薄して来る。

 

うん……かなりキレてるね、アレは。

 

 

「お~~い、明久く~~ん!! こっちの準備は整ったから頼むよ~~~!!」

 

 

駅のホームに行っていた裂男からそんな連絡が来た。

 

よし、作戦通りに行くぞ!

 

僕はそう意気込み距離を巧く保ちながら踏み切りスプラッターを駅のホームまで

誘い込む。やっぱり相当憤慨しているらしく何の躊躇いもなく僕の誘導に従う形

で追って来ている。

 

いいぞ! そのままこっちに来るんだ!!

 

そんな僕の心の叫びに近い祈りが天に通じたのかは定かじゃないけど、

何とか誘い込むことに成功した。

 

その瞬間、何本かの帯状の赤く長い物体が踏み切りスプラッターを拘束。

 

彼女の行動の一切を全て封じた。

 

 

「いや~~本当ありがとうね、明久君。君のおかげでとりあえず計画の

第一段階は何とか巧く事が運べたって感じだよ。いやいや、本当よかった~~」

 

 

こっちが死にそうな体験(もう半分死んでるんだけど)をしたってのにマスク越しでも

容易に想像がつくような、そんなムカつく笑みを浮かべてる裂男に僕は全身全霊の気合

パンチを裂男の顔面に向けて発射するんだけど、余裕で回避されちゃったよ……チッ。

 

 

「まっそう怒らないでくれよ明久君。随分機嫌も調子も良さそうだね?」

 

「良くないよ! もう何十回も死ぬような経験したよマジでっ!!」

 

 

くどいようだけど、僕はとっくに半分死んでる。

 

そんな状態で更に普通の人間なら即死してるような虐殺コンボを生き地獄のように

味わったら、もう色々な意味で精神崩壊ものだよ!?

 

 

「……個人的に言いたいことは多々ある、けど、まずはこっちが最優先だ」

 

「うん。そうだね。それじゃあ早速儀式を始めるとしよう」

 

 

とりあえず色々あったけど、こんな感じで幽霊少女と宿魂を引き離す儀式が始まる。

 

 

「じゃっ、その前に儀式の概要をもう一度この場で説明するけど、いいかな?」

 

「うん。構わないよ」

 

「昨日も言ったけどこの儀式は君自身が大きな要だ。この儀式は屍人種である怪異を

使役することで成立するものだから、半分だけ屍人種の君が重要なキーパーソンって

わけなんだ」

 

 

裂男は僕にそう説明しながら、近くに事前に置いてあったと思われるビニール袋から

黒い墨のような液体が半分以下ぐらいの量で入ってる、一般的な携帯サイズのペット

ボトルと一本の高そうな感じの筆を取り出した。

 

そして中身の入ったペットボトルの蓋を開け、その蓋に黒い液体を注ぐと注いだ

黒い液体に筆先をチョンっと付けて改めて説明を追加した。

 

 

「今から君に幽霊少女と宿魂を引き離す呪文の字を書く。けど前もって言っとくけど

これが成功する確率はあくまで非常に低いし、数値で表すと…0.05%しかないっ

てところかな? だから変な期待は持たないように。君は君自身を信用し絶対に達成

させるっていう強い意志をもって臨むんだ。わかったね?」

 

「構わないよ。元から失敗する気もなんてないし、してやる気もないさ」

 

「いい答えだ。じゃあ書いていくよ」

 

 

筆を一寸も鈍らすことなくゆっくり、僕では読むことのないできない呪文の数々をし

なやかに書いていく裂男に僕は少し意外な一面を見た気がした。

 

 

「よし、これでOK。あっ一つ言い忘れてたけど、この儀式は呪文を書いた両腕で胸を

揉まないと成立しないんだよ。というわけで今からあの幽霊少女の胸を揉んで貰う事に

なるけど、心の準備は大丈夫かい?」

 

 

……………………………………………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

はぁ?

 

えっ、いや、あの……揉む? 揉むって何を? 

 

 

「いやいや、だから揉むんだよ胸を。おっぱいを。意味通じてるかな?」

 

「………ちょっと待ってくれないかな、裂男。えっ何? ようは僕を最低の

痴漢にしたいってことなのかな?」

 

「はぁ~そっか。君は魔術について疎いから何にも知らないんだね。

 

 

何故か呆れたように言い捨てる裂男に殺意が沸いたけど、とりあえずはこの男の

言い分を聞いておこう。そして絶対に不可解で意味不明な内容だったらブチ殺す!!

 

 

「魔術には性行為をすることで成立する類の儀式なんてのは腐るほどある。

そもそも性って言うのは新たなる生命を生む為に重要な要素の一つだから、

性行為でより生命力を高めたり霊的な繋がりを創るって意味合いでも性行為

の魔術ってのは別段子供騙しな戯れじゃないんだよ」

 

「………」

 

「ちょっとちょっと何疑ってるのさ。専門家たる小生の言葉が信用できないのかい?

大体君はあの幽霊少女を助ける為に此処まで来たんだろ? だったら最後まで覚悟を

決めて筋を通すのが道理ってやつじゃないのかな?」

 

「ああ~~もうっ! わかったよ!! もうこの際だ! どうぜ僕は半分

死んでるんだから、『死人に口なし』だああああああああああああああ!!!!」

 

 

もにゅっ。

 

触った。

 

触ってしまった。

 

そして……………………めっちゃ気持ちイイイイイイイイイイイイイ!!!!

 

 

『あっ、んんっ!』

 

「!?っ」

 

 

僕は聞こえた。可愛らしくも官能的な少女の喘ぎ声を。

 

まさか、これは………………踏み切りスプラッター? 

 

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、ないない。

 

これは絶対にありえないよ!?

 

あの踏み切りスプラッターが! 僕の身体を上と下に切り分けたあいつが!

 

聞くもおぞましい地獄の底から呻くような、そんなしわがれた声で片言に喋って

いた筈の悪霊の怪物が、可憐で無垢な少女の声なんて出せるわけないじゃないか!!

 

あっ、そっか。

 

今のは幻聴だったんだ、きっと!

 

おそらく僕は自分がこんなことをやらされていることに対しての自棄と焦燥、そして

ある意味、男としての何かを失うことに対して絶大な恐怖を感じていたんだ!!

 

その結果が幻聴なんだ。そうに違いない。そうでもなかったらこんな……

 

 

『ああっ! だ、だめぇ……そこは……ああぁ~~』

 

 

………………………………………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………………………

………………………………………………………うん、やっぱこれ……幻聴じゃないね。

 

 

「明久君。小生がやれって言っておいてアレなんだけど、君はもう確実的な変態性欲者

になっているよ、うん」

 

 

よし、決めた。

 

僕は絶っっ対こいつをぶん殴る。

 

でもまずは踏み切りスプラッターの方が優先だ、儀式はまだ終わってないしね。

 

こんなふざけた方法がまるで効いていくかのように二つの峰麗しい果実を揉んでいく

度に両腕に書かれた呪文が淡く光り輝き次第にその強さを増していく。そして……

 

 

「これで、ラストスパートだああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

最後の一押しって感じで僕は強く揉む。

 

ゆっくり。じっくりと。激しく。優しく。

 

揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。

揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。ハイスピードに揉んでいく。

 

そして常々思うんだ。

 

ああ……僕ってもう色んな意味で人間失格だなって。

 

今度機会があったら太宰治の『人間失格』っていう本を読んで見ようかな?

 

 

「おっ、とうとうお出ましって感じだよ明久君」

 

 

そんな思考の海に浸っていた僕を裂男の言葉が僕の意識を現実へと引っ張り出した。

 

よく見てみればいつの間にかあのグロテスクな両腕と触手は消え失せ、幽霊少女の身体

から靄のような白い何かが人影の形を象って出てきた。

 

たぶん、きっとコイツが宿魂に違いない。

 

 

「もういいよ明久君。宿魂と幽霊少女の分離は成功した。ここから先は小生の仕事さ」

 

 

裂男は相変わらずチャラけた口調でそう言うと、手に持った鉈『夢幻月』を

斜め一線に振るい宿魂を切り裂いた。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーー!!!!!??』

 

 

人間の言葉とは思えない、そんな断末魔の絶叫を残して幽霊少女に取り憑いていた

宿魂は消滅した。これでもう宿魂が人を襲うことはないと思いたいな。

 

 

「あ……ぁぁ……」

 

 

踏み切りスプラッターだった幽霊少女の長い髪が二つに別れ、そこから除く幼くとも凄く

可愛らしい少女の顔を僕の目がしっかりと捉えた。うん………僕はこんな死んでしまって

悲しく不幸な少女に対し、あんなことをしたのかと思うと何ていうか、すっごく罪悪感が

込み上げて来るな……でも幽霊とはいえ、こんな可愛い女の子の柔らかい胸を揉めた事に

関しては一人の男として『すっげー嬉しい!』と正直に断言しておくよ、うん。

 

それにしてもなんか……格好が何かエロいな。

 

いや、だって地面に座り込んで顔を真っ赤にさせてハァハァと吐息を零す学生服の美少女

姿なんて、男としてエロいと思ってしまうのは仕方ないって僕は思うよ?

 

 

「さぁ、幽霊少女ちゃん。早いこと成仏しちゃいなよ」

 

 

裂男はそう言って幽霊少女の眼前に手を翳し、何か呪文っぽい感じのを唱え始めた。

 

するとその身体が光の粒子となっていき、最後には幽霊少女の姿は消えてなくなった。

 

 

「ふぅ~~お疲れさん明久君。君のおかげで今回の一件は無事解決した。礼を言うよ」

 

「いや、気にしなくていいよ裂男。それより君の顔面を思いっきり殴らせてもらえると

嬉しいかな? さっきから殴りたい思いを一心に我慢しているんだけど、そろそろ限界

だからさ。ここは一発殴ってもいいよね?」

 

「うわ~~清々しい笑顔のくせに言うことは結構エグいねぇ明久君は。あっそうそう、

言い忘れてたんだけどさ……実のところを言うとアレ、本当は胸揉まなくていいんだよ」

 

 

………………………………………………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

…………………………………………………………………………………えっ? 何ソレ?

 

 

 

「いや、だからさ、揉まなくいいんだよアレ。

本当は意識を両腕に集中させて、それで身体のどこかに少し手を触れるだけ。

いや~でもこの方法だと結構難しいと思うからさ。

君が成功できるよう少しアレンジしてみたのが、さっきの方法だったわけだ。

でも何にせよ儀式は成功したんだから、結果的にイイかな?」

 

 

「………いいわけ、いいわけあるかアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

アアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

どうしてもやりきれない、そんな思いを噴火させるようかのように僕は夜空へ向けて

咆哮した。我ながら……僕って馬鹿だな。

 

 

 

 

~~第三者サイド~~

 

 

 

 

あれから約2日は経った。その間で起こったことを説明しよう。

 

あの痴漢まがいの儀式終了後、とりあえず裂男をブン殴ろうとした明久は逃亡を図る

彼と3時間に渡る鬼ごっこの果てとうとう諦めてそのまま帰宅し、就寝。

 

そして朝になって目が覚めた明久の視界に入ってきたのは、何と宿魂から引き離して

そのまま成仏させた筈の幽霊少女だった。

 

何故、彼女が天に召されることなく明久の目の前にいるのか。

 

この素朴な疑問に少女は微笑みを浮かべた表情でハッキリと言った。

 

 

『私、貴方に胸をファーストタッチされた借りとあの怪異から助けてもらった

恩を返すまでは死んでも死に切れません。なので暫くの間はこの街に浮遊霊と

して居続ける方針なので、色々とよろしくお願いしますね♪』

 

 

とのことだった。

 

さすがの明久も我が身の不幸を呪わずにはいられなかったらしい。

 

それでも彼はつくづく良かったと思うのだ。

 

宿魂に憑かれた幽霊少女を救えた、ただそれだけの事実が踏み切りスプラッターの

一件を解決へと導いた当事者の一人である明久としては、何よりも代えがたい報酬

なのだから。

 

彼の身は半分だけとは言え屍人種の怪異たるゾンビ。

 

その事実は変えられないし、吉井明久という少年は自らの怪異を一生背負い続ける

ことになるのかもしれない。

 

しかし、やはり彼は後悔することはないのだろう。

 

何故なのかと言えば……やはり吉井明久という一人の少年がゾンビで馬鹿だから、

としか言いようがない。

 

 

 

 







感想待ってます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。