バカと明久と怪異鬼譚【凍結】   作:イビルジョーカー

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第六怪 ゆうきヤモリ【後】

 

 

~~優子サイド~~

 

 

 

 

「隠し守宮」

 

 

まるで数百年にも渡る安らかな眠りから、無理矢理叩き起こされて目覚めたような。

 

そんな雰囲気で想像以上に活気のない眠気を含んだ声であの人、裂男さんは言った。

 

察するに相当なまでに寝起きが悪い方なのね。裂男さんって。

 

隠し守宮。守宮。有鱗目ヤモリ科の爬虫類の総称。

 

それが、私達が今やってる勇輝君のアクセサリー探しの邪魔をしてるであろう

怪異の名前。

 

この件に怪異が関わってることを知った吉井君は、私達の恩人にして怪異の専門家らしい

裂男さんと携帯で連絡(って言うか裂男さん携帯電話持ってたんだ)を取って事情や今現在

で置かれている状況を色々と説明した上で『隠し守宮』って返答が来たの。

 

 

「隠し守宮?」

 

「そっ。ええ~~っとね……アレだよ、九州地方や青森県に伝わる妖怪の一種さ。

同じ類に『虚空太鼓』や『川赤子』なんかがあるけど、ようは『そこにあるように

見えて実際は無い』ってタイプの怪異だね。名前に守宮なんてあるけど容姿は人間

の子供か、もしくは大人のどっちかだよ」

 

「え? じゃあ何でヤモリって名前なの?」

 

「名前自体に意味は無いからだよ。あくまでも怪異の名はその怪異の本質を表して

いるにすぎないんだから、当然として怪異の名前に守宮ってあるから守宮の姿って

わけじゃないんだよ」

 

「なんかよく分からないな……」

 

「とにかく隠し守宮はね、それ自体なら実害は無い。けど問題は隠し守宮の性質だよ。

この怪異は…………ふあぁぁ~~眠い。悪いけどさぁ、この話はまた今度にしてくれな

い? もうさっきから眠くて眠くて……じゃっ」

 

「はぁぁ!? ちょっ、待っ」

 

 

プツン。

 

ツー、ツー、ツー、ツー、ツー。

 

切れちゃった。やっぱり裂男さんは予想以上に寝起きが悪いようね。

 

 

「あんの野郎~~!! 肝心な所で! 悪いけど二人ともちょっと待ってて。

今すぐアイツのところへ直談判しに行くから!!」

 

 

え、いや、ちょっ…………行っちゃった。

 

 

「はぁ~、仕方ないわね。あの馬鹿なお兄ちゃんが戻って来るまで待ってようね」

 

「う、うん……」

 

 

私がそう言うと神宮寺君は素直に頷き、すぐ側にあったベンチに腰を下ろしたわ。

 

そして、何処か恐縮そうな感じで彼は言った。

 

 

「そ、その……さっきは、すみませんでした」

 

 

正直言って、私としても予想外の言葉だったわ。

 

さっきまで噛み付くような態度と剣呑な雰囲気を放っていたのに。

 

まるで毒気を抜かれたようなその言葉に、私は数秒ぐらい呆けちゃったけど、

何とか答えられた。

 

 

「いいのよ別に。私、こう見えて貴方みたいな年頃の小さい子って大好きだし、

別に何言われても個人的にはへっちゃらよ。同い年かそれ以上は無理だけどね」

 

 

特に明久君とか。

 

 

「その……優子姉ちゃんとアイツって、もしかして恋人同士?」

 

 

う~~ん、意外と近いけど遠い感じのが出たわね。

 

 

「近いようで遠い。ようは未満よ。告白は私の方からしたんだけど、

まだ貰ってないの」

 

「へぇ~~やっぱあの明久って奴、馬鹿な上にヘタれなんだな」

 

「そっ。アイツは、吉井君はどうしようもなく馬鹿で恋愛面ではヘタれね。けど」

 

 

私は、何の躊躇いも無く、言ってみせた。

 

 

「すっごく優しくて、どんな時でも、自分にとって大切な人達の為に頑張る、

そんな努力家な人なの」

 

 

 

 

~~明久サイド~~

 

 

 

 

僕は一直線に駆けた。

 

いや、一直線というのはこの場合だと不適切かな。

 

右折したり左折したり、あるいは間違えたりしながら裂男の住んでる廃墟ビルへ

と辿り着いた。そして僕は、ほとんど死に掛けみたいな感じで息を上げながら

ラストスパートと言わんばかりの底力でビルの階段を駆け上った。

 

 

「ふあぁ~~何だい、うるさいなぁ。今日の小生は寝起きがいつもと違って悪い

んだからさぁ~、そこんところ分ってちょーだいよな」

 

「うるさい!! 怪異絡みの事件を解決するのが生業なんだろ!? だったら、

少しはちゃんとしろっつーの!! 今この瞬間にも既に怪異絡みの事件は起きて

んだからさ!」

 

「ふあぁぁ~~~いやね、明久君。確かに小生は怪異の専門家で怪異退治とかし

ちゃってるけどさ。前も…あん時、『のっぺら坊の一件』の時も言ったけどさ、

あくまでそれは『均衡を保ち守る為』の行為なんだよ。つまりさ。何の実害も、

ましてや弱小な隠し守宮っていう一匹の怪異程度で動く……」

 

「別に動かなくていいんだよ! ただ教えて欲しいだけなんだ! 教えて欲しい

のは隠し守宮の対処方法だよ!! 守宮に憑かれちゃった神宮寺勇輝って子を

何とかしてあげたいんだ! その為に早く隠し守宮について…」

 

「ちぃーっと待て。え? 今何つった?」

 

 

こいつ、相当に寝惚けてるのか?

 

裂男の『何言ってんだコイツ』みたいな顔と態度により一層腹が立った

僕だけど、とりあえずはちゃんと順を追って説明した。

 

『神宮寺君には隠し守宮の怪異が取り憑いてる』、と僕が判断したのは、

その子の言葉だった。より正確に言えばあの子は自分が怪異に遭遇した

経緯を語ったんだ。

 

僕と優子さんが来る前から、神宮寺君は隠し守宮の怪異に悩まされていた。

 

しかもそれは公園に限った話ではなく、色々な場所で、色々な道で、

何度も何度も大切な…たった一人の大事な母親に貰った赤い三日月の

形をしたペンダントを見つけては、その都度見失っている。

 

そこにある筈なのに、そこにない。

 

遠くから見ればあるのに、近付くとない。

 

そんな無限ループみたいなことをあの子はずっとし続けて来たんだ。

 

そして神宮寺君は、その異常な現象の原因たる怪異に遭遇したらしい。

 

『一匹の守宮』に……。

 

 

「明久君さ。ハッキリ言ってとんでもない勘違いをしているよ」

 

 

説明をしている最中の僕に裂男は何処か呆れたような溜息を吐きながら、

自分が寝転んでいる何処から持って来たのか分らないボロボロベットから

立ち上がって、改めてその何を考えているのか分らない瞳で僕を見た。

 

 

「一つ訂正を加えるけど、隠し守宮って言う怪異自体に実害は無い。それって

つまりさ……『憑かないし祟りもしなければ、相手を障ったりもしない』って

ことなんだよね」

 

「!!っ そ、そんな筈ないよ! そうじゃなかったら何で……」

 

「何で君と優子ちゃんが、怪異が起こしたであろう怪奇現象に遭ったのか。

って言いたいんだろ? そりゃ妥当ってもんだよ。何せ『人間の方から怪異に

近付くんだから』。しかも操られてるとか、無意識だとか、そんなんじゃなく

あくまでも確固たる意思でね」

 

「はっ? それってどういう意味だよ」

 

「隠し守宮に遭う条件はさ、『何かを探している』ってことなんだよね。

明久君は優子ちゃんに告白されてまだ答えを出していないんだろ?

 

とにかくそこから考えると優子ちゃんは『拒絶されたら自分はどうすれば

いいんだろう』とか思って悩んでいるんだろうね。

 

つまり明久君は『告白に対する』答えを。

 

それに対する優子ちゃんは『明久君にフラられたらどうすればいいのか』

って言う答えを探してるということになるだろうね。

 

だから君は、君達は、怪異が見えたんだよ。隠し守宮って言う怪異がさ。

怪異は何の関係も理由も無ければ視認することなんてできやしない。彼等

という存在を一言で表すのだとしたら、まさしく『擬似的に生きる現象』

だよ。

 

条件さえ揃えば其処に生じる。逆に揃わない限り其処には生じない。

 

そして各々が独自の意思を持ち、自分という存在の在り方を人間に示す

ことで自分という存在を維持し続ける。それが怪異って奴なのさ」

 

 

「いや、何か凄そうに話しても言いたいことが全然分からないんだけど。

大体それが一体どういう風に繋がっ」

 

 

と。僕は此処で裂男の言葉に妙な引っかかりを覚えた。

 

僕はちゃんと言った。『怪異なんて見ていないと』。

 

でも、裂男はあくまで『既に見ている』なんて言ってる。

 

何故? どうして? おかしい……こんなの明らかに矛盾してるよ。

 

そこまで考えて僕は思い出した。電話で裂男と話してた時、隠し守宮は

『守宮その物の姿』ではなく、『人間の子供か大人の姿』をしていると。

 

裂男は、確かにそう言った。

 

そしてその瞬間。僕の中で一つの答えが導かれた。

 

でも納得なんて………到底できるものじゃなかった。

 

 

「それって、つまり神宮寺君が、隠し守宮だって言いたいの?」

 

「そうだよ。否定も何もなく君と優子ちゃんが出会ったっていう、

神宮寺勇輝っていう男の子だっけ? その子は間違いなく隠し守宮

だよ。

 

そもそも隠し守宮ってのはさ。何で隠し守宮って名前なのか分かる?

それが悪意をもって人の探し物を阻害する怪異だって言うなら『隠陰

(おんいん)守宮』とか『奪い守宮』っていうのが適切だよ。

 

手癖が悪く陰湿にも人の物を奪い隠し、探すのを阻害するって感じでね。

 

でもそうじゃなく、あくまでも『隠し守宮』になってるつーことはね

、何かしらの真意があるんだ。この場合、隠し守宮の『隠し』っての

は『自分が大切としている何かを無意識的に無自覚に隠している』っ

てことなんだよ。

 

だから、何度何度探そうとも結果的に失くしてしまった大切なものを

得ることはできない。そういうものなんだよ。隠し守宮って言う怪異

は……ふあぁぁ~~」

 

 

また欠伸して、特に真剣さもなく、ただ眠そうにしながら。裂男はそう言った。

 

 

「しっかし明久君は本当に凄いよね~~『踏み切りスプラッター』に続いて

『のっぺら坊』や『隠し守宮』って…この街は何時の時代も小生を飽きさせ

ないねぇ。本当に面白いよ」

 

「………ちょっと待ってよ裂男。じゃあ、あの子は、神宮寺君は! 

僕と優子さんを……騙してたって言いたいのかよ!!」

 

「何熱くなってんだよ。小生はそんなこと一言も言ってないよ? 言っただろ?

『隠し守宮に実害は無い』。人間の方から近付かなければ害なんてものはないし

、そもそも隠し守宮自体にも悪意なんて高尚な概念は持ち合わせていないよ。

 

騙していたのが事実でも、真意は事実とは別さ。まるっきり違うよ」

 

 

裂男はそう言って、肩をすくめながらそう答えた。

 

『人間から近付かなければ、その人間にも周囲にも実害は無い』。

 

信じられない。信じたくない。認めたくない。

 

そんな気持ちが僕の心の中を荒らし回ると同時に、裂男の言葉に妙な納得感を

覚えていた。何んで僕と優子さんが、隠し守宮に遭ってもいなければ見てさえ

もないのにその怪異が引き起こしたであろう怪奇現象に遭遇したのか。

 

簡単な話だったんだ、そんなの。

 

だって、既に僕達は遭っていたんだから。

 

『神宮寺勇輝』っていう一匹の隠し守宮に。

 

 

「隠し守宮は『迷回種』と呼ばれる種類の怪異だ。

更に言えば『霊媒種』や『屍人種』のように『人間が怪異になる』

ってタイプだねアレは」

 

「僕みたいに……元は普通の人間だったってこと?」

 

「うん。そうそう。かの怪異の王族たる吸血鬼や幽霊、そして君自身である

ゾンビは『その人が死んだからそう成った者』だけど隠し守宮は『その人が

生きている内にそう成った者』なんだ」

 

 

それはつまり、例えるなら『進化』に近いんだと思う。

 

人間よりも優れた上位の存在にランクアップした。そんな感じなんだと思う。

 

 

「人間が生きたまま怪異になるなんてこと、民間伝承や地方なんかの

伝説。あるいは色々な国の神話を堀り尽くせばキリがないさ。その位

普通なことで稀なケースってわけじゃないんだよね。

 

ほら、紀州道成寺の縁起に伝わる伝説で『安珍清姫』って言う逸話が

あるでしょ? あれだって身に余る憎悪故に人が生きたまま大蛇の

怪異になってしまったって感じだし、他にも探そうと思えばタイプ

は色々違うけど、似たようなのは一杯出て来ると思うよ。

 

隠し守宮の場合は『自分にとって命よりも大切な何かを見つけたい』

と言う切実な思いで……そうなっちゃうんだよ」

 

 

そんなのって、あっていいのか?

 

だって、あの子は、神宮寺君は……ただ大切なものを見つけたい

だけじゃないか。

 

それなのに……。

 

 

「裂男。教えてくれ。あの子を、神宮寺君をどうやったら助けられるんだ?」

 

「おいおい明久君。君が心底馬鹿なことは小生も知ってるけどさ、さっきも

言ったじゃん。隠し守宮は近付かなければ……」

 

「そういう意味じゃないッ!! そんなんじゃ、そんなんじゃ何にも解決し

ねぇんだよ!! お前は神宮寺君に会ってないから分らないだろうけど……

あの子は最初、出会い頭僕達に何て言ったのか分かる?」

 

 

誰だよお前は。俺に近づくな、怪我するぞ?

 

とにかくお前等、俺に近づくんじゃねぇよ

 

うるせぇよっ! 余計なお世話なんだよ! いいからあっちに行けっつーの!!

 

 

「何でそんなこと言ったのか、その意味を理解できる? あの子は

……自分がそういう怪異だってちゃんと理解して、理解していた

からこそ、他人を遠ざけてたんだよ!! 

 

助けて欲しくても、巻き込みたくないから言えなかったんだよ。

 

巻き込んでしまえば……必ず誰かが不幸になるから、だから、

だからあの子は! たったの一度も、救いの手を求めなかった

んだよ!!!!」

 

 

だから、僕はあの子を助けてたい。

 

地獄にずっぽりと嵌ったままの神宮寺君を、僕は、何とか救い出してあげたいんだ!

 

 

「……………………………はぁぁ~、分かった分かった。

そこまで言うなら小生も助言を伝授してあげようじゃないか」

 

 

裂男はそう言って、ゆっくりと。何処か嬉しそうな笑みを浮かべて話してくれた。

 

神宮寺勇輝と言う、不幸な守宮の子供を救い出す方法を。

 

 

 

 

~~第三者サイド~~

 

 

 

 

明久が廃墟ビルを出て、そのまま二人が待っている公園へ向い始めて僅か3分。

 

一人の女性に出会った。

 

その女性が纏う雰囲気を言葉で表すなら『不気味』、『凶』、『暗黒』の

決して縁起の良くない負の三拍子がミスマッチ無くピッタリ揃っていた。

 

顔は十分美人の類に入るのだが、それを台無しにするかのように墨でも塗り

たくったかのような両目の真っ黒に濃い隈があり、お世辞にも健康な血色の

良い顔とは言えない。

 

服装は秋葉なんかでありそうな派手な黒い色彩のゴスロリ衣装。まるで太陽

の光を嫌うかのような感じで漆黒の傘をクルクルと回していて、そこも何か

不吉なものを感じさせる不気味なポイントだった。

 

もう一つ不気味なポイントがあるとすれば……『髪』だ。髪型はロングで

姫路のようなウェーブ状になっている。しかし姫路がフワッとした感じなら

この女性の髪は何処までも黒くて不気味で、ゾワっとするような感じを覚え

てしまう。

 

 

「そこの少年。お前に一つ聞きたいことがある」

 

「……なんですか?」

 

 

できれば急いでいるし、それに何となく関わりたくない感じもするが、

聞かれたからには答えないと失礼だと思った明久は少し警戒を孕んだ

感じでそう返した。

 

そんな明久の様子を知ってか知らずか。漆黒の女性は、長い髪を風に

揺らしながら、さも当然とばかりに、明久をその真っ黒い瞳で見据え

ながら話し始めた。

 

 

「いや何、ちょっと聞きたいことがあってな。工藤という名字の家を

知らないか? そこに少し用事があるのだが、何と言うか、道に迷って

しまったらしいんだ。すまないが工藤家の所在を教えては貰えないか?」

 

「あっ、すみません。その工藤って言うの僕も全然分からないんですけど

……」

 

「そうか。いや、時間をとらせてしまったな。申し訳ない」

 

「いえ。僕の方こそ役に立てなくて、すみません」

 

「別に気にする必要は無いさ。では少年。私は先を急ぐから、この辺で」

 

 

そう言って彼女は先に進もうとし、明久も公園への道を進もうとした直後。

 

彼女は言った。互いに擦れ違った瞬間を見計らうかのように。

 

 

「できたら、また会いたいものだな……ハーフゾンビの吉井明久」

 

「!!っ」

 

 

その言葉の意味を瞬時に理解した明久はすぐさま後ろを振り返る。

 

『どういうことだ』『何でそれを知ってる!?』そう言って引き止め

ようとしたが、彼女の姿は何処にも無かった。

 

まるでさっきのが最初から無かったかのように……。

 

色々と気になることは多々あるけど、今は神宮司君が最優先だ!

 

そう判断した明久は今まで以上の速度で駆けていき、優子と神宮寺が待つ

公園へと駆けて行った。

 

 

「おかえりなさい明久君。で、解決策は見出せたの?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ああ。ばっちり。これなら絶対に解決できる」

 

 

公園と無事に到着した明久にさっそく解決の術を得られたのかどうか聞いてくる

優子に対し、明久自身は荒くなった息を整えるのに集中していたが、何とか答え

てくれた。

 

 

「その前に、神宮司君。君は……本当に怪異なのか?」

 

「!! ちょっ、ちょっと待ってよ明久君。それって……」

 

「…………」

 

 

明久の言葉に優子は驚き、その逆に神宮寺は顔を下へ俯く。

 

それはつまり、肯定の意。

 

神宮寺勇輝は観念した様子で本当のことを話した。

 

時系列的に言えば、もう25年も前の話になる。

 

とある名家の一族に二人の兄妹が生まれた。父親と母親は二人を愛し、

その二人の息子と娘である兄妹も両親を慕い愛した。

 

家族の仲は円満だった。父と母の結婚をよく思っていなかったのは

父方の祖母と祖父……そして、その親族達だった。

 

それは何故か? 母親が貧乏人の出だったからだ。

 

『貧乏人が。何も出来んただの穀潰しがワシに意見なんぞするな!』

 

『気持ち悪いばかりか、臭いったらありゃしない。本当これだから貧乏人は』

 

『んだよお前。俺の視界に入ってんじゃねぇぞ! このクソアマが!!』

 

『まったく……目障りったらありゃしないわよ』

 

そんな罵詈雑言、誹謗中傷、そして暴行など母親にとって日常茶飯事だった。

 

だが母親はその事実を最愛の夫に伝えることなく、ずっとずっと隠し続けいた。

 

何故か? それは夫が家も何かも捨ててまで、自分達を親族達の手の届かない

場所まで連れて行こうとするからだ。それは一族を裏切るということであり、

家族の縁を切るということになる。

 

夫の妻である母親はそんなのはダメだと思った。ダメと思ったが故にひたすら

隠し続けた。しかし、秘密は些細な切っ掛けからバレてしまい結果的に勇輝達

家族は家を出た。

 

遠かったこの街に引っ越して、今度こそ本当の幸せを掴んだと誰もが思えた。

 

でも、そんなものは幻想だと勇輝は思い知らされた。

 

母親が亡くなった。原因は交通事故。どこにでもある一般的な事故だった。

 

残された家族は悲しみに暮れた。けど、父親は自分の息子と娘にそんな弱気

など見せず、いつでも優しく頼りがいのある人だったらしい。

 

不幸はあったけど、それでも家族はそれなりに幸せだった。

 

でも、少年はある日、母親から貰った大切なペンダントを失くしてしまった。

 

少年にとってペンダントは、母親の記憶を何時までも風化させない為の

ものであるが故に大事なものだった。少年は探した。

 

探して、探して、探した。色々な場所を巡った。

 

もしかしたらあるんじゃないかと思った場所も隅々まで探し尽くした。

 

それでも失くしてしまったペンダントは見つからず、途方に暮れていた時。

 

少年は自分の探しているものと思わしきペンダントを見つけてそれを取ろう

としたが、近付こうとすれば途端に消えてしまった。それを何回か繰り返し

ていく内に少年は人では無くなり一匹の守宮となった。

 

『隠し守宮』。

 

それが……神宮寺勇輝という一人の少年の……もう一つの名前だった。

 

 

「その少年って言うのが……俺なんだ」

 

 

神宮寺は、まるで懺悔でもするかのような物言いでそう呟く。

 

 

「………そっか。やっぱり君も僕と同じなんだね」

 

「え?」

 

「ああ~~何ていうか……信じてもらえないかも知れないけどさ。僕、

ゾンビなんだよ。半分だけなんだけど……それでも君と一緒で怪異なんだ」

 

「ゾンビ……」

 

「まぁ、そんなことは置いといて。とりあえず君を助ける為の方法が

あるんだけど、それに賭けてみる?」

 

 

そう言って手を差し伸べる明久に神宮寺は何処か希望を見出したように

瞳を輝かせ、その手をとった。

 

裂男が明久に教えた隠し守宮の探し物を見つける為の裏技的なもの……

それは『眼を瞑ってただ祈ること』だった。

 

最初こそ裂男の説明に明久は怪訝な表情を浮かべたが、そんな彼に裂男

は説明を付け足した。

 

 

「明久君。人の思いを軽んじたり侮るのはナンセンスって奴さ。人の

思いは、時として異界の力と結び付き『悪魔』を、『神』を、『怪異』

を生む。怪異を生み出すのが人だと言うのなら、奇跡を生み出すのも、

人というわけさ。

 

まっ、それに怪異相手に常識の範囲内にある方法技術手法じゃ無意味に

終わっちまう。不思議で常識外れな連中には、同じく不思議で常識外れ

な方法が一番良いのさ。そんじゃまぁ、伝えるべきことは伝えたわけだ

し小生は寝るよ。ふあぁぁ~~~」

 

 

何故か妙に説得力のあるその言葉に納得してしまった明久は今に至る。

 

そして彼は、明久は、彼女、優子は、ただ祈った。

 

半分怪異ではあるものの、それでも明久は人間だ。

 

だからこそ、この裏技を成功させる為の条件である『隠し守宮が見える

人間』に十分該当できる。

 

そして、変化はすぐに起こった。

 

何かを感じ、瞼を開いた明久と優子、そして神宮寺の目の前にそれはあった。

 

赤い三日月型のペンダント。

 

勇輝はまるで怯えるかのように震えながらもそれを取った。

 

取って。一筋の涙を流した。

 

 

「う、ううあ」

 

 

一人の男の子は泣いた。一匹の守宮は泣いた。何故か?

 

そんなこと、今更問うまでも無い。

 

やっと……やっと見つけることができて、この手に取ることができたからだ。

 

 

「見つけた。見つけたよ。やっと、見つけよ!!」

 

 

叫んだ。どこまでも遠くに届きそうなくらい、少年は叫んだ。

 

そして段々と少年の姿は消えていき、最後にはいなくなった。

 

まるで、元からそこにいなかったかのように。

 

あの『のっぺら坊』の時のように。

 

 

「あ、明久君。ゆ……勇輝君が……」

 

「多分、怪異としての性質を失ったんだよ。のっぺら坊がそうだった

ように……怪異は怪異として発生する条件があるからこそ怪異で在り

続けられる。隠し守宮は自分の大切なものを見つけられた……だから

消えてたんだと思う」

 

 

生きてそう成ったとは言え、怪異になった時点で死んでるようなものだ。

 

だから、人間に戻ることなく、消えてしまったんだ。

 

そう明久は実感し、優子は複雑そうな顔で神宮寺がいた場所を見つめ続けた。

 

 

「あの、優子さん。その、何ていうか……こんな場面で言うのもなんだけど」

 

「なに?」

 

「僕は、君のことをもっと知りたい。知って知って、知りまくって。

君がどんな女の子なのかっていうのを感じて知りたい。だから僕は君

の傍にいたい。君は……そんな僕が嫌いかな?」

 

「……………いいえ。貴方みたいなどうしようもない大馬鹿ですごく

良い人となら……私はずっと一緒にいたいって思うわ」

 

 

それは、肯定の言葉。

 

一つの恋仲が生まれた……瞬間だった。

 

 

 

 

~~明久サイド~~

 

 

 

 

「…………………………………………何してんの?」

 

「いや~何ていうか……別の怪異にクラスチェンジしたらしんだ」

 

 

朝が眼が覚めると目の前に神宮寺君がいた。

 

場所は自分の家の天井。そこに守宮の如く神宮寺君は背を天井側に

向けて満面の笑みを僕に向けながら、いた。

 

 

「………怪異にクラスチェンジってあるの? ていうか何で僕の部屋

の天井に張り付いてるの?」

 

「俺も普通にしようかなと思ったんだけどさ、やっぱこの方が良いかな

って個人的に思うんだよね。まっそんなわけだから改めて礼を言うけど」

 

 

その子の笑みが、一層明るさを増したかのように僕は見えた。

 

 

「ありがとうな! アキ兄ちゃん!」

 

 

 




今年も残すところあと僅かになって来ましたが、来年も精一杯
がんばっていく方針です!!

そして感想待ってます!
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