バカと明久と怪異鬼譚【凍結】   作:イビルジョーカー

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第八怪 ひでよしポイズン【中】

 

 

 

 

~~康太サイド~~

 

 

 

 

……俺は……吸血鬼だ。

 

……あまりに唐突なアレですまないと思っているが……事実だ。

 

……そしていきなりの展開で凄まじく動揺しているだろうが、

上記にもある通り間違いなく今回の語り手は明久でもなければ

……第三者でもない……他ならぬ俺……『土屋康太』だ。

 

……原作ではレギュラーキャラの一員として……そしてこの物語

でもレギュラーをやっている筈の俺が何故。どうして。

 

……こんなにも遅れて登場しいているか……。

 

……どうして……木下秀吉を中心に置いたストーリーで

俺を出すに至ったのか。

 

……不思議に……いや不自然で奇妙に思うのも無理はないと思うが……それに

関してはこんな中途半端な形で出すことを決めた作者に文句を言って欲しい。

 

……でだ、とりあえず最初に言ったが……俺は吸血鬼だ。

 

……血を吸うという意味の『吸血』に『おに』という漢字の読みを『き』に

変えて『吸血鬼』だ。知って通り『怪異の王族』の一角で……最も世界的に

知名度が高い怪異だ。

 

……一口に吸血鬼と言っても国や地方によって様々なものがある。

 

……例えばマレーシアの『ペナンガルー』……こいつは昼だと至って普通の人間

だが夜になると……首と胴体が分離し、臓物を引っ下げた首だけ状態で見つけた

人間を襲ってその生き血を啜ったり……あと中国だとキョンシーがあるな。

 

……一応有名だし知っているとは思うが……説明しておこう。

 

……キョンシーは夜になると死体が蘇り人を襲う……まぁ、一般の人間が

イメージする西洋の吸血鬼と同じだな。弱点もあんまり西洋の方と大差ない。

 

……だが……俺はちょっとした訳あってキョンシーが苦手だ。

 

……苦手……と言うより『嫌悪』と言うのがこの際的確だな。

 

……とにかく俺は……誰が何を言おうと吸血鬼だ……日光や十字架を

恐れ嫌悪し、闇を好み人を襲いその生き血を啜る。それが吸血鬼。

 

……とは言っても……俺は人を襲ったことが一度もない。

 

……吸血鬼が血を吸う過程で……それを実行するに至る目的が三つ存在する。

 

……『食事』と『繁殖』、そして『使い魔造り』だ。

 

……『食事』に関してだが……別に吸血鬼だからと言って血液だけしか

口に出来ないというわけではない。血液以外にもあらゆる物を、それこそ

普通の人間では食べれないようなものまで食べてしまう……。

 

……だが……それだけだ。

 

……あくまで『食べる』はできても……『摂取』まではできない。

 

……血液以外の食べたものは……気化するだけ。

 

……気化して終わりだ。栄養摂取も何も無い。

 

……だから……あくまで他の物を食すという行為は、結局のところ

『嗜好品を嗜む』……という意味合いでしかない。

 

……人間にとっての主食の数々は、吸血鬼にとっては酒やタバコのような

『嗜好品』でしかないということだ……。

 

……『繁殖』に関しては……まぁ、そもそも吸血鬼は怪異であり生き物ではない。

 

……生物的意義を持たないが、まるで生きているかのように振舞う。

 

……従って大抵の生物というやつは性行為で繁殖するが……吸血鬼は違う。

 

……生き血を吸い尽くして一度殺し……その死体に自分の血を入れる。

 

……そうすることで『吸血鬼にとっての繁殖』は成立し、新たな吸血鬼が誕生する。

 

……最後の『使い魔造り』に関しては……まぁ…そのまんまの意味合いだ……。

 

……『同族』ではなく『隷属』を作る……。

 

……『吸血鬼』じゃない、『吸血鬼に付き従う怪異』を造る。

 

……ようは『ゾンビ』や陰陽師で言うところの『式神』に近いものだ。

 

……さて……もう大体の説明は終わったのだから、俺自身が一体どういう風に

この回の物語に関って来るのか……今から説明しようと思う。

 

……しかしまぁ……これを読んでいる読者にしてみれば『どういう経緯で吸血鬼

になった?』……とか『色々設定を教えて欲しい』なんてのは……あるかもな。

 

……だがそこら辺の諸々事情は後々語ろう。今……お前達が知るべきことは、

この俺が……この『バカと明久と怪異鬼譚』においては生粋の人間などでは

ない『正真正銘本物の吸血鬼』であるということだけ……だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……俺は今、水族館に来ていた。

 

……自分が住んでいる如月市には七つも水族館があるのだが、

その七つの内の何れかではなく……隣町のだ。

 

……文月学園において『寡黙なる性職者』の異名を有するこの俺が、こんな

若いカップルどもが黄色い声を存分に上げてそうな……ある意味非リア充が

最も嫌悪するであろうアンチ・スポットに訪れているのは…読者の見方から

観察してもおかしい……などと思われても仕方ないと俺自身よく思う。

 

……こんなのは場違いだと、その自覚も十分ある……が。

 

……何も俺自身……別にエロだけにしか興味がないというわけではない。

 

……よく誤解されるが……こう見えてもカメラやビデオの撮影対象は

女性だけではない……実は結構……海の生き物が好きだったりする。

 

……そんなわけで俺は現在……多種多様な海洋生物の写真を収めるべく

この水族館に来ているというわけだ。

 

……しかし……水槽で見世物になって人間の衆目を浴びせられている

彼等も可哀想なものだ……。

 

……自らの私生活を見られているも同然なのだから……いや……

そもそも本当にそう思っているのかどうかが分からないのだから

……『可哀想』と思うのは検討違いかもしれないし実は的確かも

しれないし……非常に曖昧だ。

 

……まぁ、ぶっちゃけ写真さえ取れればいいだけだし、こいつら

がこの先どうなろうと俺の知ったことではない……。

 

……かれこれ館内で1時間は写真を撮っているだろうか。

 

そろそろイルカやオットセイなどの海獣類でも撮ろうとした

矢先、一本の着信が俺の携帯電話掛かって来た……。

 

 

「……もしもし?」

 

『あっ、もしもしムッツリーニ? 今どこにいるの?』

 

 

……電話の主は吉井明久、俺の友人の一人だ。

 

 

「……隣町の水族館だ」

 

『………』

 

 

……どうやら一瞬、思考が停止したらしい。

 

 

『康太、今から僕の言うことをちゃんと記憶してね? 大丈夫。

中々腕の立つ良い医者だから康太の頭も何とかしてくれるよ』

 

「……何か変な誤解しているようだが、あくまでも撮影の為に

来ているだけだ。……それともう一度でも言ったら……殴るからな」

 

『えっそうなの? あ~じゃあ、もしかしてアレ? イルカショー

でイルカと一緒に泳ぐ女の人のトレーナーさんが目当て? 確かに

ダイビングスーツ着てるからさ、何処かエロいよねアレって』

 

 

……また誤解された。

 

……まぁ…俺が大のエロ好きであり、それに関する様々な美学を持ち合わせて

いるのは否定できないが……それでも俺は…あくまで海の生き物の写真を撮り

に来ただけで別にイルカショーの女性トレーナーを盗撮…もとい撮影しに来た

わけではない……。

 

それにもう……既にこのカメラに収めておいたしな。

 

 

『とにかく今すぐ来て欲しいんだ!! 事情は会ってから改めて説明するから、

できるだけ早く裂男の廃墟ビルに来て! じゃっ!』

 

 

プツン。

 

……そんな音を立てて、電話は切れた。

 

……しかし面倒だ。

 

……いくら友人の頼みとは言え、せっかくの貴重な時間を無碍にするのは

さすがの俺としても……容認できない。

 

……しかし…だからと言って無視するのも流石に悪いと思った俺は……結局

水族館を出て如月市へと戻り、そして明久に会うことにした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……明久が俺のことを……俺が明久の『普通の人には言えない事情』を

互いに知ったのは……夏休みのある事件が切っ掛けだった。

 

……それについてもまた後々語るかもしれないが……今はその時ではない。

 

……まっ、そんなわけで俺が吸血鬼であることを明久は知っているし……

その逆に明久がハーフゾンビであることを俺は知っている……。

 

……やはり妙な因果だ。

 

……そんなこんながあって、俺はあの有名な都市伝説の口裂け男……もとい

鉈崎裂男の仮初の住居である廃墟ビルに来た……来たのはいいが、いたのは

明久と明久の恋人であり……明久と同様に俺の友人の秀吉の姉である優子が

いた。

 

……それだけだった。

 

……怪異絡みの事件において肝心な筈の裂男の姿が…無かった。

 

……裂男はどうやら何らかの事情があっていないと……俺はそう

勝手に…あるがままに推測した。

 

……折り畳み式の長いテーブルで間を挟み、俺は……俺と同じように

眼前でパイプ椅子に座る明久と優子の二人を見据える……雰囲気から

察するにおそらく……怪異絡みについてだろう。

 

 

「来てくれてありがとう、ムッツリーニ」

 

「……俺を呼び出すとは珍しい。一体何があった?」

 

 

……率直に聞いてみた。

 

……明久は言い難そうな感じだったが、優子はそんな素振りを

一切見せず……はっきりと言った。

 

 

「秀吉が明久君を襲って、そのまま行方不明になったの」

 

 

………漠然としていて、と言うより、『し過ぎて』いて分り辛い。

 

 

「つまり、どういうわけか秀吉が怪異みたくなって明久君を襲って

そのまま行方を晦ましたの。その現場にこれが落ちてたわ」

 

 

……そう言って優子は……下に置いてあったビニールの袋から計25枚。

 

……5cmほどの大きさの鱗を出した。『魚』というより……『爬虫類』

のそれに似ている形状の鱗だった。

 

 

「……分かった」

 

 

……そしてそれを見た瞬間、続けて何かを言おうとする優子より

先に即答してみせた……。

 

 

「え? 分かったって何が……」

 

「……明久。お前が遭遇した怪異の正体についてだ……」

 

「う、うそっ! これを見ただけで分かったの!?」

 

 

……露骨に驚愕を隠し切れない明久が俺にそう問いかけて

来るが…俺の返答は変わらない……。

 

 

「……俺は『吸血鬼専門の狩人』だが……毒に関連する怪異も

専門にしてる。秀吉に憑依して明久を襲った怪異は……『胎毒』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……『胎毒』。この言葉には病気的な意味と怪異的な意味の二つがあり…

…俺が言ったのは怪異的な意味での『胎毒』だ。

 

……実体を持たない、毒の因子としての怪異で蛇や蜥蜴などの爬虫類の姿を

とって妊娠中の母親の夢の中に現れる……母親は胎毒が爬虫類に象ったそれ

を何故か食べたくなり、それを我慢せず食べてしまえば……結果的に食べた

時点で胎毒は胎児へと憑依する。

 

……胎児へと憑依した胎毒は出産と同時に宿主の精神的な一部と化し、

ただ時が来るまで潜伏し続ける……。

 

……そして宿主の心で黒い感情満たされたその時……胎毒は宿主の精神を侵す。

 

……その状態が丸一日継続された場合、宿主は精神どころかその命さえも

崩壊しかねない。

 

 

「……これは…非常に拙いな」

 

 

……明久たちにそう説明してから俺は一言……そう言った。

 

……コレに関して言えば比喩でも冗談でもなく、本当に拙かった。

 

……明久の証言によれば……振り分け試験のあった当日に胎毒状態の秀吉に

襲われたらしい。現時点で今日は3月21日の土曜日……あの振り分け試験

があった日は3月20日の金曜日。

 

……丸一日は余裕で経っているという……心底笑えない状況だった。

 

 

「じゃあ、侵された状態が丸一日経ったっていうことは!」

 

「……ああ。かなり危険だ。レッドゾーンを越えかかっている」

 

 

……明久が悲痛そうな声を上げ、俺はあくまでも冷静な声音で現時点で置かれて

いる状況を明久に伝えた……焦っても得することなどない。できるだけ……心を

静寂に保つことが最重要だ。

 

 

「……こういう肝心な時に何故、奴がいない……裂男はどうした?」

 

「裂男さんは、狩りに行ってるの」

 

「……狩り?」

 

 

……俺は一瞬ばかり意味不明に陥ったが……すぐ理解できた。

 

……あいつの言う『狩り』とは、すなわち『怪異退治』を指している。

 

……さっきも言ったが……俺もまた吸血鬼と毒の怪異を専門に扱う

フリーのヴァンパイア・ハンターだ。

 

……吸血鬼であり吸血鬼を狩っている……と言えば大抵の人間は『裏切り』

だとか『下克上』とか……至極妙なことを言うものだ。

 

……人間が人間を殺し、他の生き物も当たり前のように同じ種の生き物を殺す。

 

……そもそも同種族で殺し合いや食い合いをしない生き物など、この地球上に

存在しないと……俺はそう断言できる。

 

……『同じ種を殺す=裏切り』なんて方程式は実のところ人間の理屈であり…

…エゴに過ぎないのだ。

 

……なんだか、話が少し逸れてしまったな。

 

……とにかく事は一刻を争う。

 

……そんなわけで手分けして秀吉にとって縁ある場所を思い当たる限りで

探しては見たが……どれもハズレだ。

 

……秀吉はいなかった。

 

……強いて言えば、痕跡すらも。

 

 

「あぁん? どっかで見かけたような面かと思ったら康太じゃん。どしたよ?」

 

 

……しかし……見つかった。随分と外見は変わらず雰囲気を変えた状態で。

 

……何気ない普通の歩道橋の上という意外な場所で……俺と秀吉は奇妙な

再会を果たしてしまった。

 

 

「……。お前、秀吉か?」

 

 

……この目の前にいる秀吉が紛れも無い正真正銘の秀吉であることは間違いないが、

明らかに雰囲気がおかしい。……胎毒に侵された人間は大抵……『毒』という言葉を

呪か何かのように、狂ったかのように呟き続け、理性なんて一欠けらもないような。

 

そんな異常状態になるのだが……普通に話している。

 

……秀吉は今……普通に俺と面を向かって喋っていた。

 

……おかしい。それが……かなり不気味に思えた。

 

 

「あぁ? あ~はいはい、確かに変に思うのは仕方ねぇよなぁ。

いや何つーかさ~胎毒だっけ? 生まれた頃から俺の精神の一部になってた怪異? 

コイツが俺の精神を喰おうとして、逆に喰ってやったら……こんな感じになったっ

て感じ?」

 

 

……何だ。それは。

 

……つまり、本来なら胎毒が精神を侵す筈がその逆になってしまった……ということか?

 

……笑えない。更に言えばそれ以外もなく、ただより一層いつもの

ムッツリとした自分の顔を怪訝極まりない表情にするしかなった。

 

 

「つーわけだからさ、俺はある意味『新怪異』なわけよ。人格は木下秀吉のまんまだけど

性格は違う。『俺』は現時点で『俺』になったつーわけだ」 

 

「……秀吉。お前は今のようになる前に明久を襲ったらしいが……その行動の意図は何だ?」

 

 

……この質問。今この瞬間に思ったがある意味、失策だったかもしれん……。

 

……胎毒に精神を侵されていた状態での人を襲うという行為は……何らかの

意図があるものなのだ。逆に言えば……意図が無いなら『誰かを襲う』なんて

ことはしない。

 

怪異には、怪異なりの理由があり、胎毒の場合は『宿主のしたいこと』に起因している。

 

……『胎毒の行動=木下秀吉のしたいこと』になるのだ。

 

……つまり。明久を襲ったのはある意味……秀吉ということになる。

 

……そんな自身の内情を他人に晒し明かすような真似、する筈は……。

 

 

「ぶっちゃけて言うとさ、明久って野郎は邪魔なんだよ」

 

「……邪魔?」

 

 

……心底驚いた。どうやら喋る気があるらしい。

 

 

「そっ。アイツのせいで姉さんの記憶からあの人たちがいなくなる。

少なくとも俺は、あの人たちが姉さんの記憶からいなくなるなんて、

嫌なんだよ。同じように俺の記憶からも消えて欲しくない。だから、

だからだから、俺は明久を消したかったんだ。アイツを殺そうとした」

 

「……お前の言う『あの人たち』が誰かは知らんが、明久の為にも……

…お前の為にも明久を殺させるわけにはいかん。大人しくしてくれ……」

 

 

……俺が、土屋康太が何故吸血鬼のみならず『毒の怪異』も専門にしているのか。

 

……その最大の理由は、俺が『毒を殺す力』……すなわち『ポイズンキラー』と言う

スキルを持っている為だ。怪異は大抵『スキル』というものが備わっている。

 

……例えば吸血鬼なら『エナジードレイン』、人狼なら『ムーンボルテージ』、

と言う具合にな。スキルは怪異の種としての特性に由来するが……そうでない

場合もある。

 

……俺の『ポイズンキラー』が良い例だろう。

 

……とにかく、さっさと捕まえて……

 

 

「悪いけど、お前なんかに捕まるわけにはいかないんだよバーカ」

 

 

……そう言って秀吉は俺の足下から毒液を出して俺の両足に絡ませた……

何ていうか………地味にダメージ受けるなコレ。

 

……ってか、胎毒を操ってこんな使い方をするとは……なんだかな……。

 

……い、意識が…。拙いな……も、もう、もたな……い。

 

 

「近々俺は明久を殺すよ。俺の毒で直々に、じっくり、ゆっくり、殺してやる」

 

 

……そう言った。朦朧とする意識の中で……俺は……確かに聞いた……。

 

 

 

 






自分で書いておいてアレなんですけど……『なんじゃこら』と思います。はい。

でも、ムッツリーニが書けたので自分的には満足です!
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