Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』 作:七宮 梅雨
どうやら、俺は神様に嫌われているようだ。
だって、普通助けた女性がもう合わないと心の中で決心した聖良姉ちゃんだとは誰も思わないだろう。
俺はあの時、助けようと足を動かしてしまったことを歯を食いしばりながら後悔した。
明(今ならまだ間に合う!)
俺は変な気持ちになる前に、その場から離れようとした。だが………
聖良「待ってください!!」
明「!?」
聖良姉ちゃんが急に俺の背中に抱きつく。俺はテンパリながらも何とか彼女を離そうとするが、力が強く離すことが出来なかった。
これ以上はやばい!!
そう思った俺は、聖良姉ちゃんには申し訳ないが、怒りの感情を込めて言葉を出そうとした。
明「ちょ、いい加減に………」
聖良「ゔゔっ……………」
明「ッッ!?」
彼女は…………聖良姉ちゃんは泣いていた。
顔を俺の背中に押し付け、表情は見えないものの、身体を震わせ泣き声と嗚咽がはっきりと耳に入ってくる。そんな彼女の姿を見ていたら何も言うことが出来なかった。
よほど、怖かったのだろう。あんな男性4人に囲まれ、車に乗せられそうになったのだ。怯えるのは当たり前だ。
状況が状況だ。仕方がない…………。
明「あそこの公園に移動しましょうか」
今だけだ。今だけ……………
明「落ち着きましたか??」
聖良「はい。ありがとうございます…………」
俺はとりあえず近くにあった公園まで訪れ、聖良姉ちゃんをベンチに座らせたあとに自販機で買ったお茶を渡した。その頃には、聖良姉ちゃんはまだ顔は目とかが腫れてて赤いものの、落ち着いていた。
明「…………」
聖良「…………」
そこから互いに一言も喋らず、しばらく沈黙の時間が続いた。
気まづい、と思っていたが先に口を開いたのは聖良姉ちゃんだった。
聖良「とりあえず、貴方に謝らなければなりません」
明「え?」
突然、謝罪をされたので驚いたが話を聞くに、ライブの結果発表をされたあと、理亞姉ちゃんがAqoursのメンバーに対してつい失礼な言葉を言ってしまったらしい。Aqoursのメンバーと別れたあと、聖良姉ちゃんが理亞姉ちゃんに「今のは失礼ですよ」と注意したところ、そこからちょっとした言い争いとなってしまったようで、姉ちゃん達は離れ離れで行動するようになってしまったという。そして、1人で行動していた時に男性達に囲まれたという。
明「別に気にしてませんよ。多分、彼女たちも大丈夫だと思います」
聖良「そうですか。そう言ってもらえるとこちらかとしても助かります。あの子は昔から言葉に少しトゲのある言い方をするので…………」
そんなこと、知ってるよ…………
俺はそう思いながら、適当に彼女の言葉に相槌していた。内容はほとんど、妹である理亞姉ちゃんのことについてだった。
明「本当に妹さんのことが好きなんすね」
無意識に口が開いてしまった。唐突の発言に聖良姉ちゃんはキョトンとしているが、すぐに笑顔となり
聖良「はい!!理亞は私の……大切な家族ですから」
大切な家族ですから………
たいせつな家族ですから………
たいせつなかぞくですから………
タイセツナカゾクデスカラ………
聖良『人殺し』
聖良『もう、私達と関わらないで』
明「そっか。俺はもう違うのか………」
聖良「え?」
理亞「姉様!!」
俺の呟きに、少し聖良姉ちゃんが反応した瞬間、理亞姉ちゃんが泣きそうな顔をしながら公園に現れた。
理亞「姉様!!大丈夫??どこも怪我ない??」
聖良「え、あ、うん。大丈夫よ」
そして、理亞姉ちゃんは聖良姉ちゃんが無事だと改めて認識すると安堵のため息を吐く。その後、喧嘩きた件について聖良姉ちゃんに謝っていた。もちろん、聖良姉ちゃんはそれを直ぐに了承する。
理亞「ところで、どうして貴方がいるの??」
理亞姉ちゃんは聖良姉ちゃんの前に立ち、俺の方を見て睨みつける。まぁ、当たり前っちゃあ当たり前だ。
聖良「り、理亞!!違うの!!話を聞いて」
聖良姉ちゃんは理亞姉ちゃんに事情を説明した。すると、理亞姉ちゃんは今度は少し気まずそうな表情で俺の方に近づく。
理亞「姉様を助けてくれてありがとう………。そして、勘違いしてごめんなさい。それと、彼女たちにも…………」
理亞姉ちゃんは頭を下げる。
明「俺は別に大丈夫ですよ。Aqoursのみんなには今度会った時に言ってあげてください。それじゃあ、俺はこれで。そろそろ電車が来ますので」
本当はもう既に乗りたい便は行ってしまったが…………。
しかし、俺はすぐにこの場から離れたいと思っていたので少し小走りで彼女たちと別れようとしていた。
姉ちゃん達とこれ以上いると、色んな意味でおかしくなりそうだった。自分が自分で無くなりそうな感覚がある。
聖良「ちょっと待ってください!!」
聖良姉ちゃんの呼びかけに俺は何故か足を止めてしまった。そして…………
聖良「あなたとは…………どこかで会ったことありますか??」
明「ッッ!!??………………さぁ。」
俺は予想外の言葉に少しフリーズになりながらも、なんとか気を保ち、振り向かないまま素っ気なく答え、走った。
聖良『あなたとは……………どっかで会ったことありますか??』
電車に乗った俺は最後の聖良姉ちゃんの言葉が頭の中で何度も何度もリピートしていた。
例え、忘れようとしても…………。
そして、気づいたら俺は沼津駅へと戻ってきていた。