Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』 作:七宮 梅雨
〜ライブ当日〜
鞠莉「奥山くーん、小豆ぜんざい3つ追加お願いねー」
明「了解です」
あれれー??どうして俺は今日、ライブ当日だというのに以前、合宿でお手伝いした『海の家』で鞠莉先輩と一緒に働いているのだろうか??そして、何故俺は再び小豆ぜんざいを作っているのだろうか??
鞠莉「奥山くーん、小豆ぜんざい追加で10つ追加ねー」
明「了解です。」
うーん、小豆ぜんざいを作りながら思い出してみるか
鞠莉「奥山くーん、小豆ぜんざい追加で20つ追加ねー」
鞠莉先輩や。事の出来事を思い出す前に俺の事、殺す気ですか??
昨日は俺の領域に入ってきそうだった花丸さんに酷いことを言って、花丸さんとの関係を白紙にした。その時の花丸さんのあの悲しそうな表情を見た時は流石に心が痛かった。
そんで、そのまま彼女と別れて今日を迎えた。当然、俺は花丸さんと距離を取った。彼女は何か言いたそうな素振りを何回か見せたが、昨日のことを気にしてなのか話しかけることは無かった。
俺と花丸さんのとの様子を見て、何か察したのか俺は鞠莉先輩に呼び出された。そんで、何があったのかと問われたので正直に答えたら、めちゃくちゃ怒られた。
鞠莉先輩は花丸さんとの仲を修繕するようにと言われたが、俺は彼女との関係を戻す気などはサラサラない。俺はもう決めたのだ。花丸さんと関わるのはもう辞めると。その方がお互い良い気に決まっている。まぁ、どっちみちもう遅いけどな。
そして、俺は罰としてリハーサルまでは海の家で鞠莉先輩と一緒にお手伝いすることとなった。元々、合宿でここの海の家を気に入った鞠莉先輩は合宿以降、Aqoursの練習がない日はちょいちょい手伝いをしているらしい。流石にシャイ煮を作ることは無かったが、ホールの方で鞠莉先輩は活躍していた。
流石は学園長をやっているだけあって、接客に関しては完璧だ。どうして、合宿の時に彼女を料理担当にしてしまったのだろうか、と思ってしまうほどに。
明「先輩、小豆ぜんざいできました。提供をお願いします」
鞠莉「OK♪」
有難いことに、海の家に来たお客さんは小豆ぜんざいを買っていってくれる。話を聞くに、どうやら俺の作る小豆ぜんざいをSNSで知り、食べに行こうとして行くも買えなかったお客さんが大勢いたらしい。それによって、『幻の小豆ぜんざい』と呼ばれるほどにまで話題となったとか…………。
明「てか、日差しが眩しいなぁ」
鞠莉「じゃあ、これ付ける??」
提供から戻って来た鞠莉先輩は胸の谷間からサングラスを取り出す。いや、あんたどこから出してんねん。
でも、まぁ本当に日差しが眩しいし目がチカチカするから借りようかな
明「助かります」
俺は先輩からサングラスを受け取り、目にかける。うわぁ、少しだけ生暖かいよぉぉ。
鞠莉「ワオ!とってもクールになったわ」
明「あはは、ありがとうございます」
さすがにこれは苦笑いすることしか出来ない。
鞠莉「もうすぐリハーサルだから、それまでは頑張るわヨ。」
明「うっす」
俺は肩にかけていたタオルを頭に巻いて、気合いを入れた。
〜数十分後〜
明「ん?ちょっと騒がしいな」
俺は小豆ぜんざいを作っている途中だったが、一旦手を止める。フロアの方から女性の怒りの声が聞こえる。距離があって何を言っているのかは分からないがここまで聞こえてくるってことは相当大声を出してるんだが。
明「クレームか??」
どうしようか。今、鞠莉先輩は俺たちの飲み物を買ってきているからフロアにいるのはここの海の家の店長とその娘さんだけのはず。
明「ちょっと行ってみるか」
俺は厨房からフロアの方へと足を運ぶ。運ぶにつれて、あやふやだった怒りの声がハッキリと聞こえるようになった。
??「早くこの小豆ぜんざいを作っている人を出しなさい!!」
店長「いや、ですから…………」
??「いいから!!」
ん?なんか聞き覚えのある声だな。とにかく、早く店長と娘さんの援護にまわらないと……………。
明「あのー、お客さ…………」
俺はクレームを言っているのお客さんの顔を見て目を丸くする。
俺の目の前にいる一人の女性、身長はルビィさんと同じくらいで低く、ツリ目とツインテールが彼女にとって特徴的な人物。そして、話し方に少しだけ刺がある。ここが海であるからか、水着を着てその上にピンク色のパーカーを着こなしていた。
どうして……………
理亜「何よ………」
どうして、ここに理亜姉ちゃんがいるんだ!!
理亜「あんた誰よ??」
理亜姉ちゃんの言葉で俺はハッと意識を取り戻す。今の言葉からして俺の事を認識していない??いや、違うな。今の俺はサングラスを付けてるし、頭にタオルを巻いてるから理亜姉ちゃんは俺が奥山 零であると分かっていないんだ。
だとしたら、幸いにも好都合だ。少しだけ声のトーンを変えて話せばいい。
明「俺はここのお手伝いをしている者だ。話があるなら俺が聞いてやる」
この流れに乗って、どうしてこの人が内浦にやって来たのか聞き出すことにしよう。
理亜「あっそ。じゃあ、アンタに聞くわ。この小豆ぜんざいを作った人を出してちょうだい。」
明(ッッ!?…………なるほど、そういうことか)
俺は理亜姉ちゃんの一言で全てを理解した。前も言った通り、俺の作った小豆ぜんざいはSNSで莫大的な拡散が起こった。それによって、理亜姉ちゃんにも俺の作る小豆ぜんざいの存在が伝わったのだろう。
俺が作る小豆ぜんざいはいくら改良をしてあるとはいえ、実家の喫茶店で出しているやつをベースにしているから長年見てきた理亜姉ちゃんには気づかれてしまったようだ。
しかし、まさかそれを確認するために北海道から内浦までわざわざ来るとはな。
明「どうしてです??」
理亜「あなたには関係ないでしょ」
明「関係無くはない。理由も無しに厨房の人間を出せって言われても困る。」
理亜「うるさいわねぇ!!早く出しなさいって言ってるでしょ!!」
出せも何も、目の前にいるんだけどなぁ。でも、どうしようか。何を言ってもこの人、動く気は無さそうだし。昔から頑固だなぁ
困っていると、この状況を打破してくれるあの先輩が帰ってきた。背後に見覚えのないイケメンのオッサンを連れてきて。てか、誰だよその人は。…………まさか引っ掛けてきたんか??んなわけないか。
鞠莉「お客様〜」
理亜「アンタは??」
鞠莉「この子の同じ、ここの店のヘルプに来ている者よ。マリーって呼んでちょうだい。」
理亜「んで、その後ろにいる男性は??」
鞠莉「彼はあなたが要求していた人物ヨ??」
理亜「え?」
鞠莉「この方は、ここの海の家でその小豆ぜんざいを作ってくれていたパティシエよ??」
理亜「な!?」
理亜姉ちゃんは鞠莉先輩の言葉で驚きの表情を見せる。無理もない。恐らく、姉ちゃんは小豆ぜんざいを弟が作ったものだと確信していたのに違いないからな
鞠莉「それに、あなた見たことあると思ってたけど、スクールアイドルの子でしょ??こんな所で騒ぎを起こしてもいいのかしらん??」
理亜「ッッ!?……………ごめんなさい。」
ようやく、自分の立場を理解したのか理亜姉ちゃんはシュンとして俺たちに頭を下げた。
??「理亜!!」
理亜「………姉様」
明・鞠莉「!!」
このタイミングで1人の女性が心配そうな表情でやって来た。身長は女性にしては高く、優しそうなタレ目とサイドテールが特徴的である人物。可愛らしい青色の水着に理亜姉ちゃんと同じパーカーを着こなしている。
そう、俺のもう1人の姉である聖良姉ちゃんだ。理亜姉ちゃんがいるからどこかにいるとは思っていたが、まさかここで会うとはな
聖良「すみません、うちの妹が迷惑を掛けてしまったみたいで」
鞠莉「気にしてないわよ。ね、太郎??」
太郎って俺の事??
明「そうですね」
聖良「それでは。あと、鞠莉さん。Aqoursのライブ楽しみにしてます。」
鞠莉「あら、もしかしてその為に来てくれたのかしら??」
聖良「えぇ。理亜がどうしても行きたいって言うものですから」
理亜「姉様!!」
いや、絶対に嘘だろそれ。このツインテール、Aqoursのライブを理由に俺の事、探りに来やがったな。
その後、姉ちゃん達は去って行った。
明「鞠莉先輩、今回はマジで助かりました。ありがとうございます」
俺は鞠莉先輩に頭を下げる。もし、あの時に鞠莉先輩が来なかったらバレていただろう。
鞠莉「No problem!!でも、あの二人がいるってことは気をつけた方がいいかもしれないわね。」
明「えぇ。」
鞠莉「このことは後でダイヤにも伝えておくわ。奥山くんもできるだけバレないようにね」
明「はい。」
鞠莉「じゃ、そろそろリハーサルの時間だから行きましょう」
明「分かりました。」
こうして、俺と鞠莉先輩はライブ会場の方へと足を運んだ。
鞠莉「ちゃんと、花丸ちゃんに謝るようにね!!」
ちっ、忘れてなかったのか。まぁ、謝らないけど