Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』   作:七宮 梅雨

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意外な人物の登場です。


『人殺し』はまさかのあの人に拾われる

明「はぁ………はぁ………」

 

 俺は腹に手を当て、壁に寄り添いながらゆらゆらと歩いていた。

 

明「ゔぅ………!!!」

 

 家を飛び出したものはいいものの、零さんに殴られた箇所から強烈な痛みが響いて思うように身体を動かすことが出来ない。きっと、骨も何本かヒビが入ってるだろう。ちょっと動かすだけでもめちゃくちゃ痛い。

 

 通り過ぎてく通行人が俺の姿を見て心配そうな表情をするが、俺は気にせずゆっくりと足を前に進ませる。けど、余りにもペースが遅すぎる。

 

 ライブまでまだ時間はあるものの、今の状況でいうと5メートル歩くだけでも1、2分要するペースだ。このペースだときっとライブに間に合わないだろう。けど、これ以上ペースを上げると身体にかかる負担が大きくなる。

 

 どうにか、進むペースを上げたいと考えていたら唐突に脇腹辺りから鋭い痛みを感じた。

 

明「ぐっ…………!?」

 

 俺は膝を地面につけ、蹲る。こんなことしてる場合ではないと分かっているが、身体が言うことを聞かなかった。けど、こんなことをしている間にも彼女たちのライブの時間が迫っている。

 

 

明(くそ!!どうすれば!!)

 

 

 俺は歯を食いしばりながら、脇腹に手を当て考えていると…………

 

 

 

 

 

 プップー!!

 

 

 

 

 

 

 俺の右側から、車のクラクションが鳴り響いた。俺は右側に顔を振り向くと、1台の車が止まっていた。そして、その車の窓がウィーンと下がる。そして、その窓からひょこっと顔を出したのは………………

 

 

 

 

 

 

 

 

平山「あれ?奥山。そこで何してんだ??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明「………………先生??」

 

 

 

 

 

 俺のクラスの担任である平山 静香先生であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平山「ほれ、これ使え。やり方は知ってるよな??」

 

 

 平山先生は助手席に座っている俺の方に雑に救急箱を投げつけた。

 

明「ありがとう………ございます」

 

 俺は先生に感謝の言葉を述べてから、救急箱を開けて消毒液やら絆創膏やら包帯やらを取り出し、傷があるとこには消毒液をつけてから絆創膏を貼り、頭や恐らく骨にヒビが入っているであろう場所には包帯を巻き付けた。

 

 しばらくの間、俺と先生は一言も口に出すことは無く、車が走る音とCDの曲だけが車内で響き渡っていた。

 

 今、流れている曲が終わり次の曲が流れ始めた途端、俺は少しだけ反応してしまった。理由は流れたのがAqoursの曲である『未熟Dreamer』だったからだ。

 

平山「いい曲だよな。私もよく聴いてるんだ」

 

 平山先生はそう言って、隣に置いてあった缶コーヒーを手にして飲む。正直言って意外だな。

 

 そして、目の前の信号が赤になり車を停車した所で先生は口を開いた。

 

 

 

平山「それで、お前は何を悩んでるんだ??」

 

 

 

明「え?」

 

 突然の言葉に俺は目を丸くして先生の方を振り向く。運転してることもあって先生は俺の方を見ずに前だけ見つめていた。

 

明「言ってる意味が…………」

 

平山「言葉通りの意味だよ。お前、なんか悩んでることあるだろ。」

 

明「そんなこと…………」

 

平山「じゃあ、何でAqoursのマネージャーであるお前がライブ当日にこんな時間にあんな場所にいた??本来なら、既に会場にいるだろ」

 

明「うぐ…………」

 

 先生の正論に俺は何も言うことができなかった。

 

平山「図星だな。とにかく、先生に言ってみろ。言ってみるだけでもだいぶ変わるぞ」

 

明「じゃあ……………1つだけ聞いてもいいですか??」

 

平山「おう。なんでも言ってみろ」

 

 俺は1回深呼吸を行ってから先生に向かって言葉を出した。

 

 

明「俺、ずっと昔からとある事に逃げてきたんです。逃げて逃げて逃げまくって。そのせいでAqoursのみんなも巻き込んでしまった。そして、俺は怖くなってその事からも逃げてしまったんです。そんな時、ついさっきある人からこう言われたんです。『逃げるな』って。でも、俺どうしたらいいか分からなくて……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もし、先生が俺の立場だったらどうしますか??」

 

 

 俺の問いに、先生は「ふむ」と言いながら顎に片手をつけた。

 

 そこから、また少しの間に沈黙の時間が流れ、『未熟Dreamer』の曲が終わった所で先生は言葉を出した。

 

 

平山「私も君と同じで逃げるかな」

 

 

明「え?」

 

 

 予想外の回答に、俺は驚きの声を上げる。この人も、逃げない的なことを言うと思ってんだけどな。

 

 

平山「だって、逃げることってことは自分にとって嫌なことなんでしょ??そりゃあ、逃げる逃げる。ルパン三世並に逃げるね。『あばよぉー、とっつぁぁぁん』ってドヤ顔しながら言って逃げるわ」

 

 

 平山先生は何気なく上手いルパン三世の声真似をして笑いながら自分の気持ちを答える。

 

 

平山「けど…………、時間を置いたら立ち向かうかな」

 

 

明「はい?」

 

 

 一瞬、俺は先生が何を言っているのか分からなかった。

 

 

明「どういうことですか??」

 

 

平山「私が逃げる理由は、ただ1つ。その嫌なことに立ち向かう為に準備することだ。準備を整えてから嫌なことに立ち向かう。それで、もし無理だと思ったらまた逃げて、準備して再び立ち向かう。それでもまだ無理ならまた逃げて、準備して立ち向かう。嫌なことから乗り越えるまでそれを繰り返す。」

 

 

 

 平山先生はそう答えると、俺の方顔を向けて手を伸ばし、わしゃわしゃと強引に俺の頭を撫でた。そして、俺の頭を撫で終わったら今度は俺の頬に優しく手を置いた。女性にしては結構ゴツゴツしている。空手か格闘技でもやっていたのだろうか。でも、とても温かかった。

 

 

 

平山「だから、奥山も長い間その事から逃げてきたなら、たまには向き合ったらどうだ??何かが変わるかもしれないぞ」

 

 

 

 

明「ーーーーーーッッ…………」

 

 

 平山先生はニヤッとしながらそう言うと、目の前の信号が赤から青に変わり、先生は前を向いて再び車を動かした。

 

 

 

 それからはお互い何も言葉を発することは無かった。

 

 

 

 そして、20分ほど時間が経つとライブ会場に着いた。

 

 

平山「私は車を停めてくるから、奥山は先に行っててくれ」

 

 平山先生はライブ会場の入口付近で一旦車を停めてから、先生の言葉に従って俺は助手席から降りた。そして、扉を閉める前に先生に言葉を投げかけた。

 

 

明「先生…………。色々とありがとうございました。」

 

 

 ここまで車を乗せてくれたり、救急箱を貸してくれたり、話を聞いてくれたのだ。こんなにしてくれる先生なんて、どこを探しても少人数しかいないだろう。

 

 

平山「気にするな。ほれ、行った行った。早くしないと駐車場が埋まる。」

 

 

 平山先生はしっしっとまるで虫を払うかのように手を動かす。確かに、周りを見ると車がかなりの頻度で通っていくのが分かる。

 

 最後に俺は何も言わずペコッと頭を下げたあと扉を閉めるとすぐに車が動き出し駐車場の方へと向かった。

 

 

 

 

 

明「たまには…………向き合う………か。」

 

 

 

 

 

 

 俺は平山先生の言った言葉が頭の中にこびりつき、何回もリピートを繰り返していた。

 

 

 

 俺はそのリピートしてる言葉を何回も聞きながらライブ会場の入口へとゆっくり進んで行った。

 

 

 

 

 

 




まさかの平山先生の登場でしたー。

1回しか出てないから忘れてる人も多いのではないでしょーかー!!

私もまさかここで出すことになるとは思ってもなかったです笑


ちなみに裏ネタですが、平山先生は過去に奥山 零と空手の全国大会の決勝戦で戦った相手です。もちろん、そのあとの零さんに起きた事情も知っています。だからこそ、彼女は『人殺し』である明に対して何も知らなくてもどこか想う部分があったのでしょう。まぁ、この設定は使う場面がないと思うのでここで発表しておきます笑。使ってもそんなに物語には支障ないので。

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