Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』 作:七宮 梅雨
ーーーーかつて、彼女がスクールアイドルをやると幼馴染に言ったように
ーーーーかつて、彼女が内浦にやってきた後に親友となる女性にスクールアイドルをやらないかと聞いたように
ーーーーかつて、彼女が友達想いの女性にスクールアイドルをやりたいかどうかと言葉を送ったように
ーーーーかつて、彼女が堕天使を名乗る女性に堕天使としてスクールアイドルに受け入れたように
ーーーーかつて、彼女が0から1へと変えると泣きながら決意したように
ーーーーかつて、彼女がクラスで喧嘩する3年生3人に対して辞めるよう怒鳴ったように
ーーーーかつて、彼女が親友を勇気づけて東京に送り出したように
ーーーーかつて、彼女が幼馴染に2人だけのパートを作り直そうと笑いながら言ったように
この女性………高海 千歌先輩は『人殺し』である俺にAqoursのマネージャーをやらないかと勧誘してきた。
明「何を……………」
予測を遥かに超えた言葉に俺は返す言葉を見つけることが出来なかった。この人はさっき俺が言ったことを聞いてなかったのだろうか。
千歌「明くん、Aqoursのマネージャーやりませんか??」
唖然してる俺を見て、聞いて無かったと思ったのか千歌先輩はもう一度、俺に勧誘の言葉を投げかけた。
明「どうして…………」
分からない…………本当に分からない。この人の考えてることが。
千歌「どうしてって言われても、Aqoursには明くんが必要だからだよ。」
千歌先輩はえへへと微笑みながら俺の問いに答える。
必要だから??こんな俺が??
Aqoursの大切なライブをぶち壊して、メンバーを傷つけたこの俺が??
『人殺し』であるこの俺が??
この瞬間、俺の中の何かがプツリと切れるのを感じた。
明「………ないだろ」
千歌「え?」
明「そんな訳ねぇだろ!!」
曜「千歌ちゃん!?」
ダイヤ「明さん!!落ち着きなさい!!」
俺は素早く千歌先輩に近づき胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。普段、声とかこういう行動をしないので驚いたのか、苦しそうな千歌先輩含め他のメンバーもビクリと身体を震わせていた。
しかし、そんなの今の俺は気にしない。胸ぐらを掴んだまま千歌先輩のことを睨みつけ、言葉を続けた。
明「俺は『人殺し』だぞ!?人を殺めたんだぞ!?例え殺めた相手が銀行強盗だったとしても!!例え殺めた理由が母さんや姉ちゃん達を守る為であっても!!俺が人を殺してしまったことには変わりはない!!」
そう。俺が言っていることは全て事実。
俺は『人殺し』。『人殺し』だからこそ俺は家族に捨てられた存在。
本来だったらこんな素敵な場所にいてはいけない存在だ。
だからこそ、俺は口にする。彼女自身が今、自分が愚かな行動をしているということを気づかせる為に。
明「俺みたいな『人殺し』がAqoursにいてみろ!!また何かが起こるに決まってる!!俺のせいで、お前らが今までに培ってきたものが全て失うかもしれないんだぞ!!ファンも信頼も名誉も、そして何より守りたい学校も!!それでもお前は……………お前らは俺の事を受け入れるって言うのかよ!!」
言葉を言い終わった俺は荒く呼吸を繰り返しながらも彼女のことを睨みつける。そんな彼女の瞳には、汚く酷く醜い自分の姿が映し出されていた。
これだけ言えば、流石の彼女も気付くだろう。俺がもしAqoursに居続けたあとの今後のことを考えたら俺は排除するべき存在だと。
さぁ、言ってくれ。こんな『人殺し』なんて要らないと。
さぁ、切り捨ててくれ。こんな醜い『人殺し』を。
さぁ、立ち去ってくれ。こんな哀れな『人殺し』の前から!!
さぁ、早く…………。じゃないと俺は……………。
しかし、俺の微かな希望も彼女の一言によって打ち壊された。
千歌「うん。例えそうなっても、Aqoursは君を受け入れる。」
明「ーーーーーーッッ!?」
胸ぐらを掴まれているのにも関わらず、千歌先輩は真剣な表情で…………真っ直ぐな瞳で俺に向かって言葉を出した。
千歌先輩の言葉に俺は顔を横に振りながらパッと千歌先輩の胸ぐらを掴んでいた手を離し、何歩か後ずさりした。
そして、バタンと尻を地につけてしまった。
どうして、この人はそんなことが言える!?
どうして、この人はそんなことが考えられる!?
どうして、この人はそんなに優しくすることが出来る!?
分からない、分からない!!
どうして、言わない!?どうして、見捨てない!?どうして、立ち去らない!?
俺は『人殺し』なんだぞ………??
どうして………………どうして!!!
俺が顔を俯かせていると、今度は千歌先輩が俺の胸ぐらをグイッと掴み、顔を近づけて言葉を出した。
千歌「例え、明くんが私達の前からいなくなったとしても、私達は全力で君のことを追っかける。例え、君がどん底まで堕ちていくなら、私達が君を全力引っ張りあげる。だって明くんは…………………
私達の大切な仲間だから!!」
千歌先輩はそう言うと、優しく俺の胸ぐらから手を離した。彼女の顔を見ると、彼女は泣いていた。
こんな『人殺し』のために、千歌先輩は涙を流していた。
しかも、千歌先輩だけではない。曜先輩やダイヤ先輩、鞠莉先輩に果南先輩。そして………………、花丸さんやルビィさん、善子さんまでもが涙を流していた。
そして、俺も。俺も自分の頬が涙で濡れているのに気づいた。
何度も何度も腕で涙を拭っても、止まることは無かった。
これ以上………俺の意志を揺るぐのをやめてくれ。
せっかく、やめると決意したのに…………。せっかく、やめると覚悟したのに…………。
そんなことされたら俺は……………
けど、その気持ちを持つことは許されない。許されないんだ。
だって俺は…………
花丸「『もっと自分の気持ちを大切にしろ。自分に嘘ついて無理に人に合わせても辛いだけだ』」
明「え?」
突然、花丸さんが俺に話しかける。俺は花丸さんの方に顔を振り向くと同時に彼女は言葉を続けた。
花丸「この言葉、覚えてるずらか?」
……………覚えてる。確か、花丸さんがルビィさんに体験入部の時に言った言葉だ。
花丸「マルは、これはルビィちゃんに対して言ったつもりだった。けど、そうじゃなかった。この言葉はマル自身にも投げかけていたんだ。それに気づかせてくれたのは明くんなんだよ」
それが………どうした。正直言ってその言葉しか出てこない。なんで、このタイミングでその事を俺に??
花丸「今だからこそ、この言葉を明くんに送るずら。」
そう言って、花丸さんは俺の胸に顔を埋めて声を震わせながら言葉を出した。
花丸「もっと明くん自身の…………本当の気持ちを大切にして。自分に嘘ついて周りに合わせても互いに辛くなるだけずら」
花丸さんはそう言って、少し経ったあと俺の胸部からそっと離れた。花丸さんが埋めていた部分が湿っていた。どうして湿っていたのか、そんなの考えなくても分かる。
それにしても、俺の本当の気持ち…………か。
あるかないかと聞かれたら当然ある。
あるけど…………
良いのだろうか??『人殺し』がこの気持ちを持ってしまって………
Aqoursにいたい、辞めたくないという気持ちを。
千歌「明くん!!」
曜「明くん!!」
ダイヤ「明さん!!」
鞠莉「明♪」
果南「明!!」
ルビィ「明くん!!」
善子「明!!」
花丸「明くん!!」
俺の目の前に、8人が並び立ち手を重ね合って差し伸べる。そして、声を揃えて俺に向かって最高の笑顔で言葉を出した。
8人「Aqoursのマネージャー、やってくれませんか??」
明「………はは」
全く…………もう色々通り越して、笑いしか出てこない。狂ってるな、俺も彼女達も
けど、彼女たちは生半端な覚悟でここにいる訳では無い。
相当な覚悟を、持って『人殺し』である俺を受け入れようとしている。
あんだけやらかし、彼女達に罵倒をしまくったのにも関わらず……………………だ。
だったら俺は……………………
彼女達の想いに応えるしかないじゃないか。
そして、見届けよう。浦の星女学院のスクールアイドルAqoursのこれこらを。彼女達のマネージャーとして。
俺は重ね合わされた彼女達8人の手の上にゆっくりと自分の手を置いた。
明「………今更ですけど、よろしくお願いします。」
俺の行動、そして言葉に彼女達は涙を流しながらも微笑みながら声を揃えて言葉を出した。
8人「ようこそ、明くん!!スクールアイドルAqoursへ!!」
こうして、俺は正式に10人目のAqoursのメンバーとして加わった。
これで、『想いよひとつになれ』編完結です。
ようやく、明はAqoursと和解しました。長かったよぉ(><)
けど、まだまだ終わりませんよ。
次はこの作品の最骨頂、SaintSnow編突入です。
お楽しみ下さい!!
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