Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』   作:七宮 梅雨

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今日は「BelieveAgain」を聞きながら友達のチャリのパンクを直していました。現場からは以上です。


『人殺し』は前に進む。

 千歌先輩達がライブ衣装から制服へと着替えた後、俺達は浦の星女学院の理事長である鞠莉先輩が手配したバスに乗り込んで各自家へと向かっていた。ライブや俺の件もあってよっぽど疲れたのか、何人かは目を擦るなどして眠たそうな表情をしていた。

 

千歌「ねぇ、明くん。」

 

明「何ですか??」

 

 前の席に座っていた千歌先輩が俺の方に振り向いて話しかけた。今から寝ようと思ってたんだけど…………。

 

千歌「今日のライブ……どうだった??」

 

明「ライブ………ですか??」

 

 千歌先輩の言葉に、他のメンバーもハッとした表情となり俺の方に顔を向ける。………ちょ、恥ずかしいんだけど。

 

 しかし、聞かれてからには答えなければならない。俺は彼女達から目を逸らしながらゴノョゴニョとして答えた。

 

 

明「……………良かったです。それに…………みんな可愛かったです。」

 

 

 きっと、今の俺は超絶に顔を赤くしているだろう。そーっと、彼女達を見てみると千歌先輩と曜先輩は嬉しそうにニコニコと微笑み、ダイヤ先輩とルビィさんと花丸さんは恥ずかしそうに照れ、善子さんは当たり前と言わんばかりにドヤ顔し、鞠莉先輩と果南先輩はニヤニヤと意地の悪い笑みを零していた。

 

鞠莉「ふぅーん♪」

 

明「な、なんすか」

 

鞠莉「なんでもないワ♪」

 

 本当になんなんだ、この人………。そんなニヤニヤしないでくれませんかね。ちょ、頰をグリグリしないで。痛いです。お返しにデコピンしてやったぜ。

 

 

千歌「けど、私は今日のライブ…………………嫌だったな」

 

 

明「え?」

 

 千歌先輩の言葉に俺は驚きの声を上げる。ライブの時の彼女はそんな嫌な風には見えなかったけどな。

 

 

 ………………あ。そういうことか。

 

 

明「梨子先輩がいなかったから??」

 

千歌「うん。よく分かったね。」

 

 どうやら、俺の考えは当たっていたようだ。なるほど…………確かに、今回のライブは梨子先輩は不在の上で行ったライブ。仲間想いな千歌先輩にとってはそれは良い事では無かったのかもな。

 

 

千歌「梨子ちゃんだけじゃないよ。明くんも同じ」

 

 

明「え?」

 

 

 俺も同じ??どういうことだろうか。

 

 

千歌「今日のライブの音や照明は会場のスタッフさんがやってくれたんだけど、私は嫌だった。私ね、ライブをやる前に必ず明くんを見てたの。見てるとね、私達の後ろには明くんがいるんだって思って安心するの。だから、今日のライブも本当は明くんにやって欲しかった。」

 

 

 千歌先輩は残念そうに言葉を出す。そう言われると、罪悪感が申し訳ないほど出てくる。

 

 

千歌「だからまた今度、いつか梨子ちゃんと明くん含めた10人で『想いよひとつになれ』をやろうね!!はい、約束だよ」

 

 

 千歌先輩は先程の残念そうな表情が嘘だったかのように今度は「えへへ」と笑いながら小指を俺の方に差し出す。

 

 Aqours10人でやる『想いよひとつになれ』か…………。確かにやってみたい。音も照明も俺が操作したい。

 

 そう思った俺は自分の小指を差し出し、千歌先輩の小指と絡める。いわゆる、指切りげんまんというやつだ。絡めた瞬間、千歌先輩はぶんぶんと激しく上下に揺らしながら歌い始めた。

 

千歌「指切りげーんまん、嘘ついたらミカン千個のーます。指切った!!ちゃんと約束したからね!!」

 

 ちょっとだけ歌詞が違った気がするが気にしないことにしておこう。歌を終えると、指も離し千歌先輩は隣に座っている曜先輩と話し始めた。

 

 さて、まだ距離もあるし寝るk…………

 

鞠莉「えい♪」

 

明「痛っ!?」

 

 瞼を閉じて寝ようとした瞬間、隣に座っていた鞠莉先輩が俺の耳たぶに目掛けてデコピンしてきた。俺は鞠莉先輩を睨みつけるのに対して、彼女はニヤニヤしていた。

 

明「………眠いんすけど」

 

鞠莉「まだ寝かせてあげない♪」

 

 いや、寝かせて下さい。お願いしますから

 

明「果南先輩の所に行ってきたらどうですか??ほら、あの人今眠たそうにしてるからセクハラし放題ですよ。」

 

鞠莉「んー、それもExcellentな案だけどまた後でいいわ♪」

 

 また後でってことは結局、セクハラするんですね。何で、この人訴えられないの??あ、金の力か。納得。

 

明「んで、何の用ですか??」

 

鞠莉「特に何も♪ただ明を弄りたかっただけよん♪」

 

 誰かぁぁぁ、頼むからこの人と代わって!!嫌だ!!俺、この人嫌だわ!!絶対、目的の場所まで弄り倒され…………

 

 

 ーーーーモニュ

 

 

明「ふぁ!?」

 

 俺が悶えていると突然、鞠莉先輩が俺のことを抱きしめた。Aqoursのメンバーの中でトップ3に入るであろう大きくて素晴らしい胸が俺の顔を包み込む。なんか、幸せ…………じゃない!!

 

明「鞠莉先輩!?何ひて………」

 

 思いがけない行動に俺は思わず噛んでしまった。

 

 しかし、俺の問いに鞠莉先輩は何一つ言葉も出さずそっと俺の頭を撫で始める。

 

明「ちょ、鞠莉s……」

 

 

鞠莉「本当に………本当に良かったわ。」

 

 

 鞠莉先輩の行動に怒りの声を掛けようとした瞬間、鞠莉先輩はボソッと弱々しい声で呟いた。

 

 

 ここで、俺は察した。

 

 

 彼女は………鞠莉先輩は、Aqoursの中で一番最初に俺が『人殺し』であると知った人だ。基本、おふざけしかしない先輩だが、千歌先輩に負けないぐらいの仲間想いで周りが見える人で優しい人だ。

 

 きっと、俺の事を長い間心配してくれていたのだろう。学校の理事長として、先輩として、そして………………仲間として。

 

 

 東京でライブに行った以降からAqoursとの関係に悩んでいた俺であったが、今日のことでそれは解決した。それだけでも鞠莉先輩にとっては嬉しいことだったに違いない。

 

鞠莉「明にはマリー達がついてるわ♪だから、安心してね♪」

 

 鞠莉先輩はニコッと微笑んだ後、俺から離れた。嫌がらせの要素が全くない、鞠莉先輩自身の俺に対する本音だと感じた。

 

鞠莉「でーも」

 

明「痛っ!?」

 

 鞠莉先輩はそう言って、俺に目掛けてチョップを入れた。何で!?

 

 俺が突然の鞠莉先輩の行動にテンパっていると彼女は俺の耳に近づきそっと呟いた。

 

 

 

鞠莉「君にはまだ………やるべき事が残ってるでしょ??」

 

 

 

明「ッッ!?……………うす。」

 

 

鞠莉「OK♪ちゃんと分かってるなら、マリーは何も言わないわ♪さてさて、それじゃあ果南のナイスバディな胸を堪能してくるワ♪」

 

 鞠莉先輩は俺に向かってウィンクをし、手をひらひらさせた後、既に夢の世界に入っている果南先輩の方へと移動して行った。果南先輩、ご愁傷さまです。南無南無…………

 

 

 そして、俺は鞠莉先輩が言ったやるべき事を早速、実行する為にバスが赤信号に止まったのを見計らって行動に出た。

 

 よっこらせと座席から立ち上がり、とある人物の方へと向かう。その人物は相変わらずのっぽパンを美味しそうに頬張っていたが俺の姿を確認したあと俺の行動を察したのか隣に座れるスペースを作ってくれた。

 

 俺はその人物が作ってくれた隣のスペースに座ったあと、ゆっくりと話しかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明「なぁ、花丸さん。明日空いてる??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜数時間後〜

 

 

 

 バスから降りた俺はとある場所に寄った後、そのまま家へと直進した。

 

 そして、現在家の扉の前で突っ立っている。かれこれ10分ぐらいは家の中に入る勇気が湧いてこなかった。

 

 

 どんな顔で零さんに会えば良いのだろう。めちゃくちゃ気まずい。

 

 

 数時間前のことがあるからなおさらだ。

 

 

 時間はもう遅いので、もしかしたら寝てる可能性もあるが、もしそうだったとしても、結局明日には顔を合わせるんだよなぁ。

 

 

鞠莉『君にはまだ……やるべき事が残ってるでしょ??』

 

 

 扉の前でウジウジしている途中で、数十分前に聞いた鞠莉先輩の言葉を思い出した。

 

 

明「…………このままじゃダメだよな。前に進むためには」

 

 

 俺はそう言って何回か深呼吸した後、ようやく入る決心をして扉を開けて家の中へと入って行った。

 

 

明「…………ただいま。」

 

零「ッッ…………………おかえりなさい。」

 

 リビングに入ると、テーブルの前の席に零さんが座っていた。俺に気づくまでウトウトとしていたからきっと、俺が帰ってくるまで眠気を我慢して待っててくれていたのだろう。

 

 そして、零さんの目がだいぶ腫れていて泣いた跡のようなものも付いていたのも見逃さなかった。それを見た瞬間、心がズキンと痛くなった。

 

 零さんは冷蔵庫に指をさして俺に向かって言葉を出した。

 

零「冷蔵庫に唐揚げあるからチンして食べてね」

 

明「…………………うん。」

 

 思ったより、普通な対応に少しだけ動揺してしまった。

 

零「それじゃあ私は寝るね。お休み」

 

 零さんはそう言って、テーブルの前の席から立ち上がり、リビングから出ようとした。扉のドアノブに手を触れようとした瞬間、俺は言葉を出した。

 

 

明「あのさ、零さん」

 

 

零「…………何?」

 

 俺は片手に持っていた袋をテーブルの上に置く。

 

明「コンビニでプリン買ってきたんだけどさ、良かったら一緒に食べない??」

 

 俺は家に帰る前に寄ったコンビニで購入したプリン(零さんの大好物)を袋から出してテーブルの上に置く。

 

 さぁ…………どうだ??一瞬だけだけど、零さんの目が輝いた気がしたんだが………

 

零「…………………食べる」

 

 よし!!俺は心の中でガッツポーズを決める。

 

 零さんはテーブルに戻り、俺の正面に座ってから、プリンを手にして食べ始めた。

 

 そこからは俺も零さんも何も言葉を出さず、お互いの咀嚼する音だけが響き渡るだけだっが、それではいけないと思い俺はAqoursとの関係について零さんに話した。

 

 

明「俺さ…………Aqoursと向き合うことにしたよ。」

 

 

零「…………………そう。」

 

 零さんは何一つ表情を変えずにプリンを食べ続け、後に彼女はプリンをぺろりと完食した

 

零「…………ご馳走様。今度こそ、寝るね。おやすみ」

 

 彼女はテーブルから立ち上がり、本格的に部屋から出ようとしたが俺は彼女の腕を掴む。零さんは少しだけ驚いたような表情でこちらの方を向く。

 

零「…………何?」

 

 

明「零さんのおかげで俺はAqoursと向き合うことが出来た。ありがとう。」

 

 

零「そんな…………礼なんて」

 

明「あと、ごめんな。家族じゃないとか言って。」

 

零「そんなことないわよ。本当の…………ことだし」

 

 気にしてない風に言う零さんであったが、徐々に言葉が震えてきている。気にしない訳ないよな。俺も彼女も。

 

 それを分かってるからこそ、俺は零さんに言わなければならない。

 

 自分の気持ちを…………感謝を。

 

 

明「零さん、改めて言わせて欲しい。俺みたいな『人殺し』と……………家族になってくれてありがとう。」

 

 

 俺を引き取った時、零さんはまだ20代前半の時。一般の女性ならば、友達と遊んだり恋人とか作って一緒に過ごしたりとするはずなのだが、零さんは俺を引き取ったことにより、その時間を全て俺みたいな『人殺し』のために費やしてくれた。

 

 それでも、彼女は後悔した表情を一切見せず「私も楽しいから」と言って俺と一緒にいてくれた。

 

 

 心の底から嬉しかった。

 

 

 1度、失った家族の愛というものを俺にくれたのだから。

 

 

 ーーーーペチン

 

 

 ふと、俺は零さんにビンタされた。しかし、威力はなかった。

 

 ーーーーペチンペチンペチン

 

それでも、彼女は俺に何回もビンタした。

 

零「馬鹿……………」

 

 零さんはそう呟いたあと、俺に思いっきり抱き締め、そして

 

 

零「うわぁぁぁぁぁぁぁん、私もごめんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 と、まるで子供のように泣きながら俺に謝罪した。

 

 零さんも零さんで辛かったのだろう。それが痛いほどよく分かる。

 

 

零「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 俺もギュッと泣き続ける零さんを抱きしめた。

 

 

 そして、もう出尽くしたと思われた涙が、また俺の瞳からポロリと頬を伝った。

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとずつ、日常系かつコメディな感じに戻ってきます。
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