Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』   作:七宮 梅雨

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零さんと和解した次の日の話です。


『人殺し』は眠る。

〜明視点〜

 

明「…………ここか。」

 

 片手にはメモを、もう片方の手には菓子折りが入っている袋を持って俺はとある場所に来ていた。

 

 扉の前まで行き、何回か深呼吸をした後にインターホンを押す。すると、すぐに『はーい』という声が聞こえた後、ガチャと扉が開くと私服姿の花丸さんが姿を現す。

 

 

 そう、俺が来たとある場所とは花丸さんが住んでいるお寺である。

 

 

花丸「いらっしゃ…………って何その格好!?」

 

 出てきた花丸さんが俺の姿を見るなり驚いた表情をする。無理もない。なにせ、今の俺の姿は普段着ることの無いスーツ姿なのだから。

 

明「ちょっとな…………。お家の人って今いる??」

 

花丸「うん。明くんが来たら家の中に上げるよう言われてるずら。」

 

明「ん、了解」

 

 花丸さんに「どうぞずら」と言われたので、靴を脱ぎ家の中へと入らさせてもらう。流石は寺であるためか、少し新鮮な気持ちとなる。

 

花丸「おばあちゃん、明くんが来たずら」

 

 花丸さんはそう言って、襖を開けるとそこは6畳くらいの和室で中心には赤い眼鏡を掛けている顔の優しそうな高齢者の女性が正座して座っていた。

この人が、花丸さんと一緒に暮らしているおばあちゃんか。

 

 花丸さんの祖母が俺の姿を見ると、ニコッと優しく微笑みながら話しかける。

 

祖母「よう来たねぇ〜。君が明くんかい??」

 

明「は、はい。奥山 明って言いまひゅ。」

 

 やべ、緊張しすぎて噛んじゃった。恥ずかしい…………

 

祖母「よく花丸ちゃんから聞いてるわ。花丸ちゃんがやってる部活のお手伝いさんをしてるんでしょ??偉いわね〜」

 

明「いや………それほどでも。」

 

祖母「あ、そうだ。美味しい煎餅あるけど、食べるかい??」

 

明「大丈夫です。」

 

祖母「あらそう。じゃあ………」

 

明「あの!!」

 

 そろそろ前置きはこんなものでいいだろう。俺がここに来た目的を実行しなくては。

 

 

 俺は緊張しながらも花丸さんの祖母の近くまで寄った後、正座してから頭をさげた。いわゆる土下座である。デコから畳のひんやりした冷たさが伝わってきた。

 

 

花丸「明くん…………」

 

 俺の姿を見て、花丸さんは気まずそうに俺の名前を言う。俺は昨日には彼女にこうすると言ってたけど、動揺するのはあたりまえか。

 

 

 今日、俺がここに来た目的。それは花丸さんの家族に謝罪するためである。

 

 

 既に零さんは俺の代わりに花丸さんの家族に謝罪してくれたらしいが、それで主犯である俺は家族に謝罪しなくても良い訳ではないだろう。

 

 

明「今日、ここに来た理由は貴女に謝罪をするためです。俺は貴女の大切な家族である花丸さんに大怪我を負わせてしまいました。本当にすみませんでした。」

 

 

 俺は頭をさげたまま、彼女の祖母に言葉を出した。頭を下げているため、彼女の表情は見えないがきっと良い顔では無いはずだ。

 

 当たり前だ。自分と一緒に暮らしている唯一の可愛い孫が俺によって傷つけられたのだから。きっと、彼女にとっては俺は憎くて仕方がない存在だ。

 

 

 だから、俺は何があっても受け止める。

 

 

 たとえ、彼女の口から批判的な言葉や罵声を言われたとしても。

 

 

祖母「明くん、まずは顔を上げてちょうだい。」

 

 花丸さんの祖母の声が耳に入る。意外にも怒りや憎しみが孕んでない優しい口調だった。俺は言葉通り、顔を上げると目の前には花丸さんのおばあちゃんが相変わらずニコニコとした表情で俺の事を見ていた。

 

 

祖母「ありがとうね」

 

 

明「え…………??」

 

 

 唐突の感謝の言葉に、俺は目を丸くする。

 

 

 なぜ………俺は彼女に感謝されたんだ??

 

 

明「言ってる意味が…………」

 

 彼女の言葉に俺は困惑していると、更に彼女は口を開いた。

 

 

祖母「貴方は花丸ちゃんを助けてくれたのでしょう??」

 

 

明「ーーーーッッ!?」

 

 

 確かに、俺は花丸さんを2回ほど助けた。助けたが、それは今の話とは関係ないはずだ。なのにどうして………??

 

 

祖母「確かに、貴方は花丸ちゃんを傷付けた。その事実だけはどうしても変わらないわ。だけどね……………私は貴方に感謝してるのよ。だって………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もし、貴方がいなかったら私の大切な家族が失っていたのかもしれないのだから。」

 

 

 花丸さんの祖母は予想外の言葉で動揺してる俺の両手に手をかけてくれた。それは、とても優しくて温かいものだった。

 

 

 

祖母「だからね、明くん。もう一度言わせて欲しいわ。……………ありがとう!!私の大切な家族を守ってくれて」

 

 

 

 花丸さんの祖母は瞳に涙を浮かべながら俺に感謝の言葉を述べてくれた。隣を見れば、花丸さんも涙を流してるし俺も花丸さんの祖母の言葉による影響か、涙を流していた。

 

 

 正直言ってここ数日の俺…………涙、流しすぎだろ。なんか、情けない気もするが、それはそれで悪くないと思う自分がここにいた。

 

 

 

 

〜花丸の部屋〜

 

 

 彼女の祖母に謝罪し終わった俺は、花丸さんの部屋へとやって来ていた。そして、部屋に入った瞬間、俺は驚きを隠せなかった。

 

 なぜなら、彼女の部屋はまるで図書館だと思わせるぐらい、本が沢山あったからだ。

 

 花丸さんが本を読むのが好きだというのは誰もが知っていることだったが、まさかここまでだとは。流石は台車を使うほど本を購入してるだけはある。

 

明「俺も結構な量を読んできたと思うけど花丸さんには適わないな。」

 

花丸「本の好きさなら誰にも負けないずら!!」

 

 花丸さんはドヤ顔しながら、胸を張って答える。やっぱり………目のやり場に困るからやめて欲しいな。

 

明「ふぁ〜…………」

 

 未だに胸を張り続ける花丸さんに目を逸らしていると突然、俺は睡魔に襲われつい大きな欠伸をしてしまった。

 

花丸「明くん、眠いずら??」

 

 花丸さんは心配そうに俺に話しかける。そんなに大きな欠伸をしてしまったのだろうか。

 

明「まぁね。今日のことで緊張して、昨晩は余り眠れなかったから………」

 

 俺は目を擦りながら花丸さんに答える。ここだけの話、昨日は本当に緊張して一睡も出来なかったからな。

 

 そして、緊張してた原因が終わったからか、今は凄い眠い。今ならば少しでも瞼を閉じれば夢の世界に突入できる程だ。

 

 けど、ここは花丸さんの部屋だ。寝るのを我慢しなくては…………

 

花丸「明くん」

 

明「何??」

 

花丸「少し寝るずらか??」

 

明「ハハ、君は何を言っているんだい??」

 

 どうしたのだろうか??見てない間に変なものでも食べちゃったのかな??男である俺が女性の部屋で寝るとかダメなやつだから。

 

花丸「でも、すごく眠たそう」

 

明「これぐらい我慢でき………ふぁ〜」

 

 やば…………。言葉を言ってる途中に欠伸をしてしまった。花丸さんがジト目で俺の方を睨みつける。

 

花丸「説得力ないずらよ」

 

明「ご最もです」

 

 でも、今はマジで眠たいから彼女の言葉に甘えさせて貰おうかな。

 

明「じゃあ、30分だけ………。でも、本当にいいの??男である俺が花丸さんの部屋で寝ちゃっても」

 

花丸「全然、大丈夫ずら。」

 

明「分かった。ありがとうな。お言葉に甘えて少しだけ寝るわ」

 

花丸「おやすみなさいずら」

 

 俺も花丸さんに「おやすみ」と言った後、横になって瞼を閉じた。瞼を閉じたのはいいけど、やはり女の子の部屋で寝ているという自覚があるせいか、なかなか寝られなかった。

 

 

花丸「♪特別な〜事じゃなくて♪」

 

 

明「え??」

 

 緊張で眠れないと自分の中で唸っていると耳に彼女の…………歌声??が耳に入ってきた。

 

 

花丸「♪そばで毎日笑い合える♪」

 

 

 これは………子守唄??だけど俺の知ってる子守唄とは違う。もしかして………、彼女のオリジナルソングか??

 

 

花丸「♪言葉には出来ないような悲しみたち知った時♪」

 

 

 やっぱり、花丸さんは歌が上手いな。幼い頃から歌唱隊に入ってたって言ってたっけ。

 

 

花丸「♪無力な〜自分悔しいと涙ぽろり落ちる♪」

 

 なんだろう…………。

 

 

花丸「♪だけど笑顔で〜明日の♪」

 

 

 彼女の歌声を聞いてるとなんだか落ち着く。

 

 

花丸「♪ちょっとしたお楽しみ考えていたら♪」

 

 

 心の中がポカポカと温かい気持ちとなる。まるで優しく包み込んでくれているかのように。

 

 

花丸「♪晴れるよ〜胸の空は〜♪」

 

 

 それに………なんだ、この気持ちは。温かい気持ちとはまた違うこの気持ち………

 

 

花丸「♪あぁ、いつも幸せを望んでるから♪」

 

 

 まるで胸が締め付けられるようなこの気持ち………。こんな気持ちになるのは産まれて初めてだ

 

 

花丸「♪なんて文学的な気分で眠ろうか〜♪」

 

 

 花丸さんの歌声を聞いて初めて抱えるこの気持ちに疑問を浮かべていると、緊張がいつの間にか解けたのか再び睡魔に襲われ欠伸をした。あ、これはもう寝れるやつだ。花丸さんに感謝しないとな。

 

 

花丸「♪おやすみなさん〜♪」

 

 

 この歌詞を聞いたあと、俺は意識を手放して夢の世界へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

〜花丸視点〜

 

 

花丸「♪おやすみなさん〜♪」

 

 

 なんだか、明くんが緊張して眠れなさそうだったから少しでも安心させようと思ってマルが考えたマルだけの歌『おやすみなさん』を歌い終える頃には明くんは寝息をたてて寝ていた。良かったずら。

 

 スーツ姿にも驚いたけど、なによりも明くんの目の下のクマが大きかったからよっぽど緊張してたと思う。

 

 マルも、内心とても緊張してた。もし、おばあちゃんが明くんに批判的な行動をしたらどうしようって………。

 

 けど、それは心配無用だった。おばあちゃんは明くんを憎んでいなかった。むしろ感謝していたずら。

 

 おばあちゃんの言葉を聞いてマルは嬉しかった。あぁ、マルはおばあちゃんに愛されてるんだなって改めてそう思った。

 

 マルは寝ている明くんの顔に近づく。近づいても明くんは起きる気配がない。ふふ、明くんの寝顔を見るのは2回目だけどやっぱり可愛いしカッコイイずら。

 

 

花丸「明くん、ありがとう。大好きだよ」

 

 

 …………チュ

 

 

 

 マルはこっそり寝ている明くんの、頬にキスをした。

 

 

 そして、寝ている明くんの顔を見ている内に次第にマルも眠くなってきちゃったずら。

 

 

 少しぐらい…………いいずらよね??

 

 

花丸「えい!!」

 

 

 そして、マルは……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祖母「2人とも〜おやつ持って………あらあら」

 

 

 

 

 

 

 部屋に花丸の祖母が入ると、祖母は一瞬だけ驚くがすぐに微笑みの表情へと変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の目の前では、スヤスヤと安心したように眠るスーツを着た明と幸せそうに気持ちよく明に抱きついて寝ている花丸の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、明の驚きの叫び声が寺中に響き渡ったのは言わなくても分かるだろう。




少し無理矢理感あったかな??笑

次は12話に突入します。

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