Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』 作:七宮 梅雨
明「よし。」
俺は、自分の部屋に置いてある鏡を見ながら身だしなみを整える。制服は、昨日の夜に丁寧にアイロンをかけておいたからシワが1つもなく、まるで新品のように綺麗だ。
今日はラブライブ地区予選のライブ当日。浦の星女学院の今後の運命を背負っているAqoursにとって、そして『人殺し』である俺にとっても凄く大事な日だ。
緊張はとてもしている。心臓も馬鹿みたいに鳴ってるほどにな。けど、自然と落ち着いている。
これも、花丸と零さんのおかげかな。
目の下にあった酷いクマも完全ではないが、ほぼ無くなっているし顔色も悪くない。むしろ、前より活き活きしているかのように感じられる。
明「っし!!行きますか!!」
ベシッと頬を叩いて気合いを入れる。そして、机の上に置いてある鞄を持って部屋から出ていき、そのまま玄関まで移動する。
零「もう行くの??」
靴を履いている途中に、お洒落な格好をした零さんに声を掛けられる。
明「うん。色々と準備しなきゃだから」
零「そっか。私もすぐに向かうからね」
明「ありがとう。」
靴を履き終えた俺は立ち上がって玄関の扉のドアノブに手を触れようとした瞬間
ーーーーガバッ
明「え?」
急に背後から零さんが、俺を包み込むかのように抱き締めた。意外にもそこそこある彼女の胸が、背中にダイレクトに当たり少しだけドキリとしてしまう。
零「信じてるから」
零さんは、ゆっくりと俺の背中でそう言葉を告げると俺から離れてリビングの方へと向かって行った。
たった短い一言ではあるが、俺はこの一言に零さんのこれまでの俺に対する想いが充分に積もられていると感じた。
明「…………………ありがとう。零さん」
俺はぺこりと頭を下げたあと、玄関の扉を開けて集合時間である沼津駅へと向かった。
〜名古屋駅〜
沼津駅からガタンゴトンと数時間、電車に揺られた俺達Aqoursは遂に、ライブ会場のある名古屋駅へと辿り着いた。
他の生徒達と集合する場所に向かっている途中に、花丸はある建物を見つけ目をキラキラさせながら指を指す。
花丸「わぁ〜、あれは何ずら??」
彼女が指を刺したのは、全長6メートル以上ある女性の人形の建物だった。俺は、スマホを見ながら彼女の質問に答える。
明「あれはナナちゃん人形っていうんだって。花丸、その人形の足元まで来てみ」
花丸「ずら??」
俺の指示通りに、花丸はナナちゃん人形の足元まで移動する。すると、ナナちゃん人形の鼻の下から花丸の頭に目がけてブオォーと白い煙が発射された。
花丸「だぎゃああああああ!!!」
白い煙をモロに喰らった花丸は、嬉しそうな表情へと変わる。ちなみに、この様子はバッチリとスマホで録画してるのであとで個人的に純粋に楽しもうと思います。
ルビィ「だぎゃあ??」
やったな、ルビィ。俺の想い人で君の親友は感動レベルが一定数超えると「ずら」から「だぎゃあ」に進化すると判明したぞ。お互いに覚えておこうな。
善子「これが来たるべき、聖戦の地!」
言いたいことは分かるけど、そんな厨二病発言を大都会のど真ん中で大声で言うのやめなさい。あと、その黒い服!!見てるこっちまで暑くなるわ!!
その後、なんとか善子に黒い服を脱いでもらうよう説得しながら歩く俺達。名古屋駅の構造が思ったよりも複雑すぎてなかなか待ち合わせ場所へと辿り着けなかったが、マップを見たり駅員さんに詳しく聞いたりして、ようやく着くことが出来た。
曜「むっちゃん達、来てないね」
千歌「ここで合ってるはずなんだけど。」
千歌と船長かキョロキョロとむつ先輩達を探す。その時の梨子が気まづそうな表情を浮かべていたのを俺は見逃さなかった。
そうなんだよなぁ…………、結局あの件についてこの日まで伝えること出来なかったからな。本当にどうしよう………。
むつ「千歌〜」
当初の予定より少しだけ遅れているがむつ先輩達3人がやって来た。どうやら彼女達も、道に迷っていたらしい。
でも、あれ??3人………だけ??
曜「他の子達は??」
船長も気になったのか、むつ先輩に質問する。俺の予想だが、もっと人数いるかと思ってたんだけどな。
よしみ「うん………、それなんだけど……実は…………」
あ、察し。まぁ、そうだよな。むつ先輩が周りの生徒達に声を掛け始めのも本番の数日前らしいしな。予定とか入って来れなかった人が多かったのだろう。ここまで来るのにお金とかもかかるし。
千歌「そっか。」
曜「しょうがないよ。夏休みなんだし」
千歌と船長も俺と同じ考えに辿り着いたのか、少しだけ寂しそうな表情をしながらも納得していた。
よしみ「私達は何度も言ったんだよ??」
明・千歌・曜「ん??」
…………どういうこと??
いつき「でも…………そうしたら………」
明・千歌・曜「え?」
むつ「みんな〜、準備はいいー??」
生徒「イェーイ!!!!」
むつ先輩の言葉で、いつの間にか浦の星女学院の制服を着た生徒が手にブレードを持ってゾロゾロと集まっていた。あれ?これ見た感じ……………
むつ「全員で参加するって!!」
ルビィ「ピギィ!?」
ですよね。だって、クラスの子達みんな来てるもん。2年生も3年生も相当な数いるし…………。やっぱり全校生徒来てたか。
千歌「みんな…………」
むつ「びっくりした??」
千歌「うん。全員でステージで歌ったら、絶対にキラキラする!!学校の魅力も伝わるよ!!」
千歌は嬉しそうに言葉を出す。
これは………まずいな。
俺は、梨子の方に顔を向ける。すると、彼女もそう思ったのか、目が合ったあとコクリと頷く。
そして……………
明・梨子「ごめんなさい!!!」
梨子は頭を深く下げ、俺は情けなくも土下座をして彼女達に謝罪の言葉を述べた。
千歌「梨子ちゃん??明くん??」
千歌はポカンとした表情で首を傾げている中、俺と梨子は彼女達に申し訳なさそうに言葉を出した。
この全員でステージの上に…………………立つことは出来ないということを。
〜会場前〜
俺達は、生徒達と別れたあとライブ会場の目の前までやって来た。
その会場にはデカデカと
『ラブライブ!東海地区予選会場』
と、書かれている布が付いていてかなり目立っていた。
それを眺めながら、俺は先程のむつ先輩達との会話を思い出す。
梨子『実は、歌えるのは事前にエントリーしたメンバーに限るって決まりがあったの。』
千歌『そんな』
明『それに、ステージに近づいたりするのもダメみたいで…………。本当にすみません。もっと早く言えば良かったんですけど』
千歌『ごめんね、むっちゃん。』
千歌がAqoursの代表として彼女達に頭を下げて謝罪する。Aqoursの手伝いをするためにわざわざ遠い名古屋まで足を運んでくれたのに、結局何もすることが無かったとなれば、少なくとも良い気はしない。何を言われても、こっちは何も言い返す権利はない。
だが、むつ先輩達は怒るどころか、むしろ申し訳なさそうな表情をしながら言葉を出す。
むつ『いいの。いきなり言い出した私達も悪いし。』
いつき『じゃあ、私達は客席から宇宙1の応援してみせるから』
よしみ『だから、宇宙1の歌を聞かせてね!!』
千歌「宇宙1の歌…………か。」
千歌先輩も俺と同じく思い出していのかボソッと先程言われた言葉を口に出す。すると、曜船長と梨子が微笑みながら彼女の両肩にそれぞれ手を置いていた。
3年生組であるダイヤちゃんとマリーと果南は、既に覚悟を決めているような表情を浮かべていた。あの3人に至っては特に心配は無さそうだ。
逆に心配するのは1年生組である花丸と善子とルビィの3人か。他のメンバーと違って不安そうな表情をしていた。まぁ、内気な3人にとっては少し厳しいものか。
明「お前らなら大丈夫だって。だから、自信持てよ。」
俺は拳を出して彼女達にそう言う。すると、花丸達も少しは安心したのか、自分達の拳を出してグータッチをした。表情を見た感じ、もう大丈夫そうだ。
そして、俺達10人は互いにそれぞれのメンバーの顔を見つめ合ったあと千歌を先頭に会場の中へと入って行った。
Aqoursと『人殺し』の運命が決まるライブまであと僅かへと迫っていた。
遂にここまで来ちまったよ。