Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』   作:七宮 梅雨

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遂に!!遂にここまでやってきましたよ!!奥さん!!めちゃくちゃ長かった!!長かったけど嬉しい!!

このタイトル通り、『人殺し』とSaint Snowの行く末を見届けて欲しいです。よろしくお願いします。

あと、文字数は過去最長に約1万文字です。どへー。


『人殺し』とSaint Snowの行く末は。

 ある者は言った。

 

 

 ーーー10年なんてあっという間だったと。

 

 

 ある者は言った。

 

 

 ーーー10年は長いものだったと。

 

 

 ある者は言った。

 

 

 ーーーこの10年は特に何も無かったと。

 

 

 ある3人の姉弟は言った。

 

 

 ーーーこの10年は………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日の夜は8月半ばだというのにも関わらず、涼しく気持ちの良い風がよく吹いていた。まぁ、場所が北海道であるからかもしれないが……………。

 

 

 その風によって、1枚の新聞紙が空を舞っていた。その新聞紙は黄ばんでいるため、かなり古いものだということが分かる。

 

 そしてその新聞紙の記事には、デカデカとこう書かれていた。

 

 

 『20××年。〇月〇日。午前10時43分に函館にある銀行に立川 洋平容疑者48歳が銃を銀行員やその場にいた一般人に向けながら押し入っていった。立川容疑者は人質をとり、銀行員に現金を要求した。だが、不思議なことに警察が現地に到着した頃には立川容疑者は死亡していた。警察は立川容疑者が自ら罪を感じ自殺したのかもしれないという方面で調査を続けている。』………と。

 

 

 その新聞紙は長いこと風に乗って放浪したあと、とある場所に辿り着く。

 

 

 そこは1軒の銀行。そして、夜遅く本来ならば誰もいないはずなのに、そこには1人の少年と2人の少女が向かい合っていた。

 

 

 1人の少年の名は鹿角 明。

 

 

 目の前にいる少女達2人の弟で、先程新聞紙に載っていた事件の重要人物の1人。新聞では、自殺とされていたが本来は彼が銀行強盗が持っていた銃の引き金を引いて、人質にされていた母親を助けるために立川容疑者を射殺した。それ故に、彼は『人殺し』となり鹿角家から追い出された哀れで悲しき少年である。

 

 2人いるうちの車椅子に乗っている方の少女の名は鹿角 聖良。

 

 

 『人殺し』で実の弟である明を自分が守りたいために最低な発言をしてしまった過去を持ち、それがトラウマとなって精神病を患う。しかも、一時期はその弟に1人の異性として恋に落ちてしまっていたこともあり、それが明だということが判明してからは症状がさらに悪化する羽目となった。自分の身体を刃物等で傷付けるようになる。

 

 

 もう1人の車椅子を引いている方の少女の名は鹿角 理亜。

 

 

 聖良の妹で、明の双子の姉である。彼女はこの10年間、ずっと悔やみ続けていた。自分は何も出来なかったからだ。明が追い出された時も姉がトラウマでもがき苦しんでいる時も。ただ、自分は…………見ているだけだった。どうにか、姉を助けるべく色々と試すがどれもダメだった。スクールアイドルを始めてからは少しだけ良い方へと進んだ気がしたが、とある出来事によって逆に姉を追い詰める形になってしまった。その後の姉の変貌に彼女はずっと頭を悩ませていた。

 

 

 

 奇跡的に、その新聞紙に載っている事件に関わった人物3人が当時、事件が起きた場所に揃っていた。

 

 

 

 新聞紙は3人の間をひらひらと舞ったあと、再び強い風が吹いたことによってどこかへ吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人は互いに対面してからは、まだ一言も口を発していない。それもそのはず。なにせ、明の目の前にいるのは自分を拒絶した姉で彼女達2人の目の前にいるのは拒絶してしまった弟なのだ。友達と会う感覚とはだいぶ訳が違う。

 

 

 理亜は明の姿を見ても特に表情を変えることは無かった。前もって彼がこの場所にいると分かっていたからこそ、相当な覚悟を持ってここに来たことが分かる。だが、本人は気付いていないが微かに身体が震えている。

 

 

 そして、理亜に対して車椅子に乗せられている聖良はとても分かりやすいものだった。明の姿を見て、かなり動揺している。

 

 

 普段はおっとりとした目を丸くし、まるで過呼吸になったかのような勢いで息を上げ、内浦と比べて気温も低いはずなのに汗が大量に垂れていた。

 

 

 明の場合、彼が姉2人の姿を見て特に1番驚いたのは聖良の豹変ぶりだった。

 

 

 彼女の容姿が最後に見た姿とだいぶ変わっていてとても見てられないものになっており、更には彼女の両手にぐるぐる巻きにされている包帯は彼自身が目を逸らしてしまいたいほど、見てて痛くなるものだった。

 

 そして、彼は唇を深く噛みながら心の中で自分を責める。なにせ、姉をこのような姿へとしてしまったのは自分自身に原因があるからだ。

 

 

明(ダメだダメだダメだ。消極的な考えしか出てこねぇ………。落ち着け、俺。)

 

 

 明は首を横にブンブンと振ったあと、大きく、そしてゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

 

 そして、彼は口を開いた。

 

 

明「俺がここに来たのは姉ちゃん達を別に陥れる為だとか復讐の為とかじゃない。まずは、それを分かって欲しい」

 

 彼は、まず彼女達が真っ先に思い浮かぶであろう明が2人に会いに来た理由の候補を潰すことにした。

 

 きっと、聖良達は明が来た理由は自分達が憎く、復讐するために来たのではないかと疑っていることに違いない。そう明は思っていた。

 

 

 しかし、その明の心配は無用だった。

 

 

 聖良はともかく、理亜は少なくとも明がここに来たのは自分たちに復讐するためではないということを理解していた。あの日のライブ中継の彼の姿を見て理亜は半信半疑だったが、目の前にいる明の覚悟を決めた堂々とした姿を見て彼女は確信した。

 

 

 確信したからこそ、鹿角 理亜は今まで閉じていた口を開けた。

 

 

理亜「………じゃあ、アンタは何しにここへ来たのよ!!これまで奥山 零として私達に接してきたアンタが!!『人殺し』のアンタが!!鹿角 明としてライブ中継でわざわざあんなことをして姉様や私をここに呼び出した理由は一体何なのよ!!」

 

 

 理亜は大声を出して叫びながら彼に……明に問う。

 

 

 しかし、理亜はもうこの時点で分かっていた。

 

 

 どうして、明が自分たちにあんなことをしてまで、函館まで来て会いに来たのかを。

 

 

 

 だが、これは彼女の勝手な予想に過ぎない。だからこそ、理亜は会いに来た本当の理由を明自身の口から聞きたかった。

 

 

 そして、明は理亜の問いに答えるために真剣な目線を送りながらハッキリと言葉を出した。

 

 

明「俺がここに来たのは理由は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉ちゃん達とやり直したいと思ったからだ。」

 

 

理亜「ーーーーーーーッッ…………」

 

 

 明の言葉を聞いて、理亜は胸が熱くなる。そして、危うく泣きそうになる。彼女が予想していた通りだった。

 

 明は、また10年前に止まってしまった姉達との時間を再び動かそうとしている。

 

 この決断を下すのはそう簡単なことではない。なにせ、明は拒絶された存在なのだ。本来ならば、彼は彼女達に近づかない方が幸せなのかもしれない。

 

 

 だが、それでも明は聖良達とやり直したいという道を選んだ。他にも数多くある選択肢があるというのにも関わらず。

 

 

 しかし、その道は恐らく明にとって茨の道だろう。それは明自身も分かっている。

 

 

 なにせ、理亜と違ってこの女がいるのだから。

 

 

聖良「…………です。」

 

 

理亜「姉様??」

 

 

聖良「嘘です!!!!」

 

 

理亜「ーーーー!?」ビクッ

 

 今までに聞いたことの無い姉の怒りを孕んでいるかのような大声を聞いて理亜は体を震わせ、怯む。

 

 

聖良「嘘です!!嘘です嘘です!!貴方は絶対に私達のことを復讐するためにここへ来た!!貴方を傷つけた私を貴方が恨んでないはずがない!!」

 

 

 聖良はわなわなと身体を震わせ、顔に手を当てながら叫ぶ。彼女は明の人生を大きく狂わせてしまった張本人。彼が家に帰ってきてから、施設に行ってしまう直前まで彼女は明に対して姉らしきことをしてこなかった。その挙句、最後の別れでは明に向かって姉として最低な言葉を送ってしまった罪もある。

 

 

 それによって、どれだけ明は傷ついてしまったのか。聖良は予想もつかなかった。実際、家を離れてからは明についての情報が一切来なかったからだ。

 

 

 離れ離れとなって10年、明は今どうしているのかは分からない。分からないが、1つだけハッキリとして分かることがある。

 

 

 

 明は聖良のことを必ず恨んでいるということを。

 

 

 

 それゆえ、明の言葉を彼女は信じることが出来なかった。

 

 

 

聖良「貴方は私のことを殺してしまいたいほど恨んでいるに決まってます!!違いますか!?私達とやり直したい??そんなの出来るわけないでしょう!!壊れてしまった物は二度と戻らない!!」

 

 

 

 

 『人殺し』

 

 

 『もう、私達には関わらないで!!』

 

 

明「………………………」

 

 

 彼女の言う通りだ。壊れてしまったものは以前のような元には戻れない。割れてしまった皿。破れてしまった本。砕けてしまった宝石。どれも初めて手にした時のようなあの頃に戻すのは不可能だ。

 

 

 それは明も分かっている。分かっているからこそ…………

 

 

 

 

明「それでも俺は…………」

 

 

 

 

聖良「いい加減にしてください!!!」

 

 

理亜「姉様!?」

 

 

 聖良は明の言葉を遮り、ガバッと車椅子から明に向かって飛び掛かかる。そして、彼の胸元を掴みあげる。

 

 聖良の表情は普段のおっとしている表情の面影が一切なく、眉を皺ができるほどしかめ、目を最大限まで大きくして明を睨みつけたりと、まるで鬼のような顔付きへとなっていた。

 

 

理亜「姉…………様」

 

 

 初めて見る姉の顔を見て、理亜は恐怖で体を震わせ、動かすことが出来なかった。

 

 

 恐怖で身動き出来ない理亜を気にも止めず、聖良は明に向かって怒号を上げる。

 

 

聖良「私は貴方を10年間、苦しませてしまったのですよ!!『人殺し』になってまで私達の助けてくれた貴方を今度は私が守ると誓ったのにも関わらず!!私は自分の立場を真っ先に優先して貴方を陥れてしまった!!」

 

 

 大好きな弟を犠牲にしたことによって、彼女は以前のような生活を手に入れることが出来た。だが、それがどれだけ彼女にとって大きな代償だったのかは警部から渡されたノートを手に入れるまで彼女は分からなかった。

 

 

 しかも、聖良が犯した罪はそれだけじゃない。

 

 

聖良「私は貴方のことを異性として好意を抱いていました!!その間、私は貴方の存在や自分の罪を忘れていた!!」

 

 

 そう。彼女は一時期、奥山 零という偽名を名乗っていた明に対して好意を抱いていた。東京のイベントで見知らぬ男達に襲われていたのを明が助けたのがきっかけだった。

 

 

 聖良は、その奥山 零が明であると分かるまでの間は彼女の発言通り弟である明の存在や自分の罪を忘れていた。忘れていたからこそ、その短い期間の間は彼女は禁断症状は起きなかった。

 

 

 しかし、それが1番の過ちだった。

 

 

 内浦の商店街で行われたAqoursのライブ、一時期は成功だと思われていたが一人の男性と一人のAqoursのマネージャーによって全てを壊された。

 

 そのマネージャーの人物が自分が好意を抱いていた奥山 零であり自分が拒絶してしまった実の弟であり、『人殺し』の鹿角 明だった。

 

 

 それが分かった時の聖良の絶望感は誰もが予想できるものでは無いだろう。

 

 

 

 そして、同時に彼女は思い出す。

 

 

 

 弟の存在と自分の犯した罪を。

 

 

 そう、彼女は1つ罪を犯してしまったのだ。

 

 

 

 その結果、彼女は自らの身体を傷つけてしまうほどまで精神を追いやられてしまった。そうでもしないと、彼女自身が正気を保つことが出来ないからである。

 

 

 

聖良「それでも、貴方はこんな最低な私を家族だと!!姉だと受け入れると言うのですか!!」

 

 

 胸ぐらを掴まれて、少し苦しそうな表情をしている明の瞳には綺麗で有名だといわれている聖良の顔が汚く酷く醜い表情へと変わって映し出されていた。

 

 

聖良「お願いします…………。もう帰って下さい。これ以上………、私を………私達を苦しませないでください。」

 

 

 聖良は今、自分がどれだけ自分勝手なことを明に向かって発言しているのか痛いほど分かっていた。

 

 

 

 結局、聖良は既に姉として明と立ち向かおうとしている理亜と違って……………

 

 

 

 最後の最後まで姉として明に向かい合うことから逃げようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、しかし!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この男はそれを許さない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の聖良の表情に彼は見覚えがあった。

 

 

 

 なぜなら、つい1ヶ月ほど前に彼自身が聖良と同じような表情を8人の女性に向かって浮かべていたからだ。改めて見てみると、こんなに酷い表情をしていたのかと彼は少しだけ後悔していた。

 

 

 やはり、似てしまうのは血が繋がっているからなのかもしれない。

 

 

 そして、彼は聖良に向かってあの日、自分を救ってくれたAqoursのリーダーと同じような真っ直ぐな視線を送りながら口を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

明「あぁ。それでも、俺は…………姉ちゃん達を受け入れる。」

 

 

 

 

 

 

 

聖良「ーーーーーーーッッ」!?

 

 

 

 

 彼はあの日、自分が逃げ出すことを許してくれなかったあの10人の様に彼もまた、聖良が逃げることを許さなかった。

 

 

 

 ここまで来れば、流石の聖良も動揺が隠せない。胸ぐらを掴んでいた手を離し、その場から崩れ落ちる。

 

 

聖良「どうして………そこまで」

 

 

 どうして、そこまで彼が自分を受け入れてくれるのか聖良には理解することが出来なかった。

 

 

明「んなもん、決まってるだろ。それは…………」

 

 

 明は聖良の問いに答えるために口を動かそうとした。だが、簡単には口を開くことが出来なかった。それは何故か。

 

 

 

明「俺が……………俺が!!」ボロボロ

 

 

 

聖良・理亜「ーーーーーーーッッ…………」

 

 

 明は泣いていたからだ。ただでさえ、10年ぶりに故郷に帰ってきて泣きそうになったのだ。こんな大切な場面となれば涙が流れるに決まっている。

 

 

 嗚咽によって、彼は未だに言葉を出すことが出来なかった。明の涙を見て、聖良と理亜も徐々に瞳から涙が溜まっていく。

 

 

 

 そして、遂に彼は言葉としてハッキリと彼女達2人に伝えた。

 

 

 

明「俺が……………姉ちゃん達のことが好きだからに………決まってるだろうが!!」ボロボロ

 

 

 

聖良「ーーーーーーーッッ!?」ボロボロ

 

 

理亜「明………………」ボロボロ

 

 

 明は例え拒絶されたとしても、両親はもちろん聖良達のことを嫌いになることは無かった。

 

 先程の言葉を先頭に、彼は次から次へと溜まっていた想いを口に出す

 

明「この10年間、ずっと会いだがっだよ!!ぞじで謝りだがっだ!!」ボロボロ

 

 彼は止まらない。もう涙や鼻水、嗚咽とかを関係なしに言葉を続ける

 

明「だけど、出来ながっだ!!俺ば『人殺し』だがら!!」

 

 ぶっちゃけた話、明が精神的に強ければいつでも函館に向かい聖良や理亜に会う機会はあった。だけど、明は行かなかった。いや、行けなかったと言った方が正しいのかもしれない。

 

 怖かったからだ。『人殺し』である自分が会いに行って10年前のように拒絶されてしまうかもしれないという未来が。

 

 

 だが、こうして偶然なのかそれとも必然だったのか分からないが明は聖良達と向き合えるチャンスが到来し、1人の恩人と9人の仲間達に背中を押されてここまでやって来た。

 

 

 明は涙と鼻水を腕で雑に拭ったあと、またしても真剣な表情で彼女達の方を見る。

 

 

明「だから!!」

 

 

 そして、彼は両手を伸ばして聖良達にずっと言いたかった言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明「仲直りのハグをしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖良・理亜「ーーーーーーーッッ…………」ボロボロ

 

 

 

 明の発言で、聖良と理亜は今まで生きてきて1度も味わったことの無い衝撃を味わう。

 

 ちなみに、どうしてハグなのか。函館に向かう数日前に明はある人物に相談したことがきっかけだ。

 

 その青髪のポニーテールである彼女は明にハグしながらこう答えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「仲直りにはハグが1番だよ♪私だって、明ほどじゃないけど2年間離れてた鞠莉とハグして仲直りしたからね♪効果は保証するよ〜」ハグハグゥー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを思い出しながら明は両手を広げたまま彼女達を見つめる。

 

 

 

 

 明がここでやるべき事は終わった。

 

 

 

 あとは、彼女達自身の問題だ。

 

 

 

 とは言っても、理亜はいつでも明の方には行けた。だが、行くのは今ではないと彼女は判断した。

 

 

 どうせなら…………姉と2人で行きたいと思ったからだ。

 

 

 だがら、その時が来るまで待つ。姉である聖良が覚悟を決め決断を下すその時まで。

 

 

 聖良は明の姿から視線を逸らし、ボソッと呟く。

 

 

聖良「たった、そんなので………」

 

 

 たったそんなので、関係が取り戻せる訳がない。聖良はこう言いたかったのだろう。だが、彼女は言えなかった。

 

 

 賢い聖良なら、もう分かっているはずだ。明の考えと行動を。そして覚悟を。

 

 

 壊れてしまった関係は元に戻すことは出来ない。

 

 

 元に戻すことは出来なかいが…………

 

 

明「確かに!!このハグで何もかもが解決する訳ではない。けど、やり直すことは出来る。」

 

 

 

聖良「………………」

 

 

 

明「だからさ、聖良姉ちゃん。またやり直そうよ。俺達の関係を。」

 

 

 明は微笑みながら、聖良に向かって両手を改めて広げ直す。

 

 

聖良「………………」ボロボロ

 

 

 明の発言を聞いて、聖良は大粒の涙を流す。口元に手を当てても、止まることは無かった。

 

 

 2人より少し離れている理亜も聖良同様に大粒を涙を流しながら見守る。

 

 

明「このハグで………10年前のあの日、0になってしまった俺達の関係を1にしよう。」

 

 

聖良「………………」ボロボロ

 

 

 

明「ほら、確かここの近くにピエロが目印になってるハンバーガー屋があっただろ??あそこでさ、いつか互いにこの10年間どうやって過ごしてきたのか語り合おう。」

 

 

 

 

 明の言葉を聞いているだけの聖良だったが、言葉を震わせて明に問う。

 

 

聖良「……………本当にいいのですか??」

 

 

 明は聖良の言葉に何も言わず、コクリと頷いた。

 

 

聖良「私は貴方を傷つけたんですよ??」

 

 

 もう何度も同じ言葉を口を出す聖良に対して、明も聖良に向き合うように言葉出す。

 

 

明「分かってる。それは俺も同じだ。」

 

 

聖良「私は貴方に苦しい思いをさせてしまったんですよ??」

 

 

明「………うん。」

 

 

聖良「私は貴方に好意を抱いていたんですよ??」

 

 

明「ごめん。さっきの発言から気になってたけどさ、何それ。俺、初耳なんですけどぉ!?そうだったの!?」

 

 

聖良「………………ふふ」

 

 

 ここで予想外な発言に、明は思わずツッコミを入れてしまう。その姿を見て、聖良は思わず微笑んでしまった。

 

 その姉の顔を見て、明はやっぱり聖良は美人だなということを改めて思った。

 

理亜「姉様。」

 

 

 理亜は微笑みながら聖良のそばまで近づき、肩に手を触れる。

 

 

 理亜の顔を見て、聖良もまた表情を緩ませる。

 

 

 そして、2人は肩を寄り合わせながら明の方に向かう。

 

 

 ザッザッと靴とコンクリートが擦り合う音がゆっくりと響く。

 

 

 その距離は約3mほど。

 

 

 ザッザッと靴とコンクリートが擦り合う音がどんどんと明の方まで近づいていく。それと同時に3人の心拍音が向上。

 

 

 その距離は約2mほど。

 

 

 ザッザッと調子よく靴とコンクリートが擦り合う音が響いていたのに途中で聖良は足を止める。理亜と明は心配そうに彼女の方へと向くが、聖良は何回か深呼吸を行ったあと「大丈夫です」と言葉をかけて再び歩み出す。

 

 

 

 その距離は約1mほど。もうすぐに手を伸ばせば彼女たちに触れることが出来る距離だ。

 

 

 

 ザッザッと靴とコンクリートが擦り合う音が響き渡り、遂に2人は明の目の前まで辿り着いた。3人の表情にはもう迷いはない。覚悟を決めた顔だ。

 

 

 

 その距離、約30cm。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして………遂に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーーガバッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その距離は0となり……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明と聖良と理亜は抱き締め合った。

 

 

 

 

 

 

 抱き締めることによって、聖良と理亜は弟が自分たちよりも背が高いということに驚く。彼女達が知っているのは5歳の時まで。それに比べて、明は身長が178もある。

 

 

聖良「こんなにも………大きくなって」

 

 

明「そりゃあ成長期真っ只だから………な。聖良姉ちゃんも立派に大きくなって…………」

 

 

理亜「ちょっと………あんたどこ見て言ってんのよ…………。」

 

 

 抱きしめながら、3人はそれぞれ言葉を出す。理亜の最後の一言で3人は微笑み合う。

 

 

 それと同時に3人は思い出す。それぞれの温もりを。

 

 

 ずっとずっと…………この10年間に求め続けていた温もりを3人はひたすら感じ続けた。

 

 

明「あはは……はは」ボロボロ

 

理亜「ちょっと………あんた何泣いてんのよ」ボロボロ

 

聖良「ふふ………、理亜も………泣いてますよ」ボロボロ

 

 

 3人はさっきまで笑っていたのに、抱きしめている間にまたしても大粒な涙を瞳から流す。

 

 

 

 そして、次第に3人は言葉を発すること無く、抱き締め合う力を強め………………

 

 

 

 

明・聖良・理亜「あぁあああああああぁああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!」ボロボロ

 

 

 

 

 

 まるで子供のように泣いた。

 

 

 

 

 聖良は泣きながら何度も何度も明に謝っていた。「ごめんなさい、ごめんなさい」と。明も「良がっだよぉ」と泣きながら言葉を出し、理亜は何も言わずずっと大声を出して泣き続けた。

 

 

 

 

 

 3人は落ち着くこと無くずっと泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜花丸視点〜

 

 

 明くんが函館に旅立ってから1日が経った。

 

 

 大好きな明くんがいないこの1日はとても辛かった。好きな人と会えないというものはこんなにも辛いものだったとは知らなかったずら。

 

 だけど、今日はマルだけでなく千歌ちゃん達の表情も暗い。

 

 

 理由はただ一つ。

 

 

 ラブライブ東海地区予選の結果が発表されたのだが………Aqoursは全国には行くことが出来なかった。

 

 

 とても悔しい。こんな思いをするのは初めてだった。

 

 

 だけど、私達はこれで終わりではない。まだもう1つ、結果を待っているものがある。

 

 

花丸「明くん…………」

 

 

 マルはテーブルの上に置かれている自分のスマホを眺めながら心配そうに呟く。

 

 

 もし、ダメだったら…………と考えただけでも胸が苦しくなる。ついさっき食べたコッペパンをリバースしてしまいそうになるぐらい緊張しているずら。

 

 

 〜ピロリン♪

 

 

Aqours「!?」

 

 

 マルのスマホが鳴る。

 

 

善子「ずら丸!!」

 

ルビィ「花丸ちゃん!!」

 

花丸「ずら!!」

 

 

 マルは素早くスマホを手にして、ロック画面を外す。あまりにも急ぎ過ぎて2回ほどパスワードを間違えてしまったずら。

 

 

 ロックを解除し、連絡アプリを起動させる。

 

 

 通知は2件。相手はもちろん明くんだ。

 

 

千歌「花丸ちゃん………」

 

 

 マルは指を震わせながら目を閉じて明くんのアイコンへとタップする。それによって、トーク画面に切り替わる。

 

 

 

 お願いします。神様。どうか………明くんが上手く行っていますように!!!!

 

 

 そして、ゆっくりと目を開けると1つのメッセージと1枚の写真。その内容を目に通すと……………

 

 

果南「花丸!!どうだった!?」

 

花丸「………………」

 

鞠莉「花丸??」

 

花丸「………………」ボロボロ

 

ダイヤ「花丸さん!?」

 

 マルはスマホをテーブルに置き、みんなが見えるようにする。当然、みんなは食いつくようにスマホを覗き込んだ。

 

 

 明くんから来ていた内容は…………

 

 

 『Mission Complete ( ¯꒳¯ )b』

 

 

 の一言と…………

 

 

 明くんと………その両端にいるSaint Snowである鹿角 聖良さんと鹿角 理亜ちゃんが笑っているスリーショットの写真だった。

 

 

 一目瞭然、明くんはどうやらお姉さん達と上手くいったようだった。

 

 

Aqours「やったぁーーーーーーー!!」ボロボロ

 

 他のみんなも涙を浮かべながら喜びの声を上げる。特に善子ちゃんとルビィちゃんは号泣していた。

 

 そして、自らスマホやガラケーを取り出して各々明くんにメッセージを送る。きっと、今頃、明くんのスマホは通知でいっぱいになっていることだろう。

 

 マルはメッセージを送らず、もう1度ゆっくりと写真を眺める。

 

 3人の目がとても赤い。涙を流したであろう跡もくっきりと残っている。きっと、この3人はマル達が予想もつかないであろう会話を繰り広げたのに違いない。

 

 

千歌「そうだ!!明くんがこっちに戻ってきた時、サプライズでお祝いしてあげようよ!!」

 

曜「それ、いいね!!」

 

梨子「うん!!流石、千歌ちゃん!!」

 

千歌「えへへ。よーし!!早速、買い出しだー!!!」

 

Aqours「おー!」

 

 他のみんなはそう言って、バタバタと部室から飛び出ていく。

 

ルビィ「花丸ちゃんも行こう!!」

 

花丸「うん。明くんにメッセージ送るから先行ってて欲しいずら」

 

ルビィ「うゆ、分かった。………ちょ、善子ちゃん!?ルビィを置いてかないでーー!!」

 

 ルビィちゃんがいなくなり、部室でマル1人になる。マルは再びスマホで明くんの写真をみて一言。

 

 

花丸「おめでとう、明くん。」

 

 

 傍から見て、誰しもが本当の姉弟にしか見えない彼らの写真を眺めながらマルは微笑むのだった。

 

 

 

 

 




うわぁぁぁぁぁぁぉぁ!!
仲直りできて良かったよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
うおぉおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

母上「梅雨ー。うるさいわよー。八つ裂きにするわよー。」
七宮「うす、すいません」

最終章最終話「『人殺し』は想いを告げる」を書き上がり次第投稿するのでお楽しみに!!

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