Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』   作:七宮 梅雨

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『人殺し』最終話です。


【最終話】『人殺し』である鹿角 明の物語はこうして幕を閉じる

 『速報です!!銀行強盗の罪を犯した桐島 庸太容疑者は車に乗って逃走後、現在、西木野総合病院に逃げ込み、医師や看護師、入院している患者を人質に取って立てこもっています!!桐島 庸太容疑者は銃を所持しており既に数発ほど威嚇のために発砲しているのことです!繰り返します!!銀行強盗のーーーーーー』

 

 

 ウー、ウーと多くのパトカーが西木野総合病院の入口前で鳴り響く。そこには多くの警察官や自衛隊、一般人である野次馬などがいた。

 

 

警察官「桐島ぁ!!お前は既に包囲されている!!こんな馬鹿なことを辞めて潔く自首して人質を解放しなさい!!」

 

 

 警察官がメガホンを口元に当てて病院に向かって叫ぶ。だが………

 

 

桐島「うるせぇ!!」

 

 

 

 パァン、パァン!!

 

 

 

 「うわぁ!!」

 

 

 強盗である桐島が病院の窓から姿を現したあと怒号を上げながら銃を空の方に向けて発砲する。その瞬間、その場にいた人達は驚愕し、耳に手を当てて伏せていた。

 

 

桐島「早く、新しい逃走用の車を用意しろ!!じゃなきゃ、この女……ぶっ殺すぞ!!!」

 

 

 桐島には1人の女性が抱え込まれおり、彼は彼女の頭に銃口を強く突きつける。その女性は恐怖で怯え、涙を流していた。

 

 

 

桐島「30分だぁ!!30分以内に車を用意しなければこの女を殺す。そして、1分遅れるごとに病院内にいる奴らを殺してやる!!殺されたくなければ早く用意するんだなぁ!!」アヒャヒャ

 

 

 

 桐島は人間として狂気の沙汰じゃない言葉を言い残して病院内へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院内は静寂の雰囲気に包まれていた。

 

 それもそのはずだ。なぜなら、目の前には銃を持ち女性を人質にしている強盗犯がいるのだから。もし、何か小さなことをやらかしたら、自分たちが、もしくは女性の命が危ないからだ。

 

 

 だが………、その中に1人だけ様子を伺っている5歳ぐらいの少年がいた。

 

 

少年(このままじゃ………ママの命が危ない!!僕が………僕が助けないと………)

 

 

 どうやら、この少年は強盗に抱えられている女性の子供のようだ。

 

 そして、強盗が「このまま逃げ切って空港に………それで…………」

 

 とボソボソ抱え込み始めたところで………

 

 

 

少年「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

強盗「!?」ガクッ

 

 

 その少年はタイミングを見計らって、強盗の腰に目掛けてタックルをぶちかます。当たった所が足の間接部分かつ考え事をしていて油断していたのだろう。少年のタックルによって強盗は体勢を崩す。隙を見た女性は強盗から逃げ出した。

 

 

強盗「この糞ガキがぁ!!!」

 

 

 余計な事をした少年に向かって、強盗は腕を思いっ切り振り回して少年を吹っ飛ばした。

 

 少年は吹っ飛ばされて受付の壁に激突する。

 

 

少年「いてて…………ん??」

 

 

 吹っ飛ばされた少年の手には何かを掴んでいるような感触があった。少年は自分の手に目を移す。

 

 すると、そこには………

 

 

 強盗が手に持っていた銃だった。

 

 

 吹っ飛ばされた際に、偶然にも掴んでしまったのだろう。

 

 

強盗「おい、クソガキィィィィ!!!それを俺に寄越せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 強盗は頭に血管を浮かばせ、目を散らばせながら少年の方へと駆けつける。その姿は幼い子供からしたらトラウマが残るほどの化け物以外何者でも無かった。

 

 

 

少年「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 自分の方へと走ってくる強盗の姿に少年は叫びながら、反射行動で銃を強盗に向ける。

 

 

 

 

 

 そして、少年は銃の引き金を引こうとした瞬間……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「少年。それだけはダメだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年「え??」

 

 

 少年が恐怖に任せて引き金を引こうとしたところ、背後から急速に1人の男性が通り過ぎ、少年が両手に持っていた銃を蹴りで弾いた。

 

 弾かれた銃は運良く銃弾が発砲されることなく、彼らがいる遠く離れた所に着地した。

 

 

強盗「なんだてめーーーー」

 

 

??「はぁ!!」

 

 

強盗「ぐはっ!!」

 

 突如、自分達の目の前に現れた男性に何か言葉を出そうとする強盗。だが、最後まで言いきることは出来なかった。

 

 男性は強盗の顔面に目掛けて、鮮やかに内回し蹴りを喰らわして吹っ飛ばしたからだ。

 

 

警察官「警察だ!!すぐに桐島を取り押さえろ!!」

 

 

 それと同時に、まるでこうなることを分かっていたかのように大人数の警察官が病院の入口から突入する。

 

警察官「12時38分。銀行で現金の窃盗及び病院にて人質をとり立てこもった容疑によって桐島 庸太!!お前を逮捕する!! 」ガチャ

 

 

警察官「皆さん!!もう大丈夫です!!我々の誘導に従って進んで下さい!!」

 

 

 突入した警察官は二手にわかり、片方は強盗を取り押さえ、もう片方は人質にされていた人達の保護を行っていた。

 

 

 これにて、銀行強盗による恐怖の西木野病院での立てこもり事件は無事、解決された。

 

 

 

少年「あわわ………」

 

 

 突然の事で瞳に涙を浮かべながら尻もちを付いてしまった少年に対し、男性は弾いた銃を手に取ってから、彼の元へと近づく。

 

 その男性は赤紫色の髪型で凄くボサボサ頭であった。少年がビクッと身体を震わせるほどの赤系の瞳をしたキリッとした目付き。まるで睨みつけているように見える。

 

 服装は、現在放送されている仮面ライダーがプリントされているTシャツの上に白衣を羽織っていた。そして、よく見たら肩には聴診器が掛けられていた。

 

 

 どうやら、この男性は………医者のようだった。

 

 

 医者の男性は少年の目の前まで近づくと片足を膝について少年の視線より低い体勢を取ってから、優しく微笑んで少年に話しかけた。

 

??「怖かったか??」

 

少年「…………うん。」

 

 男性の言葉に、少年は頷く。

 

 当たり前だ。彼はまだ5歳なのだ。怖く無いはずがない。下手すれば、トラウマとして精神的な心の病院になってしまう可能性もある。

 

??「怪我はないか??」

 

 2回目の問いに、少年は首を左右に振る。怪我は無いみたいだが、彼の頬が赤い。さっき、強盗に吹っ飛ばされた時のやつだろう。念の為、男性は懐から携帯用のポーチを取り出して湿布を取り出す。

 

 

 

 そして、彼の頬に湿布を張りながら男性は言葉を呟いた。

 

 

 

??「なんで、あんなことをしようとした??」

 

 

 

 

少年「ーーーーーッッ!?」

 

 

 

 男性からの3つ目の問い。だが、この質問をした彼は前の2つの質問に比べてかなり威圧的なオーラを放っていた。

 

 

 あんなこと、とはどういうことか。それは詳しく言わなくても少年は理解していた。

 

 

 だが、少年はその威圧に動揺して固まってしまう。

 

 

 この男性自身は別に怒っている訳でもないように見える。なのに…………どうしてこんな威圧を放つのだろうか。

 

 

 少しの間、沈黙の時間が流れていたが

 

 

少年「ーーーーーった。」

 

 

男性「ん??」

 

 男性に話す決心をしたのか、少年はボソボソと呟き始める。

 

 

 

少年「ママのお腹に……妹がいるから守りたかった………」ボロボロ

 

 

 

 大粒の涙を瞳から流しながら少年は言葉を出す。

 

 その言葉を聞いて、男性は先程、強盗によって抱えられていた少年の母親らしき女性の方に視線を移す。確かに、彼女のお腹は、中に赤ちゃんが居るからか大きくなっていた。しかも、見た感じ、いつ陣痛がきて破水してもおかしくは無い状況だった。

 

 

少年「僕………もうすぐお兄ちゃんになるんだ。だから、お兄ちゃんとして………家族を守りたかった」ボロボロ

 

 

 少年は止まることなく流れ続けている涙や鼻水を腕で拭い、嗚咽しながら自分の想いを男性に明かす。

 

 

 

??「そうか…………。」

 

 

 男性は目の前にいる少年を優しく抱き締めた。

 

 

少年「え??」

 

 

 男性に突然、抱き締められた少年は驚愕して目を丸くする。

 

 

??「少年…………お前のその勇気、すげぇよ。そんな小さな身体なのに自分のママと妹を守ろうとしたんだからな」

 

 

少年「ーーーーーッッ………」

 

 

 抱き締めながら、男性は少年の耳元で優しく呟く。

 

 

 

??「けどな…………。さっき、お前がやろうとしたことはこの世で生きていく上で決してやってはいけないことなんだよ。」

 

 

 

少年「ーーーーーッッ」ボロボロ

 

 

 どうしてか、男性の放つ一言一言が少年の胸に突き刺さる。

 

 

??「例え相手が犯罪者だとしても、家族を守るためだとしても………人の命を奪ったらその時点で『人殺し』になるんだよ。」

 

 

少年「人………殺し………」ボロボロ

 

 

 

??「そうだ。もし、『人殺し』になったら人を殺めたという罪が。人を殺したという悲鳴が。人を殺してしまったという罪悪感が………死ぬまで一生付きまとってくる。」

 

 

 

 まるで、今も自分がその立場にいるような言い方を男性はする。

 

 

 だからだろうか……。男性が話す言葉の説得力が大いにあった。

 

 

??「お前の勇気が………家族と離れ離れになるきっかけになっていたかもしれない。嫌だろ??ママ達と離れるのは」

 

 

 少年は何度も何度も頷く。少年にとって、母親は勇気を出してまで助けたかった存在なのだ。離れるなんて、嫌に決まっている。

 

 

??「だから……………、あんなやり方じゃなくてもっと正しい方法で強くなって………ママと妹を守ってやるんだ。」

 

 

 男性はそう言って、ポケットから1枚の紙を取り出して少年に渡す。

 

少年「これは………??」

 

??「俺の知り合いがここの近くで無料で剣道の道場開いてるんだよ。まぁ、シスコンで面倒くさい性格してるけどオリンピックでメダルを獲得する程の実力の持ち主だから、もし良かったらここに行くといい。」

 

 男性が少年に渡したのは剣道の入門チラシだった。そのチラシには内浦にある綱元で名家である黒澤家の長男が映っていた。

 

 少年は感銘を受けたようにずっとチラシを眺めていた。

 

 その時の少年の顔は兄として………そして、男として覚悟を決めたような良い表情となっていた。

 

 すると、警察官が何人か、こちらの方に近付いてくる。それに気づいた男性は少年の頭に手を置き

 

??「じゃあな、少年。俺はもう行くよ。」

 

 

 と、頭を撫でながら少年に言ったあと、最後に「頑張れよ」と言い残して、少年から背を向けて病院の奥へと進もうとした。

 

 

少年「あの!!」

 

 

??「ん??」

 

 

 少年は大きな声を出して、男性に声を掛ける。男性が振り向くと、少年はモジモジとしながら言葉を続けた。

 

 

??「お兄さんの名前……聞いても良いですか!?また、会いたいから………」

 

 

 

 少年にとって、この男性は二つの意味で恩人のような存在になっていた。

 

 

 1つは自分が犯しそうになった罪を防いでくれたこと。

 

 

 そして、もう1つは自分がこれから先、家族を守るために歩むべき正しき道を開いてくれたこと。

 

 

 もっともっと、少年は彼と会って色んなことを話したいという気持ちになっていた。

 

 

 少年の言葉に男性はニコッと笑い

 

 

 

 

 

??「俺の名前は鹿角 明。この西木野総合病院で小児科担当の医師として働いている。怪我したらいつでもここに来な。俺が治してやっから」

 

 

 

 明と名乗った男性はシュッと2本の指でキメたあと、病院の奥へと歩き出して少年の前から姿を消した。

 

 

 

 

 その彼の歩く後ろ姿は少年にとっては、凄くカッコよく………一生忘れないものへとなった。

 

 

 

 

 後日、チラシに載っていた黒澤家の長男が開く剣道道場に赤ん坊を抱えた母親によって連れてってもらった1人の少年が新たに入門したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「お疲れ様。はい、これ」

 

 病院内の休憩室にあるソファに座って休んでいたら、1人の赤髪の女性が俺に缶コーヒーを差し出しながら話しかける。

 

 

明「西木野院長…………。」

 

 

 彼女の名前は西木野 真姫さん。苗字から分かる通り、俺が務めている西木野総合病院を経営している西木野家の一人娘であり現在ではこの病院の院長である。しかも、あの伝説のスクールアイドルμ'sのメンバーの1人でもある。

 

 そして、『人殺し』である俺をここの病院で小児科の医師として迎えてくれたのも彼女本人であり、勤務してから最初の1年間は院長であるのにも関わらず教育担当者として俺の傍にいてくれた。

 

 俺は彼女から頂いた缶コーヒーを開けてから飲んでいると、西木野院長も俺の隣へと座る。

 

 

真姫「今日は本当に助かった。院長として感謝するわ。」

 

 

 彼女はそう言って、缶コーヒーを開けて飲み始める。サバサバとしているが、彼女が俺なんかにこんな事を言うなんて珍しい。いつもは、従兄の情報を寄越せってしつこいのに。

 

 まぁ、今回は取り返しのつかないような大きな出来事は起こらなかったが、もし何かが起きていたら………と考えるだけでも恐ろしい。

 

  西木野総合病院は東京の中でもトップ3を争うほどの大きな病院だからな。何かあって泥が付くようなことだけは絶対に避けたいに決まっている。

 

明「勿体ないお言葉です。ありがとうございます。」

 

 西木野院長のお礼の言葉は有難くちょうだいしておこう。ここで何か言っても、それは誠意に俺に感謝の言葉を贈ってくれた彼女にとって失礼な行為だ。

 

真姫「それだけ、伝えたかったから私はもう行くわ。事件の後始末しなきゃだし。…………あ、あと明。」

 

明「なんでしょうか??」

 

真姫「来月に行う予定の立川君の腫瘍の切除手術を……………明にお願いしようと考えてるわ」

 

明「ーーーーーッッ!?」

 

 西木野院長から発せれた突然の言葉に俺は言葉を失ってしまう。

 

 立川君の腫瘍はかなり大きいもので難易度も高く、その手術は西木野院長自身が行うものだと思っていた。それは俺だけでなく、他の医師も同じ気持ちだろう。

 

 だけど、心のどこかでは立川君の手術は俺がやりたいと思っていた。立川君とは意外にも俺と趣味が似ていたからか、よく互いに会話をして、良好な関係を築いてきている。よく、彼の悩みとかも話してくれて聞いていた。

 

明「俺で………いいんでしょうか??」

 

 俺は西木野院長の目を見ながら彼女に問う。すると、院長は俺の両肩に手を置いてフッと笑いながら言葉を出してくれた。

 

 

真姫「貴方だからこそ、私は頼みたいのよ。立川君の手術………お願いしても良いかしら??」

 

 

 西木野院長は俺の目をじっと見つめる。俺も同じように彼女の目を見る。

 

 

 ………………これは俺のことを信じてくれている目だ。

 

 

 俺はその場で何回か深呼吸を行ったあと、胸にトン!!と拳を当てて彼女に向かって言葉を出した。

 

 

 

明「…………はい!!!任せて下さい!!!絶対に成功させます!!!」

 

 

 

 立川君は……必ず俺が救う。俺のこの手で。じゃなきゃ、俺が医師になった意味が無い。

 

 

真姫「貴方ならそう言ってくれる思ったわ。期待してるからね」

 

明「はい!!」

 

真姫「それじゃあ、もう今日は早く上がっていいわよ。」

 

ーーーーーは??

 

明「え、でも………まだ事件の後片付けが………。」

 

 

真姫「今日は……………函館からお姉さん達が来るんでしょ??」

 

 

明「ーーーーーッッ」

 

 

 ………なんで、この人がそれを知ってんだよ。一言も今日のことは言ってないはずなのに。

 

 

真姫「この前、明の奥さんとお茶した時に教えて貰ったのよ」

 

 

明「花丸が??」

 

 

 ……………そう言えば、俺が院長を家に招待した時に仲良くしてたな。まさか、知らない内にお茶しにいく程まで発展してたとは。てか、なんで教えるんだよ。花丸ぅ………

 

 

真姫「あと最近、娘さんに嫌われてるらしいわね。」

 

明「あ、院長。その辺でやめときましょう。このままじゃ俺、貴女のことを本気でジャーマンスープレックスして沈めそうっす。」

 

 べ、別に娘(3歳)に嫌われてないし。1週間前ぐらいに「パパ嫌いじゅら。あっち行ってー」って真顔で言われて3日ほど寝込んだくらいだし。

 

真姫「最近の貴方のプロレス技推しはなんなの??」

 

 

明「高校生の時に知り合ったサトウさんっていう小原家の使用人に教えて貰ってるんです。」ドヤサッ

 

 

真姫「ゔぇえ!?何それ、意味分かんない………」

 

 ゔぇえ!?西木野院長が理由を聞いてきたんじゃないか。

 

真姫「まぁ、とにかく!!今日はもう早く上がって駅まで彼女達を迎えに行ってあげなさい。これは院長命令よ。」

 

明「………良いんですか??」

 

 

真姫「えぇ。その代わり、今度修也をデートに誘う時に色々と手伝ってもらうから」

 

 

明「……………」

 

 修也という単語を聞いて、俺は頭が痛くなるのを感じる。修也とは俺の従兄で、西木野院長が病んでしまうほど、大好きな人物である。

 

 俺が修兄ぃの弟ということを知ってからは、ひたすら彼の情報や私物(髪の毛や下着)などを彼女に提供するよう言われている。その時の西木野院長が怖ぇんだよ。だって、目のハイライトが消えてるもん。

 

 しかもタチが悪いことに、断ると「そういえば、この病院……小児科担当の医者が多いわよね。1人ぐらいクビにしても問題ないと思うんだけど…………」と、パワハラ発言してくるので俺は泣き泣きと従っている。

 

明「…………分かりました」

 

 とりあえず断ったら怖そうなので引き受けておく。後で、修兄ぃに連絡しておこう。

 

 

明「では、院長のお言葉に甘えまして俺はここで先に失礼します。お疲れ様でした。」タッタッタ

 

 

真姫「えぇ。お疲れ様。」

 

 缶コーヒーをゴミ箱に入れてから俺は西木野院長に頭を下げてその場を後にした。

 

 

 

真姫「さて、私も行こうかしら」

 

 

 明の姿が見えなくなるまで見送っていた真姫は残っている缶コーヒーの中身を飲み干したあと、ゴミ箱に入れて立ち上がる。

 

 

 すると………

 

 

医師1「院長!!聞きましたよ」

 

真姫「ん??」

 

 何人かの医師が真姫の方へと駆けつける。表情を見た限りだと、何か怒っているようにも見える。

 

真姫「何かしら??」

 

 

医師2「立川君の手術を鹿角に任せるらしいですね」

 

 

 この言葉で、どうして彼らがここに赴いたのか、ある程度察することはできた。

 

 

真姫「………それが何か問題でも??」

 

 

 それを知った上で真姫は彼らの質問を肯定する。

 

 

医師3「失礼ですが………、鹿角くんはまだ経験が浅いです。それなのに、初めて行う手術が立川君の腫瘍の切除手術となると厳しいのでは??」

 

 

 3人目の医師がメガネをクイッと上げて話しかける。

 

 だが、真姫は平然な表情を浮かべて彼の問いに答える。真姫だって、何も考えずに明に任せたわけではない。ちゃんとした理由はあるのだ。

 

 

真姫「明は私が手術している時、隣でずっと私のサポートに徹してくれていたわ。技術面でいったら心配はないわよ。勿論、今度は私が彼の隣に立ってサポートするつもり。」

 

 

 理由を述べても、彼らは納得しないようだった。

 

 

医師2「ですが………。もし、それで失敗したらどうするんですか!?」

 

 

真姫「責任は私がとるわ。」

 

 

医者1「前から思っていたのですが…………どうして、そこまで院長は鹿角のことを??」

 

 

 この質問をした女性の医師は前から疑問に思っていた。いや、彼女だけではない。ここで働く従業員、みんなが1度は思っている。

 

 

 真姫は明のことを少なからず優遇しているんじゃないか………と。

 

 

 実質、そんなことはない。真姫は別に明のことを特別重視とかはしておらず、他の従業員同様に接しているつもりだ。

 

 今回の手術も彼のこれまでの経験と日々の努力が積み重なったからこそ、立川君の手術を任せたいと思ったから彼に任命した。

 

 

 たった、それだけ。それだけなのだが…………

 

 

 ここで、真姫は数年前に明が西木野総合病院に面接に来た時に、どうして医者になろうとしたのか、という質問に対して彼が放った言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明『私は…………幼い頃に家族を守る為に人を殺めた過去があります。』

 

 

 ーーーこいつは何を言っているのだろうか。

 

 

 最初の言葉を聞いて真姫が最初に思った事だった。動揺するのも無理はない。

 

 

 彼女の旦那である修也(真姫の思い込み)の紹介で明の面接をわざわざ院長である真姫がやってあげた訳なのだが………医師を目指した理由を聞いたら、突然自分は『人殺し』であるということを明かしたのだ。

 

 

 真姫は聞き間違いだと思い、彼にもう一度言ってもらうよう頼んだ。

 

 

 しかし、結果としてはまたしても彼は自分が『人殺し』であることとを明かしただけだった。

 

 

 ーーーうん………、不採用にしよう

 

 

 ペラペラと緊張しながらも続きを話している明を見ながら真姫は心の中で決意した。

 

 

 

 いくら、愛すべき旦那の修也(勘違いつってんだろ。)の紹介とはいえ、明が前科持ちならば話は別だ。こんな危険な人を我が病院に雇う訳には行かない。

 

 

 

 真姫は適当に質問して明の話を聞いていた。

 

 

 

 そして、最後に何か言い残したことはないか………と無意味ながら聞く。

 

 

 

 すると………明は自分の手を見ながら言葉を出した。

 

 

 

 

明『私は………人の命を殺めてしまった分………………数多く人の『命』を救いたい。自分のこの手で!!』

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーッッ!!??

 

 

 

 明が最後に放った一言によって、真姫に衝撃を与える。正確には、言葉では無く明の顔を見て衝撃を受けた。

 

 

 明の目は真剣な目をしていた。それは嘘偽りが1つもなく、覚悟を決めた目だった。

 

 

 

 そして、彼の目は真姫が今までに出会ってきた誰かに似ていた。

 

 

 

 ……………そうだ。思い出した。あの人だ。

 

 

 高校生時代に、スクールアイドル部を立ち上げ、廃校の危機を救ったスクールアイドルμ'sのリーダーだったあの人に明は似ているんだ。

 

 

 

 

 ーーーーーークスッ

 

 

 

 いつの間にか真姫は頬を緩ませていた。

 

 

 そして、今のが聞こえてしまったのか、明はポカンとして彼女を見ていた。

 

 

 

 真姫は「コホン」としたあと、それを無かったかのように目の前にある書類をトントンと整理してから、その場で明に向けて微笑みながら一言呟いた。

 

 

 

 

 

 ーーー採用。来月からお願いするわ。

 

 

 

 

 

 

 

 その時の明の表情は今でも真姫は覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真姫「私は彼なら………鹿角 明なら必ず立川君の手術を成功してくれると信じているからよ。過去に人の命を自分の手で失わせてしまったからこそ、明は命の大切さが、ここにいる誰よりも身にしめて理解している。だから、私は彼に手術を任せた。それだけよ。分かったなら、早く自分の仕事に戻りなさい。」

 

 

 

医師1・2・3「ーーーーーッッ!!??」

 

 

 

 真姫は彼らにそう言葉を残したあと、彼らの反応を伺わずにその場から離れて、自分の作業する部屋へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明「はっ……はっ………」タッタッタ

 

 西木野総合病院から出た俺はすぐに最寄りである東京駅に向かって走る。

 

 このまま行けば、彼女達が駅に着くと同時に俺も辿りつくことができるであろう。

 

 念の為、東京駅に着いたら地下一階にある銀の鈴のオブジェの前で待つように連絡してある。

 

 

 10分ほど時間が経ったあと、俺は汗を垂らせながら東京駅に辿り着き、止まることなく急いで銀の鈴のオブジェの方へと進む。

 

 

 そして、銀の鈴のオブジェに着くと、そこには待ち人らしき多くの人が立っていた。

 

 

明「ーーーーーあ」

 

 

 その多くの待ち人の中に、大きなキャリーバックを持った2人の女性が目に映る。

 

 

 1人は穏やかな表情が特徴的で髪形がサイドテールにしている美人な女性。

 

 

 もう1人は瓜二つと言わんばかりの明にそっくりな顔つきで、キリッとした表情が特徴的になっていて髪形はツインテールにしている美人な女性だ。

 

 

 2人も俺の姿を見た瞬間、とても嬉しそうに微笑んだあと俺の方へと駆け寄る。

 

 

 

 『うわぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 パァン

 

 

 『人殺し』

 

 

 『もう、私達には関わらないで』

 

 

 未だに彼女の姿を見ると、俺は20年前以上のあの出来後を思い出す。

 

 

 もし、あの時、『人殺し』である1人の恩人の誘いを受け入れなかったらどうなっていたか。

 

 

 もし、あの時、『人殺し』である俺は今は亡き浦の星女学院に入学してなかったらどうなっていたのだろうか。

 

 

 もし、あの時、『人殺し』である俺は9人の仲間に出会わなかったらどうなっていたのだろうか。

 

 

 もし、あの時、『人殺し』である俺は目の前に差し出される8人の手を取らなかったらどうなっていたのだろうか。

 

 

 今まで過ごして来た過去のどれかの違う道を進んでいたら………と考えるとゾッとする。

 

 

 きっと、どれか1つでも違う道を歩んでいたとしたら、少なくとも今はないと思う。

 

 

 ーーーもしかしたら、ずっと人と関わらなかった未来があったのかもしれない。

 

 

 ーーーもしかしたら、ずっと自分を責め続ける未来があったのかもしれない。

 

 

 ーーーもしかしたら、この歳になる前に俺は自ら命を絶っていたのかもしれない。

 

 

 様々な思考が頭の中でよぎってきたが、もうやめよう。

 

 

 彼女達が俺の目の前まで近付いたあと、俺達は3人でゆっくりとその場で抱き締め合う。

 

 他の人からしてみれば、異形な光景であほう。

 

 だが、俺達にとっては、とても大切なことだった。

 

 そして、俺は抱き締めながら愛すべき姉2人に向けて言葉を出した。

 

 

明「久しぶりだな、姉ちゃん達!!」

 

 

聖良「お久しぶりです。明」

 

 

理亜「久しぶり。明。」

 

 

 

 俺達は互いに顔を見合って、嬉しそうに笑った。

 

 

 そして、3人で並んで会話を弾みながらその場から歩き出す。

 

 

 

 その姿は正に仲の良い姉弟以外、何者でも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿角 明はSaint Snowだった鹿角聖良と鹿角 理亜の2人の弟で『人殺し』。

 

 

 

 

 例え、今……明が幸せな日々を過ごしているとしても『人殺し』という罪は彼の命が絶えるまで胸に刻まれていくことだろう。

 

 

 

 それでも………鹿角 明は逃げずに、『人殺し』という罪を受け入れ前に進む。

 

 

 

 

 

 

 彼、1人だけではなく……………大好きな姉である聖良と理亜、最愛なる妻である花丸と2人の間に出来た可愛い娘。そして………これまでに出会ってきた最高の仲間達と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』………完

 

 




『人殺し』の投稿を初めて、約1年間程ですが遂に完結させることが出来ました!!これも、こんな駄文な作品なのにも関わらず、応援してくださる皆さんのおかげです!!本当にありがとうございました!!
この1年間、皆様の暇潰しになれるような作品に仕上がることは出来たでしょうか??出来ていたなら、嬉しい限りです。

最終話ということなので、特別ゲストとしてこれまでに『人殺し』に登場したコラボ作品のキャラも名前だけ出させて頂きました!!べーたさん、アドミラル△さん、ぱすえさんありがとうございます!!

あと、この最終話ではある伏線を回収していたのですが、皆様はお気づきでしょうか??分からなかった人はもう一度、読んでみて下さい。詳細は後日。投稿予定のあとがきにて。

次回作はテロップは既に完成済みなので、近い内に投稿します。次回作もSaint Snowをメインとして執筆していくので楽しみにしてくれたらな………と思います。

最後にSaintSnowの2人の弟である俺は『人殺し』を読んでくれてた皆様、本当にありがとうございました!!
七宮 梅雨でした!!

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