Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』 作:七宮 梅雨
当たり前の話ですが、七宮とは違うスタイルで書かれている方なので一味違う雰囲気で楽しめると思います。
それでは、アドミラル△さんが描く『人殺し』をどうぞ!!
道路を通る車の音が鮮明に聞こえるこんな夜中に起きるのは何度目だろうか。息が荒くなって過呼吸になりそうになるのを必死にこらえ、これが現実であることを頭で理解する。壁の時計を見ると既に丑三つ時を迎え、ただでさえ閑散としている街は本当に静まりかえっていた。荒れた呼吸を整えながら左手を胸に当て拍動が正常であるかを確認する
その一連の流れによって今見ていた映像が夢であると安堵して胸を撫で下ろすのと同時に、あの時の映像がフラッシュバックして湧き上がる気持ち悪さが安堵とは裏腹に胃の中からせり上がってくる。寝ていたベッドは寝汗によって俺の寝姿を形づくり、肌にべっとりと張り付いた汗が怨念のようにも感じられる。それを振り払うように拭いさり新しいシャツをタンスから1枚取りだした。そのひんやりとした感触に少しの安心感を覚えたのだった
「『人殺し』なのだからもう私の前に現れないで…本当に関わらないで…」
忘れたくても忘れられず今もクリアに映し出される…聖良姉ちゃんの引きつった頬が身体を抱き寄せる腕が…怯えた目があの時の俺という存在と相対していたのだ。人の記憶というのが物事をあやふやに記憶する中で、唯一鮮明に記憶するといわれているのは感情と強く結びついた時だと言われている。それなら俺のこの絶望で結びついた記憶が鮮明じゃなくなるのに一体何年かかるのだろう。だって見えないようにした所でこうして思い起こされるのだから…
白い天井のシミを数えることにも飽き、目を閉じて寝ようとしてもずっとその光景に追いかけられている。慌てふためく銀行員がバッグに急いでお金を積み込むところや銃を向けられた多くの人の畏怖の顔。そして恐怖に歪んだママの顔。けたたましいサイレンの音と警察の人のメガホンの声、そしてその中で覆面の男が銃口を辺りに振り回す恐怖の光景が今も脳裏に焼き付いている。黒く渦巻いた感情と結びついた記憶は、一夜漬けの暗記のように簡単に忘れさられるものでもなく、それはまるで赤錆みたいに俺の脳にこびりついていた
言い聞かせる。言い聞かせて理解して飲み込む。きっとそれしかなかったのだと…そう俺はそれでも“家族”を守りたくて勇気を振り絞って相手に体当たりをしたのだと。ただそうするしか無かったから小さいながらに頑張った。そうして犯人から偶然奪ったそれを初めて握った時は銃のことをただ強い武器だとしか認識してなかったけど、今思えばたった3センチ程度の鉄の塊だけで人は殺せてしまう。例えそれが5歳の俺だって例外ではない。引き金を引けば目の前の理不尽だって倒せてしまう。そう考えてあの時の僕は人差し指をぐっと引いたのだった
バンッ
と鼓膜が破れそうになるほどの爆音が鳴り響いた。その驚くような反動で銃は手放してしまったけど標準なんて分からずただ相手に向かって撃ったその弾丸は良いか悪いか相手の相手の頭を的確に穿っていた。まさしく『勧善懲悪』。僕という善によって銀行強盗という悪は倒されこの美談は幕を閉じるのだと。それが例えば小説や芝居であればの話だけれど
現実はそうでなく
理不尽って言葉はきっと俺のためにあるのだと思った
守りたかった。ただそれだけのために俺は犯人に突撃して震える手で引き金を引いたのに…待っていたのは畏怖と拒絶の視線だった。
『人殺し』『人殺し』
目の前がぐちゃぐちゃになって両脇に警察官が座るという狭苦しさやあの時かけられた手錠の重みは誰だって理解してくれない。それなのに強盗から助けてくれなかった警察が何故か僕を逮捕しているということに、耐え難い理不尽さを感じたのを覚えている。恐怖に脅えていた僕たちのことなんて知らずに外から声をかけていただけなのに随分偉そうなんだなとその時は思った。腰についているその黒いものはなんのためにあるんだと。守れないならそんなもの付けないでくれと思ったのだ。そんな憎悪にまみれた黒い感情が己の中でずっとずっと渦巻いていた。
誰もあの凄惨なさまを見た時の俺の気持ちなんて分からないくせに…誰も粘りのある血液が額の隙間からだらだらと流れ血溜まりをつくっている光景なんて見たことないくせに!どうして…否定の言葉ばかりを浴びせられないといけないんだ。フィクションなら少しばかりは称えられてもいいはずなのに…なんて現実はこう非情なんだろう。…それから俺は記憶に蓋をしているはずなのにそれらに関係するものをみてしまうと吐き気を催すような身体になってしまった。気持ち悪いんだ…何もかも
そうして今でも目をつぶれば聖良姉ちゃんからの侮蔑の目が…憎しみの籠ったその『人殺し』という言葉が反芻されるようにリフレインする。長い時があったから推測はいくらでもできた。俺をシンプルに人殺しと見定めたのか、それとも関係を断ちたくて拒絶したのか、恐怖からうっかりそれが漏れたのか。まあ…でもこの際それはなんだっていいんだ。俺は実の姉であり家族だった人から『人殺し』と言われ憎まれている。それが分かればもうどうだっていい。
今ではどこにあるか分からないけど、警察に拘束されてた時に書き殴ったノートの中にはその時の感情を詰め込んで詰め込んで書いたような気がする。ごめんなさい、あいたい、ごめんなさい、あいたい、ごめんなさい、まもれなくてごめんなさいほんとうにごめんなさい、あいたい…なんて子供ながらに純粋で今の俺では目をおおってしまうものだ
当時からだいぶ経って姉ちゃん達に会いたいなんて感情は絶望が塗り替えた。家族に対する愛情はそれ以上の憎悪が塗り潰した。そして何も無い俺が残った。関係を絶つ訳でもなく構築するわけでもない。ただ“無”関係であることだけを求め日々を過ごす。何も期待しないし何も絶望したりしない。だってもう既に家族からの拒絶という最大の絶望を知ってしまったのだから。例えるなら普段100kgでウエイトトレーニングをしている人間が5kgでやったらどうなるのかという話だ。端的に言えば何も感じない。感情の弦が音を立てないこういう人のことを植物のような人間というらしいけど、そう言われてしまえばそうだ。思えば俺はあの時からずっと人間的には死んでいるのだろう。“心は身体のガソリン‘’だとするならば俺はきっと永遠にガス欠状態だ。がんじがらめで過去に縛られて動かないし動けない。なんせ枯れ果てて心が輝いても潤ってもいないんだから
あぁどうして2人の姉があんなにも笑って、楽しんで踊っているのに…どうして俺は背中から刺すような痛みを感じながら幻覚に追い回されないといけないんだ?侮蔑、恐怖、憎悪、拒絶、虚無、非情それら全てを内包したような目で俺を見下したってのにステージではにこやかってか?笑わせないでくれよ。守ったのに拒絶した心無い姉妹が…
ほら笑ってよ俺という存在を。楽しんでよ僕の人生以上に。もっと踊ってよ俺はもう動けないから。僕という人間的に死んだ屍の上に姉ちゃん2人は立ってるんだからさ。だって…『人殺し』に怯えるような弱い心じゃダメなんでしょ?
…なんて少し俺らしくなかったかな。ここ静岡と函館じゃ偶然だって起こりえない。買い物に行ったスーパーで同級生とばったりなんて感覚であの姉妹と会うなんて到底ありえないのだ。人の噂も七十五日、血の繋がった家族の記憶も10年だって持たない。名前だって変わったし時が経てば全てが解決する。東京では偶然見てしまったけどそれでも俺があの姉妹を忘れて、あの姉妹が俺を忘れれば全てが丸く収まる。そんな未来はすぐそこにあるだろう。俺も甘えを捨てる選択する時がくる。この想いを切り捨てなければいけない時が…
アドミラル△さんが描くこのバットエンド風な書き方がたまらなく大好きです。
アドミラル△さん、今回『人殺し』の3次創作を執筆してくださって本当にありがとうございました!!m(_ _)m
アドミラル△さんが執筆されている『ラブライブ!サンシャイン!! 黒澤家長男の日常』をまだ呼んでないよ。という方は是非呼んでみてください。オススメですよ(* • ω • )b