Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』 作:七宮 梅雨
これは俺が高校2年生で、もうすぐ新生Aqoursとしてのラブライブの予選が始まろうとしていたある日のこと、それは唐突に起きた。
零「今度の日曜日、菜乃くんを家に呼ぶね」
明「………………え?」
ポロッと、俺は朝早く起きて朝ごはん用に焼いたウインナーを口に運ぶ直前、零さんから発しられた言葉に衝撃を受け、つい皿の上へ落としてしまった。
明「ごめん、零さん。もう1回言ってくれる?」
零「だから、今度の日曜日に彼氏の菜乃くんを家に連れてくるって言ってるの!」
零さんは少しだけ乙女らしく頬を染め、恥ずかしそうに大声をあげる。そんなに、怒らなくてもいいじゃん………。
因みに、菜乃というのは現在、零さんとお付き合いしてる2個下の男性で元は働いている職場の後輩らしい。それで、零さんに一目惚れた菜乃さんは彼女に猛アピールして、最終的にお付き合いする形になったという。
まだ1度も会ったことはないが、零さんから聞くにとても優しい男性ということは分かる。デートとかも月に何度かしてるらしいが、全て満足そうにして帰ってきていることから、少なくとも彼女のことを粗末にして扱ってはいない事が分かる。
今まで空手と仕事だけしか真剣に取り組んでおらず、1度も恋愛をしてこなかった零さんは、仕事の休日やデート前日とかに俺の彼女である花丸や他のAqoursのメンバーにお願いしてイマドキの服や化粧の仕方などを教えて貰っていたのが記憶として新しい。
曜船長や、ルビィ辺りがノリノリで教えていたなぁ………。花丸に関しては特に零さんから連絡来てたから少しだけノイローゼ気味になりかけて支えるのに苦労したものだ。
零「…………ダメ………だったかな?」
零さんは申し訳なさそうに言葉を出す。彼女なりに色々と俺のことを思って、そう言ってくれたのだろう。
決してダメなんかではない。むしろ、全然俺としてはOKだ。ただ、あまりにも唐突のことだったから驚いただけであって………。
だけど、なんだろう。家族として、零さんに遂に春が来たことで喜びたいはずなのに。
胸が気持ち悪い感じにモヤモヤとする。花丸とまだ付き合う前に感じていたものとはまた違う胸騒ぎだ。
明「そ、そんなことないよ。今度の日曜日ね、了解。予定空けとくよ。」
そう言ったあと、俺は目の前にあるご飯とおかずをかきこんで、味噌汁で胃に全て流し込む。
明「ごちそうさま!!じゃ、練習行ってくるね!!」
俺は空いた皿を流しに置いたあと、荷物を持って、この場から逃げるように学校へと向かった。背後から、零さんが何か言っているが、何を言っていたのかは分からなかった。
♦♦♦♦♦
明「なぁ………、俺はどうすればいいんだ?」
善子「急にどうしたのよ。何か変なものでも食べた?」
明「そんな訳ないだろ。善子じゃないんだから」
善子「私を何だと思ってるのよ!?あと、ヨハネ!」
ルビィ「あはは………」
昼休憩の途中、俺はいつメンである花丸、ルビィ、善子の3人に朝の件について相談に乗ってもらおうとした。
花丸「何かあったずらか?」
ムキーッと俺の言葉に頬を膨らませながら怒る善子を見て、ルビィが苦笑いする中、花丸が超特大おにぎりを手にしながら俺に話しかける。
明「あぁ。実はなーーー」
俺は3人に朝の出来事を嘘ひとつなく話した。零さんが彼氏を連れてくることや、それに対して俺が抱いている感情についてなど。
善子「なるほどねぇ………。」
ルビィ「うゆ………」
花丸「ずら…………」
事情をある程度知った3人は各々と表情を浮かべる。
善子「あんた、それ………普通に"嫉妬"してるんじゃないの?」
明「ッッ、嫉妬…………ねぇ。」
確かに善子の言う通りかもしれない。
散々、零さんに恋愛しろ、彼氏を作れなど高校に入る前から言ってきたが、いざ、彼女が他の男と付き合うとなると少しだけ嫌な気持ちとなる。
別に俺は零さんのことを異性として、そういう目で見ている訳では無い。俺には花丸がいるし…………。零さんのことは勿論、大好きだが、それは家族としての大好きだ。
だけど、俺は零さんに引き取って貰ってからは約7年は2人で一緒に暮らしてきたのだ。当然ながら、俺にとって彼女は恩人であり、2人目の母親的な存在となる。
そんな、俺のことをずっと見守ってくれていた零さんが、俺の元から離れるかもしれないと考えると…………寂しく感じてしまうのだ。
我ながら、凄い我儘である。なにせ、あれだけ零さんの幸せを望んでおきながら、いざ、彼女が幸せになろうとすると妬いてしまうのだから。
明「俺って案外、マザコンなのかも」
善子「え、今更?」
善子は何を今更、と言わんばかりの表情を浮かべる。いや、善子だけじゃない。ルビィや花丸も同じ表情を浮かべていた。
明「え……、お前ら、今まで俺のことを、そんな認識してたの??めっちゃ悲しいんだけど」
善子「いや、だって本当のことじゃない。」
明「は??どこが??」
ルビィ「先週、零さんの誕生日のときに、プレゼントを買いに行くだけでイタリアまで行ったよね??」
ルビィはジト目で言葉を出す。確かに、先週は零さんの誕生日だったのでその三日前ぐらいにイタリアに行ってきた。
明「だって、零さんが欲しいって言ってたネックレスがイタリアにしか売ってなかったから……」
善子「だからってイタリアまで行く必要無かったでしょうが!!最低、鞠莉にでもお願いして郵送してもらえれば良かったじゃない!!」
明「でも、実際に自分の目で決めたかったし、しょうがないだろ!!」
なんでここまで責められなければいけないのだろうか。零さんに喜んで貰えるように一生懸命やったことなのに。
花丸「あと、今年の母の日のイベントで行われた腕相撲大会に必死になってたずらよね………」
明「あれは、優勝賞品が欲しかったから……」
今年の母の日に、沼津の商店街でイベントとして腕相撲大会が開催され、なんとその優勝賞品が有名な温泉旅行のチケットだったので、それを零さんに渡したく参加した。
俺含め、自分の母親に温泉旅行のチケットを渡したいという気持ちを持った屈強の男性陣が参加していた中、見事に俺は優勝しチケットを手に入れることが出来た。
まぁ、その日の夜に、温泉旅行のチケットを零さんに渡したら
零『え……、十千万の温泉だけで十分なんだけど……』
と、真顔で言われて少しだけ悲しくなったのはいい思い出だ。 結局は近い内に零さんと2人で行く予定だけどね。
明「…………俺がマザコンであるかないかの件は置いておいて………、どうすればいいと思う??」
話が少し逸れてしまったので、なんとか話題を戻す。すると、3人は………
ルビィ「え……、明くん、まだ分からない?」
明「は?」
何を言ってるんだ、こいつは。
花丸「もう今のでわかってると思ってたずら」
は、花丸まで!?
善子「あんたって基本、頭良いのにこういう時だけは鈍感よね。」
まさかの善子までも!?まるで、3人は俺がこの先、どうしたらいいのか分かっているかのような口ぶりをする。
明「何だよ。勿体ぶってないで教えてくれよ」
花丸「ダメずら」
明「はい?」
花丸は両手で✕を作り、呆れたような表情を浮かべて言葉を出す。
花丸「こればかりは明くん自身で気付くべきずら。」
明「俺自身が?」
花丸「そうずら。でも、きっとすぐに気付くと思うよ。それほど、零さんのことを大切に想っているならば。」
ルビィ「うゆ!」
善子「ふん!」
明「花丸…………、お前ら。」
ここでオレンジ頭の先輩が「休憩終わりー!!」と大声を上げる。どうやら、あっという間に休憩時間は終わったらしい。それを聞いて、3人は腰を上げて練習場へと向かおうとする。俺も腰を上げて彼女たちの後を追う。
俺は一体、どうすればいいんだ??くそ……、花丸はすぐに分かると言っていたが、全然分からない。分かる気がしない。
明「零さん…………」
俺はつい、彼女の名前を口にする。ハッとした俺は周りを見るが、他のメンバーは練習に集中して気付いていないようだった。
結局、俺は部活が終わっても、どうしたらいいのか気付くことは出来なかった。
♦♦♦♦♦
明「ただいまー」
ガチャと扉を開けて、リビングへと足を進める。零さんは今日、残業のため帰りが遅くなるという連絡があったので晩御飯は1人だ。
少しだけ休憩を取ったあと、夕食を作り始める。今晩のメニューはひき肉とピーマンが冷蔵庫にあったので肉詰めピーマンにした。我ながら、よく出来たと思う。
ご飯を食べ終わったあと、自室に向かおうとした途中ーーー
明「うわ………」
零さんの部屋の扉が少しだけ空いていてたため、閉めようとして向かったのだが、部屋の中を見て驚きの声を上げる。
明「汚ぇ………」
とにかく部屋が汚かった。漫画やら化粧品やら服やらが床に転がっていて悲惨な状況へとなっている。あまり掃除とかが得意な人では無かったけど、これは流石に酷い。彼氏さんも見たらビックリするだろう。
明「掃除しよ」
俺はそう言って、彼女の部屋に入り床に転がっている物を拾い上げる。別に零さんの部屋を掃除するのは珍しいことではない。月に最低1、2回はやっている。本当ならば、彼女自身にやってもらいたいが、しつこく言っても反応は無かったので諦めた。
30分ほど掃除をして、半分ぐらいが綺麗になったところ、山のように積まれていた本を本棚に戻している時、
明「ん?」
本の中に、1冊の分厚い赤紫色の本が目に止まる。表紙には『明ちゃんとの思い出』と書かれていた。
これは…………
明「アルバム??」
1ページ目をペラリとめくると、思った通りアルバムだった。何枚かの写真が綴じられている。こんなアルバムがあっただなんて知らなかった。
思い出してみると、よく零さんは使い捨てカメラとかで写真を撮っていた記憶がある。まさか、その時の写真なのか??今までの全部??
気になった俺は、とりあえずアルバムを閉じて零さんの机の上に置いておく。その後、速攻で部屋を片付けた俺はアルバムを手にして自室へと入る。
そして、自分の机の上にアルバムを置いて再度、1ページ目をめくり、詳しく写真を1枚1枚を目に通す。
最初の1~3ページは俺が零さんに引き取って貰ってから間も無い頃の写真だった。この頃の俺は、まだ色々と警戒して何に対しても疑心暗鬼していた。それだからか、表情がどの写真も死人のような感じだった。
アルバムの中盤は、少しずつ笑顔になっている自分の写真があった。新しい小学校の時の行事の写真や零さんとの旅行の写真などがある。そういえば、小学校の授業参観のときに下手な化粧をしてよく来てくれたっけな。周りにいる親たちに不審な目で見られながらも…………。
それだけじゃない。運動会や発表劇、合唱コンクールにマラソン大会など、どれも俺の為に来てくれていた。
明「………………」
アルバム終盤の写真は、俺が高校に進学してからの写真で今までは零さんだけだったのに対し、AqoursのメンバーやSaint Snowの姉ちゃん達、そして新しい高校先で出来た友達との写真もちらほらと映っている。こんな最近のやつまでもあったのか。
恐らく、最後であろうと思われるページをペラリとめくる。それを見て、俺は言葉が出なくなる。
明「ーーーーッッ」
最後のページは一寛としていて、俺と零さんが家の前、もしくは学校の入学式や卒業式などの看板の前で並んでいる写真だった。このページを見ただけで俺がどれぐらい成長したのかが1発で分かる。懐かしい………。
そして、そのページには
『明ちゃんの結婚式、もしくは私の結婚式の時に使う写真♡』
と、零さんが書いたであろう文字が書かれていた。文字が薄くなってることから、恐らく何年か前に書いたものだと思われる。
明「………………」
俺は再び、1ページに戻って1枚ずつ写真を眺める。
ペラリ、ペラリと最後までめくっては。
再び、1ページに戻る。
写真を見る度に、その時の思い出が頭の中で映像となって流れ込んでくる。しっかりと覚えているやつもあれば、こんな出来事なんてあったっけ??と首を傾げてしまうものもあった。
これを何度繰り返しただろうか。少なくとも2桁は超えている気がする。
明「そうか………。そういうことだったのか。」
俺はバタンとアルバムを閉じて、天井を見上げながら言葉を呟いた。この写真を眺めているうちに、アイツらが言っていたことの意味をようやく気付くことができた。
明「あいつらの言う通り、簡単な事じゃねぇか。」
俺のやるべきことはたったひとつ。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇すること。これだけじゃないか。
俺はアルバムを元々、本が山積みにされていた場所に置いて零さんの部屋から出る。
零「ただいまー」
それと同時に、零さんが家に帰ってきた。どうやら、相当長いことアルバムを見ていたらしい。
俺は部屋から出たあと、恒例のように玄関に向かって靴を脱ごうとする零さんに向かって微笑みながら声を出した。
明「おかえり、零さん。今日は肉詰めピーマンだよ。」
そして、遂に零さんの彼氏が家に来る運命の日曜日を迎えた。
後編はまた近いうちに投稿するので楽しみに待って貰えたら嬉しいです。