Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』 作:七宮 梅雨
零さんの彼氏である奈乃さんがもうすぐ家にやってくると、迎えに行った零さんから連絡がきたので、そわそわとさせながらもリビングで待っていた。
零さん達が来るまでの間に俺は緊張を和らげるために、LINEのいつメン(花丸・ルビィ・善子)グループにメッセージを送る。
明『もうすぐ、零さんの彼氏さんが来るんだが、めちゃくちゃ緊張する。どうしたらいいと思う??』
メッセージを送ると、すぐに既読が3ついた。
花丸『手のひらに「人」って文字を3回書いて、飲み込むといいずらよ。』
最初に返信をくれたのは愛すべき花丸だった。内容としては、本を沢山読んでいる花丸らしい。メッセージを見て、頬が緩む。
ルビィ『スクールアイドルの曲を聞いてみるといいかも。オススメはねーーー』
花丸の次はルビィから返信がきた。こちらも内容はスクールアイドル好きのルビィらしい。確かに、その案もいいかもしれない。早速、音楽アプリを開いてAqoursの曲を流した。うん、いいかも。
善子『生殺与奪の件を他人に握らせるな!!』
おいコラ、ちょっと待て。1人だけなんか違うのがいるんだが………。堕天使(自称)じゃなくて、ド天然水柱がいるんだけど。
善子『あ、ごめんwww。送るところ間違えたわwww』
逆にどこに送るつもりだったんだよ、そのメッセージは。あと、草生やすのやめろ。
善子『手のひらの中心を親指とかでグイッと押してみなさい。そしたら、緊張は和らぐから。』
明「マジか」
てっきり、善子の場合は堕天使口調でボケをかましてくると思っていたが、普通にアドバイスを送ってきたので、思わず口をポカンとさせてしまった。善子の言う通りに、俺は右手をパーにして、中心部を左の親指でグイグイと少し強めに押してみる。
明「お、おぉ………。」
予想以上の気持ちよさに俺は言葉を零してしまった。何これ………。永遠にやれるんですけど。
善子『やってみた?』
明『おう。めちゃくちゃ気持ちいいわ』
善子『当然でしょ!(*`ω´*)ドヤッ。堕天使ヨハネに感謝することね。』
ルビィ『わぁー、善子ちゃん凄い!!』
花丸『流石は善子ちゃんずら!!』
善子『善子じゃなくて、ヨハネ!!』
明「………アハハ。」
もう、お決まりといっても過言ではないこのやり取りを目にして、俺は笑ってしまった。やっぱり、この3人とのやり取りは俺の中では特別だな。
気付いたら、緊張も無くなっていた。あいつらに感謝しなくちゃだな。
零「ただいまぁー。」ガチャ
「お、お邪魔します!!」
おっと。零さん達が遂に家に到着してしまったようだ。俺はメッセージで彼氏さんが来たから頑張るわ、と送りスマホをボケットの中に入れた。
数時間前から着ていたスーツに皺がないか、改めて確認してからネクタイを締め直して2人がリビングにやってくるのを待った。
零「ささ、入って入って。」ガチャ
「こ、こんにちは!」
リビングの扉が開き、2人の男女が姿を現す。1人は、俺の里親である零さん。そして、彼女の隣にいるのが、彼氏である奈乃さんだろう。写真で何回か見たことがあるが、こう改めて見ると、小動物系男子って感じがする。例えで言うならば、ルビィの男版って感じだ。
俺は席から立ち上がって、奈乃さんの前に行く。
明「はじめまして。」
「こ、こちらこそはじめまして。あ、これつまらないものですけど良かったら食べてください。」
俺が挨拶しながら頭を下げると、奈乃さんも返すように返事をして、手に持っていた紙袋を俺に差し出したので受け取る。中身がチラッと見えたが、これ………。今、人気すぎてあまり手に入らない最新作の抹茶プリンじゃないか。
明「わざわざ、ありがとうございます。今日はとても楽しみにしていました」
「ぼ、僕もです。今日はよろしくお願いします」
互いに頭を下げ合い、握手を交わした。軽く会話した感じ、やっぱりいい人そうだ。もし、皮を被ってるゲス野郎だったら、その場でボコボコにして家を追い出そうと考えたけど、その必要はないみたいだ。
零「2人とも固いよー。ささ、座って3人で仲良く喋ろ♪」
間に入ってきた零さんに促され、俺たちは席へと座る。当然だが、俺の目の前には零さんと奈乃さんが並んで座っている。
零「じゃあ、明ちゃん。私の方から紹介するね。こちらは奈乃くん。2歳歳下で、職場内では私が所属する部署の後輩。んで、半年前に奈乃くんに告白されて付き合うことになったの。」
「奈乃です。初勤務で奥山さんとお会いした時に一目惚れしまして…………。絶対にお付き合いしたいと思い、猛アタックさせていただきました!!」
奈乃さんは恥ずかしそうに顔を赤くしながらも自己紹介をしてくれた。
今の言葉を聞いた感じ、この人は緊張しながらも思ったことを嘘ひとつなく口にしてしまうタイプの人間だな。隣をチラッと見ると、零さんも平常心を装いながらも少しだけ嬉しそうに頬を赤く染めていたのが良い証拠である。ラブラブですね。
零「コ、コホン。んでね、奈乃くん。この子が前から言ってた私と一緒に暮らしている明ちゃん。今年、高校2年生でスクールアイドルのマネージャーをやってるの。」
明「奥山 明です。まぁ………、色々と家庭の事情があって7年前からここに暮らしています。」
今度は零さんが奈乃さんに俺の説明をし始めたので、それに続いて俺も自己紹介を行う。とは言っても、零さんが彼に俺のどこまでを事前に説明しているからは分からないため、簡易な形の自己紹介になってしまった。さすがに『人殺し』のことについては話してはいないと思うけど………。
「スクールアイドルのマネージャー………ですか?」
所属している部活を聞いて、奈乃さんが反応を示した。
明「はい、一応…………。何かありました?」
「あ、いえ。てっきり、奥山さんの影響で武道に関する部活に入ってると思っていたので。身体も鍛えられてるし………。」
あぁ、なるほど。そういうことね。確かに、そう思われても仕方がないのかもしれない。
零さんが空手をやっていたということは基本的には彼女のことを知っている人はほぼ認知している。隠す必要も無く、普通に自分で言っているしね。
だからこそ、一緒に暮らしている俺も零さんの影響で空手、もしくは他の武道に関する部活に所属していると思ったのかもしれない。スーツ着ているとはいえ、俺の身体はガッチリとしているしな。
明「そうですね。高校に入るまでは、奈乃さんが思っている通り、彼女の影響で空手をやっていましたよ。」
今、思い出すとブルっと身体が震えてしまうほどの稽古内容でしたけど。まぁ、あれがあったからこそ、そこそこ戦えるようにはなったから、ありがたいことだったけどな。
「やっぱり………、辛かったですか?」
明「それなりに。」
「ッッ、ですよね………。」
奈乃さんは俺の話を聞いて、肩をガックリとさせてしまった。何かあったのだろうか?
明「どうかされたんですか?」
「あ、いえ。奥山さんに僕の身体がヒョロいから鍛えてやるって前々から言われてて………。」
明「あぁ、それは………。ドンマイとしか言えないですね。」
それに関しては、本当にドンマイしか言えない。確かに、奈乃さんは男にしては少しヒョロヒョロな気がするけど………。零さんの彼氏になったことが運の尽きだな。
零「だ、大丈夫だって!!ちゃんと奈乃くんにあったトレーニングにするから」
零さんは奈乃さんを励ますようにそう言葉をかける。ここで余談だが、俺がまだ空手を始めようとした時(当時11歳)にも零さんは俺に同じことを言ったが、そのトレーニングの内容が内浦をまるまる1周のランニングだったということをこの瞬間に思い出したが、敢えて言わなかった。
その後、2時間くらい3人でまったりと会話を交わした。
この2時間、奈乃さんと関わって分かったけど、やっぱりこの人は良い人だった。人見知りで緊張しがちだけど、それでも人のことをよく見てる。見た目や偏見だけで絶対に人を見捨てない。しかも、しっかりと思ったことを口に出してくれる。
この人になら俺は…………。
………よし!!
覚悟を決めた俺は、そろそろお開きになりそうな雰囲気のタイミングで零さんの方に顔を向ける。
明「ごめん、零さん。少しいい?」
零「どうしたの?」
明「奈乃さんと………2人で少し話がしたい。」
零「え?何で?」
ふきんでテーブルを吹いていた零さんは目を丸くする。まぁ………、当然の結果だよね。
明「そりゃあ………、将来、2人が結婚したら奈乃さんは俺の…………父親になるかもしれない人だからね。男2人でよりよい親睦を深めようかな………と。」
零「結婚………///」
「父親………///」
こら、2人とも。『結婚』と『父親』というワードで顔を赤くさせるんじゃない。1番恥ずかしいのは、この言葉を話してる俺だからね??
明「だからお願い。少しだけ席を外して欲しい。」
俺は零さんの目をしっかりと見ながら、お願いした。
零「ーーーーッッ………。」
どうして俺がこんなことを零さんに言ったのか。長年、一緒に過ごして鋭い零さんなら、俺の考えを理解したことだろう。理解したからこそ、彼女がこれを許してくれるかどうか。
数十秒、沈黙の時間が流れたあと、零さんは目を瞑りながらゆっくりと口を動かした。
零「………分かった。じゃあ、コンビニ行ってアイス買ってくるわ」
明「ーーーッッ!零さん……。」
零「奈乃くんもごめんね。少しだけ明ちゃんの我儘に付き合ってくれる?」
「僕は全然、大丈夫ですけど………。」
零「ありがと。じゃあ、行ってくるね」
零さんはそう言って、財布を片手に持ったあとに部屋から出て行った。心の中で、零さんに感謝しながら俺は彼女を見送った。
ガチャ、と聞き慣れた玄関の扉が閉まる音が耳に入ったあと、俺は奈乃さんの方に顔を向けて言葉を出した。
明「すみません、奈乃さん。無理言っちゃって」
「い、いえ!とんでもないです。」
明「何か淹れますよ。お茶かコーヒーどっちがいいですか?」
俺の無理を引き受けてくれたのに、何も出さないというのは失礼なので俺は奈乃さんに声をかけながら台所へと行く。
「じゃあ、コーヒーを」
明「分かりました。ミルクや砂糖はどうします?」
「ブラックでよろしくお願いします。」
明「ブラックですね。了解です。」
ブラックか……。高校生の俺が言うのもなんだけど、奈乃さんも飲むんだな。少し意外だ。
手際よく、カップ2つにブラックコーヒーを淹れた俺はそれをテーブルに持って行って、カップ1つを奈乃さんの前に置く。
明「どうぞ」
「ありがとうございます。」
奈乃さんは頭を下げたあと、早速俺が淹れたコーヒーに口をつける。
「ッッ!!美味しいです!!」
俺特製のコーヒーを飲んで、奈乃さんは嬉しそうに言葉を口にする。本当に美味しそうに飲んでくれるから、見ててこっちも嬉しくなる
明「ありがとうございます。喜んで貰えて良かった。」
最近はコーヒーの淹れ方にも拘り始めたからな。次は紅茶とかにも挑戦してみようかね。
「それで………話っていうのは?」
互いにコーヒータイムをほんの僅かな時間、過ごしたあと、奈乃さんの方から、この対談の機会の内容を聞かれた。
その瞬間、俺は姿勢を正したあとに奈乃さんの方に目線を移す。今まで以上に真剣な表情で。
明「単刀直入に聞きます。奈乃さんは零さんに俺について…………、『奥山 明』という人物についてどこまで聞いていますか?」
「明くんについてですか?さっき言われたようにご家庭の事情で一緒に奥山さんと暮らすようになった以外には特に何も聞いてませんね………。」
明「そうですか………。彼氏さんからしたら、俺は少し邪魔だと思いません?」
「そ、そんなことはないですよ!!家庭の事情ならば仕方がないですし。元々は他人である僕が何か言ってはいいものではありませんから。少なくとも、僕は明くんの存在を邪魔だなんて今までに1度もたりとも思ったことはないですよ。」
明「ッッ………そう言って貰えると助かります。」
この言葉を聞いて、最後の最後で決心がついた。やっぱり、この人なら…………大丈夫だ。
明「奈乃さん。今から貴方に大事な話があります。」
「話ですか?」
明「はい。内容は俺について………です。」
俺は何回か、深呼吸を整えたあと、聞く状態になってくれた奈乃さんの目をしっかりと見ながら口を動かした。
明「俺………、奥山 明は11年前に人を殺しました。」
この言葉を初めとして、俺は自分の過去について奈乃さんに語り始めた。
後編、近いうちに投稿しますので少しばかりお待ちを。
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