Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』   作:七宮 梅雨

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後編です。

少し懐かしいシーンがあります。


『人殺し』の里親が彼氏呼ぶってよ『後編』

 「…………え?」

 

 俺が放った言葉に、現状が追いついていないのか、奈乃さんはポカンとさせていた。唐突に、目の前にいる青年に過去に殺人経験があると告白されれば当然の反応なのかもしれない。

 

 それでも、俺は口を止めることなく言葉を続ける。

 

明「今から11年前に………函館にある銀行に1人の強盗が立て篭り事件を起こしたんです。その強盗には一丁の拳銃と1人の女性がいました。その女性が……………俺の本当の母親でした。」

 

 当時のあの様子を…………。視界に入り、脳の奥底に未だにこびり付いているあの景色を、俺は鮮明に頭の中で思い浮かべながら、あの日の出来事を口にした。

 

明「拳銃を頭に付けられ、"死ぬかもしれない"という恐怖に泣き、震える母親を俺と2人の姉は怯えながら見ていました。」

 

 急に弾け飛ばされ、気付いた時には、さっきまで近くにいた大好きな母親が、拳銃を持った怖い男の人に押さえつけられているのだ。恐怖以外何も出てこないに決まっている。

 

明「けど…………なんとかこの状況をどうにかしようと………、母親を助けないと!!、と思った俺は強盗が油断している隙に立ち向かいました。」

 

 よくよく、思い出してみると凄い行動をしたなと我ながら思う。なにせ、相手は拳銃を持った強盗なのだ。はっきり言って無理がある。

 

 それでも……………、なんとか母親を助けたいという気持ちの方が勝っていたんだろうな。

 

明「結果からしては、なんとか母親を解放することが出来ました。とは言っても、すぐに強盗にすっ飛ばされましたけどね。けど…………、ただで吹っ飛ばされた訳では無いんですよ。何かしらの拍子で俺は……………吹っ飛ばされたのと同時に強盗が持っていた拳銃を手にしてしまったんです。」

 

 これについても、どうして吹っ飛ばされた際に俺の手に拳銃があったのかは分からない。いや、だって普通に考えてありえないじゃん。何回も言うけど、当時の俺…………5歳だよ?どうして5歳に拳銃取られるんだよ。握力に関しては天と地の差あるだろうが。

 

明「当然、それに気付いた強盗は俺から拳銃を奪い返そうとしました。その時の姿が本当に恐ろしくて、怖くなった俺は、無我夢中で拳銃を強盗に向けて………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いたら、引き金を引いていました。」

 

 

 あの時、あの瞬間。一体、何が起こったのか、自分は何をしてしまったのか最初は理解することができなかった。けど、次第に…………自分のこの手で引き金を引いてしまったという感覚が、感触がじわじわと伝わってきたのを覚えている。

 

 そして、目の前を見てみれば、頭に穴が空き、そこから大量の血を溢れだしながら倒れる強盗の姿が。そして、周りを見てみれば、俺の事を恐れるかのようにして目にする人達。顔や手、服を見てみると、ドロドロとした真っ赤な血で染まられていた。

 

 

 この瞬間から俺は…………『人殺し』になってしまったということを理解した。

 

 

明「『人殺し』になった以降は、正直地獄のような生活でした。母親や父親、姉2人に会って謝りたいのに、会えない。家族は家族で俺のせいで暫くの間は苦労させてしまった。」

 

 

 『人殺し』がいる家族。

 

 

 これだけで、どれほど鹿角家に迷惑をかけてしまったのだろうか。話を聞いた感じ、甘味処である『茶房 菊泉』では客が全く来なくなったり、姉ちゃん達は学校でクラスに虐めにあったりしたそうだ。

 

 全ては俺のせいで………。俺のせいで関係のない家族にまで被害が及ぶようになってしまった。

 

明「その結果、俺は1年後に…………孤児院へと送られました。まぁ、当然ですよね。」

 

 孤児院に送られた………。すなわち、棄てられたと言っても過言ではない。この言葉を聞いて、奈乃さんは気まずそうに表情をしかめる。どれも、聞いてて気持ちの良いものではないからな。申し訳ない話だ。

 

明「送られた孤児院で俺は3年間過ごしました。他の子達に『人殺し』だと気付かれたくなかったので、基本的には1人で。」

 

 ぶっちゃけた話、孤児院で過ごした日々はそこまで覚えていない。なにせ、本当に何もなかったからだ。あの頃の俺は、まさに死人に等しい存在であった。

 

明「きっと、このままこんな感じの生活が続くんだろうな………、とあの日まで思っていました。」

 

 

 そう、あの日。

 

 

 今でも忘れない10回目の誕生日だった12月12日。

 

 

 俺が再び、"人"として動き始めることができたあの運命の日。

 

 

 

明「俺が10歳になる12月12日の誕生日の日に………零さんに出会いました。」

 

 

 

 最初は、彼女は定期的に施設に来るボランティアの大人数の1人にしか過ぎなかった。ボランティアが来ても、基本的に関わらなかった俺は、その日もいつものように1人で過ごすはずだった。

 

 はずだったのにーーー。

 

 

 

零『この子、引き取っていいですか??』

 

 

 

明「あの人……….、俺を見て院長にそう言ったんです。その理由がなんだったと思います??昔、飼ってた犬に俺が似てからって言うんですよ。今、考えると相当頭狂ってると思いません??」

 

 苦笑いで奈乃さんにそう聞くと、彼は小さな声で「奥山さんらしい………」と呟いていた。

 

 急に目の前に現れ、素性も名前も知らない女性に、家族になろうと言われても困るだけ。それに、他の子ならばまだしも自分は『人殺し』なのだ。

 

 だから、最初は断った。少しだけ、名残惜しい気持ちもあったがしょうがないこと。

 

 もし、『人殺し』である俺を引き取ってしまったら、今後、彼女に迷惑をかけてしまうかもしれない。それだけはどうしても避けたかった。もう、自分のせいで周りに被害が及ぶのは嫌なのだ。

 

 本来なら、ここで彼女が諦めて終わるはずだった。しかし………

 

 

 

 『私は例え君が『人殺し』だとしても一緒にいたいという気持ちは変わらないよ。だからさ……』

 

 

 

 零さんは俺の意思関係無しに、俺という存在に足を踏み入れようとした。

 

 

 どうしてだよ。どうして、そんなことが言える??話を聞いていなかったのか??俺は『人殺し』なんだぞ??

 

 

 やめろ。それ以降のことを口にしないでください。

 

 

 ダメなんだ。俺みたいな『人殺し』は。それを、もう手にしてはいけない。手にしてしまったら、またしても俺のせいで傷つく人がでる。もう嫌なんだよ。

 

 

 嫌なのに…………

 

 

 今まで、俺の中で培ってきた何かにピキピキとヒビが入っていく。

 

 

 嫌だ嫌だと対抗していても、ヒビが止まることは無かった。

 

 もしかしたら、俺は……………、『人殺し』でありながらも、心のどこかでは微かに望んでいたのかもしれない。

 

 2度と手にすることは決して無いであろうと、思っていたもの。

 

 

 そして…………。

 

 

 

 『私と一緒に家族になってくれないかな??』

 

 

 

 ーーーパリィィィン!!!!

 

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

 彼女のこの一言で、俺は奥山 明として生まれ変わり…………、奥山 零というかけがえの無い家族を手にすることが出来たのだ。

 

 

 

明「……………俺についてはこんな感じです。すみません、急にこんな話しちゃって」

 

 「い、いえ…………。」

 

 一通り、俺の過去を伝えた俺は最後に奈乃さんにお詫びの言葉を出した。先程言ったように、話していた内容は全て、聞いてて気持ちの良い話ではない。少なからず、気分を悪くしてしまっただろう。これで、何も言わないのは失礼なことだ。

 

 「けど………、どうしてその話を僕に?」

 

 気持ちを切り替えるためか、冷めてしまったコーヒーを口にした奈乃さんは俺に声をかける。確かに、急にこんな話をされたら気になるよな。

 

明「そんな大した理由ではないですよ。ただ……、奈乃さんは零さんの彼氏さんだから俺の事を知って欲しいと思っただけです。」

 

 「はぁ…………。」

 

 でも、この先…………、もし奈乃さんが零さんと別れることとなったら無駄じゃないか、と思うかもしれない。確かにその通りだ。

 

 だけど、それでも俺は話したかった。

 

 奥山 零が選んだ男だからかもしれない。確証はないけれど…………これだけで信用はできる。

 

明「奈乃さん…………。」

 

 俺は席から立ち上がったあと、座ってる奈乃さんの前まで移動する。突然の行動に奈乃さんは少し困惑するが、それを気にせず俺は…………

 

 

 ーーーゴン!!!

 

 

 「ーーーーッッ!?」

 

 両膝と手を地につけて、勢いよく頭を下げた。簡単に言えば土下座である。これに関しては、流石に奈乃さんも驚き、思わず席から立ち上がっていた。

 

 「明くん!?」

 

 

明「奈乃さん!!『人殺し』である俺から貴方にお願いがあります!!!」

 

 

 「ーーーーッッ」

 

 

 俺が零さんに席を外させ、奈乃さんと2人きりで会話したいと思った理由は過去を話すことだけではなかった。むしろ、こっちが本題だといえる。

 

 

 俺は腹いっぱいに力を入れながら大声で言葉を出した。

 

 

 

明「絶対に零さんを………幸せにしてあげてください!!!」

 

 

 

 「ーーーーッッ!?」

 

 

 

明「零さんは俺の恩人です!!彼女は『人殺し』である俺に………家族や愛、強さなど色々とくれました!!彼女がいたから今の俺がいます!!彼女がいたから俺は多くの友達や愛すべき彼女、そして本当の家族と向き合えることができた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど、その分…………俺は彼女から相当な時間を奪ってしまった!!」

 

 

 零さんが俺を引き取ったのは21歳の大学生の時。その歳ならば、本来なら友達や彼氏とワイワイ楽しめる時間が多くあったに違いない。

 

 

 けど、零さんは違った。お金を多く稼ぐために、バイトや夜勤をひたすら入れまくって、それ以外の時間を俺のために費やしてくれた。

 

 

 

 俺は彼女のこの優しさは心の底から嬉しくて………とても嫌だった。

 

 

 

 当たり前だろう。俺のせいで、楽しく過ごせた時間のほとんどを失わせてしまったのだから。

 

 

 卒業後もOLとして働き始めたから、尚更だ。零さんは俺と過ごしていること自体が楽しいし、家事や料理をしてくれているから別に気にしなくていいと言うが、そうにはいかないのだ。

 

 

 時間というものは戻ってこない。例え、どれほどの金を積もうとも。

 

 

 だからこそ……………

 

 

明「知ってます??零さん、よく家で奈乃さんについてめちゃくちゃ熱く語るんですよ」

 

 「え?」

 

明「その時の零さん。本当に嬉しそうなんですね。まさに恋する乙女って感じの顔で………。」

 

 「……………」

 

明「それ見て、毎回思うんです。あぁ……….今、零さんは幸せなんだろうなぁ………って。」

 

 「明くん…………」

 

明「だからこそ、このまま俺は零さんに幸せになって欲しいんです。俺が失わせてしまった分の零さんの時間を…………奈乃さんに任せたいんです!!」

 

 気づいたら頬に湿った感触が伝わる。目を開けると、目の前に小さな水溜まりができていた。気づいたら、俺は涙を流していたらしい。

 

 この姿を見て、奈乃さんはどう思うのだろうか。

 

 惨めでもいい。奈乃さんの口から出されるたった……………あの一言だけを聞ければそれでいいんだ。

 

明「お願いします………。お願いします……。」

 

 俺は嗚咽しながらも何度も何度も「お願いします。」と口にした。

 

 「明くん。」

 

 すると、奈乃さんはゆっくりも立ち上がって俺の両肩に手を置く。

 

 そして、彼は俺の顔を見ながら真剣な表情を、浮かばせて言葉を出した。

 

 

 

 「約束するよ。奥山さんは…………れ、零さんは僕が絶対に幸せにする。だから………安心して」

 

 

 

 「ーーーッッ、ありがとうございます」

 

 

 彼から放たれたこの一言を聞いて、俺はとても満足するのだった。今までにあった枷が外れたような気がした。

 

 この人なら………大丈夫。嘘つかずに絶対に零さんを幸せにしてくれるだろう。

 

 今回のこの会話(?)、お願い(?)を通じて、俺は奈乃さんと仲良くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、数年後。

 

 小さな教会で大勢の人が見守る中、神父の前で白いスーツを着て誰かを待つ1人の男性があった。

 

 

 ーーーキィィ…………

 

 

 教会の大きな扉がゆっくり開き出す。その先から、コツ………コツと2人の男女が赤い絨毯の上で歩き始め、男性の方へと向かう。

 

 

 1人の赤髪の女性は真っ白なウェディングドレスを纏い、誰もが見惚れてしまうほど美しかった。近くにいた女性が思わず「綺麗ずら…………」と呟いてしまうほどに。

 

 

 そして、そんな美しい女性と腕を組んでいる男性は新品のスーツを着ている。赤紫色の髪を揺らし、普段はキリッとした目つきをしているが、今だけはとても穏やかで、

 

 

 

そして………

 

 

 

 今、とても幸せな表情を浮かべながら隣にいる彼女を見て彼は微笑んでいた。

 




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