Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』   作:七宮 梅雨

88 / 88
お久しぶりですヘ(°◇、°)ノ


『人殺し』ともう1人の母親

 これは、去年の12月12日から明ちゃんが私の家に住むようになってから半年が経った頃の話。

 

零「ただいま、明ちゃん」

 

明「…………」ペコリ

 

 大学の講義を終え、途中にスーパーに寄って買い物をしてから家に帰った私はリビングの中に入ると明ちゃんがテーブルで学校の宿題をしていた。

 

 声を掛けた私に視界に捉えると、明ちゃんは言葉を発さずに頭を下げる。これはいつものことだった。

 

 私は彼と住むようになってからまだ1度も会話らしい会話をしたことがなかった。勿論、私から声を掛けるようにしている。しかし、彼からの言葉での反応をしてもらったことがなかった。

 

 当然かもしれない。彼は過去に1度、『人殺し』になってしまい、本当の両親に捨てられ、施設で4年もの時間を過ごしてきた。そんな中、得体の知れない私に引き取られる形になったのだ。警戒して無理もない。むしろ、すぐに馴染む方がおかしいのかもしれない。

 

零「すぐにご飯作っちゃうね!」

 

 私は着ている服の上からエプロンを装着し、台所へと行く。この後、2時間後にバイトのシフトが入っているため、それまでに夕飯の準備をしなくてはならない

 

明「…………」

 

 今年の春から明ちゃんは地元の小学校に通わせている。そのために色んな出費が必要となった。それ以前に元々1人だった生活が2人へと変わったのだ。そのため、必然的にお金が必要となる。だから、私は明ちゃんを引き取ってからはずっとバイト三昧だ。友達と遊びに出掛けることも無くなった。

 

 だからといって、私は後悔はしていない。

 

 私は決めたんだ。明ちゃんが助かるまで………。幸せになるまで一緒にいるって!

 

 "1度決めたことは最後まで成し遂げる。"

 

 私を変えてくれた大好きな父さんが遺してくれた言葉だ。この言葉通り、私は何があろうとも達成するまで折れる訳にはいかない。

 

零「お待たせー♡今日は肉じゃがと味噌汁だよー」

 

 完成した肉じゃがと味噌汁と炊きたてご飯を2つずつテーブルに乗せたあと、明ちゃんも向かい合う形で座る。

 

零「いただきます!」

 

明「…………」スッ

 

 互いに手を合わせ、言葉を出した私達(言ったのは私だけだけど)は目の前にある食事に手をつける。もぐもぐ…………、うん!美味しい!

 

 チラッと明ちゃんの方に目線を移すと、明ちゃんも、もぐもぐと肉じゃがを、頬張っていた。まるでリスみたいに頬を膨らませるもんだから思わず吹いてしまった。

 

明「…………」

 

 すると、明ちゃんは手を止めて俯いてしまった。しまった………。

 

零「ごめんごめん!別に明ちゃんが悪い訳じゃないよ!じゃんじゃん食べておっきくなりな!!」

 

 私はそう言って、心にズキズキと痛みを感じながら明ちゃんの肩を軽く叩く。すると、明ちゃんは再び食事を再開し、それを見て安堵の息を吐く。

 

 達成の道のりは長いな。と思いながら食事を続けていくと……

 

明「…………」スッ

 

零「ん?」

 

 明ちゃんがテーブルの傍においてあったランドセルに手を伸ばし、ガサガサと中身を探り始める。何をしているのだろうか。

 

 そして、1枚のクリアファイルを取り出したあと、中から1枚の紙を取り出して私の前に差し出す。

 

零「なにそれ?」

 

明「…………」

 

 明ちゃんが差し出した紙に手を伸ばし、詳しく見てみるとそれは授業参観についての案内だった。どうやら、来週の金曜日に授業参観があるらしい。

 

 確か、来週の金曜日は講義が無いから朝から晩までバイトのシフト入れてた気がする。

 

零「ん……」

 

 私はすぐさま、スマホを出してとある場所に電話をかける。

 

明「……??」

 

零「あ、もしもし。お疲れ様です、奥山です。……あ、はい。シフトの件についてなんですけど、来週の金曜日、少し用事が出来ちゃったんでお休みを頂きたいのですが………。あ、はい。いいですか?ありがとうございます。えぇ、はい、はい。あ、私の方から連絡させていただきます。はい、ありがとうございます。失礼します」

 

 私は誰もいないのに、頭を下げながらバイト先の店長とのやり取りを終えたあとスマホをあったところに置いて明ちゃんに話しかける。

 

零「これで授業参観行けるね♡」

 

明「…………!?」

 

 明ちゃんは言葉は出さないものの、信じられないような目で私の方を見る。まさか、自分の授業参観のためにバイトを休むとは思ってもみなかったのかな?それとも………もしかして嫌だったとか?

 

明「…………」スッ

 

 食事を終えた明ちゃんは空になった食器を重ねて洗い場の方へと向かった

 

零「あ、いいよ、明ちゃん。私やっとくから!」

 

明「…………」ペコリ

 

 私が声を掛けると、明ちゃんは私に頭を下げ、ランドセルを手にして自分の部屋へと戻ってしまった。

 

 それを見届けた私も空になった食器を重ね、洗い場へと向かいスポンジに洗剤を付けて泡つけながら洗っていく。

 

零「私………上手くできてるのかなぁ」

 

 つい、そう言葉をこぼしてしまった。

 

 

 ーーーーー

 

 

 そして、やってきました授業参観!

 

 慣れない手つきで化粧をし、就活のために購入した新品のビジネススーツを着た私は明ちゃんが通う地元の小学校へとやって来た。どうでもいいけど、私の母校でもある。本当にどうでもいいな!

 

 見た目に関しては、普通にまともに見えると思う。恐らく、身長が一般女性と比べたら高いからかもしれない。ビジネスママって感じだ。………まだ21だけどね!?

 

 学校の中に入った私は明ちゃんがいる教室へと目指す。えぇと、確か明ちゃんは5年B組だから………えぇと……。あれ?どこだっけ?

 

 やばいな、もうすぐ始まっちゃうのに5年生のクラスが見つからない!

 

??「あの、何かお困りですか?」

 

 困っていると、背後から声を掛けられたため、振り向くとそこには柑橘系の綺麗な色をしたショートカットの女の子………?に声を掛けられた。

 

零「あ、はい。実は5年生のクラスを探してて」

 

??「あら、そうなの?なら、一緒に行きましょうか?私も6年生の娘がいるから、道中に5年生のクラス、通ると思いますよ」

 

零「本当ですか?凄く助かり………え?」

 

 え、え、え?この女の子、今、なんて言った?6年生の………娘ぇ!?え、この人、ママなん!?見た目、普通に小学校低学年に見えるんですけど!?

 

??「もしかして、驚いてます?」

 

零「………すみません。」

 

??「よくあることですから、気にしないでください。時間も時間なので、行きましょうか」

 

零「はい………」

 

 親切な女の子………、いや親切な女性のおかげでなんとか授業が始まる前に明ちゃんの教室にたどり着けそうだ。

 

??「ところで、お姉さんはあれかな?弟くんの授業を見に来たのかな?」

 

 並んで歩いていると、女性からそう話しかけられた。弟……か。やっぱり、お母さんには見えないのかな?

 

 うーん……、なんて答えればいいんだ??返答に難しい質問きちゃったな。

 

??「なんか………訳ありな感じかしら?」

 

 表情が出てたのか、核心的なところを突かれてしまった。

 

零「まぁ……、そうですね。訳あり………みたいなものですね」

 

??「そう……」

 

 本当なら、ここでこの内容の会話を終わらせても良かった。けど、何だろう。この人になら……、会って間も無い名前すら知らないこの人になら少し打ち明けても良い気がした。

 

零「実は半年ぐらい前に、とある事情で1人の男の子を引き取って一緒に住み始めたんです。」

 

??「………うん」

 

零「当然ちゃ当然だと思うんですけど、その子と上手くいってない気がして。一緒に住み始めてからは特に会話とかもした事なくて」

 

??「………」

 

零「時間が解決してくれるかな?って最初は思ってたんです。けど、逆に時間が経てば経つほど、不安になってきて……。本当にこれで良かったのかと。ちゃんと、あの子の家族になれているのか、と怖くなっちゃって……。」

 

??「………うん」

 

零「って、急にすみません。変なこといっちゃって」

 

 私は「あはは」と作り笑いをしながら女性に謝る。すると、女性は優しく微笑みながら私に話しかけた。

 

 

??「子供っていうのはね、私達が思っている以上によく私達のことを見てるのよ」

 

 

零「……え?」

 

 

??「貴女がその子の為に頑張っていることは、きっとその子も知ってると思う。」

 

 

零「………」

 

 

??「だから、そんな身構えなくて良いと私は思うわ。貴方は貴女らしく普段通りにやればいい。きっと、その頑張りが間違ってなかったということが証明される日が来るから」

 

 

 彼女の暖かい言葉に一瞬、泣きそうになってしまった。本当のママさんからの言葉にこんなに説得力があるものなのか。

 

 

??「ほら、もう5年生のクラスに着くからシャキッとしなさい。そんな顔、その子に見せたら逆に不安にさせちゃうでしょ。」

 

 

 そうだ。彼女の言う通りだ。

 

 

 こんな顔はこの場ではふさわしくない。

 

 

 私はポケットからハンカチを取り出して少しの間、顔に当てる。そして、何度か深呼吸をしながら気持ちを整えた。

 

??「うん、貴女にはその表情がお似合いよ」

 

 彼女はそう言って、ニッコリとさせる。そして、すぐに『5年生』という文字が掘られた教室へとたどり着いた。

 

??「はい、ここが5年生の教室よ。頑張って!」

 

零「はい!」

 

??「じゃ、私はこれで」

 

零「あの!」

 

??「?」

 

 6年生の教室へと向かおうとした女性に私は声をかける。

 

零「今日は本当にありがとうございました!!あの子と向き合う覚悟を改めて決めることができました。」

 

??「なら、良かった」

 

零「ちなみに、お名前を聞いてもよろしいですか?」

 

 私がそう言うと、彼女は1枚の名刺を取り出して私に差し出す。それを受け取って見ると……

 

 

??「私、ここの近くにある『十千万』っていう旅館の経営者なの。もし良かったら、その子と一緒に来てちょうだいな。娘たちと一緒に待ってるから♡」

 

 

 最後にウィンクをして、彼女は行ってしまった。

 

零「………来週辺り、明ちゃんと行こうかな」

 

 そう呟いて私は教室の中へと入った。

 

 すると、周りのママさんの目線が一気に私の方へと刺さった。そして、ヒソヒソ声も聞こえてくる。高校生で産んだのかしら?とか。まだ卒業して3年しか経ってねぇわ、ぶっ飛ばすぞ。

 

 そう思いながら、授業を受ける明ちゃんの様子をずっと眺めていた。

 

 ーーーーー

 

 授業参観が無事に終えた日の夜のこと。

 

 

零「ーーーーはっ!!」

 

 

 私はベットから飛び上がるように起き上がる。あれ………、どうして私、ベットに?それに、おでこには貼った記憶のない冷えピタが貼られていた。

 

 確か……帰ったら今までの疲れがグイッと身体に襲いかかって5分だけ横になろうと思って横になったんだ。

 

 けど、横になったのは1階のリビングのソファだ。しかも、アラームもセットしていたはず

 

 まさか………

 

 私はベットから降りて、ゆっくりと階段を降りる。降りると、リビングの方から美味しそうな匂いがしてくる。

 

零「明ちゃん…………??」ガチャ

 

 私は扉を開けてリビングの中を除く。するとそこには………

 

零「ーーーーッッ!!?」

 

明「……………」グツグツ

 

 エプロンを身につけた明ちゃんが台所で料理をしていた。しかも、テーブルの方を見てみると既に完成されて料理が何品か置いてある。

 

 どうして明ちゃんが料理してるの?意味が分からないんだけど。

 

明「……………ふぅ」

 

 汗を拭った明ちゃんは完成した料理……あれは、ロールキャベツ?をさらに盛り付け、それもテーブルの上に置いた。

 

零「…………あ」

 

明「…………!!」

 

 その際、明ちゃんの目が合ってしまった。バレたら仕方がないと、私はリビングの中へと入り、彼に話しかける。

 

零「これ、全部明ちゃんが?」

 

明「…………」コクリ

 

 やっぱり、テーブルの上に置いてある豪華な料理は明ちゃんが作ってくれたものらしい。

 

零「どうして………??別に私が作ったのに?」

 

明「……………」スッ

 

 すると、明ちゃんは私にとあるものを渡す。これはピンク色のバラで作られた綺麗なブーケだった。

 

 どうしてこれを私に?

 

 

 

明「きょ、今日は……………は、母の日だから」

 

 

 

零「ーーー!!」

 

 確か、今日は…………5月9日。母の日だ。既に母が亡くなってる私にとっては無縁のものだったから存在自体忘れていた。

 

 てことは、このバラのブーケも豪華な料理も全部、私のために………??

 

 少しずつ、少しずつと目尻が熱くなっていくのを感じる。力を一瞬でも抜いたら膝から崩れ落ちる自信しかない。

 

明「れ、零……さん」

 

零「ん……?」

 

 

明「いつも………いつもぼ、僕のためにありがとう!零さん………だ、大好きだよ。」

 

 

零「ーーーーーッッ、明ちゃん!!」ガシッ

 

 もう無理だ。私は涙を浮かばせながら明ちゃんに抱きついた。

 

 

零「ああ……あぁ………あぁああああああーーー!!!」

 

 

 そして、21歳だというのにも関わらず、子供の目の前で声を出して私は泣いた。多分、両親の葬式の日の次ぐらいに泣いたと思う。

 

 

 『子供っていうのはね、私達が思っている以上によく私達のことを見てるのよ』

 

 

 彼女の言う通りだった。明ちゃんはずっと、私のことを見ていた。見ててくれていた。

 

 

 『貴女がその子の為に頑張っていることは、きっとその子も知ってると思う。』

 

 

 彼女の言う通りだった。明ちゃんはずっと、私のこれまでを知っていた。知ってくれていた。

 

 

 『だから、そんな身構えなくて良いと私は思うわ。貴方は貴女らしく普段通りにやればいい。きっと、その頑張りが間違ってなかったということが証明される日が来るから』

 

 

 

 彼女の言う通りだった。まさか、それを言われた当日に証明されるとは思わなかったけど、私の今までは間違ってなかった。間違ってなかったんだ。

 

 

明「れ、零さん、大丈夫?な、泣かないで……」アタフタ

 

 まさか、私が抱きつくほどに号泣するなんて思ってもみなかったのか、明ちゃんはそんなことを言いながら戸惑っていた。

 

 何やってんだ、私は。せっかく、この子が私のために色々と頑張ってくれたのに、泣いたら困るに決まってるだろうが。

 

零「………うん、もう大丈夫だよ!明ちゃんが私のために作ってくれた料理、食べるね。」

 

明「………うん!!」

 

 私は涙を腕で強引に拭き取り、彼が作ってくれた料理が並ぶテーブルへと手を繋ぎながら向かった。

 

 この日から、私と明ちゃんの間にあった大きな壁が無くなり、普通に話せるようになった。

 

 

 

 そして、時が過ぎーーー

 

 

 

零「ただいまー。」

 

 私が仕事から帰り、リビングへと入ると今年から高校1年生になった明ちゃんが普段よりも少し豪華な料理をテーブルに並べていた。

 

明「おかえり、零さん。……はい、これ」

 

零「これは?」

 

 すると、彼は私に紙袋を渡す。それを受け取り、中を開けると私が前から気になっていたコスメが入っていた。これ、結構値段するやつなのに………

 

 私の視線がだんだんと、潤んで視線が歪んできたところで明ちゃんは満面な笑みで私に一言。

 

 

 

明「零さん、いつもありがとう!!」

 

 

 

 今日は5月9日、母の日である。

 

 

 『人殺し』の彼は恩人であり、もう1人の母親に改めて感謝するのであった。




皆さんは今年の母の日は何を贈りますか?
是非、感想コメントのついでに教えてくれたら嬉しいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。