【完結】きっと君とは相棒だった   作:ryure

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ダーハルーネ

 船に揺られて不思議な心地。目が開いた瞬間に僕は飛び起きる。

 「お客様」のためのそれなりに広い……そしてこの船の中では豪華な部屋は静まり返ってつまらない。窓の外は変わらない海。

 こんなのただの巡礼か観光だ。そんなことしにきたんじゃない。

 見張りは? 扉の前にいるみたい。こっそり窓から出たら海に落ちるし、正面突破しかできない。でも扉から出たら見つかって、お客様扱いの一日が始まるだけ。

 船の生活も城の生活も、違うのはお作法にやかましくないことと勉強やお稽古がすべて自分の裁量に任されているだけであまり変わりがない。

 つまり、僕がドキドキするような、ワクワクしちゃうようななにかは起きてないってこと。考えてたのと違う。

 

 随分昔に勇者ローシュさまが……恐らく僕たちユグノアの民の遠いご先祖さまが邪神を討ち滅ぼし、世界を平和にしてから凶暴な魔物の数が減ったらしい。だから、冒険譚にあるみたいな頻繁な戦闘なんてありえないとか。

 でもまったくいないわけじゃないから武器の需要はあるし、暴れない種類の魔物の中にも人間と同じで犯罪者的な存在がいるらしくて油断はできないけど。どこも変わらないんだね。

 とはいっても、海の上じゃ結構頻繁に戦闘の機会があるんじゃないの? 陸なら目視で避けることが出来るから無用な戦闘は避けると習ったけど、海の上じゃ分からないから強制的に戦闘になるって!

 早々とガッカリして、でもワガママをこれ以上言うわけにもいかないし、手詰まりだ。ベッドに座って足をぷらぷらさせながら、ゆっくり服を着替えて算段を立てる。

 そもそもだよ、お客様用の部屋に突っ込まれてる時点で不満なんだ。僕もほかの船員たちと同じように船の下の方でハンモックに揺られてたい。

 こんな扱いな理由はもちろんわかってる。もし僕が怪我したら、責任は僕が取るんじゃない。

 分かってるよ、「怪我をさせた」ことになる海賊王の罪になってしまう。無茶はできない。でも、つまらないならここに来た意味がない。

 

 どうしようか。うーん、認められたら姫呼びをやめてくれると言ってたくらいだし、僕が役に立たないわけじゃないってわかってもらえたらいいんだね!

 体力はある方だし、なんだってできるんだよ!

 よーし、こそこそやるのは性にあわないんだから直接海賊王に言ってやろう! 働かざる者食うべからずなんだから、僕にも仕事をくれって。

 

「お姫さんー?」

「よーし、待ってろ海賊王!」

 

 勇み足で船長の部屋へ向かう僕を船員の誰かが止めたみたいだったけど、僕は何も気にせず向かった。とりあえず僕の気持ちを伝えてから聞くさ。

 

「頼もう! 海賊王いるよね!」

「ん? あー、お姫さんか。今日もご機嫌麗しゅう」

「ご機嫌麗しくないやい!」

「だろうなあ」

「そろそろ僕に仕事をおくれ。働かざる者食うべからずって言うだろう。ずっとお客様として扱われてちゃつまんないよ!」

「そろそろ言うと思ってたぜ」

 

 なんだ、分かってるじゃないか。いやわかってると思ってたよ、だって君は……。君は? 

 海賊王とこれまで会ったことなんてないのになんでペルラ母さんやおじい様みたいな僕の気持ちをお見通しにしてくるって思ったんだろう? 不思議だね。

 

「俺としてもお姫さんを暇にさせるのは本意じゃねぇんだぜ? だが風が悪い。下手したら嵐に突っ込む可能性があるんでな、安全と言えるようにならなきゃなぁ。もう少し辛抱してくれ」

「嵐が? 晴れてるよ?」

 

 雲はあるけどそんなに多くないよね。なんだか駆け抜けていくように早いけど。

 

「船乗りの勘ってヤツさ。

 お姫さん、船に乗って初めてで船酔いもないし、まっすぐ歩けるところは見どころあるんだが、さすがに突然来る嵐の可能性があると部屋から出せねぇよ。暇なら何人か話相手してやるし、俺も手が空いたら行ってやるよ」

「子ども扱いはやめてよ。天候なら仕方ないことくらい弁えてるよ。海賊王の言うことは正論だ。僕、怪我しに来たわけじゃないし」

「いい子だな。よし、安全とわかったら俺が星を教えてやるよ」

「わかったよ、カ……」

 

 カミュ。僕は言いかけてやめた。海賊王って呼ぶんだって決めてるのになんで名前を呼びかけたんだろう?

 ともあれ、星を教えてくれるって、そんな言い方ってさ、それも子ども扱いだと思うんだけど。まぁいいや、カミュは星に詳しいものね。

 ……あれ? なんで知ってるんだろう?

 

「じゃあ、部屋に戻ってくれ。いつ天候が崩れるかは測れねぇ。神様の思し召しでしかないからな」

 

 なにか引っかかるけど、どうしようもない。僕は海賊王に促され、部屋にまた戻った。なんとなく船の上が慌ただしい。船員たちはロープやなんやらをもってバタバタしてる。

 邪魔するのは悪いよね。僕は大人しく、大人しく部屋に戻って寂しく一人で剣のお手入れをすることにした。使うことのなさそうな剣を。もうピカピカなのに。

 あーあ。暇だ。

 

 そういえば海賊王、さっきは眼帯してなかったな。あの眼帯はきっとメッシュの特別製でちゃんと見えてるんだろうね。あの構造を再現するのには何回も失敗したもの、毎日毎日トンテンカン、トンテンカン。

 ……なんでこんな具体的な、知らないことが頭に浮かぶんだろう。おかしいな、海賊王に会ってからどうもおかしい。

 

 おじい様が赤い帽子をかぶってないことが未だに違和感だったり、ペルラ母さんには母さんと言えるのにお母様にはちょっと照れくさかったりしたっていうのもなんだか変なことだったけど、こんなに回数、多くなかったのに。

 おじい様はいつも口癖のように見えない真実があるんだよって教えてくれた。これもそうなんだろうか。不思議と神秘でいっぱいなのかな。空に浮かぶ大樹のように、謎だらけ。

 海賊王。あの青いつんつん頭を思い浮かべる。あんな特徴的な人、見たら忘れないはず。だから会ったことなんてない。

 なんでだろう、とてもとても見覚えがあるような気がするのに。おかしいな、十六歳になって浮かれてるのかな、変な想像が頭から離れない。

 もしかしたら前世では近い葉として生まれてたんじゃないか、とかね。兄弟だったのかも?

 

 でもないよ、ないない。雪国生まれらしい彼と僕になんの共通点があるのさ。でもこのひっかかり、これこそが僕の運命なのかもしれない。

 運命の人って普通女の人じゃないの? って思うけど、別に恋人探しに来たわけじゃないし、運命の人が恋人になると決まったわけでもないし。むしろ運命の盟友とかカッコいいじゃないか。痺れる!

 

 なんとなく、あの海賊王の近くは心地いい。それは確か。屈強な海の男たちをまとめるだけあってカリスマ性はバッチリらしい。

 そんなことを考えていたら、急に船ががくんと揺れた。僕は思わずすっ転びそうになって、慌てて机にすがった。

 外から叫び声が聞こえる。窓からは叩きつける雨の雫が見える。船の揺れはどんどんひどくなっていって、僕は立っていられず床に転がった。剣をなんとか捕まえ、必死に床に這いつくばるも、まともな角度とは到底言えない。

 でも、それでも僕はなんとか外に耳を傾けていた。外に何かがあったら、きっと僕は動いちゃいけなくても動いてしまうんだと分かっていた。そういう性分だったから。

 

「--!」

 

 声が聞こえる。僕は扉まで這って行った。

 

「--が!」

「待ってろ、今助ける!」

 

 まともに聞こえなかった声が突然はっきり聞こえた。カミュの声だった。

 

「お頭!」

 

 カミュが呼ばれる。

 また、誰かを庇っているんだろうか。でも、もう庇わせないって言ったよね?

 

 気づけば僕は部屋から飛び出していた。つんのめるように甲板を走る。目の前には誰かを助けて今にも船のヘリから落ちそうになっている海賊王。手だけ捕まっている状態で、とうに体は船の向こう。

 僕はこんなことしちゃいけないってわかっているのに必死でその手を掴んだ。君ならもっとスマートに助けるんだろうけど、僕には無理で。でももう庇うことなんてさせないって言ったでしょ。僕は決めたら諦めないんだ。

 風が強い。あっという間にあおられて、僕の体は船の向こうに押し出された。でも手は離さない。僕が落ちても、助けることは諦めない。

 

 僕は手に渾身の力を込めた。

 だんだん暗くなる意識の中で、僕の手にある奇妙な形のあざのあたりで眩しい光が発せられたと分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれなかった歴史は、たしかに僕らの中に刻まれている。起きなかった出来事は、結ばれなかった運命は、それでも息づいている。

 修正された歴史で僕らは生きている。だけど、修正前の世界でも……間違いなく、僕らは生きていたのだから。

 

『この馬鹿! なんで僕を庇ったんだ! ホメロスに撃たれるのは僕でよかったのに!』

 

 シルビアの船の上、ようやく追っ手は来ないと安心できて、僕はやっと言いたいことを言えた。でも、カッと頭に血が上ったのは僕だけじゃなかった。

 

『馬鹿はお前だイレブン! 俺みたいな盗賊崩れなんていくらでも代わりはいるが、勇者に代わりはいねぇだろうが!』

 

 勇者の代わり?! 何言ってるんだ、僕にとっての勇者は君だったし、君がいるから今生きてるんでしょうが! 君がいなきゃ今頃デルカダールで首を切られて晒されてるよ! 

 あの怖いグレイグに斧ですっぱり首斬られて、憎たらしい顔したホメロスに笑いながら生首を蹴っ飛ばされてさ! おお勇者よ、死んでしまうとは情けない! ってモーゼフ王が言うのさ! とびっきり邪悪にね!

 僕が育った村ってだけで焼くような陰険な奴らだぞ、もしかしたら……母さんの墓の上に僕の首を供えそうな奴らだ、そうでしょ?!

 

『ばカミュ! 僕の相棒に代わりはいないんだけど?! 君がいなくなるなんて絶対に許さないから! 二度と庇わせないからな! 誰にもだぞ、絶対だからな!』

 

 僕はそう宣言して、それからはなにを言われてもホイミばっかりしておいた。




「どうやら預言によると、オレはお前を助ける運命にあるらしい」
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