--代ユグノア王イレブン、当時ユグノアの王子だった彼は海賊王カミュと世界をめぐり、様々な冒険をしたと伝えられる。
半ば密航で始まったその冒険は、今では伝説でもおとぎ話ではなくなった海底王国ムウレアから世界をぐるっと回ったとも、一度国に戻ってからまた飛び出したとも言われている。
黄金病と呼ばれた呪いとの格闘の話は、海の鼻つまみものと呼ばれたジャゴラとの戦いとともにクレイモランの地で今も語られ。
悪しき呪いを持つ火竜との死闘はホムラの里の伝説となり。
グロッタの町での大蜘蛛誘拐事件を解決したことは彼の治めたユグノアでは今でも人気の冒険譚である。
大樹の愛し子として生まれた彼は、先代の大樹の愛し子、「勇者」ローシュのように背負った使命を持たず、また預言者に「なんの因果も持たない者」だと預言されたと伝えられていた。だが、その預言に反して残るのはたくさんの冒険。
勇者ローシュ伝説と、勇者----伝説。二つの勇者のうち、現代に名前が伝わっていないロトの勇者は実はこのイレブン王だったのではないかと後世には伝えられた。
その隣には、名も無きロトの勇者と同じように……ぴったり息の合った相棒がいたという。
盗賊----と海賊王カミュ。その二人を同一視するにはあまりにも経歴が違いすぎたが、真相を知る者はもう、誰もいない。
すべてを知るのは大樹で眠る聖竜のみ。
赤い表紙の冒険の書は、その登場人物たちの名前だけを欠いて今も残っている。
当人たちは偉大な旅をすることはなくとも、旅は無かったことにはならないのだから。自分たちの冒険を、他人のことのように見知って穏やかに育つのだ。
「カミュ、ちょっと海賊王パワーで僕というユグノアのお宝を華麗に奪ってほしいんだけど」
「殿下、まだ今日のお仕事が山のようにございますよ」
「……敬語やめてよ」
「寝言を言うのもやめろよな。またどっか行こうぜ、ともあれいきなりは迷惑だろ」
「うん」
相変わらずすぐにどこかに飛び出そうとする「お姫さん」は、前よりは少しは頼れるようにはなったがまだまだどこまでも甘ちゃんで、好奇心旺盛な上に、よく城から逃げ出す。
突発的に抜け出した先は大抵畑か森の中で、楽しそうに駆けずり回っているものだから、そのうちほっといたら野生にかえりそうなんだが。
こんなのだったのか? と疑問になって民に聞いてみれば、以前はそこまで森に入り浸ったりしなかったが、代わりに町中のツボやタルを破壊して回っていたらしい。
成人し、冒険をしてツボタル割りが落ち着いたと喜ぶ国民たちは、そんな王子を優しく見守っている。平和そうで何よりだ。
だが稀に城に町での報告は来る。イレブンの新しい才能……? についてが。彼はカボチャクラッシャーだったらしい。少し足が触れるだけで、床に置いていたカボチャが爆散したと笑いながら報告され、どうにもついてまわる既視感が目眩を覚えさせた。
だが、野生にかえりかけていても、俺たちにとっては幸運のお姫さんには違いない。
すっかり紹介された安定した職に馴染んだ船員どもは、散り散りバラバラに幸せにされちまった。お姫さんよりも筋金入りのワガママ娘はお嬢様学園で少しは揉まれて上品になれるならいいんだが。
というわけで、海から完全に足を洗ったわけじゃねぇけど、俺も結構陸で生活している。
この国でのポジションとしてはなんなのだろうか。イレブンは相変わらず相棒だと言っているが、役職的に言い換えれば側近とかだろうか。孤児の俺が? ユグノアは大丈夫か?
だがまぁいい、なんだって。恩もあるし、城の連中に相棒殿が冒険する時のお目付け役扱いされつつも、なんだかんだここでの生活は穏やかでそれなりには気に入っているのだから。
さて、書類仕事が苦手な相棒の尻を叩かないとな。俺が代わってやることはできないし、そろそろ……次は砂漠にでも冒険しに行きたいだろうし。
「あたり一面焼けた砂ばっかりだな」
「広いねー」
サマディーのアツアツは砂漠のど真ん中。そこには「何もない」。砂がいっぱい周りと同じように波打っているだけ。星見の遺跡は存在しない。つくる必要がそもそもなかったのだから。
僕は、かつて見上げたようにそこで空を見上げた。強い陽射しが眩しくて目を細める。そして「あれ」がないかと空を探す。
だけど当然、抜けるように青い空にぽつんと光る、赤い星はない。あるのは少しの雲と太陽だけ。
当然だ、ここにいるのは運命にも使命にも導かれないただの僕。僕は運命に導かれないただの王子で、君は預言を知らない海賊さ。
でも君は隣にいる。僕も、君の隣にいる。
おい焼けるぞ、と暑さが苦手なカミュはとっくにフードをかぶって日差しから退避していた。僕にも何やら被せて、とっとと日陰に引っ張っていく。
あ、これは便利。顔が隠せて陽射し避けになるフードだ。それにしても旅装束の上からフードだなんて、なんだかお尋ね者っぽくてカッコいいね?
女神像の前で休みながら、僕はゆっくり目をつぶる。歩まなかった旅路の断片と別れを告げるために旅をするのだと決心して。
世界に散らばった軌跡の欠片を拾いながら。君と、また旅をする。
どこかの世界で、あるいは未来で、あるいは過去で。あるいは……「今も」かもしれない。
きっと君とは相棒だった。