11月29日:修正(設定変更に伴う登場人物の呼称の変更)
「人の気持ちもっと考えてよ」
彼女の心底辛そうな表情を忘れられない。
俺たちの関係は酷く曖昧で、だからいつか訪れる別れだった。それが『今』だったというだけのことだ。だから…気にすることなんてない、はずなんだ。由比ヶ浜結衣の叫びも雪ノ下雪乃の怒りも涙も、俺には関係ないと。
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両親の仕事の関係で引っ越すことになったのが修学旅行直後の二学期半ば。最愛の千葉を離れ、晴れて俺も都民としての生活を………って、いや全然離れてないじゃねぇか。なんだそれ、近すぎかよ…。これくらいなら千葉から通えよ…というのは無理だな。まぁあれだ、近すぎて毎週千葉に帰るまである。
……いやないわ。労力的に。ふつーに家で寝る。
新居はなかなかに広い家だった。どうやら、転勤というのも栄転に近いらしく、昇進を兼ねて東京の本社に勤めることになるというのが実態のようだ。いやまじでか。やるじゃん親父。よく働くいい奥さん見つけたよあんた。
自室の荷物を広げ終わり、リビングでゆっくりしようとしている俺に、小町が「邪魔だからどっか出ててね」というのは仕方ないことかもしれない。でもね小町ちゃん、お兄ちゃんも傷つかないわけじゃないのよ?ほんと。
仕方なく近所を散歩していると、そこそこ大きな体育館らしきものを見つけた。どうやら何かの大会をやっているようだ。
八幡「ウィンターカップ…バスケか」
正直に言えばいい思い出はない。それでも足が向いたのは、聞きなじみのある名前を耳にしたからか。
体育館の中は熱気に溢れていた。歓声とブザーの音が響き、丁度試合が終わったことがわかる。対戦していたのは秀徳高校と誠凛高校。スコアは104ー104。同点か、どうすんだこれ。延長とかすんのか。
考えながら選手のいるコートを見ると、知った顔が2つ。オレンジのユニフォームに身を包みメガネを光らせる仏頂面の男と、形容しがたいほどに目立たない薄青色の髪の男。
「緑間…と黒子か」
途端、心の縁に未練が顔を覗かせるのを気づかないようにして会場をあとにした。
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転校先を聞いた時の俺の感情は実にフラットだった。別に黒子と一緒だなー、とかバスケ勧誘されんのかなーとか、友達100人できるかなーとか考えてない。なんだよ最後の。小学生かよ。思うところが無いわけではなかったが、部活動というものに疲れてしまっている、というのが素直なところだった。
職員室で挨拶を済ませ、制服等々の説明を受けた後に校内を案内される。平日なので生徒も普通にいるわけで、総武の制服の俺は少し、というかかなり目立っていた。やっぱり私服で来るべきだった、と思っても既におそい。もはや出来ることはすこしでも生徒の記憶に残らないように振る舞うことだけだ。そうと決まればすることは1つ。ステルスモード!
放課後だったこともあり、少しながら部活動の様子も見ることが出来た。件のバスケ部も、だ。案内してくれた教師はわずかながら部活動の紹介もしてくれたが、バスケ部に関してはほぼ知らないといった様子だった。
体育館の入口から少し練習を覗き、学校案内は終わる。職員室で再度挨拶をし、帰路につくところで肩を掴まれる。
???「比企谷先輩、なにしてるんですか」
おいおい、肩なんか掴むなよ。人違いだぜ。俺は比企谷で間違いないけどな、人に呼び止められるような人種じゃあないんだよ。わかったら手を離してくれ、な?
???「人違いじゃないんで、答えて貰えますか」
ですよねぇ…。俺を呼び止める時に肩掴むのは君たちしか居ないもんねぇ…。そもそも提案したのも俺だもんなぁ…。
八幡「黒子、か。なんだ?俺は今から帰って寝るとこなんだが。邪魔するなら容赦しねぇぞ」
そうとも。容赦なく土下座して懇願するね。帰らせてくださいってな。
黒子「先輩の土下座は別に見たくないのでいりません。どうして、うちの学校にいるんですか?」
八幡「……転校してきたんだよ。親の仕事の都合でな」
土下座するとこまで見抜くんじゃねぇよ。ちょっと恥ずかしいだろうが。久しぶりに話す黒子は少し明るくなっている、気がした。
黒子「この時期に転校ですか。千葉の高校でしたよね。千葉大好きの先輩が戻ってくるとは思ってなかったです」
八幡「ハッ…残ってもよかったんだけどな。小町も引越しだったしな。小町がいないんじゃ、俺の死は確定的だからな。」
小町は天使だからな。天使の恩寵なしには生きられないだろ。これは仕方なくなのだ。
黒子「相変わらずのシスコンっぷりですね。……このあと少し時間ありますか…?」
八幡「ない、寝る」
黒子「そんなこと言わず…コーヒー奢りますから」
八幡「…わかった。どこに行くんだ?」
黒子「近くにコートがあるんです。そこに行きます」
そういって歩き出す黒子の後につく。コーヒーを餌にされたら仕方ない。もちろんMAXなやつだ。付き合い長いからわかってるだろうしな。ほんの少しテンションが上がった俺の後ろから、黒子を呼ぶ声がする。
???「おい黒子。何1人で先に行ってんだよ」
振り向いた先にいたのは、大男だった。あ、死んだわ俺。熊相手にするのは想像したことも無いなぁ。
黒子「先に行っといてくれ、って言ったのは火神君ですよ。それに、1人じゃないです」
少し不服そうに黒子が言い、こっちを指さす。火神と呼ばれた背の高い男は俺を見下ろしながら口を開く。
火神「黒子の知り合いか?随分ぱっとしねぇな。バスケやんのか?」
なんだこいつ初対面で喧嘩売ってんのか…。まぁ悪気はないタイプだろうがな。だからこそタチが悪いとも言えるな。嫌いではないが好ましくはないかもしれん。というかそもそも、こいつが行くなら俺が行く必要無くないか。
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流れのままにコートにたどり着くと、火神はシュート練習をはじめてしまった。ベンチに腰掛けた俺に黒子がMAXコーヒーを持ってくる。
黒子「比企谷先輩は…バスケ辞めたんですよね」
八幡「…黄瀬辺りから聞いたか」
コーヒーを受け取るも、質問があまりに真っ直ぐだったために開けるタイミングを逃してしまう。
黒子「正直、先輩は辞めると思ってました。やる気とか根性とかそういうの関係なしに。僕と同じで赤司君の…いえ、キセキの世代の『変質』に失望してしまうと」
八幡「『変質』ねぇ…。まぁ、よく持った方だと思うわ俺も。根底がぼっちだからな、そもそもチームプレイとか向いてねぇんだわ。だから、その、気にするなよ」
言って、プルタブに指をかける。小気味よい音を立てた缶を口元に運びコーヒーを流し込んだ。
八幡「……WC、緑間と引き分けたらしいな」
黒子「はい、やっぱり強かったです」
八幡「相変わらず高弾道のロングレンジか」
黒子「まぁそれが特長ですから」
八幡「緑間相手に引き分けならまぁ上等だろ。赤司、青峰は無理でも、黄瀬くらいならいい勝負出来んじゃねーの」
黒子「だと、いいんですけど。とにかく目の前の1戦です。次落としたら話になりませんし」
八幡「次…霧崎第一だったか、心配いらんだろ」
それを聞いて黒子の表情が少し曇る。なにか思うところがあるのか。誠凛は新しい高校だし、選手層の薄さとか気にしてるのかもな。
火神「黒子ー、あったまってきたわ。やろーぜ。」
おう、いいタイミングだ、火神。不安は体動かして振り払うに限る。俺はしないことだけどな。
黒子「先輩も、どうですか?僕じゃ彼の練習相手には不足なんですよ」
火神「おう、やろーぜ!ひき…ひき…ヒキタ二先輩!」
おいやめろ。その間違い方だけは。呼ばれすぎでトラウマになったらどーすんだ。そもそもバスケは辞めたんだよ…。黒子に視線を送ると俺にも聞こえるかどうかと言った声で一言告げる。
黒子「…先輩にも見て欲しいんです。火神君の素質を」
八幡「……わかったよ。コーヒーの礼もあるしな」
黒子がそこまで言う火神くんとやらが、どれほどのものなのか気になった。……仮にどんな才能だろうが、キセキには届かない。あれは1つの完成系だ。
気づいたら投稿してた。