刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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第1話 始まり

1歳の頃、両親が交通事故で死んだ。

 

僕、榛名颯太にとっては物心つく前の事だったから両親の顔も今では思い出せ無いし当時の自分には何が起きたのかさっぱり分からなかった。

 

だがその直後、父親の弟とその妻である叔父夫婦に引き取られて愛情いっぱいに育てられたから寂しいと思ったことは無かった。

叔父夫婦の家の隣の衛藤家、叔母と衛藤家の両親が同級生だったらしく叔父夫婦が隣に越してきて以降は家族ぐるみの付き合いをしていて、自分もその家の長男と長女と遊ぶようになっていた。

 

長男戒刀(かいと)とは部屋でTVゲームしたり、その妹の可奈美とは同い年で可奈美の母親である美奈都おばさんに剣術の稽古やチャンバラごっこで一緒に遊んでもらったりしてそんな穏やかな毎日を過ごしていたある時、僕らが7歳の時に美奈都おばさんが亡くなった…。

 

-葬儀にて-

 

葬儀に参列する人達は皆喪服を来て誰もが悲しそうに泣いていた。

僕にとっては大切な人が亡くなるのはこれで2回目だ。両親が亡くなった時は何も分からなかったから泣く、という事は無かったが、叔父夫婦に引き取られてから数年、隣の家の美奈都おばさんは本当の息子のように僕を可愛がってくれて、僕にとってはもう1人の母親のような人物だった。

今、目の前の棺に眠る美奈都おばさんにもう会えないのだと思うと悲しみで眼から涙が溢れそうになり、隣に座る衛藤家を見る。

父親と長女の可奈美は泣くのを我慢しているが眼の端から涙が溢れ落ちそうになっていて、長男戒刀はすすり泣いていた。

家族が、大切な人がいなくなるってこんなに悲しいことなのかと両親が亡くなった時には得なかった感情を僕は7歳にして実感した。

 

-葬儀の翌日の告別式の夜-

 

叔父夫婦は衛藤家の父親と共に何か話をしている最中、僕は1人庭の縁側に座る可奈美を見つけ、その隣に立つ。

「となり、いい?」

 

「うん…」

 

と許可してくれたのでそのまま庭の縁側に腰かける。

正面を見ると、よく二人で美奈都おばさんに剣術の稽古をつけてもらった庭を見つめる。

二人で美奈都おばさんとの思い出がつまった庭を眺めている間ずっと互いに無言だったので僕から切り出した。

「あのさ…僕の父さんも母さんも、もういないし何も思い出せ無いけど…伯父さん達や可奈美達がいてくれたから僕は1人じゃなかった。何ができるかなんて分かんないけど、今だけは僕が側にいる。可奈美が泣きたい時は僕が側にいるよ」

「だから今だけは本当の気持ちを隠さなくていいんだよ」

涙を堪えながら必死に、力を振り絞ってそう言う事しか出来なかったが僕にとってはこれが精一杯だった。

 

「颯ちゃん…っ!」と可奈美がものすごい勢いで抱き付いて来て僕の胸元に顔を埋めてわんわん泣き出した。

葬儀の間ずっと泣くまいと我慢していたのが限界に達したみたいで、幼いながらに母を失った少女の悲しみが直に伝わって来て、優しく抱き止める事しか僕には出来なかった。

可奈美が泣き止み、叔父夫婦に帰るぞと声をかけられて衛藤家を後にしようと玄関で靴を履いていたら可奈美に呼び止められた。

 

「あのね…今日はありがとう。気を遣ってくれて…」

 

可奈美は少し気恥ずかしそうに礼を言ってきた。

 

「僕にとっては可奈美も家族だよ。悲しいことも嬉しいことも一緒に分け合って行来たいんだよ」

 

年齢にそぐわないような少し大人ぶった素振りで照れ隠しをし、少しの気恥ずかしさから急ぎ足で帰っていく姿を月明かりが照らしていた。

 

-数年後-

 

小学校を卒業し、二人とも日本に設立されている特殊な五つの教育機関である伍箇伝の一つである岐阜県の美濃関学院の中等部へと進学していた。今日はその入学式。

可奈美は人々を脅かす荒魂から守る刀使になるため、颯太は科学オタクに育ったためか刀のメンテや金属を研ぐ研師になるため、それぞれの目標のために実家神奈川を離れて岐阜での寮生活になるがこれからの生活に期待に胸を膨らませていた。

 

桜並木が生える春の校舎の校門の前に立ち、可奈美の父親と颯太の叔父夫婦も保護者として一緒に来ていた。

 

「二人とも頑張り過ぎるのもいいけど、たまには顔見せろよ 」

 

30後半にしてはかなり若く見える颯太の叔父、拓哉は気さくに声をかける。

 

「分かってるよ叔父さん。GWには1回帰ると思う。」

 

「颯太君、これからも可奈美の事よろしく頼むよ」

 

妻と死別して以降は男手1つで子供2人を育ててきた可奈美の父和弘は長い付き合いの間柄である颯太の肩に手を置く。

 

「もうお父さん心配し過ぎ。学課が違うから颯ちゃんに会う事だって減っちゃうかも知れないし…」

 

父親の言葉に対し学課が違うため、会う機会が減るかも知れないことを少し気にしているようだ。

 

「大丈夫よ、可奈美ちゃん。うちの颯太も一応(強調)小学校までは一緒に剣術やってたんだからたまには誘ってくれればいつでも行くから」

 

今年で36歳にはとても見えない、20代半程に見える颯太の叔母の芽衣が一応の部分を強調しながら可奈美を心配させまいとしてる。

 

「一応って芽衣叔母さん…まあ課が違っても普通に会えると思うから別段気にしてないよ僕は。それとそろそろ行かないと遅刻しそうだ」

 

颯太は入学祝いに叔父から買って貰った腕時計に目をやる。式の始まる9時より10分前の8時50分を針が指していた。

 

「ああ!そうだったな!よし、サクッと撮るから二人とも並んで~はいチーズ」

 

拓哉は9時から入学式が始まることを思いだし二人で並ぶ可奈美と颯太を写真に撮る。

後でスマホに送るからと言いながら全員で入学式場に向かう。

 

-入学式を終え、それぞれの学課ごとのHRにより新入生は教室に集まっていた。

可奈美とは課が異なるため教室も校舎も異なる。颯太は知り合いも1人もいない状況で完全に固まっていたが前の席に座る髪を少し逆立てているお坊ちゃんという風貌の男子生徒に声をかけられた。

 

「よっ、俺針井栄人(はりい えいと)。ハリーでもエイトでも好きに呼んでくれ。お前は?」

 

「僕は榛名颯太。よろしく。ハリーって呼ぶよ…って針井ってあの大企業「針井グループ」の?」

 

颯太は日本でも有数の大企業柳瀬グループにも並ぶ、刀剣類管理局にも技術提供をしている大企業、針井グループの名を思い出した。

 

「そそ、その針井。まあ、俺は後継ぎの見習いみたいな立ち位置だし家じゃ俺に権力なんて無いし、ここじゃただの一般生徒だから気軽に接してくれ」

 

「分かったよハリー。」

 

気さくに笑いかける笑顔を向けられて固く握手を交わす二人。HRが始まるまでお互いに自身が尊敬する技術者とその技術者が開発した装備に関する論文について熱く議論していた。

 

入学初日から可奈美以外の友人ができた事に喜びを感じながらHRが終わり、寮へと帰る。

荷物を整理しながらこれからの学校生活に期待に胸を膨らませていた。

 

荷物の整理が終わり、夕食を済ませて風呂にも入った後に叔父夫婦から電話がかかって来たため軽く会話をして就寝することにした。

 

「よし、明日も早いしさっさと寝るか」

 

かなりの近視であるため、いつも掛けている眼鏡を外してベッドの上へと寝転がり明日に備えて眠りについた。

 

この時の颯太は何も分かっていなかった。一ヶ月後、自分の運命が大きく狂わされていくという事を。

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