刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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恐らく今年のラストになるでしょう。お、思ったよりも長くなっちまったぜ

とりまついに原作キャラとの絡みを増やすためにとあるヴィランを出すぜ(自己解釈があったり元ネタのヴィランが好きな人には申し訳ない)

初手国辱は基本。


第12話 出発

折神家駐車場にて

 

颯太と舞衣は容疑が晴れバスで学校に帰る皆を見送る為に駐車場を訪れていた。

他の学校の生徒も同様で平城、綾小路、長船も同様だ。

しかし、鎌府の生徒達は学長の雪那から捜査に協力するために命令を受け出払っているようだ。

 

「可奈美、まだ見つかって無いって」

 

「美濃関に帰ったら何か進展あるよ」

 

「舞衣と針井君と美炎は残るって、ていうか榛名君こんな時にインターンって…可奈美のこと心配じゃないのかな…」

 

「仕方ないよ、前から申し込んでたのがいきなりになったみたいだし。場所もスターク社だよ?無理もないって」

 

 

可奈美の行方を心配する友人達の中には安否を心配する

声や颯太がインターンでしばらく帰らない事を少し不思議に思っている者もいるようだが場所が場所であるため仕方ないかと納得しているようだ。

 

「皆帰るんだ…」

 

「仕方ないって、疑いも晴れたしこんな所にずっといたら中高生なら息が詰まると思う」

 

二人が会話をしていると少し離れた所に停めてある車に鎌府の一人の生徒が乗り込もうとしている。

感情表現に乏しく、無表情の白髪の少女、糸見沙耶香だ。

 

(確か大会に出ていた鎌府の代表の人だっけな、ていうか何でこの子は別行動なんだ?)

 

「あの子………鎌府の…」

 

「確か可奈美の1回戦の相手の人だったよね」

 

「うん。確かその筈」

 

舞衣も鎌府の生徒が一人だけ別の車で別行動なのが気になったのか視線を向けて呟いていた。

 

「HEY、レディ柳瀬!」

 

後ろから片言で声をかけられ振り返る。

見たところ二人の少女だ。一人は長身で外国人と言った風貌に明るくてフレンドリーな雰囲気を纏っている。

もう一人は一見小学生にも見えなくもない小柄にピンクの髪にツインテールの少女だ。

しかし、他の生徒達と違い長身の方は薄手の半袖Tシャツにつばの広いチューリップハット、さらに小柄な方はサングラスに体に浮き輪を持っている。これからバカンスにでも行くのだろうか。

 

(えっ……?この時期に海?寒くね?)

 

颯太は二人の格好に驚いた。温水プールならまだしもまだ5月の海だ。普通に寒いのではないだろうかと心の中で思ったが口に出さない事にした。

 

「えっと、貴方達は長船の?」

 

「古波蔵エレンデース!こっちは薫!」

 

「益子薫」

 

「そちらのボーイは?」

 

「あっ美濃関学院中等部2年の榛名颯太です」

 

 

長身の少女は古波蔵エレン、小柄な方は益子薫と名乗り自己紹介をしてきた。そして、何者か尋ねられた為颯太も自己紹介する。

 

 

「なあ、お前らの地域って美濃関だよな?町でスパイダーマンに会ったことあるか?」

 

「「えっ?」」

 

薫が無表情のまま、しかし多少興味アリげな口調で二人にスパイダーマンに会ったことがあるかと聞いていた。

 

「一応…ありますけど」

 

「僕も数回ほど…」

 

スパイダーマンに会ったことがあるかとと聞かれ、一瞬顔を見合わせる颯太と舞衣だが視線だけでここは会ったことがあると答えようとアイコンタクトをしてすぐに薫へと向き直る。

今目の前にスパイダーマン本人がいるのだが正体をバラす訳にはいかない。一般人らしい回答を心掛けなければ。

 

「そうか……いいなー俺も会ったら握手してもらいたかったな…」

 

「薫は特撮ヒーローが好きデス!なので、ご当地ヒーローのスパイディのファンでもありマス!」

 

「そ、そうなんですね……でも今は追われてる身だろうから会っても握手は難しいと思いますよ」

 

「だよな、でも俺はヒーローに悪い奴はいないって信じてんだよ…っていうかお前の声どっかで聞いたことあるな、どこかで会ったか?」

 

「そう言えば最近聞いたような感じがしマス…」

 

「こ、声が似てる人なんて世の中に何人かはいるでしょうし、気のせいじゃないでしょうか…」

 

「だな。まあお前みたいなナヨっちそうな声はそうそう聞かなそうだけどな」

 

「薫!失礼デスヨ!」

 

「は、ははは…」

 

薫はめんどくさがりでありながら刀使を志したのは特撮ヒーローが好きだからだという程のヒーロー好きらしくご当地ヒーローのスパイダーマンにも会ったら握手してみたかったらしい。

颯太は今目の前にスパイダーマンがいることは黙っているが普通に町で会ったのならちゃんとファンサービスして握手していただろうと心の中で軽く謝罪する。

しかし、エレンと薫は何となく颯太の声を聞き最近どこかで聞いたことがあるような気分になっているが気にしない事にしたようだ。

薫の発言をエレンが咎めるがナヨっちいと堂々と薫に言われ軽くショックを受けたがここ最近で女子みたいな声と言われたり、男でありながら女子に壁ドンされたりで男としての自信が無くなって来てか多少慣れてしまってか渇いた笑いが溢れる程度でダメージは少ない。

 

 

「そして、任務ご苦労様デシタ!お友達の事心配でしょうけど落ち込ま無いデ!」

 

「は、はい…」

 

「ご挨拶できて良かったデス。私の両親と貴女のパパはお仕事のパートナーデスので!」

 

「父と?」

 

思い出したかのように嵐のような勢いで馴れ馴れしくフレンドリーに接してくるエレン。

どうやら親の仕事の関係で舞衣に挨拶をしに来たのだろう。

 

「あの、そんなバカンスみたいな格好でどちらに行かれるんですか?」

 

「ワタシ達やっと自由になりまシタ!これから湘南でバケーションデース!」

 

「絶好の海日和だ」

 

先程から気になっていたバカンスにでも行くような軽装姿が気になりどこかに行くのかと尋ねるとエレンにはバケーションだと嬉しそうに返され、薫は淡々と海日和だと答える。

 

「ねー!」

 

「うおっ!」

 

「それ荒魂じゃ…っ!?」

 

薫の頭から生えてきたかのように茶色の毛色に麦わら帽子を乗せた緑色の尻尾、ハムスターよりは大きい、子犬程の大きさのかわいらしい生き物が現れる。

舞衣は見た瞬間に判断できたようだ。

 

「こいつは俺のペットだ」

 

「ねねは薫の友達デス!」

 

確かに荒魂を感知した時の反応、手が軽く震えたが毛が逆立ってはいない。このような反応はこれまで見たこと無いが恐らく危険ではない。それに荒魂特有の穢れが感じられない。

妙な安心感を覚えるがねねと呼ばれた荒魂は緩み切った表情をしながらある一点を見つめていた。

 

舞衣の胸だ!(迫真)

 

とても中学生とは思えない程の、大人にも匹敵する大きさの舞衣の胸を凝視しているのを確認できた。

その事で昨晩壁ドンされて詰め寄られた時などに当たったあの柔らかい感触が一瞬フラッシュバックするが首を横に振りかき消そうとする。

 

(えっ…!?マジかコイツ!舞衣の胸を凝視してやがる…っ!あっそう言えば昨日壁ドンされて密着した時、すっげえ柔らかかったな…って何考えてるんだ僕は!まるで僕が変態みたいじゃないか!)

 

思春期の男子中学生なら女体に興味があるのは普通だが、先日密着した際に軽く体に触れたことを思い出すと途端に恥ずかしくなって来てしまう。

 

そして次の瞬間

 

「ねー!」

 

その掛け声を合図にノーモーションで薫の頭からミサイルのように飛び出し、舞衣に向かって飛び付こうとするが主人である薫に尻尾を捕まれ空中でジタバタともがいている。

 

「行くぞ」

 

既に見慣れた光景なのか薫はねねの尻尾を摘まみながら淡々と言い放ち、帰りの車が停車している所へ戻っていく。

 

「see you!マイマイ!ソウタン!」

 

「マイマイ…?」

 

「ソウタンって…」

 

エレンは元気よく二人にあだ名をつけて手を振りながら薫と並んで車に戻っていくが慣れないあだ名を付けられて困惑していると後ろから聞き慣れた声をかけられる。

 

「よっお二人さん」

 

「ハリー」

 

「針井君」

 

栄人が美濃関の帰る生徒達を見送る為に少し遅れて駐車場にやって来た。父親からの言い付けで捜査に尽力している為か基本的に捜査本部にいるか、詳細が分からない所を出入りしているが合間を縫って抜け出して来たようだ。

 

「しっかしお前こんな時にインターンって急だな。まぁお前だって辛いよな衛藤が捕まったらどうなるか正直分からないし、そんな所見たく無いよな…」

 

「うん…」

 

「まぁ、俺も正直辛いさ。友達が捕まるだなんて、でも父からの命令だから協力しなきゃいけないなんてすごいジレンマだよ…」

 

「針井君…」

 

後で可奈美と合流する予定の颯太は友人の栄人にも嘘をつかなければならない罪悪感を覚える。

栄人も可奈美の事を心配しているが自分は家の関係で捕まえる立場にならなければならない事を自嘲気味に呟いている。

 

「やっぱりお前、行っちまうのか?」

 

「うん。前から申し込んでたし」

 

「そっか、俺はお前にいて欲しかったんだがな…」

 

「えっ……?」

 

針井が名残惜しそうに真剣な顔で颯太の肩に両手を置き、お前にいて欲しい等と言い放った為颯太は一瞬栄人の発言に少し照れてしまった。

 

 

「いやさぁここに俺と歳が近い男なんてお前だけだぞ?男の職員の人もいるけど歳上ばっかで本部も女性ばっかで息が詰まるって」

 

「いや、君女子にモテるじゃん。それに親衛隊の人達と親しそうだし、昔から知ってる人もいるんだろ?昨日だって燕さんの面倒見てたみたいだし」

 

 

「いやいやいや!物には限度があんの!姐さんは昔から知ってるとは言え父の仕事の関係者だから馴れ馴れしく出来ないし、他の人達と話す時もスゲー気を遣うんだぞ!辛いわ!」

 

確かに管理局の男性職員は皆見た所成人を越えている上に女性職場と言っても差し支えない程女性も多いため同年代の男子がいるというのはどれだけ心強いだろうと心中は察する事ができる。

そして、今は針井グループの代表として捜査に協力している立場であるため相応しい振る舞いが求められる。敬語は良いと言われた結芽以外には堅苦しい畏まった態度で接しなければならない事に多少疲弊しているようだ。

 

「まぁ、でも柳瀬や安桜もいてくれるから心強いけどな」

 

「そ、そう?」

 

「ああ勿論。今はあんまゆっくり話せないと思うけど友達がすぐ近くにいてくれるってのは頼もしいもんさ、衛藤の事心配だろうけど、仮に衛藤が捕まっても俺が父に土下座してでも罪を軽くするからよ!」

 

真実を何1つ知らずただ命じられたまま捜査に協力している栄人に罪はないが、紫の正体を知っている二人は可奈美が捕まったら命が無い可能性があるため安心できなかったがその事を伝える訳にもいかないため胸が苦しくなってしまう。

 

 

「あー、俺そろそろ戻んないと。午後から出発だっけ?インターン頑張れよ!何もかも終わったらまた皆で遊ぼーや!」

 

そろそろ休憩の時間が終わるのか駆け足で戻っていく栄人を見送る二人。

その走り去っていく後ろ姿からは大企業の跡取りとしての責務を背負い友人を捕まえる葛藤を抱え、肩が重くなっているようにも見え、このままどこか遠くへ行ってしまうのでは無いだろうか。そんな危うさも感じられた。

以前からそうだが柳瀬グループの長女として育ってきた舞衣には何となくだが栄人の大変さを理解できなくも無いため同時にシンパシーを感じていた。

また皆で遊べる日常。取り戻さなくてはな、と颯太は拳を軽く握る。

 

午後になり、颯太が出発する時間となった。

 

折神家正門の前で江麻と舞衣に見送られて出ていく所だ。

 

形式上のインターンの研修先のスタークインダストリーズ日本支部の場所、可奈美と姫和を匿ってくれている累の住所と連絡先を渡され後は電車で東京まで行きスターク社に行き、代表のトニー・スタークに挨拶に行く。

 

「頑張って行ってらっしゃい、今更だけどくれぐれも無理はしないでね」

 

「颯太君、可奈美ちゃんをお願いね」

 

「勿論だよ。舞衣」

 

江麻は生徒に危ない橋を渡らせる事を苦しく思いながら生徒の力になろうと颯太を送り出す為に激励をする。

舞衣は真剣な顔で颯太の瞳を見つめ、可奈美の事を頼むと伝える。

颯太は最初からそのつもりであるため舞衣の瞳をしっかりと言葉に力強く。

 

直後に舞衣からクッキーの入った袋を渡された後は駅まで駆け足で走っていく姿を見つめる二人は颯太と可奈美、そして姫和の無事を願いながら姿が見えなくなるまで見送っていた。

駅へ向かう最中颯太の横を1台のバンが通る。車の中では手錠をかけられミリタリージャケットを纏った無精髭を生やした西洋人の中年といった男性が複数の御刀を武装した刀使の監視と筋骨隆々の管理局員に囲まれて護送されていく。

西洋人の中年の男がふと窓の外から見えた颯太を見て違和感を覚える。

 

(あのガキ………妙に手慣れた足取りだな、ただのガキにしちゃ洗練されてる。まぁいいか、ちいせぇ島国に送られて何が何だかと思ったがもうすぐ始まるんだ…とんでもねぇ規模の戦争がなぁ)

 

男はすれ違った颯太の多くの修羅場を潜ってきたような足取りに違和感を感じたが今回の仕事はうまく行けば一獲千金だ。これから始まる戦いに血潮がたぎるのを感じ口元を吊り上げていた。

 

 

とある管理局の一室。

 

犯罪者との面会室に使われる部屋にガラス1枚を隔てて一人の男が手錠に繋がれた男が椅子に座らされ、妙な真似をしないように監視の刀使が数名隣に立ち、男が暴れても対応できるようにしている。

それと向き合うように栄人、真希、寿々花が立ち会い緊迫した空気が流れている。

 

「名前はエイドリアン・トゥームス、45歳。元落下傘部隊の隊長を務めた優秀な軍人だが数々の問題行動を起こした末に軍を追い出されその後は傭兵として各地の戦場を渡り歩いたか……針井、こんなのが本当に適合者なのか?」

 

「ええ、信じがたいですが我が社のサポートAIの計算によると新しく完成した対飛行型荒魂用決戦装備『ヴァルチャー』のテストパイロットには最も適した人物だと判断されました」

 

目の前の経歴を読むだけで危険以外の何者でもない男が新装備のテストパイロットに適している事を疑問に思う真希は連れてくるように指示をした栄人に質問を投げ掛ける。

針井グループの装備開発のサポートAIの計算によると完成した新装備のテストパイロットには最も適していると導き出された為、針井グループの財力を使って見つけ出しトゥームスには莫大な報酬金を出し衛藤可奈美、十条姫和、スパイダーマンの捕獲の協力を依頼した。

傭兵であるトゥームスは大金さえ出せば仕事を請け負う性分の為二つ返事でOKし、現在に至る。

 

 

「なぁ坊っちゃんよぉ、クライアントはアンタなんだから俺の新しい商売道具の説明をしてくれや、ついでにそこの嬢ちゃんたちにもな」

 

痺れを切らしたトゥームスが栄人に対し、早く装備の説明をしろと要求してくる。確かに呼び出しておいて何の説明も無いのは失礼だと思い装備の説明を真希と寿々花の前で行う。

 

携帯のディスプレイから映像を壁に投影し全員に見えるように拡大する。

すると画面にバックパックに巨大な翼の生えたウィングスーツ、脚部に鳥の鍵爪を模した機械製の爪を付け武装が移し出される。

 

「対飛行型荒魂用決戦装備ヴァルチャー。ノロを動力源とし装着者の身体能力と耐久力を上げつつ本体に取り付けられた一対の操縦桿を握って操作し、背部のジェットエンジンと、ティルトローター式のタービンエンジンを搭載し高い可動性を持つ機械製の両翼の働きで安定して空中を飛行できます。後に量産化して高所での救助活動にも使用できる事を想定しています」

 

「なるほど、確かに飛行型を逃がすと二次被害に繋がりかねないからな、刀使に装備させることができたら画期的だと思う。だが、なぜこの男がテストパイロットに選ばれたんだ?」

 

「もしかして、操縦には技術がいるため空中を飛行する訓練を行う必要があるということかしら?」

 

「はい、飛行する機能に比重を置いているため従来のS装備より身体能力・耐久力の上昇は控えめであるため稼働時間は圧倒的に長いですが、実際にテストを行うのであれば空中での飛行になれている者が適していると打ち出された為彼が選ばれたらしいです」

 

装備の説明をされ、どのようなスーツなのかを大方把握した真希と寿々花。

しかし、やはりトゥームスが選ばれた理由が気になる真希は栄人に質問をする。

反面、寿々花はこのような装備を使用するには空中を飛行する訓練を行う必要があるのでは考えていたがその通りのようだ。

トゥームスが選ばれた理由はかつて落下傘部隊に務めていた事や、傭兵に転職して以降もタイプは違うが空中を飛行する装備への扱いに精通していると判断されたからだ。

 

 

「なるほどな、話は分かったが坊っちゃんよぉ。獲物の潜伏先が分からねぇのはしゃーねえが俺はいつまで待たされりゃいいんだ?」

 

「許可が降りれば出撃命令を出す。その時に出向いてくれ、S装備に近似した装備をつけているとは言えお前の体は人間だ。刀使2名とスパイダーマンを相手にするのは厳しいだろうから空中から牽制して親衛隊の人達の援護をしてくれれば問題ない」

 

トゥームスは日本に来てからすぐに手錠をかけられ常に監視されている上に基本的に待機を命じられている為その不自由な扱いに不服そうに問いかける。

雇い主である栄人は紫から出撃の許可が降りれば出撃させると説明する。

そして、いかにパワードスーツを着ていようが基本スペックは人間であるため、いくら元軍人で並の人間よりは遥かに強いとしても刀使2名とスパイダーマンを同時に相手取るのは厳しいと考えている栄人は一応トゥームスの安全を気遣って無理なく援護に徹すればいいと受け流す。

しかし、トゥームスはその言葉が勘に障ったのか挑発的に笑いかけ3人を煽ってくる。

 

「おいおいそんな悠長に構えてていいのかぁ?傭兵に頼むにしちゃ随分と弱気な仕事だな。敵さんの居場所が大体分かったら周辺でドンパチやれば誘い出せんじゃねえか?特に親愛ある隣人スパイダーマン様はなぁ」

 

「呆れましたわ、頭が悪いんですの?ここは法治国家ですわよ。警察組織である我々がそのようなことできるわけありませんわ」

 

「そうだ、一般市民への被害など言語道断だ」

 

長年戦場にいて、紛争地域を渡り歩いたトゥームスには倫理等は一切通用しない。勝つためなら一般市民を巻き込んででもスパイダーマンを誘き出そうという提案を仕掛けてくる。

当然曲りなりにも警察組織である刀剣類管理局の人間として、いや普通に人として看過してはいけない発言であるため寿々花と真希からは突っぱねられる。

しかし、そのあまりにも当然すぎる言い分にトゥームスは吹き出し腹を抱えて笑い始めた。

 

「ハハハ!こいつぁいい!とんだ甘ちゃんだwww平和ボケし過ぎてこの国の警察は皆頭をやられてるみたいだなwww」

 

「何だと!?」

 

「貴方にだけは言われたくありませんわね」

 

刀剣類管理局全体を嘲笑うように小馬鹿にした口調で煽ってくるトゥームスの言動に不快感を覚えたのかその場にいた全員が顔をしかめ真希はトゥームスに怒鳴り、寿々花は眉を寄せて侮蔑を込めた視線でトゥームスを睨み付ける。

その視線を向けられ先程とは打って代わって途端に真剣な顔つきになり、戦場で多くの地獄を見てきた兵士の顔になりながら持論を語りかける。

 

「あんたらが持ってるその御刀とやらもこの俺の新しい商売道具も、持ってりゃうれしいコレクションじゃねえ、兵器なんだよ兵器。敵をぶっ殺す為のなぁ。この装備を高い金かけて作ったのは見せびらかす為か?違うだろ?使うためだろうが、使うときに使わないでどうすんだよ、えぇ?」

 

確かにトゥームスの言う通り真希や寿々花の持つ御刀も荒魂を倒すための武器ではある。そして、言うなれば一歩間違えば人殺しの道具にもなる。

現に御前試合の時真希も紫に斬りかかった姫和を殺す為に降り下ろそうともした。

そして、今トゥームスにテストパイロットを依頼した新装備ヴァルチャーも飛行型の荒魂を倒すためのもの、ましては量産化して機動隊等に配備すればビルに立て籠ったテロリストを強襲したり、戦闘機を撃ち落とす為にも使われたりしていくだろう。

実際にこの装備はかなりの費用と年月をかけて作られた者だ。見せびらかす為にじゃない、使うために作られた。だが、それとこれとでは話が違う。

 

 

「これは戦争だ。俺達とテロリストどものなぁ。だからこそ勝つための手段なんざ選んでる場合じゃねえと思うがなぁ…町中で死人が出ねぇ程度にドンパチやれば少なくともスパイダーマンはほぼ確実に誘き出せるだろうよ、そこで野郎を叩く。そうなりゃ頭のイカれた野郎がスパイダーマンを倒してどっかに逃げたって事にして後はあんたら管理局様お得意の隠蔽でどうにか出来るんじゃねえか?その為に俺を呼んだんだろ?違うか?」

 

「………言葉を慎めトゥームス。お前の雇い主は俺だ。ヴァルチャーの装着者はお前だが権限は俺が握っている。不要な犠牲を出したら報酬を減らすか最悪自爆装置を押すぞ」

 

確かに早めに手を打たなければテロリストとして逃走中の3人と、そして3人が合流する可能性がある舞草との全面戦争に発展するだろう。

恐らくトゥームスは町中で奇襲を仕掛けて死人を出さない程度に戦渦を巻く技能を身に付けてはいるのか自信満々に豪語している。

そして、自分がどのような人間か理解した上、更に何故自分が選ばれたもうひとつの理由を何となく理解し、傭兵として課された仕事は確実に果たす主義なのか、その為に自ら汚れ役を買うという意気込みなのだろうか。それはトゥームスにしかわからない。

しかし、町中で爆発や発砲の1つでも起こせば人々の危機だと勘づいてスパイダーマンを誘き出せるのは確かだ。そして、隠蔽が得意という管理局全体、その局長である折神紫をも侮辱した発言ではあるがグルである針井グループも力を貸せば頭のイカれた愉快犯が暴れた末にスパイダーマンを倒したという隠蔽も不可能ではないという事も恐らく見抜いた上での発言だろう。

確かにその通りではあるが不用意な犠牲を出すのは不本意であるため冷静にトゥームスを諌め、余計な犠牲を出せば報酬を減らすか、又は自爆装置を押すぞと眼力を込めて脅しをかける栄人。

その冷えきった両者の空気感に圧を感じる真希と寿々花だがなんとか無表情を貫いている。

 

 

 

「おー!おっかない坊っちゃんだぁ、流石野蛮な管理局様らしい脅しだなぁ!感心したぜ!」

 

「てめぇ……調子に乗んなよ」

 

「ワリワリ冗談だよ冗談、ちょいと雇い主様とコミュニケーションを取ろうとしただけだっての。こちとらボーナスがかかってんだ、お声がかかるまで大人しくしてますよっと」

 

栄人の脅しに一切同じず茶化してくるトゥームスに完全に頭に来ている為かつい言葉遣いが荒くなってしまうが直後全く心の籠ってない謝罪をしつつ冗談だと誤魔化すトゥームス。

全く信用ならないが命令されるまでは大人しくしていると口約束をする。

 

「いいか、命令が出るまで余計なことはするな。逆賊を捕らえる為とは言え不要な犠牲を払うことはできない。仕事さえこなしてくれればこちらから何も言うことはない。今日はもう大人しく格納庫で待機していろ」

 

 

「はいはい分かりましたよっと………けっ、甘ぇんだよ若造が」

 

その言葉に軽い調子で答えた後に見張りの刀使に連れられて面会室を出ていくが出て行く際に小声で悪態を付きながら退室する。

 

「全く何なんですのあの方」

 

「正直あんな奴に仕事を任せるのは俺も反対したいですよ。ですが奴ほど父から提示された条件に合う者はいなくてですね」

 

「条件?」

 

トゥームスが退室した後に冷静に怒り心頭な様子の寿々花がトゥームスの態度への不満を隠せないようだ。

正直栄人もトゥームスのような危険な奴を雇うのは反対だったが父親である能馬の指示で条件に最も合致するのはトゥームスだから仕方なく雇ったとタメ息をつくと真希が条件について尋ねてくる。

 

 

「はい。装備を持たせる上で条件に合う人間を探すように言われていたのです。条件は適合率が80%以上を越える者、報酬を出せば仕事を請け負う者、意欲のある者です」

 

「確かに条件には当てはまってはいますわね」

 

「ええ、不本意ですが彼を雇うようにと指示をされました。仮に暴走しても父がどうにか手を打ってくれるとのことで…その為の強制停止の自爆装置だそうです。」

 

「なるほどな。それに安心はできないから奴には刀使の見張りを何人か常につけさせている訳か。このまま何も起きなければ良いのだが…」

 

「全くですわね」

 

見事に条件と合致したトゥームスを雇った理由を何となく理解した二人。

そして、仮に暴走しても能馬がどうにか手を打つと言い最悪の時の為に自爆装置を搭載したとの事である。

しかし、皮肉ながらトゥームスの言った通り隠蔽体質だと言うことを認めたも同然になってしまうのだが。

一応装着者が問題を起こしても針井グループが対処するという事を知りつつも安心できない為不安を漏らす二人。

しかし、その空気の中隠している事が1つ。そしてトゥームスにも何となく見抜かれている事を言うわけにはいかず目を伏せながらトゥームスの経歴が書いてある画面に目を通す栄人。

 

 

(結局言えなかったけど、なるべく遵守するよう言われたもうひとつの条件、それは…………)

 

 

(仮に消えても誰も困らない人間だなんて言えるわけないよなぁ)

 

トゥームスの過去の犯罪歴と身元を調べた上で、仮に何かをやらかしたとしても消えても誰も困らない、隠蔽が可能な人間を選ぶように言われていたとは二人には言えないなと心苦しさを感じながら端末の電源を落とす。

 




ヴァルチャーの扱いが良く言えば実力を買われて雇われた用心棒、悪く言えば大金に目がくらんだハゲタカみたいな感じになってしまったのは申し訳ありません。
フォローになっているかは分かりませんが私はMCU版のヴァルチャーはMCUの中でもかなり良いヴィランだと思いましたし、デカい悪党でも無く、悪い事をやっている理由も共感できる人間臭いキャラクターで結構好きです。



平成を振り替えると色々とありましたが、残りは別に普通にいつも通り過ごします。良いお年を。
とりま2019年はみにとじとバースとキャプテンマーベルとアベ4とファーフロムホームがしばらくの糧

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