刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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報告:2月11日。13~15話に多少の変更を追加。


第16話 素顔

ヴァルチャーとの戦闘を終え、ヴァルチャーのウィングスーツが爆発により焦げた残骸が駐車場に散らばっている。

 

管理局がマンションに来る前に移動する事にした面々は奇跡的に累の車が無事であった為、姫和を助手席、後部座席に沙耶香、可奈美、到着前に近くの木にクモ糸でリュックを貼り付け、今はそのリュックを回収し、変装用の私服をスーツの上から着用しているスパイダーマン。

 

車の中であるが管理局側の沙耶香に素顔を見られる訳には行かないため車の中でも覆面をしていた。

 

 

しばらく車を走らせある程度進んだ所に累は車を止め、沙耶香を解放する。

 

このまま連れ回す訳にも行かない上に、一歩間違えば誘拐にも見える為だろう。

 

 

そして車が停止している間に助手席から降りた姫和が沙耶香の御刀妙法村正を差し出す。

 

 

「お前のだ」

 

 

「いいの?」

 

 

「その気があるなら抜いても構わない」

 

 

「・・・・・」

 

 

御刀を取り上げられている間は刀使の力を発動でき無い為、危険性は無いが一度手に取ればまた斬りかかると思わないのかと思い、手渡された事に対していいのかと問う。

 

力強い瞳でまだ戦う気があるならそれでも構わないと言い放つが既に戦意が失せている為、無言で受け取る事にした。

 

 

「気を付けてねー」

 

 

 

「またねー沙耶香ちゃん!」

 

 

「あーそういや、腹減って無い?ちょいと口止め料と言えばアレだけど一口どう?僕のマブダチの手作りだから味は保証するよ」

 

 

累と可奈美に気さくに声をかけられ、スパイダーマンはこの深夜遅くまで行動している為、流石に空腹だろうと思いリュックから舞衣から貰ったクッキーの袋を取り出し1つ沙耶香に手渡す。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

「じゃーねー、お嬢さーん!今は逃亡中で難しいけど親愛なる隣人スパイダーマンはいつだって困ってる君の味方だよー」

 

 

スパイダーマンに軽く頭を撫でられ、無言でクッキーを受け取り、その後は走り去る車の様子を沙耶香はただ見送っていた。

 

 

「は~あ、今頃家は大事だろうな~この車ももう照合されてるかも」

 

 

「えっ!?」

 

 

「確か全国の道路1500ヶ所に設置されてるっていうNシステムですよね!」

 

 

「そうそう、よく知ってるね・・・・ヤバっ検問だここで降りちゃった方がいいね」

 

 

累は運転しながら自身のマンションは既に警察及び管理局の回収班がヴァルチャーの残骸を回収しに来ていると予測し家に戻る訳には行かず、逃亡に手を貸している累の車は全国の道路に設置されているNシステムという照合システムによりバレている事を自嘲気味に予想する。

 

しばらく走ると前方に検問のために複数のパトカーが停車している姿が見えた為、路肩に停車し3人を下車させようとする。

 

 

「あのー累さん、お世話になりました!ちゃんとお礼も出来なくて・・・」

 

 

 

「すいません、巻き込んでしまって」

 

 

 

「いいから、早くっ」

 

 

 

「それじゃあまた!」

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

 

下車した3人は累にお礼を言うものの、累はこの場に留まっていると検問や巡回中の警官に見つかる可能性もあるためすぐにこの場を離れるように催促する。

 

軽くお辞儀をした後に走り去っていく3人の姿を見つめていた。

 

 

「大変だろうけど・・・・頑張ってね。しっかし、スパイダーマンが中学生で学長の教え子さんだったなんて世間は狭いね~」

 

 

3人のこれからは茨の道を突き進む事になるのは確かであるが大人の自分はこれから未来のある子供たちが立ち止まらずに突き進む事を祈るのみであった。

 

反面、一度も顔は見せておらず普通に乗せていたスパイダーマンだが、電話をしてきた時に名前をしっかりと確認した為、正体を知ったもののまさか中学生で自身の恩師の江麻の今の教え子とはかなり意外であると同時に意外と世間は狭いなと感じた累であった。

 

 

一方その頃、公道を走る3人組であるが姫和は一旦足を止め、スパイダーマンの方へ振り返る。

 

 

 

「おい、まさかお前その格好で歩くつもりか?覆面位外せ」

 

 

「それもそうだね・・・・はぁ、カレン。マジで待ちに待ってない瞬間が来ちゃったけどどうしよう?」

 

 

『覚悟を決めてください』

 

 

「はいはいそうですね」

 

 

「だ、誰と話してるの・・・・?」

 

 

「大丈夫か?お前」

 

 

姫和の言う通りこの格好で歩き回るのは目立つ上に良くてにコスプレか不審者扱いされ好奇の視線に曝されるか、ほぼ確実に通報されてしまうため指摘する。

 

スパイダーマンもまた足を止め、ついに二人の前で素顔を晒す瞬間が来てしまった事にため息をつきながらスーツのサポートAIであるカレンに声をかけると淡々と覚悟を決めろと告げられる。

 

しかし、端から見ればスパイダーマンは一人でぶつぶつ話している様にしか見えないため可奈美と姫和は不審がっていた。

 

 

少し、視線を地面に移して俯くスパイダーマン。内心ではついにこの時が来てしまった。先日カレンと話した際も言っていたが多分この事を話せば絶対に可奈美に色々と問い詰められる。

 

しかしそれも無理はない。昔から知っている隣人が犯罪者や荒魂と戦い、クモの糸で町を飛び回るスパイダーマンであるのだから。

尚且つ昔から自分は可奈美にヒヤヒヤさせられる事もしばしばだが自身も時には可奈美に心配をかけてしまうことがあるのも事実でありお互い様な時もある。

そんな相手が超人的な力を用いて日夜命懸けの戦いをしていたのだから当然心配するに決まっている。

まぁ・・・・一番しつこく問い詰められるのは可奈美や舞衣や栄人や他の友人達の前では正体がバレない為とは言え力をセーブして100%の力で勝負しなかった事かもなと考えた瞬間若干胃が痛くなってくる。

 

 

これから自分達は行動を共にするのだからキチンと自身の正体は伝え、はっきりとさせなければならない。

いつまでもこの現実から逃げ続ける訳にはいかない。

 

-今がその時だ-

 

スパイダーマンは両者の方に向き直り、一度深呼吸をして、徐々に声をいつも通りのトーンに戻しながらスーツの覆面を掴んで上の方へと引っ張り、徐々にスパイダーマンの素顔が露になっていく。

 

 

 

「しゃーないか・・・・僕だよ可奈美。僕として会うのは3日ぶり位?」

 

 

 

スパイダーマンの覆面が取れる。そこには一見は中性的で冴えない風貌の、クラスでは目立たない陰キャ。少なくとも女子にはモテないであろう事が想像がつく美濃関学院の中学生、スパイダーマンの中の人、可奈美の幼少期からの友人であり隣人の榛名颯太の顔があった。

 

 

 

「そ、颯ちゃん!?」

 

 

 

「何だ、知り合いか?」

 

 

姫和はスパイダーマンの素顔を見てもパッとしない。ほんとにコイツか?多分一年同じクラスでも顔をはっきりと覚えられないタイプ。と地味で薄味な印象を受けたが実際に先程まで共に行動していた相手が目の前で覆面を取ったことにより簡単に事実を受け止めたが、反面可奈美は一瞬開いた口が塞がらない。

 

それもそうだろう。これまで自分の危機に現れては嵐のように去っていく豪快なスパイダーマンが昔から知っている相手だと知り驚くなと言うのが無理な話だ。

 

だが、初めてスパイダーマンに会った時から何故か初めて会った感じがしなかった。

 

声も昔から知っているような感覚。そして、スパイダーマンと会話をした際、どこか親近感を感じていた為、すんなりと話を受け入れる事ができヴァルチャーと戦闘した際も何故か信頼を置いても問題ないような気がしていた事に合点がいった。

 

 

「家が隣で、幼稚園から一緒で・・・どういう事なの!?」

 

 

「ちょ、揺らすなって!・・・・・ご、ごめん!ずっと黙ってて。でも今はここで立ち止まってる場合じゃない。すぐに追い付かれるかもだし。落ち着いて話せる所まで来たらちゃんと話そう」

 

 

「う、うん」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

二人の関係性を聞かれ家が隣同士で幼稚園からの知り合いである事を説明するがやはり知っている相手があのスパイダーマンである事には驚きは隠せないためつい食い気味に問い詰める際に接近し、可奈美は颯太の肩を両手で掴み、前後に大きく揺らす。その際にお互いの顔と顔が近くなってしまい、颯太は一瞬怯んでしまう。

正体を隠していた事を謝罪するが今はこの場所に留まる訳には行かないため、一旦落ち着ける場所まで行ってから話し合うことを提案する。

 

その提案に可奈美はすぐに冷静になるもののまだ気持ちが晴れずモヤモヤしているがここで立ち止まっている場合ではないというのもその通りであるため、また走り始める。

 

 

姫和はその二人の様子、というよりは颯太とスパイダーマンであるときとのギャップに少し戸惑っていた。

 

どこか軽妙で一見するとちゃらんぽらんで常に軽口を叩いていてノリが軽いが危険を省みず人助けをするスパイダーマンと可奈美に詰め寄られてオドオドしている冴えない陰キャ中学生榛名颯太。どちらが本物の彼なのか分からないこの人物に対し疑念を抱いていた。

 

そして、3人はfine manに指定された伊豆へと向かう。

 

 

 

一方その頃。

 

 

一足先にマンションから遠ざかり、数キロ先の路地裏で回収班に保護、もとい拘束され鎌倉まで強制的に送還されたトゥームス。

 

拘束され護送されている間はしおらしくなり、今度は更に厳戒体制の折神家の地下の独房へと放り込まれる。足は枷に繋がれ、格子は触れると電気ショックが流れる仕様。更に無理に取り外したり、牢屋から数メートル離れれば動きを検知して爆発するチョーカー型爆弾を首に付けられずっと無口になっていた。

 

 

(クソッ、俺とした事がガキ相手にムキになるたぁな。

減給覚悟で連中の内一匹でも潰しときゃ後々楽にでもなるかと思ったが乗せられて熱くなるたぁ俺もまだまだド三流だなったくよ)

 

 

(だが、野郎のスーツ。映像で見せられてたのとは随分変わってやがった。それにぶっ壊しちまったヴァルチャーと同等かそれ以上の性能だ。あんなもんガキに、いやこの国の技術で作れんのか?あんなもん作れるとしたら大将(紫)か坊っちゃんの会社か・・・・スタークの野郎位か?まさかな、考えすぎか) 

 

 

無口になっていたのは先程の行動を振り返り、スパイダーマンと合流していない内に一人でも相手の戦力を削ぎ、倒すことが出来ればうまくいけばそのまま任務完了。最悪ダメージを与え後々少しでも楽になればプラスに繋がるとも考えていたが悉く失敗し、ヤケになっていた事を自嘲していた。

 

 

しかし、スパイダーマンと戦闘をした際に以前見せられたスーツと見た目が変わっていたこと、そしてスーツの性能が並外れた物では無かったことを思い出していた。

 

この国が突如として技術が進歩していたことは知っていたがあれほどの高機能なスーツを作れる人間がいるとしたらヴァルチャーの装備の開発に大きく携わっている紫と針井グループか、そして自身がかつて所属していたゲリラの部隊がある人物から兵器を買っていた事、そしてその人物が今は兵器産業を撤廃し自身の才能をヒーローとして発展させた人物。アイアンマンことトニー・スタークではないかと推測していた。

 

 

(だとしたらどこまでも俺の商売を邪魔しやがる野郎だなテメェは・・・・・ムカつくぜったくよ)

 

以前雇われていたゲリラの部隊が自身が抜けた後にスタークに壊滅させられ、自身も戦地で最も遭遇したくない人物として懸念していた相手だがまさか管理局の反乱分子に手を貸しているとはあまりに突飛な内容であるため、一旦は記憶の中に留めておく事にした。

 

 

(ま、これだけ大ポカやらかしたんだ。クビか機密保持の為に消されるのかね、俺は)

 

 

これだけの失態を晒し、挙げ句の果てに雇い主に多大な迷惑をかけたのだ。解雇は勿論の事、機密保持の為に処分される事も念頭に置き、思考を停止して眠りについた。

 

 

翌朝、看守に起こされると朝の日差しが射し込み重い瞼を上げるとそこには更に厳戒体制のもと、雇い主である栄人。付き添いの真希、寿々花と対面していた。

普段は友人達の前では朗らかで、尚且つ目上の者には礼儀正しく接する栄人である今はをどこか落胆、そして怒りによって身体が小刻みに震えている。

 

 

「よぉ坊っちゃん、何だい?俺はクビってか?」

 

 

再三指示を出してから任務に当たるよう、余計な事をするなと言い、下がれと言ったのにも関わらずスパイダーマンと合流していない今が好機だと独断専行をした挙げ句、栄人の警告を無視しヴァルチャーを破壊し、駐車場のみであるが被害を出し、隠蔽の為に様々な方面に手回しをして局長や父親だけでなく多くの人に迷惑をかけるハメになった事に対し憤慨していた。

 

 

「そう言いたい所だが口車に乗せられた俺も同罪だ。少なくとも独断専行の違約金とヴァルチャーの修理費用は払ってもらう事になると思うが局長から言い渡される処分を待て。でも言ったよな?余計な事はするなって、その上こっちが用意した装備まで壊すとは・・・!」

  

 

「針井、落ち着け。気持ちは分かるが抑えろ」

 

 

「このような輩の為に怒るなどエネルギーの無駄ですわ」

 

 

何度もトゥームスに戻れば咎めないと言ったり、スーツが爆発寸前になった際には逃げろと心配していた栄人だが目の前のトゥームスに対して怒りを向けずにはいられない様子だ。

その普段の様子からは全く想像できない。初めてトゥームスと面会した際に脅迫めいた脅しをするなど必要に応じてそのような対応をするのは知っていたがここまで怒る様子には一瞬困惑したが自身らもトゥームスに対しては不快感しか抱いていない為、気持ちは察するが落ち着くように真希は栄人の肩に手を置き、寿々花は淡々と諭す。

二人に諭された事で肩で息をしながら徐々に落ち着いていく栄人。

 

トゥームスは契約主である栄人の指示を無視し、勝手な行動を取った上でヴァルチャーを破壊してしまい迷惑をかけてしまった為、事情を説明し始める。

 

 

「減給覚悟で連中がスパイダー野郎と合流する前に奴等の内一匹でも潰しときゃ俺だけじゃなくてあんたらも多少は楽になると思ったんだよ。それに実際に殺り合って分かったぜ、千鳥とかいう御刀を使ってるガキ。アイツは厄介だ。放置しておくと更に強くなって俺等にとって脅威になる。何としても危険な奴は始末しとこうとしたら野郎が来やがった」

 

 

「そ、それでも・・っ!スパイダーマンが介入して来たなら無理せずさっさと撤退すれば良かったじゃないか、ヤバくなったら逃げろって言ったろ」

 

 

「そうだ。あの装備だって安く無いんだぞ、壊してまでやりあう必要はない」

 

 

「熱心なのは結構ですが努力の方向性を間違えてると言いますか・・軽率ですわね」

 

 

一応嘘ではないが独断先行の理由。殺すなと言われたが確実に危険な因子は先に排除しておくべきだと判断し彼等を本気で殺しにかかった理由の説明を受け。その最中でスパイダーマンに介入された事は把握できた。

 

それならば無理せず撤退すれば良い話だ。装備を壊してでも戦闘を継続するメリットは薄い。

 

その事を追求され、分かってはいたが独断先行の末手ぶらで帰る訳には行かないと思っていた手前、頭に血が上って冷静な判断が出来ず功を焦った事を思い返して自嘲する。

 

しかし、1つ報告していなかった事を思い出しトゥームスは真剣な顔になりながら重い口を開ける。

 

 

 

「・・・・・ここだけの話、野郎のスーツが変わってやがった。糸の種類が増えてやがっただけじゃねぇ、アンタらが貸してくれたヴァルチャーと同等か・・・それ以上の性能だ。頭に血が上っちまってたのもあるが、尚更ある程度把握しておく必要があると思った訳よ」

 

 

「何だと!?」

 

 

「ということは既に例の舞草と接触を・・・」

 

 

「してると思っていいと思うぜ。おそらくガキにあんな装備は作れねぇ、あんな装備作れんのはアンタらの大将と坊っちゃんの会社か、相当腕が立つ技術者位だろうしな。少なくともスパイダー野郎は既にグルだろうよ」

 

 

「「「・・・・・・・」」」

 

 

「栄人さん、この事を紫様に報告しておきなさい。彼らを見つけ次第早めに手を打たなくてはならなくなるかも知れませんわ」

 

 

 

「はい」

 

 

トゥームスは3人を見上げながら真剣な顔でスパイダーマンの着ていたスーツが以前着ていた物とは変わっており、ヴァルチャーにも比肩する性能の物だった事を報告し、ある程度確かめておく必要があると判断した事を伝える。

 

その話を聞かされ驚く3人。寿々花は少なくともスパイダーマンは既に舞草に接触し、スーツを渡されていると予測するとトゥームスもその考えに同意し、自身の考えも述べる。

 

トゥームスの意見を聞き、寿々花はこれから局長室に呼び出されるであろう栄人に、紫にトゥームスから受けた説明をするように指示を出す。

 

その言葉に頷くと同時に地下の独房に続く階段から、幼い少女の声が聞こえてくる。

 

 

「ハリーおにーさーん!紫様が呼んでるよー!」

 

 

「分かったー!今行くー!・・・すみません、局長に呼ばれたので少し外します」

 

 

「ああ」

 

 

「分かりましたわ」

 

 

 

紫から栄人を呼ぶように頼まれた結芽は地下の独房にいる栄人に聞こえるように語尾を伸ばしゆっくりはっきりとした声で局長室に来るように呼ばれている事を伝える。

雇い主は栄人であるが刀剣類管理局の局長である紫が上司に当たるため、新装備の適合者の出撃命令や暴走した時の処分は紫が下し、栄人が処理をするという形になる。

恐らくトゥームスの処分や自身への追求だと思い、局長室に向かうことにした。

 

「サンキュ、結芽ちゃん。わざわざ悪いね」

 

 

「別にいーけどさ、おにーさんもしかしてあの鳥のおじちゃんの事ちゃんと見てなかったから紫様に怒られちゃったりして」

 

 

地下の独房の地上に出る階段を登り、地上に出ると待ち構えていた結芽にわざわざ呼びに来てくれた事を感謝する。

そして、二人はそのまま並んで紫のいる局長室に向けて歩き始めた。

結芽が少し悪戯染みた笑顔を浮かべながらこれから栄人がトゥームの監督責任を問われて叱責されるのではないかという事を話すとため息をつきながら言葉を返す。

 

「きっとそうだね、まぁ俺が悪いんだけどさ」

 

「あーあ、あんなヘンテコなおじちゃんなんかに頼んなくても私が出ればすぐに解決なのにねー」

 

「確かに結芽ちゃんが行ったらすぐに解決しちゃいそうだな。でも結芽ちゃんは俺たちの切り札だからまだ出すわけに行かないんじゃないかな、俺も結芽ちゃんを姐さんの次に頼りにしてるぜ!」

 

トゥームスの口車に乗せられ、捕獲するように申し付けた事に対し自身もまた騒動の原因の1つであることは自覚している為、歩きながらも局長である紫と対面することに申し訳無さと重圧を感じ、足取りが重くなっている。

結芽はトゥームスがヴァルチャーを装備して出撃するよりも自身が出撃すればすぐに捕獲できることを自負しており、自身のとある事情から中々出撃の許可が降りず暇を持て余している現状に不満をこぼしている。

 

栄人は結芽の事情は詳しく知らないが彼女は実際に親衛隊の中では一番実力があり、切り札のような存在であり、ここ一番で彼女を起用するのだと考えていた。

自身も結芽の実力を信頼している事をウィンクをしながらサムズアップし、親指を立てる。

 

「うーん・・・でもつまんなーい!っていうかおにーさん私より寿々花おねーさんの方が頼りになるってどーゆーこと!?」

 

「え!?だって姐さんは昔から洞察力も優れてるし、常に冷静だし的確な指示を出してくれるからすっげえ頼りになる。それでいてプライドは高くても慢心せずにそれに足る努力も怠らない。尚且つ上品な大人の女性だ。な?頼りになるだろ!」

 

結芽は切り札のような存在と言われ悪い気はしなかったが周囲の人間達が彼女を出撃させる事に慎重になっている現状には満足出来ない様子だ。

しかし、栄人の最後の方の言葉の結芽は自分達の切り札だと言いながら最も信を置いているのは寿々花だと言い切った為、聞き捨てならず何故か自分でも理解できなかったが反発し、問いただそうと並んで歩いていた隣から栄人の前に移動する。

 

唐突に大声を出された為、驚いてすっとんきょうな声を上げてしまうがすぐに何故そうなのかを説明する。

今は共に一時的とは言え同じ仕事の環境で働いている為、彼女の冷静な指揮能力や状況判断力により現場がスムーズに進むだけでなく、的確な指示により自身も動きやすいようにしてくれている事により非常に頼もしいと感じていた。

それだけでなく昔からの知り合いであるため彼女の人となりもある程度は知っているつもりであるため、プライドが高く負けず嫌いであり、時には言葉にトゲがあるもののその自信に足る努力を怠らない真面目な人物であること。それが栄人が彼女を信頼する所以だ。

 

「うー・・・確かにそうだけど・・・いいもん、いつか絶対におにーさんに私がスゴいって所見せるんだから!」

 

 

「あー火が着いちゃったか・・・分かった、じゃあいつか俺に見せてくれ、誰よりも強くてスゴい結芽ちゃんをさ!」

 

確かに栄人の言うように今は事務仕事もこなさなければならいためその通りであるのだが、栄人の寿々花を誉め、尊敬し、信頼している様子は結芽に何故だか理解出来ないが、恐らく今目の前に自分がいるのに他の相手を褒められてもおもしろくはないと感じたのだろうか。

 

結芽からすれば栄人は会って日も浅く、お互いに分からない事もあるが自分が多少無理な事を言っても嫌な顔せずに付き合ってくれる。ノリノリで返してくれる接しやすい人物であり、一緒にいて居心地が悪くない人物になっていると感じ始めているからだろうか。それは本人にも分からない。

 

だが充分に自身の強さを証明して自分が一番頼りになるのだとい言わせて見せると闘争心を燃やす起爆剤となった。

 

やる気になった結芽の様子を見て何故ここまで躍起になるのか理解できず恐らく自身の力を証明したいのだろうと思うことにした。それと同時にとても彼女のように自分の意思をしっかりと持っている彼女を羨ましいと思った。

栄人はいつも父親の命令のため、いつか会社を継ぐために指示されたまま、言われたまま生きる事に慣れてしまっている。だからこそ彼女のような純粋で真っ直ぐで懸命な人間は眩しく見えてしまう。

 

彼女の瞳を見つめながら自分は見ているから、彼女の持つ強さ、愚直なまでの真っ直ぐな生き様を自分の心に焼き付けて欲しいと告げて同じ目線になるように膝を折り、しゃがみこんで優しく頭を撫でる。

 

 

「うん!もちろん!・・・でも何かスッキリしないなぁ」

 

「あー・・・なら俺じゃ不服かもだけど時間が空いたら道場での打ち合いに付き合うよ、そういうときは体動かすのが一番だろ?」

 

「ハリーおにーさん竹刀での試合ならそこら辺の局の人達よりは強いし退屈はしないけどもうちょっと粘って欲しいかなー」

 

 

「ははは・・・努力します・・・着いたな。ありがと結芽ちゃん」

 

 

「いいよー、後で怒られたかどうか教えてねおにーさん」

 

 

「はいはい」

 

笑顔で優しく撫でられ、自身を真っ直ぐ見つめる栄人に力強く頷き満面の笑みで返す結芽。

そして二人はまた並んで局長室に向けてしばらく歩き、雑談している最中、まだ少し晴れない結芽の様子を見て、もし時間が空いた際には微力ながら自身が道場での打ち合いに付き合うと提案する。

確かに気持ちが晴れない時、考えても何も出てこない時は体を動かしてリフレッシュするのは悪くないものだ。

 

結芽は栄人は家が大企業であり、その御曹司である栄人は小学生の頃に身代金目当ての誘拐をされかけた事があった為、自身の身はある程度は自衛できるように習い事で剣術を習っていたり、護身術を仕込まれ、時間がある時はトレーニングをしているため町のチンピラやDQNよりは身体能力は高く竹刀で勝負する分には一般人や管理局の一般職員よりは腕が立つため結芽には普通に負けるが退屈はしない、不満は抱いていないがもう少し粘って欲しいと悪戯染みた年相応の笑顔を浮かべてからかう。

 

そんな結芽の発言に対して事実ではあるがハッキリと言い切られた為、渇いた笑いが漏れるが気が付いたら既に局長室の間近に来ていた事に気付き、わざわざ呼びに来てくれた事に対して礼を言う。

 

礼を言われると結芽はまだ悪戯染みた笑みを浮かべつつ、手を後ろ手で組んで少し前のめりになりながらこれから栄人が紫に呼び出されて説教をされるであろう事をイジりつつ、その際に怒られたかどうか教えるように伝えるとどこかへ歩いて去っていく。

 

そして栄人は局長室の扉の前に立ち、一度深呼吸してドアを叩く。これからトゥームスの処分、新装備の適合者の雇用状況、自身への追求。

考えるだけでも胃が痛くなりそうだが息を飲んで自身を奮い立たせて局長実のドアのドアノブを回して入室する。

 

 

「入れ」

 

 

「失礼します」

 

 

 




バラすのアメスパ並にあっさり過ぎると思うけど変に引っ張るよりはね、これから一緒に行動するんだしと言うことで。

思い返すと本人同士で対面するの久しぶり過ぎるな。

舞衣ちゃん誕おめ!

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