刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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話がやっと進んだと思いたいけどタイトル通りくどくどと会話しているだけなのは許してクレメンス。

余談:バース公開当日に見に行きてぇ~


第18話 対話

 伊豆へ向かう道中、ヒッチハイクに成功した可奈美、姫和、颯太の3人はトラックに揺られて山中を行く。

 しかし、助手席に座れたのは二人だけであるため姫和と可奈良美を前の席に座らせ颯太は荷台に座ることとなった。

 

 トラックに揺られている中荷台の中では誰にも見られていない事を確認すると携帯をつけようとするが昨晩ヴァルチャーに最大出力で電気ショックウェブを放った影響でこっそり所持していた携帯がショートし、マスクを被ってカレンに解析してもらうと復旧に時間がかかると言われ自分等の無事を心配しているであろう江麻や舞衣に連絡できない事にショックを受ける。

 

「はぁ・・・仕方ない。そういやカレン昨日の奴僕が殴ったらヘルメット欠けて顔半分見えてたよね?犯罪者のデータベースからアイツのこと照合出来ないかな?」

 

『犯罪データベースに接続中。名前はエイドリアン・トゥームス45歳。殺人を含む犯罪歴多数。経歴上問題行動の数々で空軍を追い出されて以降は傭兵として活動を行っているだけでなく戦場で拾った装備を売り払う武器商人も行っている事から雇主が保釈金を払うことで難を逃れた事や名前を変えて転々としている為服役の経験はほぼ無いようです』

 

 

「うわっ管理局はそんな危ない奴を雇ってるのか・・・で、アイツの装備に関しては何か分かった?」

 

 

『恐らくは完成したてで未登録であるため機体については何も。ですが恐らくはS装備の発展型のパワードスーツであることは確かでしょう』

 

「なるほどね、でも何で局は僕らを捕まえる為にあんな装備まで・・・犯罪者を使ってるからには何か理由があると思うけど」

 

 

『私も詳しくは分かりませんが、あの装備の性能をテストするためと我々を捕まえる為でしょう。犯罪者に装備をさせている理由としてはやはり性能をテストするためにはその手の技術に精通している人間を採用するのが無難という点と、仮に暴走したとしても犯罪者が装備を盗んで犯罪を犯してスパイダーマンを倒したと言う言い訳ができるようにするためかと、尚且つ相手は警察組織のトップです。逮捕した事にして装備の適合者を極秘に海外へ逃がすことも可能でしょう』

 

「おーおー容赦ないねー管理局。本気で僕らを潰す気だよ。そしてこれから会う人達はスタークさんがバックについてるし会場で僕を助けてくれたし味方だとは思うけどどうなるかな」

 

 マスクを被りスーツのサポートAIであるカレンに先日ヴァルチャーと戦闘した際にヘルメットが欠けて顔が半分見えていた事から一縷の望みにかけてスーツの機能の1つ、犯罪者のデータベースから犯罪者を割り出せる機能を作動させた。

 一瞬の内に特定をし、相手が犯罪歴多数の上戦地を歩いて回る傭兵だとして先日自分がどれだけ危険な相手と戦っていたかと肌で実感し戦々恐々とするが、自分達を捕まえる為に犯罪者を利用していることに対しての疑問をカレンに問いかけると新装備のテストとしては技術に精通している人間や仮に暴走したとしてもバカな犯罪者が勝手に装備を盗んで犯罪を犯してスパイダーマンを倒したと後で言い訳できるようにしているためだという推測を聞かされ不安になり、これから会うfine manは大丈夫なのかと一瞬心配するがスーツをくれたスタークが協力していることや会場で結芽に倒されそうになった所を手助けしてくれた相手であるため少なくとも敵ではないだろうと思うことにし、マスクを外して再度横になる。

 

 

 しばらくして霧が立ち込める伊豆山中のパーキングエリアで降ろされる3人。

 運転手に礼を言うとトラックは走り去っていく。

 

「ふぁ~あ、結構疲れた~」

 

「荷台で横になってるだけだったから僕は楽だったかな」

 

「何それズッル!・・・・姫和ちゃん?」

 

 長旅で車に揺られて疲労している3人だが、可奈美と颯太は談笑していたが姫和は心ここにあらずというか、何かを深く思慮している様子だった。

 

「・・・・・・・可奈美・・・」

 

「なにー?」

 

 

「お前には色々世話になった」

 

「あぁっ!すみません!もしかしてこの戦闘民族が一緒に行動してる時何か粗相をしませんでしたか!?隣でデカいいびきをかいたり、寝相悪くて貴女を蹴ったり一人でフラッとどこかに行ったり!」

 

「ちょっと颯ちゃん私を何だと思ってるの!?」

 

 

「サイヤ人。僕は忘れて無いからな!小学校のお泊まり会で隣でいびきかきながら僕の事蹴ったこととか遠足で行った遊園地でブレイド(MAVEL)のヒーローショーに勝負しろって突撃して迷子になって皆で探し回った事とか!」

 

「それは低学年の時!今は違うよ!」

 

「・・・・・そんな事は無かったが・・・・・ゴホン、だがここで別れよう」

 

 

「だからー私も一緒に行くって」

 

 

「そもそもこんな山ン中で一人で戻れって結構酷じゃないですか?」

 

 姫和は唐突に可奈美には世話になったと言い放ち、もしかすると可奈美が一緒に行動をしていた姫和に何か迷惑をかけたのではないかと思いものすごい勢いで謝罪するが過去の体験談を踏まえてかなり失礼なことを言っている為可奈美に反発される。

 

 実際共に行動していた姫和はそんな事は無かった為、困惑しながらすかさずフォローを入れるが咳払いの後に重たい口を開け、唐突にここでお別れだと言い放つ姫和に反発する可奈美。少しズレているがこの山奥で一人で戻れと言うのは酷ではないかと指摘する颯太。

 ちなみにスパイダーマンであった時は正体を隠すためにタメ口であったが姫和は中学三年生であり自身からすれば歳上であるため敬語になっている。

 

「この先は・・・・無理だ。一緒には行けない」

 

「どうして?」

 

「昨夜の事で分かった。私の剣とお前の剣は別物だ。そしてスパイダーマン。お前は怪我人も出さず相手も殺さずに事態を収めた」

「私のは斬る剣、お前のは守る剣だ。この先は斬る剣しか必要ない。昨日のように私達を本気で殺しに来る奴が何度も襲ってくる筈だ」

 

「そんなの勝手に決めないでよ、姫和ちゃんがそう思ってるだけだよ。」

 

「・・・・・・・」

 

 姫和の答えは一緒には行けない。この一言が更に可奈美に反抗意識を抱かせ理由を問いかけると昨晩襲撃してきた沙耶香とヴァルチャー。

 二人とも任務遂行の為に手段を選ばず自身をも省みない厄介な相手であり、姫和は昨晩の戦闘では相手を斬って倒すことしか考えられず、ヴァルチャーの挑発に乗り本気で斬ろうかと思ってしまった。

 反面、二人はヴァルチャーも沙耶香も殺さずに無力化し、ヴァルチャーの最後の悪足掻きからもマンションの住人を救ったスパイダーマン。この二人が振るう力は自分とは別物なのだと判断した。

 

 

「可奈美、それとスパイダーマン。お前は人を斬ったことは?そして殺したことはあるか?もしくは荒魂化した人を」

 

「写シじゃなくて?・・・無いけど」

 

「僕だって無いですよ」

 

「近年、人が荒魂化する事例はほとんど無い。だが少し前私の母親の時代までは珍しい事じゃなかった」

「荒魂化した人は既に人じゃない。たまに記憶を残し話す個体もあるが荒魂は荒魂だ。御刀で斬って祓う。それしか救う手段はない。私たち刀使は人々の代わりに祖先からの業を背負い、鎮め続ける巫女なんだ」

 

 姫和は二人に問いかける。二人は人を斬ったことも殺したこともない。

 可奈美の場合はそういう状況に直面することがほとんど無いがスパイダーマンとして犯罪者と日夜命懸けで戦う颯太は何度もそういう場面に直面している。

 しかし、自身がスパイダーマンとなる決断をしたのは大切な人が死んだ為だ。自身にとってスパイダーマンは輝かしい物等ではない。自身の後悔の顕れである。だからこそ選んだのだ、人を守る為に戦い、ご近所の誰かを守る親愛なる隣人であることを。

 

 だから相手がどんな人間であろうとそんな相手にも彼等が消えて悲しむ隣人がいると思うと殺す事など出来ずにいた。

 だが、颯太自身は既に決めていた。今は例え世界から敵視され矛盾を孕んだとしても、危険な相手を放置して誰かが傷付くのなら人に化けた荒魂を倒し、それ以外は討たないのだと。

 姫和は自分達の刀使としての使命をキチンと理解した上でその事実を可奈美に突き付ける。

 

「あー・・・それ聞くと僕、貴女方の仕事に蜘蛛の巣突っ込んで無粋なことしちゃったかな・・鉄血2期後半のダインスレイブ連打みたいな」

 

「その例えは分からないが少なくともお前の自警団活動はご近所を救ってきたんだろう。私達では対処できない犯罪者をも捕まえて来た。だから私は世間での評判云々は抜きでお前を責めるつもりはない」

(だがどうにも腑に落ちない所がある。私のスペクトラム計には反応しないようだが荒魂にトドメを刺せるだけでなくあの人間離れした身体能力、そしてファインダー無しで荒魂を感知できる能力。どうなっているんだ?)

 

 

 姫和の言葉を聞き、刀使でもないのに自身の持てる力で人々を守るために荒魂とも戦っていたということは刀使の仕事に水を差して余計な手助けだったのではないかと少し落ち込んだ様子になる颯太。

 だが、姫和は颯太がスパイダーマンとして人を守るために荒魂と戦った事を責めるつもりはなないようだ、少なくとも自分達では対処できない犯罪者とも戦っていた事もまた事実だからだ。

 だが、姫和としてはスパイダーマンの人間離れした身体能力には疑念を抱いており、荒魂にトドメを刺したあの瞬間に感じていた。この男は人間ではない。もしかしたら・・・

 

 

「可奈美、これから私がやろうとしていることは荒魂退治だ。だが限りなく人斬りに近い」

「私は折神紫を斬る。それを阻む者をもだ。それも私怨に近い動機でだ。お前には斬れない。だからここで別れるんだ。スパイダーマン、お前もfine manに呼ばれているようだがもう一度よく考えろ。私は先に行く」

 

 

「待って!」

 

 再び踵を返して歩き去る姫和。その背中から可奈美とは別れる意思、スパイダーマンである颯太にはfine manには呼ばれたいるようだが今一度こんな自分の行動に付き合うなど理由はない。考え直して見ろと、先に行く素振りを見せる。

 可奈美はワンテンポ遅れて声をかけるがその刹那。

 

 振り向き様に小鳥丸を抜き、御刀同士の衝撃音が響き渡る。

 姫和の放った一撃を可奈美が間一髪で防いだ様子だ。

 

「ぬるいな」

 

 防いだその剣戟から伝わる重さに呆然とし言葉も出ない可奈美。

 

「お前は戻れ、戻って荒魂から人々を守れ。それで、お前はどうする?」

 

 

「場所は知ってます。一旦彼女と話をさせてください。ずっと言わなかった・・・言えなかったことが色々あるので」

 

「分かった」

 

 姫和からは自身の戦いに可奈美を巻き込まないようにしようとしている意思を感じられる。そして視線を颯太に移し、どうするのかを問いかける。

 数秒置き、自身も指定された場所は知っている。だがその前に今は呆然としている可奈美と話をさせて欲しい。

 ずっと隠していたことを話さなければならない時が来たと思ったからだ。近くにいたのに黙っていたこと、あの日、スパイダーマンになったあの夜に今は言えない事があるかも知れないがいつかは話して欲しいという約束。それを話すのが今だと確信したからだ。

 姫和はその力強い瞳から伝わる意思に応じ、先に行く事にした。

 

 後頭部を掻き、首をならしながら一度深呼吸をして可奈美に声をかけ正面に立つ。

 

「あーその・・・可奈美、まず君と話がしたい。ずっと黙っててゴメン。これがたまに急にいなくなったり、ドタキャンしたり遅刻してくる理由なんだ。まずはどこから話そうか・・・」

 

「・・・・何もかも話して。でも一つだけ分かるよ、颯ちゃんがスパイダーマンになったのはおじさんのことがあったからなんだよね?」

 

「察しがいいね・・・・分かった、最初から話すよ」

 

 

 可奈美と颯太は向かい合い、両者共真剣な顔になりながら話を始める。

 スパイダーマンとなってから日常生活でも支障を来すときがあり、約束の時間に遅れてきたりドタキャンをしたり、途中で一旦消えたかと思いきやいつの間にか戻って来ている事もあった。その理由がスパイダーマンになったからなのだと可奈美に伝える。

 

 姫和の剣を受け少し呆然としていためワンテンポ遅れて反応する。しかし、可奈美はスパイダーマンの声がどこかで聞いたことがあるような感覚、何故か妙な安心感を抱いていた理由に対してハッキリと理解できたため、言うほど驚いてはいない。

 だが、本人の口から言われなければ分からない事もある。

 そして、恐らくあの日の夜に本当は何があったのか、何故叔父の拓哉の死で必要以上に自分を責めていたのか、その理由がハッキリと察する事が出来ていた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「本当はあの時、ケンカをしてひっか達に勝てたのも大会で優勝できたのもあの時僕は既に管理局の研究所で蜘蛛に噛まれて身体が変化してたからなんだ。だから大会の会場で警備員が捕まえようとした強盗を捕まえることだってできたかも知れないんだ」

「あの日、僕のせいで叔父さんが死んで皆を悲しませた日からずっと後悔してる。スパイダーマンは僕の後悔なんだよ」

 

「・・・・本当は私ね。あの時颯ちゃんはいつもの颯ちゃんじゃないなってどこかで思ってたんだ。おじさんの葬儀の時、ただの中学生だから何か特別な事ができるわけじゃないのに必要以上に責任を感じて自分を責めてたこととか・・・そして、何かを変え始めようとしていた事も・・・だからいつかちゃんと話せる日が来たら話して欲しいって思ったんだ」

 

「確証もないのに力の話をして皆を混乱させたくなかった。それにスパイダーマンには敵がいっぱいいる、一歩間違えば皆を危険に巻き込み兼ねないと思って言い出せなかったんだ」

 

 

「そっか、でもそれでも私はもっと早くに力になりたかったよ。颯ちゃんはスパイダーマンさんになる前も後も私を助けてくれるし、私だって何かを返したいよ」

 

 これまでずっと言えなかったこと研究所で蜘蛛に噛まれ身体が変化したこと、自身のせいで叔父が死んだこと、その後悔の顕れがスパイダーマンであること全てを話した。

 そして可奈美はあの日の颯太の様子がいつもと違ったこと、事情を知らない者の視点から見れば必要以上に自分を責めていたこと。そして、何かが変わり始めようとしている予感を感じ取っていた可奈美は特に深くは聞かずいつか話せる日が来たらでいいから話せばいいと約束をしたのだ。

 しかし、いつも自分が大変な時は一人で解決しようとする颯太の姿勢を心配している事も伝えられる。

 

 スパイダーマンとしての力の正体はわからない。刀使の力が大体十代の間の期間限定のもののようにいつかは消えるものなのか、一生このままなのか。やがていつかは話せるときが来て僕はスパイダーマンだったんだと若き日の思い出話のように話すことになるのか、戦いで死んで正体が露見するかのどちらかになると思っていた。

 たが、意外な程早く話さなければならない運命は進んでいたようだ。

 それでもあの日、1つだけ確かな事がある。それは感謝しても仕切れない程のこの呪いをほんの少しだけ肯定できる祝福を彼女から受けたことだ。

 少し照れながら一瞬だけ顔を反らして、恥ずかしそうに下を向きながら再度可奈美の方を向く。

 

「それは・・・本人を前にして言うのすげえ恥ずかしいんだけど、僕がスパイダーマンを志したのは叔父さんの事もあるけど、背中を押してくれたのは君なんだよ」

 

 

「え?」

 

 自身ではそのようなつもりは無く心当たりが無い為、あまりの脈絡もない内容に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 

 

「あの日僕はこれ以上無いまでに打ちのめされてた。何も考えられない位に。自分のせいで自分が何もしなかったからあんなことになって、皆を悲しませた。自分さえいなければこんなことにならなかって何度も自分を呪った。でもそんな僕を気遣ってくれて、こんな僕でも親愛なる隣人として受け入れてくれた君がいたから・・・その時に自分のやるべき事が分かった、この親愛なる隣人達を守れるようにって」

「僕のやるべきことは持てる力で君たちのように誰かを助けることなんだって。でも力を手に入れても中学生に過ぎない僕にはできることも動ける範囲も時間も限られてる。日常生活にだって支障を来すときもあった。それでも少しずつでも僕のように大切な誰かが傷ついて悲しむ人が一人でも減るならって思って始めたのがスパイダーマンなんだ・・・・だからのその・・・・」

 

 

「うん」

 

 

「僕も君にいっぱい助けられてる。叔父さんの時の事だけじゃない。会場で君が参戦してくれたから彼女を逃がす時間を稼げたことも、昨日の奴だって可奈美が追い込んでくれなかったら負けてたかもしれない。勝てたのは君のおかげとスーツの性能のゴリ押しだったって個人的には思ってる。だから多分昔からそんなつもりなくても無意識のうちに僕らが助けたり助けられたりは今も変わってないんだよ、だから感謝してる。マジで」

 

 

「私も感謝してる。お母さんの葬儀の時も、宿題手伝ってくれた時も、家にいたときはいつも朝起こしに来てくれたこととかも、スパイダーマンになった後も何度も私を助けてくれたことも。いつもありがとう」

 

 誰しも自分ひとりだけで生きていたら、自分を証明することはできない。誰かと互いに与えあったことで、これからの人生で教えてくれる。何者なのか、何をすべきなのか、初めて分かるのだ。

 

 二人は家が隣同士で親愛なる隣人、時には喧嘩をし、時には励まし合い、大切な人が亡くなった時も側で支え合い、ピンチの時は助けに入り、互いに助け合っていた。

 長い時間を一緒に過ごし、親愛なる隣人として助け合うべきだという使命を持っていたから二人を形作り、今ここにいる。

 

 可奈美は一度自身の御刀「千鳥」に視線を落とし、自分がやるべきだと信じたことを胸に秘め、決意を固め顔を上げる。

 

 

「そういや、可奈美はどうする?彼女は君を巻き込まないようにしてるんだと思う。彼女の言ってることも分からなくは無いんだけど、君自身はどうしたい?僕は行く、スパイダーマンとして折神紫を放置はできない。

 今は例え世界から敵視され矛盾を孕んだとしても、危険な相手を放置して誰かが傷付くのなら人に化けた荒魂を倒して、それ以外は討たない」

「そして、ここから先は昨日のように命懸けの戦いになる。僕らを潰すために危険な奴がいくらでも出てくる。ハリーは何も知らないし君と戦うのを嫌がってるけど会社は装備を管理局に提供してる。間接的に僕らの敵に回るんだ。それでも僕は君が何を選んだとしても君の意見を尊重する」

 

「私は・・・・・私も行く。姫和ちゃんを一人には出来ない。剣を受けて分かった、あの子の覚悟の重さが。私、決めたことがるんだ」

 

「・・・・分かったよ。よっしゃ!なら、あの頑固ちゃんを助けに行くか!・・・・ああ・・・その・・・これまではずっと君を頼らなかったけど、これからは違う。一緒に戦おう、可奈美」

 

「うん!・・・・でもやっぱり腑に落ちないな~手加減されてたってのは」

 

「ご、ごめんって!僕の力の正体がバレる訳にもいかなかったしそれにスパイダーマンは隠し芸じゃないんだ、無闇矢鱈に人に向けて使うもんじゃない。君の御刀だってそうだろ?一歩間違えば人殺しの道具にだってなる・・・だから・・」

 

 

「もうほんと頑固だなぁ」

 

 

「だって仕方ないじゃん。生身だと僕は素手でバスを止められる。けど、御刀アリだと僕写シ貼れないし。まぁ、いつか御刀相手でも平気なスーツとか出来たら・・そんときに考えよう」

 

 そして、問いかける。自分は折神紫を止めるために石廊崎まで行くが、これから先は先日ヴァルチャーと戦った時のように命懸けの戦いになる。

 自分達を本気で潰しに来る敵が何度も出てくる可能性を危惧しており、同時に何も知らず会社の命令で付き合わされているが栄人もまた間接的に自分達の敵に回っている事を伝える。

 だがそれでも自身は可奈美の選択を尊重する意思を伝える。

 千鳥に移していた視線を上げ、互いに見つめ合い、先程決意した自身もまた付いていくという意思表示をする。

 覚悟を決めた力強い眼に曇りはない。やることは決まった。

 その覚悟を受け取り、共に向かうことを決める颯太。

 そして、自身も隠していた事を打ち明けたからか遠慮は無くなり、親愛なる隣人である可奈美の事も頼りこれからも助け合うのだと決め、一緒に戦おう。と手を差し伸べる。

 笑顔で差し出された手を掴み固く握手する両者。

 互いの手に触れ合うのは久しぶりな気がしたが両者共どちらもいつの間にか大きく、力強く頼もしい手になったなと内心では思ったが言う必要は無いため心の中にしまうことにした。

 

 しかし、最大の懸念。これまで正体が露見するのを防ぐために力をセーブして戦って本気の勝負をしなかったことだけはどうにも納得は出来るが腑に落ちなかった為、頬を膨らませながらツンとそっぽを向く可奈美。

 不機嫌になる様子を見て必死に謝り、弁明する。

 

 一旦は落ち着いたように見えるがまだ、二人にはお互いに手が届かない所がある。現状二人が剣で立ち合ったとして颯太はスパイダーマンとして常人を越え、生身同士の対決では颯太に軍配が上がる可能性がある。しかし、御刀を装備した可奈美相手だと颯太は写シは貼れず、可奈美に軍配が上がってしまい、噛み合わないのである。

 ならばいつかお互いに100%出し切れる状況が出来たらそのときに考えようということで一旦は保留という形を取ろうとする。

 

 

「じゃあその時まで待つことにする。そういえば他に颯ちゃんがスパイダーマンだって知ってる人っている?」

 

 

「あー・・・・スーツくれたスタークさんと多分大方だけど燕さんと後僕が凡ミスしてバレたのが学長と()()

 

 ピクッ

 

「ふ、ふーん・・颯ちゃんいつから舞衣ちゃんのこと名前で呼ぶようになったのかな?」

 

可奈美も一旦はその提案に賛成し、保留という形に納得はした。ついでに颯太がスパイダーマンだという事を他に知っている人はいないのかと聞かれると自身の正体を特定した上で自身にスーツをくれたスタークと寸土めのつもりだったが舞衣に斬りかかろうとした結芽の御刀を蹴り上げてしまった為、正体には気付いたが敢えて放置されている状態の結芽と、自身の凡ミスで正体がバレてしまった学長である江麻と舞衣には知られていることを伝える。

しかし、最後のフレーズに可奈美の耳は反応する。

舞衣。この男はいつも舞衣の事は柳瀬さんと名字呼びだった筈なのだが急に名前呼びに変わっている事に違和感を覚え、何故だが自分でも分からないがジト目になりながら問い質そうとする。

 

「か、可奈美さん?何か怒ってる?そんな大それたことじゃないよ。正体バレて秘密を共有したから前よりも親しい友達になれたってことで名前で呼び合うようになっただけだって」

 

「秘密を共有して名前で呼び合うようになったんだふーん・・・」

 

「いやだから何でそうなるのさ?」

 

その様子に戸惑いつつも、実際は秘密がバレたものの互いの胸中を明かし、壁ドンされたり、泣いてしまったのを落ち着かせる為に抱き締めたりもして栄人や結芽に誤解されかけたりもしたのだが何より大事なのは秘密を知り、打ち明けたことで前よりも親しい友人になれたのだという事を伝える。

しかし、やはりまだジト目の可奈美の様子が非常に不可解で更に戸惑ってしまう。

 

 

「だって颯ちゃんが名前で呼ぶ女子って私だけじゃん?」

 

「僕がコミュ障で君以外の女子とそこまで親しくなったことがほとんど無いからですぅ~」

 

「じゃあ舞衣ちゃんとはそれほどまでに親しくなったんだね?」

 

「まぁ前は少し距離あったかもだけど今は大事なマブダチだよ、あっそういや餞別で貰ったクッキー食べる?」

 

「食べる!お腹空いてたんだ~」

 

 

(単純・・・・・)

 

これまで颯太は良く言えば大人しく、悪く言えばコミュ障陰キャであり、女子と親しくなったことはあまりない。

美濃関学院が他校との交流にも積極的で、共同で作業をしたりもするのだが、以前に長船と共同で作業をする場面があった時、女子校である長船の生徒と話した時に年上の女性に声をかけられただけで赤くなり、言葉が口ごもる程緊張し相手に心配された事もある程だ。

その為、そのような場面に直面すると栄人にパイプ役になってもらうことで事なきを得ているのだが。

 

可奈美は家が隣であり家族ぐるみの付き合いをしているため唯一名前呼びであるが他の女子は大体名字呼びである。

唯一無二だったポジションが他の誰かに取られたような気がして少しおもしろく無いと心のどこかで思っているのかも知れないがそんな様子を知る余地もない颯太は自嘲気味に中々他の女子と親しくなったことが無い事を皮肉っている。

 

舞衣とは以前は互いに名字呼びで少し距離があったが今は大事な友人、マブダチになったからであると説明する最中にふと思い出したように出発前に餞別として舞衣から貰ったクッキーがまだ残っていた事を思いだし食べるか聞くと、可奈美は一変する。

先程までの不機嫌な様子が消え、眼を輝かせながら食べると食い気味に答える。

そのあまりの単純っぷりに呆れつつも安心感を覚え、クッキーを食し腹を満たす二人であった。

 

 

一方車の陰で二人の様子を見守る二人と一匹。

エレンと薫とねねだ。

真面目な雰囲気で話をしていため入っていきにくかったが急に軽いノリに変わった二人を見てズッコケてしまった。

 

「ちょ、ちょっと入って行きづらい雰囲気デスネ・・・」

 

「クソッじれってーな・・・オレちょっとシリアスな雰囲気にしてきます。っていうかアイツがスパイダーマンかよオレより年下じゃねーか」

 

「ねー」

 

 

「まさかソウタンがスパイディだなんて予想外デース」

 

すぐに起き上がりこれから入団テストを行う3人の内2人はいるがもう一人がいないことに違和感を覚えつつも、姫和と可奈美と共に行動している相手であるスパイダーマンの正体が各校が管理局から帰る際に駐車場で少し会話したパッとしない、シャキッとしない冴えない中学生だと思いもよらなかった為、軽く驚いている。

特に薫はスパイダーマンの正体が自身よりも年下であったことが信じられないのか開いた口が塞がらない。

しかし、

 

「ま、キャップも昔は喘息持ちのモヤシだったって聞くしヒーローには色々あんだろ」

 

「ね」

 

「薫は理解が早いデスネ~、そろそろいいデスカネ。ではミッションスタートデース!」

 

 

「うーい」

 

「ねー!」

 

アメリカを代表するヒーロー、キャプテンアメリカことスティーブ・ロジャースもかつては喘息持ちで貧弱な身体で軍隊に入隊できなかったという過去もあったと以前に聞いたことがあるためヒーローと言っても一重に皆それぞれ事情があるのだろうと一定の理解を示している。

ヒーローに大切なのは力でも顔でもない。ハートだからだ。

その薫の状況を飲み込む理解の早さに感心しつつそろそろ仕掛けてもいい頃合いかと判断し、任務開始の合図を告げる。

 

 




ホムカミ見ててマジで思ったけど犯罪者のデータベースから相手特定できるカレンの機能よくよく考えなくても有能過ぎワロタ。

同じ事の繰り返しになってないか不安だぜ。とりま、次はヴィラン達と面会しますぜ(多分)

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