刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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さぁ、YA☆MA☆GA☆RI☆DA☆


第21話 繋いだ手

夕刻を過ぎ夜になり、休憩時間になったため捜査本部ではなく休憩のために一室で休む栄人。夜見に作りおきのおむすびを用意してもらい、頬張りながら端末に画面に目を落とす。

そこには美濃関学院の体育館で撮影した友人グループ複数で撮影した写メだ。

栄人が颯太の肩を組み、仲良さそうに笑い。後ろには舞衣と可奈美や他の友人達も笑い合っている平和な日常の一幕だ。

 

「衛藤、颯太。お前等今どうしてる?颯太。お前はトニー・スタークに憧れてたな。今頃テンション上がりながらインターンしてるのかな?衛藤。俺はまたお前を捕まえる為にまた敵を送っちまった。最悪だよなホント、罪を軽くするためって言うけど俺はまたお前の敵になっちまった。後何回こんなこと続ければいいんだよ・・」

 

写真に写る二人を見つめて、二人が今どうしているのか案じている栄人。

可奈美に対しては命令だから、やらなければいけないことだからだとトゥームスよりは危険で無いにせよまたしても敵を送り付け、敵に回ってしまったことを後悔していた。早く捕まえて罪を軽くするために、敵を送り付けてしまうという自身の矛盾とも取れなくもない行動と思念のギャップに思い悩んでいる栄人。

後何回こんな事を続けなければいけないのだろう。もう一度対面した時、またいつものように接することが出来るのだろうか、そう考えてしまう。

 

「ハリーおにーさん!超暇ー!」

 

「うおあ!」

 

結芽がニッカリ青江を構えて避けられる速さで弱めの突きをかましてくる。

栄人は深く思案していた為、反応が少し遅れたが急いで回避すると先程まで栄人が座っていた位置にニッカリ青江が刺さっている。

無論、結芽としては最悪寸止めできるため当てる気など更々ないが。

 

「ゆ、結芽ちゃん!?びっくりしたなぁもう。俺じゃなかったら団子三兄弟になってるって!」

 

 

「だって、おねーさん達出かけちゃってまた私だけお留守番なんて納得行かないんですけどー!これじゃあ私のスゴい所見せられないじゃん」

 

「俺に言わないでくれよ、結芽ちゃんは俺たちの切り札だからだと思うよ」

 

 

「でも暇ー!なんか面白い話してよ・・・ってそれおにーさんの学校の写真?千鳥のおねーさんやどんくさいおにーさんもいるね」

 

他の親衛隊の面々が出撃しているにも関わらず自身はまた待機の境遇を不満に思い、偶然通りかかると栄人が休憩していた為、構って貰おうと乱入してきたとのことだ。

ふと携帯の画面が目に入り、栄人の隣、肩と肩が触れ合いそうな距離まで近付き携帯の画面を覗き込んでくる。

 

「あぁ、前に放課後に撮ったんだ」

 

 

「じゃあおにーさん、学校の話聞かせてよ!

 

 

「あぁいいよ、じゃあ何から聞きたい?」

 

「じゃあどんくさいおにーさんって普段どうなの?やっぱりどんくさいの?」

 

 

「颯太?あぁまあ普段からパッとしなくてたまにどんくさい時はあるな」

 

「ははは!超予想通りー!」

 

どんくさいおにーさんで伝わる颯太ェ・・・・。

その上否定せずに話を続ける栄人、あまりにも予想通り過ぎて笑い出す結芽。

 

「でもアイツは早くに両親を亡くして叔父さんと叔母さんに育てられたらしくてさ、その父親代わりの叔父さんも去年の今頃亡くなってアイツも色々辛いことが多くても健気な俺の大事な友達だ、命懸けてもいい」

 

「そうなんだ・・・・」

 

「結芽ちゃん?どうしたの?」

 

「何でもない!後おにーさん、クモのおにーさんに町で会った事ない?美濃関に出没するんだよね?」

 

結芽はどこか思う所があるのかしんみりとした顔になり、それでいて少し羨ましいなと心のどこかで思ったが気にしない事にした。

 

「あーご当地ヒーローみたいに祭り上げられてるな。会った事はないよ。全くアイツには困ってるよ。衛藤を巻き込んで局長を攻撃した奴を逃がしたり、親衛隊の皆さんに危害を加えたり、影もつかめない神出鬼没っぷりのせいで全然捕まんなくて今の俺のストレスの原因の1つだよ。でも1つだけ、トゥームスが甚大な被害を出す前に止めてくれたことに関しては感謝してる」

 

「敵に感謝するなんて変なの。あのおじちゃんだって千鳥のおねーさん達を捕まえる為だったんでしょ?」

 

「アイツは予想以上に頭のネジが飛んでて必要以上の事してくれたからな、まぁ送り出した俺が一番悪いんだけど」

 

 

「そー言えば紫様に呼び出された時怒られた?」

 

昼間に結芽に紫に呼び出された際に少し会話した際に、呼び出された以上は叱咤されることは確定であるためその事を後で教えろと約束していた事を思いだし、ニヤニヤとからからうような笑みを浮かべている結芽。

 

「スゴい視線で睨まれて超怖かった。怒られたよ勿論。すぐ許してくれたけど」

 

 

「ははは!確か高津のおばちゃんも一緒だったよね?やっぱおばちゃんも怒られた?w」

 

 

「あー大人気なく食い下がってたな・・私は許せないのです!紫様に楯突く逆臣が手の届く場所でのうのうとしている事にっ!」

 

「ははは!ちょー似てる!最高!」

 

栄人がその場の状況を説明し、その上で同じく呼び出されていた雪那も叱咤された為、雪那が局長室で不満げに紫に反論していた際の真似を声のトーン、口調、身振り手振りを可能な限り再現すると結芽がひっくり返って腹を抱えて爆笑する。

もし、雪那が近くを通りかかったら恐らく掴みかかって来たであろうが幸いにも本部にいるため当の本人は知るよしもない。

 

 

「実は結構モノマネ得意でさ」

 

「あーお腹痛い・・wwwじゃあさ千鳥のおねーさんについて教えてよ、私の次くらいにすごそうじゃん」

 

結芽が笑いすぎて涙目になりつつ、腹を押さえて身体を震わせながら話を続ける。

 

「あぁ、衛藤ね。衛藤は寝ても覚めても剣術、三度の飯よりも剣術の剣術オタク。俺も竹刀で戦ってもそこそこ善戦するけど後一歩で負ける。中学生で美濃関の代表に選ばれて、決勝まで行って親衛隊の人達から逃げ仰せる実力だ。それでいて強い奴と戦ったり相手の工夫を見たりするとテンションが上がる。颯太はサイヤ人とか戦闘民族って言ってたな」

 

「どんくさいおにーさん結構デリカシーないね」

 

「俺もそう思う、だからモテないのかもな。でも衛藤は何となく結芽ちゃんと似てるかも」

 

 

あながち間違いでは無いが、女性に向けて使うにしてはややデリカシーに欠ける表現をしていることに結芽は軽く呆れている。

当の本人達としては昔から知っている間柄であり、互いに遠慮がなく容赦ないツッコミを入れ合える信頼の証ではあるのだが端から見ればモテない要因の1つに見えても仕方がない。

 

 

「何!?私もサイヤ人って言いたいの!?」

 

 

「違う違う。強い相手と戦うのが好きで底抜けに明るくて一緒にいて楽しい気持ちにさせてくれるって意味でだよ。多分似た者同士だからきっといい友達になれると思う」(戦闘狂じゃないとは言い切れないけど!)

 

「ふーん。なら、戦える日を楽しみに待ってる!まぁ私は群れるのは好きじゃないね。そんなの弱い子がすることだし」

 

「こりゃ手厳しい・・俺はもう結芽ちゃんの事、とっくに友達だと思ってたけど」

 

 

「そ、そう?ま、悪い気はしないけどね!」

 

 

「ははは、元気そうで何よりだ」

 

可奈美と結芽はどことなく似ていて同じく剣術で強い相手と勝負するのが好きな二人は立場が違えばいいライバル、友人になれるのではないか、もしかしたら毎日試合を繰り広げる程親しくなれるのではないかと私見ながら栄人はそんな事を思っていた。

しかし、結芽は勝負の時を楽しみにしている反面自分の強さを見せるためにあまり他者との連携を意識せず単独行動を好み、群れることについても弱いと考えているためか群れることは好きではない姿勢を見せる。

 

だが、そんな本音を前にしても特に気にする様子もなく真剣な表情で既に大事な友人だと思っていた事を伝えられると、何故か照れ隠しをしてしまう結芽。

確かに会って日が浅く、互いの事を深く知っている訳でもないが、時間がある際に構ってくれる相手であり、立ち合いしても退屈はしない。何故か一緒にいて安心する相手になりつつある栄人にそんな事を言われたからだろうか。

そして、昼間に会話した際に気になっている事を手を後で組んで少し恥ずかしそうに尋ねる。

 

 

「ねぇおにーさん・・・おにーさん寿々花おねーさんのこと好きなの?」

 

「えっ?どういう意味?」

 

「だって前に私が目の前にいるのにおねーさんのこと誉めちぎってたじゃん?相当好きか深い仲じゃないとありえなそうじゃん?」

 

 

「あーそれね。姐さんの事は小さい頃からの知り合いだし尊敬してるし実の姉ちゃんのように慕ってる。でもそういうのじゃない。ていうか向こうからすれば俺なんてガキだと思われてそうだし」

 

「そ、そうなんだ」

(何で私少しホッとしてるんだろ?)

 

もしかしたら栄人はあれだけ寿々花を褒めちぎる程に敬愛している様からもしかしたら惚れているのではないかと何となく思った結芽だがそんな事はなく、人として尊敬し、実の姉のように慕っているだけだと説明されると軽く胸を撫で下ろす結芽。

 

 

「それに、好き相手はともかく俺は政略結婚のために大企業の令嬢と結婚させられてもおかしくないし」

 

 

「えっ?どういうこと?」

 

「自慢じゃ無いけどうちは結構デカい企業だよ?更に会社をデカくするために大企業の跡取りの令嬢と結婚させるなんて話もチラホラ上がってくる。あーあ、結婚は普通に好きな相手がいいけどなー」

(なんで結芽ちゃんにこんな事ペラペラ喋ってるんだろうな、会って日も浅いのに)

 

栄人が将来的に家の企業を継ぐためにいつかは政略結婚のために好きでもない相手と結婚させられる可能性がある事を知り、結芽は軽く驚いている。

しかし、それ以上に引っ掛かるのはそんな生き方に従う生き方を受けていれている栄人に対して疑念が生じる。

 

 

「おにーさんはそれでいいの?」

 

「何が?」

 

 

「おうちのために自分のやりたい通りに生きられないなんて嫌じゃないの?」

 

「そりゃ嫌だけど、俺は跡取りなんだ。俺がやるしかないんだよ」

 

「私だったらイヤだね!絶対自分の事は自分で決めて、自分の生きたいように生きて自分の運命と戦うもん、その中で自分のやりたいことをやる!」

 

結芽の堂々としていて、我が儘でgoing my wayであるが自分に正直に生きるその姿は栄人に取っては眩しく憧れてしまう生き方だ。

これまでの人生でずっと父親に決められた生き方をして来てその生き方に慣れてしまっていたが結芽のようにはなれなくとも、力強く、自分をしっかりと持っている人間にはどうも頭が上がらない。

今は難しいかも知れないが、たまには、一度だけでいいから自分に正直になって堂々と生きてみたいと思った栄人。

 

 

「・・・ほんっと結芽ちゃんてたまに年下なのかって疑う時があるよ。でもそうだな、悲観してばっかじゃダメだよな・・・ありがとう。少し元気になれた」

 

「私特別なことしてないけど」

 

「結芽ちゃんにとっては大したことなくても俺にはデカいことだよ」

 

「へへへ」

(おにーさんの手、暖かい。お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな)

 

結芽の言葉に勇気付けられた栄人は感謝の意を込めて昼間と同じように結芽の頭の上に手を乗せ、優しく撫でる。

昼間の時とは違い、兄が出来たような嬉しさに胸が一杯になる結芽、しかし、彼女としては最も懸念している事があった。それは

 

「ねぇおにーさん・・・あっちに帰っても私の事覚えててくれる?」

 

「当たり前だろ?結芽ちゃんは俺の大事な友達。暇な時とかあればこっちに遊びに来なよ、大歓迎!つーか、俺らから会いに行くかもな!」

 

「ま、考えとく」

 

「ちぇっつれねーな」

 

(あーあ、何もいらないって思ってたのに今は、今だけはおにーさん達と一緒にいる時間が止まって欲しいなんて・・・そんなこと思うなんて)

 

誰かに自分の事を覚えていて欲しい。それが結芽の最大の願いだ。もし、事件が解決して栄人が美濃関に帰ってしまったのならもう会えなくなってしまうのではないか、すぐに忘れてしまうのではないかそう考えてしまう。

だが、栄人は当然のように満面の笑みで返す。

結芽は自分の友達だ。いつでも遊びに来い。むしろ自分達から会いに行く、もしかしたらあり得るかも知れない幸せな未来への希望までくれる。

結芽は表には出さないが、今はもう少しだけ、この日々が続けば良いと思うようになり、ならば今はこの1分1秒を満喫しなければと思い立ち、悪戯っぽい笑みを浮かべた直後に栄人の手を握って引っ張り走り出す。

 

「ハリーおにーさん、休憩時間まだあるよね?じゃあ私と道場で打ち合いしよ!決定!拒否権はありませーん!」

 

「ちょ、ちょっと結芽ちゃん!?強引に手を引っ張るなって!急すぎるって!あーもう・・・10分だけな!」

 

 

結芽に唐突に手を引かれ、道場まで連れて行かれる栄人。いきなりであったため姿勢を崩し、引っ張られている状態になり結芽の滅茶苦茶な行動に戸惑いつつも結芽といる間は辛い現実を忘れられるほど楽しい時間であるためか栄人も結芽の手を握り返し、道場まで駆けていく。

 

一方その頃伊豆山中。

襲撃してきたエレンたちを撒くことに成功した3人は雨宿りの為に元々は駄菓子屋か何かだったと思われる商店に入る。

 

ちなみに雨に濡れた為かスパイダーマンは着ていた私服を搾って水分を取り除き、スーツに搭載されているヒーター機能で自身の身体を暖めている。

 

「カレン、確かヒーター起動できるよね?」

 

『かしこまりました』

 

 

「おお、こりゃあったまる!」

 

 

「前から思ってたんだが誰と話してるんだ?」

 

 

「カレンって・・・あまりにモテないからってとうとう空想の彼女と話始めるようになっちゃったの?」

 

 

「違うわ!スーツのサポートAIだよ、マスク被ってる間は分析したり、検索してくれるの!あー、カレン二人とも話せるようにできる?」

 

『可能です』

 

「じゃあよろしく」

 

『こんにちは二人とも、スーツのサポートAIのカレンです』

 

「うわっ、すご!私、衛藤可奈美!」

 

「・・・・・・十条姫和」

 

『颯太から話は聞いています、可奈美は戦闘民族のサイヤ人だと』

 

「ちょっ!カレン!」

 

「颯ちゃん・・・・」

 

「すみませんでした」

 

スパイダーマンからすればスーツのサポートAIであるカレンと会話しているだけなのだが、カレンの声はマスクを被っている人間にしか基本的に聞こえないように設定されている為端から見れば一人でぶつぶつ喋っているようにしか見えないため、かなり不審だ。

 

一応拡声の機能もあったようでマスクから機械で加工したような女性の声が聞こえてくる。

どうやら本当にAIと会話していた事が分かる。

二人は自己紹介を済ませ、カレンが前から可奈美の話を聞いていたがあまりにもデリカシーの無い紹介のためか可奈美はジト目でスパイダーマンを見やる。

スパイダーマンはバツが悪そうに謝罪する。

 

可奈美と姫和は隣に座り、颯太は少し離れた段ボールの上に座っている。しばらくは3人は何を話せばいいのか、どこから話すべきなのか困っているのか沈黙が続いていたが、姫和が話を切り出す。

 

「なぁ、榛名」

 

「はい、何でしょう?」

 

「お前は一体何者なんだ?何故あんな力を使える?」

 

姫和は少し離れた位置にいる颯太に視線を向け、気になっていたことを質問する。

話しかけられたのが意外だったが、すんなり応答する。

 

 

「それは僕も分かって無いんです。僕は・・・・ずっと普通に生きてきて、何の力もないただのガキでした。でも1年前に管理局の研究所で蜘蛛に噛まれてから身体が変化して、壁を登れたり、感覚が鋭くなったりしたんです」

 

「管理局の研究所だと!?」

 

「えっ?はい、校外研修で行ったときに」

 

「その蜘蛛の体は調べたか?」

 

「出来るわけ無いですよ、力が着いたのに気付いたのは翌日ですし、調べようにもただの中学生が入れる訳無いですし」

 

「そうか、そうだよな」

 

スパイダーマンの力を手に入れた経緯を説明すると、管理局の研究所。この言葉に強く反応する姫和。

恐らくこの人物は意図的に力を手に入れたのではなく研究の副産物に偶然触れて力を手に入れたことだけはなんとなく察する事ができた。

この男はただ、たまたま彼らの陰謀の1つに巻き込まれただけなんだろう。そう考えることにした。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもない・・・1つ聞きたい。お前は何故これをやってる?お前のその力があれば自分のためだけに楽に金儲けだって出来るだろ?荒魂を倒して給料が入るのは私達公務員だけだ。お前は自警団で、荒魂や犯罪者を倒してもお前には一銭も入らない筈だ。自分に何一つ得にならないのに、何故そこまでやるんだ?」

 

思案していると可奈美に心配され、何ともないと返す。

そして、もう1つの気になっている所、それはその力を私利私欲のために使って金儲けだって出来る筈なのに、何故、スパイダーマンとして活動しているのか、そこが疑問だった。

自分達刀使は公務員であり、犯罪者には対応できないが荒魂を倒すことで給料が入る。それが仕事だからだ。

だが、スパイダーマンは違う。スパイダーマンは正体不明の覆面の自警団だ。ほぼボランティアと何も変わらない。そのため、犯罪者を捕まえようと荒魂を倒そうとスパイダーマンには一銭も入らないタダ働きだ。

そんな自分に何一つ得にならないのに、時には犯罪者扱いされるのに何故続けているのか、気になっていたことを尋ねる。

 

「確かに、僕には一銭も入らないし、スーツが破れたり、クモ糸を補充したりで僕の小遣いとお年玉はそれに全部消えるし、今じゃジャンプもロクに買えない時もあります。たまにデイリービューグルにスパイダーマンの写真撮って郵送で送ってその報酬でなんとか切り盛りしてますけど。そして、僕は早くに両親を亡くてして叔父夫婦に引き取られました。それで、去年スパイダーマンの力が備わって、いじめっ子もぶっ飛ばして、調子に乗って最初はこの力を金儲けに使おうとしました。賞金が出るゲームの大会でスパイダーマンの超人的な感覚を活用して優勝して賞金を貰いました。そこで運営の金を奪った強盗とすれ違って僕は舞い上がって見逃したんです、捕まえることだってできたのに。そのせいで僕を父親代りとして育ててくれた叔父さんが強盗に殺されたんです」

 

「前の日に叔父にいじめっ子とケンカしたことで言われました。大いなる力には大いなる責任が伴う。その言葉の意味を理解してなかったせいで叔父さんが死んだ。だからその日から自分に出来ることを少しずつでもいいから始めようって思ったんです。出来ることも、やれる範囲も少ないかも知れないけど自分に何かが出来るかも知れないのに、何もしなくて、それで誰かが傷付いたら自分のせいだって思う。・・・・それで」

 

スパイダーマンであることは辛いことばかりだ、自分の元には何一つ入っては来ない。時には私生活に支障を来たすことも多々ある。責任感でやっていることであるため嫌になることばかりだ。

それでも、やはりあの忘れない1日があるため投げ出すことは出来なかった。

だから小さい事からでも自分の出来ることを始めたのだとこれまでの経緯を話した。

 

 

「それで、困っている人を見つけては助けているのか?」

 

「大体そんな感じです」

 

「なら、会場で介入した本当の経緯を話せ」

 

「当日僕は美濃関の応援に来てて会場で折神紫が現れた瞬間に荒魂を察知できる力が働いて、それで貴女が折神紫の方を殺気の籠った眼で一瞬睨んでて、そして貴女に危険が迫っている反応が出たんです。あ、僕自分や間近で危険が迫るとどんなのかは教えてくれないんですけど身体がゾクゾクして危険を教えてくれるんです。恐らく貴女が折神紫に挑むと予想して、多分一般生徒である僕が言っても誰も聞いてくれないと思ってそれで介入したんです。それに貴方は多分事情を知ってる、だから助けたんです」

 

「・・・・では、何故お前も折神紫を討とうとする?奴は荒魂だが人の姿をしている。お前があいつを討とつということは折神紫も死ぬことになる。お前の人助けと矛盾しかねないぞ、名誉を捨ててまでやることなのか?」

 

自身が会場で参戦した経緯を説明すると、経緯は理解できたがここで何故折神紫を倒す理由を聞かれる。

そして、折神紫を倒すことと人を救う事への矛盾も突き付けられる。

 

「確かにそうです。でも、折神紫を、人に化けた荒魂を放置したらもっと危険な事が起こる。それで僕の近所や身内にだって被害が及ぶかも知れない。これまで人に化けた荒魂が警察組織を統治して荒魂の出現率が減ってたのは彼女が指示を出してたからだとしても不思議じゃない」

「だから今は・・・例え世界から敵視されても、矛盾を孕んだとしても僕は親愛なる隣人スパイダーマンとして人に化けた荒魂を倒す、それ以外は討たない。そう決めました」

 

「・・・・・・・」

 

自身の推測と共に、危険な奴がいる事を分かっていて放置した場合に充分に想像できる被害を考えると自身が何もしない訳にはいかないと自身の意思を伝える。

あの日と同じ事を繰り返さないように、自分が守らなければならない人達を放って、黙って指を加えて待っている事などできないからだ。

その様子にだんまりを決め込む姫和に対し、あまり暗い空気になりすぎないように一瞬可奈美の方を向いてウィンクし、少し軽い明るいトーンで話を切り替える。

 

「それに、味方は一人だけじゃないですよ」

 

「何だと?」

 

「ほい、可奈美さんどうぞ」

 

話を振られた可奈美は姫和を剣を受けた時、そして、駐車場で話した事で自身が決断した事を話し始める。

 

「さっき、姫和ちゃんの剣を受けたとき思ったんだ、姫和ちゃんの剣は重たいって・・・姫和ちゃんの剣には強い意志が乗ってるんだ目的を成し遂げようって意志。だから重たいんだって・・」

 

「・・・・」

 

「あの時、御前試合の決勝戦・・・私は姫和ちゃんがどう攻めてくるかそればかり考えてた姫和ちゃんの事で頭がいっぱいだった。でも、姫和ちゃんは私の事なんか見てなかったよね」

「私ね、結構頭に来てたんだ。姫和ちゃんに無視されたこと」

 

 

「あんな超必殺技持ってるのに、戦ってくれなかったからサイヤ人としてのプライドが傷付いたとか?」

 

「もう!大事な話してるのにサイヤ人サイヤ人って、怒るよ!」

 

「ゴメン冗談だって!」

 

「・・・・・・・」

 

可奈美が真面目に話している最中に颯太が間違ってはいない、というか図星に近い事を突かれ、驚いたが真面目な話をしている時に横から突っつかれたためか過剰反応し、ムキになる可奈美と謝罪する颯太。そして二人の様子に唖然としている姫和。

 

 

「ゴホンッ、それに・・・・黙って見てたら姫和ちゃんが殺されちゃうことにも」

 

 

「なっ!?」

 

 

「姫和ちゃんの言う通り私には「覚悟」がなかった、何をするっていう「意志」も。でも今なら言える私のすべき事・・・・」

 

 

「私の剣が守る剣なら、私は姫和ちゃんの目的と姫和ちゃんを守るよ」

 

「決めたんだね、可奈美」

 

 

「うん」

 

 

「それは、結局人斬りの手助けをするということだぞ!」

 

 

「違うよ!姫和ちゃんは御当主様・・・人に化けた荒魂を斬る、それ以外は斬らせない。それが私の覚悟だよ」

 

 

一旦咳払いをし、可奈美もまた、目の前で人が殺される事を看過できず体が反応した事を伝える。

そして、自身が選んだやると決めたことを貫く「覚悟」とそれを成し遂げる「意思」を伝える。

だが、それは姫和からすれば人斬りの手助けをすることに他ならない為、強く反応する。

だが、倒すのは荒魂。それ以外は斬らせない。それが可奈美の覚悟である。

颯太は折神紫を倒すために戦い、それ以外は討たないこと、可奈美は姫和が紫を倒すという目的を守り、それ以外の者を斬らせないと似ているが少し異なる決意する。

それでも、二人が助け合うことには変わりはないのだが。

 

 

「・・・・・・私が折神紫を倒したい理由・・・」

 

「え?」

 

「話したくなったら話せと言ったろ?今話す」

 

「「どうぞ」」

 

二人の話を聞いて、何かを決めたのか、重い口を開き自身の目的を話始める姫和。

 

 

「二人とも、20年前に起こった『相模湾岸大災厄』は知っているな」

 

「有名じゃないですか、叔父さんと叔母さんから聞いたことがあります」

 

「20年前に起こった事件で江ノ島に現れた史上最悪の大荒魂を折神紫と今の五箇伝の学長たち六人の特務隊が討伐したっていう」

 

20年前の1998年9月に起こった史上最大規模の荒魂災害。相模湾岸沖の事故により海中に大量のノロが流出、観測史上最大の大荒魂と化した。大荒魂は相模湾岸から上陸、北上し、藤沢市などで死者3千人を超える甚大な被害をもたらした。警察の機動隊、自衛隊の全面協力の下、大荒魂を江の島に封じ込めることに成功。特別祭祀機動隊による少数精鋭の特務隊によって鎮圧された。帰還した六名の特務隊は後に英雄視されたという誰もが1度は耳にしたことがある災害の話をし始める。

 

 

「・・・・その中に私の母もいた」

 

「えっ?」

 

「確か六人の筈ですよね?もしかして揉み消したのか・・」

 

特務隊に参加していたのは6人だという話を聞いていた為、その発言に違和感を感じた二人だが先日の戦闘で管理局がトゥームスという傭兵を雇っていた理由や揉み消しが可能な点を鑑みると紫が姫和の母親が参加していたという事実を隠蔽したと考えても不思議ではなかった。

 

 

「そうだ、記録には残されていない。世に知れ渡っている事件の顛末は何もかもが虚偽だからな」

 

「えっ?」

 

「真実はすべてこの手紙に書かれていた」

 

やはり、紫には事件が起きようともそれを揉み消し、0から証拠を作り出せる権力があることを知らしめられる。

どこからともなく取り出したB5大の白い封筒を取り出して見せる。

 

「お前たちが見た、英雄「折神紫」の正体はその討伐された大荒魂そのものだ。この国・・・いや、世界の存亡を脅かすと言われた許どの災厄、忌むべき存在。純然たる穢れ・・・それが奴だ。そして数多いる刀使の中で唯一奴を討ち滅ぼす力を持っていたのが私の母だ」

 

「だが完全には討ち滅ぼせなかった、奴は折神紫になりすまし生き延びた。刀使の力を使い果たした母は年々目に見えて弱っていった、そして去年私が見守る中息を引き取った」

 

「その夜私は誓った・・っ!母さんの命を奪ってなお人の世に潜み続ける奴を私は討つと!母さんがやり残した務めを私が果たすと・・・!」

 

「・・・・・お前の言う重たさの半分は刀使としての責務だが・・・半分は私怨だ、だから付き合う必要は」

 

 

彼女の口から放たれる真実、その声色からは強い憎しみもあると同時に時々泣きそうになっているように聞こえる声色になりながらも、それでも中学生が背負うには重すぎるその小さな肩に多くの物を背負っている事がよく分かる。

昨日トゥームスに国家に刃向かうテロリストと揶揄されていたが同じくテロを行う者同士だとしても背負うものが違う。そう感じさせられる。

 

 

「そうだね、重たそうだから半分・・・私が持つよ」

 

そこで可奈美は姫和の手紙を握る手の上に自分の手を重ねて優しく包み、微笑みながら自身もまた共に戦うことを伝える。

 

「そして1個忘れてません?ここに相手を傷付けずに捕まえられる達人がいるってこと」

 

「颯ちゃん」

 

 

そして、姫和の話を聞き、少しだけだが彼女がどういう人間かを理解できた為、本格的に協力しようと後押しさせた。

可奈美の剣が守る剣であるように、スパイダーマンの力もまた、人を救う力でありたいと思う颯太は昨日自身がヴァルチャーと戦闘をした際に相手を殺さずに倒し、怪我人を出さなかったこと、エレンと戦った際も後で隙を突かれたが相手を傷付けずに無力化したことをセールスポイントとし、協力の姿勢を見せる。

 

「十条さん、貴女は立派です。それ以上に勇気がある。確かに私怨はあるかも知れません。でも、人々やお母さんのために強大な敵にたった一人でも挑むその勇気、貴女の勇気は僕や可奈美だけじゃ無くて他の人達の心も動かしています」

 

「だから僕も貴女に協力します。アイツを倒さないともっと危ない事が起きる。それに・・・・前に言った通り、強大な敵にたった一人でも挑むガッツのある女の子が命を懸けてるのに僕が何もしなかったら、僕は親愛なる隣人じゃなくなります。それだけですよ」

 

姫和座っている場所の近くまで歩き、方膝をついて同じ目線になりながら、私怨があったとしてもその小さい肩に何もかもを背負い、母親のため、刀使として人々のために強大な敵にたった一人でも挑む勇気に自身もまた動かされていた事を伝える。

なら、親愛なる隣人スパイダーマンは目の前の困っている人を放って行くなど絶対にできない、たった一人でも強大な敵にたった一人でも立ち向かう勇気がある少女が命を懸けてるのなら自身も戦わなければ親愛なる隣人は務まらないからだ。

 

「・・・・・ん?他の人達と言ったか?お前何を知っている?それは誰だ」

 

「あー・・・えーとその・・・これから合流するfine manさん達とこのスーツをくれた人」

 

「スーツをくれたのは誰なんだ?」

 

「アイアンマンことトニー・スタークさんです」

 

「なっ!?アイアンマンだと!?そのスーツを作ったと言うのか!?」

 

颯太の言葉を聞いて誰からも咎められ、否定されてもおかしくない自分の決断を笑うことも、否定することもなく勇気のある行動だと言い切られ、少しだけ温かい気持ちになる。しかし、一瞬だけ引っ掛かるワードが耳に入り、気になって尋ねる。

スーツがいきなり高性能な物に変わっていた事が何となく気になっていた為、何かしら協力者がいるという疑念もあったからだ。

 

スーツをくれた相手が軍需産業の社長であり世界的に有名なヒーローとして知られているトニー・スタークだとすると瞳孔を大きく散瞳させ、驚愕を隠せない。

確かに、世界的に有名な人物と関わりがあると知ったら驚くのも無理はない。むしろ普通のリアクションだ。

 

 

「はい、そうです。これから会うfine manさん達は会場で僕が逃げるのを手助けしてくれました。そして、スタークさんは正式なメンバーでは無いようですが協力してくれてるみたいです」

 

「・・・・・・・」

 

 

「あー信じられないなら他の機能見ます?拡張尋問モードとか偵察ドローンとか色々」

 

「見たい!」

 

「いや、昨日から大幅に変わったスーツの性能を見ていれば疑いようはない。それで、こうしている間お前はどうしていることになっている?」

 

「えっと、羽島学長の計らいでスターク社でインターンの研修旅行に行ってることになってます」

 

「学長すご過ぎるね・・・」

 

「まぁ、確かにアイアンマンが味方と考えると少しは説得力があるな・・・少しは信用してもいいかもな・・・」

 

 

これから会うfine manの協力者に世界的なヒーローアイアンマンことトニー・スタークがいるということはfine

man達は信じても良いかも知れないという話に説得力が出た為、少しは信用しても問題ないかも知れないと緊張が解れる姫和。

 

 

一方その頃、

雨も上がり、山中の駐車場に簡易テントやパジェロが立ち並び、雨が上がるのを待っていた捕獲任務に当たる面々がテントから出てくる。

格納庫にて待機していたハーマンは既に両腕にブラウンのガントレット、黄色を基本色として網目状の模様、頭部には専用のヘルメットのややヒロイックなデザインの全身完全防備の対荒魂用戦闘パワードスーツ『ショッカー』を装備していた。

寿々花が掌を天に向け雨が降っていないことを確認する

 

 

「ちょうど雨が上がりましたわね」

 

 

「ったく、雨ぐれぇで尻込みしやがって。気合いが足りねんだよ気合いが。もっと熱くなれよ、熱い血燃やしてけよ」

 

 

「全身完全防備のスーツを着ている状態で言っても説得力がありません」

 

「プッ」

 

「あ゛?髪色戻し振りかけんぞコラ」

 

ショッカーがシャドーボクシングをしながら身体を慣らし始めながら雨にも負けない逞しさを振りかざしているが夜見にショッカーのスーツを着て完全防備をしている姿では説得力が無いことをツッコまれ、隣にいた寿々花がショッカーにバレない程度に軽く吹き出す。

夜見の冷静なツッコミに反応し、メンチを切るショッカーだが、スーツで顔が隠れているため表情は伝わらない。

 

「そこまでにしておけ、これから僕たちはチームで行動するんだ。シュルツ、お前は僕たちの指揮下にいることを忘れるなよ」

 

「分かってるっつの、アンタらの言うことには素直に従ってやらぁ」

 

早速チームの和を乱しかねないショッカーを見かねて真希が注意すると素直に言うことを聞くショッカー。

喧嘩っ早く、誰に対しても喧嘩腰で尊大だが言うことはすんなり聞くタイプであることは分かってきた為問題は無いと判断した真希は一呼吸置いて新鮮な空気を吸って溜めた息を吐き出し、全員に気合いを入れるために両腕を組み、真剣な表情で一喝する。

 

「ならいい。さぁ・・・・山狩りだ」

 

 




明後日キャプテンマーベルやんけ

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