刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任- 作:細切りポテト
ヴェノム公開日には出せるようにしたのでクッソ急ごしらえです。
体育館裏での騒動の後、教師たちに特別指導室に連行された4人は生活指導の教員から喧嘩の原因について問い詰められていた。
事前に颯太はこれまでの事を全て許すから軽いプロレスごっこの延長で本格的にやり過ぎて喧嘩になり、拳を交える上で友情が芽生えてあの土下座は3人が改心したことにするように話していたためその通りに話を進めていた。
3人が改心した上で、被害者に謝罪した事にすればある程度酌量の余地はあるかも知れないと考え、自分もやり返した事実は悪いと言う意識はあったため遊びの延長での喧嘩、しかし両者は和解しているという事にして最低限のリスクで済むようにしようと考えていた。
そして何よりなるべく早くこの力のテストがしたくてしょうがなかったからだ。
ただし少し無理があるかな…。
内心では自分の穴だらけな言い訳に冷や汗をかきつつ緊迫した状況が続く。
そして生活指導の教員は重い口を開き、4人の処分が決定した。
結果、お互いに怪我は無かった上、全員深く反省してると判断されたため喧嘩両成敗として厳重注意と保護者への連絡とGWが明けたら校舎の掃除を1週間行う。ということとなった。
「「「「失礼しました」」」」
特別指導室から出て喧嘩をした3人は颯太に怯えていたが、颯太は3人を許したため別に怖がらなくていい。でももう他の人にこんなことするなよと釘を指し、寮へと帰ろうとすると校舎の出入口の前に2人の女子生徒と1人の男子生徒が待ち構えていた。
可奈美と舞衣と針井だ。3人の表情は心配と不安、少し怒っているようにも見える。
「あぁ、3人とも…ごめんよ心配かけて」
「言いたいことは色々あるけど、怪我は無い?」
「全く、何がどうなってんだよ…」
「いじめっ子相手とはいえ、ケンカなんて颯ちゃんらしくないよ!それに何で1人で解決しようとするの!?」
と3人に次々と問い詰められた。
3人の言ってることは確かにその通りだ。だが力の事は言えない、不確かな情報で混乱させるのは避けたい。
それでも心配をかけたし形式上の事実だけでも応えなければ。颯太は後頭部を手で掻きながらバツが悪そうに
「僕だって人間だしたまには怒るさ。それが我慢できなくなってつい爆発しちゃったんだよ…。殴り返した僕も悪かったし、誰も怪我しなくてあのガチムチ3人もちゃんと謝ってくれて反省してくれたからもう心配ないよ」
「それに可奈美。確かに僕はそんなにケンカなんてしたことないけど可奈美や戒刀とケンカになって竹刀持ち出して剣術で白黒つけたりしたこともあっただろ?」
教員に話した内容とは少し違うが一応事実を説明した。
確かに怒りを抑えられずに爆発してつい手が出るというのは割と人間らしい理由で不自然ではない。
それに貧弱な体型の自分があのガタイのいい3人に勝ったという事は自分とあの3人しか知らないことであるため、勝敗はともかく殴り合いの末和解できたのだという年頃の少年少女ならよくあることで納得させようと試みる。
そして、可奈美には過去の体験談を交えて自分も怒ることはあると説得力を持たせようとする。
「でも、柳瀬さんと可奈美には困った時は頼るって言ったのに怒りに任せて先に行動しちゃったことは本当に悪かったって思ってる。後、ハリー。君を巻き込みたくなくてずっと黙っててほんとにゴメン」
可奈美と舞衣には頼るよりも先に感情的になってしまったことやハリーには遠慮して何も言わなかった事を謝罪する。
「ううん、もういいよ。ケンカは感心しないけど誰だって怒るときは怒ると思うし。」
「全く水くさい奴だな、迷惑な訳ないだろ」
「確かに普段大人しいけどちゃんと人並に怒るもんね颯ちゃんは」
遠慮していたことやケンカをしたことを少し咎められたが納得はしてくれたようだ。
しばらくの会話の後、それぞれが寮の自室へと戻る。
寮の自室に着いた瞬間携帯電話から着信がある。
実家からだ。もう連絡が着いたことを察して電話に出る。
『もしもし、颯太か。』
「うん、叔父さん」
『お前が喧嘩して怒られるなんて初めてだな。まぁ詳しい事は明後日からの連休に帰ってから話そう。じゃあおやすみ』
「ほんとにごめん…おやすみ叔父さん」
短い内容だった。電話越しだったから分からなかったが怒っているという感じでは無かった。
しかし、実の両親でも無いのに実の親のように育ててくれた叔父夫婦に感謝と同時に幼少期から負担になっている自覚があったためなるべく迷惑をかけないように過ごしてきたが二人に迷惑をかけた事を再認識させられる。
帰ったらちゃんと謝ろう。
そう心に誓った後、一人になった事を実感すると蜘蛛に噛まれた事によって得た力について実験がしたい欲に襲われる。
そうだ。叔父に教わった5段階の科学的手法を使って状況を分析しよう。
颯太が科学オタクになったのは同じく科学オタクだった叔父の影響であり、科学を用いる者として状況を分析する際に用いる手法を教わっていた。。
手順は観察、仮説、予測、実験、結論。
剣術で言う所のよく見る、よく聞く、よく感じ取るに近いものだろうか。この手法を用いて状況を分析することにした。
そう考えた颯太は机に座り大学ノートを棚から引っ張り出しシャープペンを数回手で回した後に書き込み始める。
第一に観察。
「観察した所、研究所で蜘蛛に噛まれた事により特殊な力を手に入れた。
蜘蛛の死骸を解析すれば何か分かるかも知れないが場所が遠い上に今の僕では入ることは不可能なため、解析をするという選択は除外。
実際に自身に起きた現象は視力・身体能力の強化、危険が近付くと全身に鳥肌が立ったようゾワリとした感覚になり、教えてくれるがどのような危険かは教えてくれない。この感覚を一旦仮名としてスパイダーセンスと名付けることにした。
蜘蛛は自分の100倍以上の重さを持てることや、高い感知力を持つと言われている。後は未だ試してはいないが…」
そうして部屋の窓を見やり、窓を開ける。
窓枠に足を掛け、窓の外の壁に手を触れる。そのままよじ登ろうとすると壁に手足が貼り付きそのまま寮の屋上まで登ることができ、帰る際も壁を伝って部屋に戻った。どうやら粘着力も身に付けたようだ。
次は第二段階、仮説だ。
「僕は本日のケンカやボールを投げ返した時のことを参考にし、自身の力を自分のために利用できると仮定した。
感覚と腕力、粘着力を手に入れたが蜘蛛のように体から糸を出すことはどうやら不可能なようだ。
しかし、事前に糸を用意する事により、擬似的に糸を射出できる装置を作成する事を思い付いた。」
一晩中装置の構想を練る颯太。
ノートには装置の構造や図面がびっしりと書き込んである。
「仮名はウェブシューター。
手首に着けるリストバンド型の小型の腕輪に手のひら部分にスイッチを作り、中指と薬指で20kg以上の力を入れてスイッチを押すことで、クモ糸が発射される。
糸の素材の候補としては以前針井グループが刀剣類管理局に技術提供として作成を予定していた対荒魂用捕縛ネットの原料に使用される予定だった特殊な液状プロテインだ。空気中に射出された瞬間に凝固し、伸びれば伸びる程引っ張り強度が強くなる強靭な繊維になるようにチューンナップを加える事にした。方法は秘密。
開発が頓挫して以降は用途を変更して、市販で買える物であるため確か学校にも置いてある。明日の放課後に実験室を借りて早速作成に取りかかろう。」
放課後。実験室に1人で籠り、保護用ゴーグルを掛けて作成する。その中で何度か装置が暴発して床にクモ糸が飛び散り後片付けが大変だったが1時間で自然に溶けることを検証できた。
夕食後もこっそり部屋に工具を持ち込み一晩中の作業と試行錯誤の末一先ず完成した。
使用方法の練習として部屋のゴミ箱に入っていた空き缶を的にして糸を当てる練習をし、ある程度慣れて来た後は引っ張り強度を確かめるため皆が寝静まった丑三つ時に寮の屋上まで登る。
屋上から校舎に向かって糸を射出すると校舎の壁に糸が貼り付き、引っ張ると強度が強くなっている事を確認する。
そして糸を持ったまま屋上から飛び、校舎に乗り移ろうとしたが勢い余って校舎の壁に激突するがかなり痛い程度で済んだのは身体能力が向上したからだろう。
何度か校舎と寮を糸をスウィングさせて移動することでコツは分かってきたため、練習は一旦終了した。
次は第三段階、予測。
「ウェブシューターに時計の機能をつけて量産化して売り出せば一儲け出来そうだがそれをすぐに行うには資金も時間も無いため一旦保留とした。
人智を越えた身体能力を披露したパルクール動画を投稿してyoutuberもアリだが流石にこの歳でこの方法で稼ぐのは少し気が引けたので別の方法を考えることにする。
プロレスは…中学生になったばかりですぐに参加できる形式の試合は現状無いためすぐに結果が欲しい今では有効な策ではない…」
そうして携帯をいじるとあるホームページを見つける。
「Eスポーツ…エレクトリック・スポーツか。賞金が出る奴だっけ?確かに蜘蛛の超人的な直感と反射神経を利用してゲームを有利に進めて優勝も狙えるかもしれない。」
「ん?中学生でも参加できるのもあるのか、僕がやったことあるゲームは…カントリーファイターだけか。まあ格ゲーとかFPSならこの能力を活かせるかも。しかも優勝賞金50万!」
と以前に自身がプレイした事があるゲームが大会の参加ゲームに指定され賞金が出ると知りテンションが上がっている。
「問題の場所は…実家からは近い。そんでGW中か、これは行くっきゃないな!」
開催場所が実家から近いことを確認できたため、帰省した際にEスポーツに参加する事を決意する颯太。
第四段階、実験。
帰省当日
生徒それぞれがバスや新幹線、保護者が車で迎えに来ており、帰省を希望する者達はそれぞれ実家に帰る準備をしていた。
「じゃーねー!舞衣ちゃーん!ハリーくーん!」
「3人ともまたな!」
「皆また学校でねー!」
「うん!またねー!」
と上から可奈美、ハリー、舞衣、颯太の順に友人達に連休の間のしばしの別れを告げる。
舞衣は執事柴田の運転する車で、ハリーもまた執事が運転するリムジンで、颯太と可奈美はそれぞれの家族が迎えに来る近場のバス停までバスで帰ることになった。
バスに乗り込み互いに隣の席に座り、バスが走り出す。
「もう入学してから1ヶ月も経つんだね。ほんとに早いなぁ、クラスの皆色んな流派の人がいて予定が合う日は稽古したりで毎日楽しいんだ!」
「確かに早いな。しかも色々ありすぎたって言うか…」
「その色々な問題を引っ張って来たのは颯ちゃんじゃん」
「うぐっ…仰る通りです」学校生活について他愛の無い話をしている二人。
ふとすると可奈美が颯太の顔をじっと覗き込んでくる。
「な、何?」
「…良かった、元気になってくれて」
「あぁ…皆の、可奈美のお陰だよ」
「でもなんか元気になったっていうより楽しそうって感じがする。なんか良いことでもあった?」
やはり鋭い可奈美、颯太が無意識に楽しくなって機嫌が良くなっていたのを見抜いている。
「そう、良いことがあったんだよ。今朝呼札で限定星5出たし、久々に叔父さんたちに会えるし連休でゆっくり休めるしね」
嘘では無く全て事実だが力の事を勘づかれるのを避けるため無難な内容で嬉しい事を伝える。
「そっか、それは嬉しいかもね。そうだ颯ちゃんさ、明日暇ならウチの庭で剣の立ち合いしない?」
ここ最近はしていなかった剣術での立ち合いを提案してきた。
「あ、ごめん明日は無理かな。個人的な用事がある。明後日ならいいよ」
「分かった。明後日にやろ!」とEスポーツが終わった後に立ち合いの約束をする二人。
すると二人を乗せたバスが二人の保護者が待つバス停に着く。
料金を払いバスを降りると、颯太の叔母の芽衣と可奈美の父和弘が車から降りて待っていた。
それぞれが家の車に乗りお互いの家へと帰る。
車の中で芽衣は学校生活での事や友人の事、ケンカで怒られたことに関しては触れて来なかった。拓哉が仕事から帰ってきてから話すつもりなのだろう。
家に着き自室に入り拓哉が帰ってくるまでやることも無いため、壁にかけてあるダーツの的にウェブシューターのクモ糸を当てる練習を軽くしたり、明日参加するカントリーファイターのソフトを起動しコンボの練習をしたりしていた。
「颯太~ご飯よ~」と下から芽衣が呼びかけてくる。恐らく拓哉も帰ってきたのだろう。
「今行くよ叔母さん」
部屋を出て階段を降りる。と仕事から帰り上着をハンガーにかける拓哉の姿を見かける。
「お帰り叔父さん、後ただいま」
「あぁただいま、そんでお前もお帰り」
久々に再開した拓哉も含めて3人で夕飯のテーブルに着く。
久々の叔母の料理を味わいながら拓哉にはまだ話してない学校での事を話したりしていた。
「そういやお前、最近可奈美ちゃんとはどうなんだ?」ニヤニヤしながら聞いてくる拓哉
「何でそこで可奈美が…別にいつも通りだよ。前よりは頻繁には会ってないけど」
「でも新しい女の子のお友達もお嬢様でかわいいのよね~」
「やるなぁ颯太。流石俺の甥っ子だ」
「いやだから何でそうなるのさ…」
確かに基本的に科学にばかり関心が行く颯太からしても二人とも美少女だと断言できるが二人とも良き友人ではあるがそのような感情はない。
そもそもまだ自分にはよくわからない感情だからその手の話をされてもイマイチピンと来ない。
夕飯を食し、食器を片付けた後。リビングに3人で腰掛ける。恐らくケンカの件でだ。
颯太は叔父夫婦には本当は自分は3人にいじめられていてキレてやり返してケンカになった事を伝えた。学校には彼等を悪者にしないためにプロレスごっこの延長でケンカになったことにした事を伝えた。
勿論3人とは既に和解した事もしっかりと伝えていた。
「江麻から電話が来たときは驚いたわ、颯太はこれまで私たちに反抗したことも無かったから」
「まあ、お前も男だ。譲れないとこまで来てやり過ぎちまうこともあると思うよ。俺も中坊の頃はよくケンカしてたしな。クラス1のヤンキーとどっちが先に校内で1番かわいいって人気だった叔母さんに告白するかで夕日の河原でタイマン張ったりしたんもんさ」
「もう拓哉さんったら…」
過去の二人の思い出も交えて説教をする拓哉。
当時の事を思い出したのか少し恥ずかしくなる芽衣。
「まあケンカした奴らとも和解してるみたいだしケガも無いみたいだから、お前が一方的に無抵抗な相手をボコボコにしたって訳じゃなくて安心した。でも誤魔化した事に関しては自分の中でそれは正しかったのか考えるようにしろよ。まぁ過ぎた事に介入しても意味は無いからこの事に関してはもう言わん。」
「お前も思春期で多感な時期だろうし体も強くなっていくから色々思うところはあるだろう。けどなこれだけは覚えておけよ」
一呼吸置いて拓哉はこれまでに無いほどに真剣な顔になる。
「大いなる力には大いなる責任が伴うんだ。その意味をお前はしっかりと考えて向き合って行くんだ。そして力を持ったその瞬間からお前はやり方次第では誰かを泣かせることにもなるんだ。その事をしっかり考えろ、いいな?」
力強く力説する拓哉に気圧される颯太。
「分かったよ。叔父さん…」
言葉の意味はまだ少し理解できない所もあったが教訓の1つとして覚えておく事にした。
「まあ固っ苦しい話はここまでにして、明日お前少し出掛けるんだろ?俺明日休みだから送り迎えしてやるよ」
「いいの?叔父さん」
「おう」
送迎の約束をする二人。この後3人でアイスを食べながらテレビを見たり、部屋に戻ってゲームの練習をしたりして時間を潰し、入浴を済ませて就寝する事にした。
-翌日-
叔父の車で送り届けられ、会場に着いた颯太。
胸元に蜘蛛のマークが書いてある赤いパーカーと青いジーパン姿に気合いを入れるために赤のオープンフィンガーのグローブに野球帽というラフ格好だ。上着のポケットにウェブシューターと目出し帽を隠し持ちエントリーを済ませる。
リングネームを考える必要があるらしく、特に思い付かなかったため適当に「スパイダー」と書いて提出した。
エントリーを済ませた後は控え室で待つ事になり、適当にパイプ椅子に座ってスマホでゲームをしながら時間を潰していた。
周囲を見ると明かにガチゲーマーという風貌の者達ばかりで並々ならぬ迫力を感じる。
しかし颯太は科学手法の第四段階、実験を検証する為に来たため気持ちで負けてはいけないと気持ちを切り替えた。
そして第1回戦が始まる。大会はトーナメント形式で早速試合が始まる。
対人戦はやった事が無いため、何とも言えないが先日にかなり練習したため何とかなりそうと考えていた。
選手達が会場に入場すると会場がプロレスの応援席のように熱狂し始める。
ものすごい歓声に押されそうになるが気を取り直して台座に座り、100円を入れる。
どうやら超人的な直感と感覚はゲームにもいかされているようで相手の攻撃タイミングを読んで的確にガードし、隙を見てコンボを決めて勝利して見せた。
行ける!これなら・・・っ!と自信を着け、次の試合も順当に勝ち抜き、いつの間にか決勝に来ていた。
控え室で待っていると選手名が呼ばれ、もう1度会場に入る颯太。
レフェリーがマイクを持ちながら高らかにパフォーマンスを始める。
「さぁ皆さんやって参りまたした!決勝戦です!本日のトリを飾るのはこの二人!!」
「初出場でありながら有名選手に次々と勝利し、決勝に登り詰めた期待のダークホース!赤ーコーナー!スパイダー!」
「「「「foooo~‼‼」」」」と会場から歓声が上がる。
気分を良くした颯太はバク転を決めながら入場し、着地した際にポーズを取ると更に歓声が上がる。
「相対するは5年連続優勝!難攻不落な絶対勝者!青ーコーナー!ダイナイト・バスター・ガイイイイイ!」
明かにゲームとは無縁そうな全長2mはある大柄な筋肉隆々な男が会場に入って来る。
「新人の蜘蛛野郎をぶっ潰してやるぜええええ!」と会場中に聞こえるような大声で宣言するガイ。
両者共筐体に座り、100円を入れる。
明かにゲーマーには見えないこの対戦相手からはものすごい気迫が伝わって来るが、ここまで来た以上やることは決まってる。勝つだけだ。
緊迫した状況が続く中、試合が開始される。
流石はチャンピオン。これまでの相手とは次元が違う。そう実感させられる程にプレーに隙が無い。
猛火の如く攻めに押し負け1ラウンドを取られてしまう。
2ラウンド目では守ったら負けると判断し積極的に攻撃を仕掛けた。相手は勿論防御もお手の物で中々崩せなかったが一瞬の隙を着いてコンボを決めて勝利をもぎ取る。
ファイナルラウンドではお互いに攻めに転じ、互角以上の打ち合いをするが、ガイがバーストを発動するタイミングを読み、バーストを外させ隙を生ませた際に必殺技でトドメを刺す颯太。
「今回の優勝者は赤コーナー!スパイダー!」
激戦の上勝利した颯太と互角以上の試合を繰り広げたガイを称える声で会場は熱気に包まれた。
「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」
ガイに向けて人差し指と中指を揃えて伸ばし、額に指先を当てる要領で顔の前を手で隠し、ウィンクしながら人威勢の良い掛け声とともに力強く指先を向け、爽やかな笑顔で対戦を締めくくる。
ガイと握手を交わして表彰式で優勝のメダルを貰い。
優勝賞金50万円を勝ち取り完全に有頂天に達していた。
「さーて、何に使おっかな~♪叔母さん達に新しい洗濯機?心配かけた3人を焼き肉に誘おっかな~♪それとも自分用に高スペPCもアリだな」
浮かれて歩いていると颯太の横を顔を目出し帽で隠した男とぶつかるが、男は颯太に謝りもせず駆け抜けていく。
「誰か!その男を捕まえてくれ!勝手に侵入しやがった!」と言われたが完全に上の空だった颯太は男をスルーしてしまい。
「あばよマヌケども!」と会場の外に逃げる男。
「ったく。使えねーガキだな!」
警備員は男をスルーした颯太を叱責するが急にそんな事を言われた颯太はこれ以上無いほどに不貞腐れた顔を警備員に見せて、トイレに入って用を足す。
そろそろ叔父さんが迎えに来る頃か・・・と拓哉に買って貰った時計に目をやり、会場の外に出る。
なんだ・・・外の様子がおかしい。何か異常な雰囲気を感じ取り、周囲を見渡すと1ヵ所に人集りが出来ていて何かを取り囲むようにして集まっていた。
嫌な予感がした颯太は人集りに近付き人と人との間を潜り抜けて中心まで来ると眼を大きく見開かせた。
叔父の拓哉が胸から血を流して倒れているのだから。
嘘だ!こんなの嘘だ!信じたくない気持ちで1杯だったが現実は残酷。自分にとってはいつもは優しく、時に厳しく育ててくれた父親のような、そんなかけがえのない相手であった。
「叔父さん!どうしたんだよ!」
「あぁ・・・颯太か・・・悪い、俺はもう死ぬっぽいわ・・・」
消え入りそうな、いや、最早消えかかっていると言っても良いほど生気が感じられない声だ。
「何言ってんだよ叔父さん!叔母さんはどうするんだよ!?大事な嫁と一生一緒にいたいって言ってたじゃないか‼僕だってそうだ!まだ教えもらって無いことだってたくさんあるし、叔父さんたちに何も返せてない!」
涙目になりながら残される叔母のことを想いながら、そし負担ばかりかけて何も返せない自分の事をこれほど憎らしく思った事はない。そんな感情を込めて叫び声を上げる。
それに反し、拓哉は死を悟ってか最後の力を振り絞り颯太の手を強く握りって言葉を発する。
自分の着いた血が甥の手を紅く染め上げるが気にせず続ける。
この言葉は、呪いだ。甥の生き方。これからの在り方。
全てを歪めてしまうかも知れない。それでも、最愛の甥にどうしても伝えたい事があった。
「いいか・・・最後だ、よく聞け。大いなる力には大いなる責任が伴う。力を手にした瞬間からお前はやり方次第では誰かを泣かせる番になるかも・・・知れない。
それでもお前は1度決めた事は最後までやり遂げる・・・俺の自慢の息子だ。きっと正しいと信じたことを成し遂げる。だからお前にしか選べない・・お前が後悔しない生き方をしろ・・・後は」
消えていく意識の中、最後に想い浮かべたのはこの世で最も愛する自分の妻。
中学生の頃、クラスのヤンキーとタイマンして勝ち取って告白したあの日からずっと愛し続けてきた女性。
振り返っても平凡な人生だ。それでも家族の小さな幸せを守る為に働けたこと、一生1人だけの女を愛せたなんて我ながらありきたりで平凡で、かっこいいじゃねえか・・・そこだけは自慢かな。
「芽衣にごめんって言っといて」
そのまま力なく項垂れ、命が消え行く様を目の前で体感し、体が冷たくなりだしたのを感じた。
「叔父さん・・・・・? ・・・・ッ!父さん!死ぬな!バカヤロオオオオ!」
この日、人生のうちで大切な人を失うのは3度目だ。
でも止まる訳にはいかない。今の自分は怒りでいっぱいだ、だから絶対に犯人を捕まえてやる。
この時颯太の顔は周りにいた人達が引くほど怒りで歪んでいた事だろう。遠くに車を追うパトカーの音が聞こえる。そして叔父の車は駐車場にはない。恐らくカージャックされたのか。なら、パトカーを追っていけば辿り着けると状況を整理し、人集りを抜けものすごい勢いで駆け抜ける。
あまりの速さに道行く人々は唖然としていたが気にならない。しかし、走るだけではパトカーには追い付けない。
なら・・・上着のパーカーのポケットからリストバンド型の腕輪、ウェブシューターを装着し、目出し帽を被る。
高い建物に向けてクモ糸を射出する。
吸着した事を確認し勢いに乗せてジャンプし、刀使が八幡力を使ったような勢いでビルと同じ高さまで飛び上がる。
体が地上を離れ、重力から解放されたような感覚に襲われるがすかさず再度落下する前に別のビルにクモ糸を飛ばし、空中を移動をしながら決意を固める為に叫ぶのだ。
「絶対に・・・・犯人を捕まえてやる‼」
長スギィ!