刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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祝え!6月28日、スパイダーマン:ファー・フロム・ホームの公開を!・・・・いや、最早言葉は不要!映画を観に行く諸君!ただ映画館で最高の瞬間を味わうがいい!
それはさておき私も初日に見に行けそう!(代わりに7月は地獄だけどな!)

公開日に間に合うようになので説明回でありながら急ごしらえです。一応26話で存在は軽く語ってはいたけどちょっと唐突な登場ですがこの機会逃すと若干出しにくいから片目つむって許してちょんまげ


第30話 脱走

逃亡者一行に潜水艦で海底に逃げられた為、これ以上の追跡の手段が無いため管理局本部へと撤収した親衛隊一行。

米軍に連絡をしたところ哨戒網に反応がなく完全に見失い、作戦は失敗してしまった事が判明する。

 

捜査本部で指揮を執っている雪那は苛立たしげに椅子から立ち上り、本部に来ていた真希と寿々花、そして新装備組に装備を渡した栄人をなじり始める。

 

「親衛隊が3人も揃って何だこの失態は?やはりお前が雇った連中も大して役に立たないボンクラ共ばかりだな。世界中から集めたとかいうエキスパートが聞いて呆れる。しかも、その内の一人は・・・・」

 

そして、任務に参加していた内の一人、皐月夜見は任務遂行のためにノロの過剰投与で意識を失い、負傷して医療施設に入院していた。

彼等に敗北してスーツを破壊されたアレクセイが夜見を駐車場まで運び、その後に緊急搬送され、アレクセイも軽傷であったが念のため治療を受けている。

逃亡し、親衛隊にまで手傷を負わせたとなると更に罪状が重くなってしまう可能性があり、自身が学長を務める学校の生徒たちを心配しつつも夜見の体調を気遣ういろはと江麻であった。

 

すると静寂を破るようにノック無しで捜査本部の扉が開かれる。

刀剣類管理局局長、折神紫が捜査本部に入室すると室内が強張った空気になる。

 

真希と寿々花は右手を左胸に当て、瞳を閉じてお辞儀をする。

親衛隊ではないが栄人も急いでお辞儀をして微動だにしなくなる。

 

「申し訳ございません。この度の失態申し開きのしようも」

 

「いい。気にするな」

 

「しかし・・・」

 

真希が謝罪をするとその言葉を遮り、任務の失敗を容認する寛大さを見せる。

次に捜査本部の椅子に座る面々の方へと視線を移して口を開く。

 

「美濃関学院、平城学館の学長は現時刻をもってこの特別任務から解任する。それぞれ自分の職務へ戻れ。」

 

 

「「はい」」

 

「鎌府学長」

 

「はい!」

 

任を解かれた2校の学長は早々に本部から退室していく。それと同時に紫が雪那の方へと声をかける。

声をかけられると先程の苛ついたら口調からややトーンの高く、嬉しそうな声色になる。

 

「お前は自分の持ち場を離れるなと言った筈だが?」

 

「は・・・はい・・・」

 

どうやら先程まで散々命令も関係なしに出しゃばっていた事を咎めてはいないが釘を刺すように言い渡され、萎縮しながら2校の学長が退室していく後についていく。

 

「針井、この任務で新型装備の戦闘データはどのような状況だ?」

 

 

「はい、伊豆での戦闘によりショッカーとライノのスーツは破壊されてしまい近日中では完全修復するこは出来ませんが戦闘のデータは大幅に更新されています。実戦投入への未来もそう遠くは無いかと」

 

「そうか。お前には申し訳ないがもうしばらくはここにパイプ役として残ってもらう。管理局所属の特別研究チームが持ってきた物については把握済みだ。代表でこちらに届けに来た者には帰宅して構わないと伝えろ」

 

「かしこまりました」

 

「2羽の鳥は未だにこちらの掌にある。案内してもらおうではないか」

 

紫の意味深長な呟きに顔をあげて少し軽く驚く3名であるが栄人が自身が所属する美濃関の学長である江麻にしばらくは管理局に残ることを伝えるために退室する。

 

場面は変わって正門

 

正門の前で雪那に連れられて少し後ろを歩く沙耶香と江麻の背後を歩く舞衣がすれ違う。

 

「沙耶香ちゃん」

 

「あ・・・・」

 

「出られてよかったね」

 

「・・・・うん」

 

「私たちも明日美濃関に帰ることになったの」

 

「そう・・・・」

 

「んじゃっ」

 

会話をするのは2度目であるためか以前よりはすんなり会話が出来ている両者。そろそろ頃合いかと思った舞衣が踵を返して江麻の方へ行こうとすると制服の袖をつままれる。

どうしても伝えたい事があるのだと察せられる。

 

「クッキー・・・おいしかった」

 

「ありがとう!良かったらまた作るね!そうだ、良かったら交換しよ、連絡先」

 

美濃関学院は積極的に他の学校とも交流をしている為、総じて言えばフレンドリーで社交的な生徒が多い。約1名を除けばだが・・・。沙耶香と親しくなった証に連絡先を交換することを提案するとコクりと頷いた後に連絡先を交換する。

 

雪那が早くしろよとでも言いたげに舌打ちした後に右足首を上下させて地面をリズムを取りながら踏み、貧乏ゆすりをして急かしている。

連絡先を交換すると駆け足で雪那の元に駆け付けて再度後ろに付いていく形でその場を去る。

 

そして、江麻と舞衣の前にその反対側から割と全力で走ってきたのか栄人が駆け付ける。

命令で暫くは管理局に残ることを伝えに来たのだ。

 

「学長、申し訳ありません。私はもうしばらく会社の代表としてこちらに残ることになりそうです。こちらでやることもありますので」

 

「分かったわ、何かあったら連絡を頂戴」

 

 

「はい」

 

「針井君・・・」

 

「柳瀬・・・お前は先に美濃関に帰っててくれ。衛藤のことは心配だけど・・・でも俺はまだ、あいつを追わなきゃならない」

「もう一度会った時いつもと同じように接することが出きるか自信は無いけど、罪を軽く出来るように父に頼むよ。俺にはどうせ、それしか出来ない」

 

「ううん、きっとまた皆で笑える日が来るよ。それに、誰だって何でもかんでも出きるわけじゃないよ。その人にはその人にしかできない。自分に出来ることをやればいいと思う」

 

「お前は見つけたのか?その・・・・自分に出来ることを」

 

「どうなんだろう・・・・でも、手探りで探して、たまに誰かに教えてもらってようやくちょっとそれが見えてきたかも。それが今の精一杯の答えかな」

 

「そっか・・・・立派だな。おっとそろそろ戻らねえと。じゃあな、夜更かしないで早く寝ろよ」

 

「もうっ子供じゃないんだから」

 

舞衣は栄人の問いに対して少し答えにくい内容であった為逡巡すると、江麻が美濃関に帰る以上自分はここには残れない。だから仕方がないが明日に美濃関に帰ることになる。今は向こうが逃亡生活で忙しい為か連絡が中々取れない、自身が協力しているスパイダーマンの正体こと颯太に情報を送ることで協力しているのだが中々連絡がつかないため心配になっているが可奈美とスパイダーマンの無事を信じて待つ。

そう決めた舞衣の瞳には強い信念が宿っていた。

その意思を感じた栄人は感心して言葉を返す。

そして、踵を返して捜査本部へと戻っていく。

 

 

(認めてもらわなければ・・・・紫様に鎌府の・・・私の存在意義をっ!)

 

刀剣類管理局の研究棟に向けて歩みを進める雪那とその後ろを付いていく沙耶香。雪那はまたしても余計なことはするなという指示を無視して独断で行動を開始する。

一見すると聞き分けが無さすぎるようにも見えるが雪那も内心では冷静な判断が出来ない程に焦っている。

 

雪那はとある室に入室すると、本人が整理するためにペンライトを当てている位置以外は暗くなっている為、顔ははっきりとは見えないが白衣を纏う人物が棚の整理をしていた。

じっくり見てもこれと言って特徴がある淡麗な外見とは言えないがそれなりに整ってはいる。しかし、日本人なのか外国人なのかまでは判別は出来ない。そして、何より眼を引くのが白衣の右腕の袖には腕が通ってはいない。いや、右腕が肩より下には存在していないのが特徴だ。

青年は雪那の方をチラリと見るが特段気にしている素振りは見せていない。

雪那が沙耶香を連れて入室すると沙耶香を寝台に寝かせると不機嫌そうな態度を崩さずに声をかける。

 

「おい貴様、そこの棚から完成したての新型アンプルを寄越せ。最も出来がいい奴をだ」

 

「おや、高津学長。ごきげんよう。そちらは生徒さんですか?」

 

「貴様が知る必要のないことだ。私は何としても紫様に認めてもらわなければならんのだ。研究に協力した位で対等になったと思い上がるなよ一介の研究者風情が」

 

「おやおや、相変わらず不機嫌ですね。あっ・・・貴女の顔を見て思い出しました。そういえば一応貴女も研究に携わっておりましたね、局長には報告済みなのですが貴女にもお見せしましょう」

 

「後にしろ、今はそれどころでは」

 

「局長から直々に貴女にも説明するよう申し使っているので」

 

「話を聞こう」

 

どうやら二人は知り合いなのかすんなりと会話を始めるが青年の紳士的な口調だが白々しい態度が気に食わないのか当たり障りの無い態度で接する雪那。

しかし、紫が直接雪那にも説明するように命じた物があると言われ突如態度を変える。

 

研究者はこの研究室に保管しておくように指示をされた機械に包まれ、接続されたチューブから酸素が送られているガラスケースを取り出し、机に置く。そこに収納された黒く、波のように蠢くノロとは異なるタール状の液体を雪那に見せる。

雪那も20年程前は刀使として荒魂と戦っていた経歴や荒魂やノロの研究に携わっていたためある程度はグロテスクな物に耐性が着いているのだが初めて見る不気味な物体を見て顔をしかめる。

 

「何だその海苔の佃煮みたいな物体は?」

 

「管理局の科学特捜隊が水星探索に出向いていましたがその最中に宇宙船のコンピューターが生命の反応を発見しました。何百万ものね。そして現地で発見さた新種の生命体のサンプルがこちらです。研究チームの面々は私に内緒で『シンビオート』なんて名付けているようですがね・・・・中々の中二病だ・・・・っ!素晴らしいっ・・・!」

 

「つまりエイリアンとでも言いたいのか?」

 

 

共生するという意味のシンビオーシスからもじっているのだろうがネーミングセンスが本人の好みにハマったのか興奮を抑えながらも拳を握ってガッツポーズを取っている。

そして、直後に平静に戻り研究者は特捜隊が他の惑星の探索の際に発見された地球外の生命体シンビオートについて話始める。

 

「おっと脱線しましたね、失礼。そんな所です。2つの異なる生命体が酸素の多い地球で行き続けるのは呼吸するため宿主と結合する必要があります。彼らは単独では地球では生きられません。ですが他の生命体に寄生することにより生命活動を保ちます。一応ですがこの酸素を送り続けるケースに収納していればシンビオートはすぐに死ぬことはありません。現在はマウスやら兎やらに移して実験していますが宿主と適合しなければ宿主は衰弱して死亡します。臓器移植のドナーのように適合する人間にしか移植出来ないのと似ていますかね」

 

「全く不便ではないか」

 

「ええ、仰有る通り現状不便の一言です。ですが、寄生された宿主が完全に適合すればより高度なステージへと昇りつめると推測されています。宿主を衰弱させてもシンビオートは元気ですからね。シンビオートの研究が進めばノロと融合への強化パーツとして我々の研究にも大きく役立つ可能性もあります」

 

「・・・その海苔の佃煮が何でも構わんがそれを沙耶香に投与などさせんぞ。詳細が分かってもいない不確かな物を身体に入れて沙耶香が再起不能にでもなったらどうする?私が見出だした器なんだ、テストのためなんぞに使えるかっ!」

 

「勿論そちらの生徒さんに投与など致しませんよ。シンビオートはまだ生態を調査し、順当に小さい動物からテストを重ねていかねばなりません。一応貴女にも報告をするようにと伝えられたのでお話ししただけです。局長から研究に対する指示がある可能性もあるので記憶の片隅にでも置いておいてください」

 

「ふんっ、今はそんな海苔の佃煮よりも新型のアンプルだ。一番良いのを寄越せ」

 

「かしこまりました。では、この間貴女と共に作成した私イチオシのトカゲの遺伝子とノロを結合させた最新型アンプルです。投与すれば対象の遺伝子とトカゲの遺伝子が化学反応を起こしてトカゲの再生能力を手にし、ほぼ不死身となるでしょう。調整に調整を重ねるのは大変でした」

 

研究者は自身の胸の高さ程の棚を開け、綺麗に整頓されたアンプルの群から1つを取り出し、雪那に差し出すと奪うように手から抜き取られる。

 

(チッ、製品は丁寧に扱えよ・・・・・・)

 

「これは直々に鎌府が・・・・いや、私が命じられた大いなる研究の成果・・・っ!この力を満たした時、貴女と言う器は完成する!なにも考えず、感じる事もない、ただ紫様に仇なす者を討つだけの刀使として」

 

(え?マジでやるんだ?意志薄弱そうな子とは言え本人の意思の有無も確認せずに強引に投与するとか独善的過ぎて教育者として終わってるな。あ、元々か)

 

 

研究者は貼り付いた笑顔を浮かべたまま自身に対する雑な態度にではなく、丹精込めた製品を粗雑に扱う粗暴っぷりに心の中で舌打ちをして毒づく。

研究者から手渡された円筒状のアンプルを特殊な注射器にセットし、その注射器を寝台に寝そべる沙耶香の首筋まで持っていき打ち込めるようにセットする。

 

「何・・・・も?」

 

それと同時に雪那は視界に映った沙耶香の頬についた動物の柄の絆創膏をひっぺがして投げ棄てる。

その投げ棄てられた絆創膏を見て、ほんの少し気持ちが揺らぐ。何も感じず、何も考えず。そのフレーズは任務遂行のために何度も聞いた言葉だが、今は自分に優しく接してくれた舞衣が貼ってくれた絆創膏が無慈悲にも投げ棄てられたことが心苦しかった。

 

いや、それ以上にこの心苦しいという感情を捨てなくなかった。そう思うと無意識の打ちに雪那の手を払い除けると衝撃で雪那の手からアンプルが床を転がって行く。

 

「沙耶香、何を・・・?」

 

 

雪那は沙耶香の突然の行動に驚き理解が出来なかったのか心底困惑している。

優秀であったが為に散々贔屓し、これまで自分の言うことにホイホイと従う人形のような優秀な手駒である沙耶香が自分の手を払い除けたのだ。そんな感情的な行動に戸惑ってしまった。

 

「沙耶香!待ちなさい!」

 

「お好きにどうぞ。私は一切口出ししませんので」

 

直後に沙耶香は自身の御刀、妙法村正を手に取り、八幡力を発動させて窓ガラスを突き破って外へと脱出する。

研究者は雪那の手を払い除けた矢先に沙耶香を見逃す意思を見せて床に落ちたアンプルを拾い、沙耶香が飛んで行った方向を見つめながら八幡力の跳躍力に関心しつつアンプルをポケットの中に入れる。

 

「おー随分飛びましたねー」

 

「貴様、何を悠長なっ!貴様のせいで逃げられたではないかっ!どうしてくれる!?」

 

「は?逃げられたのは貴女であって私ではありませんよね?そもそも本人の意思の確認もせず強引な手段に出た貴女に原因があると思いますが?あれでは彼女が逃走を図るのは必然的です。私は製品の説明をして貴女の指示通りアンプルを手渡しただけです。そんなレベルの低い事で一々喚かないで頂きたい」

 

「何だと!?」

 

雪那は研究者が悠長な説明をしていたが為に逃げる機会を与えたと詰め寄っているが研究者は鬱陶しそうに雪那を石ころを見る眼で見つめて関心が無さそうな視線を向ける。

研究者にとって沙耶香が逃走したことは心底どうでもいい為、そのことで突っかかられるのは疎ましく感じているのだろう。

説明という自身の仕事は終えた為、これ以上雪那にも用は無い上にここにいる理由は無いため踵を返して部屋から退室していく。

 

「私はこの辺で失礼させてもらいますよ。シンビオートは特殊な保管庫にて厳重に保管します。局長から賜った貴女への説明という仕事はしましたし肉体労働は専門外ですからね。私はこれでも多忙なのです、それでは」

 

片方しか無い腕でシンビオートの入ったケースを入れた鞄を持ち、袖の通っていない右腕が帰宅の意思を告げる為に手を振るかのようにヒラヒラと揺れ、振り返らずにすぐさま歩いて行く研究者。

 

「クソが・・・・っ!」

 

雪那はその態度に腹が立ったがこんな所で油を売っている訳には行かない。早く手を打たなくては、そう考えると雪那は本部へ向けて駆け出していた。

 

 

場面は変わって海中を進む潜水艦の中

 

潜水艦に乗せられ船内を移動する一行。

約一日中スパイダーマンのスーツを纏っていた颯太だが逃走用に購入した私服も袖が破け、あらゆる箇所が擦れる程にボロボロになった為、リュックの中に入れていた美濃関の制服に着替えていた。といってもトニーに渡されたスーツの上に制服を着ただけなのだが。

 

エレンが呼んだタクシーこと潜水艦の廊下を歩く姫和、可奈美、颯太。しかし、潜水艦なんてアニメやゲームでしか見たことが無かったため、妙にテンションが上がっている。

 

 

「すっげぇ~!僕生の潜水艦なんて初めてだけど精密機械だらけでもうテンションMAX~!操舵室とか行ってみてえ~」

 

 

「おい、こいつ何歳だ?普段と違い過ぎないか?」

 

 

「ははは・・・・ロボットとか科学のことになると変なスイッチが入ってこう・・子供っぽくなるんだ・・・」

 

「なるほど・・・・」

 

 

普段のパッとしない冴えない印象ばかり受けていたが子供のように潜水艦の内装を見てはしゃぐ姿にやや引きながら戸惑いを隠せない姫和。可奈美の説明を受けてどうやらオタク特有の昂り過ぎてテンションがおかしくなっている状態だと思うことにした。

 

すると前方の鉄の扉が開き、ピンク色のシャツに白髪の白人の老人が3人に向けてきさくに話しかけてくる。

 

「お会いできて光栄だよ、二人の反乱者。そして、親愛なる隣人スパイダーン。まさに、今日という日は完璧だ!」

 

「ほへ?」

 

「もしかして・・・」

 

「貴方がfine manか?」

 

「fine manとは世を忍ぶ仮の姿!しかしてその実態は・・・っ!」

 

今日という日は完璧。このフレーズに聞き覚えのあった

3人は大方この老人が自分達をこの場へと導いた張本人、歳にそぐわないアイコンの人物fine manの正体だと察することができる。

流暢な日本語でノリノリで自身の自己紹介を始めるfine

manであるが颯太は駐車場のテントで寿々花から尋問を受け、身内の話をしていたエレンの会話をスーツの機能の拡張偵察モードで聞いていた為、この人物の本名を知っていた。

 

「リチャード・フリードマン博士ですよね!S装備開発の第一任者の!あなたの過去の論文を読ませて頂いたことがあります、とても興味深い内容でした!」

 

「そうそう・・・・それで私のグランパ・・・え!?何でソウタンがグランパのことを知ってるんデスカ!」

 

「ま、孫でも無い子にネタバラシされてしまったよ・・・トニーから聞いたのかい?」

 

 

「あー・・・すいません。僕も奴等の情報を探る際に敵が拠点にしていた駐車場のテントでお孫さんと親衛隊の会話をスーツの機能の拡張偵察モードで聞かせて頂きました。盗み聞きのような形ですみません」

 

「な、なるほど。トニーならやりかねないなな・・・・」

 

ほぼ全員に驚かれたがトニーの作成したスーツなら遠く離れた人間の会話を聞き取り、検索する機能を有していてもおかしくないと知人であるフリードマンは察することができた為、納得したようだ。

 

そして、一行は潜水艦のとある一室に移動し、寝台の上に寝かしつけるように置かれたS装備を取り囲むようにしてフリードマンと会話を始める。

 

 

S装備はフリードマンだけでなく、多くの技術者の助力により作成された刀使用のパワードスーツであることを説明される。

姫和は腑に落ちない点もあるのか両腕を組ながらフリードマンに質問をする。

 

「何故海外の技術者が舞草として行動しているんだ?それに知り合いとは言えアイアンマンまで・・・」

 

「無論。誰よりも近くで折神家を見ていたからこそだよ、太平洋戦争後間もなく、ノロの軍事転用の一環として米軍と折神家のS装備の共同開発が始まった」

 

「しかし、開発は進まず停滞。頼みの綱となる私の先輩であるトニー・スタークの父、ハワード・スタークも他の用件でこちらに手を貸せない状況になってしまったから尚更でね。そして、完成を待たずに28年前ハワード夫妻はこの世を去ってしまった」

 

惜しい人を亡くした。とでも言いたいのか物憂げな顔でハワードのことを思い出し、暗い表情になるフリードマン。

 

「しかし、息子のトニーはS装備開発については何も聞かされてい無かった為か、莫大な遺産と大企業の経営権を得ることになって以降は自身の頭脳を使って数々の新技術を次々に開発し、一躍時の人となっていたが手を貸してはくれなかった」

 

「そんな・・・・」

 

「仕方ないよ。彼は何も伝えられていなかったんだ。現に彼の作った兵器で世界の勢力バランスが傾きかねなかったからね、その稼ぎだけで充分だったのだろう。そんな自分の為だけに生きていたトニーが心を入れ替えてアイアンマンになったのは10年前だ。責めないでやってくれ。今は日本を手助けするために舞草に外部協力者として秘かに助力してくれているのだから」

 

「無論だ・・・責めるつもりはない」

 

全員がトニーがアイアンマンになる以前の軍需産業の社長として兵器を作成して販売し、死の商人と影で呼ばれ自分の為だけに生きていた。実際にテロリストに拉致され自身の開発した兵器で多くの人間が死に、そして命の恩人であり共に脱出を試みたがトニーを逃がすために死亡したインセンに心を動かされてアイアンマンになったトニーの過去を聞いて少し重たい空気になってしまうが、トニーへのフォローも忘れずにフリードマンは再度話を続ける。

 

 

「続けるよ。しかし、技術の行き詰まりを迎えた時ブレイクスルーとなる事態が発生した。今から20年前のことだよ」

 

 

「20年・・・っ!?」

 

「相模湾岸大災厄・・」

 

「しかも、ちょうどあの人が当主になった位の時期って事か」

 

20年前というワードに可奈美と姫和と颯太は反応する。やはり、この国の人間からすると20年前というワードは1998年に起きた相模湾岸大災厄に直結出きる。

尚且つその相模湾岸大災厄の英雄と称される紫が関与しているのたがら尚更だ。

 

「当主となった折神紫は従来からの勢力を粛清し、より合理化を進めるようになった」

 

「合理化?」

 

「3人も知っての通り、かつてノロは全国各地の社に少しずつ小分けにして祀られていたデショ?」

 

エレンは分かりやすく説明するために両手を拳で握って丸め、小分けにの辺りで手をピースにして分けていることを差すジェスチャーを行う。

 

「それを折神家に一極集中させて纏めて管理することになったって話だ」

 

「その頃から開発現場の技術レベルは急激に上昇し、S装備は完成に至った。そして、その技術をもたらした者こそ折神紫なのだよ

 

「折神紫が・・?」

 

「だが、それは科学者の眼から見て、それは現行ある筈の無い技術だった。ブレイクスルーと同時にもたらされた技術。果たしてどこから来たのだろうね・・・」

 

「まさか・・・!?」

 

紫が20年前に大荒魂に憑依されているのなら、この世のものではない技術を用意できると考えて不思議ではないと推測できた姫和。

フリードマンもその様子を感じ取り、そこで同じく志しを共に立ち上がった同士について話始める。

 

 

「そこで同じ考えに至ったとある人物に従い、共に舞草を組織したという訳さ」

 

「とある人物?」

 

「スタークさんはあくまで協力者だから、一緒に組織したって感じじゃ無いですよね?」

 

「そうだとも。以来、我等は水面下で折神紫への反抗の刃を研いできた。君の母、十条篝に助力を願ったのもその一環だよ。その恩人の娘である君達とこうして出会えたこと、光栄に思うよ」

 

突如母親の名前を出されたこと、いや、普通に母親が舞草に参加していた等と言われたら驚くなというのが無理な話だ。姫和は軽く瞳孔を散大させながら驚きを隠せていないが声には出さない。

生前でもそのような素振りは見せていなかったが、自分がここに来たこともまた1つの運命なのかも知れないと思うことにした。

 

すると、少し質問しにくかったのかおずおずと挙手しながら颯太がフリードマンに質問をしていいかと意思表示をすると、どうぞとでも言いたげに掌をそちらにむけると全員から視線を注がれる。

全員の視線が向く前で話すのはシャイな本人からすれば公開処刑にも近いがどうしても質問したかったことを尋ねる。

 

「あのー博士、1つお聞きたいんですけどどうして僕を誘ってくださったんですか・・・・?僕は皆みたく戦闘訓練なんて積んでませんし、直接的な戦闘だと結構遅れを取ると思うんですけど・・・・これまでだってスーツの性能のゴリ押しと、皆がいてくれなきゃ負けてた局面も多いですし」

 

確かに親愛なる隣人スパイダーマンとして自警団活動をしているとは言え態々自身を舞草にスカウトしようと考えたのか、そのことが気がかりであったため質問をするとフリードマンも思い出したかのようにハッとした表情をして話始める。

 

「あぁ、説明がまだだったね。確かに君は戦闘経験も浅いし、訓練も積んではいないかも知れないが君を誘ったのは僕とトニーの判断だ。以前に君が荒魂の動きを封じた時や犯罪者と戦闘をしている映像で君のクモ糸を見てね、驚いたよ。相手を傷付けずに無力化していたのだから」

 

「えっ?」

 

「これから我々が挑むのは国単位の相手だ。情報を探るにせよ直接的に挑むにせよ戦闘は避けられない可能性が高い。我々が倒したいのは折神紫に憑依した荒魂であって人間ではない。だから戦闘で傷付く者を一人でも減らせるように、無傷で相手を捕まえられるかも知れない君が重宝すると考えたんだ」

 

フリードマンがスパイダーマンである颯太をスカウトしようと考えた理由はやはり真に倒すべき敵は紫であり、彼女に騙されている者達ではない。

クモ糸で相手を傷付けずに無力化できるスパイダーマン

は無用な負傷者を減らせるかも知れないと推測したからだと告げる。

 

「本来ならトニーが直接君に会いに行ってスーツを渡してスカウトする算段だったが予定が狂ってしまった。しかし、今こうして君を仲間に迎えられることを私はうれしく思うよ」

 

フリードマンはトニーの知人だからこそ言える、本人なりに汲み取ったトニーの心情、それを筋道を立てて話し始める。

本人が聞いたら多分照れ隠しで全力で否定するであろうが、彼らには話しておきたかった。

 

「トニーは絶対に口には出さないが、彼はかつてソコヴィアでの戦いで多くの死人を出してしまい、アメリカのヒーロー達が国の監視下に敷かれることになって賛成するかしないかでチームで揉めたそうだ」

 

数年前に起きた東欧にある小国ソコヴィアでヒーロー達と敵の戦地となり、ウルトロンという平和維持のために作成した人工知能が人類の歴史を紐解いて、平和をもたらすという指示を歪解して人類絶滅のために市街地の地底に巨大な半重力エンジンを建造し、街を浮上させ、隕石として地上目がけて落下させた。どうにか市街地は粉砕され、危機は去ることとなるが同時に平和維持のための戦いとはいえ多くの死者も出してしまった。

 

犠牲者遺族の批判、政治家の怒り、それらに業を煮やした国連はチームに対し一つの協定を提出する。

「ソコヴィア協定」国連の許可なしに、ヒーローは出撃してはならないという署名であった。

トニーはそれに賛成したが、個人の自由を蔑ろにするその法にリーダーのキャプテン・ アメリカは納得出来ずに賛成派と反対派二つの意見が混在するようになり、争いに発展。そして見事2つに分かれてしまいキャプテン賛成派の数名は現在国家反逆罪で逃走中とのことだ。

そしてトニーの方も決別の末、自身も仲間と争うのは不本意であったためソコヴィア協定を受け入れないことにした。

薫はヒーロー達が争い2つに分離してキャプテンが国家反逆罪で逃走したという事実はショックだったらしく暗い表情になる。

 

「結局チームは内部決裂の後に分裂してしまって、キャプテン・アメリカは逃走の末行方不明。長年の相方のローディ中佐も負傷してしまったソウデス」

 

「推しと推しが争うなんてよ・・・聞いたときはほんとしんどかったぜ・・・」

 

 

「かつては兵器を作り、自分の発明で多くの人が死んでいたことを知って兵器を作る技術を人を救う為の技術に変えてテロリストと戦う戦士になったトニーだからこそソコヴィアで多くの無実の人を死なせてしまった責任を誰よりも重く受け止め、監視下に置かれることを望んだ。しかし、結果として皆が傷付く結果に終わってしまった」

「現在この日本にも危機が迫っている。出来るのなら戦いで傷付く者が一人でも減るのが彼の願いだ。そこでトニーは自分のように敵を殲滅するヒーローではなく敵を殺傷しない武器を持ち、一般人と近い距離にいて守ることが出来る力に賭け、自分の力を貸したのだよ坊や。だから、一緒に戦って欲しい。ダメかな?」

 

フリードマンの真剣な視線、本人なりにトニーの意思を汲み取った考察を伝えられると自身が舞草に誘われた理由を聞かされ、その理由を理解することができた。

今は例え世界から敵視され矛盾を孕んだとしても、危険な相手を放置して誰かが傷付くのなら人に化けた荒魂を倒してそれ以外は討たないと既にそう心の中に決めていたが自身を信じ、力を貸し与えてくれたフリードマンとトニーの気持ちに答えること、そして、その力で人々を守るために戦うことに尽力することが自分にできること

なのだと認識を更に強くする。

そして、フリードマンの瞳を見つめ返しながら自身の意思を伝える。

 

 

「・・・・・分かりました。あなたが・・・スタークさんが僕を信じてくれたのなら・・・・その気持ちに答えることが僕に出来ることなら全力で取り組みます。親愛なる隣人としてそう決めましたから」

 

 

「なら、良かった。今日はもう遅いからゆっくりしたまえ」

 

フリードマンは颯太の意思を聞き取り、仲間に引き入れられたことに達成感を感じながら長旅で疲れている皆をそろそろ休むように促し、エレンと薫にそれぞれの寝室に案内させる。

 

 




6月28日ファーフロムホーム公開!7月5日の金ローではホムカミが地上波初放送!


シビルやソコヴィアでの戦いは本筋には基本的に絡まず、きっかけや背景としてチョロっと扱う位なので特に深く気にしないでください。

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