刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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ソシャゲの水着イベなどで忙しくなる前にある程度やらんと


第33話 揺さぶり

数刻前、雪那に連れられて入室した研究室で不穏な会話をバックボーンとして説明され何かが蠢いているアンプルを投与されそうになった瞬間、自分でも予期していなかったが雪那の手を払い退けてそのまま逃走し、鎌倉の商業地区を駆け抜けていた。

 

路地裏に向けて歩道を走っている最中に後方から走ってくる誰かに声をかけられる。

 

「左失礼」

 

その凛とした透き通る声に乗せられた言葉と同時にその人物は陸上のオリンピックで優勝も狙えそうな速さで駆け抜けながら沙耶香の左横を通り抜けてくる。

今の沙耶香は雪那から逃げるために必死であるためその人物を気にする余裕は無いのだが見たところ、夜の背景と同化している程の全身黒のスポーツウェアに黒の野球帽と帽子からはみ出す程の手入れのされていない無造作に伸びたブロンドの金髪、そして顔を余程見られたく無いのか夜中にも関わらずサングラス、そして剃る余裕が無いのか顔の下部分の大半を覆う髭、白人なのか日本人なのかの判別は付かないが日本人の平均身長よりは高い180cm前後の長身に筋骨隆々な鍛え上げられたかのような筋肉がスポーツウェアを膨張させていた。

 

その人物が自身の真横を通り過ぎた後に路地裏を見つけ、路地裏に入 る。

 

そして息を整えた後に座り込むと急に深夜の誰もいない、暗くて静かな世界が沙耶香の不安を煽り始めると無自覚のうちにポケットから携帯を取り出し電源を着けるとディスプレイの光が沙耶香の顔を照らす。

誰か、誰でもいい。誰かと話して不安を和らげたい。安心したい。その一心で今最も頼ることが出来る、安心出来る相手。

先程連絡先を交換した電話帳の柳瀬舞衣の欄をタップする。

 

場面は変わって刀剣類管理局の宿舎

 

中々寝付けない舞衣は用意されている浴衣の寝巻きに木造建築の建物である寝室の外の縁側に腰掛けて月が照らす庭とそして、上空に浮かぶ月を眺めていた。

 

「やっぱり美濃関の空とは少し違う・・・。可奈美ちゃんと颯太君どうしてるかな・・・」

 

未だに連絡が取れず、合流は出来たものの先日までの安否は沙耶香の口から確認できたが現在はどうなのか、何をしているのか分からない友人達の事を想って寝付けない気持ちを空に向けて呟く。

 

すると深夜であるにも関わらず携帯が鳴り始め、まさか2人からの連絡かと思い表示された名前を確認すると先程連絡先を交換した沙耶香から着信が入っていた。

急いで応答を押して電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『・・・・・・・』

 

電話越しでは先程まで走っていたかのように少し息を切らし、何を話すべきなのか、困っているのか戸惑っている声が聞こえてくる。

 

「どうしたの沙耶香ちゃん」

 

『・・・・・・あ・・・・あの・・・・』

 

「早速電話してくれてありがとう。夜更かしさん同士お話し、しよっか」

 

外にまで話している声が聞こえると周囲の迷惑になると考えて寝室に入り、窓を閉めて音を密閉して外に漏れないようにする。

すると電話からコンビニの入店音と店員の声が聞こえてくる。

 

「大丈夫、ちゃんと聞いてるから」

 

 

『あの・・・・・やっぱり何でもない』

 

「あっ、ちょっと!」

 

ただならぬ不安を感じている事を電話越しでも聞き取れる程震えた声、何かに怯えていてそれでいて自分を巻き込まないようにしている。そんな様子が感じ取れるが何でもないという言葉の裏に何でもない訳がないと感じ取れる。

沙耶香に電話を切られるとどうしても放っておけない。何かある筈だと感じ取った舞衣は急いで着替えて宿舎を抜け出して行く。

 

 

 

 

 

「では、私はこれで失礼します。無茶しちゃダメですよ、皐月さん。それではお休みなさい」

 

「はい、お休みなさい。針井さん」

 

夜見を病室まで運び終えた後に宿舎に戻ろうとしていた栄人が欠伸と伸びをしながら歩いているとふと窓の外を見るとこんな深夜であるにも関わらず物凄く真剣な表情をしながら、全速力でどこかに向けて走っている舞衣の姿を確認する。

 

「あれ、柳瀬何やってんだ?こんな時間に。それに結芽ちゃんの姿も見ないな・・・・そう言えば柳瀬、今逃走してる糸見さんと連絡先交換してたっけな・・・・そして、結芽ちゃんがいない・・・・まさか!?」

 

急いで近くにいた警備をしている鎌府の生徒に結芽を見かけなかったか質問するとどこかへ去って行った、外の方へと向かったと言われそこで栄人はある一つの結論へと到達した。

自身も沙耶香の逃走には余計な介入はするべきではないと判断し、不干渉の姿勢で行こうと思っていたが舞衣の姿を見て、なぜこのような時間に外に向かうのか、舞衣が沙耶香と連絡先を交換していた事を思い出すと何か関連性があると思案する。

もしかしたら舞衣は沙耶香の逃走に関して何かを知っているのか、それとも放って置けずに探しに行ったのだと考えられるが、問題は結芽だ。

自分と立ち会いをする際の強烈かつ苛烈な攻めや時折脅かす為に御刀で斬りかかって来たり、会場でスパイダーマンと戦闘した際の敵に一切の容赦がない面を持つ結芽なら沙耶香と合流した舞衣を必要以上にコテンパンにする可能性も0ではないと察し、急いで舞衣に電話して引き返すように電話しようとするが一日中業務で充電する時間が無かった上に仕事上ぶっ通しで電話をしたり、打ち込みや連絡手段として使っていたためバッテリーが切れていた。

 

「電話電話!クソッ一日中忙しくて充電する暇なかったからバッテリー切れかよ!」

 

 

「あーもう!俺もあのヒステリックおばさんの事言えねぇじゃねぇか!」

 

 

あまりの急速な事態に冷静な判断が出来なくなっていると、職権乱用になるが自身の権限を使用して沙耶香や舞衣の位置をGPSで探して直接結芽に手荒な真似はしないでくれと説得しに行く事を選択し、面倒な雪那に絡まれないようにコンピューターのある部屋を目指して走り出す。

自分は可奈美を捕まえるために新装備の適合者達を送り出しておいてこのようなことを思う資格など無いのは分かっているが、それでも出来るのなら自分の親しい人同士が争って欲しくない。そんな事を思いながら。

 

一方、商業地区の路地裏では

 

「ずっと言う事を聞いてきたけど、アレが入って来たら・・・きっと、消える・・・消えちゃう」

 

舞衣との電話の後に路地裏に座り込み、先ほどの雪那と片腕の研究者とのやり取りを思い出していた。片腕の研究者は沙耶香の逃走に関心が無さそうにしていた上に逃げるのを見逃してくれた上に顔すらハッキリとは見えなかった為不穏な会話をしていた点以外特に思う所は無いが、雪那に投与されかけた最新型アンプル。その中で蠢く何か。

沙耶香は直感であのアンプルからは危険な予感を察知していたため、衝動的に逃走してしまったのだ。

その事を思い出すと不安を掻き立てられ体育座りしている膝に顔を埋めて俯く。

おまけに夜食もロクに食べていない上に深夜だ。空腹で腹まで鳴り始める。

 

 

「あっ!」

 

沙耶香を見つけたのか大きな声が聞こえた為、追手だと思いつい反応して逃走を計らうとするものの。

 

「待って!沙耶香ちゃん!」

 

聞いたことのある声の主、それに自信を下の名前+ちゃん付けで呼ぶその呼び方に敵意は無いと判断してか後ろを振り返る。

 

「あっ」

 

 

「・・・はぁ、はぁ・・・見つけた!」

 

走り疲れたのか息を切らして、姿勢が前屈みになりながら小さく手を振る舞衣の姿だ。

沙耶香はこの不安な時に自分の前に来てくれた目の前にいる舞衣を見て、不安と希望が入り混じった表情をしながらも視線を外さない。

 

「遅くなってゴメンね。この辺りのコンビニ全部回ってたから」

 

「なん・・で?私何も・・・」

 

電話越しで聞こえて来たコンビニの入店音から沙耶香はどこかしらのコンビニの近辺にいると予測し、周辺のコンビニをしらみ潰しに捜索していたら沙耶香を見つけ出す事が出来たのだと伝える。

だが、何故自分にそこまでしてくれるのかと聞こうとすると先程から鳴って止まない腹からの空腹音が沙耶香の言葉を遮る。

 

「お腹、減ってるの?じゃあそこのコンビニで・・・・あーでも中学生が夜中に買い食いなんてダメだし・・・そうだ!良かった、まだあった!」

 

「クッキー・・・?」

 

流石に深夜に歩き回っている上に更に深夜の買い食いは流石に悪いと思ったがポケットを確認すると暇な時間につい作成し過ぎたクッキーの袋を取り出して沙耶香に差し出す。

差し出されたクッキーをリスのように両手で持ちながら小さく頬張る。

口の中に広がるクッキーの味はやはり美味しい。空腹だから尚更美味に感じてしまう。

それにしてもやはりスパイダーマンから貰ったクッキーの味とソックリな点に関しては聞いていい事なのか、聞かないべきか思案していると舞衣が身の上話をしてくる。

 

「上の妹の話、昨日したよね?」

 

「うん」

 

「その子、基本的には凄くワガママなの。もう私を困らせるのが趣味なんじゃないかって位・・・・そのクセね、本当に困っている時に限って助けて!なんて絶対に言わないの。おかしいね、バレバレなのに」

 

「何で、分かるの?」

 

「分かるよ、だってお姉ちゃんだもん!だから、困ってる子は放っておけないよ」

 

 

舞衣がや夜中であろうとも自分の事を親身になって探し回ってくれた理由。沙耶香が実妹のように本当に心の底から困っていた時に限って助けてとは言わない。ならばきっと困った事があるのだと察して舞衣は身体が動くままに駆け回っていた。

そして、沙耶香を落ち着かせる為に軽く包むように抱き締めると、抱きしめられた肩が温かくなるような感覚に陥る。

そして、それと同じ温かさを最近どこかで感じ取ったのを思い出す。

マンションで可奈美に一対一で真剣に向き合って貰った上での力強い握手で握られた手の熱さ、そして帰り側に被害を最小限に抑えてくれて、落ち着かせる為に頭を撫でられたスパイダーマンのスーツ越しでも伝わる温かい手を思い出させられる。

 

(これ、あの時と同じ・・・)

 

直後舞衣のポケットの中の携帯が着信音と共に震え出す。咄嗟に持ち出してしまったがこのような時間帯に電話をしてくる相手などいるのだろうか。そう思い、名前を確認する。すると、よく知った名前がディスプレイに映し出される。

舞衣は驚いているからこそ即座に応答を押して電話に出る。

 

「あっ、ゴメンね。誰だろう?えっ!?もしもし!?」

 

 

『あぁっ!ゴメンこんな時間に。・・・・今外?』

 

その声は数日振りであるがよく知った声である。

それは恩人でもあり、友人であり、そして、親愛なる隣人である。ここ数日間連絡が取れずに心配していた相手、颯太だ。

勿論、沙耶香の前で名前を出す訳には行かないため一瞬出かかったが抑えた。

沙耶香は舞衣の様子をただ見ている。

 

そして、当の向こう側は電話越しから夜風の音から外にいることを察しているようだ。

舞衣は安心と湧き上がる感情を落ち着かせて会話を続ける。心配はしていたがこのような時間に電話をしてくるということは何か用があるのかと思い質問をする。

 

『あ、うん。色々あって。ど、どうしたの?』

 

『話すと長くて纏まらないんだけどマンションでの戦いで携帯がショートしたり色々あって中々連絡する暇無くて連絡できなかったんだけど、今陸に上がってやっと安全な所に着いた。ホントはメッセでいいとは思ったし夜中に悪いなーとか思ったんだけど散々心配かけたし、こう言うのはちゃんと電話でして元気な声を聞かせた方が良いかなーって言うか久々に舞衣の声が聞きたいなーなんて!あー何言ってんだ僕・・・っ!』

 

「り、陸?落ち着いて!とにかく無事なんだね?」

 

潜水艦にいた面々は仮眠の後に一度陸に上がり、その後に寝室に移動していた。

そこで、電話の向こうの颯太はこれまで中々連絡をよこせなかった事を申し訳無く思っていた上に報告しなければならないと思っていたことがたくさんあるためこれまでの経緯をまくしたてるように早口で一気に説明する。

無論。皆の睡眠をなるべく妨げないように庭で連絡している。

しかし、明らかにザックリとした説明であるため舞衣も理解しきれなかった所もあるが取り敢えず無事であることは受け取れたため、落ち着くようにと宥める。

そして、落ち着くように言われたため一度冷静になって言いたいことの本文を説明する。散々心配をかけたのだ、自分達の無事、そして安全な場所にいる事を伝えなければならない。そう思い言葉を綴る。

すると、電話越しで鼻をすするような音が聞こえてくる。何かと思って問い質す。

 

『あーゴメン、何とかね。君が教えてくれたから何とか無事に可奈美達に合流できたよ、マジサンキュー。その後も色々あって何とか安全な場所にいる。それで・・・舞衣?』

 

舞衣はずっと連絡が取れず毎日心配していた友人達の無事、そしてその元気な声を聞くことが出来たためかこれまで溜めていた涙のダムが決壊してしまい、眼から一筋の涙が流れ、口元を押さえて必死に堪えている。

そして、電話越しで嗚咽を零す舞衣の声を聞いて申し訳なさが増してきたため安心させる為にこっちは大丈夫、無事に目的地に着いた。安心して向こうに戻っても良いと伝えようとする。

 

 

 

「良かった・・・っ!無事で本当に・・・・グスッ」

 

『あーゴメンよ・・・心配かけた上に中々連絡出来なくて・・・・取り敢えず僕らは大丈夫だ。だから心配ないよ。だからそっちも明日には美』

 

 

 

 

「沙耶香ちゃん見ーつけた♪」

 

喜びも束の間、深夜の暗い風景に似つかわしくない明るい声が電話の声を遮る。

逃走した沙耶香を追って結芽が突如、どこからともなく出現し、路地裏とコンビニの境目の柵の向こう側に立っている。

舞衣と沙耶香も突然の登場に驚いてそちらの方へと振り返っている。

そして何より、その声を電話越しで聞いた颯太が一番驚いていた。結芽が最も手強い親衛隊であり、驚かす為とは言え舞衣に寸止めの突きを入れたことや、自身の正体に薄々勘付いている相手である為、正直な印象としては恐怖の対象であるためあまり良い印象を持っていなかったのもあり驚いてしまうがそれとは別に自身の身体が反応している。

そう、危険を察知する能力、スパイダーセンスだ。

 

(げっ!この声っ!・・・・それにスパイダーセンス・・・っ!?でも僕の周りに危険は無い・・・まさか!?電話越しの舞衣に危険が!?)

 

 

周囲を見渡して自身に危険を及ぼす者や、存在、事象を確認出来ない為スパイダーセンスの発動に違和感を感じたが、結芽が以前に唐突に舞衣に攻撃した時の事や、現状自分に危険が起きない点を鑑みると合点がいってしまった。

そして、深夜であるにも関わらず大声で警告する。

 

『舞衣!危険だ早く逃げ』

 

 

「貴女は親衛隊の・・・・っ!」

 

舞衣は大声で電話越しでも相手の声や会話内容を聞かれないように素早く終了を押してポケットに仕舞う。

 

 

「じゃあ、帰ろっか!おばちゃんが待ってるよ」

 

「・・・・・・」

 

「あれ?もしかして帰りたくないー?そっかー困ったなー・・・・」

 

「ね、どうすればいいと思うおねーさん?」

 

結芽の酷薄とした笑みと冷えた声色が妙な威圧感を放つ。そして、戻るということはまた雪那にアンプルを強制的に投与させられること。俯きながら何も答えられなくなってしまった。

このままでは話が進まないため舞衣に話を振ってくる。

沙耶香はこれ以上舞衣を巻き込む訳にも行かないと思って摘んでいた袖を離す。

 

「・・・・・沙耶香ちゃん?」

 

「私が帰れば済む話だし・・・」

 

「いいの?本当に私事情とか全然知らないけどいいの?聞かせて、沙耶香ちゃんの気持ち」

 

舞衣の真剣な問いかけに本当にそれでいいのか?彼女の本心からの意志を問う。

そして糊で接着したように閉じていた口を震わせながら、自身の意思を、本心を、震えながらも口を開く。

結芽はその様子を眼を細めて不機嫌そうに眺めているが本人が意思表示をするまでは黙って待つことにしている。

 

 

「私の・・・・気持ち・・・・や、嫌だ」

 

「わかっ」

 

「じゃあさぁ!追っかけっこしよっか!10数えるまで待っててあげる。私から逃げ切れたら知らなかった事に、見なかった事にしてあげる。いーち、にー」

 

沙耶香が初めて出した、雪那への反抗。だが、それだけではない。自分の意志をしっかりと伝える彼女にとって大きな一歩だ。

その意志を汲み取った舞衣の言葉を遮って結芽が口を三日月の如く吊りあがらせながら自分から逃げ切れたのなら見逃すと堂々と宣言をしている。

このようにある程度相手にも譲歩すれば相手も自分の提案に乗ってくると判断してこのような発言をしている。

 

「行くよ!」

 

 

(そう来なくっちゃ、でないと私のスゴい所見せられないじゃん。予定外だけどおねーさんを捕まえればどんくさいおにーさんが助けようとして私に挑んで来る!そして、どんくさいおにーさんも捕まえてハリーおにーさんに私がスゴいって褒めてもらうんだ!)

 

直後に2人が八幡力の跳躍力で飛び上がり、遠くまで飛んで行った方向を余裕のある表情を崩さずに眺めていた。

アッサリ引き下がられてはこちらが力づくで天才と呼ばれている沙耶香を実力で捕まえたという証明にはならないため逃げてくれた方が好都合なのだ。

それに、予想だにしていなかったが舞衣も沙耶香の逃走に協力していたことも嬉しい誤算であった。実力的に倒すことは難しくはないが、舞衣はスパイダーマン である颯太が咄嗟にとは言え、正体がバレるリスクを顧みずに自身の突きから庇う程親しい人間であるということ。

もしかすると舞衣を捕まえ、ダシに使えばスパイダーマン は救出するために自分に挑んでくるかも知れない。今、管理局が血なまこになって捜索しているスパイダーマン を捕らえる事が出来るという事は管理局にとっては大きな功績であり局にいる皆どころか国中が自分に注目する。そして何よりスパイダーマンの捜索に辟易している栄人からきっとスゴいと褒めて貰えると踏んで、表面上は余裕そうな表情を崩していないが湧き上がる高揚感を抑えずにはいられない結芽であった。

 

 

一方、舞衣に通話を切られた颯太はかなり焦っていた。深夜であるにも関わらず、焦りから声も大きくなってしまっている事を自分でも気付かない程にだ。

自分の考察でしかないが痺れを切らした結芽が舞衣を人質にとって自分を誘き出すために強行手段に出たと思っているため、彼女を自分が正体を向こうにある程度把握されたせいで巻き込んでしまったと重圧により冷や汗をかき始めてスマホを握る手も汗ばみ始める。

どうすれば良いのか、助けに行くのか?だが、どうやって向こうに行くというんだ?糸を飛ばして飛んで行ったとしてもこの里から現地までの距離は遠すぎる。何より攻撃を避けるのが精一杯だった相手に勝てる保証なんてない。だが、それでも思い付く限りの手段を思案する事をやめる訳にはいかない。

今、危険な目にあうかも知れない人の事を放っておくことなど出来ないからだ。

そして、1つ思い付いた事を、一縷の望みにかけて携帯電話の電話帳のとある欄に電話をかける。

 

 

「クソっ!ヤバいどうしようっ!アイツ相手はマジでヤバい!」

 

「一か八か・・・でも、行ってどうするんだ・・・・?勝てる保証は?・・・・あぁっ!もうどうにでもなれ!」

 

着信中の音が普段なら一瞬のように感じられるが、今はこの秒単位の時間が永遠のようにも感じられた。そして、直後に相手から応答があったのか電話に出て妙に軽い口調で対応してくる。

 

『やぁ坊主、僕に電話する余裕があってGPSの反応が里の場所にあるってことは無事に着いたようだなご苦労』

 

「あのっ!スタークさん!いきなりで申し訳無いんですけどアイアンマン貸してください!」

 

颯太が電話をかけた相手、それは今の形式上のインターンの指導者であり、スーツをくれた相手であるトニーだ。

向こうまで一気に行く方法といえばアレしかないからだ。

そして、今の颯太にとって最大の希望であり、憧れであるトニーが電話に出てくれた事が嬉しかったのかつい大きな声で、向こうからしたら突拍子も無い願いごとをしてしまう。

無論、電話越しのトニーは困惑している。

 

『なんだ急に・・・・僕のスーツはヒーローごっこのDX変身ベルトじゃないんだぞ、トレーニングルームで僕の真似をしてた時の続きか?』

 

「そ、それは!・・・すみません、主語が抜けてましたね。さっきスタークさんがスーツをくれた後にマンションに向かう時に刺客が向かってるって教えてもらって以降中々連絡が取れない、局に残ってる友達に無事だって電話で連絡したら向こうの電話越しに親衛隊で一番ヤバい奴の声が聞こえて来て、そしたら周囲の危険を察知する、僕はスパイダーセンスって呼んでるんですけど電話越しの僕の友達に危険が迫ってる事を感知したんです。このままだと友達が危険なんです!何とかして向こうに行かないと!だからアイアンマンでひとっ飛びして」

 

『向こうに行くだと!?はぁん?落ち着け若者。確かに記録映像を見ると予知したみたく回避してる場面もあるからそのお子ちゃまセンスとやらもあながち嘘じゃないんだろうが行ってどうするつもりだ?まさか』

 

トニーに何故今アイアンマンが必要なのか、先程電話で感じたこと、スパイダーセンスで舞衣の危険を感じ取ったこと、尚且つ相手が厄介な強敵であるという事を根拠に自身の意志を主張する。

するとトニーが声を張り上げて、嘘や冗談でこのような事を言っている訳では無い事はトニーも共有している記録映像でスパイダーセンスの存在は把握していた為何を言っているのかは理解はできる。

しかし、実際に颯太が向こうに行く事でどのようなリスクを負うことになるのか分かった上で言っているのか、語気を強くしながら問い掛ける。

そして、トニーの問いに真剣に力強く、迷いなく返してくる。

 

 

「行って友達を助けます!」

 

『頭ガーデン・オブ・アヴァロンなのか坊主。判ってるのか?今の君は組織の人間でありながら国からすればテロリストなんだぞ。既に君は一組織人として自分の行動が周囲にどう影響するのかキチンと考えられるようにならないといけないんだぞ。君がもしヘマをして捕まったらどうする?それで足がついたら?責任が取れるのか?君が行った所でイタズラに場を混乱させるだけだぞ』

 

トニーの発言は最もだ。今自分が助けに行って負けて捕まったら足が着いてしまう可能性だってある。現に渡されたトニー製のハイテクスーツは子供の資金や技術で作れるものではない。そのため向こうには協力者がいることは既にバレているがトニーが助力していると具体的に知る者はいない。

だからこそ、今颯太は組織人として周囲の事を考えて行動しなければならない。組織は個人の感情では動かないのだから。

自分の行動と言動がいかに独善的で身勝手であることは重々承知している。だがそれでも、今の自分を形成したあの出来事以降ずっと、悔み続けている事がある。

自分に何かが出来るのに何もしなかったから叔父が死んだ一件から、このような事態を簡単に見過せなくなってしまっているのだ。

だからこそ、自分の気持ちをトニーにぶつける。駄々をこねている子供と同じだが、それでもキチンと言わなければ相手には伝わらない。

 

 

「それは・・・バカな事言ってるのは分かってます。ここまでこれたのも博士や皆の、何よりスタークさんのお陰だって事も・・・だからこそ、協調性が大事なことも。でも、誰かが危険な目に遭うかも知れないのに知ってて何もしないなんて僕には出来ない!それで僕は大切な人を失ってるんです。大袈裟かも知れないけど、今、自分に何か出来るのにしなかったら・・・・それで悪い事が起きたら、自分のせいだって思います・・・」

 

 

『・・・・・・・・・』

 

その言葉を受けてトニーは思う所があるのか、真剣に黙って話を聞き続ける。

 

「僕もこのままただ図々しくお願いするのは失礼なのは分かっています。だから、どんな罰だって受けます!戻って来た後に懲罰房にでも入れてもらっても、頂いたスーツを没収してもらっても構いません。今あそこで僕の大事な人が・・・友達が危ないんです!」

 

 

『友達』。この言葉を受けてトニーはその力強い声色からかつて自分も友と呼んだ者と戦い、友と呼べる者を救う事が出来ずに負傷させてしまったこと、結果的に自身の暴走で皆を傷付けてしまった事を思い出していた。

その離反した友も自分の友のためにこのようなリスクを伴う無茶な行動だとわかっていて、自分と戦うことになったとしても自分に一歩も引かずに食い下がって来た1人の男の姿を電話越しの少年に見た。

 

自身は人間関係において器用だとは口が裂けても言えない。むしろ自分の中で最も苦手な事と言っても良いだろう。だが自身に付いてきてくれた友人を救う事が出来ずに後悔した。しかしその友人が励ましてくれた事で今は日本の危機に立ち向かう子供達に手を貸すという新たな目標が出来た。そこで自身が見出した相手、その相手も今、自分よりも遥かに歳下の子供であるが友の危機に真剣に向き合おうとしている。

 

人に憧れを抱かれ慕って貰えるのは誰にとっても悪いことではない。より良い人間になろうと頑張れる。

それでいて自身を強く信頼し、慕い、頼りにしてくれる子供達に出来るのなら自分と同じ友を失う辛い経験などさせたく無いという気持ちもある。

 

トニーは沈黙の後に大きなため息をつきながら、今は慈善活動で来ていたインドの社交界の会場のWi-Fiの電波を確認すると腹をくくったようにぶっきらぼうな口調で話しかける

 

『・・・・・・・・もう少し君は冷静だと思っていたが、どっかのバカと似たような事を・・・・・・はぁ・・・・この会場にWi-fiがあって良かったな、ガネーシャ様に感謝しろよ』

 

「じゃあっ!」

 

『今回だけだからな。坊主、自分が言った言葉を忘れるなよ』

 

「はい!勿論です!ありがとうございますスタークさん!」

 

『少し待て、すぐに着く。後僕は送るだけだ、帰りは自分で来いよ』

 

トニーがWi-Fiによる遠隔操作で東京にある自社に置いてあるアイアンマンに接続して起動させると自動的にアイアンマンが動き出し、腕のリパルサーを飛行用に切り替え、足のスラスターを点火してマッハ3の速さまで加速して上空を移動する。

 

アイアンマンが来るまでの間、制服からハイテクスーツに着替えて制服や身分証などの荷物は部屋に置き、逃走用の私服と靴をリュックにしまい、ウェブを補充していつでも出撃出来るように準備していた。

 

すると飛行音の後に勢いをつけたアイアンマンがスパイダーマン のいる庭、もといスパイダーマン の眼前で右拳と右膝を同時に地面に着けて着地する独特の着地をする。

するとスパイダーマン はそのスタイリッシュな着地にかっこいい!と口に出したくなったが一旦は堪えた。

マッハ3の加速の入ったアイアンマンの重量が地面に当たる衝撃音が響き、その音を聞きつけた面々が起きてこちらに来る。

 

「おいなんだよさっきからうるせーぞ・・・・うおおお!リアルアイアンマン!」

 

「何、何の騒ぎ?何でスパイダーマンに着替えてるの?」

 

「何故アイアンマンがここにいる?」

 

疲れて眠い中の騒動の上、目をこすりながら半開きにしていた面々であったがスパイダーマン に着替えている様子やアイアンマンが目の前にいる光景に驚いて戸惑う者とはしゃぐ者がいる。

スパイダーマン は可奈美とその面々に対してアイアンマンに来てもらった理由と敬意を説明する。

 

「舞衣に僕らの無事を電話で連絡したら向こうで舞衣が親衛隊で一番ヤバい奴に追われててピンチなんだ、今からスタークさんに運んでもらって助けに行く」

 

「だったら私もっ!」

 

「オレもオレも!つーかアイアンマン着たい!」

 

『いいや、連れて行けるのは1人までだ。帰りに逃げる人数が多くなると動きにくくなる。言い出しっぺの坊主以外はお留守番だ。後そこの一寸法師はサイズ的に着れないだろ』

 

「そんな・・・なんで!?」

 

 

『何で?ダメったらダメなの!』

 

 

「ぐっ・・・・確かにオレは着れねぇか」

 

 

どうやら連れて行けるのはスパイダーマン のみであり、可奈美も親友である舞衣を助けに行きたいがアイアンマンに強く拒否される。

そしてスパイダーマン はマスクの下で真剣な表情になり可奈美と正面に向き合い、安心させるために決意表明をする。

 

「可奈美、約束する。必ず舞衣を助けて戻って来る」

 

「・・・・分かった、お願い」

 

少し渋々といった感じだがその声色の持つ力強さと意志を汲み取って自身は待つ事を了承する。

すると、アイアンマンは話が落ち着いたのを見計らってスパイダーマン に問いかけて来る。

 

『よぉし、シンデレラ。お城の舞踏会の具体的な場所は分かるか?』

 

 

「あっ、しまった咄嗟で必死だったから詳しい場所までは把握出来なかった・・・・」

 

「ノープランデスカ・・・」

 

間抜けなことにスパイダーマン はつい必死であった為、そこにまで気を回す余裕が無かったため、管理局及び鎌倉から遠く離れた訳では無いのであろうが

具体的な場所までは把握しきれていなかった。

更に結芽との戦闘になっているであろうから移動している可能性も高い。

ツッコまれたことでスパイダーマン はオロオロとし始めるがアイアンマンは冷静に指示を出してくる。

 

『人をカボチャの馬車にしようとしといてノリと勢いだけで行動するな。ほら、携帯投げろ。手渡しは嫌いなんだよ』

 

「はい」

 

『フライデー、通話履歴から相手の番号を照合した後に逆探知だ。携帯の位置を探り当てろ。サーバーに痕跡は残さずにな。引き続き飛行する前にここら一帯の自衛隊の基地の防衛システムと市街地の防犯カメラに潜り込め。モニターに視界マスキングと、映像差し替えを行なって僕らが飛んでいるのを気付かれないようにしろ』

 

 

『了解です』

 

 

フライデーと呼ばれたアイアンマンに搭載されているAIによって、電話番号から舞衣の位置を逆探知し、アイアンマンの飛ぶ姿を認識されないように防衛システムにハッキングをかけて予防線を張っている。

 

「スゴい手際の良さデスネ・・・」

 

「かなりアウトなことしてるがな」

 

『反応が消えたか、携帯を破棄したらしい。確かに持ち歩くのはリスキーだからな。だが位置は覚えた。後は上空から探せる。行くぞ坊主、しっかり掴まってろよ』

 

「了解!」

 

『何でこっちを向いてハグの姿勢なんだ!僕らはまだそんなに親しくないだろう?前を向け』

 

「す、すみません・・・」

 

スパイダーマン はアイアンマンに手でこちらに来いと手招きされ、しっかり掴まっていろと言われたため、正面からハグのような形でアイアンマンに抱きつくとアイアンマンは皆が見ている前でやられた事やそこまで親しくなった訳では無いため軽く脳天にチョップして身体が離れたと同時に肩を押してスパイダーマン の背中をこちらに向けるようにする。

そしてアイアンマンは背後からスパイダーマン の身体に手を回して片腕で引き寄せてがっしりと抑える。

そして、アイアンマンはスパイダーマン を持ちながらであるためリパルサーによる飛行は難しいため、足の裏のスラスターにエネルギーを回して一気に上空へと舞上がる。

そして、スパイダーマン は向こうで結芽と交戦しているであろう舞衣の身を案じながら夜風と加速による風圧を感じながら正面を見つめる。

 

 

『よし、一気に飛ぶぞ坊主!』

 

 

「はい、スタークさん!」

(無事でいて!舞衣っ!)

 




ハイテクスーツ着てる以上は一回は没収イベントは必要かなってことで許してちょんまげ

かなみん誕おめ!

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