刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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説明回なので味気ないのはメンゴ。ノリと勢いでやっちまったから色々と雑なのは許してくだされ。


第36話 説教と真実

ハッピーが長時間3人を乗せて車を走らせ、途中パーキングエリアで休憩を挟みながら走り続けているといつしか時刻は夕刻となり、かなりの時間が経過していることが察することが出来る。

人気の少ない都会から離れた森林まみれの小さな里に到着するとハッピーが車を停車し、携帯の地図で場所が合っているのか確認して誰かに連絡をすると仮眠を取っていた3人を起こす。

 

「ほら、着いたぞ。起きろお前ら」

 

「すみません、ありがとうございました。ハッピーさん」

 

「この御礼は必ずします。ありがとうございました」

 

「ありがとう、ハッピー」

 

「ちっこいのは早速呼び捨てか・・・・ま、いいけど。俺は車回してくるから宿舎までは坊主が案内しろよ」

 

「2人とも、僕に着いてきて。宿舎はこっちだ」

 

ハッピーが3人と視線を合わさずに携帯を操作し始める。颯太は里に着いた際の宿舎の道のりは覚えているため舞衣と沙耶香を案内しようとすると前方から何かが猛スピードで走ってくる音が聞こえる。

 

「舞衣ちゃあああああああああああああん!」

 

舞衣との再会が余程嬉しかったのかはしゃいでいると言った様子の可奈美が舞衣に飛び付いて、勢いに乗ったまま抱きつき、両者が向き合い再会に歓喜している。

 

「可奈美ちゃん!」

 

「ええっとね・・・私・・・ええっとええっと・・・っ!」

 

「取り敢えず落ち着きな」

 

「そ、そだね!とにかく舞衣ちゃんに話したいこといっぱいあるんだぁっ!」

 

「うんうん、私もたくさんあるよ」

 

感動のあまり言いたい事が多すぎてまとまらない様子だが一先ず落ち着いたかと思いきや舞衣の隣にいた沙耶香が視界に入ると反応すると沙耶香の手を掴んで上下に振り回し始める。

 

「沙耶香ちゃん!聞いた通りだー!本当に沙耶香ちゃんも来てくれたー!」

 

可奈美の破天荒で馴れ馴れしくはあるもののフレンドリーなノリに着いていけていないのか困惑している様子だ。

その騒がしくも微笑ましい喧騒の中で可奈美が走ってきた方向からエレン、薫、そして少し後ろに姫和が歩いて出迎えに来る。

 

「Hello!舞草は2人を歓迎しシマスネー!」

 

皆が再会と歓迎ムードの最中上空から何かが飛来する飛行音がこちらに近づいて来るのを音に気付いた可奈美が上空のを方向を向く。

 

「あれ?何の音だろう?」

 

「あー多分これは・・・・」

 

可奈美と颯太の発言を聞いて全員が上空を向くと接近する音は聞こえるのに姿は見えない。すると、地面に金属が衝突するかの様な音がすると同時に音の正体が姿を現わす。再帰性反射パネルを展開し、姿を消してここまで飛行して来たアイアンマンが地面に右拳と右膝を同時に着けて着地している。

 

「「「・・・・・・・っ!?」」」

 

「リアルヒーロー着地、頂きました」

 

ハッピー以外の全員が驚き、薫が眼前でアイアンマン固有の独特なヒーロー着地をしているアイアンマンに感激して携帯で写メを撮っている。

そして、アイアンマンが起立して颯太の方を向くと歩み寄って来る。すると、途中でアイアンマンの前部装甲が開く。中には先程までアイアンを装着していたトニーが出て来る。

どうやら途中から遠隔操作したアイアンマンと合流して、そのまま乗り換えてここまで来ていたようだ。全員が驚いている最中、トニーはハッピーを見かけると普段通りに会話を始める。

 

「わざわざすまないなハッピー、ご苦労」

 

「いえいえ、何てことないですよボス。これで俺を資産管理のポストにしてくれるのを検討してくれますかね?」

 

「ま、考えといてやる」

 

普段通りのやり取りの後、ハッピーは車を走らせ去って行く。その様子を余所に眼前に世界でも有名な人物トニー・スタークが現れた為か中高生である面々は戸惑っている様子だ。

エレンは夕方にはこちらにトニーが来ることはフリードマンから聞かされていたがまさかアイアンマンを着て、ましてや姿を消してこちらに飛んで来るとは予想もしていなかった為目をパチクリとさせているがすぐにいつも通りにフレンドリーに話しかけ始め、薫とねねは眼前で実際にアイアンマンの着脱を拝むことが出来たのが嬉しいのか目を輝かせて着脱されたアイアンマンの周りをグルりと一周する。間近で細部まで見る機会など普通ならほぼない事なのでこの機会を逃すまいとアイアンマンをマジマジと見つめている。

 

「おひさデストニトニ、実際に会うのはいつ以来デスカネ?」

 

「君がメロンになる前位の頃だな・・・・おっと、アイアンマンにご執心みたいだな一寸法師とグレムリン、試しに着てみるか?」

 

舞草やフリードマンの繋がりで知っているエレンと薫には軽口を叩きながら軽く挨拶を交わしている様子から関係性自体は悪くは無いということは察する事ができ、トニーの冗談に薫とねねは過剰に反応してしまう。

 

「え!?いいのか!?」

 

「ねねっ!?」

 

「なんてな、悪いなのび太、このスーツは僕1人用なんだ。もし君のサイズに合わせるとしたら子供服売り場のキッズサイズから選ばないと行けなくなるな」

 

「シュン・・・・・べ、別に凹んでねーし。ほ、ホントはハルクバスターとか着てみたいとかそれで俺より身長高い奴らを見下ろしたいとか思ってねーし」

 

「何だかんだで小学生みたいな身長は気にしてるんだな」

 

「ほほーん、お前さんの永久に隆起しない大和平野に比べれば将来性はまだあるとおもうけどな」

 

「・・・・・やる気か?」

 

「そっちこそ・・・・・」

 

「まぁまぁ落ち着いてくだサーイ」

 

「そうそう不毛な争いって言うじゃん!」

 

「「やっぱお前が一番失礼だわ!」」

 

些細な事でいがみ合う薫と姫和とそれを止めるエレンと可奈美を余所にトニーは薫が言っていた発言を聞き、インスピレーションに働きかけたのか下顎に手を当てほんの少しだけ思案する。

 

(・・・・言われてみると見た目に反して大太刀を軽々と振るう怪力な一寸法師と2mはある大太刀とハルクバスターアーマーとの相性自体は意外と悪く無いかも知れないな)

 

姫和と可奈美はそこまでトニーを見かけても大きく戸惑ってはいないようだが、やはり有名な人物ではあるため身構えてしまう。沙耶香はただトニーを見つめているが舞衣は颯太がトニーの助力で自分たちの元に来たこと、怒られるのは確定だとも言っていたため心配そうな顔をする。自身のために怒られるというのなら、自身にもその一因の一端があると思い申し訳ないという気持ちがあるからだ。

そうしてトニーが颯太の眼前に来ると皮肉った口調で話し始める。

 

「やぁ、シンデレラ。魔法が解けて無事にお城の舞踏会から帰ってこれたみたいだな。ガラスの靴は持ってるか?」

 

「・・・・・はい、すみませんスタークさん」

 

「僕が何を言いたいのか分かるよな?」

 

「はい・・・・」

 

トニーの皮肉った言い回しは側からみれば軽いジョークを言っているように聞こえるが、表情は真剣で颯太の眼を強く見つめ、怒っているという雰囲気がひしひしと伝わってくる。

そのピリピリとした緊張感の漂う空気は肌を通して痛みとなっていく。自身にスーツを作ってくれた上に仲間に誘ってくれたトニーに多大な迷惑をかけてしまった事に罪悪感を感じ、まだ思春期の子供が叱りつけようとしている大の大人の顔を見つめるのは怖いがそれでも真剣なトニーの眼差しは今自分を写している。怖くても真剣に向き合い、颯太もトニーの瞳を見る。

両者の視線が合うとトニーは次から次へと重みのある、それでいて真剣な声色で語りかけて来る。段々語気がヒートアップして行き、颯太もその言葉に対して何も返せずにいた。

如何なる理由があろうとも自身は一歩間違えば皆を危険に晒しかけた、そんな役割を形式上のインターンの指導者であるトニーにも担わせてしまったことは彼に多大な迷惑を掛けた事になる。そのことを理解はしていたが実際に突き付けられると叱られている子犬の様に縮こまってしまう。

皆もその真剣に叱るトニーの剣幕に押され、気まずさも相まって誰も口出し出来ずに固唾を飲む。これは一対一のやり取り、トニーと颯太の問題だからだ。

 

「手を貸した僕も充分に悪い、だからこれは僕たちのしくじりだ。言い訳はしない。だが、僕は形式上は君の指導者だから言わせてもらう。君の今回の行動は一組織人として相応しい行動だと思うか?今の君は組織の人間だ。知ってるか?君を買ってたのは僕とリチャードだけだった、刀使でもない12歳の子供をスカウトするなんてどうかしてると非難されたんだからな」

 

確かに舞草の中核を為す人物であるフリードマンと協力者であるトニーが推薦したとは言え、超人的な身体能力を持っているとしてもまだ中学生の子供を誘うという事に関して他の組織の大人達の中で反対する者、疑問視する者だって当然存在する。思春期という魔物は時に何をしでかすか分からない、それだけでなくスパイダーマンの正体ですらまだ不明瞭な点が多い為それだけリスクの伴う判断だとも言える。

そんな中、折神紫体制との戦闘で負傷する者が1人でも減るなら、相手を極力傷付けずに無力化出来る力にどうしても賭けてみたくなったからこそ無理を通してスパイダーマンを誘ったのだ。

スカウトに反対した大人もいた最中何とか加入した人物が加入して早々に組織に迷惑をかけるという事は信頼を地に堕とす事となる。だからこそ地に足を着けて自分に出来る事から始めて行くことで組織との信頼関係を築かせて行きたかった。

しかし、それでも彼なりに友の為に必死な様に心を動かされて助力してしまった自身にもこの件に関して重大な責任があると自負して、自身にも言い聞かせるように、そして自覚を持たせるためにこうして厳しく接している。

 

「13歳・・・・」

 

「おいお口チャック!大人が喋ってるんだ。もしも君のヘマで誰かが死んでたら?どうする気だったんだ!君の責任だぞ。君が死んでたら?それは僕の責任だ。そんな罪悪感はいらない。分かるか?」

 

本当は近くに隠れていつでも助太刀出来るようにしていたがその事は本人には言わない。いつだって自分が尻拭いをしてやれる訳じゃない、何かあればトニーが助けに来てくれる。そんな甘い考えを持つようになって欲しくないため敢えて言わない。

一方颯太はトニーに言われた言葉全てが突き刺さってしまっているため強く出るなど出来ない。今回の自分のした事とトニーに言われた言葉はしっかりと受け止めなければならないと強く実感させられ、その圧に押されて言葉も弱々しくなっていく。

 

「はい、そうです。すみませんでした・・・友達を助けたかったんです」

 

トニーの気迫に押され、涙目になりながらも声を絞り出して言葉を紡ぐ。その叱られている姿に舞衣は内心で颯太が叱られている理由になってしまったという思いが駆け巡り、心苦しくなって胸の奥がチクリと痛むような感覚に陥ってしまう。

そして、自分でも分からないが咄嗟にトニーに叱られて震えている颯太の手を取って握り、自身もトニーの方を向いて強く眼で訴えかける。咄嗟の行動に両者共驚いてしまうが、震えている最中手を優しく取られた為か段々精神が落ち着き始めて自然と震えは止まる。

そして、彼女の瞳からは彼は自分のために無理を通したのだ、なら自分はその決断をした理由であるのだから彼だけを責めないで欲しいと言う想いを込めた眼力が籠っている。

 

その力強い眼力に押され、颯太の友達を助けたかったという言葉を聞いてトニー自身もその言葉に動かされていたこと、彼にも自身と同じ様に友を失う経験をさせたくなかったという想いや、彼が危険を冒してまでして助けたかった相手が今こうして無事に目の前にいる事自体は嬉しく思っているため説教はこの位にしてやろうと思い、自身の言った言葉のケジメを付けさせるために本題に入る

 

「・・・・・坊主、自分で言った言葉を忘れて無いよな?戻って来たら懲罰房に入れても、スーツを没収しても構わないと」

 

「はい、言いました」

 

「男なら自分の言葉に責任を持て、だからスーツを返せ」

 

「・・・・っ!?・・・はい・・・・」

 

今着ているトニー製のハイテクスーツを返す。このスーツが無くなれば自身はこれまで通りカレンの戦闘サポートも無くなる上にウェブグレネードやトリップマイン等のハイテクな機能を使用できなくなる。強敵との戦いを切り抜けて来られた力を手放す事になるため、自身の身体能力とウェブシューターで戦わなければならなくなる。

とても厳しくなるなと心の中で思い、いつの間にか知らぬ間に自分はこのハイテクスーツを着ることが好きになっていたのだと実感させられ、実際に返せと言われた際に少しだけ惜しくなったが自分自身で言い出した言葉だ。スーツを返却するのはとても心苦しいが約束を反故にすることは義に反するため返却する事を決断する。

 

「君が言い出した事だ、これからは地に足着けて相応の仕事をしろ。スーツは後で僕の所に持って来い。ここで脱いだら誰得ストリップになるからな」

(坊主、君は少しスーツの力に頼り過ぎだ。いつかの誰かさんみたいにな。だからスーツの力だけでなく君自身が強くなれ。・・・・・あぁ!親父みたい!)

 

トニーは映像記録モードで見た記録映像を見て現状のスーツ頼りな戦闘スタイルに対して思う所もあるのか、厳しくは接しつつも心の中で檄を飛ばしつつ説教を切り上げる。

 

「「あっ・・・・・・」」

 

そして、颯太と舞衣の2人はいつの間にか舞衣が不安を抑えるために叱られて震える颯太の手を取り、手を繋いでいた事を思い出して恥ずかしくなったのかお互いに無言で手をバッと離して反対方向を向く。皆がトニーの真剣な剣幕と説教に、当事者ではないとは言え気まずい空気に圧倒されて呆気に取られてしてしまった為か2人の様子に気付く事は無かった。

恥ずかしさもあったがトニーの発言で引っかかった部分があるため素朴な質問をトニーに問いかける。

 

「あのスタークさん、後でってことはしばらくはここにおられるんですか?」

 

「ああ、2日程だがここでやることがあるからな」

 

トニーがここに来たのは単にスーツを没収するためだけでなく、実際にこの里でやることがあるからのようだ。すると直後にフリードマンが運転する車が皆の近くで停車し、運転席から手を振っていると助手先のドアが開き、誰かが降りてくる。

黒髪で穏やかな雰囲気のある30代前半程に見える女性が降りて来て全員を一瞥すると挨拶をしてくる。

 

「ようこそ舞草へ。若き刀使達、そして親愛なる隣人スパイダーマン。折神朱音と申します」

 

 

それからしばらく経ち、夕日が沈み辺りは暗くなり夜になると座敷の中に案内され、和風の室内に到着する。その前に颯太は制服を置いた部屋に戻り、服の下に着ていたスーツを脱いで畳み、制服に着替えてスーツをトニーに返却する。返却する際に一瞬スーツを自身の元に寄せて渡すのを拒否しようと身体が反応したがすぐに冷静に立ち直って大人しく返却する。

 

そして、皆が建物の中に入ると、トニーはアイアンマンをガレージに仕舞うと少しやることがあると言い残して1人だけ屋敷の奥へと入っていく。可奈美、姫和、舞衣、沙耶香、エレン、薫、颯太は各自で自由に座り、朱音とフリードマンの話を聞く。

まずは朱音が座布団の上に正座をしながら話の口火を切り、話を始める。

 

「相模湾大災厄、あれから20年の時が過ぎようとしています」

 

1998年に発生したこの国の人間なら誰もが知っている相模湾で起きた観測史上類を見ない巨大荒魂による大災害。大荒魂を江ノ島に封じ込め、少数精鋭の特務隊が鎮圧したことは有名な話だ。その話の更なる真相をこの場に集った面々に告げられる。

特務隊が突入して激戦の最中、隊員の1人である当時の高津雪那、旧姓相模雪那が蓄積されたダメージにより体力が限界に到達しこれ以上の戦闘は不可能となってしまったらしい。

これ以上の犠牲を抑えたかった特務隊の隊長であった紫が自身と歴史の裏に隠されているが参戦していた姫和の母親、旧姓柊篝を残して撤退するよう指示。

指示を受けた隊の面々が撤退命令を承諾して撤退したものの実はもう1人、歴史の裏に隠されていたもう1人の隊員が援護のために付いて行き3人は奥津宮へと突入。残りの現伍箇伝の学長達は無事撤退し、生還したというのが事の顛末だ。

 

直後に襖が開けられ、褐色の肌に銀髪。スーツの上に法被を着たような格好をした30代半ば程の女性が入室してくる。

 

「あっと言う間だったな」

 

「HI!サナ先生!」

 

「長船女学園の真庭学長?」

 

サナ先生と呼ばれたその女性は伍箇伝の1校、長船女学園の学長を務める女性、真庭紗南であることが判明する。

長船女学園は伍箇伝の一つ。所在地は岡山県で中国地方、九州、南は沖縄までの荒魂事件を担当している。長船の管轄内に最新技術の開発機関があるため、試験装備のテスト運用などにも積極的に協力しているのだがまさか長船の学長まで舞草に関わっていたとは予想だにしていなかったのか長船在籍以外の面々は驚いている。

そしてこの場にいる全員の顔を見渡すと視界に可奈美と姫和が入ると2人の方を向いて口を開く。

 

「お前が十条姫和、そして衛藤可奈美だな?」

 

「はい」

 

すると紗南はどこか懐かしむように、語り始める。その表情も堅苦しい雰囲気から穏やかな物へと変わる。まるで恩人の子供に会い、言えなかった感謝を伝えるかのようにだ。

 

「あの日のことは昨日の様に思い出せる。私が今こうして生きていられるのはお前たちの母親のお陰だ」

 

「ん?お前・・・・達?」

 

お前達という言い方が引っかかったのか姫和が反応するとその様子を察してか朱音がその事について触れるために説明する。

 

「そうです、大災厄のあの日、大荒魂を沈めるべく奥津宮へと向かった3人・・・1人は私の姉、折神紫、1人は姫和さんのお母様、柊篝」

 

「・・・そして、もう1人は可奈美さんのお母様、藤原美奈都」

 

「っ!」

 

「えぇっ!?おばさんが!?」

 

「ヒヨヨンのマムがかがりんで」

 

「可奈美ちゃんのお母さんが美奈都さん!?」

 

朱音の口から語られた衝撃の一言、可奈美の母親である衛藤美奈都こと旧姓藤原美奈都がまさか20年前相模湾岸大災厄の最前線で活躍していた特務隊の一員であったと聞かされ、真実を知らない若者達は驚いている。可奈美も皆ほどオーバーリアクションはしていないもののかなり驚いてるようだ。

無論、亡くなる前までの知人である颯太も驚きを隠せない、身近な人間がそのような立場にいたとなると実際に知った時は驚かずにはいられない物なのだと実感させられる。

 

「ちなみに颯太さんの叔母様の芽衣さんも特務隊の所属ではありませんでしたが前線で活動なさっており、私も世話になりました」

 

「芽衣先輩は江麻先輩や美奈美先輩の同級生で私達との交流もあった。実力は特務隊に入るには至らなかったがあの人がいると場が和むというか・・・うっかりしているが優しい先輩だった。しかし、まさか先輩の甥っ子さんがスパイダーマンの正体だなんて思いもしなかったがな」

 

「芽衣叔母さんまで・・・・どんだけ世間は狭いんだ・・・」

 

朱音が余談として語ったまさかの事実。両親を亡くした後の自身の育ての親である叔母の芽衣までもが舞草の中心人物とかつては関わりがあった上に特務隊では無かったものの大災厄の際も避難区域に荒魂が入って来ないように前線にいた1人だという話を聞かされ驚いている。

そして、可奈美と颯太には相模湾岸大災厄の話を聞かせた姫和が反応して問い詰めてくる。

 

「なっ・・・・・本当なのか!?お前達!?何故言わない!?」

 

「そ、そんなの全然知らなかったもん、それに今は衛藤美奈都だし・・・」

 

「僕の叔母さんだって自分でそんなに活躍してた方じゃないって言ってましたよ。それに羽島学長と美奈都おばさん以外にも更に交流があったなんて聞いてないですし」

 

2人の知らなかったの一言で片付けられるのはアッサリし過ぎだとも思ったがどうやら美奈都も芽衣も自身の過去は語るほどでも無いと思っていたのか、ましてや芽衣の方も甥の颯太が実際に美濃関でお世話になっている江麻やお隣に住む美奈都のように実際に関わり合う機会がある人物のことは話していたようだ。

 

「自分の母親だろうが、刀使だった頃の話くらい聞かなかったのか?」

 

薫が可奈美に対してやや呆れたように質問をすると顎に指を当てて思い出すように語り出す。

 

「う〜ん、そういう話した事なかったしなぁ・・・・そっか、お母さんが・・・」

 

俯きながらもどこか嬉しそうな表情になり笑みが零れて母の姿を思い浮かべる。自身の母も人々を守るために戦っていたことを知り、嬉しく思ったのかも知れない。そこで舞衣が可奈美に対してかつて可奈美が母親との思い出として語っていた事を思い出し話を振る。

 

「確か可奈美ちゃんの最初の剣の師匠がお母さんなんだよね?」

 

「うん、ちっちゃい頃から毎日しごかれてた」

 

「あの人はマジで容赦ってのを知らないっていうか・・・・・」

 

2人が想いを馳せるようにかつての美奈都のことを思い出していると沙南も話に乗っかってくる。

彼女は実に強い刀使だった。当時の折神紫をも凌ぐほどの実力を持っていた。彼女の人物像を語る沙南の表情はとても穏やかだ。

それと同時に相模湾岸大災厄の大荒魂を沈めた真の英雄は美奈都と篝であること。

そして、自分達は英雄達に何も報いることが出来なかったことを今でも悔いていると朱音と沙南の表情に影が落ちる。

 

「そして改めてみなさんに言っておかなければならないことがあります。あの時の…20年前の荒魂討伐はまだ終わっていません。しかも大荒魂はあの頃よりはるかに力を増し強大になっているはず。奴の名はタギツヒメ。私の姉、紫です」

 

大災厄のあの日、奥津宮に潜り込んで結果的に戻って来たのは折神紫ただひとり。藤原美奈都と柊篝は消耗が激しく病院へと緊急搬送され、戦いの影響で力を失っていた

そして、大災厄から2年後、紫は折神家当主の座に就いた。その8年後、特務隊は大荒魂討伐の英雄として伍箇伝の各学長として配属されて伍箇伝が設立された。しかし、そこに藤原美奈都と柊篝の姿は無かった。

 

力を失い、家庭を持って穏やかな日々を過ごす2人を表舞台には戻さない事が紫の判断により決定されていたためである。

こうして紫が統制する刀剣類管理局、特別祭祀機動隊の組織はより強化され、荒魂の被害は減り、次々と新技術を開発されていき、日本は表面的には平穏な社会を築いていた。

 

しかし、その平穏な日々を過ごす内に皆が20年前に置き忘れた物に気付くことが出来なかった。

7年前、美奈都が逝去した。当時のことは当事者である可奈美と颯太はよく覚えている。大切な人を亡くす悲しみをより強く刻み付けられた出来事であったからだ。

そして、朱音が篝に美奈都の訃報を知らせた時、電話の向こうで自分のせいだと自身を強く責め、後悔しているようであった。

彼女の悔恨の言葉、朱音は大荒魂討伐の真実を調べる決意をした。そして、実家の蔵の古い文献を漁ることで手掛かりを得た。

 

朱音が文献を読み漁ったことで辿り着いた事実がその口から伝えられ、その発言により皆の顔が曇って行くのがわかる。

それは、折神の中でも一部の者のみに伝えられて来た鎮めの儀、それは1人の命を贄として大荒魂を隠世へ引きずり込むことだった。

 

「隠世へ・・・・?命と引き換えに・・・?」

 

「そんなことが可能なのかよ」

 

その突拍子のない、かなり飛躍した話に舞衣と薫が疑念に思ったのか質問をすると沙南が返答する。

 

「可能だ、刀使は御刀の力を使い、隠世の様々な層の力を使う、スパイダーマンが何故お前達にも引けを取らない身体能力を常時発動できるのかは謎だがな。それでいて極稀に隠世の深淵にまで到達出来る力を持つ者もいる・・・篝先輩の迅移がそれだ、隠世の層の時間の流れの違いを利用して加速する技、深く潜れば潜る程加速する」

 

しかし、仮に限界値まで到達してまうと何が起きるのか。

沙耶香がボソりと先程までの沙南の説明から掻い摘んで察知したことを口にする。

 

「一瞬が永遠に近づき無限となる。戻ってこれなくなる」

 

「ってことは相手を道連れにするってことじゃ・・・スマブラのドンキーの掴み技みたいな」

 

「お前よくそんなん知ってんな、つまり心中技ってことかよ」

 

颯太が柊の家の重たい宿命、その力を持つ者だからこそ自身の命を投げ打ってでも人を救うためにその力を使う宿命に対して非常に複雑な気持ちにさせられてしまう。

薫が補足的に心中技であることを説明すると皆が頭の中で何故そのような自身の命を投げ打つ命懸けの奥義を使ったにも関わらずその娘である姫和が今ここに存在出来ているのか、そのことが引っかかっている一同に対して朱音が説明する。

 

「篝さんが生還できたことには外的要因が存在します。それは美奈都さんがギリギリで救ったからです」

 

「美奈都おばさんが・・・・」

 

「お母さんが・・・」

 

「だがどちらにせよ2人は文字通り命を削ってしまったんだろう。刀使の力を失い、数年後には命までもな・・・・」

 

「2人はそれが原因で・・・」

 

「うーん、2人が大荒魂を隠世へ追いやったなら今の折神紫は何者なのデス?」

 

「僕はスパイダーセンスで、あの人からこれまで感じた事がない位かなり強い荒魂の反応を感じ取りました。だから多分・・・」

 

「母は鎮め切れていなかったんだ。一時的に奴の力を削いでいたに過ぎない。奴は折神紫に憑依している」

 

2人の死の原因が判明したは良いがエレンは真面目な表情で冷静に思案している。

スパイダーセンスという危険を察知する超人的な感覚は荒魂の気配をも察知する事が可能な事は伊豆で共に共闘した面々は実際に目撃しているため嘘ではないと思っている。すると事情を把握している大人達である朱音とフリードマンと沙南は同時に頷いて更なる真相を伝えることを決意する。

 

「恐らくあの日から、生還したあの時からあれは既に姉では無かったのでしょう、そして私は2年前に見てしまったのです。自身の内に巣食う何かと会話をしている姿を。私は確信しました、これは大災厄で討伐された筈の大荒魂。タギツヒメであると。そして20年前よりも遥かに力を増して復活の時を迎えようとしている。私はそのことを手紙にしたため篝さんに助力を請いました、貴女はそれを読んだのですね?」

 

朱音の言葉を聞いて常にポケットにしまっている朱音が篝に書いた手紙の入ったB5大の封筒を持つ手に力を込めて朱音の言葉に対して肯定の意味を込めて強く頷く。

こうして全員との会話を打ち切って解散して各々が用意された寝室へ案内される。

 

刀使6名は離れにある旅館。颯太とトニーとフリードマンが同じ棟の宿屋で寝泊まりすることになった。どうやら流石に懲罰房は無いようなので普通に用意された寝室で寝泊まり出来ることとなった。

宿舎に向かう最中、可奈美と姫和と会話をしていた朱音がこちらに気付いてこちらに歩いて来る。歳上の、あまり親しいわけでも無い女性がこちらに来たので緊張して身構えてしまった。何よりトニーの言っていた舞草の大人達の中で颯太を推薦していたのはトニーとフリードマンだけであり周囲の反対を押し切ってスカウトした事を聞かされていたことを思い出した。皆の前で話すときは丁寧な対応をしてくれたが本当は独断専行したことを怒っているのでは無いかと思ったからだ。

朱音が眼前まで来ると同時に怒られるのを覚悟して眼を瞑ると意外な言葉が飛んで来る。

 

「ごめんなさい、貴方を大人の都合で巻き込んでしまいました」

 

「・・・・・え?」

 

しかし、朱音は怒る訳でも貴方を認めないと責める訳でもなく深々と頭を下げて来た。呆気にとられてしまったためパチクリと目を白黒させていると朱音が更に続ける。

 

「貴方の事情はおおよそ聞いています。貴方の身体が変化してしまったのは、管理局・・・・もとい紫の・・・・更に言えば折神の研究が原因で貴方の運命を狂わせてしまいました。貴方の叔父様の件も・・・・。私がスタークさんやフリードマンさん達に反対していたのは貴方をこれ以上折神の都合で苦しめるのは申し訳ないと思ったからです。許してくださいとは言いません。折神の者として貴方に謝らせてください」

 

脳が朱音の発言を理解し、処理するのに時間を要したのか一瞬固まってしまったが概要を把握してから朱音の言葉に反応する。朱音が自身の事情をある程知っていることに驚いたがやはりスカウトする前にある程度どのような人物なのか調べた上で、自身が管理局の研究所で蜘蛛に噛まれてから身体が変化した事を恐らくスーツの機能で会話を聞いていたトニーまたは事情を聞いた両者からある程度説明されていたのかもと思うことにした。

朱音が自身を加入されることに難色を示していたのは信用していないからという訳ではなく自身の家が、実姉の研究の巻き添えで中学生の子供の運命を狂わせ、大切な人を失う切欠の一端を担ってしまったことに負い目を感じていたからだ。

朱音の真剣な様子に押されてしまったが、自分は組織に加入して独断専行をして組織に迷惑をかけ、一歩間違えば皆を危険に晒しかけてしまった為謝るべきは自分の方だと思っていたこともあるが、叔父の死の件に関しては自身に何かが出来るかも知れないのに何もしなかったから起きてしまったことだ、このことだけは他人のせいにしてはいけない。だから自身もキチンと朱音に謝らなければならない。

 

「えっ!?いや、そんなっ!やめてくださいって!か、顔を上げてください!む、むしろ謝らなきゃいけないのは僕の方ですよ!僕を入れるの結構グレーゾーンだった中何とか組織に入れてもらったのに早々に迷惑をかけちゃったんですから。僕の方こそごめんなさい!」

 

謝るつもりだった朱音は逆に颯太に謝り返されてしまった為、居た堪れない気持ちになってしまう。だが、それでいて自分が何故トニーとフリードマンの誘いを受けたのか、何を思ってここまで来たのか自身の意思を伝える。

 

「ですが・・・・・」

 

「あ・・・・その・・・確かに原因は研究のせいかも知れないですけど、身体が変化して力が備わってから僕が調子に乗って何もしなかったからあの出来事が起きたんです。あの件に関しては全部何もしなかった僕のせいなんです。だから他人のせいになんて出来ません」

 

「・・・・・・でもこの力が備わったから出来ることもあったんです。僕に出来る事なんて小さい日常や、ご近所の誰かを手の届く範囲で守ることだったりでそんなにご大層な物じゃないかもって思う時もあります。僕がここまで来たのは人に取り憑いた荒魂っていう危険な奴がいる事を知ってて放置して、それで悪い事が起きたら自分のせいだって思うからです。だから僕は自分で選んでここにいるんです・・だから・その・・・謝らないでください。決めたのは僕なんです・・・・あ、でも妹さんの前で憑依されてるとは言えお姉さんを危険な奴呼ばわりは酷いですよね、すみません・・・・」

 

今は例え世界から敵視されたとしても、危険な相手を放置して誰かが傷付くのなら人に化けた荒魂を倒してそれ以外は討たないと既にそう心の中に決めていたが自身を信じ、力を貸し与えてくれたフリードマンとトニーの気持ちに答えること。そして、人々を守るために戦うことに尽力することが自分にできることなのだと決断し、選んだのは自分自身だ。だから謝罪など必要ないこれからは行動を共にする同志であるのだから朱音にこの事で深く気負わないで欲しい。

その言葉を聞いて、やはり心配だ、知人の甥っ子の運命を狂わせた家の人間であることの罪悪感は拭えないが自身を見つめる瞳を見てこの子は大人がやめろと言っても、やると言ったらやるんだろうなと思わせられる。

それはかつて芽衣との絡みで何度か会った事がある芽衣の亡夫拓哉に似た瞳だなと感慨に耽ると朱音も後ろめたさは残るがこれからは行動を共にする同志として、出来ることは出来るだけしてあげたいと思い協力関係を結ぶことにした。

 

「・・・・分かりました、こちらは紫と鎌府の研究の証拠を皆さんのお陰で掴めました。難しい事は大人に任せてください。それに、貴方の事を心配する人間がいることは忘れないでくださいね。一度落ち着いたら、身体検査も受けてください。私たちなりに貴方にしてあげられることもあるかも知れません。これからよろしくお願いしますね颯太さん」

 

 

「あっ!はい!よろしくお願いします!・・・・えっと朱音様。じゃもう遅いんで僕は宿舎に行きますね。おやすみなさい」

 

 

最後はお互いに軽く会釈をした後に、用意された宿舎へと向かう颯太の背中を朱音は見つめ、誰にも聞こえない程度の音量で呟くが朱音の穏やかな声は夜風に乗って夜闇に消える。

 

「おやすみなさい・・・・芽衣さん拓哉さん。貴方達の甥っ子さんはいい子に育っていますよ」




あの台詞が出て来ないのは没収の過程が違うので今回は言いませんでした、サーセン。いつかは絶対に言いますぞ。


余談:スパイダーマンMCU残留マジ嬉しい。2021年の続編も超楽しみ、次は誰がメインヴィランなんでしょうかね。まだ実写化されてないヴィランとか見てみたいけど。というか2021年のラインナップやば過ぎる。

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