刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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話が進むようで進みません。許して。


2019/10/21。台詞の一部を変更。


第37話 心構え

朱音と別れた後に宿舎の用意された寝室に着いて以降、颯太は敷布団を敷いたり支給された寝巻きに着替えをして制服をリュックにしまう際にトニーからスーツを渡されるまで着ていた何の力も性能も持たないただの服でしかないスパイダーマンの象徴である以前の手作り感満載なスーツが目に入ったので手に取る。そのスーツを見つめると自身が悪いのではあるが溜め息が溢れてしまう。

 

「はぁ・・・・明日からこいつで戦うのか・・・」

 

視線を下に移すと逃走用に用意していた私服の上着のパーカーが目に入る。スーツの上にこの服を着たまま戦闘した事もあったので袖が破れ、あちらこちらがほつれているのが見て取れる。捨てるのは勿体無いが用途が思いつかないので床に投げて置き、消灯して眠りに着く。

 

「・・・・・・眠れん!昼間から夕方にかけて寝過ぎたからかな・・・・でもやっぱり一番は・・・・」

 

いざ就寝しようとするが全く眠気が襲って来ない。ハッピーに里まで送ってもらう際に長時間車の中で睡眠を取っていたのもあるがやはり最大の要因はこれまでの戦闘やあらゆる局面でサポートしてくれていたハイテクスーツが、そしてAIカレンが自身の手の届く距離から離れてしまった事だろう。

 

ハイテクスーツを渡され、強敵達と命懸けで戦っていく最中でもある程度安眠できていたのは皆と力を合わせて来た事もあるが何より自身を守ってくれていたハイテクスーツを着て睡眠を取っていた、または枕元に置いていつでも着れる状況にして来た為か仮に寝ている時に襲撃があってもスパイダーセンスで反応して飛び起き、そのままハイテクスーツの高性能な機能で押せば対応出来るという安心感があったからだと手元を離れてようやく気付かされた。

まるで付き合っていた彼女と別れて初めてその大切さや存在の大きさに気付くような感覚を“彼女いない歴=年齢”ながらも実感したような気がした。

 

今そのハイテクスーツを着て寝ていない、手の届く距離にもない。もし寝ている際に奇襲があったら?圧倒的に強い強敵が攻め込んで来たら?今ハイテクスーツを着ていない自分は対応出来るのか、そんな不安が瞼を閉じても襲い掛かってくる。数日間で戦った親衛隊の猛者達、新装備を付けたヴァルチャー、ショッカー、ライノ。彼らとの戦いの中で刻まれた姿と肉声が自分を追い立てるようにイメージとして再現されて来る。

 

『逝っちまいな!』

 

『どのような理由であろうと我等親衛隊に刃を向けることは即ち、紫様に刃を向けること、その罪は万死に値します』

 

『何だよそこそこ動けるがてんでド素人じゃねぇか!おい』

 

『なら、仕方ない。実力行使だ。骨折は覚悟してもらう』

 

何より極め付けなのは・・・・

 

『私の不意を付けたのは全部その着ぐるみのお陰だよねぇ!』

 

思い出すと段々と身体から嫌な汗が流れ始めて、何となくだが心拍数が上がって来るのを感じる。

これまでも武装した犯罪者と戦う事はあったがそれらは全てスペックはただの人間、且つ達人ばかりという訳では無い。ただ闇雲に武器を振るう者が多数を占めていたため身体能力で押せば制圧自体は難しくなかった。

だが、今回の敵達はスケールが違う。パワードスーツを来ているとは言え自身にも引けを取らない身体能力を用いる者や、戦闘の達人達が相手になって来る。そう言った相手になると素人の自分では戦闘で苦戦する事実はここ数日間で実感させられた。

既に戦う覚悟自体はある程度出来ていると思っていたし、逃げるつもりはない。しかし、この舞草の里、ましてやこの寝室にいる限り今の自分は安全なのだろうがやはり不安な物は不安と言える。

 

「考えてもしゃーない。気晴らしに散歩でもしよっと」

 

貸し与えられた寝巻きのまま靴を履いて里の地形を把握するついでに夜風に当たって気分転換でも出来たらいいと思いながら宿舎から抜け出し、宿舎の周りや里を見渡せる見晴らしのいい場所を探して月明かりを標べにして外を歩き回って神社の近くまで来る。

 

向こうの宿舎に目をやると可奈美達は安眠できてるのだろうか。確か彼女達は枕元に御刀を置いている上に皆で同じ部屋に寝るという話をしていたから自分よりは安眠出来ているだろうかとそんなことを思いつつ、石段を登って神社から里を見渡してみようと思い立っている最中正面から人影がこちらに歩いてくる。

しかし、スパイダーセンスに反応がないことを鑑みるに敵対者でないことは察することが出来る。そして、影に隠れていた人物が顔を現す。

 

橙色をした長船のジャージを寝巻きがわりに着用し、チャックもしっかり上まで上げて少しも着崩していないがジャージで薄着になっているせいか年頃の割には大人びた凹凸のある身体つきが目立つ。そして普段は後ろで結んでいる髪がリボンから解放されてその全容を明らかにしている艶のある髪を靡かせた少女の姿が露わになる。

月夜に照らされたその美しさに目を奪われてしまい、一瞬誰なのか判別するのに時間がかかってしまっていると向こうはこちらを知っているのか名前を呼ばれて誰なのか理解することが出来た。

 

「颯太・・・・君?」

 

「えっ・・・?舞衣?」

 

一方、時を少し戻して、皆が朱音の話を聞いている最中1人だけ屋敷の奥に入っていったトニーの行き先には舞草の里の屋敷の隠し扉があった。

部屋の中はさながらラボとでも呼べる有様でデスクトップ型のPC、作業をサポートする機械、そしてテーブルの上に寝そべるシルバーを基調とした改造を加えている最中のパワードスーツを寝そべらせている。何より特徴的なのは小型の鞄型のコンテナに格納されている複数の円形のプラズマ技術を用いたスターク・インダストリーズ製の小型の半永久機関、すなわちアイアンマンの動力炉であるアーク・リアクターが目を引く。

そして、颯太から没収したハイテクスーツも置いてあり、ウェブグレネードとパラシュート、サスペンションマトリックスを使い切った事は確認してある。後はスーツの記録映像のコピーを取ることと、もしもに備えて使い切ったウェブの機能の補充とパラシュートの再装填のみであるためハイテクスーツのことは完全後回しではあるが。

 

トニーは現時刻の深夜まで作業用BGMとしてお気に入りの洋楽を音量を爆音にしてかけながら時折コーヒーを飲み、小腹が空けばチーズバーガーを食したりしつつ複数のパソコンを同時に操作し、パワードスーツの操作プログラムの打ち込み作業をしていた。

 

「2〜3日じゃ6人分位が限界か。もう少し時間が欲しいな。ほらそこ、武装はリチャードと相談しながらなんだから勝手にいじるな。前に200ペタワットレザーの機能を付けようと提案したら止められたからな。跳躍時の高所移動の補助としてリパルサー・レイの搭載位なら問題ないと思うが・・・」

 

普段は自身の仕事やアイアンマンとしての活動により海外で脅威と戦うことが多く、多忙なため中々舞草に関わる機会が無い。フリードマンが作成したS装備に改造を加える作業を中々行うことが出来ないため時間を極力無駄にしないように素早く的確に画面に映し出されているS装備を3Dモデルにした映像を確認し、不備がないかのチェックをしながらスーツのプログラムを組み立てつつもスーツ作成をサポートする機械がこなれた動きで的確にスーツに改造を施していく。これも自身が日本で命懸けで戦う子供たちにしてやれることはこれくらいのことしか無いが、少しでも力になってやりたいという気持ちがあるからだ。

スーツが徐々に出来上がって来たのを確認し、後は翌日フリードマンにチェックしてもらうだけだ。本日のパワードスーツ残り一機分の改造がもう少しで終わるが時刻を確認すると深夜に差し掛かっていた。

 

「もうこんな時間か。時差ボケのせいもあるが少し眠い。風に当たろう」

 

トニーも何だかんだで徐々に睡魔が襲って来た為か本日の残り一機分の改造の前に夜風に当たろうと隠し部屋から退室して屋敷の外に出ると夜空に浮かぶ月を見上げ、自然溢れる心地の良い空気を吸うことで幾らか眠気が覚める。

 

「この辺は都会と違って緑が多くて空気も良い、いつかこういう長閑な場所に家を一軒買うのも悪くないかも知れないな」

 

月夜に照らされた自然豊かな舞草の里は普段は都会の喧騒の中で生活するトニーからすると自然に囲まれた田舎の風景は貴重な体験を、そして新鮮な気持ちにさせてくれるため軽く散歩をしようと歩みを進める。

宿舎の近くを過ぎて普段は舞草の面々の鍛錬に使われている神社の近くまで歩くと1つの影が佇んでいるのを確認すると一旦歩みを止めて急いで木の陰に隠れる。

この時間帯に夜道をウロウロしている怪しい人間がいるという事は侵入者か不審者の可能性がある。トニーは隠れたと同時に腕時計のボタンを押すと時計が開き、下に飛び出た部分を上に向けて倒すと変形してトニーの手に装着されて紅のオープンフィンガーグローブ、アイアンマングローブとなる。

そして、トニーは顔を出すと同時にいつでもフラッシュ又は衝撃波を打てるように腕を前方に構えるがその心配は杞憂だったようだ。

 

それは寝巻きに身を包んで寝付けずに気晴らしに夜中に軽い散歩をしに来た颯太の姿であった。

 

(何だ坊主か。思春期の夜更かしは身長伸びないぞ。それとも枕が変わると眠れなくなるタイプなのか?)

 

トニーは一安心すると同時に明日も早いと言うのに何をしているんだと言う疑念が湧いて来るが夕刻の時には中学生の子供相手に少し厳しく言い過ぎたせいか、それとも朱音から聞いた話によって不安になってしまったのか、もしくはスーツを没収した際に身体がビクリと反応したことを鑑みるにハイテクスーツが手元から離れてスーツを着ているか枕元に無いと眠れなくなったのではないかと推測する。

 

「まぁ夕方の時は少しキツく当たり過ぎたかもな、それか・・・・お気にのウサちゃんを抱いてないと眠れないお年頃なんだろうな」

 

どこかの誰かさんが経験した様な事態で眠れなくなっているとなると確かに気がかりになってしまうため、自分なりにフォローを入れてやろうと一度頭を掻いてしぶしぶ木陰から出ようとするが颯太が反対方向から来た誰かに反応して会話をしている。

 

「颯太君・・・・?」

 

「えっ?・・・・舞衣?・・・一瞬誰か分からなかったや・・・その、普段と違くて・・・」

 

「へ、変かな?」

 

「ぜ、全然っ!そんなことないよ、新鮮だなーははは・・・」

 

またしてもサッと隠れるトニーであるが見たところ敵対している様子はない。なら知り合いなのかと思い視認すると就寝するためなのか普段の後ろ結びの髪を下ろしてストレートのロングヘアーになっていて誰かは判別するのに時間がかかったが颯太との会話で舞衣だと判断できる。

両者の様子を見てどうやら侵入者でないことは理解できた為かトニーは胸を撫で下ろして木に背中を預けて姿勢をダラりと崩して安堵する。しかし、2人ともこの様な時間帯に抜け出して何をしているのかという疑念が浮かんで来た上に今移動して音を立てれば2人に気付かれる。色々と問い詰められるのも面倒なので2人が去るまでは待つことにした。

 

(孝則の所のお嬢ちゃんか・・・なんだ坊主その歳で夜中にランデブーか?このマセガキめ。後そこは言葉は濁さずにストレートに褒めろモテないぞ)

 

「どうしたの?こんな時間に」

 

「あーその・・・昼間から夕方にかけて結構寝ちゃったから寝付けなくてさ。舞衣もそんな感じ?」

 

「えっ?・・・・うん、そんな感じ・・・来てすぐにあんな凄い話聞いちゃったからちょっと気持ちの整理がつかないっていうか・・・」

 

「じゃあちょっと座って話す?」

 

「うん、いいよ」

 

どうやら彼女はこの里に来て以降、情報の処理だけで無く自分の行き先を決めるのに迷い、眠れなくなっているようだ。

両者共それぞれに眠れない理由に関して含む所がある素振りを見せ、その様子が気になるがやはり寝付けない者同士、会話でもして気を紛らわせようと石段に並んで腰掛ける。

 

しかし、いざ並んで腰掛けたとは言え何から話せばいいのか少し戸惑ってしまう。

話したいことはある、だが朱音からあれだけスケールの大きい話を聞かされた為か情報の整理が追いつかない部分もある。だから両者共言いたいことが纏まらない。それでいて夕方の際にトニーに叱られていた際に誰にも気づかれなかったとは言え舞衣に手を握られて落ち着いたことには深く感謝しているが変に意識してしまって顔を直視出来ない。

 

だが、まだしっかりと礼を言ってなかったなと思って颯太から恥ずかしそうに言葉を紡ぎ出しながら話を切り出そうとすると舞衣から先に話を振られる。

 

「あ、あの・・・」

 

「颯太君、スタークさんにスーツを返せって言われた時ビクって反応したよね?それに少し震えてた。本当は嫌だったんだよね?スーツを渡すの・・・私が燕さんに立ち向かったから颯太君がスタークさんに無理を通してまで来てくれたのは私の為だったんだよね・・・本当にごめんね」

 

舞衣から放たれる言葉、それはあの時颯太の隣で、それでいて震える手を握っていた舞衣だからこそ感じたことだ。約束通り、組織に迷惑をかけてしまう行為の代償として自身はトニーにスーツを返却するという条件で舞衣の元へと向かった。

結果として皆は無事に生還し、舞草との合流を果たすことが出来たのだが、スーツをトニーに返却する事態に陥り、その際にスーツを返せという言葉に動揺していたことを鑑みるに嫌だったのではないかと、それでいて負担になってしまったのではないかという自責の念に駆られていたことを告げる。

 

舞衣の重苦しい表情から伝えられる。放たれた言葉に理解が追いつくのに時間がかかったが理解できたと同時にハッとして自分の意思を伝える。

 

「そ、そんな事無いって!あの件は僕の独断専行だし、悪いのは僕なんだよ。僕の組織に迷惑をかける行動にスタークさんが怒るのは当たり前なんだ。それにスーツを没収しても構わないって言ったのは僕なんだし誰かのせいになんかできないって」

 

「でも、颯太君。本当に震えてたよ。怯えてる子供みたいに・・・。もしかして今寝付けないのもそのせいなんじゃないの?」

 

「ギクッ!い、いや、寝れないのは寝すぎたせいだって・・・あ、後コオロギが結構鳴いてるんだよ・・・」

 

「隠し事結構下手だよね」

 

「あぁ・・・そこは否定できないや・・・・。秘密主義のつもりなんだけどね」

 

(なんだ君もウサちゃんが枕元に無いと寝られないのか。やはりここは大人の出番かな)

 

今寝付けない最大の理由。これまでの強敵との戦闘で自身を守ってくれていたハイテクスーツを着ていない、手の届く所にない。もし、寝ている際に敵襲があったら?スーツが無い今の自分は対応できるのかという不安があるからだという事はスーツを返却する際の反応で大方察することが出来る。

どれだけあのハイテクスーツに入れ込んでいたのか、共に戦ってきた訳ではないが舞衣はなんとなく察する事が出来てしまっていた。

もしそうなら自身が重荷となってしまったのではないかと感じてしまったのか、舞衣の表情に暗い影を落とす。

2人のやり取りを見ていたトニーが動こうとした矢先にそんな舞衣の様子を見てか颯太も無意識のうちに隣に座る舞衣の手の上に自分の手をそっと重ね合わせると自然とお互いの顔を見合わせる。やはり実際に面と向かうと少し照れてしまうが言葉を紡ぎ出す。

 

「あ・・・あのさ、中々機会無くて言えて無かったけどさ、夕方の時・・・ありがとね。叱られたのは僕が悪いんだけど、あの時舞衣が手を握ってくれてたから自然と震えが止まったんだ。なんて言うか、うまく言葉に言い表せないんだけどすごく・・・心強かったんだ」

 

舞衣が無意識の内の咄嗟の行動で手を取った、その手の暖かさと優しさに包まれた事により不安が軽減されたこと、そのことでトニーの話を落ち着いて真剣に受け止めることが出来たこと。あの時は照れ臭くて礼を言えず、それ以降もその機会が無かったが今こうして2人でいる時に礼を言わないとなと思って舞衣の方に顔を向けて心からの感謝を伝える。

舞衣の方も夕方の事を思い出して途端に行った自身の行動が恥ずかしくなるが、それでも颯太の力になれた事は嬉しか思ったのかそちらに顔を向け、ようやくお互いに顔を見合わせて話が出来る。

 

「あれは・・・本当にあの時は咄嗟だったの。私が原因で怒られてるなら何かしてあげたい、力になりたいって思ったの。本当は2人の問題だったのに私が入って行くのは筋違いだったかなって後から思ったんだけどね」

 

「あの時君が手を握ってくれてたから心が落ち着いた、その後の話もちゃんと受け止められたんだ。だから舞衣にはホント感謝しても仕切れない位だよ」

 

「でも、私が原因でスーツが・・」

 

「確かにこれまで僕が戦いを切り抜けてこれたのは皆がいたからってのと、スーツのお陰だってのは事実だよ。でも、電話越しで君が危ないって分かった時、半ばヤケクソだったんだけどあの時は何より君の無事ばかりを願ったんだ。友達が・・・大切な親愛なる隣人が危ないのにあの時のように何もしないなんて出来なかった。スーツの事は確かに惜しい。でもやっぱりそれ以上に、僕の大切な友達が傷付くのはもっと嫌だって思った。それだけなんだ」

 

「・・・・・・・・」

 

舞衣が懸念しているスーツを取られた遠因になってしまったと言う思いに対し、スーツの没収を条件に鎌倉まで戻った事。これは自分で決めて実行した事だ。スーツが無いと不安になっているのは事実だがそれでもかつての様に危険な目に合うかも知れない誰がいるのを知っていて放置する事が出来なかった。それが大事な友人なら尚更だ。だからスーツが無いと不安にはなっているが決して後悔はしていない。その行動の組織に迷惑をかけたツケでスーツを没収されたとしてもだ。

そして何より

 

「だからその・・・・うまくは言えないんだけど。やっぱり僕を、スパイダーマンを支えてくれてるのってさ、スーツだけじゃ無くて僕を信じてくれる人達や、僕が守りたいって思う親愛なる隣人たちが無事で、笑顔でいてくれることなんだ。どっちも僕にとって大事な事なんだよ。それに、スーツはまた渡しても良いってスタークさんに認められるように頑張ればいいしね!だから今はスーツがどうこうよりも君が今こうして目の前で無事でいてくれることが何より嬉しいんだよ」

 

(・・・・・・・・)

 

スパイダーマンは確かに超人とはいえ別に個人単体で成り立てる物でも完全でも無ければ完璧でも無い。どこまは行っても自分はご近所を守る自警団、大それた物じゃない。そう思っている。

自身がスパイダーマンとして活動するのはかつての自分のように大切な誰か傷付いて涙を流す人が少しでも減るのなら、そして、自分の大切な隣人達を守れるようにこの力を自警団として振るって来た。

確かにハイテクなスーツは今の戦闘の素人のスパイダーマンにとっては必要な物だ。現にスーツが無ければ負けていた局面がほとんどであるように。

しかし、その上で何より大事なのは、自分を信じてくれる人々や今の自分を形作ってくれた人々、親愛なる隣人達がいないと成り立たないことだ。

舞衣も今の自分を支えてくれる、親愛なる隣人。大切な人の1人だ。だから、スーツのことも大事だがそれ以上に大事な存在だと言うことが伝わってはいるようだが彼女はイマイチ自信が持てないのか謙遜した態度を貫いている。

そして、木陰で聞いているトニーはスーツよりも友が、親愛なる隣人が大事だと言う言葉にピクリと反応してしまう。

 

「でもやっぱり私は貴方の力には・・・」

 

「なってくれてる!累さんのマンションの時も君が連絡をくれたから死人が出る前にビッグバードを止められた。危なくなった時や負けそうな時にいつも君に生きて君の所に帰るって約束した事を思い出してた。携帯がバグったのと逃亡生活が忙しくて中々連絡出来なかったのはマジごめんだけど・・・だから・・・君は、君は離れてても僕を助けてくれてた、僕の力になって支えてくれてたんだよ。だからスーツのことは気にしなくていいよ」

 

颯太の言葉を受けて暗くなっていた表情に月明かりが照らされているのもあるがどこかしら明るくなっていく。まだ、重要なことは全て決められる程覚悟が決まった訳では無い。だが、それでも気持ちが晴れて来た事は事実だ。

 

「・・・私もね、ずっと颯太君や可奈美ちゃんのことを心配してたんだ。心配で眠れない時もあった。私に出来ることって何だろうって思ってて、それはまだ見つからないし舞草に参加するかとかはまだ決められないけど、でも沙耶香ちゃんを放って置けなかった。燕さんと沙耶香ちゃんの激しい剣戟を前にして私、最初は目で追うのが精一杯だった。決意したと思ったのにいざその局面になった時に足が竦んで動かなかった。でも貴方が言ってた困っている隣人を助けるのは当たり前だってこと、自分に何か出来るのにしなかったら、それで悪いことが起きたら自分のせいだって思うって言葉。私もそんな風に友達の力になりたいって思って貴方に協力したのを思い出したんだ。だからあの時私は踏み出せたの。だから私も、貴方から既に勇気を貰ってたんだなって。だから・・・」

 

舞衣もいつも友人達のことを案じていた。しかし、唐突に運命は加速して自身も決断を迫られることとなった。実際にハイレベルな戦闘、そして強敵を前にして足が竦んでしまったがその際に彼の言葉に自身も勇気を貰っていた事、そして自身から一歩を踏み出せたこと。

お互いがお互いに知らぬ間に、離れていても助け合っていた事を気付かされる。

すると、両者とも重ねていた手を握って、友情の握手を交わし、月夜に照らさせる互いの顔を見つめ合い同じタイミングで言葉を切り出す。

 

「「いつもありがとう。これからもよろしく、僕/私の親愛なる隣人へ」」

 

とても真面目な雰囲気だったが、一言一句同じタイミングで発言したため、おかしくてつい吹き出してしまう。

 

「ぷっ・・・息ピッタリ。意外と波長が合うのかもね僕ら」

 

「そうかもね。ふぁ〜あ、色々話してたら私はちょっと眠くなって来たかも・・・」

 

いくらか落ち着いて来たのか舞衣が段々と眠くなって来たのか瞼がしょぼしょぼと上下し始めて欠伸までし始めた。会話をしたことによりある程度憑き物が落ちて落ち着いたのだろうか。そして、これ以上付き合わせるのは申し訳ないと思って会話を切り上げて踵を返して宿舎の方へと戻ろうとする。

 

しかし、その前に軽く何か不眠対策が無いかを聞きたいと思い、振り返って質問をする。

 

「ごめんよ長々と付き合わせちゃって。じゃあさ、折角だし舞衣って普段眠れない時とか、緊張してる時ってどうリラックスしてる?ちょっと参考までに聞きたくてさ」

 

突拍子のない質問に対し、一瞬戸惑ってしまうが難しい質問では無いため、思った事をありのまま答える舞衣。

 

「え?う〜ん、胸が一杯の時、悲しい時、緊張して眠れない時はクッキーを焼いてると落ち着くかな」

 

「う〜ん、クッキーかー・・・僕料理のセンス皆無だし作る物大体カーボンになるんだよなぁ・・・」

 

「そうじゃなくて、好きなこと、集中できる事、自分のアイデンティティを強く見出せる事をすればいいんだよ」

 

実は料理のセンスが壊滅的で究極のメシマズである颯太には初見では言葉の意味を捉えきれなかったが補足されたことによりようやく脳内でシナプスが繋がり始めた気がしてくる。舞衣にとってクッキー作りは単に趣味というだけでなく、落ち込んだ時や心配で寝付けない時等に行うと集中出来る、気持ちが落ち着く一種の儀式とも言えるものだ。

限られた時間で自分を保ち、今自分は何をしているのか、自分は何なのかを冷静に立ち直って見つめ直すことが出来る物事、それは誰かしらにある物だろう。そこで思い出してくる。

 

そうだ、最初にウェブシューターは誰が作った?ウェブを改造したのは誰だ?それが出来るのは自分が科学のオタクだからじゃないか。クッキーは作れなくても、自分だからこそ出来るアイデンティティが確かにあった事を思い出した。

そう思い立つと、善は急げと言わんばかりに宿舎の方へと駆け出して行き、別れを告げる。

 

「そうか。好きな事をすれば良いのか・・・サンキュー!そんじゃおやすみ!」

 

「えっ?うん、お休み」

 

舞衣も変わりように戸惑っているが手を振って見送った後に自身も宿舎へと戻る。当の2人はトニーが近くで聞いていた事には幸か不幸か気付いてはいない。2人の姿が見えなくなると隠れていた木陰から抜け出して颯太の走って行った方向を見つめている。

 

「・・・・全く糖分過多な奴等だな。僕の年齢では段々気を付きゃならない甘さだ」

 

2人のやり取りを図らずしも聞いてしまった事で何とも言えない複雑な気分にさせられてしまったもののトニーの中で1つの考えが芽生えていた。

トニーはポケットから小型の型の古いガラケーを取り出すと真剣な表情のまま見つめる。

実は常に充電を満タンにしていつも持ち歩いている、ある人物から連絡手段として渡された大事な物であるからだ。

かつては仲間として、年長者として敬意も払っていた人物だが協定の是非のいざこざで離別してしまったが自分の力が必要ならば連絡をくれと渡された型の古いガラケーだ。

この携帯を見る度に彼の事を思い出す。また会って話したいという気持ちもあるが気まずさが優って自分から連絡を入れるのは勇気のいる行動だ。心のどこかでは彼を既に許している、許したい自分がいるのだがどうも意地っ張りな自分が邪魔をする。何ならば彼の方から連絡をくれたならばと乙女チックなことも考えてしまう。

 

だが、ここ最近で友達のために命を懸ける子供達の姿を見て、その行動に心を動かされて自身でも合理的とは思えないがその想いに触れることで揺らぎ出してたいたことを、彼ら2人の先程までの会話で自覚させられてしまった。

そして、今自身がスーツを与えた颯太はかつての自分のようにスーツ頼りになってしまっていて、少し突き放してしまったことを心苦しく思ったが根底にはスーツよりも友を、隣人を大事に思う気持ちに触れて、少し眩しく感じてしまう部分もあり、なおのことスーツの力だけで無く彼自身が強くなって欲しいと思わせられる。

 

その為に自分も訓練には付き合うが常に着いてやれる訳では無い。自分も限られた時間の中でS装備を改造する用事がある。ならばその合間にでも戦い方を、近接戦闘の技術を教えられる人物・・・超人とは言えスペックはあくまで人間の延長上であり、特殊なスーツを纏っている訳でも、決して無敵という訳でも無い。

だが、例えどれだけスペック差のある相手、不利な状況であろうとも一歩も引かずに技術と経験、そして高潔な精神でそれらを覆す人物・・・・考えられるのはある人物の姿だった。

 

「友達か・・・・分かってはいたさ。奴を庇ったのが許せないんじゃない、僕を信用せずに知ってて黙っていたことに腹が立ってしまったんだ。だが坊主達の友のために懸命になる姿に手を貸してアンタの、友を何より強く想う気持ちがほんの少しだけ理解できた気がしちまったんだ。だからこのジジイ携帯を肌身離さず持って、いつでもアンタからの連絡を待ってるまでもあるんだが・・・・。か、勘違いするなよ坊主。もし君が友達よりもハイテクスーツを取るような奴だったらここまでしないんだからな」

 

トニーはガラケーをポケットにしまうとスマートフォンを取り出してハッピーに連絡を取り始める。すると距離自体はすぐ近くにいるのでハッピーはすぐに電話に出る。

 

『はい?どうしましたかボス』

 

「やぁ、お眠の所悪いなハッピー。ちょっと頼まれてくれるか?朝からで良いんだが、これから言う所に向かって欲しいんだ」

 

一方、颯太が戻った宿舎では、颯太は床を滑りながらフリードマンの寝室の前で急停止して、ノックしながら用件を伝える。

 

「博士すみません、ちょっとガレージと備品とS装備とかのジャンクパーツ借りていいですか?」

 

「ん?何だいこんな時間に。まぁ、好きにしたまえ」

 

「ありがとうございます!」

 

フリードマンは寝ぼけているのもあるがガレージは宿舎の隣である上に、既に組織の協力者である颯太には使う権限はあるのですんなりと許可して再び眠りに着く。

急いで用意された寝室に入ると脱ぎ捨てられた逃走用のパーカーと古いスーツとウェブシューターを持って宿舎の外に出て宿舎の隣のガレージに入る。

すると、逃走用のパーカーをテーブルの上に置くと破れている袖の部分を掴み、片手で押さえてそのまま引き千切ると服の繊維が飛散する。そのまま両方の袖を千切ってノースリーブの形にすると塗装用の赤のスプレーを発見してパーカーに振りかけて服を赤色に染めて行き胸の辺りには蜘蛛のマークになるように細心の注意を払いながら服を塗装していく。袖が破れて私服としては着れないがまだ冷え込む5月。無いよりは良いだろうと判断してスーツの上に着れる仕様に変更する。

 

塗装した後にはハンガーにかけて乾燥するのを待つ。次にマスクの眼の部分にはなりきっている際には色々な情報が入ってくる為ハイテクスーツのように視界を調整できるゴーグルを作ろうと思い、ガレージの棚から工具箱と廃棄されるであろうジャンクパーツ(恐らくS装備作成の際に余った物や失敗した物)を取り出す。

 

「わぉ、ガラクタの山から結構いいの揃ってんじゃん」

 

寄せ集めの廃棄されるであろうジャンクパーツを寄せ集めて円形のプラチックを眼を保護するゴーグルの代用品としてマスクの目の部分に取り付け、いつも通りの白い眼に外側から余計な光をカメラの要領で広げたり狭めたりできるシャッターを動きに合わせて調整できるように一度旧式のウェブシューターと廃棄する電子機器を分解して、配線をゴーグルに譲渡する事にした。

 

確かに自分が好きな事、自分を出せることをするのは緊張がほぐれて行く。例え今はハイテクスーツは無くとも自分にはウェブシューターを作った機械オタクとしてのアイデンティティが確かにある。

ハイテクスーツの様な代物は作れないが、ただ指を咥えて何もせずに敵に怯えているよりは遥かにマシな選択と言えるだろう。限られた時間・物で作り上げて行く。その最中心が落ち着いて行くのを感じる 。

 

まだスーツへの依存が完全に治った訳でも無く、自覚も無いが今はスーツが無くとも戦いに向けて準備をする、その上で自分の力で挑むメカニックとしての心構えが確かに芽生えて来ている。

 

ゴーグルが手作り感満載で雑な作りではあるが一応目の動きに合わせてシャッターを広げたり狭くしたりは出来るようになって来た。

ハイテクスーツの様に制度の高い視界調整は出来ないがこれでただの布よりは遥かにマシの筈だ。

 

「電気ショックウェブをこっちのウェブシューターでも発射出来るようにしたい。発射すると出力が落ちるのは仕方ないけど何かに使えると思うし。えーと、予備バッテリーはこれから頂こう。んで、次はここの配線を組み替えて・・・・あーでもやっぱ容量の問題でゴツくなっちゃうけどこれで行くか。んでシューターのスイッチと連動するバネには・・・おっと僕が使ってるのより遥かに返りが強いのがあるな。取り替えて発射速度を上げられるようにしとこう」

 

マスクに譲渡した配線を補うように電子機器から配線を移動してウェブシューターに改造を加えて行く。多少無骨でゴツくはなったが前よりは面積を大きくしたためウェブの許容量も上がっているためウェブの補充に使う時間を短く出来るだろう。

 

「ふぅ、一丁上がり」

 

作業を終えてスーツに多少なりとも改善を加えたホームメイドスーツが出来上がった瞬間、自然と眠気が襲って来たため、やはり舞衣から聞いたアドバイスは需要がある物だったなと実感させられる。

明日から日中は訓練もあるため早朝に叩き起こされるだろうと思って寝室に戻り、布団に入って眠りに着く。すると先程よりもすんなり眠りに入る事が出来た。

 

(ホントだ。さっきよりぐっすり寝れる。サンキュー、舞衣)

 




アベンジャーズのVRゲームのダメージコントロールめっちゃ楽しそう。

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