刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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ある人がちょい役で出てくるけどこの人もちょい役でホムカミに出てたしって事で許して。



第38話 鉄は熱い内に打て

東京某所の墓地にて、深夜の丑三つ時に全身黒の服装をした、外見としては30代半ば程に見える筋肉質で、ブロンドの髪が特徴の白人男性がかつての日本兵達の慰霊碑の前に片膝を着いて黙祷を捧げていた。

服装はスポーツウェアで少しラフに見えてしまうが髭などは綺麗に剃られており、髪も短く切り揃えられている。この日に備えて散髪でもしたのだろうか。

白人男性は誰もいない、静寂に包まれた墓地で一人でにボソボソと話し始める。

 

「この様な格好ですまない。今この場に相応しい服装が簡単に手に入れられる生活を送っていないんだ・・・日本には来るべきかと悩んだが、たまたま日本の近くを通った際に、どうしても一度貴方達に祈りを捧げたいと思ったんだ」

 

この人物はどうやら外見年齢の割には戦時中の事をまるで当事者であるかのように知っている様にも見える素振りをしている。いや、実際にそうなのだろう。

 

「僕はかつて国を守る為に血清を打って超人兵士となり、戦時中には日本兵とも戦った。任務のために僕や、僕達の部隊が手にかけてしまった日本の兵士もこの中にいるのかも知れない。戦争だから、討たなければならないとあの時は殺し合う事しか出来なかった事を、そのせいで不幸になったかも知れない人が大勢いる事を今でも心苦しく思う」

 

白人男性が目を伏せながらかつての記憶に想いを馳せている。

戦場では遭遇すればそれは敵、皆が自身の国を、守りたい人達の為に戦っている人、ましてや戦いなどしたくなかった人達も大勢いただろう。

中には味方とは言え横暴を働いた者達には不快感を覚えたこともあったし、敵国の兵士の中にも尊敬できる人達もいた。

そんな人達と戦うことになり、自身は彼らを討って英雄として祭り上げられてしまったことを、今でも苦しく思っている。

そして何より、日本が荒魂という異形の怪物の出現以外では平和な国になったことに安堵もしている。

 

「貴方達は国を、守りたいと願った人達を守るために戦っただけ。僕らもそれは同じだ。誰かが一方的に悪かったと断じて良いものではない。戦争が終わり、今の日本が平和である事を嬉しく思う。だが、その裏には命懸けで戦った貴方達の存在があったからだということを忘れてはいけないとも思う。僕に、元敵国の兵士にこんな事を言う資格等無いと承知しているが僕は貴方達を忘れない。敵としてではなく、国を守るために戦った戦士として。貴方達の魂が安らかに眠れる日が来る事を祈っている」

 

白人男性が慰霊碑に一礼して立ち去ろうとして野球帽を被って歩き出すと、ポケットの中の携帯電話が鳴り響く。ここ最近では自身に連絡をよこす人物などほとんどいない。いるとしても今は安全な地にいる古い友人とSkype通話をするくらいだ。

だからこそ今自分に、こんな時間に電話を寄越す存在が気がかりになった。

一人心当たりがあるがその人物がそう簡単に連絡をくれるのだろうかと、相当意地っ張りで面倒くさい人物であるため簡単には無いだろうと思っていたがそれでも可能性が1%でもあるのなら賭けたかった。

白人男性は携帯をポケットから取り出して着信相手の名前を確認する。着信名を確認すると即座に応答を押して電話に出る。

 

「トニー、君なのか!?」

 

『やぁ、キャプテン。久しぶりだな。知らぬ間に老けすぎて老人ホームのお世話になってないか?』

 

軽妙で相手をおちょくるような口調で話す白人男性の電話の相手、かつての仲間アイアンマンことトニー・スタークだ。

そして、トニーの発言から分かるようにこの白人男性は超人血清にて超人となり、65年近くのコールドスリープを経て、アメリカのヒーローチームの元リーダーとしてチームを率いていたが、現在は全国指名手配中の戦争犯罪人『キャプテンアメリカ 』ことスティーブ・ロジャースである。

協定の是非でチーム内で揉めた際、長年の友人がトニーの両親の死の原因。そのことを知ってて黙っていた上に友を庇ったことで決裂してしまい、自身の力が必要なら連絡をくれとせめてもの詫びとして連絡用の携帯をトニーに渡していたのだが、トニーがその携帯を使ったことは嬉しい反面驚きを隠せない。

しかし、彼には謝っても謝り切れないほど心に深い傷を負わせてしまった負い目があるため謝罪から入ることにする。

 

「・・・・何とかな。トニー、僕からは君に電話をする資格は無いと思って、君からの連絡を待っていた。電話越しで失礼なのは承知しているが、嬉しく思う。そして、本当にすまなかった。君の怒りは最もだと思う」

 

スティーブの謝罪に対して、電話越しのトニーは一呼吸置いて段々と真剣な口調になりながら言葉を返してくる。話したいことが色々とあるからだ。

 

『まぁヴィブラニウム頭で頑固者の君なら自分から連絡はしないだろうと薄々思ってたよ・・・僕の方は君を許している自分とムカついているが許したい自分がいて、気まずさが勝って連絡が出来なかったんだ。・・・・しかし、未だに奴に関しては許し切れてはいないし、これからも許せるか分からないのは事実だが頭に血が上っちまった僕も僕だしな。怒りは人を蝕む物だ、それは避けたい。だから一度君と話がしたい』

 

「トニー・・・分かった、話をしよう。所で一つ聞きたいんだが僕に連絡をくれたのには何かきっかけでもあったのか?」

 

まだお互いに直接会って話せた訳でも無く、蟠りも完全に解けた訳でもないが自分から小さな一歩を踏み出したトニーの言葉を受けてスティーブは何かを感じ取る。自分も大概だが頑固で意固地なトニーが自分から連絡をくれるという事は何かしらの心境の変化があったからなのではないかと直感で察することが出来たからだ。

トニーはスティーブに言い当てられて内心ドキリとするが、ここ数日間行動を共にし、助力した子供達の姿、スーツに依存はしていてもスーツよりも隣人を想う気持ちに触れたことを思い出して照れ臭さはあるがそれを隠して背景を説明し始める。

 

『うっ・・・・まぁ、今はガキのお守りをしててな。ガキなりに友達のために命を懸けて行動するガキ共に手を貸して、それがまた自分でも合理的だとは思えないんだがあんたの友を強く想う気持ちに触れたというかまぁ・・・・背中を押されたというか・・・そんな感じだ』

 

「そうか、その子達に感謝しないといけないな。所でトニー、僕に連絡をくれたという事は何か僕の力が必要だからじゃないのか?君が話をしたいからという理由だけで連絡をくれたとはどうも思えなくてな」

 

しばらくは会えていなかったが共に過ごした時間はある程度あるスティーブはトニーの人柄を考えると単に仲直りのためだけに連絡を寄越したとは思えない。自身の協力が必要なのだろうと質問を返すとトニーは真剣な声色で今日本で起きていること、そして自身の現状を伝える。

 

『ああ、そろそろ本題に入らないとな、忘れてたよ。キャプテン、今日本に・・・いや、最悪の場合世界規模にまで危機が迫っている』

 

「本当か?」

 

『あぁ、20年前に相模湾岸大災厄という荒魂による大災厄があったんだが、その元凶である荒魂が復活しようとしているらしい。しかも、警察組織・・・刀剣類管理局を牛耳るトップに化けていて権力があるから国を裏から支配して、反対勢力は片っ端から潰される。僕は今、外部協力者扱いだが奴に密かに対抗する舞草という父の知り合いが指揮をとっている組織に力を貸している』

 

「他人事とは思えない話だな・・・・災厄に関しては微かに聞いたことがある程度だが・・・しかし、僕らで対処可能なのか?」

 

世界を脅かす災厄がこの日本の地で起きようとている。かつて何度も共に世界の危機に立ち向かって来た両者の関係からしてスティーブはトニーの言っていることを真剣に咀嚼して状況を飲み込み始める。

しかし、今かつて自分たちが組んでいたチームはほぼ解散状態。全員を早急に集めるなど不可能に近い。恐らく連絡手段が残されていた自分に連絡を寄越したという事はそれだけ切羽詰まっているのか、または自分達で対処が可能だと判断したからなのかとトニーに質問をする。

 

しかし、トニーは電話越しで肩を竦めて、憎たらしそうに皮肉った口調で自分が今彼女達にしてあげられるであろうことを説明する。荒魂は近代兵器では倒す事は不可能。ユニビームによる強い衝撃を与えて動きを封じるか、部位を物理的に脆くして彼女達が戦いやすい状況を作り出し、より効率的に荒魂を倒しやすく援護する位しか思い付かない。

そもそも舞草が水面下で行動している組織であるため外部協力者であるとはいえ自身も派手な行動が出来ず、実際に珠鋼性の武器や装甲を武装したアイアンマンや盾を作成したり、何かを試したりした訳では無いため現段階では何とも言えない現状を歯がゆく思っているようだ。

 

『あーそこなんだがな、困った事に荒魂は御刀という専用の武器を用いないと倒すことが出来ないらしい。数に限りがある上にそう易々と手に入るもんじゃ無い、アイアンレギオンじゃあ役不足だろうし多分僕がアイアンマンで出ても動きを封じて足止めか、砲撃で援護してやれる位かもな。まだ何も試せていないから現段階では何とも言えないが』

 

「子供達に対して何もしてやれないのは心苦しいな・・・」

 

スティーブもトニーの話、荒魂は刀使でしか倒すことが出来ない、やや語弊はあるが御刀を使ってまともに戦えるのが日本では彼女達のみであり、彼女らに匹敵する怪力を発揮出来れば恐らく倒すこと自体は可能だ。

その話を聞いて表情に暗い影を落とす。確かに自身は血清により超人的な身体能力を持ってはいるがあくまでもスペックは人間の延長上でしか無い、彼ではややパワー不足になり戦局を大きく覆せる戦力にはならない可能性が高い。例え敵わなくとも出来る限りの事はして荒魂に立ち向かうとは思うが、人員に限りがある以上どうあがいても結果的に子供達を戦場に立たせざるを得ないと考えると悔しさで奥歯を強く噛み締める。

 

『全くだ。現に僕は来たる戦いに備えて彼らを護るアーマースーツを改造する事に徹底している』

 

「なるほど。それで、何故スーツを作れる訳でもない僕に連絡をくれたんだ?」

 

トニーにはスーツを作る技術と知識がある。前線に立つ彼女達の身を守るため、そして身体を強化するスーツの改造に徹する事で彼女達に助力すると考えると納得は行く。トニーは常々脅威から世界を守るには自由は無くなるが世界中にアーマースーツを配備して守る術を持つべきだと考えている為、これもその一環だと考えるとスティーブは納得出来た。

しかし、トニーが技術で彼女達に助力することに納得はいったが、スーツを開発出来る訳では無いスティーブに助力を願ったことには腑に落ちないため再度質問する。

するとトニーの口からは意外な一言が発せられる。そして、どこが声のトーンが一瞬高くなった様な気がした。

 

『アンタは知っているか分からないが、スパイダーマンというレオタード君を知ってるか?』

 

「日本で噂になっている彼か。その彼がどうしたんだ?」

 

スティーブも日本に来て色々と良くも悪くも噂になっている覆面の自警団、スパイダーマンの存在は耳にしていた。トニーがその名前を口に出したという事はその人物が自分に連絡を寄越した最大の理由なのかと思案する。

 

『今僕がお守りをしている坊主がスパイダー坊やだよ。僕の推薦で舞草に協力してもらって、一時的にハイテクなスーツを渡したりして形式上僕はレオタード君の中の人のインターンの指導者だ』

 

「君がそこまで他人の面倒を見るとはな・・・・いやすまない、そういう時もあるか」

 

ナルシストで自己中心的な生き方をして来たトニーが子供のお守りをして、指導者までしていると言う話を聞いてスティーブは一瞬固まってしまう。無理もない。これまでのトニーを知っているスティーブは困惑してしまったが心境の変化だろうとすぐに適応することにした。

 

『なんでそんな意外そうなんだ・・・まぁ、いい。そのスパイダーマンは管理局、敵さんの研究の影響で超人的なパワーを身につけ、不明瞭な点が多い上に何故かは分からないが御刀は使えなくともオカルトパワーで荒魂にダメージを与えて倒すことはできるみたいなんだ。最も、僕が坊主を舞草に誘って協力を願ったのは彼のクモ糸は敵を極力傷付けずに捕まえられるからだ、管理局と戦う以上人間の敵も多くなるからな。なるべく人間の負傷者を出すのは避けたいんだ』

 

真に倒すべきは日本を影で支配し、世界を脅かす存在。荒魂タギツヒメこと折神紫。彼女の下に付き従う管理局に所属する者達は騙され、利用されているだけ。その最中で負傷する人間が一人でも減らせるならとトニーはスパイダーマンを誘ったのだと言う発言を聞き、スティーブは思い当たる節があった。

ウルトロンの暴走により、人類滅亡を阻止するためとは言えその過程で多くの犠牲を出してしまったことや協定の際にチームがそれぞれの信念の為に感情的になって傷付け合い、皆が傷付く結果に終わり、離散してしまったこと。

 

かつては兵器を作り、自分の発明で多くの人が死んでいたことを知って兵器を作る技術を人を救う為の技術に変えてテロリストと戦う戦士になったトニーだからこそ多くの無実の人を死なせてしまった責任を誰よりも重く受け止めたものの、あの戦いの遠因となってしまったことを今でも悔いているのだろうとスティーブは察することが出来た。だからこそ、スパイダーマンの力に賭けてみたくなったのだと。

そして、次に発せられる要件がトニーが自身に連絡をくれた最大の決め手、勇気を振り絞って一歩を踏み出すきっかけとなった相手を心から想ってこその考えをスティーブに伝える。

 

『だが、困ったことに坊主は元々一般人で戦闘経験が少ないド素人だ。スーツを渡して無事に目的地に着いたはいいが、どうもウサちゃんにご執心でな。だから、彼にはスーツの力だけでなく彼自身が強くなって欲しい。僕も出来るだけ訓練には付き合うが嬢ちゃん達のアーマースーツを改造する用事もあるから常についてはやれないんだ。そこで、その合間に君が坊主に近接格闘を教えてやって欲しい。まぁ、後進を教え導くのも年寄りの役目って言うだろ』

 

「・・・分かった、全力で取り組もう」

 

トニーの心からの願いを聞き届けたスティーブはただ静かに力強く、一歩を踏み出したトニーの気持ちに応える為に。そして、自身が戦うことで不幸にした日本兵達の魂が安心して眠れるように、せめてもの償いとして日本を守るために戦いに臨む未熟な若者に戦う術を教えることで彼等に助力する決意を固めて返事をする。その静かで力強い返事には様々な想いが込められているのをトニーにもひしひしと伝わってくる。

 

『そう言うと思ったよ。で、今どこにいる?後でハッピーに荷物を届けさせる』

 

トニーが自身なりに勇気を振り絞って一歩を踏み出した選択であったため、その決断をスティーブが快く引き受けてくれたことに心底安堵したのか、表情は少し晴れやかだ。

そして、居場所を問いただした矢先にスティーブは即答する。

 

「日本だ」

 

『はぁ!?何で日本にいるんだ、寿司でも食いたかったのか?』

 

あまりにも近くにいることが分かったのでつい素っ頓狂な声を上げてしまうトニーであるが、スティーブは冷静に日本に立ち寄った経緯を説明する。

彼等が意外と近くにいたのはかなりの偶然であるがこれはこれでプラスに働くであろう。

 

「確かに本場の寿司も蕎麦も食べてはみたいがそれは後だ。いつか日本に来て墓参りをしたかったんだが中々来る機会がなくてな。たまたま近くを通ったんでついでに何日か滞在することにしていたんだ」

 

『なるほどな。まぁ、近くて助かったよ。だが、僕らとの合流はすぐには難しいだろう、皆の混乱は避けたい。それに念には念をってことで。後でハッピーを遣いに送る。しばらくは僕が用意する隠れ家に身を隠してくれ』

 

トニーの発言を聞いてスティーブは思わず聞き返してしまう。訓練に付き合って欲しいというが、実際に彼らのいる場所に行くのではなく、スティーブ達に配慮して別の場所に身を隠して欲しいという発言に疑問符が浮かんだ。訓練の相手をすると言うのに別の場所にいてはどうしようもないのは事実だがトニーは何かしらちゃんとした用意はしている様であり、スティーブはこれからの予定をトニーとじっくりと話し合うのであった。

 

「なら、彼の訓練はどうすれば?」

 

「これから説明するよ、まずな・・・・」

 

 

夜が明けた舞草の里にて。

 

「ふあ〜あ、マジで朝早いんだよな〜おはよう、カレン・・・ってそういやいないんだっけ」

 

目覚まし時計代わりに訓練の為早朝に起床し、ついいつものクセでスーツのAIであるカレンに話しかけてしまうが今はハイテクスーツは没収されたことによって手元にないことを思い出し、昨晩作成したホームメイドスーツに目を通す。

しかし、我ながら作りが雑だと実感させられるが妙に安心できてしまう。

時間を見るとそろそろ朝食を摂らないと遅れるかも知れない時間だ。訓練の場所は神社と言われているためなるべく急ごうと寝巻きのまま食堂に向かって朝食をサクッと食べる。

朝食の後、一晩で作り上げた何の力も持たないただの服に近いホームメイドスーツに袖を通し、マスクを被って移動しようと宿舎を出て神社へと玄関へ向かう。

 

すると、玄関先で靴を履こうしている誰かの後ろ姿が目に入り、目が合う。これから神社へと向かうとするトニーだ。

朝食の際には自分やフリードマンと違って食堂に姿を見せなかったのでどこにいたのか見当がつかなかったがハイテクスーツ没収のこともあってか気まずい空気になってしまう。

 

しかし、トニーはスパイダーマンのホームメイドスーツを前にすると以前に映像で見た手作り感のあるたただのタイツ状の服から、逃走用に購入した黒いパーカーを袖を引きちぎってノースリーブにして赤の塗料で塗り潰し、胸の辺りには黒い蜘蛛のマーク、そしてマスクの目の部分には視界を調整出来るシャッター付きの白い眼の黒ゴーグル、手袋も手の甲の部分が赤で黒い蜘蛛糸の様な縞模様に、掌の側が黒いオープンフィンガーのグローブ、何よりトニーの見立てでもそれなりに質のいいパーツを使用して無骨でゴツくなった改造ウェブシューター(叔父から貰った腕時計を改造したウェブシューターはお守りとしてポケットに入れたままではあるが)という手作り感があるのは変わらないが、思い切って様変わりしたのが一目で分かる姿に少し驚いたかのような素振りを見せるが何事も無かったかのように靴を履いて起立し、サングラスをくいっと押し上げて挨拶し始める。

 

この時、自身もかつてスーツが無いことによる不安でPTSDを起こした際に即興で近場で買える物で武器を作って戦ったことや、テロリストに拉致された際に洞窟の中で脱出の為にガラクタの山の中からハリボテの様なスーツを作った事を思い出して心の中でクスりと来たが表には出さない。

 

「やぁ、レオタード君。寝てる間に恩返しにスーツを作ってくれる鶴か、小人の靴屋でも雇ったのか?」

 

「あっ・・・おはようございます、スタークさん。昨日寝る前にちょっと改造を。ハイテクスーツが無くても、ただ指を咥えて何もしないよりは今ある物や時間でスーツを改良した方がいいかなー・・・なんて」

 

「そうか、一晩で作ったにしては悪くない。まぁ、ゴーグルの作りが雑だけどな。ほら、さっさと行くぞ」

 

「それは言わないお約束ですよスタークさーん」

 

トニーは簡単に褒める事はしないが、大事なのはスーツだけではないと言っていたこと、舞衣からのアドバイスでスーツが無くとも自分のメカニックとしてのスタンスを確立し始めているスパイダーマンを見て、昨日のやり取りを知っているためか心の中で嬉しく思った。

スパイダーマンも靴を履いてトニーと共に神社へと向かって少し歩くと石段の前で数人程の集団と対面する。どうやら可奈美達のようだ。

こちらに気付いて手を振って挨拶して来る面々だがすぐに数人はスパイダーマンの格好を見るや否や吹き出してしまった。

 

「あっ、颯ちゃん、スタークさんおはよー!・・・って!何その格好!?」

 

「グッモーニーン!ワオ、まさにホームメイドスーツって感じデスネ!デスが・・・」

 

「ちょっ、何だよお前その格好。まぁ、泥臭くて嫌いじゃねーけどよ・・・」

 

「何があったと言うんだ・・・しかしまぁ・・・」

 

「「「「ダサい」」」」

 

「み、皆堂々と言うのはかわいそうだよ!」

 

「・・・・・」

 

「ぐはっ!言い切られた・・・・確かに作りが雑なのは否定しないけどさ・・・」

 

「特にゴーグルの作りが雑だな」

 

可奈美、エレン、薫、姫和には新しく作成したホームメイドスーツを全員息ぴったりにダサいと言い切られ、舞衣にはフォローされるもののトニーにはゴーグルの作りが雑だと言うことを付け加えられたことが更に笑いを誘ってしまい、スパイダーマンは軽くショックを受ける。一方でスーツの修繕によってある程度裁縫に慣れて来たレベルの中学生の裁縫技術ではこんな物だろうとも言えるため、強く言い返せないスパイダーマン。

 

ふと、そちらを見ると特にダサい等とは言及しなかった舞衣と沙耶香はスパイダーマンのホームメイドスーツをただ見つめている。沙耶香は堂々とダサいと言って良いのか分からない、イマイチ距離感が掴めていないので特に言及はしていない。

舞衣はそのスーツが出来上がった経緯を、昨日会話したことを思い出してか何かを感じ取って特に言及はしないが微笑んでいつも通りに挨拶をする。

スパイダーマンは舞衣の顔を見た際に昨夜のことを思い出し、彼女のアドバイスのお陰で安眠出来たことを思い出したがそのことを下手に話すと皆に追求された上で揶揄われると思い、いつも通りに接することにした。

 

「おはよう・・・」

 

「おはよう、颯太君。おはようございますスタークさん」

 

「あぁ、舞衣も糸見さんもおはよう・・・」

 

「あぁ、おはよう。よく眠れたかな?お嬢ちゃんたち」

 

視線が合うとお互い少し照れくさくなってしまうが昨日の事は内緒にして「いつも通りでいよう」とスパイダーマンがマスクのゴーグルのシャッターを片目だけ閉じたり広げたりしてウィンクしてジェスチャーを送ると舞衣も察知して小さく頷き、他愛のない会話をしながら石段を登って行く。トニーは昨夜のやり取りを一部始終見ていたため、知ってはいるが敢えて気付かないフリをして皆の後に石段を登って神社の境内に入っていく。

 

神社の境内で待っていた舞草所属の長船の刀使の筆頭である米村孝子率いる面々による集団戦の指導が始まろうとしている。皆がそれぞれ舞草の先輩方と対面して立ち合う様子だ。

 

「よーし、やるぞー!ぐえっ」

 

スパイダーマンが張り切って肩を回しながら集団戦の方に行こうとするとトニーにパーカーのフードを掴まれて動きが止まり、ゴーグルのシャッターが驚きを表すかのようにカッと見開かれる。

そして、そんなスパイダーマンの様子を他所にフードを掴んだまま神社のすぐ側にあるガレージまで引きずられながら連行される。

 

「坊主はこっちだ、君には特別メニューをこなしてもらう」

 

「ちょっ、スタークさん!?」

 

「君はまず単独でも戦えるようにしろ。ほら行くぞ」

 

トニーに連行されて行くスパイダーマンを一同は苦笑いをしながら見送っているが、モタモタしている場合ではないためすぐ様集団戦の訓練にとりかかるのであった。

 

そして、トニーとスパイダーマンが神社の隣にあるガレージに到着して中に入るとトニーは壁に取り付けられたパネルを操作する。すると、壁が倒れて地下の方へと続く階段が現れる。スパイダーマンがその高度な技術に感心しているが特に気にせずトニーは先陣を切って地下階段を下って行く。

 

地下の階段を降りるとそこには天井は高く、壁はかなり硬質の物質を使用し、ちょっとやそっとではビクともしない様にも見える。そして、それなりに面積も広くて飛び回ったりは出来そうであり、トレーニング用品以外は大したものが置いてない、恐らく極秘でトレーニングするのか、ここでないと行えないトレーニングを行う為に設けられたと思われるトレーニングルームが姿を現わす。スパイダーマンは地下の階段の下にこんなものがあった事に驚きながらあちこちを見渡している。

 

「ひぇーガレージの地下にトレーニングルーム。スゴイですね、ってこの壁メタルなの!?うわすっごいね!」

 

「まぁ、白昼堂々僕がスーツを着て神社でリパルサーなんてぶっ放せないからな」

 

「えっ?・・・・今何て?」

 

リパルサー?ぶっ放す?スパイダーマンはトニーのかなり物騒な発言を聞いて首を恐る恐るそちらに向けるとトニーは既に地下に収納していた、里に来る際に着ていたアイアンマンスーツを装着して既に腕を前に構えてリパルサーを打てる構えを取っている。

途端にスパイダーマンは身体から変な汗が流れるのを感じ、驚いてしまう。

 

「ええっ!?アイアンマンが相手なんて聞いてないですよ!」

 

まさか、自分の訓練の相手があのアイアンマンだと言うのだから驚くなという方が無理な話だ。確かにスーツに改良を加えてはいるが圧倒的に金がかかっていて高性能なアイアンマンには敵うわけが無いため、訓練になるのか不安になって来た。

 

「言ってないからな。いいか坊主、君はまずスーツの性能云々以前に他の面々と比べると戦闘経験が足りない。RPGのように育成要素のあるゲームでも強いボスと戦うためにはまずレベリングが必要だろ?だから今は自分よりも強い敵と戦いまくって経験を積め。時には歩くよりまず、走れだ」

 

トニーもかつてはアイアンマンになったばかりの、熱したばかりの鉄だった頃は何度も試行錯誤を繰り返し、飛行に慣れるのに何度も吹っ飛ばされたし、墜落もした。

それでいて、何度も失敗しながらも経験を積んでいったこと。時には実践こそが最大の教訓であったこともあった。

元々が一般人のスパイダーマン。スーツの力に頼るようになった彼に今一番必要なのは実際に戦って経験を積むことだと考えている。

スパイダーマンはまだ唯一無二なんて程遠い、火で熱したばかりの叩き方次第で形が決まる何でも吸収できる柔軟な鉄であるため、簡単には折ることが出来ない硬い鉄にするためにもアイアンマンは敢えて厳しい態度で接し、指導という名の槌で叩く。

 

「わ、分かりましたスタークさん!よろしくお願いします」

 

「時間もあまりないし、1秒たりとも無駄には出来んからな。鉄は熱い内に打てって言うだろう?さぁ行くぞ!」

 

スパイダーマンが戸惑いつつも自身のことを思って特訓を付けてもらえることをありがたく思い、感謝の意を込めて腰を低く落として膝を曲げ、手を前に構えるポーズを取って臨戦態勢に入る。

アイアンマンもスパイダーマンの気合を感じ取るとリパルサーを蒸しながら高速で移動して先手を取る。

こうして、スパイダーマンの特訓が始まるのであった。




アントマン3も決まったみたいっすね。うれぴー。

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