刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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タイトル通り地味でパッとしないのは許してくだされ


第39話 特訓

舞草の里の神社の隣にあるガーレジの地下に設置されたトレーニングルームにてスパイダーマンとアイアンマンが対峙し、戦闘訓練が開始された。

アイアンマンが午前中はスパイダーマンの訓練に付き合う予定であり、午後からは別の者と交代となる。

流石にユニビームや200ペタワットレーザー、プロトンキャノンは使用しないが限られた時間の中で戦闘経験を多く積ませるためにも沈黙を破り、まず先手を取ったのはアイアンマンだ。

 

「僕から行くぞ」

 

「よし、カレン!ガントレットとスラスターをスキャンして!モードは高速発射だ!っていっけね、いつものクセで・・・今はいないんだった」

 

「何でもすぐAIに頼ろうとするな、今君を守れるのは君だけだぞ」

 

戦闘の際にもまだハイテクスーツを着ていた時のクセが抜けないのかいつものクセでこの場にいないカレンに指示を出してしまうが今自分が着ているのはゴーグルのシャッターが動く以外は特に何の力もない、ただの服でしか無いホームメイドスーツであるため無論サポートAIは無い。今自分自身を守れるのは自分だけだということを再認識させられる。

 

背中のブースターを蒸すことで加速してジャンプし、アイアンマンが拳を振りかぶってスパイダーマンに向けて振り下ろしてくる。かなり速かったがスパイダーセンスが反応して咄嗟に左横にステップで回避し、そのまま右手のウェブシューターのスイッチを押してアイアンマンにクモ糸を放つ。

 

「上へ参りまーす!」

 

ハイテクスーツ程の発射速度は無いが良質なな素材で改造されているだけあってかつてのウェブシューターよりは速い。しかし、直後にアイアンマンが掌を下に向けてリパルサー・レイを放つと反動で上方に移動して回避し、そのまま身体を捻って踵落としを入れてくる。

ウェブシューターを放った直後で少し反応が遅れたが両腕を頭上に構えて交差させ、踵落としを防ぐがアイアンマンのパワー自体かなり高く、受け止めた際に衝撃により両腕にビリビリと痺れるような痛みが走る。

 

「ぐうっ・・・・!おりゃっ!」

 

「アイアンマンを押し返すとは中々パワーあるな、けど押し返して満足するな。相手の次の攻撃にはすぐに備えろ。特に僕みたいなタイプはな」

 

スパイダーマンも衝撃に耐えた後に怪力で押し返すが宙に放たれたことによりアイアンマンの更なる追撃を許し、即座に腕を前に突き出すとガントレットの掌に内蔵されている主に飛行の安定として使用されるが、単発の発射でもかなりの速度と威力を誇るためアイアンマンの標準的な装備として搭載されているリパルサー・レイを放ってくる。

 

「ぐあっ!」

 

スパイダーセンスが反応するもリパルサーの速度はかなり速いため、アイアンマンを押し退けた反動で怯んでいたスパイダーマンでは回避し切れず、胸部への直撃を許す。

威力を抑えているため軽く尻餅をつく程度であるのが幸いだが、実戦ではこうはいかない、下手を撃てば今の一撃で死にかねない。スパイダーマンも更に気を引き締めなくてはと実感させられる。

 

「実戦じゃ敵さんは待ってくれないぞ、よく知ってるだろ」

 

「はいっ!」

 

スパイダーマンが起き上がる頃にはアイアンマンは着地しており、着地と同時に腕を前に突き出してリパルサーを放って来るが今度はスパイダーセンスが発動して危機を知らせてくれたことや、教えられていた様に次の相手の攻撃に備えていたためか横に軽く移動する最小限の動きで回避に成功し、接近と同時にアイアンマンがリパルサーを放とうとしている腕を掴んで掌をアイアンマンの方へと向けさせる。

 

「食らってみるとけっこう痛いよ!」

 

「ちっ!」

 

既に発射のモードに切り替えていたため、自身の放ったリパルサーに当たってしまうがやはりアイアンマンの名の通り尋常ではない耐久力を誇るアイアンマンの前では威力を抑えているリパルサーでは軽くフラつく程度であるが既にスパイダーマンに接近を許してしまっている。

直後にスパイダーマンに左腕を掴まれ、それなりに重量があるはずのアイアンマンをそのまま軽々と投げ飛ばしそうな勢いであるため、アイアンマンは次の手を打つ。

 

「攻め込める時は徹底的に攻め込め。攻撃は最大の防御とも言うだろ」

 

「うおわっ!やっぱスゴい出力!」

 

アイアンマンがスラスターを高出力で蒸して高速で身体を浮かせることでスパイダーマンが超人的な脚力で踏ん張る前に地上から引き離して隙を作る。

急激に身体が宙に浮いたことにより身体が床から離れたことには驚いだがすぐ空いている方の手でアイアンマンのヘルメットのツインアイの部分にクモ糸を放つことで視界を奪う。

 

「おい、ヘルメットにワイパーの機能はついてないぞ!」

 

「攻める時は攻めるんでしょ!」

 

「確かに言ったな、それっと」

 

「うわっ!」

 

視界がクモ糸により塞がれてしまったことにより着地を優先させるためにはまずスパイダーマン引き剥がすことにし、左腕を掴んでいるスパイダーマンを右手のリパルサーを視界は塞がれているが密着されているため位置は分かる。

ならばと、右手のリパルサーを超至近距離で放つとスパイダーマンは咄嗟に手を離してアイアンマンから離れることで直撃を避ける。

 

即座に床に着地し、トレーニングルームの隅に向けて左右同時にクモ糸を放ち両手でクモ糸を持って身体を後ろに下がらせて反動をつけ、視界が不安定なアイアンマンに対し着地と同時にドロップキックを入れる準備をし始める。

引っ張り強度の増したクモ糸の反動を利用した蹴りは速度も威力も申し分ないだろう。しかし、難点を上げるとすれば一直線にしか飛べないことだろうか。

 

(確かに避けにくい・・・ここでは逃げる場所も少ないしな)

 

アイアンマンが着地と同時にヘルメットに付いたクモ糸を剥がすと、そこを狙ってスパイダーマンが地面を蹴ると弾かれたパチンコ弾のような勢いで飛び出してアイアンマンに向けてドロップキックを入れる。地下のトレーニングルームにしては広いがこの速度のドロップキックから逃げる場所は少ない。命中する確率は高いと言っても良いだろう。

 

「そら」

 

「いだっ!」

 

しかし、アイアンマンには速度と通過する位置をスーツの機能で解析されており、アイアンマンがスラスターを蒸すことでドロップキックの後の追撃を受けないよう上に移動し、そのまま流れるように裏拳を入れるとスパイダーマンの顔面の鼻の辺りに直撃してスパイダーマンはひっくり返って床に倒れ込む。

 

「いてて・・・・避けにくいと思ったんだけどな・・・」

 

「狙いは悪くないぞ。まぁ、僕みたいにスーツの機能で解析して予測したり、相手の動きを咄嗟に予知出来る相手でもない限りはだけどな」

 

「そんな相手そうそういないですって・・・・」

 

腰を打ったのかスパイダーマンが腰をさすりながら起き上がるとアイアンマンが手短に練度評価を下す。

スパイダーマンはここ数日の連戦で確かに以前よりはいくらか戦闘慣れして来たがまともな戦闘訓練を受けている面々と比べれば経験が足りないことは見て取れる。

しかし、アイアンマンの視点から見てスパイダーマンは戦闘技術や経験には乏しく、スーツの性能の格差はあるものの装着すれば身体能力が確実に上のアイアンマンと勝負をすれば技術と経験も含めてアイアンマンに軍配が上がるが、どうにも厄介な能力がスパイダーマンにはある。

 

「僕のスーツにも何発も相手から攻撃を食らう必要があるが相手の攻撃パターンを分析してカウンターを狙える機能もある。君の理解を容易く超えることだって起きるのが戦いってモンだ」

 

「相手の攻撃パターンを予測演算するってことは莫大な演算量になりますよね。それを短時間で行える高性能AIほんとズルいなぁ・・・」

 

「何を言う。君のお子ちゃまセンスだって相手の攻撃を予知したみたいに回避してるだろう?それと同じだ」

 

「あれはクモの第六感っていうか・・・なんか危険だなって言うのが伝わって来るけど具体的には教えてはくれないんです。実際に起きた危険に対して対処出来るかは割とそん時次第だったりしますし」

 

アイアンマンがスパイダーマンと戦闘をして理解したのはスパイダーマンの能力であるスパイダーセンスは自身に危険が起きると察知したかのように回避する能力であるということだ。

確かにスーツの記録映像や自身との戦闘を見る限り、攻撃を予知したかのように咄嗟に回避している所が見受けられるため逃げ場のない超広範囲殲滅攻撃等余程のことが無い限りは比較的便利な能力であると言えるだろう。

 

しかし、スパイダーセンスは別の事に集中していたり、雑念が多いと反応がワンテンポ遅れて不意打ちを受ける局面もままあることや、それでいて基本的に本人の意思に関係なく発動するため日常生活を送る上ではウザいだけという難点もあるため決して完全な物ではないのだろうがスパイダーマンの走る速度もかなり速く、戦闘時により使いこなせるようになれば自身の仲間のチーム数人相手でも彼を仕留めるのに時間がかかる可能性も0のではないかも知れないと推察する。

 

勿論、流石に雷の神様や赤い念動力使い、顔が赤い人工生体ボディや緑マッチョは相手が悪過ぎるのであくまで彼らを除外したメンツでの話だが。

戦闘訓練を積んで戦闘技術を高めることが最優先ではあるが同時にアイアンマンはこの能力はスパイダーマンにとって何かしらの突破口になるかも知れないと考えており訓練の合間に正確性を高め、使いこなせるようにさせたいとも考えていた。

肝心な時、最後の最後で自分自身を守るのは高性能スーツではなく自分と直感を信じて困難を打ち破る術を身に付けて欲しいからだ。

 

「なら、もっと使いこなせるようにしろ。君の利点は嬢ちゃん達とは違い、その超人的パワーを常に発動出来ることだ。だが、現状君は身体能力が高いだけだ。肝心の君がマグルのままだと宝の持ち腐れだからな」

 

「は、はいっ!分かってます!」

 

「よし、バシバシ行くぞ」

 

「はい!お願いします!スタークさん!」

 

再度スパイダーマンとアイアンマンは向かい合い、お互いに床を強く蹴って接近し、再度近接格闘の特訓を始めるのであった。

 

それからしばらく経ち、昼の11時頃に差し掛かるまでスパイダーマンとアイアンマンは近距離での殴り合いに徹していた。

スパイダーマンの放った拳をアイアンマンが掌でタイミングよく受け止め、そのまま流れるように受け流す。そして、受け流されて姿勢を崩したスパイダーマンの腹に膝蹴りを入れる事で全身に衝撃が伝わるもののスパイダーマンはフラつきながらも覚束ない足で踏ん張り再度身構える。

 

「今のはもっと早く踏み込め、それでは遅いぞ。後は攻撃が大振り過ぎだ、外した後に隙が大きくなるぞ」

 

「・・・っ!はい!」

 

実はこっそりスーツの機能でスパイダーマンの攻撃パターンを分析してある程度攻撃のタイミングや方向を予測出来ていたたからこそ、躊躇して踏み込みが甘くなることや素人特有の攻撃の際に腕の振りが大きくなることを事前に察知し、そのことを指摘している。

ふと、スパイダーマンの様子を見るとやや軽く肩で息をし始めている。長時間アイアンマンと接近戦をしてようやく息が上がり始めたことろを見るにどうやら体力自体はかなりあるように見える。

 

アイアンマンは一度HUDに内蔵されている時計を確認すると昼飯前の午前中の訓練の残り時間が一時間程と確認すると先程言っていたもう一つの、訓練の合間にやっておきたかったことを試してみることにした。

 

「よし、残り一時間って所だな。坊主、君のお子ちゃまセンスは大方どれくらいの危険なら回避できる?」

 

「えっ?うーん・・・そん時の危険によるんですけど、例えば道を歩いていたら木の枝にぶつかりそうになるのを咄嗟に回避できるとか、銃口を向けられてどのタイミングで撃ってくるのか何となく分かって回避出来るとか・・・背後から狙われても危険は分かるんで確実性は無いですけどある程度は対処に移れるって位ですかね」

 

スパイダーセンスは眼前に向けられた銃口から放たれる銃弾などは楽々回避出来るようであり、恐らく攻撃された位置が不明でも察知してある程度対処自体は可能だが、目に見えていて確実性のあるものでないと一筋縄ではいかないと言った程度の物であることをアイアンマンは察する。

 

アイアンマンは内心ではこの能力をより鋭敏な物にし、あらゆる危険に対応出来るようにするには反復で練習して身体に覚えさせることが大事だと判断し、スパイダーマンから視線を外して踵を返してトレーニンググッズが置いてある壁の方へと歩いて行き、その中にある視界を一切遮断するスキーゴーグルのような物を取り出し、スパイダーマンに投げ渡す。

スパイダーマンがそれをキャッチして受け取ると頭上に疑問符を浮かべながら質問をする。

 

「えっ?なんですこれ」

 

「これを着けて僕の攻撃を残り一時間避け続けろ。インベーダーゲームみたいにな」

 

「ええっ!?僕スパイダーセンスが反応した上で目の前で相手の動きを見るから回避出来るんであって見えない攻撃はちょっと・・・」

 

「やる前から決め付けていたら何も始まらないぞ。君が限界を決めない限り、見えない危険だって回避出来る可能性だってあるんだ。記録は破る為にある」

 

「そうですね、やってみます!」

 

「君がゴーグルを着けた瞬間が合図だ、それを着けたらすぐに訓練は始まってると思え」

 

「了解!」

 

アイアンマンに言われるまま面積がやたら大きいスキーゴーグルを装着する。よくよく考えるとゴーグルの上にゴーグルをするという異質な光景であるが特に気にせず装着し終えると視界が一切遮断されてスパイダーマンの眼前に広がるのは辺り一面暗闇のみだ。

常人なら聴覚や視覚を封じられると平衡感覚を保つことが出来ないがスパイダーマンは超人的な平衡感覚を持つため、普通に歩いたり走ったりすること自体は可能だが普段よりはほんの少し不安定に見える。

 

そんなスパイダーマンに対してアイアンマンはスパイダーマンの背後に回り、容赦なくガントレットの掌をスパイダーマンに向けると掌に光が集まり始め、リパルサーレイ を発射してくる。

スパイダーマンは視界が塞がれているため、自身に向けられた攻撃は影も形も見えていないが今の頼みの綱であるスパイダーセンスは具体的なことは教えてくれないが危険を察知してキッチリ発動してくれる。

意識を集中することで背中の方からぞわぞわとした感覚が湧き上がり、具体的に何が起きているか分からないが何となく背中に攻撃が当たるかも知れないということを教えている。

 

「よっと!やった!回避できた・・・・いだっ!」

 

スパイダーマンが背後に向けて放たれたリパルサーレイを感知して紙一重で横に軽くステップすることで回避する。

しかし、スパイダーマンは目隠ししたままでもリパルサーレイ を回避出来たことに安堵してしまい、更に追撃するように連続で放たれたリパルサーレイは回避出来ずに直撃し、ひっくり返って尻餅を着いてしまう。

 

「全く、一回避けれたからと言って油断するな。誰も一発ずつなんて言ってないからな。君は上手くいくと一喜一憂し過ぎだ。常に気を抜くんじゃない」

 

「いたた・・・すいませんスタークさん・・・」

 

スパイダーマンは腰をさすりながら立ち上がり、再度回避をしやすいように姿勢を低くして腰を落とし、膝を柔らかく曲げて動きやすい姿勢に入る。

スパイダーマンの準備が完了したことを確認するとアイアンマンは再度攻撃の準備に入り、掌をスパイダーマンの方へ向けてリパルサーレイ を連射していく。

 

「よっ! ほっ!はっ!ぐえっ!」

 

自身に向けて発射されるリパルサーに対し、スパイダーマンは神経を集中させて自身に迫り来る脅威と、その方向を大まかに感じ取って直感で回避を行う。一発目の正面からの一撃は屈むことで回避、追撃するように少しタイミングをズラして放たれた2発目は上体を反らして回避。

そして、ガラ空きになった足元に向けて同時に放たれた2つのリパルサーは上体を反らした姿勢からそのまま地面に手をついた勢いで高く飛び上がってリパルサーを回避するが逃げ場の少ない上に視界が塞がれているためクモ糸を飛ばす位置を目視出来ず、次のリパルサーは回避出来ずに直撃して床に叩き落される。

 

「まぁ、今のは少し意地悪し過ぎたな。この調子で行くぞ、何度も反復で練習して身体に覚えさせるんだ」

 

「いててて・・・りょ、了解!」

 

スパイダーマンは片膝で立ち、肩で息をしながらも床に手をついてそのままフラつきながらゆっくり起き上がり、姿が見えないアイアンマンに向けて返事をする。

アイアンマンの方もスパイダーマンがまだまだ自覚は無く、時折弱音も吐くがスーツの力無しでも起き上がり、訓練に臨む姿勢を前にして一安心しながらも心を鬼にして再度両腕の掌をスパイダーマンに向けて構え、掌に収束したリパルサーを放つのであった。

 

「よし、午前はここまでだ、昼飯を食いに行くぞ」

 

「りょ、りょうか〜い・・・・」

 

それからしばらく経ち、スパイダーマンは先程までリパルサーを目隠しで回避する特訓を行っていたのだが何度も回避に失敗し、身体中あちこちに被弾したようであり、かなりへばっていて脱力した声を上げながら返事をする。

午前中の訓練が終わったことでトニーはアイアンマンのスーツを脱ぎ、スパイダーマンも視界を遮断するゴーグルを外して先程までは暗闇だった視界に光が入ったことで眩しさを感じつつトニーと共にガレージから出て皆と合流して神社の境内で昼食に舌鼓をうつ。

 

昼食を終え、集団戦の訓練をする面々は境内に残って訓練を続けるようであり、一方トニーとスパイダーマンは再度ガレージの方へと戻っていく。

地下のトレーニングルームに入るがトニーは一向にアイアンマンを装着する気配がない。それどころかトニーは携帯でどこかに連絡を取りながら壁に取り付けられたパネルを操作している。

すると壁から身長が180cm程の筋肉質に見える、左手にマンホール大の円形の盾を装備したロボットが収納されていたようで今度はそちらの機械の打ち込みを始めている。

スパイダーマンは驚いているがトニーは特に気にする様子もなく電話の相手と通話を続行する。

 

「すげえ!壁の中にロボットを収納できるなんてこのガレージまるで宝箱じゃないですか!」

 

「もしもし、所定の場所には着いたか?そうか、なら既にハッピーに持って来させたVRゴーグルをつけてくれ。それで視界と感覚をトレーニングダミーと共有できる。後はこちらが電源を入れてシステムを起動すれば遠隔操作モードに切り替わってトレーニングダミーがアンタの動きをトレースする。攻撃や打撃を受ければ多少のノックバックが伝わって少し驚くかも知れないがアンタに直接ダメージが来る訳じゃないから安心してくれ。最初は少し違和感があるかも知れないがすぐに慣れるだろう。アンタが戦いやすいように試作品の盾も用意してあるからそれを使ってくれ。何?受け取れない?なあ、石頭。今盾を使うのはアンタじゃない、トレーニングダミーだ。ゲームの操作キャラが使うと思えば良い。そう、そんな感じだ」

 

こなれた手つきと素早い入力であっという間にプログラムを立ち上げて行く様にスパイダーマンは再び関心させられるが今度は自分に何の特訓をさせるのか一向に見当がつかないでいた。

連絡を終えたのかトニーが電話を切って携帯電話をポケットにしまうとスパイダーマンの方を向いて説明し始める。

 

「坊主、午前中は付き合ってやれたが午後からは僕にもやることあるからな。午後からは特別講師にお願いする。教育番組のたいそうのおにいさんじゃあないぞ」

 

「特別講師・・・?ていうかたいそうのおにいさんって、僕教育番組は小学校低学年で卒業したんですけど」

 

「直に分かる、僕は作業に戻るからみっちり鍛えてもらえよ。じゃ、後でな」

 

トニーがプログラムの打ち込みを終えると、作業場に戻るためにガレージの地下から退室していく際にリモコンを起動するとトレーニングダミーの眼が淡く光り、駆動音を立てながら徐々に内部に搭載されていたと思われるホログラフによってトレーニングダミーの外見を別物へと変えていく。

 

筋肉質で180cm程の長身に、頭部から目の辺りを覆ってはいるが眼の辺りは解放されているAのマークの青の丸いヘルメット、それを固定するベルトを顎にかけている白人男性。そして、全身が青色を基点に構成されつつも両肩には背中と連動して物を背負って走れるようにベルトを巻き、胸には銀色の星のマークと腹部には白を基調として赤の縦ラインの入った腹巻きを装着したまるで星条旗をモチーフにしてるかのようなコスチューム。そして、何より目を引くのは彼の象徴とも言える数少ない所持武装。マンホール大の大きさに赤を基調としたカラーリングに銀の丸い模様に中心には青の丸の上に銀の星のマークがある円形の盾。

かつてのアメリカの象徴であり、チームの元リーダー。現在は国家反逆罪で行方不明になっている筈の人物、キャプテンアメリカだ。

 

勿論本人はこの場におらず、姿はホログラフによって再現した物で、彼の身体能力を再現したトレーニングダミーを遠隔操作で動かしているに過ぎないのだがまるで本当にそこにいるかのような溢れ出るカリスマ性と強い存在感を放っている。

ちなみに、この姿を再現する機能を付けたのはやるなら形から入ることも大事だろうという遊び心からという特に語るほど深い理由はないのはここだけの秘密だ。

スパイダーマンは技術にも驚いたが、目の前に世界的に有名な人物が現れたのだから語彙力を低下させながら驚きを隠せない。

 

「特撮技術で人の姿をここまで精巧に再現出来るのもすごいけどまるで本物みたい!ていうか、キャプテンアメリカ!?規模がぶっ飛びすぎ・・・」

 

『やぁ、スパイダーの坊や。トニーから話は聞いている。初めまして、僕はスティーブ・ロジャース。いや、ここはお互いコスチュームに習ってキャプテン アメリカと名乗らせてもらおう。よろしく頼む』

 

「えっ・・・?あ、はい。初めましてキャプテン 、僕はスパイダーマンです」

 

キャプテンが爽やかに挨拶をすると同時に手を差し出して来たのでスパイダーマンもそれに応じて握手をして手を握り返す。姿はキャプテンではあるがあくまでもホログラフで再現された物。手の感触は機械のそれであるが言葉では表せない暖かさがある。

握っていた手を離すとキャプテンはスパイダーマンの方を向いて、穏やかな視線を送って一瞥する。

協定のいざこざがあってチームが離散し、トニーとはお互いに会うことも話すことも出来ない時期があったのだが、そんな最中トニーが自身に連絡をくれた、話をするきっかけとなった者達の一人であるスパイダーマンを前にして伝えておかなければならないと思ったことを話し始める。

 

『坊や、君達には感謝している。君達が彼の背中を押してくれたから、僕達はまた話す事が出来た』

 

「えっ・・・・?いやいや、とんでもないですよ!僕は何も特別なことなんてしてないですって!僕のわがままにスタークさんを振り回しちゃって迷惑をかけちゃったりしたんで背中を押すなんてとんでもないですよ・・・むしろ、押した瞬間押し返されるまでありますよ」

 

『それでも、君達に感謝の意を示さずにはいられない。受け取ってくれ』

 

唐突にキャプテンにお礼を言われたのでテンパってしまい、トニーがスティーブに連絡をするきっかけを自覚なしに作っていたという事は本人のあずかり知らぬ所の話であるため、イマイチピンと来ない様子だ。

だが、それでもキャプテンの感謝の意を示す圧に押されて理解しきれてはいないが受け入れることにした。

 

「わ、分かりましたキャプテン 」

 

『よろしい。坊や、今この日本に危機が迫っていることはトニーから聞いている。僕も微力ながら協力させてくれ。君は実践的な近接格闘に関してはルーキーだそうだね。僕で良ければ練習相手になるよ』

 

「ありがとうございます、キャプテン 。超心強いです!それではお願いします!」

 

キャプテンもスパイダーマンの特訓に付き合う形で日本の危機に立ち向かう若者達に助力する姿勢を見せ、盾を前方に構えて臨戦態勢に入る。

スパイダーマンもトニーとキャプテンが自分たちのために親身になってくれることと、歴戦の戦士から特訓を付けて貰えることをありがたく思いながら姿勢

を低くして腰を落とし、同じく構える。

 

『いい根性してる、出身は?』

 

「神奈川です」

 

『僕はブルックリンだ』

 

お互いの出身地を言い合うやり取りを合図に、開戦の火蓋は切って落とされる。




長くなりそうなんで一旦ここで。
2022年4月にスパイダーバースの続編決まったらしいですね、うれぴー。
4種類の蜘蛛のマークが映ってたんで新キャラですかね、前作の売り上げ次第では東映版を参戦させるみたいな話があったらしいですがどうなるんでしょうかね。出る可能性は高いって話は聞きましたが。

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