刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任- 作:細切りポテト
ヴェノム見に行った記念で速攻でやりました。マジで最高でした。
ヒロインはヴェノム、はっきりわかんだね
完全に周囲が暗くなり、街が夜へと変わる。
強盗は既に使われなくなった廃ビルの中に隠れていた。
ビルの正面には何台かのパトカーが停まっており、警察がどこに隠れたのか捜索をしていた。
「あーやべやべ、このまま見つからなけりゃ俺の勝ちだがこりゃぁ時間の問題かぁ?…」
強盗はビルの古びて埃を被り少し形の崩れた段ボールに身を隠しながらいつ突入されるのかと肝を冷やしていた。
バリン!と窓ガラスが割れる音を立てながら何かが強盗のいる階に入ってくる。
姿は暗いせいでよく見えないが身長からして子供だろうか。
「なんだてめえは?」
「…………………………復讐だよ」
夜の暗闇のせいで顔はよく見えないもののその変声期を迎えたばかりの声からは尋常ならない怒り、殺気が感じられる。
自分の生死がかかっている強盗は子供相手だろうが手加減はできない。容赦なく銃を構える。
「うるせえガキ!法になど裁かれてたまるか!」
警察がこのビルに突入すれば捕まる可能性が高く逃げ切れる保証等ないにも関わらず悪あがきをする強盗。
しかし、颯太は銃を構える動作を見逃さずにウェブシューターからクモ糸を強盗の手に向かって発射し、銃だけを掴み腕を後ろに振ることで強盗の手から離れた銃を自分の後方に投げ飛ばす。
強盗は咄嗟の出来事に驚きを隠せていない。
「さあ、一緒に来てもらおうか」
ゾワリと周囲が凍り付くかのような冷やかな視線を向けられ、こんな子供相手に逃げ出すのは情けないと自覚はしているが必死な強盗は恐怖のあまり逃げ出そうと背を向ける。
直後、背中に何かが当たる感触の後、ウェブシューターから発射された糸により体が後方に引っ張られ、宙に浮いたと思いきや子供の力とは思えない腕力によりそのままハンマー投げの用量で振り回され壁に叩きつけられる。
「ぐあっ」
壁に激突した衝撃が全身に伝わり、激痛が走る。
そんな強盗の様子もお構い無しにじりじりと歩み寄ってくる颯太は強盗に更なる絶望感を与える。
「た、助けてくれぇ!情をかけてくれ!」
死にたくない。このままでは殺される。そんな恐怖心から自分よりも圧倒的に年下の子供にみっともなく命乞いをする強盗。
「それは命乞いか?じゃあお前はそうやって命乞いをする誰かに情をかけたのか!?」
怒り、憎しみ、それら全ての負の感情が籠った声色で問いかけてる。
握っている拳から血が出る程強く握り締めている事が分かる。
「殺すつもりは…」
バキィ!と言い訳をしようとした瞬間に顔面に拳がめり込みまたしても壁まで吹き飛ばされる強盗。
衝撃で顔面の骨が折れたと思うほどの衝撃で気絶しかけたがそれも許さず、顔面から床に着地する前に顔面に横凪ぎに蹴りを入れられ、月明りが照らしている窓側まで飛ばされる。
「言い訳なんかいらない!僕はお前をっ!………えっ………?」
これまで暗闇で顔がはっきり見えなかったが今は月明かりに照らされて顔がはっきりと分かる。
今自分と対峙している男は、自分が会場で見逃した男だったのだ。
その衝撃の事実に膝から崩れ落ちてしまう。
(僕のせいだ・・・・全部僕のせいだ・・・・ッ!)
床に拳がめり込む程の勢いで床を殴る颯太。
自分がこの男を逃がしたせいで叔父は殺された。叔父を殺したのは自分だ。その事実が先程まで怒り任せて暴走していた心をすぐに絶望へと切り替える。
「嫌だ!死にたくねえ!これならサツに捕まった方がマシだぁ!」
コンクリートの床にめり込む程の拳を見たことが強盗の恐怖心を煽り、このままでは殺される。なら警察に捕まった方がマシだと思考力を鈍らせ、窓ガラスを破りながら窓から飛び降りパトカーの上に着地し、飛び降りた衝撃でパトカーのボンネットが大きく歪み、ガラスも割れ、足の骨が折れた音がしたが強盗はそのような事も歯牙にもかけずに警察に懇願する。
「助けてくれ!殺される!あのイカれた野郎から守ってくれ!」
強盗は拘束された後、そのまま病院に搬送される。
強盗が飛び降りて拘束されている隙に自分も見つかるのはマズいと判断してか颯太もビルから離れ、家へと戻る。
家に帰ると叔父の訃報を聞いた叔母が待ち構えており、颯太を見た瞬間に泣き崩れ颯太の胸の中で泣き続けた。
(僕のせいだ・・・僕のせいで叔母さんを悲しませた・・・叔父さんの言った通りだ、僕に自覚が無かったから叔父さんも死んで、叔母さんを泣かせたんだ)
絶望、後悔、罪悪感、そんな感情が颯太の中に渦巻き涙も言葉も出ない状態が続いた。
数日後葬儀には隣近所の衛藤家や叔父の仕事仲間等が参列していた。
棺を前に叔母は終始涙を流しており、衛藤家も全員涙目になりながら俯いていた。
葬儀を終えた後の告別式の夜、久しぶりに会うが式の間は言葉を交わせなかった衛藤家の長男、颯太の幼馴染みの1人で可奈美の兄戒刀が颯太に声をかけてくる。
「あのさ・・・再会がこんな形になるとは正直思ってなかった。ほんとはおじさんともまた元気な姿で会いたかった」
叔父の死を悼んでくれているのか悲しげな口調で語りかけてくる。
「こんな時、なんて声かければいいかなんて正直分かんないけどさ・・・お前ウチの母ちゃんが亡くなった時すげえ気を遣ってくれたよな」
「ウチの家族さ、それで結構お前に救われたっていうか。気持ちが楽になったっていうか・・・もしできることがあったら何でも言ってくれよ」
かつて美奈都が亡くなった際に颯太が衛藤家を気遣った事を覚えており、もし今自分に何かできるなら言ってくれと颯太の力になろうとする。
「ありがとう・・その時は頼むよ」
精一杯声を振り絞って声を出すが声色は沈んでいて心はここに有らずだ。
自分のせいでこのような結果になってしまい皆を悲しませた。今の、自分にそんな風に優しくしてもらう資格なんか無いと今は他人の厚意も素直に受け取れない自分とそんな状況を作り出した自分に嫌気が差していた。
皆が帰ろうと準備している中颯太は無心のまま部屋ると部屋にノックもせずに可奈美が入ってきて二人ともベッドに並んで腰かける。
「ノックくらいしろって・・・そういやごめん、立ち合いするって約束してたのにこんな事になって。」
自分のせいで約束を反故にしてしまったことを謝罪する。
「ううん、立ち合いのことはいいよ。でも、今はどうしても話したい事があるんだ」
「何?」
いつになく真剣な表情だ。可奈美は無意味にこんなことを言い出すような人物ではない、何か感づいてるのか?そんな思考を凝らしていると。
「颯ちゃんさ、おじさんの葬儀の間全然泣いてなかったよね」
「あぁ…そういうこと。泣きすぎて、悲しすぎて涙も出なくなっただけだよ、それに叔父さんは明るい人だっから泣かれる方が悲しいんじゃな」
「そういう話じゃないよ」
颯太の言葉を遮りつつ普段の明るい声のトーンからは想像できないほど真面目なトーンで語りかける。
あまりに唐突だったため、一瞬身構えてしまう。
「気付いてないって思ってるの?颯ちゃんはいつも私達が悲しかったりすると気を遣ってくれるけど自分が一番辛い時に限って誰にも頼ろうとしないで誤魔化して絶対泣かないじゃん!」
訴えかけてくる可奈美の迫力に圧されて押し黙ってしまう。
「前に言ってくれたよね、辛いことも嬉しいことも一緒に分け合って行きたいって。ほんとは何かあったんでしょ?お願いだから…今だけ本当の気持ちを隠さないでよ…」
徐々に悲しげな声色になっていく可奈美。
(まただ…また、僕が悲しませたんだ…)
本当は誰かに話して心配をかけたく無かったが自分が悲しませたのだと再認識させられた事で罪悪感が沸き上がってくる。
でも、誰かに言わないと決壊しそうだ。だから、話そう。
「……………………叔父さんが死んだのは、僕のせいなんだよ」
「えっ…………?」
あまりの脈絡もない内容に鳩が豆鉄砲を食らったような、唐突な内容に信じられないと言った感じだ。
「あの日、僕が出てた大会の会場に強盗が侵入してて運営の金を奪って逃げ出したんだ」
「叔父さんは僕の迎えに来てくれてて、帰ろうとしたら僕は強盗とすれ違ったんだ。」
「僕は…優勝して有頂天に立ってて強盗を無視して見逃したんだ。そして、トイレに行ってる間に叔父さんは殺された」
「もし、あそこで僕がなんとか強盗を止めてれば、叔父さんは死ななかった…いや…僕なんかいなければ…っ!叔父さんは死なず、皆を悲しませずにすんだんだよ!」
最初は淡々と語っていたが徐々に眼を大きく見開きつい感情的になって捲し立てていた。
「で、でも…ただの中学生が強盗に敵うわけないし、もし強盗に挑んで颯ちゃんが死んでたら私達だけじゃなくて叔父さんの方が悲しかった筈だよ」
「そうだけど…危険な奴がいて、それを分かっててなにもしないで悪いことが起きたんだ。出来る出来ないじゃなくても僕のせいなんだよ…」
隠していた涙が溢れ出す。あの場で戦ってどうにかできた等思い上がりも甚だしい言い分なのは分かっているが颯太はどうしても自分が許せなかった。
自分が何もしなかったせいで叔父が死んだ。大いなる力には大いなる責任が伴う。今となってはその言葉の意味が少しは分かる気がする。
そして、言葉通り力を持った瞬間から自分は皆を泣かせてしまった。
叔父に言われた言葉が重く響く。大切な人を亡くして、自分の気持ちを吐露してやっと分かって来てしまった。
すると、唐突に抱き締められて一瞬思考が停止した。
「ありがとう。やっと本当の気持ちを話してくれて」
目に涙を浮かべ慈愛に満ちた表情をした可奈美に抱き締められていたのだ。
「颯ちゃんが自分を許せないならそれでもいい。代わりに私は、誰かの為に涙を流す強がりで、自分を許せなくて変わりたいと思ってる颯ちゃんを許すよ」
「だから、自分なんかいなければ良かったなんて言わないで、私は颯ちゃんに側に居てほしいから」
額に暖かくた柔らかい湿った感触が触れる。可奈美の唇が颯太の額に一瞬だけ軽く触れたのだ。
その言葉を聞いて我慢していた涙が更に溢れだし、しばらく啜り泣いていた。
-叔父さん…僕のやるべき事が分かった気がする-
颯太の心にはある1つの決意が芽生えていた。
泣き止んだ後しばらくして長時間抱き締めていたり、抱き締められて泣いていた事に気付いて恥ずかしくなる両者。
「うっ…この歳にもなって女子に抱き締められながら泣くって結構恥ずかしくてカッコ悪いかも…」
先程までの自分の状態を冷静に分析して恥ずかしくなる颯太。
「かもね…」
はにかんでいるが否定はしない可奈美。
「でも、颯ちゃんはカッコ悪くても躓いても一度決めた事は最後までやり通す。自分の正しいと思ったことを成し遂げるって私は信じてるよ」
「今はまだ言えない事もあるかもだけど、言える日が来たら教えて欲しいな」
颯太の眼をしっかりと見つめ、少し照れたように笑う可奈美。
時間も深夜を過ぎ、そろそろ帰るぞと下から戒刀の声が聞こえ、帰ろうとする可奈美。
玄関先まで見送り
「ありがとう…可奈美。君に救われた」
素直に年相応の笑顔を向ける颯太。
「いいの。前にしてくれた事を今度は私が返しただけだから」
微笑みながら榛名家を出る可奈美と何があったと眼を丸くする和弘と戒刀を見送る颯太と芽衣。
(そうだ、僕はもう大切な誰かを亡くしたくない。そして、そんな想いも誰かにさせたくない。そして、彼女達も命をかけて誰かを守るために戦ってる。だから僕も命をかける。そのために僕ができることから始めるよう。この…親愛なる隣人達を守れるように。それが僕の果たすべき責任なんだ)
(颯太、あなたとてもいい眼になったわね)
甥の心境の変化を隣で感じ取った芽衣は自分もへこたれている場合ではない。戻っては来ない愛する夫の自慢の妻であり続けようと再起を決意し部屋に戻る。
自室に戻り、5段階の科学的手法でまとめた大学ノートに新しく記載をする颯太。
「僕は今夜、何が大切なのかがよく分かった」
「刀剣類管理局所属の研究所で蜘蛛に噛まれてから僕は自分に起きた変化を観察し、手に入れた力を何かに利用できると仮説を立て、僕がやるべきことを予測し、どうすれば最大限力を発揮できるかを実験し、辿り着いた結論がこれだ…」
大学ノートに赤と青のスーツを纏い、胸に黒い蜘蛛のマーク、そして蜘蛛を彷彿とさせる衣装を来たヒーローという風貌のイラストを書き上げる。
「僕は大いなる力を授かった。例えこの力が呪いだとしてもちゃんと向き合わなきゃ行けない。」
「大いなる力には大いなる責任が伴う。僕は今日まで言葉の意味をちゃんと理解出来てなかった、この生き方を貫くには富や名声なんて求めちゃいけない」
そして、家をこっそりと抜け出し近所のコンビニまで走り大会で獲得した50万円を募金箱に入れる。
これまでの金儲けに目が眩んだ傲慢な自分と決別するため、そして新しく自分を始めるために。
帰り道、叔父夫婦によく遊んでもらった公園に立ち寄り、叔父夫婦との思い出を振り返りながら夜空に浮かぶ月を見上げて誓いを立てる。
「僕がやるべき事は…誰かを助ける存在になること。簡単な事じゃない。犯罪者と戦って死ぬ可能性もあるし、荒魂と刀使の戦いに巻き込まれて死ぬかも知れない。」
「それでも、選んだんだこの道を」
決意を新たに胸の前で拳を握る。
「今日から僕は…」
~連休&颯太が忌引きで学校を休んでいる間~
とある路地裏にてヤクザという風貌に全員が身長190cm以上ある筋肉隆々のヤクザに颯太をいじめていたガチムチ3人組が取り囲まれ今まさにリンチにされていた。
「く、くそったれが…っ!」
「思ったよりは鍛えてるみてえだが所詮はトーシロのガキか、俺らにぶつかっといて無事で帰れるとは思わねーこったな」
グラサンをしたヤクザが拳を振りかぶり3人組のリーダー塩川光の顔面を捉えようとしたところ突如上空から何かが降ってきて糸を射出し、グラサンを含めて全員を糸で拘束して、逆吊りにしていた。
「どーもー、ちょっとお兄さん達子供相手に大人気ないんじゃない?」
赤と青のスーツに黒い蜘蛛のマーク、全体として蜘蛛を彷彿とさせる手作り感がスゴく若干作りが雑な衣装を纏った男が着地する。
「あー糸は1時間で溶けるからね。1時間そこで反省!あーそこの君、警察に連絡しといて」
軽い口調でヤクザ達を一掃した男に光達は困惑している。
「ど、どうして俺達なんか…」
「おいおい、なんかなんて言うなって!はい、ベロ出して!」
勢いに負けて舌を出す光の舌に触れ、リンチされた影響で乱れた光の髪を雑に整える。
「いいかい?僕の眼を見て!きっかけ1つで、自分から踏み出す勇気があれば人は何度だって、やり直せるし変われるんだ!だから君達も自分を諦めるな!いいね?」
光の頭を両手で抑え、自分の眼を見るように指示し、表情は分からないが真剣な様子が伝わってくる。
「「「は、はい!ありがとうございます!」」」
自分達を助けてくれた相手に感謝の気持ちを述べる3人組。
「あー僕そろそろ行かないと、じゃまたねー!」
何かを察知したかのように飛び去ろうとする男。
3人組はすかさずに
「あの!名前は!?」
「ていうかどこかで会いませんでしたか!?」
「かなり最近に!」
「しょ、初対面だよ!でも自己紹介するよ、僕は…」
とある交差点。
「くそっ!ブレーキがイカれやがった!」
運転中ブレーキが効かなくなり、時速80km以上で暴走してしまう車両。
直後目の前に幼稚園児を乗せたバスが目の前に映る。
「や、やべぇ!」絶望した運転手だが何かに衝突したことは分かるが自身もバスも無傷な事に驚いていた。
バスに激突する瞬間、赤と青のスーツの男が間に入り、腕力と脚力のみで車を止めて衝突を防いだのだ。
「ナイスキャッチ!ねえお兄さーんもうガタが来てる車なんか乗っちゃダメだよー!」
車を止めた男は運転手に助言をしてそのままどこかへ飛び去ろうとする。
「す、すまねえ!アンタは一体?」
「おう!僕は…」
岐阜県某所大型ショッピングセンター
「か、火災だ!まだ子供が二人取り残されてるぞ!」
「まずい、あんなに火の手が…っ!」
野次馬や消防隊が火災で逃げ遅れた子供二人がいて生存が絶望的な状況にあると話していた。
「美結!詩織!」
逃げ遅れた二人の子供の姉、柳瀬舞衣が野次馬の中を掻き分けて、最前線で叫ぶ。
「行かせてください!妹達がまだ中に!」身を乗り出そうとするが周りの大人達に止められる。
「ダメだって嬢ちゃん!死体が増えるだけだ!」
「でも!」完全に錯乱しており隙を見て八幡力でショッピングセンターまで飛ぼうとしたした瞬間。
「や、やばい!!」
近くの高いビルから勢いをつけて糸を飛ばして燃えているショッピングセンターの中に飛び込む赤と青のスーツの男が現れる。
「おい!あれ!妙なタイツの奴が空から入ってったぞ!てか何であんな高くに!」
「えっ…」
自分が飛び込んで妹達を助けようとしていた舞衣はその光景を見て一瞬放心してしまった。
ショッピングセンターの中では
「舞衣お姉ちゃあああああん!」
「舞衣姉…………っ!」
下の妹詩織よりは歳が上だと思われる子供美結は瓦礫に足を挟まれ、迫る火の手と煙で呼吸も苦しくなり、姉に助けを求めているが誰も助けには来ないのだと絶望した瞬間。
自分の足を挟んでいた瓦礫が退けられ、自由に動けるようになった事に驚く美結。
「もう大丈夫!さぁ、僕と一緒にここから出よう!」
覆面に赤と青のスーツに胸に蜘蛛のマークをつけた男が瓦礫を持ち上げていたのだ。
歩くのは難しいが手を使って這い、瓦礫から抜け出す美結。
「歩くのは無理そうか、じゃあ二人とも僕にしっかり捕まって。もうすぐこのフロアは爆発する」
「「は、はい!」」
男が自分の超人的な直感により察知したその言葉に驚いた二人は妙なスーツを着た男にしっかりと捕まる。
「よし!じゃあちょっと飛ぶから声出さないようにね!舌噛むから!」
「えっ…飛ぶって…?」
「こうするのさ!」
詩織を背中におぶり、蜘蛛の吸着能力でしっかりと引っ付かせ美結を脇に抱えたまま人間技とは思えない速さで駆け抜け、窓から飛び降り空中へダイブする。
「えっ…いやああああああ!」
「と、飛ぶってそういう…っ!」
男の行動に絶叫する二人、落ちたら確実に死ぬ高さから飛び降り重力に逆らい空を飛ぶとはこのような感じなのかという感覚に襲われるが落下速度により絶望感が増していく。
3人がフロアから飛び降りた直後爆発を起し、凄い衝撃と爆風が伝わる。
確かにあのままあのフロアにいた方が危険だったと思考を切り替えるが落下していく自分達が結局危険な事には変わりはないことを思い出す二人。
「大丈夫!任せて!」
別の建物に糸を飛ばして乗り移ることも考えたが恐らく高さも足りない上に、飛ばしても間に合わずに地面に激突すると判断した男は落下しながら美結を抱えていない片方の腕、右腕を天に向けて伸ばし狙いを定めて中指と薬指で掌のスイッチを強く押す。
すると男の手から糸が発射されショッピングセンターの壁に貼りつき足で踏ん張る。徐々に糸の引っ張り強度が強くなり、踏ん張る事で衝撃を緩和したが地面に向かって引きずられていく。そして、かなりの力で踏ん張っていたため、男の足が踏ん張った箇所のショッピングセンターの壁は削れたような跡ができていく。
股が裂けそうな痛みが走るが死ぬ気で踏ん張り、壁に貼り付く能力を最大限に発揮したおかげで落下速度は徐々に遅くなり地上に到着する前に完全に停止し、その後はゆっくりと降りていくことで二人とも無事に脱出できた。
「美結!詩織!」
「舞衣姉っ…!」
「舞衣お姉ちゃん!」
姉妹の無事と再会を喜び抱き合う三姉妹の様子を見て、ホッとするスーツの男。
しかし、この長女見覚えがある、よくよく見ると……………。
(や、柳瀬さん!?マズい!正体がバレる前にズラからないと…)
「あの…待ってください!」
「な、何だい?お嬢さん?」
急いで踵を返してその場から去ろうとするスーツの男。
それに対し、姉妹の長女が声をかける。
男はピタリと止まり、固まったままゆっくりと首を動かして長女の方を向き震えた声で返す。
まさか、バレたのか…?
「妹達を助けていただき、本当にありがとうございました!なんとお礼を言ったらいいか…ほら、二人もありがとうございましたは?」
「「ありがとうございました!」」
「だ、大丈夫大丈夫!困ってる隣人を助けるのは当たり前だろ?てか、上の妹さん怪我してるから早く病院に運ばないと」
バレたと思ったが予想に反し、突然お礼された事に驚き慌ててしまうが冷静に負傷者である美結を搬送することを勧めるスーツの男。
「あっ…そうですね!急がないと!」
「じゃあ僕もこれから行くところあるから行くね」
その場を去ろうとする男に対して再び声をかける舞衣。
「あのっ!私達どこかで会いませんでしたか?それも割と最近…」
どこか男の声に聞き覚えがある舞衣は男に最近自分と会ったかどうかを尋ねてくる。
「い、いや!しょ、初対面だよ!ではまた会おう!お嬢さん!」
物凄く動揺しているがクモ糸を高いビルに飛ばし、勢いを利用して飛び上がる男。
「せめて…っ!お名前だけでも!」
「オッケー!僕は…」
「あなたの親愛なる隣人、スパイダーマンだ!」
(見ててくれ、叔父さん。僕は絶対に成し遂げてみせる!)
叔父が入学祝いに買ってくれた腕時計を改造したウェブシューターから放たれた糸の先端を掴み、街の上空をスウィングしながら飛び回るスパイダーマン。
こうして少年のスパイダーマンとしての日々が始まった。
とある研究室
「ふむ彼は…………」
PCの画面に眼を落とすピンク色のワイシャツを来た老人がとある記事に注目していた。
「グランパ?どうしまシタ?」
老人の背後からPCの画面を除き混む外国人と言った風貌の長身の少女。
ふと察しが着いたかのように
「oh!最近密かに噂になってるスパイダーボーイデスネ!まだ都市伝説の域を出ないようデスが」
「そう、そのスパイダー坊やだ。突如現れた神出鬼没の謎の覆面ヒーローのようだがこの身体能力、刀使にも引けを取らないぞ」
「そして、何より私が一番感心したのは彼の使ってるこの糸だ。引っ張り強度が桁外れに強い。荒魂にダメージは無いようだが見事に動きを封じている」
野次馬が撮影し、youtubeに無断にアップロードされている動画にもあるようにスパイダーマンが荒魂と戦闘をした際に見せる超人的な身体能力と手首の装置から射出した糸が荒魂に当たると瞬時に貼り付き、桁外れな引っ張り強度になる強靭な繊維によって荒魂の動きを封じている様子が映っていた。
「確かにスゴい技術デスネ、噂では彼が戦闘に介入することで負傷者の数が減っていると聞きマス、そして次々と犯罪者を捕まえているとか」
「うむ、なるほど。弱者を守る親愛なる隣人か。まるで我々の国のヒーローのようだな」
「よし、気に入った!いつになるかは分からないが我々の計画の為に是非とも彼を仲間に引き入れたい」
意気揚々と画面に映るスパイダーマンを眺める老人。
そして、携帯にとある番号に連絡を入れる。
「やぁ、いきなりで悪いが頼みたい事がある。1ついいかな?」
「なんだ?藪から棒に、僕だって多忙なんだぞ…まぁ話は聞こう」
電話に出た中年と思われる男性は突然の要求に多少不機嫌そうに答えるが話は聞こうと対応する。
電話の向こうの男は仕事の合間に老人からの頼み事を引き受け通話を終了する。
老人は決心した。来たるべき時が来たとき彼を仲間に引き入れる事が出来たのなら共闘を試み、そして新しい力を託そう。彼の正義の心を信じて。
とある描写とセリフを追加しました。