刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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本編の説明をなぞっただけなので過度な期待はしないでくだされ。

若干知名度が低いヴィランの名前が出てきまっせ。


第41話 一時の休み

訓練開始から2日後。

 

トニーも特訓に付き合う傍でS装備の改造も無事6機分終了し、本日の午前にはトニーが里から離れるという事や、スパイダーマンにも多少の休息も必要だろうとトニーなりに配慮した結果、午後の祭に行けるように午前の訓練ではアイアンマンとキャプテンのツーマンセルを相手に訓練していた。これまでのおさらいとも言えるだろう。

 

キャプテンとアイアンマンのコンビネーションにはかなり苦戦したが2日間の特訓で習った事を活用し、相手は本気ではないとは言え割といい勝負が出来る程には経験を積む事が出来たと言えるだろう。

訓練終了のブザーが鳴ったので全員が戦闘態勢を解除するとキャプテンがスパイダーマンに対して特訓での成果を本人なりの視点を交えてアドバイスをしてくる。

 

『中々板に付いて来たな神奈川の坊や。一瞬でも気を抜くと一本取られそうだよ』

 

「えっ、マジですかキャプテン!」

 

「調子に乗るな坊主、僕からすればまだ甘いぞ」

 

「す、すいませんスタークさん・・・」

 

キャプテンはスパイダーマンが徐々にだが上達して来たことを素直に褒めてはくれるがアイアンマンは厳しい態度で接している。

今いる自分の強さを実感することも大事だが大切なのは向上心だ。上達して来た時期だからこそ満足して欲しくないと思っているが伝えてしまえば意味がなくなってしまうことであるため敢えて言葉にはしない、熱した鉄を打つ力を緩めて仕舞えば質が変わってしまうからだ。

 

『トニー、厳し過ぎるぞ。上達して来てるんだから素直に認めるのも指導の一環だ』

 

「あんたは甘過ぎるんだよじいさん。甘いもの食べ過ぎて過ぎてインスリン不足なんじゃないか?まぁ、取り敢えずは今日の分の特訓はお終いだ。明日から僕は自分の仕事に戻るが引き続き時間があれば彼を見てやってくれ」

 

『トニー・・・・分かった、また後でな。お疲れ坊や、また後で』

 

「ありがとうございましたキャプテン」

 

キャプテンがVRゴーグルのスイッチを切ったのかトレーニングダミーは元の姿に戻って格納されていた壁へと入って行く。

トニーもアイアンマンのスーツを脱いでガレージにしまい階段へと歩いて行き、地下から出て行く最中スパイダーマンの方を向いて顎で来いとでも言うようにクイっと動かす。

釣られてスパイダーマンも急いで地上へ戻って行く。

 

「ほら行くぞ」

 

一方その頃、神社の境内で集団戦の訓練をしていた面々も訓練が終了したため露天風呂の温泉に浸かって身体を洗い流していた。

訓練で一汗流した後に入る温泉は格別なのか皆それぞれゆったりと寛いでいた。

 

「あ゛〜生き返る〜。つかアイツ高い所に楽々登れるからってオレらのこと覗いてたりしねーよな」

 

「えーそれは無いと思うよ。覗きに来るような度胸があるならとっくの昔に彼女出来てるでしょ」

 

「確かに言えてマスネー」

 

「個人戦も楽しいけどチーム戦って楽しいね。私達ってまだあんまり実戦経験ないから攻撃手とか遊撃手とかってなんだか新鮮!」

 

可奈美の無邪気な発言とは裏腹に舞衣は浮かない表情を浮かべている。何か憂いがあるようだ。

 

「うん…可奈美ちゃんは強いね」

 

「舞衣ちゃんだって、聡美さんと対峙した時薫ちゃんと打ち込みのタイミングかぶっちゃって一瞬遠慮したでしょ?あのまま打ち込んでたら一本!だったよね」

 

「そんなとこまで見てたんだ…」

 

「見たっていうか見えたっていうか…」

 

可奈美は先程の集団戦の訓練で冷静に状況を把握し、記憶しているようだ。

舞衣はそこまで気を配れ無かったが、可奈美の戦闘での視野の広さには感心させられてしまう。

 

「やっぱり可奈美ちゃんは強いよ。お母さんのあんな話聞いてそれでもまだ戦おうとしてる。ううん。聞いたからかもね。颯太君も、いつもあんなにボロボロになりながら頑張ってる・・・でも私には」

 

「戦う理由がない、か。理由がないのなら戦わなければいい」

 

少し離れた位置で会話を聞いていた姫和が立ち上がって話しかけてくる。

確かに舞衣は沙耶香が放っておけなかった、偶然が重なってここまで来ただけ。姫和のように紫に対して因縁がある訳でも無いからこそ戦う意味を見出せないでいた。

 

「でも十条さんは行くんでしょ?」

 

「因縁があるからな…あの2人も舞草なりの理由で戦いに挑むんだろう。アイツもスパイダーマンとして戦う理由は聞いている。だが、だがお前と糸見はついてこなくていい。折神紫は私が倒す」

 

姫和の言葉は一見厳しい物に聞こえるが彼女なりに危険に巻き込まないようにするために敢えて突き放した言い方をしている。

戦う理由が無い相手を危険な戦いに連れて行っても辛い想いをさせるだけだと判断しているからだろう。

その姫和の言葉を受けて舞衣の表情に暗い影を落とし、沈黙してしまう。

姫和も悪いとは思っているが、再度湯船に浸かって1人だけそっぽ向いて外の景色を眺めるのに徹することにしている。顔を合わせるのが気まずいからだ。

 

一方旅館前では男性陣4人が宿泊していた旅館の前にハッピーが運転する一台高級車が停車している。

トニーが里に滞在できる期間は元々長く無かった上に次の予定が入っているため一足先に里を離れることになっている。ちなみにハッピーは近くの空港までトニーを送迎した後は再び里に戻って来る予定だ。

 

颯太とフリードマンはトニーを見送るために車の横に立ち、車のドアに手をかけたままこちらを向くトニーと会話し始める。

 

「悪いなリチャード。時間が足りなくて6人分位しか改造出来なかったから続きはまた今度になる」

 

「いやいや、忙しいのにここまでしてもらっただけ充分だよ」

 

「僕も時間が無い中訓練を付けて頂きありがとうございました」

 

各々の口から放たれる感謝の言葉に対してトニーは飄々とした態度のまま掛けているサングラスをクイっと押し上げつつ愚痴をこぼす。

 

「なら、良かった。あーあ僕も若い年頃の嬢ちゃん達と田舎の祭りで浴衣デートなんてのも楽しそうだと思ったがこの国じゃお縄につけられちまうからな、今回はやめとくよ」

 

「今回だけじゃなくて今度でもヤバいですよ」

 

元々生粋のプレイボーイであるトニーが言うと冗談に聞こえないがツッコミを入れる颯太に対して軽く遇らうように軽いノリで返してくる。

ここ数日間みっちりと特訓をさせた為、労りの意を込めて午後は休みにしている。大人なりに休みを満喫することの大切さを伝えたいのだ。

 

「冗談だ。坊主、今日の午後位はゆっくり祭りを楽しむと良い。たまには休息も必要だろ、教育には飴と鞭だ。ハメを外す時はとことん外せ、ノリが悪い男はモテないぞ。今の君みたいなのはな」

 

「うぐっ・・・わ、分かりました」

 

突き付けられた非モテの理由により胸に矢が刺さったようなダメージが入るものの、そんな様子を気にするでもなくトニーはハッピーの方を向いてこれからの行動方針とスケジュールを説明してくる。

 

「しばらくはハッピーが君の運転手兼お目付け役だ。僕も多忙になるかもだしな。ただ、彼は心臓が悪くてな。あまりストレスを与えないでやってくれ。僕がしそうなことも、しそうに無いこともするな。その間のグレーゾーンが君の活動エリアだ」

 

「了解です。次に呼ばれる時も研修旅行の名目ですかね?」

 

サングラス越しに映る瞳には真剣さが宿っている。仲間としてハッピーを気遣う気持ち、そして自分が起こしそうな失敗や自分なら絶対にしないような失敗をして欲しくないという意味、地に足を着けて自分に出来る仕事をして欲しいと言う想いを込め、親指と人差し指のみを伸ばしグレーゾーンを意味する隙間を再現して訴えかけてくる。

 

「次の任務か?」

 

「あっはい、任務です任務。スタークさんが直接連絡をくれるんですかね?」

 

「一概に僕がするとは言えない。ハッピーかも知れないしリチャードかも知れないし他の誰かかも知れない。連絡して来た者の指示に従え」

 

「了解ですスタークさん」

 

トニーもこれから多忙になるため常に面倒を見てやれる訳では無いが誰かを通して送られてくる連絡だとしても後に全て目を通す予定だ。

これから彼が地道に一歩ずつでも成長していく様を見守ることがトニーなりに楽しみになっているからだ。

 

「ボス、そろそろ時間です」

 

「分かった。じゃあな坊主、スーツは君が相応しい男になったら返してやるよ」

 

ハッピーに声を掛けられると颯太とフリードマンの方を向いてしばしの別れの言葉を告げる。車に乗り込むと座席に置いてあるハイテクスーツが入っている銀色のアタッシュケースをポンポンと叩き、少し悪戯っぽい余裕そうな笑みを浮かべる。

ハイテクスーツを渡すのはもう少し先になることを示唆しているが、またしてもスーツの力に頼らない訓練に引き続き取り組んで欲しいからだ。

それだけでなく空いた時間でハイテクスーツをアップデートして再度プレゼントする際にサプライズとして驚かせたいという遊び心もあるからだが。

 

「は、はい・・・。また後で、スタークさん」

 

ハイテクスーツが今よりも遠い場所に行くという事で非常事態に使用できなったことで更なる不安が募って来るがトニーを前にして態度に出す訳にはいかない。今は堪えなくてはと不安を押し殺す。

 

ハッピーが車を発進させることで高級車が里から離れて行く。その最中に神社の隣のガレージに収納されているアイアンマンを遠隔操作し、再帰性反射パネルを作動させながら東京にあるスターク・インダストリーズ日本支部に飛ばしている。姿は視認できないが今あの遠隔操作されているアイアンマンはマッハ5以上の速度であの雲の上を飛んでいるのかなと野暮な事を考えたのはここだけの秘密だ。

 

2人を乗せた車が見えなくなると、フリードマンが話しかけてくる。

フリードマンも特訓でトニーにしごかれていたことを知っているため、彼には祭でゆっくりして欲しいという想いもあり、休むことを勧めてくる。

 

「坊や、今日は年に2回開催されるこの里でのお祭りがある。制服と今のスーツをクリーニングに出すが明け方には仕上がるからそれまでは僕が用意したカジュアル服でも着て皆と遊んで来なさい」

 

「あ、ありがとうございます、博士。じゃあ僕はこれで・・・」

 

フリードマンの気遣いに感謝しつつ軽くシャワーでも浴びた後に祭でのんびりしようと思って宿に戻ろうとするとフリードマンが颯太の肩に手を置き、軽く力を入れてくる。

急に手を置かれたのでビックリして振り向くとフリードマンは口元は笑っているが目元が笑っていない、それでいて眼鏡が怪しく光りながら威圧感を放っている。

何故ここまで迫真的な表情をしているのか理解が及ばなかったがフリードマンの放つ言葉により理解させられる。

 

「だがその前に坊や、僕もハイテクスーツの記録映像を見せて貰ったんだが山中で我が孫と共闘した際の君の行動について詳しく聞こうじゃあ無いか」

 

実は数日前にハイテクスーツの記録映像のコピーを取る為にフリードマンも記録映像を確認していたため、エレンとスパイダーマンが伊豆山中でショッカーと対峙した事を知ったのだがその際に起きた軽いとあるトラブルがあった事を知ったため事情を聞こうと思っていたようだ。事故とは言え溺愛する孫娘の胸に顔を埋めた事実は度し難いためつい力が入ってしまう。

 

「は・・・・はい博士・・・・・」

 

しばらくの間フリードマンに迫真的な表情で問い詰められたので事情を説明すると長丁場になったが何とか謝罪をしたことで納得してもらえたため解放される。

祭に行く前から精神的に疲れた様な気持ちになるがフリードマンの心情を考えれば当たり前かと思うことにした。

 

 

里の神社の近くでは夏祭りの様に屋台が大量に出ており、浴衣を着た里の住民が遊びに来ていた。

普段は荒魂との戦闘や訓練をしている彼女達からすれば分かりやすい平和な空間とも言えるものであるため浴衣に着替えた面々は穏やかな気持ちになるのであった。特に可奈美ははしゃいでいる。

 

「わあー!祭りなんてしばらくぶりー!」

 

「でも大丈夫かな」

 

「今は浮かれている場合では・・・」

 

楽しそうにはしゃぐ可奈美とは裏腹に舞衣と姫和は制服がクリーニングに出されているため用意された浴衣に着替えてはいるが、現状を鑑みると祭で浮かれるのは気がひける様だ。

しかし、可奈美は遊ぶ時はとことん遊ぶタイプなのかテンションが上がっており祭を楽しむ気満々である。

 

「2人とも何言ってんのー!今日はお祭りなんだよ、今日浮かれないでいつ浮かれるの!」

 

「その通りデース、たまには息抜きも必要デスヨー」

 

「大体しっかり浴衣着てるじゃねーか」

 

エレンと薫の言葉を聞くと姫和がひとりで歩いていくため、可奈美が呼び止める。

 

「ひ、姫和ちゃんどこ行くの?」

 

「行くんじゃないのか、お祭り」

 

クリーニングが終わるまでの時間までだけどなと付け加えつつも彼女なりに祭を楽しむ気が起きたのか、皆の方を向いて屋台の方へと歩いていく。

 

「祭に行く前から疲れた気がする・・・結構念入りに問い詰められたもんな。ま、お孫さんを想えばこそか・・・ん?あれは」

 

フリードマンに伊豆山中でのショッカーとの戦闘を説明をしたり、起きてしまったトラブルへの謝罪をしていたため少し出遅れたタイミングで祭に来ることになった颯太。

軽くシャワーで汗を流した後にフリードマンの用意した七部丈のベージュ色のカーゴパンツに黒いクモのマークの赤Tシャツの上に紺色のスポーツシャツを着たカジュアル服のまま祭に来ていた。

しばらく歩いているとこちらに気付いたのか手を振っている姿が視界に入る。どうやら祭に来ていた可奈美達だ。

 

「颯ちゃーん!こっちこっちー!」

 

「可奈美か・・・今行く!」

 

呼ばれたのでそちらの方へと来場客を掻き分けながら、6人と一匹がいる方へと歩いていく。

皆がフリードマンに用意された浴衣を着ており、舞衣と姫和は髪型まで変わっていたため一瞬誰か判別するのに時間がかかったが声を聞いたことで把握できた。

 

「颯ちゃんも来てたんだね、お祭り」

 

「スタークさんと博士に行って来たら良いって言われてね。ぼっち周りしてた所・・・ていうか皆その格好・・・」

 

「ああこれね!フリードマンさんが用意してくれたんだー」

 

「ど、どうかな・・・?」

 

「「・・・・・」」

 

可奈美が浴衣の袖を持ちながらクルりた回って浴衣を着ている事をアピールしつつ、舞衣は普段の後ろ結びとは異なり長い髪を編み込んで一つにまとめて前に流している。異性に普段とは異なる浴衣姿を見せるのが慣れていないのか少し恥ずかしそうにしている。

姫和と沙耶香は学校が同じ可奈美や舞衣程親しくなってはおらず2人になると会話が続かないと思うが颯太を邪険にする素振りは見せない。

エレンと薫も既に祭を楽しむ気満々であるし、歓迎するムードではあるが浴衣の感想は気になるようだ。

しかし、実際に女性に対して浴衣が似合っていると言うのは思春期の中学生からすれば割と照れ臭いため、頰を右の人差し指で掻きつつ目を逸らしながら感想を述べる。

 

「み、皆似合ってると思うよ」

 

「そう?ありがとー!」

 

「あ、ありがとう」

 

「・・・・コクッ」

 

「そうか」

 

「目を逸らさずに堂々と言えたら完璧デスケドネー」

 

「つーか、地味に鼻の下伸びてたぞお前」

 

各々が浴衣姿に対する感想を聞いて十人十色の反応をすると薫が先陣を切って屋台の方へ歩いて行く。スマホで時間を確認することで暗くなる前になるべく多く遊ぶ事を強調しているように見える。

 

「それよりいこーぜ日が暮れちまう」

 

「え?これ僕も同行して良い感じ?」

 

颯太は薫の同行を許可するかのような言動に自分が混じるのは大分浮くと思っていたため、かなり意外そうな反応をすると沙耶香が上目遣いで自分達と行動するのは嫌なのか?という意味を込めた視線を送られると罪悪感に負けてすんなりと受け入れる。

 

「ダメ・・・?」

 

「だ、ダメじゃないけど・・・実はぼっち周り結構精神的にキツい・・・」

 

「じゃあ決まり!レッツゴー!」

 

金魚掬い

 

金魚掬いの屋台では颯太と舞衣と可奈美の美濃関組が専用のポイを持って金魚救いに挑戦していた。

 

「僕の前では金魚なんてちょちょいのちょいだ!水に触れてる時間を少なくしてサッと掬い上げれば捕まえられる!そら!・・・・あれー?」

 

颯太が勢いよく眼前を泳ぐ金魚に対して相手の動きに合わせて手早く動かすが大物を狙ったせいか、それとも力み過ぎたのか途中で紙が金魚の重さに耐えきれずに破れて見事に失敗する。

 

「ど、ドンマイ・・・」

 

「犯罪者は捕まえられても金魚は捕まえられないんだ・・・」

 

舞衣と可奈美も失敗しており、既にポイが破れているがあまりに意気揚々と張り切っていたのに失敗しているのは流石に何とも言えない気持ちになった。

 

アイス屋

 

アイス屋の前に並んだ姫和は屋台が出しているアメリカとのコラボアイスを凝視している。彼女の他人には中々理解して貰えない味の趣向、チョコミント味のアイスを探していると彼女のチョコミントへの敏感なセンサーが反応して発見するが彼女はそのアイスの名前を見てとてつもない違和感を覚える。

 

「・・・・・・」

(このバケットに入れるタイプのアイス、ハルクのイケイケアイスだと?ハルク要素がどこにあると言うんだ・・・だが、色合いはチョコミント・・・)

 

余程念入りに凝視していたのか可奈美に声をかけられた事でハルクのイケイケアイスに対して少し踏み込めない感じがあったのだが、店員には凝視していた商品が何かを見抜かれている。

 

「姫和ちゃん、何凝視してるの?」

 

「な、何でもない・・・」

 

「アメリカで流行ってるハルクのイケイケアイスと言うチョコミントアイスです、お一つどうでしょうか?」

 

タイトルからどんなチョコミントアイスなのか、もしかすると食べたら発狂する程スースーした味なのかと思考を巡らせ、抵抗があったが店員が勧めてくれたことですんなり買いやすい空気になった。

アメリカで流行っていると言うのなら非常に興味深いため、購入して店員から手渡されたハルクのイラストが描いてあるバケットを手に取り、スプーンでアイスをほじくり出して口に運ぶ。

 

「!?ではいただこう・・・・美味い」

 

他国で流行っているチョコミントを食することが出来たのが相当嬉しいのか、余程美味かったのか言葉はシンプルだが内心では飛び上がりそうになるほどテンションが上がっている。

可奈美もそれに乗じてコラボアイスの一つであるスターク・クレイジー・ナッツというナッツ系アイスを指差して注文する。

 

「じゃあ私はスターク・クレイジー・ナッツで!・・・ちょっと粉っぽいけどおいしー!姫和ちゃんも食べる?」

 

「いや、私はいい・・・」

 

姫和が渋っている、またはチョコミント以外にはそこまで関心がないのかハイテンションな彼女の様子にノリ切れないようで素っ気ない対応をしていると一瞬の隙を突かれて可奈美にアイスを乗せたスプーンを口の中に入れられる。

 

「そい!」

 

「な、何をする!ならお前もハルクのイケイケアイスを食らえ!」

 

口の中に広がるスターク・クレイジー・ナッツの多少粉っぽい味が広がるが意外と悪くない。しかし、やられっぱなしは性に合わないのか彼女もスプーンで自分のアイスをほじくって乗せ、ハルクのイケイケアイスを可奈美に食べさせようとして突っ込もうとして来るが可奈美はチョコミントは歯磨き粉みたいな味だと思っているため咄嗟に顔を逸らして回避する。

彼女が根負けしてハルクのイケイケアイスを一口食すまでしばらくそのやり取りが続いた。

 

綿飴屋&りんご飴

 

綿飴屋に並んでいると店主が颯太に対して大きめの綿飴を手渡して来る。商品名はスパイダーマンのウェブ綿飴だ。

 

「現在は何かやらかしたらしいが息子が彼のファンでね!スパイダーマンのウェブ綿飴だ!」

 

「ど、どうも・・・・」

(本人を前にして渡されるとすっげえ複雑・・・・)

 

実際本人を前にして自分をネタにした商品を手渡されると複雑な気持ちにさせられてしまうが現在は逃走中扱いでありながらも自分を信じてくれている人が他にもいたことを実感して嬉しい気持ちも湧き上がって来る。

 

薫はスパイダーマンをネタにした商品を本人が食するというシュールな光景に対してニヤニヤと笑いながら肘で突いて来る。

 

「どうよ、自分の蜘蛛の巣食ってる気分は?」

 

「美味いけどすっげえ変な感じ。次は僕の好物の1つ焼きそば食いに行こっと」

 

綿飴を食した後は屋台の定番焼きそばを食しに離れるのであった。

 

りんご飴の屋台では沙耶香が店の前にて金色で先端が2つに分かれている棒に、分かれる寸前の位置に飴が埋め込まれているりんご飴。セプターりんご飴を舐めていた。

舞衣は沙耶香の姿を見て自分もりんご飴を購入しようと近付くと、その独特な形状のりんご飴を見て不思議な気分にさせられる。

 

「沙耶香ちゃん、何舐めてるの?」

 

「セプターりんご飴」

 

沙耶香が淡々と答えると肩まで伸びた黒髪に前髪を全て後ろの方へと上げたオールバックの優男風で紳士的な口調だが怪しさが漂う店主がりんご飴の説明をして来る。

 

「舐めれば舐める程洗脳されたかのように熱中するりんご飴だ。貴女もいかがな?」

 

「だ、大丈夫です・・・」

 

舞衣は店員に怪しを感じているが、沙耶香が飴を舐めるのを中断して親指を立てながら食品レビューを開始する。

 

「美味しいけど舞衣のクッキーの方が私は好き。勿論、ここのりんご飴は星5つ」

 

「さ、沙耶香ちゃん」

 

店員に怪しさを感じているが沙耶香は別に何とも無い上に、自分の作るクッキーが好きだと言われ内心で嬉しい気持ちになる。

どうやら店員は雰囲気が独特なだけで別に悪人ではないのかと察することが出来た。

 

「お褒めに預かり恐悦至極だ」

 

店員は沙耶香から高評価を得たことにより、頭を軽く下げて右手を左胸に当てて紳士的に会釈をする。

 

お面屋

 

お面屋の前を通ると薫は目を輝かせながら急停止して、吟味し始める。

エレンも薫の付き合いでニチアサを見る機会があるのでヒーローのお面にはそれなりに関心がある。

 

「キャプテンのシールド大判焼き超うめー!おっ、お面屋があるじゃねえか」

 

「薫はどのお面にしマスカ?」

 

「お面って言ったらアイアンマン一択だろ!」

 

薫が意気揚々に通常のアイアンマンとは異なり丸型で多少横に広くてツインアイがやや中心によっている薫が一番好きなアイアンマンスーツのシリーズ、ハルクバスターのお面を選択する。

 

「なんて名前のアーマーデシタっけ?」

 

「ハルクバスターな。俺これが一番好きなんだよなー」

 

「ねねっ」

 

「理由はなんデスカネ?」

 

「簡単だよ、デカくてゴツいからだ」

 

エレンの質問に対してハルクバスターのお面をつけながらドヤッと仁王立ちして答える。

薫は自身が身の丈よりも遥かに巨大な、2mを越える大太刀を武器とするためなのかスーパー戦隊のメカや機動戦士のようなヒロイックな巨大ロボも好きであるため自然とハルクバスターが一番好きになったようだ。

エレンは内心で低身長へのコンプレックスの現れなのではないかと思ったが指摘すると怒ると思ったため敢えて口には出さない事にした。

 

 

 

祭をある程度楽しんでいるといつのまにか日が暮れて辺りは既に暗くなっていた。一同は神社に集まっているとエレンが里に来たばかりの面々に声をかける。

 

「カナミン、ヒヨヨン、ソウタン。後、マイマイやサーヤやにも見てもらいたいものがあります。グランパが今日の祭りのメインイベントに招待したいそうデス」

 

「メインイベント?」

 

フリードマンが言うメインイベントという物がイマイチピンと来ない中、神社の境内の中で小太りの男が一同を見つけてこちらに寄って来る。

どうやら仕事を終えて戻って来たハッピーだ。ハッピーは颯太の前に立ち、いつも通りの不機嫌そうな表情は崩していないがこれから長い付き合いになると思うのでキチンと挨拶をしておこうということなのだろう。

 

「おい、ガキンチョ。ボスから話は聞いてるとは思うがしばらく俺はお前の運転手兼窓口役だからよろしく頼むぞ」

 

「おかえりなさい、ハッピーさん。こちらこそよろしくです」

 

「んじゃ、俺はちょっと美味そうな屋台を食べ歩きしてくる。運転して疲れてるしなー」

 

ハッピーが挨拶を済ませて屋台の方へ歩いて行くと入れ替わったかのようにスーツ姿の20代後半程の眼鏡の女性が一同に声をかけて来る。

可奈美と姫和を一時的にマンションに匿っていた人物、美濃関の元卒業生である恩田累だ。

 

「あっ姫和ちゃんと可奈美ちゃんみーっけ。あっ颯太君として会うのは初めてだね」

 

「累さん!?大丈夫だったんですか!?」

 

「累っぺは逮捕されてたらしいデスよ。折神紫襲撃容疑者の一人として」

 

「えっ、じゃあ私たちのせいで・・・」

 

累が逮捕されたのは自分達を匿ったから共犯だと疑われるのも無理はない。むしろ、逃亡犯2人を匿ったのなら当然とも言える。

可奈美と姫和は巻き込んでしまったことを心苦しく思っているのか落ち込んだ表情になってしまう。

しかし、累はいつもの軽い調子で2人を気遣ってその後に何があったのかを説明する。

 

「あ~大丈夫大丈夫。羽島学長が手を回してくれたからすぐに釈放されたのよ。あなたが舞衣ちゃんね。それと沙耶香ちゃんは久しぶり~」

 

「沙耶香ちゃんの知り合いなの?」

 

「襲った。あの人の家を」

 

「え!?」

 

「そっか、ビッグバードの前には糸見さんが襲撃してたのか」

 

どうやら江麻が手を回したことによりすぐに釈放されたようで、その後にハッピーに里まで送られて来て舞草の面々と合流したのだろう。

後から遅れて参戦した颯太は知らないがヴァルチャーより先に累のマンションを襲撃したのは雪那の指示を受けた沙耶香であることまでは把握していなかった。

 

累はエレンが先程言っていたメインイベントとやらが始まる時間となったため、皆をこれから奉納の舞の席へと案内する。

 

「そんじゃ行こっか、皆も呼ばれてるんでしょ?ファインマンに」

 

累に案内された面々は境内の拝殿に用意された客席の最後尾に腰掛ける。

既に来ていたフリードマンと合流し、巫女服姿に着替えた舞草の先輩である米村孝子と小川聡美が演舞を舞っている。

その奥に祀られるかのように木製の箱が鎮座している。

 

「あれが御神体?何が入ってるんだろう」

 

「多分ノロじゃないかな」

 

「折神家に回収されてないノロがまだ存在してたのか・・・」

 

可奈美と颯太と姫和の会話を聞いていたのかフリードマンが古いノロの奉納の歴史を語り出す。

 

「かつてノロはこのように全国各地の社で個別に祀られていたんだよ。ここはまだ社が残っているんだ」

 

「祀る・・・」

 

「可奈美君、そもそもノロがどのようにして生まれるのか分かるかい?」

 

「あっ・・・え〜っと・・・」

 

「おい、刀使の基本だぞ」

 

「流石に僕でも授業の一環で触り程度だけど習ったよ・・・」

 

フリードマンの質問に対し、パッと答えられない可奈美の代わりに舞衣が返答する。

 

「御刀の材料、玉鋼を精錬する工程で不純物として分離される」

 

「流石は舞衣君だ。御刀になる程の力を持つ玉鋼から分離されたノロはほぼ御刀と同等の神聖を帯びている。いまだ人の持つ技術ではそれを消し去ることはできない」

 

「でもそのまま放置すると荒魂になっちゃうから折神家が管理してるって・・・」

 

「うん、不正解だな」

 

「え!?」

 

「あ・・・」

 

フリードマンに答えを否定されると驚いたかのように神社の舞の最中だと言うのに大声を出してしまったことで他の客や主催者側から一気に注目を集めてしまう。

皆の注目を集めてしまったことが羞恥心を刺激したのか、可奈美が照れているとフリードマンが場所を変えようと外を指差して皆を移動させようとして来る。

 

「少し場所を変えようか」

 

外に移動すると境内に置かれた篝火が灯す焔の光が暗くなった一面をほんのりと明るく照らし、燃える音がパチパチとなりながらBGMとして作用している。フリードマンは皆の方を向いて先程の続きを話すようだ。

 

「かつてノロは全国各地の社でこんな風に祀られて来た。それを今のように集めて管理するようになったのは明治の終わり頃、当然そのままにしておけばノロはスペクトラム化し、荒魂になってしまう。そうならないように、当時の折神家がノロの数を厳密に管理していた。そして、以前にも話したが戦争が近付くにつれ軍事利用のためにタガが外れてしまったんだね」

 

「そんな・・・神事で使うものを軍事利用するなんて・・・」

 

颯太が浮かない顔をしながらボソリと呟いた言葉をフリードマンは聞き逃さなかった。確かに科学や未知への発見に興味はあるが物には限度というものがあると考えており、禁断の領域を安易に踏み越えて戦争の為の道具にするのはどうなのかと疑念を持ってしまったのだろう。

 

「大災厄の前にトニーにも鼻で笑われたよ。神事で使うものを軍事利用だなんてどうかしてるな、神が人を試すならともかく人が神を試すなんてロクなことにならないってね・・・だがノロの持つ神聖、つまり幽世に干渉する力を増幅させまさに君達刀使にのみ許された力を解明し戦争に使おうとしたのさ。戦後米軍が研究に加わったことでノロの収集は加速した。表向きは危険なノロは分散させず一か所に集めて管理した方が安全だと言って日本中のノロが集められていった。しかし思わぬ結果が待っていた・・・ノロの結合、スペクトラム化が進めば進む程彼らは知性を獲得していった」

 

「それってノロをいっぱい集めたら頭のいい荒魂ができあがったってことですか?」

 

可奈美のザックリとしているが割と的確な問いにより皆も大方内容を把握できたようだ。それでいてフリードマンは何故タギツヒメが厄介なのかの説明をする。

ノロを簡単に一箇所に集められる立場の人間に取り憑くことで長年に渡り回収し続けている事が何よりの問題だ。累も続けて補足説明をする。

 

「簡単に言えばそうだね、それに今は折神家には過去に例がない程の膨大なノロが貯め込まれている。それがタギツヒメの神たる所以」

 

「問題はそれだけではないわ。もしもその大量のノロが何かのはずみで荒魂に、いえ大荒魂になってしまったらもう私達にコントロールする術はないの、あの相模湾大災厄のようにね」

 

フリードマンは重々しい口を開けながら人々の業、相模湾大災厄の真相を口にする。当事者でありタンカーに乗っていたからこそ、その言葉には重みがある。

 

「あの大災厄はノロをアメリカ本国に送ろうと輸送用のタンカーに満載した結果起きてしまった事故。つまり人の傲慢さが引き起こした人災だ。彼らの眠りを妨げてはならなかったんだ・・・今思えばイヤミと自分の経営が脅かされる可能性への牽制だったのかも知れないが、トニーに鼻で笑われた時点でやめておけば良かったのかも知れない」

 

フリードマンの声色からは後悔、後ろめたさ・・・様々な感情が籠っている。あの日からずっと悔いているからこそ舞草の中核として今日まで生きてきたのかも知れない。

あの時、トニーに鼻で笑われて茶化された時点でやめておけば・・・自分が軍事利用のプランを中止させていればと悔やまなかった日はない。遅かれ早かれ誰かがこの領域に踏み込んだかもしれないがあの災厄を防ぐ事が出来たかも知れないと考えると自責の念に押しつぶされそうな毎日で、いつの間にか心の底から笑えなくなっていた。

 

「ノロは人が御刀を手にするために無理矢理生み出されたいわば犠牲者なんだ。元の状態に戻すことができないのならせめて社に祀り安らかな眠りについてもらう。それが今の所我々にできる唯一の償いなんだ・・・刀使の起源は社に務める巫女さんだったそうだね。荒魂を斬る以上その巫女としての務めも君達はちゃんと受け継いでいかないといけないってことさ」

 

フリードマンの言葉を聞いた一同は口を固く紡いで押し黙ってしまう。

自分たちの使命、ただ国家公務員だから、人が守れるからと言う言葉で蓋をして考える事を放棄しては行けない。先祖たちの業を引き継ぐ神職であることを再認識させられる。

一方、颯太も御刀は使えないが自分も管理局の研究の一端に触れたことで彼等と等しい力を持ってしまった以上、自分も手放しで考えてはいけないのかも知れないと実感させられてしまう。

 

 

刀剣類管理局のとある一室

 

司令室のモニター席に座る栄人がPCを操作しながらこれからテロ行為の計画を進めていた舞草を含む反抗勢力の拠点を攻め込む為に使用される新技術のプログラムの入力をしていた。

その背後には殲滅には参加せず、紫の身辺警護と待機を命じられている真希と寿々花もPCに映し出されている画面を見ている。

 

画面には紫色に円形のボディに顔の部分に相当する面にはメインカメラと思われる黄色の横長のバイザーと少し下の辺りには何か音波でも発射すると思われるスピーカーが搭載され、下の左右の部分には小型の機関銃、そして中央には特殊なボウガンを装備しているドローンのような機械が映し出されている。

 

紫の指示によりこの装備を使用するよう言い付けられた為、殲滅作戦に新技術の導入として実戦投入されることになった。

既に現地に到着している特別機動隊(STT)の大型の格納庫を搭載した車の中には大量のこの戦闘用ドローンが積載されている。

すると装備しているヘッドセットから現地に到着しているSTT隊員から通信が入って来た。

 

『主任、機動隊到着いたしました!』

 

「了解です。ではSTT用に作成した新技術『パラディン』のデータ打ち込みがもう少しで終わります。アップデートの後、使用可能です」

 

『了解しました!』

 

「では、ご武運を」

 

STT隊員との通信を切るとヘッドセットを外して首に掛けてため息を吐く。

またしても彼女達の敵に回ってしまったことへの自己嫌悪の念もあるが既に舞草としてテロ行為に加担していた可能性のある複数の学校関係者、則ち学長さえも捕獲する準備を管理局が進めている以上、彼女達が捕まった場合確実にテロリストの一員として処理される。

ならばせめて可奈美と舞衣だけでもどこかへ逃げて欲しいという思い。厳しい言い方をすれば甘さを捨てきれないため、気休めにしかならないが栄人はパラディンのデータを打ち込んでいる際に真希と寿々花の目を盗んで一瞬の隙を突いてパラディンの戦闘プログラムにとある指示を打ち込み、入力のためのエンターキーを押した。




里での敵は映像技術を駆使して荒魂殲滅戦と誤魔化すのにギリギリ筋が通りそうな金魚鉢にするか悩みましたが、タイミングがちょと急過ぎる気がしたのと金魚鉢は誰かの指示で動くより自発的に行動する方がらしいかなと思ったので今回は見送りです、めんご。


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