刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任- 作:細切りポテト
報告:一部台詞変更。
オートキルモード→エクスキュートモード
祭りから戻った可奈美と姫和は祭の喧騒から離れて座敷に戻って来ていた。
クリーニングが既に終わっていたため、一足先に姫和が平城の制服に着替えて廊下の縁側に腰掛けて夜の暗がりで辺り一面が黒く染まっている庭を静かに眺めていた。
祭の賑わいから覚めて、静寂が楽しさと使命に燃える今の揺れる自分の心を落ち着かせてくれているようだ。
足音が反対側から聞こえて来たので顔を横に向けると、既に美濃関の制服に着替えた可奈美の姿があった。
可奈美はそのまま流れるように姫和の隣に腰掛けて足を庭に向けてダラリとさせる。
「お前も着替えたのか?」
「楽しかったね。お祭り」
「ああ」
否定はしない。実際にここ数年で最も楽しかった時間であることは間違いないだろう。実際祭の間だけは仇のことや使命のことも忘れて楽しむことが出来たからだ。
「お母さん達も一緒に行ったりしたのかな」
「どうだろうな」
可奈美の問いに対して姫和は明確な答えは出せない。その話を聞こうにもその相手は今この世にはいない。たらればの話にしかならない。
当時を知る颯太の叔母の芽衣または江麻ならば知っているかもと思うが深く追求する程の事でもないかも知れない。
「…可奈美。…小烏丸?」
「千鳥も」
話を切り出そうとすると両者の御刀から共鳴するかの如く、鈴を鳴らしたような音が聞こえてくる。
「運命…だったのかな。お母さん達が手にして戦った御刀を持つ姫和ちゃんと私が出会ったのは」
「・・・・行ったのかもな」
「・・・え?」
「お祭りだ。お前の母親と私の母、もしかしたらアイツの叔母も一緒に」
「・・・うん、きっとそうだよ」
確かにここまでの偶然があるだろうか。かつて母達が仲間として共に戦い、同じ御刀を手にするという事はあまりにも出来すぎている。
運命、もとい縁と言っても過言では無いだろう。
もし、母達が生きていたら?芽衣と美奈都が隣の家になって颯太と可奈美が出会ったように、美奈都も篝の家に行ってもっと早くに姫和と可奈美は出会っていた可能性も0ではない。
どうとでも言える話だが、この2人はいずれ出会っていたのかも知れない。
藁と薪を燃やす自分たちよりも背の高い篝火を前にして舞衣と沙耶香は並んで見上げていた。
「私には何が出来るんだろう・・・・」
辺りを優しく照らす篝火の灯りに魅せられて無意識のうちに今の自分の悩みを吐露する。
自分は憧れである可奈美のように抜群の戦闘センスがある訳でもなく、姫和や颯太のように自分のやらなければいけないと思う事に対し、信じて前に進もうとする意思や里で出会った先輩達のようになれるのか?そんな中で自分にできる事はなんなのか?
ここ数日で様々な事を経験し、体感する事でそのような焦りが彼女の心を蝕んでいた。
だが、彼女は自分では気付いていないが困難に対して踏み出す勇気を既に持っている。沙耶香を放って置かなくて自ら結芽に挑んだ勇気があることを彼女はまだ自覚していない。その勇気をくれた者達のように自分の出来ることを探しているが正しい答えが見つからない。と言った所だろうか。
「舞衣は何でも出来る」
「え?」
呟いた言葉を沙耶香は聞き逃していなかった。自分は彼女に助けられた。ここ数日一緒にいて舞衣に出来て自分に出来ないことを知ったからこそ、この言葉が出たのだろう。
「私も私に出来ることを考えてみる」
「沙耶香ちゃん・・・」
彼女もまた自分と同じように自分の道を模索している途中なのだろう。これまで何も考えず指示に従って生きてきた彼女はその楔から解き放たれてようやく自由になったからこそ、手探りで常に邁進して行くという意思が感じられる。
神社の石段に並んで腰掛け、エレンと薫とその頭に乗っかるねねは夜空を見上げる。
エレンの表情には楽しい祭への余韻が残っているのか終わってしまう事に少し切なさを感じているようにも見える。
「お祭りももうすぐ終わりデスね~」
「またノロが分祀されるようになれば日本中でこんな祭りが開かれる」
折神紫体制が打ち砕かれてまた日本中にノロが分祀されれば僅かな間だけかも知れないが今よりは平和になって日本中でノロを祀る祭が開催される。
そうなれば、自分たちが戦った甲斐があると言えるだろう。
「そうしたらまたみんなで遊びまショウ!ヒヨヨンとカナミンにマイマイにサーヤとソウタンと、今度はトニトニや他の皆とも一緒に!
「ああ」
「ねー」
直後に祭の締めとも言える花火が打ち上げられる。空高く火が登って行き、夜空に色取り取りの満開の花を咲かせる。
一度宿舎に戻っていた颯太はクリーニングが済んだというホームメイドスーツを身に纏って着心地を試していた。
ほつれていた所は修繕され、殴られたりリパルサーが直撃して色が禿げた所は新しく塗り替えられていて新品同様のようにも見える。最も、性能はただの服のままではあるが。
「修繕までしてくれるなんて超親切だね。僕より裁縫上手いんじゃない?当たり前だけど・・・確かに幾らか愛着湧いて来たけどやっぱりハイテクスーツのが安心感あるなぁ・・・カレンとも久し振りに話したいし。いや、側から見たらカレンと話してると一人でぶつぶつ話してる危ない奴だけどやっぱりスーツに話し相手がいるって大きいよ・・・」
確かにここ数日ホームメイドスーツを着て訓練に取り組んでいたため、ハイテクスーツを没収された直後よりは大分慣れて来たがやはり強敵との戦いの前までにはハイテクスーツが手元に欲しいと感じる。おまけに更に遠い所へ行ってしまったから余計にそう感じるのかも知れない。
『スーツは君が相応しい男になったら返してやるよ』
トニーの言葉が脳裏をよぎる。確かに今の自分は訓練を積んで以前よりはマシな戦い方が多少は出来るようになったかも知れないがトニーはまだ自分を半人前、子供だと言って簡単には認めてくれない。
自分がそのスーツに相応しいアイアンマンやキャプテンのような雲の上の存在になる日が来るのはずっと先なのではないか、もしかすると一生返して貰えないのではないかとすら思ってしまう。
「ん?花火か?」
花火の音が聞こえて来たので着替えの入ったリュックを持ったまま脚力で高く跳躍して、近くの高い木の枝を両手で掴んでそのまま身体を一回転させて反動で飛び上がって頂上で着地する。
木の高さは里中を見渡せる程の高さであり、舞衣と沙耶香が篝火の前で花火を眺めている姿やエレンと薫とねねが石段で花火を見上げている姿や、可奈美と姫和が廊下の縁側にいる姿やハッピーが屋台の料理を食べ歩きしている姿を確認出来る。勿論、スパイダーマンの超人的な視力が成せる技ではあるが。
花火があまりにも美しかったため、思い出に残そうと携帯で写真を撮りながら想いを馳せる。
「綺麗だなー。スタークさんやカレンとも見たかったな・・・勿論、ハリーとも・・・」
今ここではない遠い場所にいるトニーと、そして管理局と舞草として敵対している栄人のことを思い出していた。
平和でいつも通りの日常だったのなら一緒に花火を見たり、祭を共に楽しむ事だって出来たのかも知れない。
だが、自分は舞草で栄人は管理局の人間。今は自分たちが挑まなければいけない相手だ。必ず日常を返すと約束したがどうなるかは分からない。彼の力にも自分の力にも必ず限界という物がある。その限界を通り越してまた戦う羽目になるのかも知れない。
だが紫を、タギツヒメを止めなければ日本中が、自分の近所が危ない目に遭う。だから自分は管理局に立ち向かう。その先に、人を守るために人間と戦わなければならない矛盾を抱えながらも前に進む以外に道はないのだから。
「戦いたくないのは僕だって同じなんだよハリー・・・」
紫を何とかして止めなければならない。今自分にのし掛かる現実と試練に立ち向かう以外に出来る事はないが少しでも早く戦いが終わることを願うばかりだった。
夜空に輝く花火はそんな想いを包むかのように優しく里と、里にいる人たちを照らしている。今だけはこのゆったりとした時間の中に居たいとそう思わせられる。
しばらく里の景色や少し先に聳える山岳を眺め、そろそろ宿に戻ろうと思った矢先にかなり遠くの距離から黒い何かが行列を作ってこちらに向かって来る。
眼を細めてそちらを凝視すると大量のSTTのマークがついた大型の車輌が近づいて来て、里を包囲しそうな勢いであった。
「ほんっと、この里は退屈しないテーマパークだなぁ!ったく!里にも変な奴探知機を付けるべきだね!」
穏やかな時間はいつまでも続かないなとつくづく実感させられると同時に何故この場所が分かったのかという疑念が湧き上がって来るがボヤボヤしているとマズい状況になると蜘蛛の第六感が告げている。
急いでマスクを被って携帯電話を取り出してハッピーに連絡を入れる。
『あん?もしもし何か用か?こっちは今たこ焼き食ってんだよ』
「あぁ!ハッピー出てくれた!聞いてハッピー、里中がSTTに・・・管理局に囲まれそうなんだ!この事をまだ祭の会場にいる舞衣達や里の人たちに伝えて朱音様達と合流して!何だったら信じて貰えるように写メでも撮って送る?」
『おいいきなり呼び捨てなんて馴れ馴れしいぞ!・・・まぁ、ボスにはお前の面倒を見るように言われてるからな。分かった、出来るだけ皆に声を掛けて合流して住民は体育館に避難させる』
「サンキューハッピー!僕はこのまま奴らの見張りを続ける!」
あまりにも焦っていたため、思わず呼び捨てになってまうとハッピーに速攻で反発される。
しかし、ハッピーは急な呼び捨ては遺憾だが、トニーからスパイダーマンの窓口役になるように言われた上にイタズラでこのような事を言うとは思えなかったため、一応話には乗る事にする。
直後に信じてもらえなかった時の証拠として実際に接近中のSTTの車輌の写メも送られて来たことで確信を得た。
スパイダーマン の発言を信用してハッピーはまだ会場にいる舞衣と沙耶香、エレンと薫、他の舞草の刀使達に声をかけ、見晴らしの良い高台に集合するように呼び掛けていた。
これが地に足を着けた選択かは分からないが今ここで何も行動せず、連絡が遅れるよりかは遥かにマシな筈だ。スパイダーマンは見張りを続行しながら携帯を操作し、今度はディスプレイの電話帳に表示されているフリードマンの名前の欄をタップする。
時間は少し戻って、座敷内では舞草の重役である朱音とフリードマンを前に姫和と可奈美と対面し、本格的に共に行動する事を決めた事を伝えに来ていた。
「では我々と行動を共にすると言うのですね?」
「はい。歪みを正し刀使を本来の役目に戻すと言うのであれば目的は同じです。私はその元凶、折神紫を倒す」
「・・・・・」
舞草と協力することを中々渋っていたがようやく決心がついたようだ。
しかし、朱音の表情は晴れないままだ。またしても子供達を戦いに巻き込んでしまう事に対して後ろめたさが拭えないのだろう。
「優秀な刀使が増えるのは喜ばしい事だと思いますが?」
「あなたは…そうですね。気持ちは分かりました。舞草はあなた達を歓迎します。ただし…」
フリードマンの合理的ではあるが安易に首を縦に振りたくは無い発言を聞いて表情に更に陰りが見えて来るが、やはり一理ある提案であるため渋々と賛成することを決意した。ただし、険しい表情は崩さずにだ。
その直後に朱音の言葉を遮るかのようにフリードマンのポケットに入っている携帯から着信音が鳴る。
一同から視線を集めてしまうが電話の相手の名前を確認すると颯太であることが確認できたため、電話に出る事にした。
「どうしたんだね坊や、今取り込み中」
『博士、大変です!里に管理局が攻めて来てます!』
突拍子も無い電話越しのスパイダーマンの慌てているかのような声色から只事で無いことは理解できる。それに、聞き捨てならないワードまで含まれている。
「何だって!?」
『本当です!今ハッピーに里にいる舞草の人達に声を掛けてもらって高台に集合してもらってます。博士も皆と合流してください、僕はこのまま見張りを続けます!』
電話越しから漏れる声は部屋にいる者達にも聞こえていた。只事では無いことは理解出来たため、スパイダーマンの言葉に従って急いで高台に移動する事にした。
祭りの終わり頃、夜空の暗闇にも関わらず空中を飛行する機械の翼をはためかせて翼に搭載されているローターが激しく回転している。鉤爪のような脚のブーツに緑色の眼が怪しく光るハゲタカをモチーフにしたパワードスーツを纏った人物が里の付近の上空を飛行していた。
東京の累のマンションを襲撃して、必要時以外は幽閉されている筈のヴァルチャーだった。
しかし、今回明らかに異なるのは以前のように熱線銃のような派手な武器ではなく地味なボウガン。それでいて左腕には何かを操作する小型のタッチパネルが装備されていて首元には黒い機械のチョーカーが取り付けられている。
そんな人物が今こうして飛行しているという事は局長である紫直々の指令が出たからである。
ヴァルチャーは乱気流を意に解する事なく通信で司令室に連絡を入れる。
「あーあ、ここ何日か窮屈な牢屋にいたから身体が鈍っちまいそうだぜ。で?俺に急に仕事とはどういう風の吹きまわしだい?坊ちゃん」
『局長がお前を出撃させろというから出撃させただけだ。言っておくがお前の今回の仕事は』
「へいへい分かってますよ、余計なことしたら今度は俺の首が二重の意味で飛んじまうからな。必要以上の事はしねーよ。現場指揮と奴らが簡単に来れねえ高さで探知してエクスキュートモードの騎士サマを向かわせりゃいんだろ?」
ヴァルチャーが飄々とした態度は崩さずに首元のチョーカーをツンツンと小突いてこれが命自分のを握っている事を指している。
外そうとしたら動きを検知して爆発する仕組みであるため自分では取り外す事は出来ない。前回功を焦って独断専行の結果このような対策がなされているのも無理はない。
『そうだ。それが局長からのお前への指示だ。お前の腕に装備させた操作パネルでパラディンを敵のいる位置に向かわせて、親衛隊の最強戦力の増援が来るまで時間を稼いでくれればそれで良い。お前に今回オペレーターを頼むパラディンの触りだけ説明しておくぞ』
「りょーかい。ま、最大の仕事は時間稼ぎってこったろ?確かに束になった連中に真っ向から勝負挑むのは不利だしな」
幾らパワードスーツを着ているからとは言え舞草の里に常駐している全員を真っ向から相手にするのは難しい。だからこそ今回ヴァルチャーに任される役割はかなり特殊だ。
その事は理解できているため、今回は現場指揮と今回実践に投入される新技術であるパラディンの操作を担うことに異論はないようだ。
通信先の栄人から説明されながらヴァルチャーのHUDの画面に視界を大きく遮らない程度に小さく新技術であるパラディンが映し出させる。
見た目は紫色に円形のボディに顔の部分に相当する面にはメインカメラと思われる黄色の横長のバイザーと少し下の辺りには何か音波でも発射すると思われるスピーカーが搭載され、下の左右の部分には小型の機関銃、そして中央には特殊なボウガンを装備しているドローンのような機械が映し出されている。
『ショッカーの他にSTT用に開発を進めている刀使の戦闘を支援する攻撃ドローン「パラディン」。内部にはスペクトラムファインダーが搭載されていて荒魂の反応を検知し、顔認証のシステムで敵と味方を判別して荒魂を攻撃して刀使を支援する。最も、近代兵器は荒魂には通用しないから砲撃で注意をパラディンへ向けたり、ショッカーからの流用だが衝撃波で姿勢を崩すことや時には自動防御で味方を庇うことも可能だ』
パラディンは人的被害を減らしつつ、刀使達を支援するための新技術だ。スペクトラムファインダーと顔認証の機能が付いているのは誤って刀使を誤射しないためや荒魂のみを攻撃するように設定されているシステムであるが今回は舞草の里に潜伏している面々を捕獲するためにファインダーは御刀に反応し、刀剣類管理局に所属している以上は顔と名前もデータベースに登録されているため顔認証で刀使と認識した時点で捕獲するように設定している。
里の人間全てを拘束してそこから舞草に関わる人間を捕獲するのが今回の任務。スペクトラムファインダーに反応して顔認証をして敵対行動を取った時点で対象を攻撃し、無力な非戦闘員は攻撃しないというのが今回のパラディンの運用方法だ。
「そいつは進んでやがるな。ま、確かに幾らでも量産可能なドローンが戦う方が金は掛かるだろうが人的損害は減らせるしな。そんじゃあ何かあったら連絡するわ」
通信を切ったのちにヴァルチャーが里中が見渡せる位置まで来ると祭の出店はまだ出ているが人がやたら少ない事に違和感を感じたが今回は命令通りに仕事をするだけであるが、ボソリとパラディンに対する皮肉を呟く。
「にしてもパラディン・・・騎士ねぇ・・・ガキ共を支援する武器でガキ共取っ捕まえるなんざ皮肉なもんだな、おまけに完全にターゲット以外は狙わねえから無関係な人間は守れるっていう騎士サマの本懐だけは律儀に守ってやがるのが憎たらしいなぁおい」
今回の任務を皮肉りながら現地に到着したSTT隊員達に通信を入れて戦いの前の檄を飛ばす。確かにSTTも職務上荒魂相手に足止めや時間稼ぎとして戦闘する機会はあるが共に戦う彼女達、ましては見た目が人間である相手と戦闘するのは気が引けていると思うため緊張を解す目的もある。
実際STTも上層部から刀使が荒魂化するという嘘を聞かされているため非常に戸惑ってはいる様子だ。
「よぉし、テメェらぁ!これは局長様直々のご命令の怪物退治だ。テメェらは前にガキ共と仕事で組んだことがあるからって抵抗あるかも知んねえが甘ぇ考えは今は捨てろ。奴等は既にモンスター・・・ファインダーとやらに反応するバケモンになっちまったからな。今からここは狩るか狩られるかの戦場だ、連中も俺らをぶっ潰す気で掛かって来る。だからこそ容赦はすんじゃねぇ、少しでもチキった奴は次の瞬間死ぬと思って取り組みやがれ!」
『『りょ、了解した』』
STT隊員達に檄を飛ばした後に里中を見渡して地形を把握する作業に入る。里の位置がバレた以上はここに留まっている理由は無いため何かしらの脱出手段を用意しているだろうと言う事は推測出来る。
「里の地形から見るに奴等が逃げられる場所は限られて来るな・・・多分見た感じ水源か何かだったんだろうよ。見渡してもヘリやプライベートジェットの類も確認出来ねえ以上逃げるとすりゃ海だな。別働隊は先回りして停泊所を見つけて占拠しろ。乗り物があったら映像を送れ、どっかの軍の所属だと俺らが手を出したら坊ちゃんがうるせえからな」
『了解!・・・発見した!画像を送る』
ジェットに乗って先回りしたSTTの別働隊に停泊所を発見させ、状況の確認を行わせる。直後に何かを見つけたようで隊員から画像が送られて来たため確認すると停泊所に泊まり、顔を出している潜水艦ノーチラス号であった。
「どれどれ・・・チッ、アメ公の所のノーチラス号じゃねえか。いつもの俺個人が請け負った戦場だったら沈めてもリスクは俺にしか来ねえが、雇い主が警察組織様じゃどうこう出来ねぇな・・・よし、テメェら潜水艦には手ぇ出すな。そこで戦闘準備して待機しろ、パラディンを護衛に付ける。ジェリーがチーズに食いついたら取っ捕まえてやれ」
『『了解!』』
ヴァルチャーはそのままタッチパネルを操作して里の反対側に停めてあった車輌の格納庫に収納されていたパラディンを起動して停泊所へ向かわせつつも敵の動向を見守ることにした。
「さぁて・・・ネズミ共はリーダーを護衛しながら移動しなくちゃなんねぇだろうから機動隊を迎撃する奴等と護衛しながら船に乗る奴等の2つに分かれるとすると・・・スパイダー野郎がどっちにいるかだな、あのスーツのままなら一筋縄じゃ行かねえかも知んねえ。俺は奴等が簡単には来れねえ位置で待機っと」
スパイダーマンが引き続き隠れるようにして木に登ったまま偵察を続けている最中、舞草の面々がハッピーの呼びかけにより高台に集合している。
ちなみにスパイダーマンはハッピーが携帯を通話モードにしているため、神社にいる面々の会話を聞くことが可能である。皆が里中を見渡すと武装したSTTが里中を包囲してバリケードを貼り、里の人間を一歩も里の外に出られないようにしているため皆が戸惑っている。
「折神家・・・っ!」
「荒魂狩りじゃなさそうだな」
「我々はすでに罪人扱いというわけか」
「でもどうしてこの里の場所が・・・」
「今はそんな詮索をしてる場合ではありません」
「この里にいる全員拘束しようと・・・」
「だろうね。その上で舞草に関わる人間を選別し逮捕するつもりなのだろう」
『引っ捕らえて踏み絵でもさせられるのかな・・・推しの写真を踏めって言われたら辛いなー』
状況を見れば容易に想像できる。完全に自分達を捕らえに来た、皆が思ったことであろう。しかし、何故この里の場所が分かったのか?その理由だけはピンと来ない様子だ。
だが、事態は一刻を争う。ボヤボヤしている時間はない、早く行動を起こさなければ。
フリードマンが朱音の方を向いて問いかけるが、朱音の決断は既に決まっていた。
「さて、いかがなさいますかな?」
「ここで捕らえられるわけにはいきません」
「では戦略的撤退といきますか」
「撤退ってどうやってデスか?」
「この調子だと難しいかもしれないが潜水艦だろうな。あれの所属はアメリカ海軍のままだ。警察組織の彼らが手を出せる相手ではない」
「なら、潜水艦の操縦は俺に任せろ」
「頼むよ、ハッピー君」
伊豆からこの舞草の里まで移動手段として使用した潜水艦がある。もしもに備えてトニーが改造したS装備も既に潜水艦に移動済みだ。海軍の権力の盾もあるが水中を追って来る術はそう無いだろう。
一応トニーにアイアンマンで来て貰って鎮圧してもらう選択肢もあるが今は仕事の最中の可能性もあるため電話をすれば出てくれるという保証はない。おまけにWi-fiが無い場所にいる場合はアイアンマンを飛ばせない可能性もある。そうやりくりしている間に捕縛される可能性を考慮すれば早急に撤退することが効率的だと判断している。
孝子が率いる潜水艦へ移動する面子と聡美が率いるSTTを迎撃する部隊に面子に分かれて行動する事が決まり、可奈美達6人は潜水艦の方へと付いていくようだ。
「二手に別れよう」
「私達は朱音様を桟橋へ」
「私達はここで迎え撃ちます」
「聡美。後は任せた」
『あー・・・えっと・・・僕はどうすれば?』
「スパイダーマン、お前も潜水艦の組と合流だ。敵の詳細な配置をこちらに教えてくれたら、急いで合流してくれ」
『了解、敵の位置は・・・・』
スパイダーマンはSTTが配置された位置を携帯を耳に当てながらハッピーから電話を変わった孝子に伝えるとすぐにチームを組んで迎撃に向かうと宣言してそちらに向かって行く。
『分かった、今から残った組が迎撃に向かう。お前はこっちに来い』
「了解、今行きます」
スパイダーマンはマスクの下から携帯を入れて耳に直接当たる位置まで動かして固定する。持ちながら移動するのはひどいためである。
木から飛び移って潜水艦に向かう面々と合流するために木々の間を飛び回っていると全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。この感覚が来たということは・・・そう思って後方を確認する。
管理局が攻めて来たということは何かとんでもない物を用意しているとは思っていたが今回は予想の斜め上だった。
「スパイダーセンス !・・・・何だあれ!」
『どうした?』
未だにハッピーの携帯を持っていた孝子がスパイダーマンの驚いた声に反応するとスパイダーマン は即座に自分が目撃した物を報告する。
「ドローンです!大量のドローンが攻撃し始めた!」
スパイダーマンの視界に映っているのは空中で陣形を組みながら攻撃を仕掛けている大量のパラディンの姿であった。
大量のそれらは対象に向かって一糸乱れぬフォーメーションで迎撃に向かった面々に向けて機関砲を放ち、衝撃波で相手を怯ませてボウガンを打つを繰り返していた。
『何だと!?だがお前は急いでこっちに来い!辛いのは同じだ、お前も後々の作戦に必要かも知れないんだ。こっちに来ることを優先してくれ・・・』
「そんな・・・っ!でも・・・」
『頼むから・・・っ!』
「・・・っ!了解!」
スパイダーマンの報告を聞いて内心焦りが生じてしまう。孝子も出来ればそちらに加勢に行きたい。だが、残った仲間達は覚悟の上でSTTに立ち向かった。スパイダーマンの助けに向かいたい気持ちも理解できるし同じ気持ちだが今は何より離脱を優先させたい。逃げ延びて確実に生き残ることが最優先だ。
電話越しの声色から苦しい決断をする覚悟と、仲間の想いを無駄にしないリーダーとしての責務に苛まれる悔しそうな気持ちが伝わって来る。
スパイダーマンも電話越しの孝子の悔しそうに押し殺しているかのような声を聞き、自身も悔しいながらも離脱を決意する。
隠れて偵察をしていたスパイダーマンを上空で捕捉したヴァルチャーは腕に装備したタッチパネルを素早く操作すると車輌の格納庫に収納されていたパラディンが起動し、それぞれが列をなして空中へと浮上していく。
ヴァルチャーはスパイダーマンを片付けるつもりでもあるが、同時に上空から見渡した地形から停泊場へ向かう道のりを推測したためパラディンで舞草の重鎮である朱音を護衛している面々も攻撃するつもりだ。
「gotcha、見つけたぜスパイダー野郎。何かダセエスーツになってやがるな、もしかして洗濯中かぁ?・・・ま、何でもいい。奴もターゲットだ、潰せ。ネズミ共のリーダーもだ」
『copy』
「ヤバっ、こっち来た!皆急いで!ドローンが来る!」
ヴァルチャーの指示を受けたパラディンが隠れていたスパイダーマンを補足すると列を作り、大量の群れとなってフォーメーションを組みながら攻め込んで来る。その姿はまるで陣を組む騎士のようにも見えなくはないが今は忌々しさしか湧き上がって来ない。
もしアイアンマンがいてくれたのなら搭載されている火器で一掃出来るのだろうか?キャプテンだったら持ち前の経験と技術と盾で皆を助けることが出来ただろうか?そうでなくとも最悪ハイテクスーツを着ていたのならあの大量のドローンをウェブで繋げて電気ショックウェブを最大出力で放てば連鎖させて一気にショートさせるということも可能かも知れないと思ったが今自分が着ているのはなんの力もないただの服でしかないホームメイドスーツ。
あの2人と違って無力な自分を呪うが今この状況で頼る事が出来るのは自分の力だけだ、自分でどうにかしないといけないというんだということを突き付けられる。
不安と緊張により心臓が速くなって行くのを感じるが、今うだうだと考えていても的になるだけだ。なら今は出来るだけ早く行動しなければいけない。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」
スパイダーマンは今の自分では全てを捌き切ることは不可能かも知れないが出来る限り囮になれればと思い、いち早く移動しようとクモ糸を別の木に向けて発射して飛び移るとパラディンはスパイダーマンに向けて標準装備されている機関砲、そして今回だけ特別に装備されているボウガンの矢を放って追撃して来る。
スパイダーマンは飛びながらパラディンから放たれる機関砲を回避し、抜け道からは離れてしまうが木々の中へとパラディンを誘い込んだ。木々が遮蔽物となれば向こうも幾らか戦いにくくなると判断したからだ。
「くらえ!」
スパイダーマンのスウィングする速度に追い付く速さを持っていることに驚きつつも後ろを向かずに木々の間にクモ糸をあちこちに打ち込むと横に網のようになりそこにパラディンが勢い良く突っ込むことで蜘蛛の巣に絡まった虫のように動かなくなり、後ろから来たパラディン達が玉突き事故を起こして大破する。
そして、飛んでいる途中で左手で木の幹を掴んで反動を利用して回転をつけたままそのまま背後に来たパラディンに回し蹴りを入れるとパラディンのボディは大きく凹んでそのまま弾丸のような勢いで飛ばされて行き、背後から来ていたパラディンに激突して爆発して味方数台を巻き込む。
その爆発で視界が塞がれている隙にスパイダーマンは右手のウェブシューターを後ろに向けて発射し、後方から来ていたパラディンに当てるとそのままハンマー投げの要領で力強く投げ飛ばして視界を塞がれいた前方のパラディンにぶつける。投げつけられた威力が強かったのか双方ともぶつかった際の衝撃でアルミ缶のように潰れて地へと堕ちる。
「そらよっ」
更に猛スピードで仕掛けて来た来たパラディンの突進を軽く飛び上がることで回避して真下に来た瞬間にクモ糸を飛ばして命中させて、糸を持ったまま着地の際に思い切り眼前に来た別のパラディンに向けて叩き付けるとお互いのボディがめり込んで爆発を起こす。
そして、加勢して来たパラディンが機関砲の弾幕を放って来ると既に破壊されて残骸と化して地に転がっているパラディンを盾にしたまま突進して行き、砲門に思い切り押し込んで、機関砲を潰してそのまま木にぶつけて破壊する。
「爆発!?何が起きている?」
「颯太君・・・皆・・・」
「走れ柳瀬、止まったら負けだ!」
「・・・・っ!はい・・・」
朱音を護衛している面々は後方で何度も爆発音がするので逃げている面々は驚いているが、今は朱音を守りながら移動することが最優先だ。舞衣は後方にいる面々を心配するように背後を振り向くが孝子に走れと言われたため、迷いを振り切って走り続ける。
皆が抜け道を走っていく最中、スパイダーマンもパラディンを破壊しながら森の中を走っていくがやはり執拗に追撃してくる。ターゲットに設した相手を追跡するように設定されていると考えていいだろう。
おまけにかなりの夥しい数であるため全てを対応し切れる訳でも無く、複数台撃ち漏らして抜け道へ行く面々の方へと行かれた。
「くそっ!向こうにも行かれた!ハッピー、そっちに何台か行った!気を付けて!」
『分かった!皆警戒しろ!』
スパイダーマンが電気ショックウェブを射出してパラディンに当てるとパラディンの数台はこちらを向いて即座にターゲットをスパイダーマンに変えて挟み撃ちにしようと両方向から攻めてくる。
スパイダーマンが木々の上をパラディンから放たれる砲撃を飛びながら回避するが、かなりの数から放たれる機関砲の雨であるため弾と矢が身体の所々に掠めていく。
痛みに耐えつつも途中で身体を捻らせて左手でクモ糸を背の高い木に当て、発射した糸の後端を掴んで少し間の開いている隣の木へと投げると隣の木に吸着して一本の幅が広い網のような形になる。
ちなみにすぐに左手から出ていたウェブを投げたのはスムーズに次のアクションに移るためである。
次にスパイダーマンは右手のウェブシューターを間近の木に当てて遠心力を乗せたままスウィングすると今度は身体を捻らせて左手のウェブシューターから出るクモ糸を後方から一列になって追って来るパラディン複数台に同時に当てる。そのまま勢いに乗って下から投げ飛ばすと上空を飛行していたパラディン達に直撃して爆発を起こす。
そして、先程木々の間に繋げたクモ糸の網に反動を利用したまま下から脚で着地するとクモ糸の引っ張り強度が桁外れに強くなり、格闘技のリングのトップロープのように変質して行き、下から上に向けて押し上げられるかのように伸びていく。
その際にクモ糸を上空にいるパラディンに当てて動きを封じる。
自分を追跡する習性を利用して上空にいるパラディンと下から追ってきたパラディンがスパイダーマンを狙おうと対面する。
パラディンがスパイダーマンを攻撃しようとしたまではいいが引っ張り強度の強くなったクモ糸の反動により、加速して地面へと落ちていくスパイダーマンには当てることが出来ず、対面していたお互いの砲撃によって複数台のパラディンが自滅していく。
スパイダーマンはすぐ様着地するがパラディンは着地と同時に黄色のメインカメラの下の部分、おそらく顔での口に当たるスピーカーのような部分が開き、広範囲の衝撃波を放って来る。
衝撃波は放たれると同時に木々を薙ぎ倒し、地面を大きくまくり上げるように吹き飛ばしていく。スパイダーマンは着地の直後であったため衝撃波の直撃を受けてしまうが飛ばされてながらも隣の木に一度だけ跳ね返るウェブのモード、リコシェを当てるとパラディンの衝撃波を放つスピーカーに当たる。
パラディンは衝撃波を再び放とうとするが発射口を糸で塞がれたことにより衝撃波を放つものの耐えきれずに内側から暴発を起こして近くにいた味方数台を巻き込んで爆発四散する。
スパイダーマンは軽く肩で息をしているが、目立った外傷もないまま辺りには集めたらゴミ山が築けるであろう程のパラディンの残骸が地に転がっている。
スパイダーマンも司令塔を探すがどこを探しても見当たらない。しかし、追撃がなくなった事を鑑みるに数が減って来た事が想像出来た。
「よし、大方片付いた!急いで合流しないと!」
スパイダーマンを追撃するパラディンの数は大幅に減って来た上、恐らく迷いもなく抜け道のルートの方向へ飛行して行った事を鑑みると既にバレていると思って良いだろう。ならばここは敢えて合流して皆と協力するのが孝子の指示を守る選択と言えるかも知れない。
スパイダーマンは抜け道からは離れてしまい、遠回りになってしまったが合流するために森林を目にも止まらぬスピードで駆け抜けて行く。
「なんだこりゃ・・・スパイダー野郎を潰しに向かわせたパラディンの数が減って来てやがる。なるほど、ダセエスーツになったかと思いきや鍛えてやがった訳か」
驚きを隠せないがヴァルチャーが全体的な戦況を把握するために一度上空から里を見渡すと、STTを迎撃する部隊の中にはパラディンの衝撃波を受けて御刀を手放した隙に拘束された組もあればパラディンの放つ対刀使用の特殊なボウガンの矢により無力化されている組もある。しかし、所々被弾しながらもパラディンを撃破している組も見受けられる。幾ら大量に搭載されているとは言え、その数は無限ではない。
しかし、ヴァルチャーの最大の役割は舞草の人間の捕獲もそうだが、如何に相手を消耗させた上で時間を稼ぐ事だ。
ヴァルチャーはタッチパネルを操作したまま朱音を護衛する面々を追撃する指示を出しつつこれから増援が来るであろう方向をチラリと確認するとヘリコプターの機影を確認する。どうやら敵の数を減らしつつ、時間は稼ぐ仕事は果たしたと察することが出来た。
一方、地上では舞草の長船側の主戦力の一角である聡美が率いる組は多少は消耗しているがチームプレーで何とかパラディンを撃破しつつ、神社で攻めあぐねているSTT隊員達を待ち構えている。
パラディンの活躍によりほとんどの舞草の刀使達を捕獲することには成功したが、里中に潰れて機械の中身が見えているパラディンや両断されて転がり落ちている残骸が横たわっている。
STT隊員も対刀使用の装備を所持している上に、まだ幾らかパラディンが残っているとは言え未だに脱落者を出さずに神社で堂々と待ち構えている聡美達と対峙しては攻めあぐねている。
「来るなら来なさい!」
聡美のSTTに向けた凛とした声がしたと同時にヘリのプロペラ音が頭上から聴こえて来たため、全員が上空を見上げる。
薄桃色の髪の12歳程の子供がヘリのドアを開けて無邪気な声を上げて地上へ向けてパラシュートも付けずに飛び降りて来る。
「お待たせ〜!」
折神紫親衛隊第4席、燕結芽だ。美濃関の代表である舞衣と鎌府の代表である沙耶香を相手取って余裕で勝利する程の強豪。勿論この前までのスパイダーマン等目でもない程だ。
その強さ、まさに絶望。無邪気な態度とは裏腹の絶望が空から降って来る。
「ったく、もうちょい早く来いっつの」
ヴァルチャーは自分の仕事の大半はこなした事を確認するとタッチパネルを操作して残っているパラディン全てを停泊所へ向かわせることにした。彼らの捕獲も自分の仕事ではあるからだ。
「あなたは!」
「折神紫親衛隊第四席燕結芽。四席って言っても一番強いけどね」
神社の境内の石畳に余裕綽々で着地した結芽は一斉に聡美達の部隊の視線を集める。
1人を囲みぬがら残っている面々が同時に抜刀するとそれに応じるように結芽も鞘からニッカリ青江を抜刀して口を三日月のように釣り上げながら好戦的な笑みを浮かべている。
(ここでこの人たちを壊滅させたら私がスゴイって証明にはなるけどおにーさんのお友達を傷付けたら悲しんじゃうのかな・・・だったらさっさと終わらせてやるっ!)
来年発売のS.H.の《FINAL BATTLE 》EDITHIONのアイアン・スパイダーに瞬殺コマンドの表情あってめっちゃ欲しい。(先にMAFEX版買っちゃったけど)